【レビュー】原神

テイワットの星空はあなたのためにある。

原神は中国の大手メーカーmiHoYoが制作のオープンワールドRPGだ。

ゼルダの伝説 Breath of the Wildのフォロワー作品を公言しているが、PV発表当時はPV自体も似せて作り過ぎており中国国内を含めて賛否両論を巻き起こすという少し苦い出だしになってしまったタイトルでもある。
とは言え、ゲーム体験としてはRPGとしての側面が強く意識されているようで、実際にどのような差別化を行っているのかが筆者にとっての非常に興味深い所であった。

 

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ストーリー

様々な文化をベースとした日本アニメライクなストーリー

原神は様々な側面から日本のアニメやゲームから大きな影響を受けている。
ストーリー面では演出や世界観などで日本アニメ映画を観ているような感覚にさせてくれるだろう。

ストーリーの概要は以下の通りだ。
ある時、兄妹で世界を旅しているときに「天理」と呼称されていると思しき謎の神と遭遇する。
その神にいきなり攻撃をしかけられ、兄妹は離れ離れとなってしまう。
離れ離れとなってしまった兄妹の片方と再開するための冒険が本作の冒頭であり目的だ。
そして、物語の進行と共に世界の歴史や謎と関わっていく事となる。

主人公は上述のタイミングで男性にするか、女性にするかを選択する形となる。
これは何かを失って物語が展開されていくというセオリーを用いながら、主人公を選択されるようにデザインされている。
そして冒険の舞台はテイワットという世界だ。
テイワットでは欧州風の都市、中華風の都市、和風の都市など該当のエリア毎に様々なモチーフの文化で構成されており、その文化的なモチーフ(神話や歴史的出来事)がストーリーでも引用されている部分があるのは面白い部分だろう。
更にストーリーが進んでいく毎に世界全体における謎、主に過去存在したカーンルイアとそれを滅ぼした厄災に関する物語が挿入され、それはテイワットに巣くう魔物や敵対勢力の起源にも迫る内容となっている。
これはプレイヤーに重たく語りかける内容である事が多く、テイワットと言う世界の成り立ちをより知りたくなるハズである。

本作はいわゆるガチャによってキャラクターを増やしていけるが、それによってメインストーリーに変化ないし会話差分が発生するような事はない。
ただでさえボリュームがとんでもない領域になっているのは重々承知の上だが、やはりキャラクターがいる事を活かした演出も欲しかったという欲は感じてしまうだろう。

土地、都市、人物などの単語が地域毎の文化に合わせたものになっているため、全体の命名が1つのルールで統一されている訳ではない。
更に神話には多くみられるような同一実物ながら別名が多いというケースも存在する。
設定の作り込み、文化の多様さを感じられるポジティブな要素である反面、統一されていないが故の覚えにくさを感じる可能性は知っておいても良いだろう。

また、ストーリーやサブクエスト/サブミッションなどでは敵の痕跡を追ったり、オブジェクトを見つけたりする必要のあるケースもある。
しかし、視線誘導がお世辞にも上手いとは言えず、どこに行けば目的のものがあるのかがわかりにくい事がままあるだろう。
この辺りにはもう少し工夫が欲しい所だ。

会話シーンでのカメラワークももう少しといった所だ。
カットシーンなどは非常にカッコよく演出されておりクオリティーが高いものの、通常のイベント内での会話シーンのカメラワークはプレイヤーを惹きつける工夫に欠けており、どこか大雑把でイマイチだ。
Ver.4となるフォンテーヌ辺りからはこれらのカメラワークにも進化が見られ、会話の中でもプレイヤーを魅せるようなパンやシームレスなカメラ移行などのカット割り演出がチラホラと登場するようになってきたようだ。

会話シーンにおけるリップシンクも少し気になるところだ。
各国用にマニュアルで調整するのは骨が折れるであろうが、最低限でもまだ実現しやすいであろう再生するべき音声がある限りパクが続くような実装が欲しい。

ダイナミックなメインストーリーの演出

メインのストーリーでは特殊な演出を伴った戦闘もある。
メインストーリーの展開と相俟っているためスケールの大きなものである事が多く、体験として特別に感じられるものになっている。
ただし、クリア後に再挑戦などはできないため少々名残惜しい。

特定のキャラクターにフォーカスするストーリーも

メインのストーリー以外にもサブのクエストによるストーリーももちろん存在する。
サブクエストは膨大にあるだけでなく、アップデートと共に随時追加されている。

また、サブ要素のストーリーでは仲間のキャラクターにフォーカスした伝説任務というものも存在する。
キャラクターの掘り下げがしっかりと行われるのはもちろん、カットシーンを用いたリッチな演出も用意されており見応え抜群だ。

更に期間限定の不定期イベントにおいても同様のカットシーンが付随するストーリーが展開される。
こちらはケースによっては専用のフィールドマップや専用の遊びが用意されている場合もあり、非常に遊び応えのある内容となっているのは素晴らしい。

これらの質と量を維持するのはサービス型のRPGであるからこそ可能であったものだと言えるだろう。

細かな読み物も多い

その他にもキャラクターやモンスターなどの図鑑も用意されており、作中内の書物も読む事が可能だ。
設定をより詳細に確認する事が可能であり、世界観をより深く知ることが出来る要素として用意されている。
ここまで多くのテキストを用意しているのは見事だ。

 

システム

科学的な要素を取り込んだ戦闘

キャラクターには武器種と属性である「元素」が固定で設定されている。
武器の攻撃モーションもキャラクターによって異なるのも地味ながら嬉しいポイントだ。

パーティーは最大4人編成となり、プレイヤーが操作するキャラクターを切り替えながら戦う形式となっている。
そのため編成した4人が同時に戦闘に参加して攻撃するような形ではない。

キャラクターには自身の元素に応じた専用技「元素スキル」や必殺技に相当する非常に強力な「元素爆発」が存在する。
元素スキルや元素爆発を使用する事で、攻撃や回復などがキャラクターに応じた効果が発動する事に加えて、相手に”炎”や”雷”といった元素状態を付着できる。
そして、何かしらの元素が付与している状態で別の元素を付着されると「元素反応」と言われる追加効果が発生してダメージやデバフなどが生まれる仕組みだ。
この辺りは簡単に言えば科学的な要素を戦闘に落とし込んでいるもので、炎と水で”蒸発”、水と雷で”感電”といったようなものになっている。
元素反応の種類によって効果が異なるため、元素の組み合わせ駆使したパーティー編成および戦闘中に操作するキャラクターをコロコロと切り替えて戦うデザインとなっている。

どのキャラクターも見事に個性が設定されており、高レアリティ・低レアリティという差はあるものの単純な上位互換になってしまうようなキャラクターにならないように実装されている。
そのため、遊ぶコンテンツを絞らなければ様々なキャラクターが実用的に差別化できているのは見事なバランスだ。
キャラクターの個性は純粋に敵と戦い火力でダメージを稼ぐアタッカータイプ、直接戦わずとも元素反応を発生させやすい状況を生み出すサブアタッカータイプ、相手からのダメージを防ぐシールドタイプ、継続的な戦闘を安定しやすくするヒーラータイプなどの大まかなロールで分類が可能である。
そのため、それらの特性を加味したパーティー編成をするのが効率的だ。
これらの「元素」と「ロール」といった2軸のシナジーを考慮してパーティー構成を考える楽しさがあり、もしも”推し”と言えるキャラクターがいるのであればそのキャラクターの特徴を最大限に活かすような構成を考えると良いだろう。
なお、キャラクターに関しては無課金でも各種属性、各ロールのキャラクターが入手可能になっているので安心して大丈夫だ。

様々なキャラクターに独特な個性があるためパーティー編成を含めたビルドを考えるのは楽しいのだが、そのキャラクターを最前線で使おうとすると育成コストが高めであるのは良い点でもあり、悪い点でもあるだろう。
キャラクター強化のためには色々な要素があるのだが、多くのキャラクターのビルドに手を出そうとすると明らかにリソースが足りないのだ。
要求されるリソースは敵を倒すなどして得られる素材であり、1人のキャラクターに要求される素材数も現実的な範囲内ではあるため「あれも欲しい。これも欲しい。」というプレイを続けたくなる飢餓感を生み出す原動力とも成り得る。
しかし、それも手元のキャラクター数が増えていってしまうと使いきれずにベンチ要因となってしまうキャラクターを生み出す温床とも成り得るものである。

ゼルダBotWフォロワーらしい滑空と崖登り

フィールドはオープンワールドとなっており、ゼルダBotWのように崖を自由に登ったり、空中を滑空できる。
空中の滑空した際の挙動には慣性が適用されないため、少し困惑する部分はあるかも知れない。

フィールド上にはワープポイントが点在しており、アクセスする事でファストトラベル可能な場所として解禁される。
純粋なファストトラベルポイント以外にも「秘境」と言われる場所も存在する。
こちらもファストトラベルポイントとして機能するが、それ以外にも敵を倒して強化素材などのアイテムを入手する簡単なダンジョンとしての役割も担っている。
これらの構成もゼルダBotWを参考にしていると思われる要素だ。

GUIは煩雑

キャラクターには天賦という育成要素のほか、武器や聖遺物というものを装備させる事が可能だ。

武器はおおよそ想像の通りであるので割愛するが、天賦はキャラクター固有の通常攻撃や元素スキル、元素爆発といった能力を向上させるものとなっている。
聖遺物はアクセサリー枠のようなものでこちらでもステータスなどに大きな補正をかけられる。
聖遺物に関しては前述の秘境などで入手が可能で、ステータスアップ効果などがランダムになる部分があるためエンドコンテンツ的な側面が強いものにもなっている。

これらは強化を行って効果を高める事が可能で、キャラクターの性能を最大限に引き出すために必要だ。
しかし、これらを強化するためのシーケンスは煩雑かつ画面のGUIがわかりにくい。
また、スキルや武器や聖遺物の効果も文章が長めな傾向があり、ゲーム初心者などシステムを把握するのが苦手なプレイヤーは面を喰らう事になるだろう。

 

ミニゲーム

料理や釣りも

料理や釣りといったミニゲーム的な要素も多く収録されている。
料理に関してはミニゲームという程でもないが、釣りに関してはしっかりとミニゲームらしいものとなっている。

他にも”七星召喚”というカードゲームも存在する。
こちらは遊戯王やMagic: The GatheringなどのようなTCGで、カードデッキを作成してプレイするような最も規模の大きなミニゲームと言って差し支えないだろう。
ルールはTCGらしい要素がしっかりと入りつつも、比較的短い時間で決着が付くようにも配慮されている。
また、本作ならではの元素を用いた元素反応を駆使する事にもなるため、それを考慮したデッキ構築も魅力的だ。
カードは端的に書くとNPCを倒す事で入手する事ができるので、デッキのアップグレードを行うために戦っていくのも良いだろう。

ミニゲームはいくつか用意されており、アップデートによって追加されるケースも少なくない。
これらは世界を奥深くさせる生活感のある演出としても機能するが、ちょっとした息抜きにもなる要素だ。

 

塵歌壺

UGC的な要素も

塵歌壺は自分好みの家や家具などのオブジェクトを配置していく事ができる空間だ。
オブジェクトを素材を消費して生産し好きに配置が可能で、ガチャで引いているキャラクターも配置できる。
配置可能なキャラクター数の上限は低いので、推しを優先的に置く事となるだろう。

自分好みの配置でこだわりの空間作りが楽しめるという要素まで作り込んでいるのは驚異的だ。
しかし、作成した土地の面積に対して配置できるキャラクター数が少なく、作り込んで作成したとしても閑散とした印象となってしまうのは勿体ない。
キャラクターの配置上限を上げたり、モブNPCを配置できるようにするなどの何かしらの施策が欲しい所だ。

 

祈願

祈願はいわゆるガチャである

祈願はいわゆるガチャでキャラクターや武器を入手できる本作のマネタイズ部分となっている。
特定のキャラクター・武器をピックアップ外で入手する事は実質的に不可能であるため、好きなキャラクターが登場したなら可能な範囲で頑張る必要があると考えた方が良い。

また、いわゆる”天井”も設けられている。
本作の天井の仕様はユーザーフレンドリーな面もあり、引いた回数が次回以降のピックアップでも引継ぎがあるのだ。
つまり、30回ガチャを行って最高レアリティが引けなかった場合には、シーズンが切り替わりピックアップキャラクター・武器が変更されたとしても30回引いた状態が継続される。
そのため天井まではいつか必ず到達する仕組みとなっているのだ。

プレイアブルなキャラクターがガチャで増えていくのは嬉しいが、キャラクターが増えても使い切れない状況になってしまうのは勿体ない。
育成コストが高い事もあるが、それ以上に活躍させる場が探索・戦闘以外にないためだ。
普段使いしていないようなメンバーにも何かしらの活躍が行えるようなデザインが欲しい所だ。

 

グラフィック

鮮やかなアニメ調のアートスタイル

色彩豊かなフィールドは非常に美しい。
特に欧州、中華、和などの各国のテイストを感じさせる街並みは素晴らしい。
フィールド上に生えている草木は燃えたりするが、テクスチャーなどが変化するだけで全ての草木がなくなることはない。

スタイライズドなアニメ調のキャラクターも魅力が満載だ。
3Dモデル自体のデザインが優れている事はもちろん、待機モーションや攻撃モーションなどもしっかりと個別に作り込んでいるのも個性が感じられ嬉しい気持ちにさせてくれる。
ただし、ボーンを再利用させるためキャラクターの基本体格が5パターン程に固定されているほか、歩行・走行などの汎用アクションに関しても共通の汎用モーションになっている。
水辺に飛び込む際には専用モーションに切り替わって水中に飛び込んだり、斜面を歩く際には傾斜に応じてキャラクターの視線も変化したり、シチュエーションに応じてモーションが変化するのは細かなこだわりが感じられる。
しかし、こちらも汎用モーションである。
全て固有にするのは大変だろうが、せめて各体格にモーションが「活発」や「大人しい」などの数パターンで差別化されているとキャラクターの個性がより感じられて嬉しい所だ。

また、フォトモードも用意されている。
しかし、余り自由にシチュエーションを設定して撮影する事はできないためカッコいい攻撃モーションなど撮影するには不向きだ。
獲得済みのキャラクターを配置出来たり、ポーズの種類が豊富であると嬉しい所だ。

 

サウンド

エリアに応じた楽曲がシームレスに流れるインタラクティブミュージックが主体だ。
エリアのテーマに合わせた中華風のBGMや和風なBGMの数々は印象的だが、何よりも音楽面においても日本アニメからの影響を感じさせるメロディが多いように感じられる。
各楽曲の使用方法もとても良く、各章で舞台となる地域のメインテーマ的なメロディーをアレンジを変えて様々に使い分けて記憶に残りやすいものにしている。

タイトル画面の幻想的で印象的なテーマ「夢のアリア」

中華風の強くも優雅な素晴らしい戦闘曲「烈火の如く」「激流の如く」「凛々しい遊侠」

和風の武人の勇ましさが感じられる戦闘曲「斬霧破竹」「逃れられぬ陣」「空を翔ける不羈」「追奔逐北」

和の稲妻BGM「羈留の客」などをアレンジしつつ絶大な威圧感を感じさせる曲「雷霆のご威光」「稲光神鳴」

スメール編をクリアする頃には自然と涙が溢れるオリエンタルな楽曲「いつかの知恵、いつかの願い」

安らかなメロディーが印象的な「軽やかなさざ波のリズム」「滄波の追想

バイオリンとトランペットの華麗な旋律による戦闘曲「嘆きと凱旋」

なお、サウンドトラックは公式にYouTube上で公開されている。

SE関連ではキャラクター毎に足音もしっかりと違いが表現されている点も良いポイントだ。
キャラクターによっては身に着けている装飾品が鳴る音も歩行・走行時に挿入されている。

ボイス関連ではキャラクター毎の信条や生い立ち、好き嫌い、関係性などについてを自身で語るような形式のコンテンツが用意されている。
非常にボリュームがあり、読み応え/聴きごたえがあるうえ、キャラクターの解像度を上げる事にも役立つものになっている。

楽器を鳴らせる

ハープなどの楽器を奏でられる要素もある。
特になにかリワードがあるという訳ではないが、こちらもミニゲーム的に楽しむ事が可能だ。

 

総評

原神はアニメ調オープンワールドRPGとして新たな時代を築いたタイトルだ。

全体としてゼルダの伝説 Breath of the Wildからの影響を受けており、そこからRPG要素とソーシャルゲーム要素を強めた内容となっている。
演出面や街並み、キャラクターなど全般的にとても良く作り込まれているだけでなく、細かなミニゲームなどで横の厚みも持たせている点は驚異的だ。

戦闘に関してはキャラクターをコロコロと切り替えながらシナジーによるコンボを狙っていくようなものとなっており、仲間との共闘感という意味ではやや欠ける部分があるが編成の組み合わせを含むビルドを考える楽しさがある。

縦にも横にも質と量を兼ね備えた偉大なRPGだ。

 

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