【レビュー】ファイアーエムブレム 風花雪月

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フォドラの夜明け

キャラクターベースSRPGの始祖的存在のファイアーエムブレム(以降、FE)シリーズであるファイアーエムブレム風花雪月(以降、FE風花雪月)はWiiの「暁の女神」以来となる実に10年以上ぶりの据え置き向けFEだ。
筆者は「封印の剣」からFEシリーズのファンになったが、このFE風花雪月を見逃すハズもない。

FE風花雪月は2017年1月の「ファイアーエムブレム Direct」にて開発が公表されたが、詳細は2018年のE3まで公開されていなかった。1年以上も新たな情報が無かったためヤキモキした事を覚えている。
そして2019年のNintendo Directで更に詳しい内容や発売日が発表されたが、それでも物語やゲームプレイシーケンスにおいてわからない事も多かった。

今回はFE風花雪月のレビューをしてみたい。
なお、今回のレビューでは画像で若干のネタバレと感じる可能性のある要素が含まれている。ネタバレが気になる場合には注意されたい。

 

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

  • 発売日:2019/07/26
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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興味深い謎多き世界観

FE風花雪月のストーリーの特徴はなんといってもフォドラと言う地域を舞台に「3つ学級が存在する」という事だろう。
フォドラで最も歴史のあるアドラステア帝国出身者の集う「黒鷲の学級(アドラーラッセ)」
アドラステア帝国から独立した過去を持つファーガス神聖王国出身者の集う「青獅子の学級(ルーヴェンラッセ)」
貴族たちの同盟によって成り立っているレスター諸侯同盟出身者の「金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)」
プレイヤーはフォドラで最も影響力のあるセイロス教の総本山「ガルグ=マク大修道院」の教師となり、これらの学級から1つを選択し、教師として学級そして各キャラクターと関わっていく事となる。
選択した学級によって、特に中盤以降に大きくストーリーが変化する。

ストーリーは序盤から様々な謎が用意されている。
プレイヤーが教師として身を置く事になるセイロス教団は背教者などに対して容赦なくその場で抹殺する事も厭わないなど排他的でどこか胡散臭い。
しかし、あからさまに胡散臭すぎるのも逆に怪しくすら思えるなど、どれが正しいのか、どれがミスリードなのかわからないようになっている。
セイロス教団に限らず本作では例え味方であっても決して善行を積み重ねた者ではないのは世界観に説得力を与える事に成功している。

また、本作は二部構成となっている点も忘れてはならない大きな特徴だ。
第一部では学生たちを共に過ごしていくのだが、第二部では5年後を描いておりフォドラが戦禍に飲まれている。
第一部と第二部のコントラストが良く効いており、特に声優の演技に関しても5年分の成長を感じさせる過酷な時代を生きる大人になった演技をしているのが素晴らしい。

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フォドラの文化を感じさせる要素たち

各章の始まりには独特のタッチの絵と共にフォドラの文化について語られる。
これによってフォドラと言う地域性が良く表現されているのは良い演出だ。

その他、書庫ではセイロス教や各国の成り立ちなど興味深いテキストが用意されていたり、魚や食事の簡単な説明文においても世界観を補完している。

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巧みなストーリーテリング

本作で最も特筆するべきものと思えるのはそのストーリーテリングだ。
ストーリーは本編以外にも数多く用意されており、「外伝」や近年のFEシリーズでは代名詞とも言える「支援会話」が存在する。
ゲームプレイとなる学校生活という設定から一見明るいように感じられるものの、支援会話や外伝で垣間見る内容ではほとんど全てのキャラクターに暗いバックボーンがある事がわかる。
その陰と陽がストーリーのコントラストとして機能しているのだ。
これらの横軸とも言える要素が非常に密度濃く作られており、世界観を強固に支えている。

これらの支援会話や外伝は本編だけでは知る事ができない世界設定について知る事が出来る内容が多く非常に興味深く観る事ができる。
それらを参照する事により、「例え同じクラス、同じ地域の出身であっても、その親族などが反乱を起こして征伐」されていたり、「親同士での小競り合いや殺害」などが裏で発生していたりする事がわかる。
また、作中で明言されていない内容であっても支援会話や外伝を数多く参照して世界観の知識が増える事によって何があったのか推測ができるようになっている構造は非常に巧みだ。
キャラクター同士だけでなく、その親族や家系図、ひいてはフォドラとその隣国の歴史や風土といった要素がプレイヤーの頭の中でパズルのピースのようにハマっていき、世界観や相関図が構築されていく様は爽快ですらある。
何気ない会話の中で出てきた1つのセリフであっても設定に裏打ちされた発言である場合も多く、キャラクターのバックボーンが理解できてから思い返して「なるほど…!!」となる事も多い。

その他にもメインストーリーの伏線になるような内容が学校内の散策パートでの会話で用いられているなど、やり込めばやり込むほどに作り込まれていると感じるだろう。

逆に言えば本作のストーリーは本編だけでは思惑など理解しきれない部分もあり、魅力を100%感じ取る事は難しいかも知れない点が一長一短となるポイントであろう。
しかし、支援会話や外伝を一切無視してプレイするというのであれば「根本的に作品とユーザーの相性が良くない」とも言えるため単純に「一短」だとも言い切りにくい。

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プレイヤーは教師だ

FEシリーズでは「キャラクターをどのように育てたいか」、「どのように育って欲しいか」という将来を見据えて育成していくゲームプレイが主軸の1つとも言えた。
プレイヤーが教師として学級の生徒たちに関わっていくのは、まさにゲームプレイとシンクロしている設定だと言えるだろう。

しかし、生徒たちは何も教師に言われたことをこなすだけではない。
育成がある程度の段階まで進んでくると、時よりキャラクターが自発的に「こういう技能を伸ばしたい」「こういう職業を目指したい」と提案してくることもある。
もちろん、その提案を受け入れるかどうかはプレイヤーの選択に委ねられるが、キャラクターが自身の考えを持って行動をしているように感じられる要素は「教師として嬉しい」と思わせてくれる。

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満載のこだわり

その他のこだわりも記載しておきたい。

まず、最も些細な内容であるが「自動送り」が実装されているのはありがたい。
本作は会話内容がフルボイスとなっているのだが、筆者はフルボイスの作品の場合には会話の自動送りが実装されて欲しいと常に願っている。
声優が感情を込めて喋るセリフとプレイヤーが書いてあるテキストを読み進めるのではテンポが違い過ぎるからだ。
「自動送り」が無い作品もいまだに多いが、本作では実装されているためセリフを聴く事に集中する事ができるのは地味ながら嬉しいポイントだ。

本作では2人1組で技能を上げる「グループ課題」やプレイヤーとキャラクター2人の計3人で「食事」を行う事ができる。
これらはキャラクターの特定の組み合わせに応じてセリフが専用のものに変化したり、またそのキャラクターの支援レベルによってもセリフの内容に変化があるのは見応えがある要素だ。
この支援の状況に応じたセリフ内容の変化は様々な箇所で適用されており、支援会話自体も僅かに変化するケースもあり、非常にこだわり抜かれている。

また、本作ではキャラクターの会話中に選択肢が用意されている事が多く、とにかくシナリオ面が充実している。
選択した内容によって会話内容が大きく変化する事は少ないものの、主人公の性別でも選択肢に変化がある点もこだわりが感じられる。

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些細な問題だが、痒い所に手が届かない

全体から考えれば非常に些細な問題ではあるのだが、痒い所に手が届かないものも散見される。

まず、最も手が届いていないのは「生徒の名簿」だろう。
名簿では生徒の能力値を始めとして、簡単な出自や趣向などが名簿から参照できるようになっている。
これを参照する事によってキャラクターの好き嫌いと言ったゲームプレイに繋がる要素を確認できるのはもちろん、世界設定を知る手掛かりとしての役割も担っている。
ところが、自身の学級以外の生徒の名簿を観る術が乏しいのは勿体ない。
もちろん、他学級の生徒も簡単に参照できるようにするべきかは悩ましい所だが、例えば世界観を壊さないように他学級を担当する教師にお願いする事で見せて貰える形にするなど、最低限として参照する手段は用意して欲しかった所だ。
なお、DLCにて会話した際に生徒の名簿を観られるようになる機能が追加されている。
DLC要素であるため純粋な改善では無いが、ありがたい追加要素だ。

次に気になるのは選択肢で一番上の項目がデフォルトで選択された状態になっている事だろう。これはやや不親切と言わざるを得ない。
近年では誤った選択をしてしまわないように「どれも未選択」をデフォルトの状態にしておくのがセオリーとなっているように思える。
もしも、ボタン連打してしまうようなプレイをする人ならば、あらぬ選択をしかねない設計だ。プレイヤーはボタンを無駄に押さないように心掛けた方が良いだろう。

 

キャラクター

レビューから逸脱した内容となってしまうが、筆者のお気に入りのキャラクターの一部を紹介させて欲しい。

 

リシテア

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リシテア

リシテアは理由あってとにかく早く一人前に、大人になりたいという願望を持っているキャラクターで、少し生き急いでいる印象が強いだろう。
どうして彼女がそのような生き方をしているのかは是非ともゲームをプレイして支援会話を参照して欲しい。
とは言え、そのような無理に背伸びをした生き方を続けていた影響なのか、甘いお菓子が好きだったり、やたらとお化けが怖かったりと変な部分が子供のままになっている可愛らしい一面も持っている。

ユニットとしての彼女はステータスの総合値こそ低くなりがちなものの、魔力だけがひたすら成長し、FE封印の剣の「リリーナの再来」とも言える火力は驚異的だ。
その上、魔法は射程が伸びる装備やスキルが存在するため、装備/スキルが整っていれば攻撃性能において群を抜いたキャラクターとなる事は間違いない。

 

ローレンツ

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ローレンツ

ローレンツのキャラクター性はステレオタイプな貴族性を更に強く掘り下げたものになっているのが特徴的だ。
彼の発言の数々は最初こそいわゆるテンプレートな「いけ好かない貴族」の空気感を覚えるのだが、彼を掘り下げれば掘り下げるほどに素晴らしい人物である事がわかる見事な設定だ。
筆者の感覚ではあるが、第一印象とクリア後とでは全く評価が異なる人物ではないだろうか。

ユニットとしての彼は白兵戦と魔法による遠距離戦の両刀が可能な才能を持っており育成のしやすさがあるのが特徴的だ。
しかし、レベルアップの成長の仕方によってはどっちつかずな器用貧乏になりかねない事も事実であり、「単騎で天下を取れる」ようなタイプとは言いにくい。

 

マリアンヌ

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マリアンヌ

マリアンヌは自身の血筋に絶望しており、自己肯定感が非常に低く傷付きやすい繊細な精神性でありながら、下位承認あるいは自暴自棄な発言も目立つ。
それらの発言も自身が他者から傷つけられる事を酷く恐れるあまりに行っている予防線の意味合いもあるように読み解けるが、とにかくとても心配になるキャラクターだ。
しかし、5年後には決意を感じさせるセリフが端々にあり、その強く美しく成長した姿はプレイヤーを親類が感じるような気持ちにさせてくれるだろう。
特に必殺発動時の「私…やらなきゃ…!!」という覚悟を決めているセリフは筆者のお気に入りだ。

ユニットとしての彼女はヒーラーとして育てていくのが無難だろう。
特に遠くの味方を回復できるリブローを覚えるため重宝する。
剣士としての才覚もあるため、いざという時のために鍛えておいても良いかも知れないが、優先度としては非常に低くなるだろう。

 

イングリット

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イングリット

イングリットは貴族出身ではあるが、その跡取りではなく騎士となることを夢みている。
基本的に真面目で正義感が強いが、食べる事が大好きでそれを幼なじみから弄られる可愛い一面もある。

ユニットとしては速さが成長しやすいが、力不足にはなりがちな印象だ。
そのため、敵の攻撃を回避しながら引き付けて削り、仲間が止めを刺して経験値を得るといった事がやりやすい。
戦闘中のボイスは清廉な声質を残しつつも勇ましさを前面に押し出しており、非常に筆者好みの演技だった。

 

イエリッツァ

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イエリッツァはアップデートによって仲間として追加されたキャラクターである。特定のルートでのみ仲間になる。
普段の彼は寡黙でほとんど喋る事は無いのだが、その幼少期は非常に複雑な家庭事情で育っており、その影響からなのか非常に強い破壊衝動を持っている。
しかし、学級の生徒の中には彼ととても縁の深いキャラクターがおり、破壊衝動に悩みながらもそのキャラクターと関わっていく姿は印象的だ。

 

システム

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キャラクターの育成

FE風花雪月においてメインディッシュといえるシステムを挙げるとするならば、それは「キャラクターの育成」だ。

プレイヤーは各学級の各キャラクター達に指導を行い、どの技能を伸ばしていくのかを指示する事ができる。
キャラクターには予め個性が設定されており、得意とする技能・苦手とする技能が存在していたり、「紋章」と言う血統のようなものがあったり、またレベルアップ時に上昇しやすいステータスがあったり、時には最初は苦手な技能であっても指導を繰り返す事で得意技能となるものも用意されている。
得意・苦手はあるものの特に「これは必須」のような技能は無いため、プレイヤー自身の好みで育成する事が可能だ。
キャラクターの個性に合った・個性を伸ばすような育成をしていく事が好きな人にはたまらない要素と言えるだろう。

また、従来通りではあるが多くのキャラクターには「支援」と呼ばれる仲の良さのようなパラメーターも存在しており、キャラクター同士の友好度が高くなる事で「ストーリー」の項で記載した支援会話を観る事ができる。
また、支援はキャラクター同士が隣接していれば、そのキャラクター同士の支援レベルに応じて戦闘でもステータスにバフがかかるなどの機能も従来通り実装されている。

このように「キャラクターをどのように育てるか(どうなって欲しいか)」「どのキャラクターとどのキャラクターを仲良くさせるか」を考えながらプレイしていく本作の体験は教師のようであり、親のようでもある。

そして本作のゲームサイクルは非常に熱中しやすいバランスだ。
本作のプレイシーケンスは端的に表してしまえば「育成⇒結果⇒戦闘⇒育成…」というプレイサイクルとなるのだが、その1つ1つのプレイ時間はそこまで長く無く設計され、また実行した結果もすぐにわかる。
そのため「もう少しコレを伸ばしていこう」「じゃあ次はこっちを伸ばそう」など次々と新しい目標(育成プラン)が湧いてくる。
止め時を見失う没頭性は非常に見事だ。
ただし、難易度をルナティックなど高難易度にすると戦闘の時間的比重が大きくなり、育成~戦闘のサイクルのバランスが崩れてしまうのは少々勿体ない所だ。

 

バトル

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関係性がシンプルに戻った戦闘

ここではバトルに関して記載をしていく。

まず、FE風花雪月では覚醒以降の作品と同様に難易度設定として「カジュアル」と「クラシック」が存在する。
カジュアルでは自軍のユニットが倒されたとしても復活するようになっているが、クラシックでは古来のFEシリーズのようにユニットがロストして復活する事は無い。
敵ユニットの強さなどが変化する「ノーマル」「ハード」なども存在するため、SRPGの初心者から上級者まで安心してプレイする事ができる。

次に追加・変更が加えられている要素について記載する。

本作で最もインパクトのある変更は「三竦みの廃止」だろう。
FEシリーズと言えば「聖戦の系譜」から「剣<槍<斧<剣…」という関係性の「三竦み」が代名詞的に活用されていた。
しかし、本作では大胆にも三竦みを撤廃しているのだ。
これを聴いて不安を覚える方もいるかも知れないが、本作のゲームプレイを考えれば三竦み撤廃は非常に素晴らしい英断と言える。
本作では「生徒を成長させる」ことをゲームプレイの主軸に置いているが、そこに「三竦み」という要素は相性が悪いためだ。
例えば、時間をかけて盾役キャラを育てたとしても、育てたキャラが槍使いとして育成した場合には戦場が斧装備の敵だらけとなったりすれば、その育成が無に帰してしまう事に他ならない。
三竦みを撤廃した事により攻撃役は常に攻撃役として、盾役は常に盾役として機能するようになっており、育成が無駄になる事がないのだ。

戦闘中に行動を巻き戻せる「天刻の拍動」というものも追加されている。
これも良い要素だと言えるだろう。
上述している通り、FEシリーズではユニットロストしてしまう要素が代名詞として語られる事が多い。
しかし、実際にそうなった場合にはそのままプレイを継続するプレイヤーは少なくリセットをするのが大半だと思われる。そうなると戦闘を最初からプレイする事になり、とにかく時間がかかってしまう。
そのため、行動をやり直せる「天刻の拍動」は時短に繋がるのだ。
もちろん、プライドによって使いたくない人は使う必要は無い。

戦闘で役に立つ行動として「戦技」「計略」と言うものが追加されている。
「戦技」は武器種の熟練度が向上する事で覚える技で、自分のターンであれば覚えている戦技を発動する事ができる。
その効果は様々で特定の敵に特効ダメージを与える技や能力を下げる技などが存在する。
しかし、その代わりに武器の耐久値を多めに消費する事になるため「いつ」「どの武器で」使うかが重要だ。
とは言え、ユニットが成長してくると普通に攻撃した方が効率が良くなってしまう事が増え、一部を除き多くの戦技の有用性が薄くなってしまうのは少々勿体ない。
通常攻撃と戦技のバランスはもう少し検討して欲しかった所だ。
「計略」はユニットに「傭兵団」を設定する事で使用可能となる戦法で、その効果は傭兵団によって異なる。
計略は味方ユニットと連携する事で「連携計略」となり、威力や命中に補正がかかる。
この計略は魔獣と呼ばれる大型の敵ユニットに対して使用する事が多いのだが、計略による攻撃は反撃を受ける事がないため強力な人型ユニットにも非常に有効だ。
計略は1回の戦闘中に1ユニット辺り数回しか実行できないが、反撃なしに攻撃できると言う特性はやや強力すぎる。
回数制限があるとは言え、もう少しリスクがあっても良かったように思える。

では、これらの変更点の影響や戦闘全体のバランスはどうなったのか。
戦闘は本作が育成が主軸になっているためか、戦闘自体のやり応えはやや低いというのが筆者の感じた所だ。
どのキャラクターでも、どの武器でも、どの兵種でも十分に強く、計略なども強力で苦戦を強いられる事はほとんど無い。少なくとも1週目を難易度ノーマルでプレイした筆者はそのように感じる。
本作の戦闘とは「戦闘自体が楽しい」と言うよりも「育成した成果をお披露目する場」なのだ。
敵ユニットの行動を計算しながらパズルのように戦ったり、味方ユニットの配置などによるポジティブなシナジー効果によって上手に立ち回ると言う訳では無く、自身が育成したキャラクターが思った通りの強さを発揮できるかを確認したりする場が戦場となっている。
本作はあくまでも「キャラクター(生徒)の成長」を楽しむのが主体だという事は忘れてはいけない大きな要素だろう。

 

散策

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生徒たちと過ごす自由時間

FE風花雪月では戦闘以外のパートが存在する。
それが「散策」だ。
散策ではガルグ=マク大修道院にて生徒や先生たちとの交流をする事ができる。

キャラクターに対しては贈り物や落とし物を渡す事ができるほか、食事に誘ったり、お茶会に誘ったりすることが出来る。
また、主人公の技能を向上させる事も可能だ。
散策ではこれらの行動が行える回数が決められており、プレイヤーはどのような行動をするべきかマネージメントしながら散策する事となる。

上述している「落とし物」は良く出来たシステムだ。
キャラクターは章が移り変わる度に待機場所が変わる事が多いのだが、落とし物はキャラクターが前章で立っていた位置に落ちている。
しかし、全てのキャラクターの立っていた位置を覚えるのは難しい。
だが、落とし物の1つ1つにはキャラクターの個性が反映されており、落とした物と生徒の外見や名簿などを照らし合わせる事により、落とし主のキャラクターを推測する事ができるようになっているのだ。
この落とし物を落とし主に返すという作業をこなしていく事でキャラクターの好き嫌いと言った個性が自然と把握できるようになっているのは良い構造と言えるだろう。
特に本作のように多くのキャラクターがいる場合には、1人1人の個性まで把握しにくい事が多い。自身の要素を理解し、それに相応しいアプローチを行った良い例だと言えるだろう。
しかしながら、ストーリーの項でも述べている通り他学級の生徒の情報を知る術が乏しいため、他学級の生徒の落とし物は場合によりブルートフォースアタック的に落とし主を探すようになってしまうのは痒い所に手が届いていない。
なお、これも前述の通りDLCにて名簿が会話で見られるようになったほか、落とし物がどの学級のものかも表示されるようになった。

この散策パートでほとんど不満は無いが、「あれば嬉しかった」と言える要素なら上げる事ができる。
それは「ランダムイベント」だ。
本作ではとにかく事前に用意されたイベントがあるのみであり、後はそのイベントをいつ消化するかをプレイヤーが決められる程度と言って良い。
そのため、散策パートでの驚きがやや物足りないように感じられる。
そこでランダムで発生する突発的なイベントがあっても良いように思えるのだ。もう少しわかりやすく表現すれば「パワプロのサクセスのような仕組み」と言えばピンと来るかも知れない。
このような偶然の産物によってキャラクターの能力値や技能に変化が生まれるのも面白いのではないだろうか。

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他ユーザーの選択が確認できる

アカウントがNintendo Switch Onlineに加入していればちょっとした要素が追加される。
他のユーザーがどのような選択をしたのか確認できたり、戦場のマップでは他ユーザーがやられたポイントが表示されたりするのだ。
これらの要素のためにNintendo Switch Onlineに加入するのは何か間違っている気がするが、既に加入済みの特に初心者ユーザーならば使ってみても面白いだろう。

 

煤闇の章

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第四の学級

煤闇の章とはFE風花雪月におけるDLCで追加されたサイドストーリーの事だ。

FE風花雪月のDLCでは衣装やクエスト、キャラクターなどが追加されたが、この煤闇の章が最大の目玉と言っても過言では無いだろう。

 

ストーリー

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やや半端なストーリー

煤闇の章は本編の進行とは全く関係なくプレイする事ができる完全に独立したシナリオとなる。
また、物語の進行はメインのストーリーを進めていくのみで、専用のサブクエストは用意されていない。

煤闇の章ではガルグ=マク大聖堂の地下にある”アビス”と呼ばれる世界が舞台となる。
アビスは表の世界を歩けない者達ばかりが住む場所で、そこには「灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)」と呼ばれる第四の学級が存在していた。
主人公達は第四の学級の生徒たちと共にアビスの治安維持のために侵入者を排除し、またアビスが狙われる謎を解き明かそうとしていく。

展開されるストーリーの大筋は本編と比べるとシンプルだ。
本編ではメインストーリーと支援会話、外伝で互いに補完しあうような深い構成となっていたが、煤闇の章ではメインのストーリーの情報だけで物語の起承転結が完結するようになっている構成なのだ。
本編と同様の奥深さを生み出すには至っていないのは少々肩透かしを喰らったように感じるかも知れない。

煤闇の章はボリューム自体もそれほどは無く、5~10時間程度でクリアする事が可能だ。
そのような短めのストーリーである事も相俟ってか、物語の畳み方が少々雑になってしまっているのは勿体ない。
味方や敵の描写をもっと濃密に描き、終盤の山場の展開へのメリハリや助走をしっかりと付けて欲しかったように感じる。

煤闇の章のストーリーでは本編で明かされない部分を知る事が出来る事は良いポイントだが、その内容が本編やDLC煤闇の章に厚みを持たせるような設定かと言われるとそういう訳でもない。
あくまでも煤闇の章で完結したストーリーとなっている事も折角のファンのためのDLCという側面を考えるとこちらも勿体なさを感じる所だ。

 

システム

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サクッとプレイできる

キャラクターを様々に育成していく事を主軸に置いていた本編とは異なり、煤闇の章は決められた戦力でマップを攻略する必要がある。
そのため、過去のFEシリーズのような詰将棋に近いプレイフィールが味わえる。

難易度は本編よりも若干高いようには感じるが、育成部分がほとんど無いため、何も考えずにサクサクと進行できる。結果的には本編よりも手軽にプレイしやすい印象だ。
そのため、SRPG初心者やFEシリーズに興味のある人はこちらからプレイするのも悪くないかも知れないが、この煤闇の章はスタンドアロンに起動できるパッケージ版などは販売されておらず若干惜しいように感じる所だ。

 

グラフィック

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もう一歩物足りなさのあるグラフィック

FE風花雪月のグラフィックは少々物足りないというのが正直な所だろう。
スペック面でやや劣るNintendo Switchとは言えども、もう少し上を狙えたのではないかと思えてならない。
システムが異なるため単純な比較は意味を成さないが、より美麗に描写されたNintendo Switchタイトルもあるだけに惜しい。

人物のモデリングにおいて特に気になるのは瞳だろう。
「目は口程に物を言う」という言葉があるように人物の造形の善し悪しを決定する最も大きな要素が目である。
本作ではその目の、特に瞳の透明感や潤いが感じられないため必要以上にクオリティが低く見えてしまい勿体ない。

フィールド関連も余り良いとはいえない。
散策で歩く事となるガルグ=マク大修道院やフル3Dで描かれるようになった戦場もテクスチャーの品質が余り良くない。
ロケーションの雄大さなどを楽しむゲームでは無いとは言え、もう一声欲しかった所だ。

しかし、グラフィック面でこだわりを捨てている訳では無い。
例えば各学級のキャラクターは全員が学級に応じた制服を着用しているのだが、その大半はキャラクター性を象徴するようなワンポイントや気崩し方をしているのだ。
また、散策において行動可能数を使い切った状態である程度時間が経過すると上図の右上のように夕焼けになる。 
コーエーテクモゲームスが開発を主導している影響かキャラクターのアニメーションは全体的に良く出来ており、特に戦闘中に魅せるキャラクターアニメーションは良い動作だ。
このようにグラフィックそれ自体の質は良いとは言えないのだが、それを補うように他の要素で見せ方をカバーしている。

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カッコいい必殺のカットイン

本作の映像関連で最も良いと感じるのは戦闘中の必殺発動時に挿入されるキャラクターのカットイン演出だろう。
戦闘中に実際にどのように挿入されるかは「バトル」の項で載せている画像が参考になるので参照にして欲しい。
近年のFEではこのように必殺時にカットインが入るが、今作ではイラストでは無く少し動きがある3Dモデルであるため、カットインのカッコよさを引き立たせている。
気合のこもったセリフと一緒に発生する必殺の演出は最高だ。

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戦場でのズームアップは嬉しい要素だ

本作の戦場ではズームアップ操作をする事で実際に近い寸法の表示を行うことが出来るのだが、その状態でユニットを移動させる事もできるのは嬉しい要素だ。
もちろん普通のSRPGのようにマス目ベースでユニットを移送させる事も可能だ。
普段使いできるほど素晴らしい機能だとは言い難いが、実際の縮尺でキャラクターとフィールドの関係性を観る事が出来るのは嬉しい。

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細かな遊び心

地味ながら遊び心を忘れない。
ロード画面では昔ながらの2Dドットのキャラクターユニットが登場する。
このロード画面のキャラクターはコントローラーの傾きやボタン操作でリアクションがある。
こういった小さな遊び心こそ作り込みを感じさせてくれるポイントと言えるだろう。

 

サウンド

FE風花雪月の音楽は素晴らしい楽曲がてんこ盛りだ。
教会というシチュエーションにマッチした印象的なパイプオルガンの音色や相変わらず耳に残るカッコいい戦場曲は是非とも聴いて欲しい。
また、近年のFEシリーズで採用されている戦場BGMと戦闘BGMのシームレスな変化にしても鳥肌が立つほどにカッコいい演出だ。

パイプオルガンで厳かにアレンジされたFEシリーズのメインテーマ「炎の紋章」

孫子の一節を用いた戦闘準備時の曲「その疾きこと風の如く」「侵略すること火の如く」

戦場時と戦闘時がシームレスに切り替わる非常にカッコいい「フォドラの暁風」「天裂く流星」「剛撃」

ボーカルメインテーマのフレーズを引用しつつ第一部と第二部でアレンジの異なる楽曲に仕上げた本作で最もカッコいいと言っても良い戦場・戦闘曲「鷲獅子たちの蒼穹」「天と地の境界」

日常のようなほのぼのとした「安息と陽だまり」

神秘的でシャーマニズムな雰囲気を覚える「覚醒」

このほかにも記憶に残る素晴らしい曲がたくさん存在している。
これらのBGMはプレイ中に聴いたことがある曲であればゲーム内でもサウンドテスト的な形式で自由に聴く事が出来るため、その点も嬉しいポイントだろう。

 

ボイス

キャラクターのボイスに関しても少しだけ記載しておきたい。

戦闘においてキャラクターが必殺を発動した後には、その近くにいるキャラクターが「やりますね」といった内容の掛け合いをしてくれる。
これがあるだけでキャラクター達の空気感の表現に一役買っており嬉しい要素となっている。

また、各キャラクターのセリフは室内などの閉鎖空間のステージではボイスにリバーブがかかる演出がされているのも丁寧だ。

「ストーリー」の項でも記載しているが本作は物語が二部構成であり、第一部と第二部では演技が異なる。
第二部では単純に5年という歳月を経ているのもあるが、学校時代での成長や戦禍を生き抜いていた経験を反映した決意や覚悟を感じさせる演技が特徴的だ。
生徒たちが大きく成長した事を感じさせてくれる非常に素晴らしい演じ分けとなっている。
しかし、特定の支援会話などは第一部と第二部のどちらでも観る事ができるものが存在しており、そのような支援会話を第二部に突入した段階で参照すると「見た目こそ第二部だが、演技は第一部に近いもの」になっている点は若干ながら気になるかも知れない。
ディレクションとしては第一部と第二部の中間を目指した演技になるように指示がされているらしいのだが、第一部と第二部の演じ分けの差が大きいキャラクターもいるため、器用な演じ分けをしたことが逆に仇となってしまっている。
支援会話に関して同じセリフ内容で第一部用と第二部用の2パターン用意できればベストだったであろうが、それは贅沢過ぎる要求だろう。

 

総評

ファイアーエムブレム 風花雪月はシリーズの最高峰とも言える隙の少ない傑作だ。

深く練り込まれた世界観はプレイヤーの知的好奇心をくすぐり、生徒との交流または生徒同士の交流は観ていて飽きないだけでなく世界観が更に奥深いものであると思知らせてくれる。
キャラクターの個性を伸ばしていける育成は没頭性が高く、つい時間を忘れてしまう中毒性のあるテンポ感も見事だ。
音楽も素晴らしく、特に戦場と戦闘でシームレスに変化する演出は恒例となりつつあるが素晴らしい事に変わりはない。

育成を重視しているためか戦闘自体のやり応えには少々欠けるところがあり、またグラフィック面にしても(動きこそ良いが)物足りなさを感じるのが正直な所だ。
しかし、それらはほどんど些細な問題であり、1週目をクリアする頃には、まず間違いなく2週目を別の学級(視点)でプレイしたいと思っている事だろう。

しかし、DLCで追加された内容は全体的に淡白な印象である事は残念でならない。
ボリュームもそうだが、内容においてももっとFEファンや風花雪月ファンが喜ぶ内容がてんこ盛りであって欲しかった所だ。

 

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