【レビュー】聖剣伝説3 Trials of Mana

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マナの試練

聖剣伝説3 Trials of Mana(以降、聖剣3リメイク)は聖剣伝説3をリメイクして誕生した作品だ。
本作はE3 2019にて発表されたが、筆者はその発表に驚きと喜びが同時にあった事を覚えている。
驚いた点の1点目はリメイクが発表されたこと、それ自体だ。
聖剣伝説2のリメイクである「聖剣伝説2 Secret of Mana」が必ずしも良い評判を得られておらず、筆者に至ってはPVを観た時点で購入を諦めてしまっていた。
そんな中でも聖剣伝説シリーズというコンテンツの火が絶えることなく、比較的短いスパンでリリースすると言うのは意外だったのだ。
2点目は「聖剣伝説2 Secret of Mana」とは異なる方向性のリメイクを遂げたという事だろう。
内容は原作よりもアクション性が強くなっているように見えたし、何よりも立体的になった街並みや原作の雰囲気を壊さない良質なBGMが嬉しい驚きだったのだ。
PVの時点でもモーションのモッサリ感などの気になる部分もあったものの総じてポジティブな面が多かった印象だ。

今回は大好きな原作がリメイクされた聖剣伝説3 Trials of Manaをレビューしていきたい。

 

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

  • 発売日:2020/04/24
  • メディア:Video Game
 
聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - Switch

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  • 発売日:2020/04/24
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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原作に忠実なストーリー

聖剣3リメイクのストーリーやイベントの進行方法、会話の内容まで原作にほとんど完全に忠実だ。
ストーリーは忠実な再現であるため筆者の「聖剣伝説3のレビュー」と類似の事を記載してしまうが、本作は「人類の闘争に巻き込まれる自然」を描いており、原作の発売当時の1990年代の時代性が如実に取り込まれている内容だ。2020年の時点においてはそのようなテーマがメディアで取り上げられる事も少なくなり、その結果として本作のストーリーのテーマにリアリティあるいは身近さを若干感じにくくなっているのかも知れない。
ストーリーが6人の中から3人を選択してパーティーを組み、そして最初に選んだキャラクターが主役として描かれる点も原作同様だ。

当然ながら原作とは異なりモダナイズされている部分も数多く存在する。
次に誰に話しかければ物語が進行するのかがマップ上などにも記載されるようになったため、原作のようにストーリー進行のトリガーを探して道に迷うような事は無くなったと言って良いだろう。

基本的には原作に忠実なストーリーだが、場面によって移動中に会話が発生する点も本作オリジナルのモダナイズポイントだ。
この会話の内容は原作の物語の補完をしつつ、キャラクター同士の掛け合いによるパーティー間の関係性が補完されている。
原作ではパーティー間でのやり取りが希薄であったため、こういったやり取りが増えているのは嬉しい限りだ。
街中では操作キャラクターを仲間キャラクターに変更する事ができないのは残念だが、その代わりに街で仲間と会話をする事ができるようになっている。
ここでも仲間の存在を補完する役割を強化しているのだろう。

また、よりストーリードリブンになったという点も原作からの変更点だろう。
原作においては好きな順に攻略できた部分がより一本道の構造になっており、上述の移動中の会話によってよりストーリー仕立てになっているのだ。

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3Dモデルになった事によるストーリー進行の違和感

原作に忠実なリメイクを施している本作だが、環境が変わった事による違和感を改善するまでには至っていない。

2Dドット時代の進行方法をそのまま踏襲しているため、3Dモデルでは若干冗長な進行に感じる部分や逆に一足飛びに感じる部分もあるのだ。
2Dドット時代の物語、セリフを3Dモデルのキャラクターがそのまま行ったため「ん?それ必要あるんだっけ?」「え?なんでそう思い至ったの?」とキャラクターに感情移入しにくく感じる部分が少なからず出ているように思えた。
省略表現主体の2Dドット時代には脳内補完が自然に行われるために成立していた部分が、3Dモデルというディティールが豊かになった表現の下では脳内補完がしにくく若干の違和感になっているのではないかと推測される。

また、同様の理由で物語全体の印象も若干変化した印象だ。
2Dドットの原作をプレイしていた際には全体的にシリアスな物語の印象が強かったのだが、3Dモデルによってディティールの向上した本作ではコミカルな印象が強くなっている。
やり取り自体は当時とほぼ同等であるため、視覚から得られる情報によって受け取り方にも変化が生じたのだと思っている。

これらの問題を解決するには原作の要素を弄らざるを得ないため、場合によっては原作の良さを壊してしまう可能性もある。
非常に難しい選択あるいはバランス感覚を要求される部分だが、もう少し踏み込んでみても良かったのかも知れない。

 

システム

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簡単ながらアクション性が増した戦闘システム

聖剣3リメイクの戦闘はボタンによって攻撃や回避を行うようになったため、よりアクション要素が増した直感性の高いモダンなものに変更されている。
とは言え、攻撃と回避の駆け引きが強い訳ではなく、原作では凶悪な火力を誇った敵の攻撃も良心的な水準に落とされているため、アクションまたはRPGの初心者向けな調整がされていると感じられる。
そのため、戦闘においてはパーティーに回復役となるヒーラーさえいれば苦戦を強いられる事は余り無いと言っても良いだろう。

戦闘中はいつでも簡単に操作キャラクターを変更する事が可能だが、仲間のAIは原作とは異なり自身が指示をしなくても攻撃や回復、補助の魔法を使ってくれるため、頻繁に操作キャラクターを変更したり、魔法の指示を出したりする事は無いかも知れない。
AIの行動パターンの傾向も変更可能で、攻撃重視にしたり、サポート重視にしたりする事が出来るため役割に合わせて変更するのが好ましい。
しかし、回復に関してはAIが実行してくれるタイミングが遅きに失する事がややある印象で、ちゃんと回復したい時にはやはり自ら操作するなりして回復を行った方が無難だ。
全体的には非常に遊びやすく変更が行われており、余計なストレスなくゲームのプレイに集中できるように構築されている。

キャラクターの育成面においても変更があり、レベルアップ時に獲得できるポイントを攻・守・知性・精神・運の各種ステータスに好きなタイミングで割り振る形となった。
割り振った各種ステータスのポイントの数に応じてスキルやアビリティなどを覚えるようになっている。
特にキャラクターの性能に影響を与えるアビリティは攻撃役、回復役、盾役、補助役などロール的な概念でバトルを行う事も可能にする。
難易度の低めなアクションRPGの本作だが、何を覚えさせるか、どのアビリティを使用するか、どういう役割を持たせるかを考えて育成できるモダンな設計が採用されているのは面白いポイントだ。
しかし、盾役のようなヘイトを集めるようなスキルが守ステータスで得られず、運ステータスで得られるようになっているなど、ポイントを割り振った先とその結果として得られるロール的アビリティが微妙にマッチしていないのは少々勿体ない。

「ストーリー」の項でも記載した通り、本作ではプレイアブルキャラクターが6人いる。
そのため、キャラクターそれぞれに扱う武器や覚えるスキル・アビリティが異なる。
キャラクター毎の操作感の性能差として攻撃速度の違いは感じるが、リーチの差は五十歩百歩と言った程度で余り感じにくいと言った所だろう。
原作においては特定の必殺技や魔法を使用すると、強力で必中の反撃をほぼ確定で使用してくる敵が多数存在しており、その存在の影響により魔法主体のキャラクターは活躍しにくいと言う状況が生まれていた。
しかし、本作では攻撃を回避がする事が出来るようになっているため理不尽に感じる事も無くなった。
自分の好みのキャラクターを選択し、操作しやすくなったのは嬉しいポイントだ。

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健在のリングコマンド

本作ではリングコマンドも存在するが、基本的にアイテムを使用する際に利用するだけになっている。
原作においては魔法を実行する際にも使用したが、本作においてはショートカットが用意されているため利用頻度は減っている。

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健在のクラスチェンジ

クラスチェンジももちろん健在だ。
原作ファンとして嬉しいのはクラスチェンジ後の見た目がしっかりと3Dモデルで用意されている点だろう。
本作も原作と同様にクラスチェンジによりワンランク上の必殺技を使えるようになったり、新たなスキルを習得する事が可能になる。
また、アクション要素の強くなった本作においては通常攻撃の回数が増えるなどアクションが変化するという操作面での恩恵も存在する。

原作ではクラスチェンジをした辺りの中盤頃から金欠になりやすいが、本作では序盤から金欠になりがちな印象だ。
資金の需要と供給が設計されているという事でもあるが、筆者のようにアイテムの収集癖があるプレイヤーからすると、この金銭的余裕の無さは苦しい所だ。
なお、装備をキッチリと整えずともある程度は問題なく進行させる事ができるので、収集癖などなく攻略を目指すだけならば気になる事はないだろう。

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増量した探索要素

聖剣伝説 Legend of Manaで登場したサボテンくんを見つけるフィールド探索要素が増えている。フィールド上をしっかりと確認していれば見つけること自体はそう難しくない。

その他、街中やフィールドなどに宝箱やアイテムが落ちていたり、アイテムが入っていたり、回復が出来たりする壺を壊す事が出来る。
原作においては探索の要素がなくデッドスペースになっていた場所も存在したが、本作ではそれらのオブジェクトの存在によって探索の楽しみが増えている。

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気になる雑多な部分

その他、気になった点を雑多にまとめてみた。

本作のステージには謎解きとまではいかないが、原作ライクにギミックによって進行可能になる部分が存在する。
しかし、スイッチを押してもカメラが変化した場所を捉えるような演出がないケースもあるため、何が変化したのかがわかりにくい事もあるのは少し不親切だ。

移動には「ダッシュ」が存在するが、通常時との速度差を余り感じにくいのは少し勿体ない。
もう少し速度差を明確にしても良かったようには思うが、最高速度をこのレベルに抑える必要性があるのであれば、画面にエフェクトやブラーをかけて「速い感じ」を演出する工夫をした方が良かっただろう。

ボタンの割り当ても少々惜しい。
本作は原作と異なり街中でも剣を振れるのだが、剣を振るボタンと会話するボタンが同じため、話しかけようとして攻撃を行ってしまう誤操作をする事もある。
攻撃してもデメリットは無いが微妙なストレスになるため、割り当ては検討をして欲しかった所だ。

デフォルトのカメラ操作スピードが遅いのも少々不便に感じる。
設定から速度を変更可能なためマイナスの要素とまでは言わないが、なぜこのカメラスピードがデフォルトなのか疑問だ。

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やり込み要素や追加要素

聖剣3リメイクにおいてはクリアには必須ではないやり込み用の要素も存在する。

まず1つ目は原作にもあった「ブラックラビ」だ。
原作同様にシナリオを特定の段階まで進めると挑戦する事が可能で、本作ではデュランやアンジェラ以外を主人公として選択しても挑戦する事が可能となった。
敵としては比較的強いが、原作程の強烈なラッシュ攻撃などは無くなっている。
良く言えば良心的な調整が行われているが、悪く言うと数あるボス敵の1体になってしまっており、敵としての印象は薄まっている。

2つ目はクリア後に解放される追加シナリオだ。なお、これはクリア後要素ではあるがエピローグに当たるような部分ではない。
こちらは完全に新規に追加された内容のためストーリーや会話内容は完全新規のものだが世界観を崩すことなく進行するのは安堵するポイントだ。
このクリア後要素では裏ボスとも言うべき相手と戦う事になるほか、全く新しい上位クラス「クラス4」となりキャラクターを更に強化する事が可能となる。
また、強化した能力を試せるだけの長いダンジョンが用意されているのが特徴的だ。
しかしこのダンジョン、やや長すぎるのは欠点でもある。
ステージに入ってからボスに到達するまでの長さが、本編のダンジョンの3~4つ分程は少なくともあり、シチュエーションも敵が配置されているだけに近くモチベーションが長続きしにくい。
ダンジョンを何分割かに分け、その上で要所要素でストーリーなどの会話を織り交ぜるなどペーシングをするべきだったように思える。

 

グラフィック

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新たな発見のある3Dグラフィック

聖剣3リメイクのグラフィックはアンリアルエンジンによって美しく表現されている。
2Dドット時代には詳細にはわからなかった街の構造や立体感は「ここはこういう風に見えてたんだ」という原作では味わなかった雰囲気・空気感を楽しめる。

キャラクターのモデリングに関してはメインとなる6人の主人公は特に良く作り込まれている印象で、特徴的なサブキャラクターに関してもそれなりには作られている。
キャラクターが装備する武器を変更する事で見た目にも反映され、クラスチェンジでも見た目が変更される。

しかし、モーションは全体的にモッサリとした印象は拭えない。
攻撃モーションはメリハリがなく単調で、モッサリとした印象を覚えるのだ。
予備動作から攻撃、後隙と言った一連の動作が一定の速度で行われているためにそのようなモッサリ感があるのではないかと思える。
例え同じ総フレーム数にしたとしても、予備動作や後隙は残しつつも、攻撃はキビキビと敏捷に行う事で少しはモッサリ感が軽減できたのではないだろうか。
その他のカットシーンでのキャラクターモーションも少々ぎこちない。
口パクにしても口の動きが小さく、パクがちゃんとされているのかわかりにくく勿体ない。
モデリング自体は悪くないのだが、モーションの完成度は全体的に物足りない印象を受けるだろう。

その他の少し気になる点も記載しておく。
テキストのフォントサイズが小さい事が少し気になる所だ。Nintendo Switch版においては携帯モードも存在するため、人によっては少し見えにくいと感じる可能性はある。
設定にて「カメラ距離」という項目があるが、体感して目に見えてわかるほど距離が変化しないのも少し困惑する。
スクリーンショットで比較すると少し変化があるのがわかるのだが、逆に言えばそうしなければ違いがわからない程の距離しか変化しないのは不親切だろう。

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あれ?こんなでしたっけ?

マイナスとまで言うつもりは無いが、ウィル・オ・ウィスプのデザインがイメージと違うのは驚いたポイントだ。

筆者としては淡い青色に揺らめく炎の中に顔が付いているイメージだったのだが、顔の周囲の部分は揺らめいたりする事なく渦巻く特徴的な形をした石の塊ようなデザインになっていたのだ。
あれ…?そういう感じ?ま、まぁ良しとしよう。

 

サウンド

聖剣3リメイクでは音楽もリメイクされている。
リメイクされた音楽は原作のイメージを全く崩しておらず、素晴らしい完成度に仕上がっている。原曲厨の傾向がある筆者も全ての曲とまではいかないものの全体的には大満足の完成度だ。
そのうえ、設定により原作楽曲でプレイする事もに可能になっており、聴き比べを行う事でも改めて雰囲気を壊さない良いモダナイズがされている事が伝わる。

SEに関しても原作を踏襲したものを使用している場合も多く、サウンド面でニヤリとできるポイントは多いだろう。

本作ではキャラクターにボイスが追加されている。
メインストーリーはもちろん、戦闘後にもキャラクターがセリフを発するが進行や状況によって内容が変化する。
ボイスの途中で宝箱を開けると、ボイスが途中で途切れて宝箱のアイテムを入手し終わった後に途切れた所から続きが再生されるなど細かい点で微妙に違和感を感じる部分もある。

 

総評

聖剣伝説3 Trials of Manaは「原作に忠実なストーリー」と「モダナイズしたシステム」という、守るべき部分と挑戦する部分のバランスを取った「リメイクとして良い作品」に仕上がっている。

原作では感じ取れなかった街並みの立体感は聖剣伝説3に新たな視点を見出している。
リメイクされた楽曲達の完成度は素晴らしく、原曲をリスペクトしつつ純粋なモダナイズが行われているのは原作ファンとしても好印象だ。

ゲームとしては単純・単調で深みを生み出すまでには至っていない点はあるものの、聖剣伝説3を改めて楽しむには十分な完成度だ。

 

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