【レビュー】ファイアーエムブレム 封印の剣

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人の可能性を信じる

ファイアーエムブレム 封印の剣(以降、FE封印の剣)は筆者が初めて知ったファイアーエムブレム(以降、FE)シリーズタイトルだ。
理由は単純で大乱闘スマッシュブラザーズDXにて登場したロイがきっかけでファイアーエムブレムという作品に興味を持ったのだ。恐らく当時はそのような人も多かったのではないかと思う。

今回はゲームボーイアドバンス(以降、GBA)というハードで発売されたFE三部作の最初の一作となったFE封印の剣をレビューしていきたい。

なお、今回はWiiUバーチャルコンソール版でプレイした際のスクリーンショットとなる。GBA版との違いは無いとは思っているが、念のため留意されたい。

 

 

ストーリー

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ロイを中心として展開していくストーリー

FE封印の剣のストーリーは人と竜が存亡をかけて争った「人竜戦役」から約1000年が経過したエレブ大陸を舞台とする。
平和な日々が続いていたが、突如として「ベルン王国」がエレブ統一のために侵略戦争を行い始める。
主人公であるロイは領主達の同盟で成り立っている「リキア同盟」に参加するフェレ候エリウッドの嫡男で、病床のエリウッドの代行としてベルン王国に対抗していく。
なぜベルン王国が侵略を始めたのかなど含め、各国の情勢が進行とともに徐々に語られ、理解できるようになっている。

FEシリーズでは「幼馴染ヒロイン」や「赤緑騎士」「キルソード持ち剣士」「ペガサス三姉妹」などシリーズの”お約束”とも言える人物構成になる事は度々あるが、本作ではそのような伝統的な設定が特に色濃く意識されている。
そのためFE封印の剣はFEシリーズの「紋章の謎」のリブートにも近い作品になっているのは特徴的と言えるだろう。

主人公であるロイはFEシリーズの中でも特に若い設定になっている点も特徴だ。
これは比較的若年層が多いGBAと言うハードでリリースされたことが大きな要因では無いだろうか。
そんなロイだが、前漢の劉邦のような人物像で描かれる事が多いFEシリーズの主人公達の中にあって、物語では若さを感じさせない後漢の劉秀のような聡明なリーダーとして描かれているのは本作が持つ魅力の1つになっている。
ロイ以外が死んでも物語が進行すると言う本作のシステム上の都合が関係してか、他シリーズであれば軍師ポジションのキャラクターが助言をしたりする場面であっても、そういった役割を全てロイが担っている。
決断を行うリーダーでありながら、聡明な軍師のような役割もこなし、常に正道を突き進むロイの姿は先頭に立つ者として理想的な存在として映るだろう。

その他の関連する部分も紹介したい。
シリーズではお馴染みの要素だが、フィールドマップには民家などのエリアが設定されている。民家を訪ねる事でアイテムが入手できることがあるほか、世界観や世界情勢の設定を聴くことが出来るため、本編だけではわからない部分を補完する役割も担っている。攻略という側面以外にも、より深く世界観を知りたいという場合には積極的に訪問すると良いだろう。

セーブデータを開始すると章の冒頭から開始されるため、今がどういう状況なのかを復習しやすくなっている。
前回のプレイから時間が空いてしまった…なんて時にも、少なくとも現在の情勢は把握できる事だろう。
もちろん。これらの説明や会話はワンボタンでスキップが行えるため、煩わしくなる事もない。

また、本作のユニークな試みとしてメディアミックスのような展開が成されていた点もここで挙げておきたい。
本作は「FE覇者の剣」というFE封印の剣の外伝的作品がマンガとしてリリースされており、ゲームとマンガとでコラボレーションがされているのだ。
マンガである覇者の剣でもロイ達が登場し、FE封印の剣においては覇者の剣の登場人物であるアルやガント、ティーナの名を冠した武器が手に入る。
メディアミックス自体が徐々に増えていた時代であり、FEシリーズとしても珍しい試みでもあり、非常にユニークなポイントだ。

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最終盤でのロイとゼフィールのやり取りは必見だ

本作において最も見応えのある会話がなされるのは最終盤においてのベルン王国の国王ゼフィールとロイのやり取りだろう。
このやり取りは本作で最も観るべきポイントだ。

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キャラクター同士の関係性を補完する「支援会話

本作以前に存在した「支援効果」という要素が、本作ではキャラクター同士の関係性を描く「支援会話」というシステムとして導入され、キャラクター間の表現が強化されている。
支援会話ではキャラクター間の関係性やキャラクターの掘り下げを表現しており、本編だけではわからないキャラクターの生い立ちや立場、各国の文化などを知ることができ、世界観に厚みをもたらしている。
その他、支援を発生させたキャラクター同士が近くにいると、両者の能力値にバフが発生するようにもなっているため、キャラクターの仲が深まるだけでなく攻略にも役立つシステムである。
この支援会話システムは後作にも引き継がれていくFEシリーズの代名詞の1つとも言うべきものとなっている。

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より良くできるように思えるポイント

基本的には丁寧に作られている一方で、もっと良く出来たのではないかと思えるポイントもいくつか存在する。

1点目はチュートリアルだ。
本作には専用のチュートリアルモードが存在し、その内容はオスティアに留学していたというロイの設定が活かされたものになっている。
しかし、このチュートリアルで残念なのはストーリーの本編中に用意されているのではなく、タイトル画面にある「エクストラ」を選択した際に表示される項目であると言う点だ。
これではせっかく用意されているチュートリアルも存在自体に気が付きにくい。
チュートリアルの内容は作品の設定を活かしているため、そのまま本編自体に組み込んでしまって良かったのではないだろうか。

2点目はロイ以外のキャラクターの本編での存在感だろう。
本作は前述している通りロイ以外が死亡しても進行可能になっており、物語の進行はロイが中心となっている。
そのため、物語中では主人公ロイが全編を通じて非常に聡明に描かれる一方で、それ以外の味方キャラクターは支援会話を除いてしまうと登場する章をまたいで活躍する場がほとんど無いのは寂しい所だ。
「劉秀が非常に聡明であったために、優秀な部下たちが目立ちにくかった」とは諸葛亮による劉秀の評だが、このFE封印の剣のロイとそれ以外のキャラクターも正にそのような関係となってしまっている。
容量などリソース面の問題もあったのかも知れないが、キャラクターが生存していた場合に追加セリフが発生させるなど、もっと物語全体に様々なキャラクターが関与すれば更に良くなったに違いない。

 

システム

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難しすぎず、簡単すぎないSRPG

FE封印の剣SRPGタイトルであり、基本的に過去のFEシリーズを踏襲した要素で構成されている。
キャラクターをユニットとして扱い、ユニットを将棋のような形で操作して盤面を有利に進めていくのが基本的なゲームプレイだ。
全体として戦闘可能なマップ数は限られており、敵の数や出現場所などがランダムになる事も無いため詰将棋のような側面もあるにはあるが、ユニットは戦闘する事でレベルアップしていき、使い込んでいけば自然と強くなっていくRPG的要素も特徴だ。
レベルアップにしても能力値の成長率の傾向は設定されているもののランダムであり、思いがけないキャラクターが大きく成長する可能性を秘めている。
それによりプレイヤー毎に、またはプレイ毎に使い込むユニットに変化が生まれるようになっており、クリア後などに友人たちと「○○がめちゃくちゃ成長して凄い頼りになった」と話のタネになるナラティブがFEシリーズが持つ魅力的な部分と言えるだろう。

聖戦の系譜」より登場した剣・槍・斧の”三竦み”も健在だ。
三竦みにおいて有利な相性で戦いを挑めば、攻撃の命中率や回避率に有利な補正がかかるため、敵ユニットの装備武器を確認して有利ユニットを仕向けて対応するのがベターだ。
とは言え、本作では全体的には剣士が非常に強力な印象だ。
剣と言う武器自体が命中率が良いという側面もあるのだが、剣士がクラスチェンジによってソードマスターとなるとクリティカルヒットのようなものに相当する”必殺”を高確率で発動するのがその要因だろう。
高めの命中から必殺を連発するため、攻略においては非常に頼りになる存在となる。

マップ上には特定条件で仲間になるユニットが登場する事も多い。
これらの仲間になるユニットは仲間になるためのヒントになる会話や関係するユニットが示唆される事が多いが、初見プレイでは仲間にするのは難しい場合も多いだろう。

また、特定条件を満たしていれば外伝マップに行くことが出来る。
こちらも事前にセリフで示唆される場合もあるが、外伝進出に失敗したタイミングでそれらしいセリフが発生して外伝の存在を知るケースもある。
そのため初見では条件を達成するのは難しいケースもあるだろう。プレイには工夫が必要だ。
なお、本作のストーリーで真エンディングを迎えるためには全ての外伝に進出する事は必須条件となっている点は注意されたい。
この外伝マップは本編マップと比較するとマップ自体にギミックが設定されている事が特徴的だが、それによって難易度が大きく変わるという事は余りない。

本作におけるマップ攻略の全体の難易度は難しすぎず、簡単すぎないSRPGとして丁度良いバランスと言えるだろう。
全体的な傾向として回避主体と言う"運"に任せた立ち回りが必要になるマップがあるのは賛否がでる可能性はあるが、三竦みや「ストーリー」の項で記載したキャラクター同士の支援などのシステムを活かす事で、偶然を必然に変えて攻略するように設計されていると捉える事はできる。
レベルアップを含めて、システムを理解さえしていれば攻略するのは問題ないハズだ。

ゲームをクリアすると得点として高難易度のトライアルマップが解禁される。
トライアルマップはクリアデータを使用して挑む事になるため、本編中にキャラクターをいかに強力に育成できるかも重要となる。
このトライアルマップは本編のクリア回数に応じて敵ユニットとしてのみ登場したキャラクターなどの特殊なキャラクターをユニットとして使用する事が可能になる。

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主人公のクラスチェンジが遅すぎるのは考えものだ

本作のゲームバランスにおいて最も困った事になるのは主人公であるロイのクラスチェンジするのが遅すぎる事だ。

端的な説明となるが、各キャラクターは特定のアイテムを使用する事でクラスチェンジが可能で、クラスチェンジを行うとより強くなる。
普通の仲間キャラクターであれば宝箱などに入っているクラスチェンジ用アイテムでクラスチェンジが可能となるが、主人公ロイの場合にはストーリーを進行させないとクラスチェンジが行えない。
しかし、そのクラスチェンジが最終盤なのは勿体ないポイントだ。
ストーリー上では魅力的に描かれるロイだが、クラスチェンジによって能力が強化された状態をたくさん堪能できない。
それどころか、最終盤までクラスチェンジ前の状態で出撃しなくてはならないため、ロイが強く成長できなかった場合にはお荷物になりかねない。
物語の展開として仕方がない面があるとは言え、中盤で1回目のクラスチェンジ、最終盤で2回目のクラスチェンジと言った具合に、ロイのみクラスチェンジを複数段階にするなど配慮が欲しかった所だ。

 

グラフィック

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軽快に、そして躍動感のある戦闘アニメーション

SRPGの本作であるが、戦闘のドットアニメーションは躍動感があり非常に優れている。
攻撃がヒットした際にはヒットストップの演出もされるため、さながらアクションゲームのような爽快感も感じさせてくれる。
特に上図の封印の剣や神将器(フォルブレイズなど)による攻撃モーションは非常に派手でカッコいい。
これらの戦闘アニメーションは設定によりスキップも可能なため、サクサクと進めたい場合にはOFFにしてしまうのが良いだろう。

マップ上のマップチップはSRPGとしては標準的で、視認性と機能性を重視したものとなっている。

 

サウンド

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クリア後に解放されるサウンドルーム

FE封印の剣は全体的に明るい調子の音楽になっている。
それは特に自軍関連のものがその傾向が強い。これも若年層をターゲットとしている事が主な要因となっているだろう。
筆者が特に気に入っている楽曲をいくつか紹介したい。

自軍フェイズに流れる「あの空の向こうに(ロイの旅立ち)」

希望に満ち溢れた曲調が終盤に流れる事で感動を感じる自軍フェイズ曲「新たなる光の下へ(ロイの勇気)」

自軍優勢時に流れる「Winning Road(ロイの希望)」

コミカルで可愛らしい「キャス」

これらのBGMはストーリーをクリアする事で解放される「サウンドルーム」というものでいつでも聴く事が出来るようになるため、ゲーム音楽ファンにはありがたい要素だ。

 

総評

ファイアーエムブレム 封印の剣はストーリーと難易度が共にバランス良くまとめ上げられた素晴らしい作品だ。

SRPG初心者であっても比較的遊びやすいだけでなく、支援会話という要素によって起用すればするほどにキャラクターに愛着がわきやすい構造も構築されている。
また、ストーリーで大活躍し、クラスチェンジがとにかく遅い主人公ロイは本作において終始目立つ存在であると言えるだろう。

 

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