【レビュー】ファイアーエムブレム エンゲージ

未来を繋ぐ、指輪と竜の物語

ファイアーエムブレム エンゲージ(以下、FEエンゲージ)は登場から33年となるファイアーエムブレム(以下、FE)シリーズの14作品目(リメイクなど除く)の作品だ。

前作に当たるFE風花雪月でシリーズにとって更に大きな躍進を遂げただけに、最新作でどうなるのかが非常に気になるポイントであったことは言うまでもない。
発売前のリーク画像やPVを観た段階で主人公のキャラクターデザインが赤と青のツートンカラーになっており、これがFEシリーズの自軍と敵軍のカラーがモチーフとなっているような気がしており、味方と敵がテーマなのではと筆者は予想していた。

今回はFEエンゲージのレビューを記載したい。

 

 

ストーリー

面白くなるまでが全く面白くない

邪竜ソンブルによって引き起こされた戦争にて神竜ルミエルの子とされる主人公リュールは紋章士の力を借りて邪竜を封じたという…。
そこから千年後がゲームプレイが開始する時点となるが、戦いの後に傷つき長い眠りについていたとされており、その影響からか主人公は記憶喪失の状態であった。
そんな中で邪竜ソンブルの復活し、リュール達は邪竜信仰の軍勢との争いに巻き込まれていく事となる。

FEエンゲージのストーリーは基本的に非常にポップでコミカルな作りになっている。
おおよそ戦争ものらしい人間ドラマや政治劇は排除されており、そこに大きな期待をしていた場合にはかなりの肩透かしを喰らうであろう事は最初にうちに記載しておきたい。

本作において特徴的な点を2つ挙げよう。
まずは歴代FEシリーズのキャラクターを召喚・顕現させるという点だ。
マルス、シグルド、ロイ、アイクといった過去作の主人公達が「指輪に宿った紋章士」という形で登場する事になる。
つまり、シリーズのファンサービス的な側面が強めなのだ。
そして、2点目は近年のFEとしては珍しく主人公がよく喋る事である。
近年では主人公はアバターに近く、無個性気味な喋らないタイプのキャラクター像で描かれる事が多かった。
しかし、本作においては主人公リュールは非常によく喋る。しっかりと自我を持ったキャラクターとして描いているのだ。

では、ここからもう少し本作のストーリー面に関して掘り下げたい。
根本的に気になってしまうのは、本作のストーリーは中身のない会話がかなり長期間展開される事だ。
政治劇に乏しいと前述しているが、キャラクターにしろ、シチュエーションにしろ、全般的にかなり記号的な傾向が強いため、ゲーム内の世界でしっかりと生活をして生きているキャラクターであるとコールドリーディング的に感じにくいものになってしまっている。
これはお世辞にもポジティブな要素だとは言い難いのだが、何故そうなっているのかについても考えたい。
例えば、記号的に思えるキャラクターであったとしても、後にギャップを魅せる事によって印象が変わり最初の印象を覆す事は技術的には無理ではない。
これは想像に難くないハズである。
しかし、本作ではこういった状況を生み出せていない。
これは「紋章士の扱い」が影響を及ぼしてしまっているのではないかと思える部分もあるのだ。
紋章士とは歴代主人公達である。
そんな彼らを基本的に全員対等に扱っているし、普通に考えてそうせざるを得ないだろう。
しかし、それによって物語自体が冗長にならざるを得ない状況が作り上げられているように感じられるのだ。
各作品の主人公である紋章士と出会うシーンをしっかりと用意しようとした結果、出会いだけの部分を13回も見せられるだけになってしまう。
つまり、物語を進めても進めても起承転結における「起」が延々と続いてしまう状況となり、それに時間を費やしてしまう結果として本作が終盤になるまで掘り下げの不足した中身が全くない物語としてしまっている主因だと考えている。

これに対してのアプローチはいくつか考えられたハズである。
1つ目は最も単純だが、序盤の段階で全ての紋章士との出会いを終えてしまい、物語全体をしっかりと描ける、悪い言い方をすれば連続したドラマを描かざるを得ない環境を自ら整えることである。
特にリュールとルミエルの関係性は過去の回想という形で定期的に魅せておくべき内容であるように感じられるし、後半の展開を鑑みれば敵側の事情・関係性ももう少し具体的に描くべきであったように感じられる。
このような事をしていないためにリュールとルミエルの関係性も、敵側の事情も取ってつけたようなものになってしまっているのが実態である。
2つ目はゲームプレイとも関連したデザインとなってしまうが、「紋章士を誰から仲間にするかをプレイヤーが自由に決められる」ようにする事である。
こうする事で例え毎回のように「起」のシーンを描いても、プレイヤーが選択するという工程を挟んでいるために、シーケンシャルな出会いよりは印象は軽減されるのではないだろうか。

もちろん、物語は終盤になると大きく踏み込む展開が用意されており、最大の盛り上がりポイントがある。
この盛り上がりは特筆するべき展開になっているのだが、逆に言えばそのシーンになる終盤までは物語的な面白さはほとんどないと言っても良い。
そのため、物語全体として「最初の展開」と「最後のオチ」しか考えてないのではと思われても仕方がない部分はあるだろう。

少し困惑する会話シーン

FEエンゲージでは戦闘前や戦闘後などにカットシーンや会話シーンが多く挿入されており、それ1つ1つの品質は比較的高い。
しかし、会話内容と映像のシチュエーションが若干ミスマッチしているような気がしてならない。
これは会話を行っているお互いの物理的な距離感が曖昧なままに会話が進行するためなのだが、これが「普通に会話ができる距離」だと考えても、「実際にはそこそこ遠い距離での会話」だと考えても、どちらで捉えてもそれぞれ違和感があるシチュエーションだったりするのだ。
もしかすると当初は過去のFEシリーズのような半ば紙芝居形式の会話を想定しており、3Dモデルによるカットシーンを想定していなかったのではとも思えてしまう。
そう考えればなんとなくではあるが距離感の違和感に理由の面で納得する所はあるのだが、不思議な事に3Dモデルの演技は時間をかけて作られたであろうクオリティが感じられるのだ。
実に不自然な状況である。

ボリュームは多いが掘り下げはやや甘い支援会話

FEエンゲージでは「支援会話」と「絆会話」の2種類が存在する。
支援会話は過去作と同様にキャラクター同士の会話となり、絆会話はキャラクターと紋章士の会話となっている。
どちらも親密度によって次の会話が観れるようになる。
また、キャラクター達の情報が載る手帖・図鑑は支援会話などの状況によって追記が増えていくので、定期的に覗いてみると良いだろう。

とは言え、メインストーリー同様にキャラクターやそれと関連した文化や歴史といったバックボーンが掘り下げられる事はほとんどないので、設定厨のような楽しみを期待している人は肩透かしとなるハズだ。

 

システム

アグレッシブなプレイを誘発する優れたデザイン

FEエンゲージはシリーズと同様のSRPGとなっている。
キャラクターであるユニットを将棋の駒のように動かして行動を行い、ユニットを全て動かすなどした時点で相手のターンに移行するというオーソドックスなものである。

本作で特徴的なシステムの1つが「エンゲージ」だ。
エンゲージは「ストーリー」の項でも触れたが紋章士と言われるFEの過去シリーズの主役キャラクターが宿る指輪を装備したユニットが発動させる事が可能な強化状態のようなものだ。
このエンゲージ状態は発動後の数ターン継続するが、切れてしまうと特定の行動によってゲージをチャージしなければ再使用が行えない。
また、最大の大技に関しては1マップで1回しか使用できないため、局面を変えるレベルで強力な行動が可能になる一方で、使いどころは考える必要があるものになっている。

エンゲージする紋章士にはスキルが設定されており、そのスキルはキャラクターに装備させる事が可能だ。
覚えたスキルは他の紋章士に変更した場合であっても使用可能であるため、スキルの組み合わせによるキャラクターのビルドを組み上げられる。
キャラクター自体にも1つの固有スキルが設定されているため、それを活かしたビルドを考えるのが望ましい。
スキル構成の例を出すが、HP低下分を必殺(クリティカル)発生率に加算する「怒り」とHPが低下しているときに攻撃可能であれば必ず先制を取る「待ち伏せ」、ある程度のHPがあれば大ダメージを受けてもHPを1残す「踏ん張り」を組み合わせて、高い火力で敵を先手で倒すような構成も可能だ。
どのようにすればキャラクターが高い性能を発揮できるかを考えるのも楽しいハズである。

本作では三竦みが復活しているが、この三竦みのシステムが本作のゲームプレイをアグレッシブなものにしている。
過去シリーズと同様の剣→斧→槍→剣…といった三竦みが設定されているのだが、本作において特徴的なのは「相性が良い武器で戦えれば相手をブレイク状態にできる」という点である。
ブレイク状態となると、基本的にその状態になった戦闘と次回の戦闘1回分で反撃不可の状態に陥ってしまう。
例えば、相手が斧であった場合に剣で攻撃して命中すると、相手がブレイクになり本来行えるハズの反撃が出来なくなる。
そして、戦闘終了後もブレイク状態が継続し、次戦も反撃ができないためノーリスクでの攻撃が行えるのだ。
そのため、敵がブレイク状態になれば攻撃のチャンスとなるし、自軍のユニットがブレイク状態になればタコ殴りにされかねない非常に危険な状況になるのだ。
これによってゲーム体験にどのような変化が起きるかというと、この手の作品に多い「敵を釣り出して撃破する」という「待ち戦術にリスクを付ける」ことが実現できているのだ。
無闇な待ち戦術を行ってはブレイクされて一方的に殴られてしまう可能性が出てしまう。
逆説的にブレイクを狙って積極的に攻めに行く事によって、敵を比較的安全に処理できる機会も増えるのだ。
受動的一辺倒なゲームプレイになりがちなSRPGだが、このブレイクのシステムによってアグレッシブなプレイが成立しやすくしているのは素晴らしいポイントだ。

本作のゲームプレイにおいて気になるのは攻撃の命中に関してだ。
これは筆者の気のせいの可能性もあるため、ここに記載するのは非常に悩んだが攻撃の命中率が全く当てにならないように感じられた。
10~30%の命中率でも普通に、それも連続して被弾するケースがプレイしている最中に終始あり、表示されている確率が全く当てにならなかったのだ。
本作では前作FE風花雪月のように巻き戻し機能が搭載されているため命中是非に関してはその場で決まるのではなく、固定のテーブルにて事前に設定されているのではと考えている。
このテーブル生成に何か問題があるのではないかと思わざるを得ない程には信用できない命中精度だったのだ。

余り活かされない要素も

紋章士の指輪は「精製」を行う事で、その紋章士の作品のキャラクターの指輪を呼び出すことが出来る。
精製にて作った指輪では最高レアリティになれば一部のキャラクターが特殊な効果が付与されているが、基本的には基礎ステータスが微増するだけである。
他にも僅かな恩恵はいくつかあるのだが、根本的に紋章士の指輪で十分なのは勿体ない。
紋章士はDLCを除いたとしても10人以上用意されており、攻略する事になるマップに関してもそれを超えるような人数を投入する必要があるマップがない。
そのため、出撃メンバーはエンゲージ状態になれない精製した指輪を付けるよりも、紋章士の指輪を付ける方が圧倒的に有用である。
もちろん、紋章士の指輪が揃っていない序盤の頃は精製した指輪を装備しても良いかも知れないが、物語の進行と共に忘れ去られてしまうシステムになってしまっているのは勿体ないと言わざるを得ない。

また、ユニットであるキャラクターが多いが活躍の場が少ない点もそろそろモダナイズしても良いかも知れない。
古来のFEシリーズにおいてキャラクターが多かったのは育成の制限がある上でキャラクターロストがあり得たため、自軍が目減りする事に対しての対策であっただろう。
しかし、近年の作品では難易度設定次第にはなるが、無制限に育成が可能な環境があったりとロストする事がそう多い機会であるとは言えない。
そもそもロストしたままプレイを続行するプレイヤーもマジョリティ―とは言い難いのではないだろうか。
しかも、戦場に出撃させないメンバーに関してはレベルを上げる手段に乏しく、2軍行きとなってしまったメンバーはどちらにせよ後半では使いようがない。
そんな中で以前と同じようなキャラクター数を登場させては使いきれないのは自明の理である。
使いきれない程の人数にパワーを注ぐのは開発効率としても余り良いとは言えないだろう。
例えば、よくある要素だが部隊派遣といったような形で2軍状態のメンバーを派遣して経験値と資金と素材を確保できるようにして、活躍させ続けられる場所のお膳立てはできるハズである。
少なくともこれによって後半で主力級がキャラクターロストをしてしまっても、後継者が全くいないという状況は避けられる可能性は高まるのではないだろうか。

キャラクターとの交流と余り盛り上がらないアクティビティー

ソラネルという拠点ではキャラクターとの交流やいくつかのミニゲームが遊べるほか、オンラインプレイのアクセスも集約されている。

料理は基礎ステータスにバフをかける事が可能であり、更にキャラクターとの交流が行える。支援値を上昇させる手段の1つだ。
その他にも、基礎ステータスに僅かな恩恵のある運動などのアクティビティが用意されている。
しかし、アクティビティーの多くが作りが簡素過ぎるため何度もプレイしようという内容にはなっておらず、賑やかし程度の存在感になっているのは勿体ない。
この要素がネガティブな評価となる事はないが、少なくともポジティブな要素とも言い難い状態だ。

 

グラフィック

高品質な3Dモデルが素晴らしい

FEエンゲージにおいて最もわかりやすい特筆すべきポイントは高品質な3Dモデルだ。
3Dモデル自体の品質は観て貰えれば一目でわかるだろうが、それ以外でもフェイシャルを含めたアニメーションが大幅に強化されている。
品質の高くなった3Dモデルによるストーリー中のカットシーンなども絵になるため、演出面の印象としても良くなっている。

戦闘終了後には戦場となったマップを散策できる。
散策中には仲間のキャラクターと簡単な会話ができたり、動物達を保護したりする事が可能だ。
戦場を別の視点から観る事が出来るのは悪くない。
ただし、散策時のフィールドがどこまでが散策可能な範囲かが視覚的にわかりにくいのはやや困るポイントだ。

 

サウンド

本作においても戦闘BGMの戦場と戦闘でシームレスに変化する仕組みは健在で非常に素晴らしい。
特に過去シリーズのアレンジ楽曲が戦場と戦闘でシームレスに変化するのはシリーズ経験者なら聴いていて感動するポイントとなっている。

戦闘や支援会話・絆会話などキャラクターのボイス関連も非常に豊富に用意されているが、「ストーリー」の項で述べた通り掘り下げるような核心を突くような会話は非常に少ない事は心に留めておいた方が良いだろう。

 

総評

ファイアーエムブレム エンゲージはキャラクターの3Dモデルの綺麗さとアグレッシブに動かす意味のあるSRPGに楽しさを覚え、中身のないストーリーに残念さを覚える作品だ。

紋章士と言う過去シリーズの主役達に大きくフィーチャーし過ぎた結果として、ドラマ的な部分はほとんど感じられず表面的で冗長なシーンばかりが間延びしてしまっている。
終盤には特筆するべきクライマックスが用意されているが、それ以外の部分にはほとんど物語としての旨味は感じられないだろう。

SRPGとしてはブレイクと言うシステムにより、能動的に動く意味を出している点は特筆するべき要素になっている。
キャラクタービルド面も楽しめる要素があり、ゲームプレイ部分には確実な楽しさがある。

そして、魅力的な3Dモデルとアニメーションは本作の最もわかりやすいハイライトとなるだろう。

 

外部記事

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