【レビュー】Baldur’s Gate 3

RPGの原体験が現代に

Baldur's Gate 3(以下、BG3)は全てのRPGの始祖ともいえるTRPG「Dungeons & Dragons(以下、D&D)」を母体とするRPG作品である。
日本向けの発売が少しタイムラグがあった事もあり、海外での高評価の声は聞こえてはいたものの購入を見送るつもりでいたのだが、The Game Awardsにて大賞となるGame of the Yearを獲得するにまで至ったため購入を決意した経緯である。

今回は日本では余り馴染みのないであろうBG3のレビューを行いたい。
なお、今回は「RPG」という表現を行うとテーブルトーク側を示しているのかビデオゲーム側を示しているのかがわかりにくいため、物理媒体をTRPGビデオゲームRPGCRPG、両者を指す場合にRPGとして区別して記載する。

 

 

ストーリー

TRPG文脈の強いCRPGの原体験

ストーリーは大まかに2通りが用意されている。
1つは全てを自分で紡いでいくTRPG系譜らしい「カスタム」とJRPGなどに多い事前に決められたキャラクターのストーリーを追体験できるような「オリジン」だ。
海外系のCRPGの文脈に慣れているプレイヤーであればカスタムから、JRPGの文脈しか知らなかったり自分で色々と設定したりするのが面倒だったり不安だったりするならばオリジンを選択するような形で良いだろう。

大まかに全体で共通しているストーリーは以下の通りだ。
主人公はイリシッド(別名:マインド・フレイヤー)という太古より存在するクトゥルフモチーフの種族により囚われ、イリシッドの幼生を植え付けられてしまう。
その場からは何とか逃げ出す事には成功したものの、そのままに放置していれば自分を宿主にして幼生がイリシッド化してしまうため、それを取り除くための冒険だ。

このような大まかなストーリーはもちろん用意されているが、カットシーンによる映画的なものが繰り広げられるというものではなく、ロールプレイによるゲームプレイ自体がストーリーになるというナラティブなストーリーテリングが主体となっている。
例えば、イリシッドとは敵対的な関係であるが、物語の展開のさせ方によっては友好的なイリシッドと共闘関係になるなど、プレイヤーのインタラクション次第で多様な状況で進行していく。
エンディングの差分にしても17,000以上あるとされており、NPCキャラクターの生存や勢力の肩入れ具合などによってエンディングの状況や組み合わせが変わるものになっている。
プレイヤーのロールプレイによる選択がゲームプレイに反映されるTRPG的体験に繋がる要素とも言えるだろう。

数々のTPRG的要素

TRPGらしいストーリーテリングはナラティブな面だけに留まらない。
Baldur's GateというゲームがD&Dを母体としているために「TRPGビデオゲームで体験できるようにしたい」という志向性が随所に感じられる。

まず、補足説明やプレイヤーキャラクターが感じ取った内的描写などをナレーションによる語り部が代弁する。
リアリスティックな志向のゲーム体験と対比して考えれば「この自分でない謎のナレーターは誰なんだ?」となってしまう所だが、TRPGにおける「GM(正確にはD&Dの場合には"DM")」のような役回りをあえて作る事によってよりTRPGらしさの演出に繋がっている。

また、ゲームプレイ部分のシステムとも密接に関わるが本作では非常に多くの行動がダイスを振って成否が判定される。
自身の能力によってもダイスにプラス補正 / マイナス補正がかかるため完全な運とはならないが、結局は運が関わるため時として意図しない結果にもなってしまう事だろう。
この偶然性によってもプレイヤー固有のナラティブな体験を生み出す事に寄与している。
なお、ダイスの直前でセーブを行うなどして臨む結果になるまで粘る事も無理ではないので、どうしても成功させたい選択肢がある場合には検討すると良いだろう。
ただし、本作はあくまでも失敗も含めた物語を楽しむものである事が前提であることは忘れない方が良いだろう。
失敗体験も含めてゲームプレイであり、そこにこそナラティブな体験が生まれるのだ。

しかし、本作はTRPGを母体としているという事は、それは旧来のCRPGと同じ志向性を有するという事でもである。
そのため、レガシーなCRPG的な進行が多く、全体として手探り状態で進行する事になる。
いわゆるクエストマーカーも存在するのだが、マーカーのある場所に行けばクエストがクリアできると言ったような現代的なゲームではないのである。
マーカーはあくまでもクエストに関係のある人物がいる、関係のあるエリアである、関係のあるアイテムがある程度の大まかなものなのだ。
そのため、探索する事にも労力を割く必要があるため、手探りゆえの世界への没入ができるというポジティブな側面がある一方で、それなりの時間的な余裕がないと楽しむことは難しい。

また、”不可逆”である事も注意点として記載したい。
ストーリーは章形式のようになっているのだが、章を跨いだ場合には以前のフィールドマップに戻る事ができない。
そのため、フィールドマップでやっておきたいことは全て完了させておくのが望ましい。
なお、章が進んで戻れなくなるような場面にはアナウンスが行われる。
知らず知らずのうちに勝手に進んでしまい戻れなくなると言った事はないので安心して大丈夫だ。

シングルプレイではTRPG的体験が徹底できていない

Baldur's Gate 3におけるネガティブな部分についても触れておきたい。

まず、選択肢の選択ボタンがデフォルトで先頭が選択された状態になっているのは困った事になる。
先頭が選択状態になってしまうと、会話を送った際に誤って意図しない選択をしてしまう可能性があるためだ。
選択する事がゲーム体験のメインともいえるような内容であるだけに、デフォルトでは全て未選択状態にするなどの配慮がもう少しあっても良かったのではないだろうか。
これからプレイするという場合には会話を手動で送る際には気を付けて頂きたい。

本作は膨大なテキストが用意されているがローカライズを頑張っている。
これ自体は賛辞を贈るべき部分だ。
しかし、根本的なゲーム自体がローカライズを想定しているとは思えない構造だ。
特に気にかかるのが移動中の会話なのだが、会話が発生するとボイスと共にテキストが表示される。
ローカライズはその労力とコストの面から「テキストのみ」のローカライズであり、多くの日本プレイヤーであればテキストを読むことになるだろう。
しかし、テキストは話者の頭上に表示されるだけであり、画面上に話者が映っていなければテキストが映らないという仕様なのだ。
後ろに付いて歩いているような仲間キャラクターに至っては画面上に映るような状態が非常に稀なため、会話内容がかなり把握しにくいものになってしまっている。
つまり、仲間キャラクターの会話内容を知るためには後ろを振り向く必要があるのである。
これでは移動はままならない本末転倒な事態だろう。
画面にキャラクターが表示されていなくとも、画面上の隅にテキストは表示されるなどの近年(2020年代)でも珍しくないような最低限の仕組みは作っておくべきであったように感じられる。
そのため、上述の通りローカライズされる事を考慮したような作りには根本的にしていないのである。

そして、TRPG的体験を徹底できていない点が気になる可能性も考えられる。
一人プレイの場合には操作キャラクターを仲間のキャラクターに変更できたり、戦闘で仲間を操作する事になったりする。
これは例えば脳筋キャラクターにした場合に開錠や説得が成功しにくく、プレイ体験の幅を狭めてしまう事を避けるために採用したのではないかと考えられる。
しかし自分以外のキャラクターを操作するという行為は「自分を世界の中に投影する」というロールプレイ原理主義的な思いがあるプレイヤーにとってはノイズとなってしまう可能性があるのだ。
マルチプレイで楽しんでいる場合には各キャラクターをそれぞれが操作する事になるため、ボイスチャットなどを使用して「ここの鍵を開けられる?」「この人を説得して」といったお願いをして役割に応じたプレイをする事でTRPGらしい体験に繋がるのだろう。
しかし、その機能的メリットをソロプレイの場合でも享受できるように配慮した結果として「主人公=プレイヤー」という図式が崩れて「一人二役どころではないプレイ」になってしまう体験になりやすいのはコンセプトにブレがあるようにも感じてしまう。
D&Dでも参考元と考えられる"同行キャラクター(NPC)"というものは存在はするが、それと比べても仲間キャラクターはプレイヤーと同格の存在であるため主張の強すぎる立ち位置になってしまっている印象なのだ。
理想を言うのであれば、CRPGという側面を活かして仲間キャラクターが自律的にそういった行動を行ってくれたり、そうでなくとも仲間キャラクターに「○○をやってくれ」とお願いする程度のコミュニケーションを介した間接的な操作に留めたりする事で一人でマルチプレイに近いTRPG的体験が可能になったのではないかと感じられる。

 

システム

ここからはゲームプレイに関わるシステムに関しての記載を行うが、その前に本作の難易度についての話を書いておきたい。
本作にはイージーやハードに相当するようなプリセットされた難易度が用意されているが、中にはカスタマイズが可能でより詳細に自分好みの変更が可能なものも用意されている。
最初はまだ不明点も多いかも知れないのでひとまずプリセットの難易度を選択し、2週目プレイなどでカスタマイズするなどして楽しむといった事が可能になっている。

クリアまでの時間も決して短いとは言えないものの、何度プレイしても楽しい作品でもあるためそういったプレイの場合には嬉しい要素だろう。

自身を投影するキャラクタークリエイト

TRPG的文脈が色濃い海外CRPGでは自己投影を行いやすくするためにキャラクタークリエイトが採用されるケースが少なくないが、もちろん本作も例外ではない。

キャラクタークリエイトでは性別や外見の編集などのほかにも種族やクラスを選択する事ができる。
選択した種族によっては更に細かな分類(亜種族)が選択可能で、エルフにもハイエルフとウッドエルフが存在すると言ったような形である。
各種族は外見的特徴はもちろんだが、得意分野が設定されているので自分のプレイスタイルに応じた種族選択をするのも良いだろう。

クラスの選択ではプレイヤーキャラクターの戦闘での立ち回りに影響を及ぼす。
いわゆるジョブのような概念だと思って良いものだ。
近接での立ち回りが得意だったり、魔法による攻撃や補助が得意だったりと言ったクラスに応じたしっかりとした個性が存在する。

個性を引き出すキャラクタービルド

ここではキャラクタービルドについていくつか記述していきたい。

キャラクターには前述している「クラス」が設定されており、入手した経験値によってクラスのレベルを上昇させ、そのクラスに応じたスキルを覚えていくような成長システムとなっている。
クラスは一定程度成長するとサブクラスが選択できるようになり、より専門的なスキル構成のキャラクターにする事ができるようになる。

また、マルチクラスというシステムも存在する。
サブクラスが「基となるクラスの派生」であるのに対して、マルチクラスは「根本的に別のクラスを追加する」というものである。
極端な使い方をいえば剣士クラスに魔術師クラスを後付けで追加するようなものだ。
マルチクラスはいくつでも設定が可能であるが、キャラクターの最大レベルは12であり、マルチクラスの習得でレベルを1つ使用する事になるため注意が必要である。
そのため、剣士クラスで8レベル使用して、残りの4レベルを魔術師クラスに割り当てるなど計画的なレベル上げが必要となる。

各クラスで覚える事ができるスキルもしっかりと役割が設定されたものになっている。
戦闘で役に立つような攻撃スキルやフィールド設置スキルはもちろんだが、解呪を行うもの、脂を周囲にばら撒くもの、能力補正が行えるものなど多岐にわたる。
中には動物や死者との意思疎通を行うようなものもあり、冒険を手助けしてくれる情報が得られることもある。
それぞれに有用な活用法があるため、どのように利用するのかを考える楽しさもあるだろう。
ただし、利用の仕方に関しても丁寧なチュートリアルはないため手探りで使い道を見つけていく事になるだろう。

なお、敵に関してもリポップするような事はないため決められた場所に決められた数だけ配置されている形式である。
つまり、入手可能な経験値が事前に固定になっているため、ゲームバランスが開発側の意図から大きく崩れないようなバランスになるようなデザインになっている。

SRPGのような戦闘システム

戦闘はターン制、コマンド選択式のSRPGのようなバトルとなっている。
仲間も敵もターンが来た時にキャラクターを移動させて攻撃を行うというものである。
こちらにしてもTRPGを母体としていることを認識していれば理解しやすい部分もあるだろう。
TRPGでは紙やブック内のフィールドマップ上に自身を含めたキャラクターユニットである人形を置いて遊ぶケースも少なくない。本作ではその文脈をそのままゲームとして落とし込んでいるのである。

本作は「ストーリー」の項でも述べたようにマルチプレイも可能で、最大で4人で戦闘を行う事が可能だ。
一人でのプレイだったとしても仲間となるNPCを連れ歩くことが可能なので、それらをユニットとして操作して戦闘を行う事になる。
攻撃方法に応じて威力だけではなく、射程距離や攻撃範囲や効果が異なるので、状況に応じて有効になりそうな行動で攻撃するのが好ましい。

特に戦闘では化学反応的な要素も利用できる。
例えば、水場に氷の呪文などを当てれば路面が凍り踏破性が下がる事で敵の進行を妨げる事ができるし、油をまいた場所に火の呪文を投げ込めば大ダメージを狙えるのだ。
複数人のユニットを操作して戦闘する事が前提なので、こういったシナジーを考慮して立ち回ると更に面白いだろう。
またそれを促すように、本作では行動順が仲間で固まっていれば順番を入れ替えて行動する事もできるようになっているので、まず油を撒けるキャラクターを使って、次に火の魔法が使えるキャラクターで発火させるといった事が行いやすい。
マルチプレイで遊ぶのであればボイスチャットなどを駆使して、仲間と連携して攻撃すればより楽しさが増すだろう。

操作の最適化は不足している

非常に大ボリュームなBG3であるが、細かな部分で操作の最適化に問題を抱えており小さなフラストレーションが定期的に溜まりやすい。

まず、全体的にコンソール向けの最適化に欠けており操作は煩雑な傾向だ。
また、カメラ操作も困った挙動になる事が少なくない。
近場をカメラで映そうとした時に、カメラが全く意図しないような位置にギュンっとワープするかのような挙動になるケースがままある。
これは室内などのオブジェクトが近くに存在しやすい環境で発生しやすい。

アイテムを取得したいのに、キャラクターに話しかけてしまうなどの誤操作も発生しやすいのもフラストレーションとなりやすいものである。
特に敵ユニットの死体などの下にアイテムが落ちているような状況下になると取得するのは非常に大変だ。
死体は持ち上げて別の場所に移動させることは可能だが、重量のあるモンスターなどはそれもできないため困りやすい。
この辺りはNPCとのインタラクトと落ちているアイテムを取る行為を別のキーに割り当てするなどの配慮が欲しい所だ。

 

グラフィック

ディティールはしっかりしているが稀に描画が崩れる事も

BG3のグラフィックはディティールこそあるが、オブジェクトのめり込みなどの細かい部分は割り切って作成している。
フィールドはいくらか存在しており、キャラクターが回復する際に利用する野営地もフィールドによって変化する。

映像演出面でもTRPG的文脈は見受けられる。
それはカメラ操作で、カメラがキャラクターに寄っている時には普通のゲームのような感覚で遊べるが、カメラが引いた時にはトップビューになる。
これは「システム」の項にて少しだけ記載した「マップの上にキャラクターユニットである人形を配置して遊ぶ」というTRPG体験の側面を強調しているのだ。

映像面で気になる点としてはキャラクターのポリゴンが正常に表示されない事がままある。
これは筆者のプレイ時点の話であるためアップデートにより修正されているかも知れないが、たまにキャラクターがおかしな見た目になる事もあるかも知れない。

 

サウンド

タイトル画面で流れるメインテーマはいくつか聞くタイミングがあるため印象に残りやすい曲になる事だろう。
しかし、全体としてはBGMがあるシーンは少なく環境音が主体である。

また、物量が余りにも多いためボイスまでのローカライズは行われていないものの、英語である事で映像の雰囲気にマッチしているとは言えるだろう。
しかし、「ストーリー」の項でも指摘した通り、移動中に発生する会話はキャラクターが画面内にいなければテキストが表示されないため、一部のボイスに関してはBGMやSEと同格に等しい事は併記する。

 

総評

Baldur’s Gate 3は全てのCRPGの原典であるTRPG体験を現代のビデオゲームに落とし込み、RPGの原体験をモダンな環境で味わう事のできる作品である。

探索や戦闘などしっかりと歯応えがあり、何よりもプレイヤーの行動と選択が世界に反映されていくナラティブな体験のレベルは世代最高峰の質と量だと言っても良いだろう。

全体的に痒い所に手が届かない側面も感じられ、この辺りに関しては膨大な物量への対策として取捨選択を行った部分もあるのだろう。
また、TRPGの文脈を理解しないままにプレイすると痛い目を見る可能性も大いに考えられる作りであり、TRPGあるいは最低限でもその潮流をベースとする傾向が多い海外産CRPGを嗜んでおく事で比較的ソフトランディングに受け付ける事ができるだろう。

 

外部記事

PS5版「バルダーズ・ゲート3」インプレッション&インタビュー。気になるコントローラ操作や日本語ローカライズはどうなった? 

[GDC 2024]「バルダーズ・ゲート3」のプロモーションでTikTokを運用。わずか1年あまりで27万フォロワーを獲得した秘訣とは

[GDC 2024]4人でスタートした「Baldur's Gate 3」のシネマチック・アニメーション制作。大事なのは,チームの人間的な側面を見失わないこと

[GDC 2024]数々のデーモンと戦いながら名作への階段を上り詰めた「Baldur’s Gate 3」は,拡張パックもDLCも続編もナシ

『バルダーズ・ゲート3』開発者ミニインタビュー。いまもっとも熱いRPGのスタッフが、日本人プレイヤーに注目してほしいポイントなどを語る - AUTOMATON

ゲームシナリオの解剖学from各務都心:第59回『バルダーズ・ゲート3』ロールプレイのための動機付け、CRPGの始祖が放つ変幻自在のクエスト群

『バルダーズ・ゲート3』開発者インタビュー。世界で絶賛されるRPGに秘められたこだわりとは - 電撃オンライン