【レビュー】ゼルダ無双 厄災の黙示録

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あったかも知れない100年前の物語

その発表は衝撃的なものだった。
ゼルダ無双 厄災の黙示録は何の前触れもなく突如として発表されたのだ。
傑作として名高いゼルダの伝説 Breath of the Wildはその絶望的な100年前の出来事や破壊される前の街並みや文化などを巡って様々なファンが考察するなど注目されていた。
その100年前にフォーカスを当てたのが本作であり、しかもそれをサードパーティーであるコーエーテクモゲームスが手掛けるゼルダ無双で実現させるというのだから驚きだ。
原作と比較しても問題ないレベルのモデリングなどは初報の段階で安堵したし、何よりも100年前をどのように描くのかが筆者にとっては非常に興味深いポイントであった。

今回はゼルダ無双 厄災の黙示録をレビューする。

 

ゼルダ無双 厄災の黙示録 -Switch

ゼルダ無双 厄災の黙示録 -Switch

  • 発売日:2020/11/20
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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ファンとして喜びのあるストーリー

本作は原作であるBreath of the Wildから100年前に起きた大厄災を体験できるゲームになっている。
しかし、原作で紐解かれた過去の出来事を追体験するものではないという事が冒頭のオープニングムービーから示唆される。
そう。本作はBreath of the Wildのifシナリオともいえる内容になっているのだ。
もちろん、原作においてあってであろう戦場での戦闘も用意されているのだが、シチュエーションは原作とは異なるものとなっている。
ストーリーはステージ制で展開されていき、基本的にはステージの始めと終わりに物語のカットシーンが挿入されるような形式だ。
ステージ毎にストーリーが展開されていくため、原作よりもストーリーが充実しているのが特徴的だと言えるだろう。

本作のストーリー内容はBreath of the Wildとは異なる過去改変を行うようなものであるため、原作と比較すると強烈なまでに対比的で、ご都合主義的ですらあるほどの大団円になっている。
Breath of the Wildへと至る絶望的な結末を期待していた人には少し物足りなく感じる事もあるのかも知れない。

しかし、ネタバレを避ける程度に記載するが、本作は夢の共演が実現しているのは魅力的だ。
その夢の共演はBreath of the Wildファンならば必ず熱くなるハズで、原作プレイヤーであればプレイして損はない。
ただし、それは裏を返せば原作を未プレイでは本作の物語としての良さはわかりにくいという事でもあり、そこは頭に入れた方が良いだろう。

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ファンとしての懸念

Breath of the Wildの100年前を過去改変という形で描いている本作であるが、過去を描くという手法を用いた事で1人のゼルダファンとして懸念を感じざるを得ない。

まず、登場する敵が非常に小物の印象を受けてしまうのは残念でならない。
原作であるBreath of the Wildで感じた100年前といえば悲しく絶望的なものであった。
しかし、そんな100年前を描いた本作で暗躍している敵が薄っぺらい小物な悪役になっているのは非常に残念だ。
この小物の悪役は本作だけで暗躍しているのか、原作の100年前でも暗躍していた人物なのかは不明だが、何にせよもう少し厚みのある設定を用意して欲しかったと言わざるを得ない。
このような小物が絶望的な大厄災で暗躍しているのかと思ってしまうと、原作にあった物語の重みを貶めてしまっている。

また、Breath of the Wildの過去を知りたかったファンとしては本作の受け止め方は困惑するかも知れない。
原作の100年前を描いている本作だが、前述の通り冒頭から100年前には起きえなかった事象が発生する。
そのため、ほとんど完全なifストーリーの様相なのだ。
作中の会話や戦いなど、どこまでを原作でも発生した事象として受け止めれば良いのかは非常に困惑するだろう。
本作によってBreath of the Wildの事象を紐解こうと考えていたゼルダファンは「こういう可能性もあったかも知れない」程度に留めておいた方が良いのかも知れない。

本作が過去を改変するというifシナリオである事それ自体にも懸念がある。
以前のゼルダシリーズは「時のオカリナ」を契機として世界線が分岐しており、新規プレイヤーにはややわかりにくく、制作においても制約の多いものとなっていた。
それがBreath of the Wildによって半ば統合され、ゼルダシリーズのシナリオ的なわかりやすさや作りやすさが広がったと思うのだ。
しかし、本作では再び時のオカリナのような「勇者の勝利(本作)」と「勇者の敗北(原作)」の世界線で分岐をさせてしまっているのだ。
今後、本作の時間軸でのストーリーが展開されるかは疑問があるが、せっかくシンプルな構造へと回帰したにも関わらず、今回のような分岐ルートを作ってしまったのはシリーズの今後を考えた時に心配だ。

 

システム

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Breath of the Wildの無双アクション

Breath of the Wildの要素を多く踏襲した爽快な無双アクションが特徴的だ。
拠点の制圧であったり、強敵はウィークポイントゲージを削って倒すなど、前作にもあたるゼルダ無双のシステムも多く踏襲している。

登場するプレイアブルキャラクターには、扱いやすいオーソドックスなリンクや影分身のような技でスタイリッシュに攻めるインパ、空中戦ができるリーバルなどストーリーの進行と共にBreath of the Wildでも登場した有名なキャラクター達がアンロックされていく。
その他、特定の条件を満たす事で解禁される隠しプレイアブルキャラも存在する。
プレイアブルキャラクターはそれなりに多いが、メインストーリーを中心にプレイするという場合には育成するキャラクターはある程度は絞らなくてはならないのは注意点だ。

原作を踏襲した要素はキャラクター以外にも多く存在する。
攻撃をギリギリで回避する事でラッシュ攻撃を行う事が可能になっている。
回避は攻撃モーションをある程度キャンセルして発動させる事ができるためスピーディーな戦闘が行える。
盾を装備しているキャラクターであればパリィも可能だ。
パリィによってガーディアンのレーザーを打ち返す事ももちろん可能だ。
その他、草刈りや木こりもしっかりとできるなどフィールド上のオブジェクトに対してのインタラクト要素もある。
また、フィールド上にはコログが隠れているため、ちょっとした探索要素も用意されている。
原作をプレイしていたプレイヤーは思わず「こんな要素も取り込んでくれているのか」と感心するばかりだ。

ボス敵や中ボスなどの強敵は前作ゼルダ無双と同様に特定の攻撃の後などに発生する「ウィークポイントゲージ」を削って倒すのが基本になっている。
原作であるBreath of the Wildにおいてアイコン的な存在感を持っていたシーカーストーンの「爆弾」や「アイスメーカー」などのツール群もこのウィークポイントゲージと関連して使用する事になる。
例えば、敵の突進攻撃の際にはアイスメーカーのアイコンが表示され、実際に使用すると敵が氷柱にぶつかってスタンし、ウィークポイントゲージを削るチャンスが発生するのだ。
無双アレンジの使い方ではあるが、原作で印象的だったツールを使用可能になっているのは嬉しいポイントだ。
また前作も同様であったのだが、この要素の存在によって無双シリーズの「強敵との戦闘に不向き」という欠点を小さくする役割も担えているのは大きい。
まず、敵が攻撃するターンと自分が攻撃するターンが明確になる事で疑似的なターン制ともいえるものになるのはプレイのメリハリとなる。
そして、ゲージを削り切ればカッコいいモーションで中ボス程度なら大半が倒せてしまうほどの大ダメージを与えつつ周囲の敵も巻き込める攻撃を行うため、「無双」という一騎当千を主体としたゲームのテンポを落とし切らずに済むのだ。

原作Breath of the Wildや前作ゼルダ無双の要素を多く踏襲している本作だが、FE無双の要素も取り込まれている。
操作キャラクターをフィールド上にいるキャラクターにリアルタイムに変更可能なのだ。
操作していないキャラクターには指示だしが可能で、例えばリンクを操作している最中にインパには別の拠点に移動するように指示を出しておくといった事ができる。
本作は無双としては比較的広いフィールドが用意されているため、フィールドを1キャラクターだけで攻略するのは少しだけ大変だ。
そのため、操作していないキャラクターには事前に移動指示を出しておくことで、キャラクターの作業が完了したら別のキャラクターに操作を変更する…と言ったプレイが出来るようになっている。

戦闘では無双らしい爽快なアクションが楽しめるが、残念なポイントもある。
それは中ボスのような相手を複数体相手にしなければならないケースだ。
複数のボス敵はまるでまともに制御されているようにはみえず、バラバラに攻撃してくるため、こちらの攻撃タイミングが非常にわかりにくい。
制御できないのであれば、このようなケースは極力作らないでいただきたい。

ロード時間が長めであるという点も気になるかも知れない。
メインストーリーのステージでは開始時に経緯のようなものを喋ってくれるちょっとした物語があり、その裏でロードを行っているためロード時間が気にならないようにする工夫をしている。
しかし、それ以外のサブのやり込み要素ではそういった要素が無いため、読み込み時間がプレイヤーにダイレクトアタックしてしまうのだ。

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神獣を操作するダイナミックなパートも

巨大な神獣を操作できる圧巻のパートも存在する。
このパートではステージによっては10,000体以上の敵を撃破することが出来たりと、正に桁違いの規模の戦闘を行うことが出来る。
神獣の圧倒的な強さを目の当たりにするともはやどっちが厄災なのかわからなくなってくるだろう。

 

グラフィック

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原作では見られなかった風景

オープンワールドであったBreath of the Wildとは異なり、従来の無双系タイトルと同様のステージ制になっている。
しかし、戦場となるステージはそれなりに広く設定されている印象だ。
また、原作では見る事の出来ない生きている街並みを拝むことが出来るのは原作ファンにとって嬉しい限りだ。
絵作りに関しては原作と比較した場合、細かい部分ではディティールの粗さを感じるものの、ほとんどBreath of the Wildを踏襲したグラフィックに出来ている点も魅力的だ。

各キャラクターのモーションも良く作り込まれている。
待機モーションがしっかりと用意されているだけでなく、そのモーションにしても原作をプレイしていればニヤリと出来るようなものになっているのだ。

その他、ロード画面ではちょっとした操作で遊ぶことが出来る遊び心も用意されている。

 

サウンド

原作のBGMを印象を崩すことなくアレンジした戦闘曲になっている。
原作プレイヤーであれば感慨深い気持ちになる事は間違いないだろう。

キャラクターのボイス関連に関しても記載しておきたい。
ストーリーが原作よりもしっかりとあるため、ボイスも十分に用意されている。
また、パーティーメンバー選択時やフィールド上でのキャラクター切り替え時には組み合わせによって専用の掛け合いがあるなど、原作よりもボイスを良く使えている印象だ。

 

総評

ゼルダ無双 厄災の黙示録は傑作ゼルダの伝説 Breath of the Wildの世界観を無双アクションに落とし込んだ爽快なアクションRPGだ。

キモとなる無双アクションは欠点を最小限に抑えつつ、原作の要素を多く踏襲しており、そして尚且つ敵をザクザクと倒せる爽快感を実現している。
原作の雰囲気を壊さない程度に戦闘曲としてアレンジされたBGMも良い完成度だ。

しかし、原作とは対照的なまでの大団円となるストーリーは陳腐な印象も受けてしまう。
なによりも原作のような絶望的な世界観を望んでいたプレイヤーには少し刺激の足りないストーリーに映るであろう点は注意すべきだろう。

 

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