【レビュー】じんるいのみなさまへ

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ディストピアユートピア

最初に記載するが筆者はADVなどのゲームに疎く、また得意ともしていない。
その事を念頭に置いてレビューを参照して欲しい。

ADVが得意でない筆者が本作「じんるいのみなさまへ」に興味を持ったのは、ひとえにその設定の魅力であるところが大きい。
「女の子達がゆるゆると荒廃した秋葉原で生活をする」というシチュエーションだけで面白そうだと感じたのだ。
事前に公開されたスクリーンショットの時点で3Dモデルやフィールドの作りの甘さは感じたが、設定の魅力がそれを上回っていた。

今回は筆者の苦手ジャンルとも言えるADVのタイトル「じんるいのみなさまへ」をレビューしてみたい。

 

じんるいのみなさまへ Nintendo Switch版

 

じんるいのみなさまへ PS4版

 

 

ストーリー

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ゆるゆるポストアポカリプス

本作のテーマは「ゆるゆるポストアポカリプスでゆるゆるサバイバル」と言って間違いでは無いだろう。
本来ならば過酷なポストアポカリプスと言うシチュエーションをこのように展開した発想は素晴らしい。
もちろん女の子がキャッキャしているのを見るのも一興ではあるのだが、物語の冒頭からSF色を感じさせるストーリーと崩壊した世界を現代的な女の子が探索すると言うシチュエーションは「なぜこのような世界となったのか」という謎をついつい考えながらストーリーを観てしまった。
ストーリーは一本道で物語が分岐するような選択肢が無い点は少々物足りなさを感じる所だが、ストーリーとシチュエーションを楽しみたいのであれば気になる事もないだろう。

本作では雑誌や同人誌、アニメ、映画などの知識を基に荒廃した秋葉原でサバイバルをする事になる。
ストーリーの進行では頻繁に科学や生物に関する情報が出て来るため、半ば中学や高校の科学の授業でも受けているような感覚さえあるが、ズラズラと科学知識をひけらかされる訳では無く、比較的ライトに説明がなされるため嫌味に感じる事は無かった。
むしろ、それらの知識を駆使して生き抜いていく彼女達がたくましくさえ感じるほどだ。

ストーリーでは食料の安定確保のために野菜を育てたり、魚を釣ったりするのだが、それらに必要な道具は当然ながら手元に無い。
しかし、そこで挫けないのが彼女達だ。
彼女達がストーリー中で魅せる「無いなら作っちゃおう精神」は鉄腕DASHでも視聴しているのかと錯覚するくらいのものだ。
更に、ストーリーが進むと動物の肉を食べようと言う事になるのだが、動物の解体という最もエグイ部分にしてもあっさりと食肉に加工して見せる姿はさながらカメ五郎さんだ。

本作のストーリーで筆者が特にお気に入りなのは8章だ。
8章では彼女達が「とあるメッセージ」を受け取る事となる。
それは崩壊した世界に取り残された彼女達に向けた大切なメッセージなのだ。
家族や友人たちと二度と会う事ができないと言う状況は「もしも自分だったら」と考えずにはいられない内容だ。
この手の話に滅法弱くなった筆者はこのシーンで思わず涙してしまったほどだ。
とは言え、この章でキャラクター同士がイチャイチャするシーンは少々無粋だったように感じる。8章は全体から見ても非常に大切な章であると思えるだけに、この章に関してはもう少し暗いトーンで統一してメリハリを付けた方が良かったのではないかと思える。

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しっかりと設定が用意されたストーリー

ストーリーの序盤からある程度は仲が良さそうな彼女達だが、一人一人の個性の方向性はバラバラであり普通に考えると仲が良くなるきっかけが無さそうに見えるメンツだと言える。

また、ストーリーが進むと野菜を育てたり魚を獲ったりする事になるのだが、全般的に「何故か都合が良い展開」になる。
野菜は種を蒔いてから数日で収穫可能となるし、世界は崩壊しているのに魚貝類は普通に獲れるのだ。

これらの「なぜ接点の無さそうな彼女達が仲良しなのか」「なぜ都合良くいくのか」と言ったものに関してはしっかりと設定が用意されている。
それは物語の終盤に閲覧が可能となる「ロッカーに残されたメモ」を参照する事で知る事ができたり、DLCのストーリー内で知る事が出来たりする。

なお、ストーリーだけを楽しむだけであれば本編だけで問題ない。
しかし、世界設定の謎を知りたい場合にはDLCを購入した方が良いだろう。
DLCでは「専用のストーリー」や「ロッカーのメモの追加」があり、どれも謎を知るためのピースとなっている。

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不親切な箇所も多い

本作のストーリー自体は決して悪くは無いのだが、それ以外の部分が大きく足を引っ張ってしまっていると感じざるを得ない。

まずストーリー中の会話において主人公に行動を託すような会話はあるが、実際のゲームプレイでは行えない・行わないなど意味深に用意されている会話が散見されるのは少しばかり気になる所だ。
例えば「近くの店から探索しよう」と会話したにも関わらず、すぐさま「どこからでも好きに探索して良いんだよ」と言う会話がなされプレイヤーへの指示が二転してしまっておりやや困惑する。
また、自動販売機やガチャポンに関する会話においても「本当は自動販売機 / ガチャポンを利用できたのでは」と感じる。
あくまでも筆者の憶測の話となるが、このようなセリフに関してはゲームプレイとして実装しようとしたが、実際には何らかの理由で組み込めなかった残滓ではないだろうか。

本作では上図の左のように移動中にはテキストによってキャラクター同士で会話が行われる。
連れていくキャラクターおよびゲームの進行状況によって会話の内容は変化するものの会話パターンが非常に少ない(1組辺り2パターンx進行状況?)。
そのため、同じ会話の繰り返しとなってしまうのは少々残念だ。
また、移動中はひたすら歩く事になるため、テキストのみの会話では雰囲気的に寂しいものがある。
そもそも移動中にテキストを表示されても文章を読むには適切な状況ではないとも言えるだろう。
この会話テキストを読むために歩みを止めてしまうようでは移動中にテキストを表示させる意味が無く本末転倒となる。
やはり会話セリフに関してはキャラクターに喋らせて”ムード”を作って欲しかった所だ。

次に不親切に感じるのはフィールド上に配置されている会話イベントだろう。
これは上図の右が参考になるのだが、フィールドには特定のポイントでキャラクター達が会話するイベントが用意されている。
しかし、上図右を見てわかる通り特定のポイントが「余りにもノーヒント」なのだ。
有名な建物やわかりやすいオブジェクトにある訳でもなく、何の変哲もない路上に設定されており気付きようが無い。
当然ながらマップにも表示されていない要素であるため気が付かないままにゲームをクリアしてしまう勿体ない要素となっている。

ストーリーとゲームプレイが乖離している点も勿体ない要素だ。
ストーリーを進行するためには「目標」として指定されたアイテムを入手する必要がある。
しかし、そのアイテムを既に所有している場合であっても「入手するためのポイントに赴く必要がある」のはゲームプレイ部分を実装している意味を成していない。

ストーリーを進行するための目的地に関しても不親切さがある。
フィールド上に表示されるイベント進行アイコンとアイテム探索アイコンが同じケースが多くわかりにくいのだ。
せめて色を変えて欲しかった所だろう。

またその他にもミスと思しき箇所も散見される。
設定ミスなのか不具合なのか会話のボイスが再生されなかったりするのは問題がある。
声優が収録する際に使用したテキストとゲーム内に実装したテキストに差分が出てしまったのか、発せられるボイスと表示されるテキストで内容が異なるケースもある。
一番最初のスタート画面にしてもデフォルトで選択されているのが「はじめから」になっているのは考慮が足りていない。

上述した事の繰り返しとなってしまうが、本作は「実装をしようと設計したものの、何らかの都合により未実装となってしまった」ように感じる事が多い。
会話内容が二転したり、ノーヒント過ぎるフィールド上の会話イベントであったり、ストーリーとゲームプレイとの乖離であったり、どれもプレイしていると「本来は別の形で実装する事を想定していたのでは」と思わずにはいられない「制作途中感」があるのだ。

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DLC「スハーヤ 朱香」

本作ではDLCで追加される「スハーヤ 朱香」というキャラクターが存在する。
彼女はDLCを購入していたとしてもシナリオの2週目から登場するキャラクターとなる。
彼女がいる事で既存のシナリオに会話が追加されていたり、シナリオ自体に変化が起きるケースもある。特に科学や生物に関して更に詳細な知識が加えられるケースは多いだろう。

また、DLCルートのシナリオではSF要素が強くなるが、これは前述の通りDLCの立ち位置が世界設定の謎を回収するために用意されているためだと言えるだろう。

 

システム

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ゆるゆるサバイバル

本作では3Dで構築された荒廃した秋葉原駅周辺を探索する事ができる。
探索では野菜を作ったり、廃品を回収したり、魚を釣ったりしてアイテムを入手する事になる。
この際のアイテムの入手に関しては特別何かしらプレイスキルが求められる訳では無く、1日の行動可能時間を消費する事となる。
ここだけ聞けば行動のマネージメント要素のようにも思えるが、例え行動可能時間を消費しきってしまったとしても「翌日の探索(アイテムの入手)にかかる消費時間が大きくなる」のみでありデメリットと呼べるものでは無い。
そのため、リソースには常に余裕がありサバイバル感は終始低い。
これに関しては賛否あると思うが、筆者としては「女の子のゆるゆるポストアポカリプスサバイバル」というテーマを体現した一貫性のあるシステムのように感じ、良いとまでは言わないが悪いものでは無いように思える。

しかし、サバイバルを導入したゲームにありがちな健康度や総重量などを導入していないために「食材」や「機材」と言ったリソースが存在する意味や獲得する意味が無いままになってしまっているのは勿体ない。
テーマでもある「ゆるゆるサバイバル」を実現しつつも、これらのリソースが活かせる別のアプローチをして欲しかった。

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不便な地図

本作では秋葉原駅周辺を歩いたり走ったりして移動する事になる。
自分の足だけが頼りの移動は確かに面倒ではあるが、ある程度の面倒さが無ければポストアポカリプス世界のサバイバルと言う設定を用意する必要が無いだろう。

移動よりも気になるのは地図だ。
まず、地図には自分がいる現在地の記載が無い。
そして、ストーリーを進行するために次にどこに行くべきなのかも記載が無い。
確かに「自分の見ている景色と地図を見比べる事で徐々に土地勘がついてくる」と考えれば良い要素とも言えるのだが、レガシーなわかりにくい要素とも言えるだろう。
なお、アップデートにより「地図上に現在地と目的地の追加」を実装している。

 

グラフィック

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ローエンドだが秋葉原駅周辺を再現したフィールド

本作の3Dモデルはお世辞にも”標準レベル”とは言い難く、PS2クラスと言っても過言ではないのは残念だ。
制作にはUnityが使用されているようだが、確かに素の状態のUnity感を強く感じる(Unityを少しでも触った事があるならば伝わるだろう)。
建造物のディティールや水の表現、空中に浮いている(接地していない)操作キャラクター、日本語が反転したテクスチャー、走行と歩きの中間モーションが無い事など大小さまざまに気になる所が点在する。
また、グラフィックの粗を目立ちにくくする目的もあるのか被写界深度表現がキツく、遠景がかなり強めにボケて観えるのも逆に気になる。
「どんなに良い絵も、どんなに悪い絵も、30分観れば慣れる」とは筆者の持論だが、それでももうちょっと何とかならなかったのだろうか。

とは言え、本作の3Dフィールドが全てが悪い訳では無い。
秋葉原駅周辺と言うそれほど広くは無い領域ではあるが、それが再現されているのは良いポイントと言えるだろう。
だがしかし、時間経過で景色が変わらない事は勿体ない。
夕焼けなどがあれば荒廃した秋葉原と相俟って良い景色となったであろう。

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イベントスチル

いわゆるイベントスチルもそこまで多く無いが、筆者が特段イベントスチルにこだわっていないためか気になる事は無かった。

 

サウンド

「ゆるゆるポストアポカリプス」である本作では曲に関しても「ほんわか」したものが多いのが特徴的だ。
また、ループが短くメロディもはっきりとしているため「単純接触効果」が強く、記憶に残りやすい曲となっている。
筆者の気に入った曲を紹介したい。

頻繁に聞くためすぐに耳に残る「風が吹いたら」「まどろみのたんぽぽ」

フワフワでポカポカな「陽射しになれ」

優しく落ち着いた「世界の終わりは春しおん」

陽気で、どこか郷愁感もあるエンディング曲「プレシャス☆ガール」

本作ではサウンドテスト的な形で劇中BGMを聴く事ができるため、地味ながら嬉しいポイントと言えるだろう。

 

ボイス

本作のボイスに関しても記載しておきたい。

特に主人公の京椛を演じる佐東茉奈さんは、やや舌足らずでキャラクター設定以上に幼い印象を覚えてしまうが、それでも細かい部分で聴かせる自然体の演技は可愛らしく感じられるだろう。

もちろん、その他のキャラクターの演技に関しても悪くないのだが、開発側と収録側で意思疎通がイマイチだったのか音響監督の指示出しミスが散見される。
「ストーリー」の項で記載した通り「ボイスと表示テキストで差分が出てしまっている」ことも気になるのだが、テキストの汲み取り違いを起こしているケースも散見されるのだ。
例えば、「よろしくねー」というセリフがあるのだが、これは文脈としては「よろしくない」の意味で使われている。しかし、実際に収録されたものに関しては「よろしくお願いします」の意で「よろしくねー」が発せられたりしている。
ストーリー全体を把握している脚本家なりディレクターが収録に立ち合えていなかったのだろう。

 

総評

「じんるいのみなさまへ」とは「ディストピアユートピア」だ。
暴力や犯罪の免罪符として扱われ殺伐としがちなポストアポカリプスものに、「女の子がゆるゆるとポストアポカリプス世界を生きる」という視点を向けたコンセプトは素晴らしい。
本作のシチュエーションはディストピアでありながら、ユートピアなのだ。

しかし、わかりやすい表面的な部分のクオリティーの低さが目立ってしまい、これでは描きたい本質的な部分をユーザーに受け取ってもらうのは難しいと言わざるを得ない。
本作はコンセプトこそしっかりしているが、それを具体的にゲームとして落とし込むという領域に昇華できていないのだ。

もっと単純なビジュアルノベル的なもので良かったように感じるが、本作の「ディストピアユートピア」を表現するならば本作のようなストーリーテリング・ゲームプレイを行いたい。
その気持ち・発想は非常に理解できるのだが、技術レベル(スキル・資金・時間という意味での"リソース")が全く追いついていないのは明白だ。
シチュエーションの設定には賛辞を贈りたいが、「やりたい事」と「出来る事」を明確にして開発に臨むべきだ。
その結果として開発側もユーザー側も不幸になってしまったのが本作だろう。

 

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