【レビュー】ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス

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黄昏の姫君

ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス(以下、TP)はゼルダの伝説 時のオカリナ以降の3Dゼルダファンにとって待望の作品であった。
今でこそ正当に評価できるのだが、当時はゼルダの伝説 風のタクトの強めのスタイライズされたビジュアルスタイルの方向性が受け入れられなかった時代で、TPのリアリスティック路線の絵柄は非常に嬉しかった。
世間どころか世界全体としても同様だったようで、外人4コマで有名なIGNの画像もオチに相当する画像は本作の発表を事前に伝えられていたものに起因している。現在はミームとしても広まっているためご存知の方も多い事だろう。
実際に公に発表したのはメディア向け時代の2004年のE3で、その模様は伝説的な盛り上がりだったと言って過言は無いだろう。
それらの反応のどれもが「時のオカリナ路線のゼルダの伝説への回帰」に対しての歓喜だったと感じている。
筆者としても「カッコいいリンク」が返ってきた事が非常に嬉しかったし、その上で今作は狼にまで変身可能との事で歓喜は最高潮だった。

なお、今回はWiiUにて発売されたゼルダの伝説 トワイライトプリンセスHDをベースにレビューを行っていく。

 

ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス HD - Wii U

ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス HD - Wii U

  • 発売日:2016/03/10
  • メディア:Video Game
 
ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス - Wii

ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス - Wii

  • 発売日:2006/12/02
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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謎の少女ミドナを中心に動く物語

本作も「選ばれし勇者リンクがハイラル世界を救う」という大筋に違いはない。
主人公であるリンクは牧畜農業が盛んな田舎町トアル村で暮らす青年だ。
そんなある日、人間などの生き物が魂や魔物へと変貌してしまう現象「影の領域トワイライト」が発生し、リンクもその領域に取り残される。
トライフォースに選ばれた人物であるリンクは狼へと姿が変化してしまい、そのまま気を失ってしまう。
そんな中で謎の怪しい少女ミドナと出会い、トワイライトと化したハイラル全土を取り戻すためのリンクの冒険が始まる。

ストーリードリブンな作品群ではないゼルダの伝説シリーズではあるが、魅力的なキャラクターは多かった。それは本作も同様だ。
特にヒロインのポジションと言えるミドナは魅力的だ。
ミドナは「時のオカリナ」から続くナビィ的なポジションのアドバイスをするキャラクターであるが、口調は非常に生意気で個性が強く、しかしその奥底には他者への思いやりも存在しており可愛らしい。
また、少々ネタバレとなってしまうが、その真の姿の大人びた容姿は生意気な印象とのギャップあり更に魅力的だ。
物語はミドナを中心に描いており、序盤の行動や言動こそ自分中心に動く事が多いのだが、リンクやゼルダとの出会いによって徐々に心優しい一面が顔を覗かせる。
その他、ミドナ以外にも魅力的なキャラクターは多い。
度胸と根性がある頼れる女性テルマやロリータ衣装と極度の虫好きのアゲハなども魅力的で記憶に残る事だろう。
また、敵側のキャラクター性も個性的だ。
敵ながらリンクの実力を認めるキングブルブリン、非常にクセの強い言動が多いザント、悪役として大物の風格を漂わせるガノンドロフなどは印象的だ。

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黄昏の不気味さ、力の在り方

本作のストーリーのテーマとしては「復讐」や「力の在り方」について問うような内容が多くなっており、それを表現するためかホラーテイストも強めだ。
黄昏(トワイライト)という雰囲気もそのホラーテイストの空気感を強めている。

動物との関わるシーンが多いのも特徴的で、リンクは狼へと変身できるほか、馬や鷹を扱ったり、犬や猫を抱いたりする事ができる。狼状態であれば動物との会話が可能であったりもする。
メインストーリーでは動物の姿をした土地神のような存在から加護を受ける事にもなるなど、歴代でもとにかく動物たちとのインタラクトが多めだ。

とは言え、ストーリーをメインコンテンツとしてデザインしていない事もあり、細かい部分の説得力には欠けるところはある。
本作に考証しても納得できるだけの重厚で緻密なストーリーを求めるのは少々違う事は認識しておいた方が良いだろう。

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時のオカリナ”からの引用の多さはファンには嬉しい

TPは「時のオカリナ」にて分岐した世界線の中の「ムジュラの仮面」などを経た、いわゆる子供リンク世界線の世界となっている。
それを強く意識しているためか、本作では「時のオカリナ」「ムジュラの仮面」を彷彿とさせる要素が点在するのはファンとしてニヤリと出来るポイントだ。

また、シリーズの繋がりを考察する事が好きなゼルダファンにも嬉しい要素は存在する。
最も大きな考察ポイントは本作の中心となる種族「影の一族」だろう。
強力な魔力を有する彼らが封じられた影の世界は「時のオカリナ」にて分岐したゼルダシリーズ全ての世界線に存在する世界であると解釈できるため興味深い題材かも知れない。

 

システム

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時のオカリナ路線の到達点

TPの3Dアクションは時のオカリナから続く3Dゼルダ路線の到達点ともいえる内容だ。
操作する事になるリンクは少々小回りが利かない操作感なのは気になるが、プラットフォームアクションのゲームと言う訳では無いため大きなマイナスとなる事は無いだろう。
戦闘ではシリーズ同様に剣や弓矢などを駆使したアクションはもちろん、ロックオンする事で敵との距離感などを視認しやすくするカメラワークへと遷移する代名詞とも言えた注目システム、戦闘を軽快な展開作りにする「横っ飛び」や「バック宙返り」などは健在だ。
フィールド上に生えている草を刈ったり、看板を切ったりできるなどのゲームプレイとして意味がある訳では無いが、確かな手応えを感じさせる遊び心ある剣を使ったインタラクションも健在である点も嬉しい所だろう。

本作で拡張されたアクション要素も存在する。
例えば、上図のような馬上で剣を振って戦う騎馬戦が増えている。
また、探索によって増えていく特殊な「奥義」というアクションも追加されている。
奥義は習得して使いこなすことが出来れば敵を倒す際にかなり強力な選択肢となるため、取得しておいて損はないだろう。
その上、奥義を取得する際には「時のオカリナ」「ムジュラの仮面」のプレイヤーにとってご褒美ともいえるシーンもある。

ここまで書くと要素が多く感じられシリーズ初心者にとってはついていけるのか不安になるかも知れないが、チュートリアルもしっかりと導入されているので安心して大丈夫だ。
メインのストーリーを追う事がチュートリアルとして機能しているため、テキストだけで説明されたり、いきなり本番になるような事も無く、操作をしながら段階的にステップアップしていくようにデザインされている。

フィールド「ハイラル平原」は「時のオカリナ」と同様に各種街やダンジョンのハブとなる構造でかなり広大になっている点も特筆しておきたいポイントだ。
リンクで走り回り抜けようと思うとかなり時間がかかるが、狼や馬で駆け回るには十分な広さだ。広いハイラル平原は狼や馬で走り回るだけでも爽快感があり魅力がある。
もちろんファストトラベルのような機能もあるため、毎回広大なフィールドを走り回る必要は無い。

また、本作はGCWiiのいわゆる縦マルチで販売されたゲームで、モーションコントロールにも対応している。

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狼となって駆け回るのは爽快だ

既に何度も記載してしまっているが本作の特徴はリンクが狼に…いわゆるウルフリンクへと変身するという事だ。
狼化したリンクは戦闘の汎用性には欠けるところがあるが、比較的運動性能が高く操作していて気持ちの良いものとなっている。
また、動物的な直感を働かせる「センス」によって目では見えないものを視覚化して感じ取ったりといったアクションが行えるほか、動物とも会話ができるようになるユニークな能力も備えている。

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アイテム1つで起きるパラダイムシフト

フィールドやダンジョンは「時のオカリナ」から続く3Dである事を駆使した構造となっており、360°を全て見渡して探索する事が重要だ。
ダンジョンは1つのコンセプトを多角的に広げるようにして構築されている謎解きが主体となっているほか、燭台に火を灯したり、箱を動かして乗り場にしたりといった伝統的な謎解きも多くある。
謎解きは視線誘導や大切な要素が死角にならないように細かな配慮が見て取れる。
過去シリーズと同様で一度間違った捉え方をしてしまうとドツボにはまって進行できなくなってしまうが、そこまで理不尽な謎解きや操作を要求している事はないため冷静になって考え直すと良いだろう。

時のオカリナ」からの伝統ではあるが、アイテムを入手する事でフィールドの見え方が一変するパラダイムシフトは素晴らしい体験だ。
アイテムを1つ入手するだけで「あれが出来る」「あそこにも行ける」とそれまでになかった世界の見え方になり、視野が一気に広がるのだ。

プレイフィールに悪影響があるものではないのだが、設計上として気になる点があるとすれば消費アイテムの扱われ方だ。
ダンジョンに必要となる消費アイテムは、そのダンジョン内の宝箱に用意されている。
ユーザーフレンドリーを考えれば故ではあるのだが、ショップの存在意義、ひいてはゲーム内通貨ルピーの存在意義を揺るがしてしまう要素になってしまっている。
本作固有の設計上の問題点ではないのだが、どうするべきかは悩ましい所なのだろう。

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様々なサブ要素がやり込み心をくすぐってくれる

釣りや虫取りなどなど寄り道の要素も豊富だ。
釣り方に腰が入っていないのは違和感があるが、ついついプレイしてしまうようなものも多い。
釣った魚や捕った虫はコレクションとして見返す事ができ、コンプリートを目指す寄り道も良いだろう。

 

リマスター

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HD版の追加要素

WiiUにて発売されたHDリマスター版では「獣の試練」というものが追加され、ウルフリンクamiiboと連携させる事が可能になっている。
この試練で連携されたウルフリンクamiiboは「ゼルダの伝説 Breath of the Wild」にて使用する事で強めなウルフリンクを召喚する事ができる特典が付く。

フィールド上やダンジョン内ではMiiverseにて使用可能なハンコを入手できる探索要素が追加されている。
なお、Miiverse自体はサービスを終了しているため注意だ。
そのため、今からプレイする場合には単純なコレクションアイテムとしては獲得していく形となるだろう。

また、アイテムの切り替えなどがWiiU Game Padを使用する事でメニューを開かずに行える利便性もある。

 

グラフィック

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広大で不気味な空気感もあるフィールド

全体的にフォトリアルとスタイライズの中間的なデザインで、「時のオカリナ」路線のビジュアルスタイルだ。
全体的な色調はタイトルの通りのトワイライトを想起されるオレンジ色が多く、郷愁感のような切なさや不気味さを醸し出しているホラーテイストも特徴だ。
また、陰の領域と言われるトワイライト化した世界では雲の流れが速く、不気味さを増長させている。

水に濡れるとリンクが全体的に暗めの色調になり濡れた感じを演出したり、敵を全滅させた際に納刀すると専用モーションでかっこよく決める。
強風の時には腕で視界を隠すように風を防ぐようにするなどなど細かい部分も作り込まれており手応えに繋がっている。

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城下町はかなり賑わっている

全ての住人にインタラクト出来る訳では無いが、ハイラルで最も栄えている城下町で描画している人の多さは驚異的だ。

GCWiiのタイトルとしてはオブジェクトが数多く、また小ネタが仕込まれている場合もある。細かく作られているためじっくり観察して世界に浸るのも面白い。

 

サウンド

音楽も非常に魅力的で映像表現と同様にどこか不気味でありながらも切ない本作のテーマに沿った”黄昏時”を思わせるような楽曲が揃っている。
作中には「時のオカリナ」や「ムジュラの仮面」が出典のアレンジ楽曲が多く存在しファンにとって非常にエモーショナルな演出だ。
楽曲の使い方も昼夜のフィールド曲や戦闘曲にシームレスに変化するなどのインタラクティブミュージック的なものが本作でも採用されている

荘厳な雄々しさを感じさせる「ハイラル平原」

妖しさの中に郷愁感を覚える「ミドナのテーマ」

ピアノの旋律が切なく悲しい「傷だらけのミドナ

森で歌を教えてくれた妖精の子と同じニオイがする「森の聖域」

西部劇のようなカッコよさを表現した「忘れられた里」

SEのどこか不気味で不思議な印象を覚えるものが多く記憶に残りやすい
ボイスは時のオカリナ系列と同様に基本的にはリアクションボイスだけだが、可愛らしくも生意気なミドナのボイスは魅力的で、本作の旅にずっと付き添ってくれる相手としては最高だ。

 

総評

ゼルダの伝説 トワイライトプリンセスは3Dゲームのスタンダードを築き上げた伝説的な”時のオカリナ”の系譜の到達点となった作品だ。

魅力的なキャラクター達と不気味な雰囲気のある世界観、様々なやり込み要素も豊富で遊びの幅も広がっている。
ストーリーやダンジョン、BGMなどでのファンサービスもふんだんだ。
本作固有の革新性には乏しいかも知れないが、丹念に磨き上げられた品質によって突出したものとなっている。
クラシックタイプの3Dゼルダとして真っ先にオススメしたい一作だ。

 

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