ファイアーエムブレム無双 風花雪月(以下、FE無双 風花雪月)はファイアーエムブレム 風花雪月(以下、本編)を題材とした無双シリーズタイトルである。
以前にもファイアーエムブレム無双が販売されているほか、本編自体もコーエーテクモゲームスが開発に携わっているため、比較的自然な流れの開発経緯を持つものの、発表時は風花雪月が無双として登場する事に驚きが感じられた。
また、コラボの無双シリーズでは登場キャラクターが少なくなる傾向もあったため、FE無双 風花雪月ではどのようになるのかが心配でもあった。
ストーリー
まずはFE風花雪月の世界設定について触れておく。
風花雪月は3つの国、アドラステア帝国、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟によって構成される地域フォドラを舞台とする。
そして、このフォドラの中央には全体に信徒を持つセイロス教の総本山ガルグ=マク大修道院が存在する。
ガルグ=マク大修道院では三国の士官候補生を教育する士官学校としても機能しており、フォドラの文化的な面において非常に重要な役割を担っている。
というのが前提となる。
本作の主人公は傭兵のシェズだ。
ある日、ジェラルト傭兵団の敵陣営として交戦を行ったが、”灰色の悪魔”と言われる相手に出会い敗北。自分の所属する傭兵団が壊滅してしまう。
その後、偶然にもガルグ=マク大修道院の士官学校の生徒を助ける事になり、そこからシェズも学生となり共同で活動を行っていくことに。
しかし、すぐに会戦となりフォドラの三国が争う状態になっていく。
まず、筆者が本作を語る上で伝えたいのは「FE風花雪月のファンに向けて作られているタイトルである」という事だ。
本作は本編と異なり、すぐに戦争状態へと突入する。
そのため、世界について知る期間やキャラクターの葛藤などの人間ドラマを描ける部分が少なくなってしまっている。
つまり、初見のプレイヤーにとって「キャラクターを覚える間もなく、どんどん話が進んでいってしまう」という懸念がある作りなのだ。
更に気を付けるべきは、本編では終盤に解き明かされるような謎が最初のオープニングムービーから登場してしまうなど、本編で体験できた楽しさが違う形で奪われる可能性が高い事だろう。
このような状況では本作から本編をプレイしようと思っていた逆輸入型プレイヤーにとっては本編で興味深い謎として機能する部分が一瞬にして解決してしまう事になる。
本作でも同様の扱いを行い、類似の体験が本作に用意されているのであればこのようなネタバレ的な行為をしても問題ないと思えるが、オープニングなどでアッサリと(ほぼ知ってる前提)で開示されてしまうのでは本編で本来体験できた楽しさに水を差す結果になりかねない。
もしも、本編であるファイアーエムブレム 風花雪月を未履修で、なおかつ本編の楽しさを余すことなく味わいたいと思っているのであれば、本作からプレイする事はオススメできない。
本編未履修プレイヤーにオススメする事はできないが、履修済みのプレイヤーにはもちろんオススメだ。
まず、本編では謎の多かった”闇に蠢く者”へのフォーカス具合が少しだけ上がっている。
完全にわかるものではないが、それでも本編の補完の意味合いとしては一定の役割を果たしているだろう。
また、本編に登場した三国三学級の全キャラクターがプレイアブルとなっている点も嬉しい。
コラボ系の無双シリーズの場合、工数の関係からか絞り込んで実装されるケースも少なくないなか、全員が登場してくれたのは嬉しいサプライズだ。
これも風花雪月自体をコーエーテクモゲームスが開発していたが故なのかも知れない。
更に本編では仲間にならなかったようなキャラクターや名前だけ登場したキャラクターもしっかりと出て来るのもファンとして嬉しい要素だ。
特に本作では親世代のキャラクター達が数多く登場するため、新しい発見もあるハズである。
細かな部分では、進行状況などに応じた会話差分もしっかりと用意されている芸の細かさも相変わらずなので、そちらも楽しめる事だろう。
本編ではキャラクターとの会話を楽しむ「お茶会」があったが、本作でも同様の要素となる「遠乗り」が用意されている。
遠乗りは各種セリフが全てボイス付きになっているほか、内容に関してもキャラクターの考えや過去についての話になっており充実している。
また、同様の会話になった際には受け答えの選択が過去に正解あるいは間違いの選択を選択済みだと表示されるようになっており親切にもなっている。
支援会話もしっかりと存在するが、各支援レベルごとに会話が設定されている訳ではない。
また、内容に関しても他愛のない会話である事が多く、それ自体が悪いとは言わないが、本編に多かったような仲間キャラクター同士の支援会話の節々から感じさせる世界情勢や親族の関係性などのバックボーンを匂わせる事は薄めになっている状態だ。
そのため、キャラクター自身の設定、キャラクター同士の関係性、キャラクターに関係する人物との関係性はある程度知っている前提で展開されているように感じられる。
この辺りも本編での面白さを本作で体験しようと考えているプレイヤーにとっては注意すべき部分である。
支援会話で少し残念に感じる部分としては学級間での支援レベルや支援会話が顕著に少ない事だろう。
他学級ながら縁のありそうなキャラクターであっても最高支援レベルがCとなっているケースは多い。
本編では見られなかった組み合わせの支援会話に期待している場合には少し期待外れとなる可能性はある。
支援会話を行うための支援レベルを上げるには一緒に戦闘に参加するのはもちろんだが、本編同様に食事や訓練などを行ってあげる事も可能だ。
こちらも特定の組み合わせで行うと専用会話が設定されているので見つけるのも良いだろう。
システム
FE無双はRTSのように仲間に指示を出して別行動をさせている間に自分が目標を完遂するようなプレイとなる。
また、仲間キャラクターに操作を切り替える事も可能であり、目標完了後に移動指示を出しておいた別キャラクターに操作を切り替えればスムーズに攻略を行う事が出来るデザインになっている。
なによりもFE無双 風花雪月では風花雪月のキャラクター達でお馴染みの無双アクションを楽しむことが出来るのはファンにとって嬉しい事だ。
また、難易度設定もあるので気になる場合には難易度を下げてしまうと良い。
FE無双やゼルダ無双では既にお馴染みの要素も本作に引き継がれている。
特に名前が表示されるような敵将クラスは時折表示されるゲージを削って「アーマーブレイク」の状態にする事は重要だ。
アーマーブレイク状態の相手に使える必殺の一撃は敵を倒し切れてしまうほどの大ダメージを与える事が可能であり、またとても広い攻撃範囲も持つため敵がアーマーブレイク状態になった場合には可能な限り多くの敵(特に敵将クラス)を巻き込むと効率的だ。
しかし、この要素が本作の駆け引きに寄与しているかというとやや欠けるところはある。
ゼルダ無双などでは疑似的なターン制が成立するようにデザインがされていたが、本作では能動的にゲージを出現させる手段がやや多めに用意されている。
つまり、HPとゲージがほとんど同じ意味合いになってしまっており、余り意味を成していないのだ。
過去シリーズを踏襲すること自体は問題ないが、それは作品のコンセプトやシステムにマッチしているかに依存する。
戦闘では「○○を制圧せよ」といったようなタスクが用意され、戦闘クリアのために達成するべき小目標とも言うべき要素が次々と提示されていく。
しかし、戦闘の開始前に選択できる「作戦」によってはタスクに変化を及ぼし、結果が変化するような事もある。
場合によっては仲間として敵を引き抜く事もあるため、殺したくない場合にはそのような作戦を選択する事をオススメする。
FE無双 風花雪月では本編のようにキャラクターに自由に兵種を設定していく事が可能だ。
兵種に応じて使用可能な武器が設定されており、アクションが異なる。
アクションの扱いやすさにはムラがあり、基本的には剣士系の兵種がスピードや攻撃範囲の面で上質であり、斧系の兵種はモーションスピードが遅くやや難しい印象だ。
モーションスピードが遅い場合には攻撃範囲を優遇するなど、もう少し調整があっても良かったように感じられる。
兵種を使い込んでいく事でスキルや戦技、魔法が習得できるようにもなっている。
スキルに関しては適正さえあれば兵種を変更しても装備する事が可能で、運用する兵種に合わせたスキルのカスタマイズが楽しめる。
戦技や魔法は本編にも登場したものばかりで、それを実際に使用した無双アクションが可能だ。
とは言え、汎用的で有用なスキルと言うのは少なめであり、様々な兵種を育ててスキルを入手していくという旨味が薄いという少し勿体ない側面がある。
最上位職であれば比較的汎用的なスキルが設定されているのだが、中級や上級と言った中継的な職では専門的なスキルが設定されているケースが多く兵種を育てるモチベーションになりにくい。
この辺りは全体的に様々な兵種で応用可能なスキルをもう少し用意して欲しい所だった。
操作するボタンが多すぎるのは少し気になる所だ。
戦技を発動させるためにはRボタンを押しながらXやYボタンを、仲間を副官にするにはLボタンを押しながら…などとにかく煩雑だ。
全てを駆使しなければクリアできないといったものではないが、もう少し各要素のアクセス性を直感的にわかりやすく出来なかったものだろうか。
また、登場キャラクター自体は多いが、同時に出撃できる数が少ないケースが多い。
そのため、数人を重点的に育成する事になるなど、キャラクターの多さが活かし切れない状況になりがちだ。
単純に戦闘参加人数を増やしてしまうとゲームプレイ自体が簡単になってしまうかも知れないが、例えば制圧した拠点が常に敵から攻撃され続けるような状況にして攻城用・防衛用にそれぞれ多くの人員が必要になるようにするなどして可能な限り1度に投入できるキャラクターを増やして欲しかった。
グラフィック
グラフィク面は本編とほぼ同等か、僅かに良くなっているような程度だ。
物語の展開自体が異なるため、多くのキャラクターが本編とは異なる髪型などになっているのも新鮮味があって嬉しい。
気になる点としては戦場となるフィールドはパターンが少ない事だろうか。
大きめなフィールドの一部を区切って活用する事で別のシチュエーションでも違和感を抑えながら使えるように工夫しているが、それでもやはり「あれ?この戦闘でもこの戦場なんだ?」と感じる部分は少なくない。
費用対効果はイマイチだろうが、リッチさを感じさせるにはやはりもう少しパターンがあると良かったように思う。
ロード画面のキャラクターは本編同様に動かす事が可能だ。
細かな部分に遊び心があるのはプレイヤーにとって嬉しいものだろう。
サウンド
本編で起用された印象的な音楽の数々が無双らしいアレンジが成されている。
物語とマッチするような重厚感の感じられた本編と比較すると、少々騒がしいが別の形での楽曲が聴けるのは悪くないと言えるだろう。
総評
ファイアーエムブレム無双 風花雪月は「風花雪月ファンのための外伝」だ。
あくまでもファン向けであり、初見プレイヤーが本作で風花雪月の本来の面白さを余すことなく体験できるものにはなっていない。
そればかりか本来得られたハズの楽しさも失ってしまう可能性が高い事は注意すべきポイントである。
本編で登場したキャラクターが一堂に会するばかりか、名前だけ登場したキャラクターもしっかり出て来るなどファンにとっては嬉しい要素は多い。
無双アクションの面にしても本編で印象的だった戦技や魔法の数々を使えたりするのも面白い。
物語や登場キャラクターなど本編の補完の側面が強いものとなっているため、風花雪月ファンであれば間違いなく楽しいものになるだろう。
外部記事
『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』開発者インタビュー。3社のキーマンたちが語る、新たなフォドラの歴史。原作プレイヤーの体験を無駄にしない配慮とは | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com
FE無双 風花雪月 キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 前編〜 – Nintendo DREAM WEB
FE無双 風花雪月 キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 後編〜 – Nintendo DREAM WEB