【レビュー】ゼルダの伝説 時のオカリナ

時代を変えた伝説

ゼルダの伝説 時のオカリナ(以下、ゼルダOT)は筆者などが言うまでもなくビデオゲーム史上において最も重要な作品の筆頭に挙げられるタイトルである。
当時のNintendo64でプレイをしていた筆者も同時期に発売された3Dタイトルとは一線を画すようなレベルでハマっていた記憶があるくらいである。

今回は筆者がレビューするにはややおこがましいタイトルではあるが、思い出のタイトルでもあるため記録としての意味でも記載をしていきたい。

 

ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D - 3DS

ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D - 3DS

  • 発売日:2011/06/16
  • メディア:Video Game
ゼルダの伝説 時のオカリナ

ゼルダの伝説 時のオカリナ

  • 発売日:1998/11/21
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

冒険と成長、そしてシリーズに強い影響を与えた物語

ゼルダOTは森の妖精の子達が住むコキリの森にて育ったリンクが主人公だ。
ある日、不吉な予感を感じさせる意味深な夢を見る。
そこからハイラルを救うリンクの物語がスタートしていく事になるが、ハイラルの支配を目論むガノンドロフに裏をかかれてしまう…というのが大まかなストーリーとなっている。

物語は冒頭からチュートリアルも兼ねた探索から始まり、そして剣を携えての冒険が始まっていく。
ワクワクするようなシチュエーションによってプレイヤーを牽引して、進めていく事で新しい土地で様々な人と出会い、そして新しいアイテムが使えるようになるなどの成長も感じさせてくれるのだ。
このような少年心を掴むような展開にしている点も見事だ。

本作の物語的な特徴は子供時代と大人時代を行き来する物語になっている点である。
簡単に書いてしまえば子供時代に出会った人物が大人時代で少し変化しているのだ。
少々ネタバレな部分もあるが、大人時代にはハイラル世界がガノンドロフに支配されており各地で魔物が暴れているような状態になっている。
そのため、子供時代で出会った人々も世界の動乱に伴い大人時代ではやや卑屈な感情になっている事も珍しくなく、時間を経た事によるドラマを感じさせるものになっている。

とは言え、任天堂作品には多いがストーリーは非常に簡潔で、ゲームプレイを邪魔しないように作られているためストーリー重視のものとして楽しむのはミスマッチだ。

親切さも忘れていない

クラシックなタイトルではあるが、プレイヤーに対しての親切さも忘れていない。
敵の攻略方法がわからない場合にはナビィがヒントを出してくれる。
また、次に何をするのかを忘れてしまった場合にはナビィやサリア、あるいはマップが行くべき場所を教えてくれたりする。
そうは言ってもこれだけでは痒い所に手が届かない場合も少なくないのだが、それでも適宜ナビゲーションしてくれるのは当時としては親切な水準だ。

 

システム

巧みなカメラ制御によって時代を一変させた3Dアクション

ゼルダOTは3D空間で剣や弓を用いて戦うARPGとなっている。
まず、本作を何も知らずに今からプレイした場合には面白さこそ伝わるかも知れないが、何か特別な特徴や強烈な個性がある作品だとは感じにくいハズである。
そのため、本作の特筆すべきポイントを書くにはまずは当時の時代背景を記載し、その文脈から優れている理由を述べた方が適切だろう。
当時としては各社が3Dゲームの制作に着手してきている段階であり、フル3Dゲームではなく、(ハード的制約のために)一部だけ3Dになっている作品も多かった時代でもある。
そのような各社3Dゲーム制作のノウハウが全くない状態であったため、3Dである必要性が余り感じられないような3Dモデルを活用しただけに近い試作的なタイトルも少なくなかったのだ。
また、3Dの近接攻撃要素のあるゲームでは新たに登場した”奥行き”という概念の影響から「敵との距離感が掴めない」という状態が珍しくなく、そのため「攻撃をしても虚空をきる」というアクションを行うだけでも地味なストレスが多かった時代だったのである(ただし、それがマイナスという訳ではなく、当時はそれが「当たり前」であった)。

そんな時代の中でゼルダOTが非常に魅力的な要素だったのがアイコニックな「Z注目」だ。この機能に関しては名前は聞いたことがある方も少なくない事だろう。
敵をロックオンするだけの単純な機能というのは以前から存在していたのだが、本作のZ注目システムが特異であったのはロックオン(キャラクター制御)とカメラワークを組み合わせている事である。
それは上の2つの画像を参照して頂ければ少し伝わるものがあるだろう。
Z注目の状態に移行するとリンク(プレイヤーキャラクター)は敵に正対し、更にカメラは両者が常に画角に収まるようにしつつ、お互いが斜めのライン上に結ばれて表示されるようにカメラ制御されるようになっている。
もしも「プレイヤーキャラクターが敵に正対し続けるだけ」の機能では射撃は行えてもチャンバラは難しいし、「敵を中心に据えるだけ」のカメラワークでもプレイヤーの移動位置によって視認性が悪くなるのである。
また、カメラワークにしても完全なビハインドビュー状態では距離感がわからないし、かと言ってサイドビュー状態では3Dゲーム感を喪失させてしまう。
それらを解消するためのキャラクター制御とカメラ制御を両立させ、近距離でのチャンバラアクションが行いやすくなっているのだ。
なお、このカメラ制御に関しては戦闘だけに留まらず様々なシチュエーションで細かく行われており、情報量の多い3D空間でプレイヤーが操作を行いやすいように配慮がされている。
後世では右スティックによるマニュアルによるカメラ操作が一般化したが、この時代では右スティックという存在自体がないなどの環境面の状況も併記しておく。

このような要素や以降に紹介する要素に関しても、後の時代のあらゆる3D作品に大きな影響を与えている。
本作は「3Dゲームのスタンダードを築いた始祖」と表現しても何ら疑問の余地を持たないレベルの作品であり、それは本作を現代で遊んだとしても決して現代の感覚から大きく逸脱したような体験にはなっていない事からも理解できる事かも知れない。
「本作を初見の現代プレイヤーは何が特別なのかわからないのでは」と前述したのだが、それが正に答えでもあるのだ。
特別なものを感じないのは本作が作り上げた機能やシステムは今なお3Dゲームのスタンダードであり続けているからなのである。
黎明期に作り上げられたハズの本作が、現代で遊んでもなお「普通にプレイできてしまう」ことこそが本作の傑出度の証左となっているのだ。

物理と科学を世界に入れた作品でもある事も忘れてはならない

3Dの黎明期でありながら、物理や化学といった要素同士の相互作用を世界構築と謎解きに活かしている点も驚異的だ。
火で燃やしたり、物体の重さでスイッチを押したり、時には高所から落ちる衝撃を用いて床の障害を取り除く。
現実世界では当たり前であるこれらの直感的な要素をゲームに取り入れ、世界自体の厚みはもちろんだが、謎解きとしてユーザーに楽しんでもらうためのギミックにもなっている。

3D空間であることをフルに活用したレベルデザインである点も見事である。
前述した通り、当時は3Dモデリングしてゲームを作った程度の3Dの必要性・利点が薄いと感じてしまうような作品も少なくなく、特に2Dドット時代では表現しにくかった「3Dの奥行(トップビューからの旅立ち)」といった側面ばかりに着目されがちであったように感じられる。
しかし、本作は上図の右のように3Dの空間を立体的に活用しており、「横」「高さ」「奥行き」の3D空間の全てを駆使するようにダンジョンがデザインされているのだ。
つまり、3D空間だからこそできるゲーム体験をしっかりと提供している点においても見事なのである。

また、一番最初のダンジョンである「デクの木様の中」には上述した本作の様々な基本理念となる物理と化学、3D空間を駆使した謎解き要素を散りばめているため、全体のチュートリアル的な役割もしっかりと果たしている。
そのため、最初から密度の高い遊びが感じられる事となり、この後にはどんな体験が待っているのかがワクワクさせてくれる事だろう。

これらのギミックはダンジョン内で入手できるアイテムで更に拡張されていく。
アイテムを1つ入手する事でプレイヤーが出来る事はもちろん、行く事ができる場所も拡張されるのだ。
「このアイテムであれば、あそこにも行く事ができる!」といったようなパラダイムシフトが引き起こされて世界の見え方も変わるのである。

なお、この他にも「ストーリー」の項で説明した通り子供と大人に変化する。
つまり、子供状態と大人状態でも行えるアクションやフィールド自体にも変化が表れるため、1度で2回美味しい体験にも繋がっている事も記載しておきたい。
このような主人公の行えるアクションに変化を取り入れる仕組みは後作にも影響を及ぼしている要素にもなっている。

ミニゲームまでも充実

様々な要素によってハイラルと言う世界の密度を高めている本作であるが、ミニゲームまでもが充実している。
射的、釣り、流鏑馬などなどの多くのサブコンテンツが用意されており、それらもしっかりと遊びとして成立するものとして作られているためハイラル世界を更に満喫できる要素になっている。

他にも収集系のやり込み要素である「黄金のスタルチュラ」というものもある。
これは簡単に書けば、各地の夜にだけ現れる特殊な黄金のスタルチュラを倒せば倒すほどにリワードが貰えるものになっている。
こちらは立体的なフィールド更に細かく探索する要素として機能させている。

サブコンテンツという枠組みとは少し異なるが、空きビンを所持していれば水中にいる魚や草や石の下に隠れている虫を捕まえられたりできるのも地味ながら楽しい要素だ。
このような部分も少年心を掴むような要素としてポジティブなポイントとしても良いだろう。

 

グラフィック

フル3Dで描かれた魅力的な広いフィールド

ゼルダOTは基本的にフル3Dで描画されている作品となっている。
フィールドでは昼と夜がリアルタイムに切り替わり、ハイラル平原と言う中央にある広いフィールドが各地のハブのような役割を持っている。
ロケーションも湖や山地、砂漠など多岐にわたり、世界を冒険している感を演出してくれている。
フィールドはエリアに区切られているため、各所には切り替え場所が設置されているが、その切り替え場所では奥に行くにしたがって道幅を狭くして遠近感を与える工夫をして世界が狭く感じないようにしている。
なお、街にあるような家の屋内などの一部はプリレンダ3Dによって描画しているケースが多い。

キャラクターのリアクションもしっかりと作られている。
例えばリンクの待機モーションは環境に応じて変化したりするなどの細かな作り込みがされているのだ。
もっと地味なポイントで言えば足場の高さに合わせて足の接地が変化する細かな作り込みもされている。

3D特有の異質な空間を生み出した森の神殿

フィールドやダンジョンでは3Dをしっかりと活かした奥行や高低差が表現されている。
3Dならではの映像表現を取り入れたダンジョンとしては森の神殿を述べても良いだろう。
上図は森の神殿の一部のエリアなのだが、空間全体が捻じれている表現がされている。
上下左右・奥行きといった要素以外にもこのような表現も積極的に取り入れているのが特徴的だと言えるだろう。

こだわりの看板斬り

インタラクションとしての側面もあるが、看板にもこだわりが感じられる。
この看板はリンクが横に斬れば横に、縦に斬れば縦に、斜めに斬れば斜めに切断されるようになっているのだ。
更に切った看板は近くの水場に着水すれば、慣性ですぅーっと浮かびながら移動する。
このようにプレイヤーの行った行動に応じたリアクションが行われるため、世界の厚みを表現に寄与していると言えるだろう。

 

サウンド

ゼルダOTの楽曲に関しても後のゼルダシリーズに大きな影響を与えたものが多く、様々なアレンジで使用されるケースが多い。
特に「ゼルダの子守歌」「時の歌」はシリーズを通してのアイコニックな楽曲となっている。
逆に本作ではゼルダの伝説シリーズのメインテーマが使用されていなかったりもする。
ついでに筆者がお気に入りの楽曲の一部を紹介させて欲しい。

爽やかな「ハイラル平原メインテーマ」

後のシリーズでもアイコニックな「ゼルダの子守歌」「時の歌」

不気味な雰囲気もある「嵐の歌」

荒野の決闘を思わせるようなカッコいい「ゲルドの谷

なお、炎の神殿のBGMはサンプリング元の題材に問題があったことから後期ROMからは変更されているようで、リメイクやリマスターなどの移植されたタイトルでは変更されたBGMが収録されている。

BGMは現代でいう所のインタラクティブミュージック的な運用もされておりハイラル平原や戦闘BGMなどはシーンやプレイヤーの状態に応じて変化が伴うようになっている。

オカリナでの演奏

本作ではオカリナの演奏が行えるのだが、特定の入力で音程の上げ下げなどが行えるという細かな要素もある。
本来は不要であるハズの実装だが、こういった遊び心をしっかりと提供しているのは本作の品質の高さを感じさせる1つのポイントとなっているだろう。

 

総評

ゼルダの伝説 時のオカリナは現代の全ての3Dタイトルに影響を与えていると言っても決して過言ではない特異点的傑作だ。

物理・科学・カメラ制御・サウンド制御・レベルデザインなど3Dゲームの黎明期とは考えられない程に細部まで作り上げられた質と量によって同時代の作品としての傑出度は比肩するものがない次元である。
また、ストーリーにしても、ゲームプレイにしても少年心を鷲掴みにしてくれる内容に仕上がっている事も素晴らしい。

本作は現代の全ての3Dゲームのスタンダードであり後世に多大な影響を及ぼした。
それは、今でも違和感なく遊べるという事からも確認できる事実である。

 

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