聖剣伝説 Legend of Mana(以下、聖剣LoM)はスクウェアより販売された聖剣伝説シリーズのタイトルだ。
本作はナンバリングタイトルではないものの、聖剣伝説からゲームに本格的にハマったと言える筆者は、同時に当時は敬虔なスクウェア教徒でもあり、その存在は非常に嬉しいものであった。
それからかなりの年月が経ったが、なんとリマスター版が発売されると言う事で非常に嬉しかったのは記憶にも新しい。
また、本作はアニメ企画が始動しているとの事だが、そもそもリマスター版の販売はアニメ企画を持ち込まれた事がきっかけの1つになっているという。
今回はリマスター版をベースにレビューを行う。
ストーリー
まず、本作のストーリーの大きな特徴は進行がメインとサブで明確にわかれているという訳では無く、オムニバス形式のストーリーとなっている点だ。
そのため、プレイフィールとしては物語が解決した達成感を短いサイクルで得られるようにデザインされている。
そして、本作のストーリーを印象付けるのはギャップだ。
絵本のようなファンシーな映像と度々あるコミカルな会話や演出に反して、作中にあった長きにわたる戦争の傷跡などが随所にあり、その世界観のコントラストがスパイスになって本作の魅力を増している。
また、ウィットに富んだ表現によってクセがありつつも可愛らしい会話、詩的な表現によって大人になってから気が付くような深みのあるセリフが多い事も本作がプレイヤーの記憶に残る要因として機能している。
その他、ナラティブな側面も本作を体験としてプレイヤーの記憶に印象付ける。
本作は街やダンジョンをプレイヤーが任意でマップ上に配置するランドメイクシステムというものが用意されている。
配置したマップではオムニバス形式のストーリーが展開され、そのストーリーの相互作用やタイミングなどの条件によって新たなオムニバスストーリーが発生し、プレイヤー毎に異なる物語を紡ぎだしていくのだ。
また、一緒に連れて行っている仲間などの条件によってもセリフが変化する場面もあり、それもまたプレイヤー毎に異なる体験を強めるものとなるだろう。
オムニバス形式のストーリーの中でもメインストーリーと言えるエンディングへと繋がる連続した物語が存在し、それが「ドラゴンキラー編」「エスカデ編」「宝石泥棒編」の3つだ。
本作はオムニバス形式であるため一概に言う事は出来ないのだが、数多く設定されているテーマとして「文化・環境に左右されずに自分を自分で決めて行動すること」が基盤にあるように見受けられる。
例えば、ゲームの開始直後には「まっしろなココロを持つ人が、新しい世界に行ける」「世界はイメージである」と言われる。
前者は「既存のパラダイム(≒環境/文化)に縛られない者が、新しい時代/価値観を作り上げられる」という事と読み解ける。
後者は「自分の持つパラダイム(≒バイアス)次第で世界(≒全ての事象)は善意にも悪意にも解釈できる」と読み解ける。
そして、それらの考え方を補完したような言い回しをしたのが「人は自分を自分で決める力がある」「生きる意味を欲する限り、あなたの人生には価値がある。」「キミのイメージが力になる。キミの言葉が世界になる。」などに代表される作中に登場する賢者達のセリフの数々だ。
このような考え方はニーチェなどに代表されるような近現代哲学(実存主義)などの影響を強く受けていると想起させるものと言えるだろう。
特にメインストーリーの1つである「エスカデ編」は4人の主要キャラクターが登場するのだが、彼らの誰もがそれぞれの育った環境・文化の影響を多分に受けており、そのバイアスによって互いに意見が大きく食い違う。ともすれば見えている世界すら違うのだ。
そこに主人公(プレイヤー)という彼らのバイアスの外側にいる存在が介入すると言う物語になっている。そしてそれは、プレイヤーのバイアスによって物語の捉え方が異なるものとなるような構成で、終わり方にしてもややオープンエンドな部分がある。
そのため、この物語の主要人物の誰かに感情移入(=プレイヤーのバイアス)を持った状態で最後まで参照していくと恐らくモヤモヤしたものが残るハズだ。
そのモヤモヤこそがこのエスカデ編の本質であり、感情移入を超えた先にあるものが「新しい時代/価値観」として初めて見えてくる構成となっている。
このような現実世界にも通ずるアポリアに対してファンタジーを介してアプローチするような手法は当時のスクウェアにおいて多く採用されている特徴的なものだ。
「ドラゴンキラー編」「宝石泥棒編」のメインストーリーも素晴らしい。
これらに関しても前述のテーマはもちろんだが、友愛に関しても強く描かれている。
ドラゴンキラー編は物語はラルクによって奈落へと堕ちた主人公が竜帝と呼ばれる人物と出会い、竜帝を地上へ復活させる事を強制的に約束してしまう事から始まる。
物語を進める事で竜帝の目的、そしてラルクの望みを知る事になっていく。
この物語では互いに想いあい、目的は同じながらも、アプローチが異なる事で反目しあってしまう姉弟シエラとラルクの物語となっている。
宝石泥棒編では、珠魅と言われる宝石をコアとして活動する種族にまつわる物語が展開される。
詳細な年表のような説明は省くが、珠魅の一族はかつての大きな戦争の影響による内部分裂により離散して活動するようになる。しかし、そんな中でも珠魅達のコアである宝石を目当てにした珠魅狩りが横行するなど絶滅の危機に瀕した種族である。
この物語を主導するのは珠魅の内部分裂後に生を受けた”瑠璃”という珠魅の少年だ。
瑠璃はとある事件をきっかけに彼の人生で初めて同族の珠魅"真珠姫"と出会い、そして珠魅一族の再興を夢見る事になる。
この物語では孤独な瑠璃というキャラクターを用いて、逆説的に友愛を描いているのが特徴だ。
伏線やキャラクターの心情描写など、本作において最も関係性を繊細に描いており必見のシナリオと言って良いだろう。
上記2つの物語はエスカデ編と比較しても物語としてのわかりやすさがあるため、その観点から言えば初見プレイヤーにはオススメしやすいストーリーとなっている。
本作のストーリーは歴史を含めて非常に緻密に設定されているのだが、ゲーム本編をプレイするだけでは理解が追いつかない事が想定される。
理由はいくつかあるが、その1つはテキストが比較的簡素であるためだ。
これは古めの作品には多かったが、最低限の会話テキストだけになりがちであるため説明的なものではない。
そのため、プレイヤー自身が能動的に断片的な情報を繋ぎ合わせなければ全容が見えにくくなっている。
2点目として考えられるのは、オムニバス形式という物語の表現手法だ。
本作はオムニバス形式であり、ストーリーの発生順序が決まっている訳ではない。
そういったストーリーを発生させたり、進行させたりする必要がある訳だが、そのためのフラグ管理が初見ではわかりにくい作りになっている。
例えば、ストーリーは発生したが次にどうすれば良いのかわからないと言う事は往々にしてあるのだ。
そのため、そのストーリーをクリアしないままに別のストーリーが発生してしまい…などのストーリーが並行して進行してしまうような事も起きやすい。
そして、ストーリーが並行してしまう事でキャラクターの相関図や物語自体がプレイヤーの頭の中でこんがらがってきてしまい、理解が追いつかなくなってしまうのだ。
会話が簡素である上に、物語や進行が混線してしまう事が全体の把握のしにくさを助長してしまっていると考えられる。
そのため、周回プレイをしていって徐々にでもキャラクターや世界観をしっかりと覚えていくのが推奨あるいは前提のデザインだと言える。
例えば、1週目はNPCの会話などを極力全て聴き世界観を把握する事に専念し、その知識があったうえで2週目以降をプレイすると物語の全容がある程度はわかるかも知れない。
もしも可能であれば、当時のスクウェア作品に多かった”アルティマニア”などの書籍を参照する事でより物語や歴史の理解が進むだろう。
また、進行自体も個人の力でやり遂げるには難易度が高いものも多い。
そのため、1週で全てのイベントを網羅してクリアしようと思う場合には前述の書籍や攻略サイトを参照する必要があると思った方が良いだろう。
システム
聖剣LoMはベルトスクロールアクションのようなルート形式のダンジョンを進むARPGだ。
ボタンを入力して攻撃などのアクションを行い、敵を倒して経験値を得てレベルアップするような形式となっており、ARPGとしての側面ではそれまでの聖剣伝説シリーズ的なものを想像しても間違いではないだろう。
少し趣が異なっているのは進行部分で、ダンジョンには敵が特定の位置に配置されており、その敵を倒さなければ先に進めないベルトスクロールアクション的なルールとなっている。
戦闘の基本は弱攻撃と強攻撃で攻撃し、必殺技やアビリティ、魔法などを駆使して戦闘を行う。
攻撃判定はシビアではないがベルトスクロールアクションのように軸があっていないと当たらないため、立ち回りは注意する必要がある。
なお、本作は難易度の変更も可能であるため自分にマッチしたものを選択すると良い。
攻撃に使用する武器は剣や斧など11種類の武器があり、それぞれリーチや覚える必殺技が異なる。
自分好みの武器を見つけるのが望ましいが、レベルアップで上昇するステータスは装備している武器に依存するため、やり込みたいプレイヤーはレベルアップ時に注意が必要だ。
「必殺技」は弱/強攻撃を敵に当てる事で溜まるゲージを消費する事で発動可能で、発動中は無敵状態となるため緊急回避としても利用できる。必殺技が弱/強攻撃に依存した構造になっているため、弱/強攻撃が無駄になる事もないようにデザインされているのは良いポイントだろう。
「魔法」は魔法楽器と言われるものを装備する事で使用可能となり、ボタン長押しで詠唱状態となり、ボタンを離すと発動する。詠唱状態でダメージを受けてしまうとキャンセルされてしまうため注意が必要だ。魔法が発動してしまえば必殺技と同様に無敵判定が発生するが、詠唱が必要であるため緊急回避の手段としては利用しにくい。
レベルや装備によってキャラクターが強くなるRPGとしての面白さはもちろんだが、アクションでも様々な小技が用意されており、プレイヤーの習熟度によっても戦闘の立ち回りが良くなっていく面白さもある。
しかし、敵モンスターの攻撃モーションなどは余りバランスが整ってはいない所があり、敵によっては素早いモーションから広範囲で大ダメージを与えてくる事もある。
アクション面での立ち回りだけではかなり厳しいケースもあるため、総合的に見ればやはりRPGとしての側面の方が強いと言えるだろう。
「ストーリー」の項でも少しだけ触れているが、本作のクリア後にはいわゆる”強くてニューゲーム”が可能だ。
ただし、一部のイベントなどは既に消化済みの場合に周回プレイでは発生しなくなってしまうものもあるので、その点だけは注意した方が良い。
周回プレイでは難易度を難しいものに変更できる。高難度に設定すると敵が良いアイテムをドロップするため、やり込みをしたいプレイヤーは周回プレイ前提に考えた方が良いだろう。
なのでやり込みたいプレイヤーは、レベルアップ時のステータス上昇が武器依存であることや回収不可となるイベントが存在することだけを念頭に置いて、こだわり過ぎずに気楽に自由な気持ちで1週目をプレイするのがオススメだ。
本作は戦闘だけでなく、動物やゴーレムを仲間に出来たり、武器防具の作成/強化が行えたり、果樹園で野菜/果実を育てたりと幅広いやり込み要素が用意されているのも特徴的だ。
その上、これらの要素はマスクデータも多いため「最強の武器を作ろう!」「最強の動物を飼育しよう!」と思うと非常に様々な試行錯誤が必要となる底が見えないやり込み要素となっている。
やり込みが好きなRPGゲーマーには嬉しい要素となるハズだ。
また、「ストーリー」の項でも少しだけ触れているが本作にはランドメイクシステムというものがある。
街やダンジョンをマップ上の好きな場所に置く事で、実際にアクセスできるようになるものだが、配置の仕方や位置によって恩恵も異なってきたりするので、その辺りも工夫すると良いだろう。
シリーズお馴染みのリングコマンドはほとんど無くなったが、一部の項目選択にはリングコマンドが採用されている。
また、本作のセーブは昔のゲームらしいセーブポイント方式となっている。
そのセーブを行えるオブジェクトは明らかに過去作(聖剣伝説2)のポポイだ。
これ以外にもシリーズ経験者であればニヤリとできるような過去シリーズのキャラクターがオブジェクトとして点在しているので探してみるのも楽しいだろう。
ストーリー的な意味があるようには見受けないが、ファンサービスとして嬉しい要素だ。
リマスター
ここではリマスター版の追加要素について記載する。
ダンジョン内の道中の敵との戦闘をスキップできるモードが追加された。
原作ではベルトスクロールアクションのように敵を倒さなければ先に進めないようになっていたが、これを使用する事で敵と戦うことなくダンジョン探索が可能になっている。
ストーリーによってはダンジョン内を探索して行ったり来たりする事もあるが、行ったり来たりする(マップが切り替わる)と倒したモンスターはリポップするため、ストーリーを読み進めたいという人にとっては戦闘が煩わしく感じる場合もあるだろう。
そのような場合にはこの機能がうってつけだ。
ただし、数は少ないものの敵を倒さなければ開かない扉があるエリアなどは、この機能を使用しても敵と戦う事にはなる仕様となっている。
携帯型ゲーム機「ポケットステーション」と連動して遊べた「リング・りんぐ・ランド」も実装されている。
これによってのみ入手可能な有用なアイテムもあるため、極めたいと言うやり込みプレイヤーは是非とも挑戦すると良いだろう。
その他にもオートセーブが実装されているほか、マニュアルによる任意のセーブもいつでも可能であるなどモダナイズされている部分もある。
ただし、これによってダンジョン内にあるセーブポイントがただのモニュメントとしての意味しか成さなくなってしまっており、親切ではあるがセーブがゲームデザインとして機能しなくなっているのは一長一短だ。
グラフィック
最高峰の2Dドットによって儚くも美しい世界は意図的なパースの狂いや捻れなどを取り入れて描かれているほか、色彩が豊かで美しい大自然や生活感ある街並みは手書きの絵本のような暖かみを感じさせる。
街やダンジョンと言ったマップはエリア毎に区切られており、ミニマルな構成のエリアを繋ぎ合わせるように構成されている。
その構成自体は単純なのだが、エリアの区切り位置がわかりにくい場所もあるのは勿体ない。もう少し視認性が機能性に直結するようにデザインされていれば文句なしだっただろうか。
リマスター版ではギャラリーモードというシステム項目から設定資料などを閲覧できる。
量としてはそこまで多いものではないが、ファンとしては嬉しい要素だ。
何度か紹介しているが、ランドメイクシステムによって町やダンジョンを任意に配置して作る事が可能だ。
その作る際のアニメーションも全て専用に用意されており、作られたオブジェクトはジオラマのような可愛らしさがある。
サウンド
民族的で暖かみのある印象的なBGMの数々は史上に名が残るべきものばかりである。
リマスター版では楽曲もアレンジ版が収録されているほか、原曲版に切り替えて聴く事も可能になっている。
アレンジされたBGMは原作の雰囲気をそのままになっており、原曲厨の筆者も大満足の仕上がりだ。聖剣伝説3ToMにおいても原曲を崩さない比較的良質なアレンジが行われていたが、原曲がSFC音源であった影響からか一部では雰囲気の違う曲も無かった訳では無い。
しかし、本作はPSというより音響面も進化したハードでのタイトルであったためか、モダナイズした際の違和感のようなものが非常に小さいものになっている。
民族的な暖かさと郷愁感のある「ホームタウン ドミナ」
実家のような安心感。実家ではあるんだけど。「心のある場所」
勇壮な「旅人たちの道」
緊迫感のあるボス戦BGM「Pain the Universe」「The Darkness Nova」
衰退した栄華を感じさせる切ないBGM「滅びし煌めきの都市」「涙色した輝きの」
更にミュージックモードというシステム項目から作中BGMをいつでも聴くことが出来るのもゲームミュージックファンには嬉しい要素だ。
総評
聖剣伝説 Legend of Manaはそれまでの聖剣伝説シリーズとしては異質な作品でありながらも到達点的作品である。
オムニバス形式のストーリー、武器の生産、モンスターを仲間にできるなど、やり込める横幅が豊富な欲張りな構成になっておりゲームとしての魅力が詰まっている。
それだけでなく、絵本のような見た目とはギャップのある詩的で哲学的なストーリーやセリフの数々は「もしも自分がこの世界の登場人物だったら」と考えずにはいられないものになっており、プレイヤーの記憶に残る作品になっている。
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