【レビュー】ASTRAL CHAIN

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1コントローラー2コントロール

ASTRAL CHAINはダイナミックなアクションゲームで高名なプラチナゲームズが開発したタイトルだ。
本作はプラチナゲームズ田浦貴久さんが初めてディレクションを担当する作品だ。
そういう事もあってかビジュアル面の方向性など目に見えて今までのプラチナゲームズとは異なる雰囲気が感じられるのも特徴的だろう。
事前に公開された動画では1人で2キャラクターを操作するプレイと推測できるものとなっており、その独特な操作方法も実際にプレイしてみたくなるようなものだった。

今回はASTRAL CHAINのレビューをしてみたい。

 

ASTRAL CHAIN(アストラル チェイン) -Switch

ASTRAL CHAIN(アストラル チェイン) -Switch

  • 発売日:2019/08/30
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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日本のアニメや特撮のような演出

本作の世界観自体はSFやサイバーパンクと言った要素で構成されているものの、ストーリーは少しだけ懐かしい息吹を感じさせるアニメテイストだ。
まずOPでは歌が挿入され、アニメのような演出でキャラクターの名前や声優の名前が表示される。
そしてストーリー自体にしても2000年代前半の少年マンガのような進行や演出で展開される。

本作の主人公選択は少しだけ珍しい手法を取り入れているのが印象的だ。
プレイヤーが操作する事になる主人公は男性と女性の好きな方を選ぶことが出来るのだが、選択されなかった片方は弟あるいは妹として登場するのだ。
弟妹は物語においても非常に重要なポジションであり、よく喋り、出番も非常に多い。
対して主人公として選択したキャラクターは基本的に無口となるため、その点は注意して選択した方が良いだろう。

物語の導入は非常にオーソドックスと言える「マイナスから始まるもの」が使用されており、本作においては「父親に相当するキャラクターを失う」こととなる。
また、本作の世界は人間の存続が危機に瀕しているなど、世界設定自体はかなり過酷な状態である。
しかし、物語のトーン自体が暗くなりすぎる事は無く、まさに少年マンガを観ているかのような気分にさせてくれる。

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ゲームプレイと紐づいたストーリー

本作の主人公は警官であり、様々な事件を章形式でクリアしていく形となる。
物語の描き方は「SFの警官」と言う設定を活かしたゲームプレイによってストーリーを描いている。

章は大雑把に説明すれば「捜査パート」と「戦闘パート」からなり、捜査パートでは街などで人々から聴き込みをしたりして情報を集めて何があったのか紐解いていく。
更にSF・サイバーパンク的要素として「アイリス(詳細は後述)」という視覚に情報を表示するAR / MR的なシステムが使用でき、それも駆使して捜査を進めていく。

また、「レギオン」という異世界の生命体を使役して捜査を行う点も忘れてはならないポイントだ。
ギオンは本作の要ともいえる存在で、プレイヤーキャラクターと一心同体の存在だ。
ギオンは複数の個体が存在しており、それぞれに特徴が異なる。
それらの特徴を駆使して戦闘を行う事がメインであるとは言えるのだが、その特徴は捜査をする場合にも有効に活用されるケースも多く用意されている。

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終わった感のないストーリー

しかし、本作がストーリーだけでも満足できるかと言うとそういう訳にはいかない。
そう感じる最大の理由は「本作をプレイしただけでは全貌が掴めないから」という点に尽きるだろう。
本作のメインシナリオを全てクリアしても、詳細な真相や設定が全て理解あるいは推測が可能なようにはなっていないのだ。
本作は「続編も可能なように懐深い構造に作られている」ようなのだが、それがかえって「ちゃんと終わってない感」に繋がっているように思えてならない。

少しばかり些細なポイントにも目を向けたい。
本作では前述の通り選択した主人公が全くと言って良い程に喋らない事になってしまうのは残念に思えた。
特に筆者の場合には女性主人公の声を当てている安済知佳さんの演技が以前よりかなり好みであったために女性主人公を選択したのだが、これが全くと言って良い程に喋らないために選択でかなり損をした気分になってしまった。
「喋らない主人公」というのはビデオゲームにおいて一般的手法であるが、選択したキャラクターと選択しなかったキャラクターが共に登場するように設計した本作ではその扱いに差が生まれてしまっており少々ではあるが相性が悪かったような気がしてならない。

また、シナリオが進行する会話のたびにキャラクターが操作不可状態となる点も地味ながら少々めんどうな仕様だ。
移動しながら説明して貰えればそれで良いのだが、何故か足を止めてセリフを聴かなければならないのはゲームプレイテンポを落としてしまっている。
当然、全て会話が移動しながら展開される必要は無いが、アクションのテンポを落とさない程度には移動しながらの会話を主体として欲しい所だった。

 

システム

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ステージクリア制のゲームプレイ

本作は基本的に警察庁をハブにして、事件が発生した場所に移動するような形式となっている。
「ストーリー」の項でも述べているが、ゲームプレイシーケンスはステージクリア制となっており大まかに捜査パートと戦闘パートに分かれる。
ステージではフィールド(街など)を歩き回り、人々から話を聴いて捜査パートを進行させるほか、サブクエストが豊富に用意されている。
サブクエストは様々なものが存在しており、戦闘が発生するものも存在するが、中には専用のちょっとしたミニゲームのようなものも存在するなど非常に作り込まれている。

しかし、好きなフィールドをいつでも探索することはできない点は少々残念だ。
以前のステージを再度プレイする事は簡単に出来るとは言え、自分の好きなタイミングで街に遊びに行く事が出来ないのは少し寂しい。

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1人で2キャラクターを操作する独特なプレイフィール

本作の最も特徴的なポイントはそのアクションだ。
「1つのコントローラーで2キャラクターを操作する」という独自アクションは新感覚で唯一無二だ。
プレイヤーキャラクターとレギオンの間は「鎖(チェイン)」で繋がっており、この鎖を駆使する事でも様々なアクションが行える。
ギオンはZLボタンを押す事で右スティックで移動させる事が可能になる(あくまで移動のみで、攻撃が出来るようにはならない)。
そのため、左スティックでプレイヤーキャラクターを、右スティックでレギオンを操作するような形となるのだ。
このユニークな操作で行える代表的なものは、上図のように敵を囲むように操作する事で鎖で拘束する行動だ。
こうする事で敵は無防備となり、その隙に連続攻撃を叩き込む事が出来る。
この他にも鎖を活用したアクションが用意されており、1つのコントローラーで2キャラクターを操作すると言う特性を活かして立ち回るゲームプレイは他では味わいようが無い体験だ。

また、その他にも敵の攻撃のタイミングで上手に回避が行えると専用の攻撃手段でカウンターを発動させられるなども可能だ。
この回避は一見・一聴するだけでは難しいが、敵が攻撃する際に特徴的な光や効果音が発生するケースも多いため、それを目安に回避を行う事で発動できる。
上手くなればなる程にキャラクターの動きが洗練されていくのはアクションゲームとして爽快なポイントを押さえていると言えるだろう。

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ダイナミックなボス戦達

本作で特に迫力があるのは各ステージの最後に現れるボスの存在だろう。
ボスによっては「どう戦って欲しいのか」が伝わりにくくなっており対処に困惑するケースも存在するが、見応えのある巨大な体格からド派手な攻撃を仕掛けてくるため戦っていて非常に楽しい気持ちにさせてくれる。

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ユニークなゲームプレイとトレードオフとなった要素

本作の特徴であり、長所であるレギオンだが、そのレギオンという存在が短所になっている事も多い。

まず地味に気になるのはレギオンジャンプだ。
ギオンジャンプはレギオンが鎖を引っ張る事でプレイヤーキャラクターをレギオンの位置に表示されたマーカーの位置にジャンプさせてくれるアクションとなっている。
しかし、レギオンコリジョン(当たり判定)がある事が影響しているのか、根本的にマーカーの位置に正確に着地させてくれていないのか、レギオンジャンプ時に表示される着地位置マーカーから微妙にズレてしまう事が多い印象を受けた。
そのため崖のギリギリでレギオンジャンプをしてしまうと、崖から落ちてしまうような事がままあったのだ。
素早い操作でレギオンジャンプを行いたい場合にも、崖のギリギリを狙わずに十分に余裕を持った位置にジャンプする必要がある。

そして、本作で最も気になる点を挙げるとするならば「カメラとロックオン」だろう。
ASTRAL CHAINではプレイヤーキャラクターとレギオンの2キャラクターを操作する事になるうえ、右スティックではカメラ位置では無くレギオンを操作するケースも存在するため、カメラワークに難が出る事は必然性があり想像に難くない。
最初にカメラワークに関してだが、プレイヤーキャラクターと呼びだしたレギオンが共に画面内に映るように自動でカメラ制御されているため、戦闘中に快適と感じるカメラワークと微妙にズレがある。
酷いと言うレベルでは無いものの、若干の視認しにくさ覚える所だ。

次にロックオンだが、こちらは挙動の仕様が良いとは言えない。
上述通りカメラは少々見えにくいため右スティックで位置を変更したいと思う事が多いのだが、敵をロックオンした状態で右スティックを一瞬だけ倒すとロックオン相手を変更する動作となってしまうのだ。
この仕様のせいでカメラ位置の微調整をしたいだけであるのにロックオン先が変更されてしまい戦闘中に困惑する事が多いのは残念でならない。

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サイバーパンク感を演出する”アイリス”

本作ではサイバーパンク感を強める「アイリス」 というシステムが存在する。
アイリスは様々な状況証拠から現場で何が起こったのかを推測・逆算して視覚化する事が可能なアイテムだ。
遷移はシームレスで自由にいつでもどこでも利用する事ができる。
建物の内部や壁の向こう側にいる相手を認識する事も可能で、SFを感じるストーリーテリングとして機能しているだけなく、ゲームプレイにおいて非常に重宝するものになっている。

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潜入ミッションも存在する

ストーリーのミッションの中には敵に見つからないようにする潜入ミッションも用意されている。
アイリスを使用する事で敵の視界を把握する事ができるほか、レギオンを上手く活用すれば相手を無力化できるため、難易度自体はそこまで高く無いが戦う以外のものも用意されており楽しめる。

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細かな遊び心

本作では細かな遊び心が用意されている事も忘れてはならない。

空き缶をゴミ箱に入れたり、猫を保護したり、バイクに乗ったシューティングゲームのようになったり、アイスクリームを運んだりと専用のミニゲーム的なものが用意されており、このような細かな遊び心が本作へのこだわりを感じさせる。

 

グラフィック

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サイバーパンク的な街並み

サイバーパンク的演出のライティング表現が印象的な街並みが魅力的だ。
特にニューヨークのタイムズスクエアをモチーフにしたと思われるハーモニースクエアなどは非常に魅力的な街に感じる事だろう。

キャラクターのアニメーションも非常にこだわりが感じられ、例えば移動中にゆっくり反対方向に向き変更をすればキャラクターがゆっくりと振り向くような動作したりする。
また、キャラクターの動きにはブラーをかけてダイナミックにみせる演出も行われている。しかし、動画では映える演出なのだが、スクリーンショットではブレて観えてしまうトレードオフの演出だ。

そのほか、処理負荷軽減のため遠景のモデルはフレームレートを落とす描画の工夫を行っているようだ。

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キャラクターのモデリングも悪くない

キャラクターのモデリングも比較的良く出来ている方で、特にボディラインは美しい。
私服のバリエーションがもっと豊富に存在していると嬉しかったが、少々贅沢な要望かも知れない。

 

サウンド

ASTRAL CHAINの音楽はカッコいい曲が揃っているが、ステージ毎に使いまわされる曲が少ない豪華な仕様が逆に1曲1曲の印象を薄くしてしまっている気がしてならない。
本作に限った事では無いのだが単純接触効果をもう少し狙っても良いのでは無いだろうか。

本作の中で最も聴くため印象が強い「Task Force Neuron」

クライマックス感の強い「Jena - Rebellion and Salvation」「Jena - Catastrophe」「Noah Prime」

主人公の性別により変化する「Dark Hero」

そのほか、本作のボイスは音声の有無でパクがあるのみで、リップシンクがないのは少々残念だろうか。

 

総評

ASTRAL CHAINが実現するプレイフィールは唯一無二だ。

1つのコントローラーで2人分のキャラクターを操作する独特な感覚は他では味わいようが無い体験になる事だろう。
しかし、そのユニークさが生み出す弊害は気になる所だ。

ストーリーは少々勿体ない部分もあるが悪いものでは無く、キャラクターのモデリング・アニメーションそしてロケーションはとても良いものに仕上がっている。
何より、ストーリークリアまでが20時間程度であるのは非常に丁度良い塩梅だ。
これより短ければ物足りないし、これより長ければ冗長と感じられたであろう。
この辺りのバランス感覚は流石はアクションゲームを熟知したプラチナゲームズだと言える。

 

外部記事

アストラルチェイン開発者ブログ : PlatinumGames Inc. Official WebSite

ASTRAL CHAIN Gameplay Pt. 1 - Nintendo Treehouse: Live | E3 2019 - YouTube

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Three Things You Might Not Know About ASTRAL CHAIN - E3 2019 - YouTube

『ASTRAL CHAIN』には3部作どころかそれ以上に展開できるくらいの考えがある