【レビュー】Dragon's Dogma

和製オープンワールド型ファンタジーの意欲作

Dragon's Dogma(以下、DD)は日本ゲーム業界の暗黒期に生まれたオープンワールド型のRPGだ。
当時としては大型タイトルの開発規模肥大化が始まっており、それに上手く順応できなかった日本メーカーは大きく苦戦していた時代であった。
例えば、「JRPG」という用語にしても現代ではおおよそジャンルに近いような扱われ方をしているが、かつては「進化に乏しい旧態依然のゲーム」というニュアンスが強かった用語だ。

本作がJRPG的な文脈かと言うと議論は出そうだが、そんな時代の中で日本がオープンワールドを採用するという意欲を感じさせた本作を今回はレビューしたい。
なお、今回は拡張版「Dark Arisen」を内包したリマスター版をベースとしたレビューとなる。

 

ドラゴンズドグマ:ダークアリズン -Switch

ドラゴンズドグマ:ダークアリズン -Switch

  • 発売日:2019/4/25
  • メディア:Video Game
ドラゴンズドグマ:ダークアリズン - PS4

ドラゴンズドグマ:ダークアリズン - PS4

  • 発売日:2017/10/5
  • メディア:Video Game
ドラゴンズドグマ:ダークアリズン - PS3

ドラゴンズドグマ:ダークアリズン - PS3

  • 発売日:2013/4/25
  • メディア:Video Game
ドラゴンズドグマ - PS3

ドラゴンズドグマ - PS3

  • 発売日:2012/5/24
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

厳しいご時世だよな

漁村で暮らしていた主人公は目覚めたドラゴンによって心臓を奪われ「覚者」という存在になってしまう。
自身の心臓を取り返すのがメインの物語となる。
本作で特徴的なのは主人公である覚者とそれに付き従う従者ポーンが必ずいる状態で冒険を進めていく点だ。
ポーンは移動中、戦闘中、クエスト中にもプレイヤーに喋りかけてくれ、情報を既に知っている場合にはヒントを喋ったりする事もある。
ソロプレイながらも、仲間と一緒に旅をしている感を演出するものになっている。
また、メインやサブの各クエストはマーカーがしっかりと設定されているのでクリアするハードルもそう高いものではないハズだ。

海外のRPGの潮流を取り入れたタイトルだが、ストーリーや会話はかなり淡白なものだ。
政治劇もしっかりと存在するが会話内容がやや一足飛びであり、ある程度の脳内補完を行えば説得力としては問題ないが、ストーリーとしては淡白な印象になってしまうだろう。
また、そこらを歩いている余り重要ではないようなNPCは全員が同じセリフを喋るうえに、中核を担うコンテンツでもあるポーンのボイスパターンも多くない。
そのため、設定や会話を重点的に楽しみにしている場合には肩透かしになってしまうだろう。
本作はあくまでもゲームプレイが主役になっている作品なのだ。

とはいえ、本作独自の世界観を用いた円環的なストーリーになっているのはユニークだ。
メインのストーリーを進めていき、本作の世界の成り立ちなどを知れば「なるほど。あれはそういう事だったのか!」「これがそうなるのか!」という納得感のある展開が用意されているのはストーリー部分の長所となるだろう。

 

システム

当時の和製作品としては意欲的なオープンワールドの採用

当時の日本としては先鋭的なオープンワールドを採用した作品となっている。
例えば同時期・同系統の海外産RPGであるThe Elder Scrollsなどの影響もふんだんに感じ取る事ができるところが多い。
これらも自分の土俵を捨てて戦おうとしている所を見るに、海外産ゲームへの日本メーカーのコンプレックスだと受け取る事も可能だろう。
そのため辛辣な書き方をしてしまえば二番煎じのような立ち位置であり、先駆していた海外産RPGと比較を行ってしまうと広さに対しての密度に関しては物足りなさが感じられるのが正直なところである。
現にゲームクリアまでの時間は当時の標準的な水準から考えても短く、内容としてもクリア後の周回プレイが用意あるいは推奨されているデザインになっている。

一応、システム的な部分を記載しておけば移動では移動速度が装備や持ち物の重量によって変わるため持ち過ぎは厳禁である。
この移動速度の変化は段階的に設けられているため「最大積載量を超えなければ良い」というものではない。
これは一見すれば面倒な仕様でもあるが、海外産RPGにも採用される事があるようなロールプレイおよびライフシム的な側面が表現されているのはもちろん、後述する「ポーン」というパーティーメンバーに荷物を渡して負荷分散を行う事が推奨されているデザインとしても機能している。
可能な限り不要な資材は手元のインベントリではなくアイテムボックスに置いて、重量を軽くする事で移動が軽快な戦闘が行いやすい。
回収可能なアイテムはフィールド上の敵やアイテムとなるが、基本的にはこれらは回復アイテムの調合素材であったり、装備品の強化素材であったりとなっている。
むしろ、それ以外の用途は薄いため、コレクション・観賞用のアイテムなどはない。
なお、敵やアイテムのリポップ頻度は高めだ。

フィールド関連での問題点を挙げるとするならばファストトラベルのアクセス性と機能性の悪さだ。
DDのファストトラベルは専用アイテムを使う必要があり、場所を移動したいがために専用アイテムを使用する必要がある。
そのアイテムは使用しても無くなる訳ではないが単純に「マップから直接」ではなく「インベントリを開いて、該当アイテムを選択して…」というアクセスが面倒なのである。
また、ファストトラベル先の場所は「プレイヤーが別の専用アイテムを配置した場所」というマーキング形式でのファストトラベルが基本となる。
ファストトラベル先となる別の専用アイテムも無尽蔵に手軽に入手できるものではないため、ファストトラベル可能な行き先が実質的に限られている作りにしているのだ。
これはゲーム内世界における移動の重要性を伝えるための世界表現としての不便さではあると理解はできるのだが、既知の場所に気軽に再訪できないのは億劫だ。
ランダム生成クエストを筆頭に移動中にユニークなイベントなどが用意されており、移動自体が楽しめるものに昇華されていれば問題ないのだが、残念ながら移動はかなり作業に近く時間を無理矢理使わされている印象が濃い。
この移動の不便さに関しては海外産RPGに代表されるオープンワールドほどの広さではない事が幸いになっているとも言えるだろう。
とはいえ、この水増しされた億劫さによってゲームボリュームの割には濃い体験が実現されている側面がある事も事実である。

キャラクタービルドではジョブの選択が大切だ

本作ではキャラクタークリエイトを行う事になるが、作成するのはプレイヤーだけではなく後述する重要な要素「ポーン」という仲間NPCも作成する事になる。
ポーンは端的に言えば自律的に行動してくれる仲間キャラクターの事だ。

このキャラクタービルドではジョブを選択する事になる。
キャラクターの扱える攻撃手段はこのジョブによって変化するため、自分が行いたい立ち回りに応じたジョブを選択するのが良いだろう。
また、ポーンのジョブも選択する事になるためパーティーのバランスを鑑みておいた方が良いだろう。
ジョブは後から変更も可能なので軽い気持ちで選択しても問題ないが、余りにもコロコロと変えていると器用貧乏化しかねないので注意しておくべきだろう。

仲間NPCである「ポーン」は本作の主軸だ

本作を単純な海外産RPGの後発模倣品の域を脱し、固有の個性を付けている要素が「ポーン」だ。
既に何度か書いてしまっているが、わかりやすい書き方をするのであれば仲間NPCの事である。
プレイヤーは1人のメインポーンを召喚する事が可能で、メインポーンに関しては前述の通りキャラクタークリエイトで見た目などを設定する事が可能となる。
そして「メイン」があるという事は、そうではないポーンも存在する。
それは別プレイヤーが作成したポーンを拝借する事が可能なのだ。
もちろん、自分が作成したポーンを他プレイヤーが呼び出すケースもある。
これにより自身が作成したメインポーン、別プレイヤーが作成したポーンで合計3名を連れて戦闘をする事が可能になる。
連れ歩くことによるデメリットは全くないため、余程の縛りプレイで、なおかつ本作の本質的な面白さを体験する気がないような非常に風変わりな趣向でもない限りは3人を連れ歩いておくのが無難だ。
また、ポーンを含めたパーティー構成は各キャラクターのジョブとの兼ね合いを考えておくのが望ましい。
例えば、全員が魔法使いのようなジョブで構成してしまうと、敵を引き付けてくれるキャラクターに欠けてしまうため戦況が崩れやすい。

ここまでの情報ではよくある仲間NPCの域を出ないが、ポーンの最大の特徴は「知識を増やしていける」という点である。
どういう事かというとモンスターと戦ったり、クエストを攻略したりする事でその情報を蓄積していくのだ。
これが何に活用できるかというと例えば他プレイヤーに貸し出された時がわかりやすい。
例えば、自分が他プレイヤーのポーンを拝借したとしよう。
その借りたポーンがモンスターやクエストの攻略情報を有していれば、クリアするための助言をしてくれるのである。
また、自身のメインポーンが他プレイヤーに貸し出された先で未知の情報を仕入れてくることもあり得るようになっている。
このポーンという存在を介した他プレイヤーとの間接的なコミュニケーションと情報の蓄積が本作のユニークな仕組みになっている。

とはいえ、ポーンは基本的には自分と同じレベルのポーンを雇うしかなく、そうなると攻略の進捗状況も必然的に同程度とも想定されるため、本当に有用な情報が得られるような仕組みにできているのかは疑問がある構造にはなっている。
もしも本作がもっと横の広がりを持ったゲームとしてデザインされているのであれば有用性は高かったが、メインストーリーはリニアな作りであるため進捗がレベルと比例しやすい。
仕組み自体は面白いだけに、もっとこの仕組みが活かされるゲーム構造を構築して欲しかった部分だろう。

「掴む」というユニークな手段をベースとした戦闘

オープンワールド型のARPGとしてはアクション要素が多めである事も本作の個性となっている。
一般にも採用されるような地上戦だけではなく、ジャンプ攻撃なども存在する。
また、ファンタジーらしくキャラクターの魔法による攻撃も可能である。
魔法は近接攻撃と比較すると非常に派手さがあり面白いが発動するまでに時間がかかるためパーティー構成が悪いと攻撃ができないので注意した方が良いだろう。
しかし、魔法はいわゆるMPのようなポイント消費する行動ではないため何度でも使用が可能なので戦闘において気兼ねなく全力で戦いやすい。

HPの仕様も一般のソレと少し異なり被ダメージによってHPとは別に最大HPも削られる。
回復の魔法も存在するのだが、回復魔法では削られた最大HPの分までしか回復は行えないのだ。
魔法は何度でも使用可能と前述したが、何度でも使える魔法では回復できる量が限られてしまうという事である。
そのため、回復役さえいれば宿屋で休まなくても安心という訳ではない。
最大HPまで回復するには回復アイテムか宿屋で休む必要があり、それらの役割がしっかりと生み出されている作りにしている。

戦闘のメカニクスで最も個性的なのは「掴む」というアクションがある事だ。
掴むでは物を掴んで投擲し攻撃の手段にしたり、小型や人型の敵を羽交い絞めにして仲間で袋にしたり、あるいは大型の敵に掴まってよじ登って攻撃するなど多彩な方法が楽しめる。
大型の敵の中には体の上部に弱点部位があるようなケースも少なくないため、よじ登って弱点を叩くような使い方をする事になる。
特にこの手のアクションゲームにおいては遠距離攻撃ならまだしも近接主体となると、せっかくの巨体を相手にしていても攻撃するのは足元ばかりになったりと体格の割には地味な光景になる事が少なくない。
それをよじ登る事によって巨体ならではの攻略法を設けているのは見事だ。
また、スキルの中にも高所に飛び移りやすいものが用意されていたり、掴むアクションを活用したサブクエストがあったりとお膳立てもされている。
そして物を掴む、敵を掴む、大型の敵によじ登るという少し珍しいアクションを全く同じ1つの操作で利用可能にしてわかりやすくまとめている点も素晴らしい。

 

Dark Arisen

Dark Arisen

Dark Arisenは追加要素が加わった拡張版に当たる。
Dark Arisenでは黒呪島という新規マップに加えて、エンドコンテンツらしい装備品などの入手が可能となる。
もちろん、新規のモンスターなども登場するため本編よりも歯応えを感じる戦闘が楽しめるだろう。

 

グラフィック

かなりの頑張りを感じるディティー

海外産RPG程のディティールには流石に及ばないものの、当時のJRPGの水準から考えれば非常に健闘したものになっている。
印象的なのは夜で、本当に暗いのだ。
多くの場合には夜と言っても周囲がある程度見渡せる程度には明るいものだが、本作では遠くが全く見えないくらいには暗い。
そのため、明かりを確保するか、素直に宿屋で一泊してしまうのが賢明だ。
しっかりと昼と夜の立ち位置の違いを表現しているのはむしろ珍しいパターンだ。

動きの面としてはキャラクターの会話などにおけるリアクションモーションがややチープだが、カプコンらしくアクション部分はしっかりと手応えを感じるモーションが作り込まれている。
ゲームのメインコンテンツはやはりバトルになるので、しっかりと力を入れるべき場所にリソースを注いでいる印象だ。

 

サウンド

本作の楽曲は作曲家が同様であるためだがモンスターハンターのような雰囲気を感じさせるようなBGMが印象的だ。

ボイスに関してはDark Arisenから日本語化に対応している。
しかし、キャラクタークリエイトで使用できるボイスにはピッチを変更しただけと思われる高音・低音の使い分けもあり、やや不自然に感じるのは気になるところだ。

 

総評

Dragon's Dogmaは海外産RPG的な文脈を踏襲しながらも物語や世界の成り立ちよりもゲームプレイに比重を置いている点において和製らしさが感じられる意欲作だ。

当時の日本メーカーとしては希少なオープンワールド型のRPGを採用しており、様々な面で海外産RPGの模倣が見て取れるが、それらに関しては見劣りするのが正直なところである。
しかし、従者ポーンを主軸とするオンラインを介した間接的なコミュニケーションによる相互的な攻略を促し、巨大な相手によじ登って攻撃ができるなどの意欲的なメカニクスが独特な個性を醸し出し、単純な海外産RPGの模倣品の域を脱している事も事実だ。

物語は補完込みでの説得力はあるがあくまでもゲームプレイが主体であり、全体的に非常にあっさり味で濃密な設定や会話などを期待する場合にはミスマッチになってしまうだろう。

 

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