【レビュー】シャドウハーツ

運命の輪が回る時、闇に葬られたもうひとつの歴史が動き出す。

シャドウハーツは旧スクウェアのスタッフが設立したサクノスが開発、アルゼ(現:ユニバーサルエンターテインメント)が販売したPS2向けRPGである。

筆者はシャドウハーツⅡをプレイした後に1をプレイしたポロロッカ勢で、2の内容が非常に気に入っていたために1も気になりプレイしたという経緯である。

PS2を代表する隠れた名作と言っても良いかも知れないシャドウハーツのレビューを今回は行いたい。

 

シャドウハーツ PlayStation 2 the Best

シャドウハーツ PlayStation 2 the Best

  • 発売日:2003/11/6
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

大戦直前の時代を描くダークローファンタジー

シャドウハーツ第一次世界大戦直前を舞台とした物語となっており、実在の人物・土地も登場するものとなっている。
しかし、純粋な歴史をなぞるような作品ではなく、魔術や魔物が裏で暗躍しているといったようなダークローファンタジーな内容になっているのが特徴だ。

主人公であるウルはアリスと言う女性を保護して欲しいという謎の声を聴き、とある理由から満州の列車に乗っていたアリスに接触する。
しかし、ロジャー・ベーコンを名乗る老人が先んじて列車を襲撃しており、アリスを誘拐されそうになっていた。アリスの不可思議な力によって辛くも列車から脱出。
ウルに語り掛けてくる声はなんなのか、なぜアリスが狙われているか、そして悪魔のような姿へと変身するウルとは何者なのかが物語に関わるキーとなってくる。
また、本作は今は見えない遠い過去の記憶にある父親の背中を追う物語でもあり、家族との繋がりを描いている部分も見逃せないテーマだ。

物語は動乱の世界で、画面の構成も暗く、なおかつグロテスクさやホラー的な演出も多いため全体の雰囲気が暗いものになっている。
しかし、物語自体も暗いのかというとそんな事はなく、主人公が良い意味でアホ(坂田銀時のようなキャラクター性)であるため全体のバランスを整えているのが良いアクセントになっていると言えるだろう。
粗暴な主人公ウルがアリスと出会う事で不器用ながら大切なものを見つけて変化していく事も本作の見所となっている。

本作は本作だけでも楽しめる作品として成立しているが、一応は同じサクノスの開発した「クーデルカ(1999年発売)」と同じ世界・時間軸となっている。
とは言え、ストーリー上でクーデルカでの内容が大きく絡む事はないので、本作だけでもストーリーを理解する上では問題はない。

物語進行の上で気になる点があるとすればゲーム進行のおさらいが出来ない点だろう。
昔のゲームには少なくなかったが、あらすじや次に行く場所がマッピングされているような事が無いため、物語の展開を忘れてしまったりすると次にどこに行けば良いのかがわからずに困ってしまう可能性は捨てきれない。

物語の内容面において気になるのは仲間キャラクターの存在感かも知れない。
主役となるウルとアリスを除いた仲間キャラクターは登場からしばらくの期間は活躍の場があるが、後半になってくると影が薄くなりがちだ。
特に後半はウルとアリスを中心とした物語になっていくため蚊帳の外に近い。
もう少し活躍の場が継続して用意されていると嬉しい所だ。

こだわりを感じるユニークなテキスト

シャドウハーツにおいてユニークなのは選択肢も単純な「はい/いいえ」ではない点だ。
もちろん、「はい/いいえ」の場所がない事はないが、多くの選択肢が固有のテキストで表現されておりこだわりが感じられるものになっているのも本作の印象を特徴付けている。

その他、アイテムなどのテキストも個性的であったり、連れているパーティーメンバーによる会話差分もあったりなどテキストでの演出には力が入っていると感じさせられる。

キャラクターなどの設定を参照できる図鑑

モンスターやNPCの図鑑も用意されている。
本作では中国の四神や三尸、タロットの4つのスート、インド哲学を絡ませた思想が散見されるため、そのような部分に興味を持つきっかけにもなり得るだろう。

 

システム

ここではシステム面に関しての記載を行うが、シャドウハーツにおける全体の難易度に関してまず記載しておきたい。
本作はしっかりとクリアまでのレベル期待値がしっかりとデザインされており、エンカウントした敵と素直に戦っていけば、ある程度は適切な難易度で挑戦できるようなエンカウント率となっている。
また、エンカウント率自体もそれほど高いという訳ではないためダンジョン攻略におけるダンジョン探索が煩わしく感じる事もそう多くはないだろう。
ランダムであるため振れ幅はあるかと思うが、しっかりと攻略のバランスが考えられており好印象な作りである。

 

ジャッジメントリング

ルーレットを目押しするユニークな戦闘

シャドウハーツの戦闘システムの特徴は「ジャッジメントリング」と言われるルーレットを目押しして行動するちょっとしたアクション要素があるのが点だ。
このジャッジメントリングは外してしまうと攻撃自体が行えなくなったりするなどデメリットが大きいが、逆に外れギリギリの位置に設定されている大成功ゾーンにヒットできれば普段よりも大きなダメージに期待できる。
ジャッジメントリングの大成功、成功、失敗はリスクとリターンがしっかりと釣り合うように配置されているのも良いバランスとなっている。
なお、このジャッジメントリングのシステムは様々な場面で使用する。
時にはイベント進行の際に、またある時には店の商品をディスカウントして購入する時などだ。

また、ジャッジメントリングを活かした状態異常もあるのも素晴らしい。
ルーレットの針が早く回るようになったり、ルーレット自体が小さくなり視認性を下げたりなど本作のシステムであるからこそのユニークな状態異常が用意されているのだ。
1つのシステムを様々な角度から使うのは本作を大きく印象付ける要素として機能していると言えるだろう。

ジャッジメントリング以外の本作固有の要素としてはSP(サニティポイント)がある。
SPはキャラクターが行動順が来るたびに1つ減少し、0になってしまうと暴走状態になりキャラクターが操作不能となってしまう。
そのため、HPとMP以外でのマネージメントが必要な要素だ。
SPが0になった後も-1、-2とどんどん悪化していってしまうためSPが枯渇し始めたら暴走状態となる前にアイテムを使用してSPの回復も必要になってくる。

システム面の注意点としては本作ではチュートリアルらしいものは挿入されないという事である。
複雑に絡み合ったような要素はないものの、ちゃんと確認しておきたいのであれば事前に説明書に目を通しておくのが良いだろう。

 

フュージョン

悪魔へと変身

フュージョンは本作の特徴的なシステムの1つだ。
フュージョンとは主人公ウルのみが行使できる能力で、戦闘中に悪魔や魔物に変身して自身を強化することが出来る。
基本的にはフュージョンする事で基礎ステータスが上昇し、特技もフュージョンした悪魔に対応した属性のものが使用可能になる。
ただし、フュージョンを行うにはSPの消費が必須であるため、フュージョンを複数回切り替えたりすると暴走状態になりやすくなってしまうので計画性を持って行うのが大切である。

このフュージョンは特定の条件を満たす事でフュージョン可能な悪魔が増えていく。
フュージョン可能な悪魔を増やすには敵を倒す事で溜まる属性値によってフュージョン可能な悪魔が増やす事が可能になる。
特にフュージョン解放に必要な属性値はそれなりに必要なため、序盤のうちから解放しようと思うと敵をそれなりに倒していく必要がある。
そのため、ザコ敵を倒すモチベーションを与える要素とも言えるだろう。

フュージョンした悪魔には属性以外にもそれぞれ「物理攻撃が強い」「魔法攻撃が強い」などの個性が設定されている。
場面に合わせたフュージョンを行うのが好ましいが、やはり強さには格差があり特にザコ敵相手には闇属性、ボス敵相手なら炎属性の悪魔へのフュージョンが選択肢に上がりやすい。
せっかく属性値を溜めて解放した新しいフュージョンもベンチ要因化してしまうのは勿体ない。

 

グラフィック

プリレンダのカットシーンには物足りなさがある

シャドウハーツはキャラクターは3Dモデルによる描画、背景はプリレンダという構成だ。
キャラクターの3Dモデルは当時の水準からしてもやや物足りない印象である。
特にカットシーンのキャラクターモデルやアニメーションは良いものとは言い難い部分がある。
とは言え、根本的にカットシーン自体が少ないためそこまでデメリットが浮き彫りとなるような事はないだろう。

大きなマイナス要素にはならないが、映像演出面で一番勿体ないのは戦闘中のカメラワークに関してである。
戦闘中のカメラワークはキャラクターの使用する技に応じてカメラワークが固定になっているようなのだ。
これによって何が起きるのかというと、敵のサイズが巨体であった場合には敵が画面に映り切らない事態になってしまう。
演出の意味合いとして敵のサイズなどに応じてカメラワークも可変になるように調整して欲しかった所だ。

 

サウンド

戦闘曲では不気味なコーラスが本作の魔術・呪術的な世界観を演出しているのが特徴的である。
ダークファンタジーであるという事で不安を煽るようなBGMになっている。
また、戦闘でSPが枯渇した際に陥る暴走状態になったキャラクターがいるとアレンジ違いの専用戦闘BGMへと変化する。

ストーリーの極一部のシーンでは怪談話のようなものがボイス付きで差し込まれており、ある種のADV的な雰囲気もありユニークな演出だ。

音声面で気になるのは戦闘中のボイスパターンが少ない事だ。
どの技を使っても発せられるボイスが同じになってしまうため何とも言い難い気持ちになってしまう。
技毎に全て違うものでなくとも良いが、せめて数パターンは欲しい所だ。

 

総評

シャドウハーツは個性的なシステムと題材を取り入れたダークローファンタジーだ。

第一次世界大戦直前を描いており、楽曲も含めてその暗い空気感はあるものの主人公の破天荒さによって暗いだけでは終わらない物語が展開されている。
システム面ではジャッジメントリングが非常にユニークで、戦闘以外でも様々なシーンで活用されており、それを活かした状態異常なども他では拝めない体験になっている。

また、地味なポイントかも知れないが普通に進めていけばしっかりと適正な難易度で挑めるようにデザインされており、エンカウント率もそう高くないためストレスに感じにくいバランスでまとまっている点も好印象な作品である。

 

外部記事

『シャドウハーツ』コンポーザー インタビュー. 2007-09-01 | by Ongaku | Medium