【レビュー】ロックマンエグゼ

バトルオペレーション、セット!!

ロックマンエグゼGBAのローンチタイトルの1つとして発売された作品である。
その独特なシステムはやり込みとしても、対戦としても盛り上がり一定の根強いファンがいるシリーズ作品となっている。
かくいう筆者もロックマンエグゼシリーズがド直撃の世代であり、GBA作品の中でも特にお気に入りのシリーズとなっている。

そんな作品がリマスターされる事がアナウンスされたのは2022年の6月だ。
更に発表後となるTGS2022ではオンライン通信機能の制作が決定するなど非常に嬉しいニュースもあったのだ。

今回はほとんど当時ぶりのプレイではあるがロックマンエグゼのレビューを書いていきたい。

 

バトルネットワーク ロックマンエグゼ

バトルネットワーク ロックマンエグゼ

  • 発売日:2001/3/21
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

当時の時代性を考慮に入れたストーリー

ロックマンエグゼはパーソナルターミナル(PET)という携帯型端末に入った疑似人格型ナビゲーションプログラム(通称ナビ)というAIのような存在と共存している近未来の世界が舞台だ。
ナビはネット上での電子マネーでの買い物をサポートしたりといった広範な操作支援をしてくれるほか、ネットワーク上にうろつくウィルスの対抗手段としても利用されているという世界観である。
そんな時代の中でWWW(ワールドスリー)というネット犯罪組織がウィルスを作成してネットワークを介しての大小様々な犯罪を行っていた。
主人公である光 熱斗とそのナビであるロックマンの周囲にも犯行を行うようになり、それを解決していく事で徐々にWWWの牙城へと近付いていく事になるのが本作の大まかなストーリーだ。
地に足のついた物語というよりは、全体的に子供向けにわかりやすさとテンポを重視しているため、重厚で陰謀渦巻くようなストーリーではない。

本作のストーリーで印象的なのは時代性を取り入れつつ、その一歩先を描いたような内容になっている点だ。
当時は携帯電話がまだいわゆる”ガラケー”の時代であったが、携帯端末が全世界的に普及して、高速通信も徐々に広まっていった時代背景がある。
また、裏インターネットというアンダーグラウンドな存在も作中には登場しており、その存在もまた子供達に「悪い世界への一歩」のような「ダメだけど興味がそそられる」という部分を刺激してくれる設定だ。
当時の時代背景としてもアンダーグラウンドな側面の強かった「2ch」などが登場していたため、ある種の説得力のある設定に受け取りやすい土壌が既にであったと言えるだろう。
また先進的とも言えるのは「ナビ」という存在で、端末内にいるナビはユーザーのサポートを行って電子メールのやり取りやWeb上での買い物などをしてくれる。
現代で言うところのSiriなどにも通ずる部分があるが、当時に想像された近未来に現代が追いついてきているのも興味深い。

絶妙に頼りにならないロックマン

本作ではロックマンといつでも会話が可能で、今がどういう進行状況なのかがある程度はわかるようになっている。
これ自体はモダンな作りであり詰み防止の機能のように感じられるが、その内容はほとんどヒントになっていないため、物語を次に進めるには何をすれば良いのかがわからない事は少なくない。
例えば、「○○(人名)を探そう」とロックマンは言ってくれるのだが、実際には別の人物と話す事で物語が進行したりするのだ。
せめて「○○(人名)がどこにいるのか聞いて回ろう」といったようなある程度はしっかりと物語進行のヒントになる内容が文章内には含まれているべきだろう。
その他にも1ミリも物語の進行(人や場所)に関する情報を喋ってくれないようなケースもあるため、もしもプレイ期間が空くなどで前回の内容を忘れてしまっていたとしたらリカバリーするのは大変だ。

 

システム

ユニークかつ練られた戦闘システム

ロックマンエグゼは6x3のグリッド状のマスを移動して戦うアクションにカードゲーム的な要素を加えた今なお斬新なARPGとなっている。
戦闘ではロックマンを操作して敵に攻撃を与えたり、攻撃を回避する「戦闘パート」と攻撃や回復と言った効果を発揮するチップを選択する「カスタムパート」の2つで構成されている。

チップは攻撃や回復が行える戦闘中のスキルのようなもので、敵からドロップするものを入手する事で自分のデッキをアップデートしていくようなプレイスタイルが基本となる。
ロックマンは通常でもバスターによる攻撃が行えるが、DPSで考えればチップによる攻撃の方が圧倒的に効率が良い。
また、特定の条件を満たす事で一度に複数のチップを選択できるため、威力の高いチップをいかにして高い回転率で回すかがデッキ構築の上で非常に大切だ。

では、どのようにチップの回転率を上げるのかであるが、その方法は2種類存在する。
条件の1つは「同じ種類のチップ」となる。
同じチップであれば一度に何枚も選択して戦闘に持ち込みが可能になる。
例えば、上図にキャノンのチップが大量に並んでいる画像があると思うが、同じキャノンのチップであれば戦闘中のカスタムパート中に一緒に何枚も選択する事が可能である。
ただし、同じチップをデッキに入れられる数は上限設定されているため、全て同じチップで構成する事はできない点は注意が必要だ。
もう1つの条件は「同じコードのチップ」だ。
チップにはアルファベットのコードが付与されており、これが同じコードの場合には例え異なる種類のチップであっても複数枚を一気に使用できる仕様となっている。
そのため、オーソドックスで理想的なデッキ構成は同じ種類のチップをなるべく多く入れつつ、異なる種類のチップであっても可能な限りコードが統一されているように考えるのが望ましい。
それを考慮した上でのデッキ構築に頭を悩ませるのも非常に楽しい作業となるだろう。

チップにはアルファベットのコードが設定されていると説明したが、この要素は更にこだわりを深める要素になっている。
チップは敵を倒す事でドロップされる訳だが、なんとコードはいくらかの種類からランダムに決定される仕様となっている。
「現状のデッキから考えると、このコードのチップが望ましい…」という事は少なくないため敵に何度も挑んで、何度も倒す動機付けを与える事が出来ているのだ。
敵と戦う理由が極力減らないように工夫されているだけでなく、しっかりと戦力へとフィードバックもされるという一挙両得の素晴らしいデザインとなっている。

更にチップには特定の組み合わせで発動する「プログラムアドバンス」という仕掛けも用意されている。
これはやや隠し要素にも近いのだが、条件が成立するようにチップ選択を行う事で発動するものとなっている。
プログラムアドバンスを発動する事で例えば一定時間無敵状態でキャノンが撃ち放題になったりと様々な効果がある。
これを狙ったデッキ構築をするのも1つの手となるだろう。

デザインの狙いどころは素晴らしいが、至らない部分も散見される

大枠としてのデザインには素晴らしいものがあるのだが、全体のバランスは歪な部分が多い。

本作は前述している通り敵を倒してデッキをアップデートし、更に強い敵を倒して更にデッキを強くすると言うプレイサイクルとなる。
しかし、敵がチップをドロップする確率がお世辞にも高いとは言えないのは勿体ないと言わざるを得ない。
戦闘における討伐スコアとなるバスティングレベルが高ランクになったとしてもチップが確実に入手できると言う訳でもない。
体感ベースで申し訳ないが、敵からチップがドロップする確率は高く見積もっても30%程度ではないかと感じられるくらいだ。
そのため、手札のチップをより強いものにアップデートしようと思うとそこそこの時間がかかってしまう。
この辺りはバランスの問題であるため調整は難しい所だが、現状のバランスではデッキのシナジーどころか、単純な火力を求めたデッキ構築をするだけでもハードルが少し高いものになってしまっている。
GBAカセットの容量的に総プレイ時間を延ばしにくいという点から、このようなバランスにしている可能性もあるが、本作のようなバランスではデッキ構築の楽しさを体験して貰いにくく本末転倒となっている可能性がある。

可能な限り効率的なデッキ構築を組んだとしても戦闘開始時のカスタムパートで手札のチップが余りにもバラバラだった場合にデッキのチップ回転率を上げにくいのも困りものだ。
本作には「ADD」という機能によって次回のカスタムパート移行時にオープンされる手札の数を追加で5枚増やせる仕組みがある。
しかし、5枚追加されるのは「次回のみ」であり永続ではない。
そのため、初期手札として引いたバラバラのチップ達が手札を圧迫し続けてしまうのだ。
初期手札の重要性の比重がやや高い戦闘デザインになってしまっているが、この仕様は次作では改善されている。

戦闘自体のバランスにも問題がある。
端的に書くならば敵の攻撃が陰湿すぎるのだ。
敵の攻撃頻度や攻撃の発生が早いという点もあるのだが、それだけではない。
多くの敵が「フィールドに設置」あるいは「判定の持続が長い」という特性の攻撃を行って来るうえに、それを複数の敵が行ってくるため”追い込み漁”をされるケースが多い。
そのため、こちらのデッキ内のチップの火力が低いなどの原因で戦闘が長期戦化すると、上述した通り発生が早めで持続の長い攻撃により追い込み漁をされ、戦局を打開するのが非常に困難な状況に追いやられる事も珍しくないのである。
チップのアップデートが大変である事も重なり、敵への対処が苦労するバランスになっているのはレベルデザインとして問題がある。

 

グラフィック

クォータービューによる現代的な街並み

ロックマンエグゼはそう遠くない近未来を描いているため現代的な街並みが特徴的だ。
ドット絵ベースながらもどこか現実味のある世界観であると感じやすいものとなっているだろう。
また、ロックマンを介してネットワーク世界も描かれている。
こちらは侵入したサーバーによって雰囲気などの特色がわかれており、それがキャラクターの個性を表現する1つの手段としても機能している。
どちらもクォータービューで描かれており、トップビューやサイドビューと比べると立体感がありリッチな表現になっているのもポジティブな要素だ。

 

サウンド

ロックマンエグゼを語る上で印象的な楽曲の数々も外す事はできない。
シリーズのメインテーマともなる「THEME OF ROCKMAN EXE」はイントロから非常にカッコいいため印象に残る人は多いハズだ。
また、敵ナビとの戦闘BGM「ネットバトル」も威圧的なベースのイントロがカッコいい。

 

総評

ロックマンエグゼはシステム面における大枠のデザインには素晴らしい光明を感じさせる一作だ。
しかし、敵エネミーのレベルデザインやチップの排出率といったバランスの面での歪さが感じられる素材型の良作と言えるだろう。

ストーリーは子供向けアニメのようなやや説得力に欠ける強引な進行が目立つものの根本の作風自体がその路線であるため、そこまで気になるものにはならないハズだ。

 

外部記事

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