【レビュー】大貝獣物語

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異世界転生で貝の勇者

筆者が大貝獣物語と出会ったきっかけは良く覚えていないのが正直なところだ。
物心ついた時には家にはビデオゲームがあり、ソフトもそれなりにあり、その中の1作として所有していた。
小さい頃には本作の勇者の館システムや音楽が好みでプレイをしていたように記憶している。
しかし、周囲の友達で本作を持っている人は誰もおらず、情報交換しようにも相手がいなかったのも苦めの思い出として印象深い。

今回は大貝獣物語について記載したい。

 

大貝獣物語

大貝獣物語

  • 発売日:1994/12/22
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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幻大陸シェルドラドに召喚される主人公

大貝獣物語のストーリーは近年(2010年代後半)では王道ともなりつつある異世界転生ものの物語となっている。
ストーリーの冒頭では異世界にいる勇者を幻大陸シェルドラドに召喚するのだが、召喚される勇者(主人公)とは恐らくはプレイヤーの事であると言う認識で良いだろう。

物語は幻大陸シェルドラドにて封印されていた悪の大魔王ファットバジャーが覚醒し、それによって宇宙から隕石のようなものの落下が引き起こされ地上に住む人々に多くの被害が発生する。
これ以上の厄災を起こさないためにもファットバジャーを討伐するべく異界から主人公が召喚されるというのが物語の導入だ。

本作では多くの仲間キャラクターが用意されているのだが、特定の仲間を連れている時など条件で専用の会話イベントが発生する事もある。
また、仲間の過去を掘り下げるイベントも用意されているなど、サブストーリー部分もしっかりと用意されている。
ただし、仲間同士の関係性を掘り下げるようなイベントは数える程度しかないのは注意点だ。

プラスやマイナスと言った要素では無いのだが、大魔王を倒すべく異世界から勇者を召喚したり、幻大陸シェルドラドにおける回復アイテムの名称が「カミダノミン」という名前であったりと、シェルドラド文化はどこか他人任せな所があるのは特徴的なのかも知れない。

本作のストーリーにおける気になる事があるとすれば、ストーリーの進行方法がわかりにくい箇所が散見される点だろう。
これは古いゲームにはありがちではあるのだが、何を調べて欲しいのか、何を持ってきて欲しいのか、どこで何をすれば良いのか伝わりにくいケースが散見される。
また、当然ながら「あらすじ」などが用意されている事もないため、次にどこに行けば良いのかを忘れてしまうと致命的な結果になりかねない。
特に行動可能範囲がどんどん広がっていく物語の後半で目的地を忘れてしまうと最も致命的だ。

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二部構成のストーリー

ここでは少々ネタバレを含んだ記載となる事をご了承願いたい。
ネタバレが嫌な方は「システム」の項まで読み飛ばす事をオススメする。

本作の物語は二部構成となっているのが特徴的だ。
第一部は前述の通りファットバジャー編となるのだが、第二部では宇宙から飛来した敵と戦う事になるSF色ある物語が展開される。

第一部は封印されたファットバジャーを倒す事が大目標だ。
第一部の期間中の物語ではファットバジャーを完全復活させるべく生贄を捧げる集団が登場するなど、とにかくファットバジャーがラスボスであるというミスリードを行っている。
そしてファットバジャーを倒すと第二部がスタートする事になる。
第二部ではファットバジャーが宇宙より呼び込んだ隕石が擬態した宇宙船であると判明し、その宇宙船に乗った宇宙生物の侵略からシェルドラドを守る話となる。

ここで注目したいのは2点だ。
1点目はファンタジー色が強かった物語に急激にSF色の強い話が差し込まれるという点だ。
第一部まではどこか東洋テイストのある中世ファンタジーのような世界観しか登場しないのだが、第二部に突入すると急に潜水艦などの機械工学的な世界観が顔を覗かせる。
なによりも、ファンタジー世界の主人公達とSF世界の宇宙生命体との戦いという構図になっているのは今なお珍しい組み合わせだ。
2点目は宇宙より飛来した宇宙生物はファットバジャーによって召喚された存在であるという点だ。
主人公はシェルドラドの民によって異世界より召喚された存在であり、本作のラスボスもまたファットバジャーの求めに応じて宇宙という異世界より召喚された存在なのだ。
本作の構図はお互いが似た役割を与えられた者同士の代理戦争でもあるのは興味深い設定だ。

 

システム

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オーソドックスなガム型バトルシステム

本作のバトルシステムはドラゴンクエストなどに代表されるクラシックでオーソドックスなRPGのシステムだ。
ターン制で進行し、キャラクターの速さの順に行動が行われる。

戦闘では大まかに通常攻撃、魔法、特技が存在している。
MPを消費して発動する魔法は基本的に固定ダメージしか与えられないため、弱点属性の魔法でない限りはダメージソースとして考えると頼りない事も多い印象だ。そのため、攻撃魔法よりも回復魔法にお世話になるのではないだろうか。
特技は通常攻撃の1.5倍の威力でダメージが出せるなど後半でも強力だが、発動のためにHPを消費するものやデバフが発生するものもあり万能と言う訳ではない仕様になっている。
しかし、魔法にしろ特技にしろレベルアップでHPとMPは全回復する仕様であるため、MP消費であったり特技のデメリットはそこまで気にならない。

本作にあるユニークなシステムとしてBTS(バトルトークシステム)と言うものが用意されている。
BTSとは戦闘中に戦闘相手のカーソルで仲間を選択すると発生する短い会話の事で、仲間同士の関係性などを知る事ができる数少ない要素になっている。
BTSを行ったキャラクターの組み合わせによっては能力が上昇するなどの効力がある場合もある。

進行もある程度デザインされているように見える点も悪くない。
特定のキャラクターを仲間にしていない場合に物語が進行しないケースがあるのだが、もしも仲間にしていない場合には以前の街に戻らなければならない事になる。
しかし、その頃のレベルでは「ワープル」と言うファストトラベルの魔法を習得するようになっているため以前の土地に戻るのはそこまで大変にはなっていないのだ。
その他、敵のレベルカーブも急激に変化するような事はなく、キャラクターの成長に応じて、それなりに適度に強くなっていくようになっており、一定の遊びやすさはデザインされている。

本作のバトルにおいて気になるのはエンカウント率の高さだろう。
戦闘はランダムエンカウントなのだが、そのエンカウント率がとにかく高く、数歩も歩けば敵に当たるのは平常運転だ。
エンカウント率の高さが災いして、なかなかフィールドやダンジョンの探索が進まずフラストレーションに繋がりやすい。
では、本作はエンカウント率を下げれば問題解決なのかと言うと、それは臭い物に蓋をしているだけであり本質的な解決方法ではない。
本作の本質的な問題は「バトルが面白くない(デザインがミスマッチしている)」ことなのだ。
ドラゴンクエストフォロワーのようなクラシックなターン制のRPGスタイルでは、プレイの最初の頃こそ成長速度が速く楽しいものに感じられていても、時間が経つと共にキャラクター達の成長速度も遅くなり、成長によって魔法や特技などが出揃ってしまえば全ての戦闘において強力な攻撃を使うだけの単純な消耗戦になりがちである。
その結果、敵の見た目が変わるだけでプレイ内容に変化が生まれず「回数を重ねれば重ねるほど飽きやすい」という噛めば噛むほど味が無くなる「ガム」のような形式になっていることが問題の本質と言える。
つまり、頻繁過ぎるエンカウントは「味が無くなるのを早めている」に過ぎないのだ。
このようなデザインとなった背景として当時は「少ない容量ながらに、いかに長くゲームを遊んで貰うか」という観点があったのかも知れないと推察している。
しかし、面白みの薄い戦闘を高頻度で行って途中で飽きさせてしまっては本末転倒なハズである。
例えば、戦闘自体の楽しさを体験させたいのであればメタ要素やアドリブ性が求めれる要素が絡む戦闘にしたり、高いエンカウント率を採用するのであれば上手く立ち回れば1~2ターンで決着がつく爽快感のあるテンポの良い戦闘にするなど、志向にあったデザインであればまた違った印象になったのではないだろうか。
エンカウント率と戦闘システムがミスマッチしたデザインになっているのは勿体なく思えてしまうポイントだろう。

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序盤からパーティー構成を自由に決められる「すけっと」システム

大貝獣物語において特徴的なシステムに「勇者の館」というものがある。
勇者の館は「最序盤から仲間を選択してパーティーを組める」と言うシステムだ。

パーティーに加える事が出来る仲間はそれぞれ「攻撃力が高い」「回復が豊富」「耐久性が高い」など役割や特徴があるため、パーティーバランスを考慮して選出するのが望ましい。

この勇者の館は序盤から様々な仲間を使うことが出来る事に面白さはあるものの、「早々に1軍と2軍に分かれてしまう」という問題点が生まれてしまっている。
理由は単純で「勇者の館で待機しているメンバーは育たない」ためだ。
2軍と化してしまったメンバーに関しては、レベリングなどはもはややり込み要素の域となってしまい、最前線での起用はなかなか選択しにくい状態になってしまうのが実情だ。
勇者の館で待機しているメンバーも成長してくれたり、かなり近代的だがレベルの低いキャラクターは入手できる経験値に補正が入るようなシステムになっているとキャラクターの豊富さがより活かせたように思える。

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戦闘以外の仲間も存在する

本作では戦闘以外で冒険を手助けしてくれる仲間も存在する。
フィールドで一見取れない宝箱が取れるようになったり、邪魔なオブジェクトを排除したりする事ができる。

冒険を手助けしてくれる仲間は毎回メニューから呼び出す必要があるのはテンポの悪いやや面倒な仕様だ。
また、イベント進行用アイテムを使用する際にも毎回メニューから実行する必要があるのも同様に面倒だ。
必要な場面で決定ボタンをするだけで実行された方が良かったのは間違いないだろう。

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ユニークな街の要素

本作では街の構成にもユニークさがある。

お世話になるユニークな要素は状態異常は宿屋では無く魔法医院という病院のような施設で治す必要がある点だろう。
宿屋で寝れば全ての状態異常が治る訳では無く、医院に行かなければならない。
医院と言う生活感のある施設は世界観を表現するのにも一役買っていると言えるだろう。

街を探索する要素としてスタンプラリーも用意している。
スタンプラリーは街の特定のポイントにスタンプが隠されており、スタンプを集めればアイテムなどを入手する事ができる。
しかし、隠し場所がわかりにく過ぎるものも多いうえ、場所によってはイベントの進行により取り逃すと二度と取れないケースもあるのは少々配慮不足に感じる所だ。
そのため、コンプリートを目指す場合には注意が必要になる。

「わが町」という自分の街を作れるシステムも非常にユニークだ。
とある場所で4区画に自分の好きな施設を配置させる事が可能で、自分好みの施設を建設した小さな町を作る事が出来る要素となっている。

グラフィック

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そこそこ良いグラフィック

大貝獣物語は戦闘画面などで描かれているグラフィックは悪く無いが、フィールドやダンジョンを移動する際のキャラチップやマップチップは少々チープさを覚える完成度だ。
また、戦闘中の特技や魔法のエフェクトは単純な図形で表現されているものも多くややリッチさに欠けるのは少々勿体ない所だろうか。

その他、GUIは全体的にレスポンスがやや悪く、街やダンジョンからフィールドマップに切り替わる際のレスポンスも遅く、フラストレーションになる場合もあるだろう。

 

サウンド

どこか日本の歌謡曲のようでもある古めのアジアンテイストのBGMは印象的だ。
筆者の好きな楽曲を一部紹介したい。

謡曲のような美しいメインテーマ「序曲」

謡曲のようなフィールド曲「幻大陸を行く」

単純接触効果により記憶に残る「街のにぎわい」「のどかな村々」

過酷な登山を見事に表現した「ハードクライム」

敵の企みを思わせる「真の闇せまる」

80~90年代の日本サウンドを感じる戦闘曲「力と技と」

謡曲あるいは古い日本ドラマのBGMのようなボス戦曲「決戦」

緊迫感あるイントロが印象的な「決死の戦い」

威圧感のある曲調が印象的な「試練の戦い」

ラスボス戦に相応しい「ラストバトル」

本作のBGMは今でもなお非常に珍しいメロディを採用しており、独特で特徴的と言えるだろう。

 

総評

大貝獣物語は興味深いストーリー構造を持ったRPGだ。
ファンタジー世界の住人とSF世界の住人の抗争であり、共に召喚された者同士の抗争でもあるという「違うようで同じ、同じようで違う」対比が生み出されている。

バトル部分は単調であり、エンカウント率の高さが飽きを加速させてしまうのは勿体ないが、最序盤から多様な仲間を組み合わせて冒険を進めるようになっているのはユニークさがある。
謡曲のようなBGMも独特で趣があり印象深い。

全体的なバランスは良くまとまっている遊びやすい1作になっていると言えるだろう。