【レビュー】聖剣伝説3 Trials of Mana

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マナの試練

聖剣伝説3 Trials of Mana(以降、聖剣3リメイク)は聖剣伝説3をリメイクして誕生した作品だ。
本作はE3 2019にて発表されたが、筆者はその発表に驚きと喜びが同時にあった事を覚えている。
驚いた点の1点目はリメイクが発表されたこと、それ自体だ。
聖剣伝説2のリメイクである「聖剣伝説2 Secret of Mana」が必ずしも良い評判を得られておらず、筆者に至ってはPVを観た時点で購入を諦めてしまっていた。
そんな中でも聖剣伝説シリーズというコンテンツの火が絶えることなく、比較的短いスパンでリリースすると言うのは意外だったのだ。
2点目は「聖剣伝説2 Secret of Mana」とは異なる方向性のリメイクを遂げたという事だろう。
内容は原作よりもアクション性が強くなっているように見えたし、何よりも立体的になった街並みや原作の雰囲気を壊さない良質なBGMが嬉しい驚きだったのだ。
PVの時点でもモーションのモッサリ感などの気になる部分もあったものの総じてポジティブな面が多かった印象だ。

今回は大好きな原作がリメイクされた聖剣伝説3 Trials of Manaをレビューしていきたい。

 

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - PS4

  • 発売日:2020/04/24
  • メディア:Video Game
 
聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - Switch

聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ - Switch

  • 発売日:2020/04/24
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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原作に忠実なストーリー

聖剣3リメイクのストーリーやイベントの進行方法、会話の内容まで原作にほとんど完全に忠実だ。
ストーリーは忠実な再現であるため筆者の「聖剣伝説3のレビュー」と類似の事を記載してしまうが、本作は「人類の闘争に巻き込まれる自然」を描いており、原作の発売当時の1990年代の時代性が如実に取り込まれている内容だ。2020年の時点においてはそのようなテーマがメディアで取り上げられる事も少なくなり、その結果として本作のストーリーのテーマにリアリティあるいは身近さを若干感じにくくなっているのかも知れない。
ストーリーが6人の中から3人を選択してパーティーを組み、そして最初に選んだキャラクターが主役として描かれる点も原作同様だ。

当然ながら原作とは異なりモダナイズされている部分も数多く存在する。
次に誰に話しかければ物語が進行するのかがマップ上などにも記載されるようになったため、原作のようにストーリー進行のトリガーを探して道に迷うような事は無くなったと言って良いだろう。

基本的には原作に忠実なストーリーだが、場面によって移動中に会話が発生する点も本作オリジナルのモダナイズポイントだ。
この会話の内容は原作の物語の補完をしつつ、キャラクター同士の掛け合いによるパーティー間の関係性が補完されている。
原作ではパーティー間でのやり取りが希薄であったため、こういったやり取りが増えているのは嬉しい限りだ。
街中では操作キャラクターを仲間キャラクターに変更する事ができないのは残念だが、その代わりに街で仲間と会話をする事ができるようになっている。
ここでも仲間の存在を補完する役割を強化しているのだろう。

また、よりストーリードリブンになったという点も原作からの変更点だろう。
原作においては好きな順に攻略できた部分がより一本道の構造になっており、上述の移動中の会話によってよりストーリー仕立てになっているのだ。

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3Dモデルになった事によるストーリー進行の違和感

原作に忠実なリメイクを施している本作だが、環境が変わった事による違和感を改善するまでには至っていない。

2Dドット時代の進行方法をそのまま踏襲しているため、3Dモデルでは若干冗長な進行に感じる部分や逆に一足飛びに感じる部分もあるのだ。
2Dドット時代の物語、セリフを3Dモデルのキャラクターがそのまま行ったため「ん?それ必要あるんだっけ?」「え?なんでそう思い至ったの?」とキャラクターに感情移入しにくく感じる部分が少なからず出ているように思えた。
省略表現主体の2Dドット時代には脳内補完が自然に行われるために成立していた部分が、3Dモデルというディティールが豊かになった表現の下では脳内補完がしにくく若干の違和感になっているのではないかと推測される。

また、同様の理由で物語全体の印象も若干変化した印象だ。
2Dドットの原作をプレイしていた際には全体的にシリアスな物語の印象が強かったのだが、3Dモデルによってディティールの向上した本作ではコミカルな印象が強くなっている。
やり取り自体は当時とほぼ同等であるため、視覚から得られる情報によって受け取り方にも変化が生じたのだと思っている。

これらの問題を解決するには原作の要素を弄らざるを得ないため、場合によっては原作の良さを壊してしまう可能性もある。
非常に難しい選択あるいはバランス感覚を要求される部分だが、もう少し踏み込んでみても良かったのかも知れない。

 

システム

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簡単ながらアクション性が増した戦闘システム

聖剣3リメイクの戦闘はボタンによって攻撃や回避を行うようになったため、よりアクション要素が増した直感性の高いモダンなものに変更されている。
とは言え、攻撃と回避の駆け引きが強い訳ではなく、原作では凶悪な火力を誇った敵の攻撃も良心的な水準に落とされているため、アクションまたはRPGの初心者向けな調整がされていると感じられる。
そのため、戦闘においてはパーティーに回復役となるヒーラーさえいれば苦戦を強いられる事は余り無いと言っても良いだろう。

戦闘中はいつでも簡単に操作キャラクターを変更する事が可能だが、仲間のAIは原作とは異なり自身が指示をしなくても攻撃や回復、補助の魔法を使ってくれるため、頻繁に操作キャラクターを変更したり、魔法の指示を出したりする事は無いかも知れない。
AIの行動パターンの傾向も変更可能で、攻撃重視にしたり、サポート重視にしたりする事が出来るため役割に合わせて変更するのが好ましい。
しかし、回復に関してはAIが実行してくれるタイミングが遅きに失する事がややある印象で、ちゃんと回復したい時にはやはり自ら操作するなりして回復を行った方が無難だ。
全体的には非常に遊びやすく変更が行われており、余計なストレスなくゲームのプレイに集中できるように構築されている。

キャラクターの育成面においても変更があり、レベルアップ時に獲得できるポイントを攻・守・知性・精神・運の各種ステータスに好きなタイミングで割り振る形となった。
割り振った各種ステータスのポイントの数に応じてスキルやアビリティなどを覚えるようになっている。
特にキャラクターの性能に影響を与えるアビリティは攻撃役、回復役、盾役、補助役などロール的な概念でバトルを行う事も可能にする。
難易度の低めなアクションRPGの本作だが、何を覚えさせるか、どのアビリティを使用するか、どういう役割を持たせるかを考えて育成できるモダンな設計が採用されているのは面白いポイントだ。
しかし、盾役のようなヘイトを集めるようなスキルが守ステータスで得られず、運ステータスで得られるようになっているなど、ポイントを割り振った先とその結果として得られるロール的アビリティが微妙にマッチしていないのは少々勿体ない。

「ストーリー」の項でも記載した通り、本作ではプレイアブルキャラクターが6人いる。
そのため、キャラクターそれぞれに扱う武器や覚えるスキル・アビリティが異なる。
キャラクター毎の操作感の性能差として攻撃速度の違いは感じるが、リーチの差は五十歩百歩と言った程度で余り感じにくいと言った所だろう。
原作においては特定の必殺技や魔法を使用すると、強力で必中の反撃をほぼ確定で使用してくる敵が多数存在しており、その存在の影響により魔法主体のキャラクターは活躍しにくいと言う状況が生まれていた。
しかし、本作では攻撃を回避がする事が出来るようになっているため理不尽に感じる事も無くなった。
自分の好みのキャラクターを選択し、操作しやすくなったのは嬉しいポイントだ。

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健在のリングコマンド

本作ではリングコマンドも存在するが、基本的にアイテムを使用する際に利用するだけになっている。
原作においては魔法を実行する際にも使用したが、本作においてはショートカットが用意されているため利用頻度は減っている。

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健在のクラスチェンジ

クラスチェンジももちろん健在だ。
原作ファンとして嬉しいのはクラスチェンジ後の見た目がしっかりと3Dモデルで用意されている点だろう。
本作も原作と同様にクラスチェンジによりワンランク上の必殺技を使えるようになったり、新たなスキルを習得する事が可能になる。
また、アクション要素の強くなった本作においては通常攻撃の回数が増えるなどアクションが変化するという操作面での恩恵も存在する。

原作ではクラスチェンジをした辺りの中盤頃から金欠になりやすいが、本作では序盤から金欠になりがちな印象だ。
資金の需要と供給が設計されているという事でもあるが、筆者のようにアイテムの収集癖があるプレイヤーからすると、この金銭的余裕の無さは苦しい所だ。
なお、装備をキッチリと整えずともある程度は問題なく進行させる事ができるので、収集癖などなく攻略を目指すだけならば気になる事はないだろう。

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増量した探索要素

聖剣伝説 Legend of Manaで登場したサボテンくんを見つけるフィールド探索要素が増えている。フィールド上をしっかりと確認していれば見つけること自体はそう難しくない。

その他、街中やフィールドなどに宝箱やアイテムが落ちていたり、アイテムが入っていたり、回復が出来たりする壺を壊す事が出来る。
原作においては探索の要素がなくデッドスペースになっていた場所も存在したが、本作ではそれらのオブジェクトの存在によって探索の楽しみが増えている。

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気になる雑多な部分

その他、気になった点を雑多にまとめてみた。

本作のステージには謎解きとまではいかないが、原作ライクにギミックによって進行可能になる部分が存在する。
しかし、スイッチを押してもカメラが変化した場所を捉えるような演出がないケースもあるため、何が変化したのかがわかりにくい事もあるのは少し不親切だ。

移動には「ダッシュ」が存在するが、通常時との速度差を余り感じにくいのは少し勿体ない。
もう少し速度差を明確にしても良かったようには思うが、最高速度をこのレベルに抑える必要性があるのであれば、画面にエフェクトやブラーをかけて「速い感じ」を演出する工夫をした方が良かっただろう。

ボタンの割り当ても少々惜しい。
本作は原作と異なり街中でも剣を振れるのだが、剣を振るボタンと会話するボタンが同じため、話しかけようとして攻撃を行ってしまう誤操作をする事もある。
攻撃してもデメリットは無いが微妙なストレスになるため、割り当ては検討をして欲しかった所だ。

デフォルトのカメラ操作スピードが遅いのも少々不便に感じる。
設定から速度を変更可能なためマイナスの要素とまでは言わないが、なぜこのカメラスピードがデフォルトなのか疑問だ。

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やり込み要素や追加要素

聖剣3リメイクにおいてはクリアには必須ではないやり込み用の要素も存在する。

まず1つ目は原作にもあった「ブラックラビ」だ。
原作同様にシナリオを特定の段階まで進めると挑戦する事が可能で、本作ではデュランやアンジェラ以外を主人公として選択しても挑戦する事が可能となった。
敵としては比較的強いが、原作程の強烈なラッシュ攻撃などは無くなっている。
良く言えば良心的な調整が行われているが、悪く言うと数あるボス敵の1体になってしまっており、敵としての印象は薄まっている。

2つ目はクリア後に解放される追加シナリオだ。なお、これはクリア後要素ではあるがエピローグに当たるような部分ではない。
こちらは完全に新規に追加された内容のためストーリーや会話内容は完全新規のものだが世界観を崩すことなく進行するのは安堵するポイントだ。
このクリア後要素では裏ボスとも言うべき相手と戦う事になるほか、全く新しい上位クラス「クラス4」となりキャラクターを更に強化する事が可能となる。
また、強化した能力を試せるだけの長いダンジョンが用意されているのが特徴的だ。
しかしこのダンジョン、やや長すぎるのは欠点でもある。
ステージに入ってからボスに到達するまでの長さが、本編のダンジョンの3~4つ分程は少なくともあり、シチュエーションも敵が配置されているだけに近くモチベーションが長続きしにくい。
ダンジョンを何分割かに分け、その上で要所要素でストーリーなどの会話を織り交ぜるなどペーシングをするべきだったように思える。

 

グラフィック

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新たな発見のある3Dグラフィック

聖剣3リメイクのグラフィックはアンリアルエンジンによって美しく表現されている。
2Dドット時代には詳細にはわからなかった街の構造や立体感は「ここはこういう風に見えてたんだ」という原作では味わなかった雰囲気・空気感を楽しめる。

キャラクターのモデリングに関してはメインとなる6人の主人公は特に良く作り込まれている印象で、特徴的なサブキャラクターに関してもそれなりには作られている。
キャラクターが装備する武器を変更する事で見た目にも反映され、クラスチェンジでも見た目が変更される。

しかし、モーションは全体的にモッサリとした印象は拭えない。
攻撃モーションはメリハリがなく単調で、モッサリとした印象を覚えるのだ。
予備動作から攻撃、後隙と言った一連の動作が一定の速度で行われているためにそのようなモッサリ感があるのではないかと思える。
例え同じ総フレーム数にしたとしても、予備動作や後隙は残しつつも、攻撃はキビキビと敏捷に行う事で少しはモッサリ感が軽減できたのではないだろうか。
その他のカットシーンでのキャラクターモーションも少々ぎこちない。
口パクにしても口の動きが小さく、パクがちゃんとされているのかわかりにくく勿体ない。
モデリング自体は悪くないのだが、モーションの完成度は全体的に物足りない印象を受けるだろう。

その他の少し気になる点も記載しておく。
テキストのフォントサイズが小さい事が少し気になる所だ。Nintendo Switch版においては携帯モードも存在するため、人によっては少し見えにくいと感じる可能性はある。
設定にて「カメラ距離」という項目があるが、体感して目に見えてわかるほど距離が変化しないのも少し困惑する。
スクリーンショットで比較すると少し変化があるのがわかるのだが、逆に言えばそうしなければ違いがわからない程の距離しか変化しないのは不親切だろう。

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あれ?こんなでしたっけ?

マイナスとまで言うつもりは無いが、ウィル・オ・ウィスプのデザインがイメージと違うのは驚いたポイントだ。

筆者としては淡い青色に揺らめく炎の中に顔が付いているイメージだったのだが、顔の周囲の部分は揺らめいたりする事なく渦巻く特徴的な形をした石の塊ようなデザインになっていたのだ。
あれ…?そういう感じ?ま、まぁ良しとしよう。

 

サウンド

聖剣3リメイクでは音楽もリメイクされている。
リメイクされた音楽は原作のイメージを全く崩しておらず、素晴らしい完成度に仕上がっている。原曲厨の傾向がある筆者も全ての曲とまではいかないものの全体的には大満足の完成度だ。
そのうえ、設定により原作楽曲でプレイする事もに可能になっており、聴き比べを行う事でも改めて雰囲気を壊さない良いモダナイズがされている事が伝わる。

SEに関しても原作を踏襲したものを使用している場合も多く、サウンド面でニヤリとできるポイントは多いだろう。

本作ではキャラクターにボイスが追加されている。
メインストーリーはもちろん、戦闘後にもキャラクターがセリフを発するが進行や状況によって内容が変化する。
ボイスの途中で宝箱を開けると、ボイスが途中で途切れて宝箱のアイテムを入手し終わった後に途切れた所から続きが再生されるなど細かい点で微妙に違和感を感じる部分もある。

 

総評

聖剣伝説3 Trials of Manaは「原作に忠実なストーリー」と「モダナイズしたシステム」という、守るべき部分と挑戦する部分のバランスを取った「リメイクとして良い作品」に仕上がっている。

原作では感じ取れなかった街並みの立体感は聖剣伝説3に新たな視点を見出している。
リメイクされた楽曲達の完成度は素晴らしく、原曲をリスペクトしつつ純粋なモダナイズが行われているのは原作ファンとしても好印象だ。

ゲームとしては単純・単調で深みを生み出すまでには至っていない点はあるものの、聖剣伝説3を改めて楽しむには十分な完成度だ。

 

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【レビュー】ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ

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命知らず

ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ(以下、P5S)はアトラスとコーエーテクモゲームスとのコラボレーションによって生まれたタイトルだ。

発表当初は「ペルソナ無双か!?」という印象が強く、いわゆる"お祭りゲー"なのだろうと思っていた。
しかし、その印象は良い意味で裏切られる事となる…。

今回はP5Sのレビューをしていきたい。

 

 

ストーリー

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完全な続編としてのストーリー

まずP5Sのストーリーは外伝などでは無く「正当な続編である」という事を知って貰わなければならない。
本作はペルソナ5コーエーテクモゲームスとのコラボレーションによって生まれた作品ではあるが、その内容は完全な続編として成り立っているのだ。
そのため、ストーリーや会話はペルソナ5と同様にふんだんに用意されており、ペルソナ5とほとんど同じ形式で会話が行われ、たまに会話中に差し込まれるキャラクターの目をフォーカスした顔のカットインといった演出なども全て使用されている。
メーカー同士のコラボレーションタイトルと言うと一種のお祭りゲームのような様相を想像しがちであるが、本作は紛れもなく続編の立ち位置となっているのだ。

続編となると本作から触れる初心者は問題なくプレイできるのかも気になる所だが、その点は基本的には問題ないと言えるだろう。
本作は前作ペルソナ5から半年後という時間軸で物語が展開される。
しかし、前作の内容が本作で密接に関係する事は無いため、どのような事件が起こっていたのかを知らなくても本作の内容は問題なく楽しむ事が出来るハズだ。
とは言え、主要な人物として登場するモルガナやラヴェンツァと言った特殊な存在が何なのかという説明も無いため疑問符が残ったままにはなるかも知れない。そのため、本作から入るという人は「そういうもの」として受け入れるしか無い部分は少なからずあるだろう。

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対比がよく描かれたストーリー

では本作のストーリーをもう少し具体的に紐解いていきたい。
P5Sのストーリーのテーマを端的に表現しようとすれば「反逆の負の側面」になるだろう。
前作に当たるペルソナ5では主人公達は「反逆心」によって人を食い物にする「悪い大人」を成敗してきた。
しかし、本作の敵として登場する人物はどれも私利私欲のために悪行を行うような人物ではなく、主人公と同様の「反逆心」を起点にして大衆心理を操り復讐を行っている人物なのだ。
つまり、「主人公達と表裏一体の存在」あるいは「主人公達も一歩間違えばこうなっていた」といった対比になっている構図は「純粋な悪」として表現された前作ペルソナ5の敵よりも厚みある人物設定になっていると言えるだろう。

物語の進行は前作同様にストーリードリブンで物語を進行させる事でゲームが進行していく形だ。
その基本的な流れも前作を踏襲しており、フィールドワークによる調査を行った後に、パレスに相当するジェイルに侵入するステージクリア制となっている。
ステージは日本各地が舞台となっており、主人公達は各地を巡って世直しをしていくのだが、その旅では各地の観光名所や名物、名品に関する説明が「旅をしている感」を演出してくれている。

物語進行は前作同様に主人公達の特定の仲間にフィーチャーした「お当番制」になっていると言って良いだろう。
お当番であっても、お当番が過ぎても各キャラクターの存在感に大きな違いが出る事が無い点は良く出来ているストーリーだ。
しかし、各ステージの敵人物は特定の仲間キャラクター1人と対比するような構図となっているため、根本的にお当番になるステージが用意されていないキャラクターもいるのは少々勿体なく感じる所だ。
仲間全員がフィーチャーされるように1人で仲間キャラクター複数名と対比出来るような敵人物を用意できれば更に良かったのかも知れない。

大きなマイナスでは無いが、会話にオート送りが無いのは面倒に感じる。
本作は会話の大半がボイス付きで再生されるが、会話のオート送りが無いために会話を進行するためにボタンを押す必要がある。
ボイス付きの会話ではセリフとセリフの間も重要であるため、ボタンを押させるのではなくオート送りを是非とも用意して頂きたい。

前作にあったような仲間との親交イベントである「コープ」のようなシステムはないが、本作においてはそれを補うためにキャラクターと関連したサブクエストが用意されている。
サブクエストでのストーリーボリュームは余り無いため、本作での仲間キャラクターの多角的な掘り下げはやや不足している所だろう。

その他の前作と異なる点も記載したい。
前作ではプレイヤーが何かしら行動する事で一日一日が経過し、特定の日付までにステージを攻略する事が必要になっていた。
しかし、本作では物語の進行と日付が完全に同期しているため、プレイヤーが様々な行動を行っても日付が進んでしまうと言う事は無くなっている。
そのため、ゆったりと自由にプレイする事が可能となっている。

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シンプルな構造ながら冗長なストーリー進行手法

P5Sのストーリー進行はペルソナ5と同様にフィールドワークとジェイル(ダンジョン)パートの2プラトンシーケンスが基本だ。
フィールドワークでは敵の素性を捜査し、ジェイルパートでは敵が出て来るダンジョンを攻略していくような形となる。

フィールドワークやジェイル攻略は1つの大目標に対して、中目標が3、小目標が9といったようなわかりやすい構成が基本となっている。
例えば、ジェイルのボスを倒すためには3つ存在する○○を陥落させる必要があり、○○へ向かうためには警備している3体の××を倒す必要がある…といった具合なのだ。
この基本構造はシンプルな考えの構造なのだが、それをストーリードリブン(一本道)に行わせようとしているためにプレイヤーには非常に冗長なプレイを要求している事がしばしばある。そこがフラストレーションに繋がりやすいポイントなってしまっているのは残念だ。
この理由を端的に言えば「A地点にいって、B地点に行って、C地点に行って…」ととにかく色々な場所にたらい回し状態にされるからだ。
これが「目先の小目標を潰していったら大目標までたどり着いた」という構造にしているのであれば大きく気にならなかった可能性もあるのだが、本作では「大目標に行こうとする⇒行けないので中目標を目指す⇒行けないので小目標を目指す」という行き当たりばったりな構成になっており「たらい回し感」がかなり強くなってしまっているのだ。
このような状況となると、小目標や中目標が「大目標のための障害」としてしか捉えられなくなってしまいがちで、小目標・中目標を達成する事が楽しみに繋がらずモチベーションに水を差す形になっている。
また、たらい回し状態であるが故にストーリーの進行も遅く感じられてしまい、必要以上に時間がかかっている印象を受けてしまう。

このような進行はペルソナ5も同様であったため「前作通り」と言えばそうなのだが、冗長なストーリー部分でプレイ時間が間延びしてしまうのはフラストレーションだ。

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あらすじの機能を持った「仲間と話す」

アジトに集合して「仲間と話す」を実行すると前作同様に物語の進行状況に合わせてセリフが変化する。
これは”あらすじ”の機能を持っているためだが、キャラクター同士の会話で進行状況を確認できるのは手間のかかった作りと言えるだろう。

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ショップに相当する通販

ゲーム内ショップの通販では仕入れ先の情報が表示されるなど細かい部分でもこだわりが感じられる。
ゲームシステムとしては無意味な情報だが、このような設定があるだけでも世界観に広がりを持たせることが出来る。

 

システム

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ペルソナ5 x アクション

P5Sのバトルシステムについて記載していく。
しかし、まずは本作のバトルシステムが独自の路線で組まれているものである事を認識して貰う事が何よりも重要であるように筆者は感じている。
本作は無双シリーズでお馴染みのコーエーテクモゲームスとのコラボレーションタイトルだ。そのため、事前情報においても「ペルソナ無双」などと評される事も多かったように思う。
だが実際には無双シリーズと同じような感覚でプレイをするべきタイトルでは無いのだ。本作は従来のペルソナでも、無双系のゲームでも無い、「ペルソナという作品をアクションゲーム化した作品」になっているのだ。

本作はアクションゲーム(正確にはアクションRPG)だが、ペルソナ5のバトルコマンドとして存在した「スキル」や「ガン」、「総攻撃」など原作を再現した攻撃手段がふんだんに盛り込まれている。
スキルはペルソナによってお馴染みのイラストのカットインと共にカッコよく発動する。発動させるにはコマンドから任意のスキルを選択して発動する事になるが、発動するスキルを選択中は時間が停止するため問題なく使用する事が可能になっている。
しかし、スキル発動に必要なSPは簡単に枯渇し、SPの回復手段も限られるため、スキルをバンバン使っていく事は難しい。
SPはHPの回復手段としても有用であるため、折角用意されているにも関わらず気軽に使用できないのは少々勿体ないように感じる所だ。

戦闘の発生方法も原作同様のシンボルエンカウントで、敵キャラクターにインタラクトする事で周囲に敵が湧き戦闘になる。
そのため、無双系のようなワラワラ感はそこまで無く、無双系アクションを期待していた場合には違和感を覚えるポイントになるだろう。
繰り返しになるが、本作はあくまでも「ペルソナがアクションゲームになった」という表現の方が正しいと言える立ち位置の作品なのだ。

ペルソナ5で登場した魅力的なキャラクター達を自分で操作して楽しめるアクションというだけでもファンならば嬉しいものがあるだろう。
各キャラクターの操作にはコンセプトが設定されており、キャラクター毎に少し異なる戦い方になるようになっている。
ただし、本作は自分の好きなキャラクターを使い続けるようなプレイスタイルを推奨している訳では無く、敵の弱点となる属性を保有したキャラクターを操作するのが基本となっている。
しかし、レベルデザインがイマイチであるのは少々不親切にも感じる所だろう。
敵の弱点をつくことで有利に戦えるようになるメカニクスを用意しているのだが、出て来る敵の弱点属性がまばらであり、誰を使って欲しいのかという意図(デザイン)を感じ取れない。
もう少し「こう遊んで下さいね」というお膳立てをしても良いのでは無いだろうか。

その他、気になる点も少しだけ記載しておきたい。
全体的なカメラワークはデフォルト設定のままでは縦横の回転の速度が遅すぎて背後の敵を対処しにくくアクションにならない。
デフォルト値が何故この速度になっているのか疑問なレベルで、コンフィグからカメラ速度を最速に変更する方が望ましい。

同じボタンに複数機能を載せている事も誤操作に繋がり少々不親切だ。
敵に総攻撃がしたいのにオブジェクトに張り付いてしまったり、奇襲がしたいのにオブジェクトに張り付いてしまったりする事がままある。
この手の誤操作は"慣れ"だけでは対処が難しいため、ボタン割り当てはもう少し検討して欲しかった所だ。

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システムと相性が悪いボス戦

本作にはペルソナ5と同様にボスが存在しているほか、フィールドには強力な大型の敵も登場する。
しかし、ボス戦などの強力な敵との戦闘はお世辞にも良い完成度とは言い難い。
純粋な無双系アクションでは無いとは言え、無双系アクションを母体とした本作は基本構造が「一対多」を想定しているために強力な1体の敵と緊迫感を持って戦う事に向いていないのだ。

まず、画角の広いカメラワークについて記載したい。
無双系であれば「一対多」を基本とするため、画面内に可能な限り敵を描写する必要がある。そのため、カメラ位置は操作キャラクターから距離・高さ共にやや離れた位置に設定されているのだろう。
しかし、これがボスのような1対1のような状況では、カメラ位置がキャラクターから離れているために相手と自分の距離感が正確に掴みにくく、攻撃するにしても回避するにしても戦いにくい印象を与えてしまうのだ。

次に軽快過ぎる操作性もボス戦にとっては障害となる。
画角の広いカメラでは前述の通り敵との正確な距離感は掴みにくい。そのため、無双系アクションでは攻撃アクションの1つ1つの踏み込み距離が長めに設定され、敵に攻撃が当てやすくしていると思われる。
しかし、ボスのような体力も多く、のけ反りも無い敵の場合には懐に潜りやすくなってしまう。そのことが原因で問題が発生しているのだ。
カメラをボスにロックオンした状態で懐に潜ってしまった場合、操作キャラクターと敵の位置関係の問題でカメラがグルグルと回転してしまい視認性が著しく悪くなってしまう。
また、逆にロックオンしていない場合に懐に入ってしまうと、のけ反りの無い敵に対して踏み込んで攻撃をしてしまうために、敵を通過するような形となり攻撃を当てにくくなってしまう。

見た目以上に存在するヒットボックスも同様だ。
一対多を想定し、正確な距離感を掴みにくいという状況の無双系アクションでは、自分も敵も攻撃が当てやすいように見た目以上の攻撃の当たり判定を有している。
そのため、自分の攻撃は「いつ」「どこまで」近寄れば当てられるのかという正確な距離がわかりにくく、敵の攻撃は「いつ」「どこまで」回避すれば良いのかという正確な距離がわかりにくい。
そして、そのような大雑把な立ち回りしか行えないシステムが基盤になっているにも関わらず、繊細な行動を求められてしまうボス戦は楽しさが感じにくいと言えるだろう。

一対多をベースとしている故のこれらの諸問題の影響からか、本作のボス戦は「向いていない事をやらされている感」が強い。
戦闘の方式やカメラワークをシチュエーションに応じて変化させるような工夫がないため、「餅は餅屋」という言葉がピッタリと当てはまると言わざるを得ない内容だ。

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合体によるペルソナの誕生ももちろん再現

P5Sではペルソナとペルソナを合成して強くする「ペルソナ合体」も登場する。
登場するペルソナの数もかなり多く「こんなに作ったのか!!」と驚くばかりだ。

ペルソナ全般の仕様は従来のペルソナシリーズと同様で、合体させる事でスキルを継承させたりする事も出来る。

全てのペルソナは戦闘中に召喚してスキルを発動させる事などが可能であるが、スキルのエフェクトは全体的に派手なため、敵が見えないなどの視認性の悪さに繋がっているのはアクションゲームとしては少々残念なポイントではある。

 

グラフィック

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旅の気分を盛り上げる各地域を再現した街並み

人物のモデリングや前作ペルソナ5でも登場した街並みは流用されているのかそのまま再現されているのは嬉しいポイントだ。
また、前作では行く事のなかった日本各地の街並みも主人公達が旅している事を強く感じさせてくれる興味深い作り込みをしている。

キャラクターモデリングに関しては前作ペルソナ5自体もそうだったが、モデリング自体が精巧と言う訳では無い。
また、ストーリー上の演技にしてもイラストのグラフィックをメインにしており、キャラクターモデルは演技の雰囲気を伝えるに留めている。
他作品で恐縮だが、キャサリン幻影異聞録#FEでは3Dモデルにガッツリと演技をさせており、なぜペルソナシリーズではこのような形式のままでいるのかは不思議な所だ。

画面に表示されるGUIの1つ1つがスタイリッシュな点も継承されている。
視認性やレスポンスを抜群にするでもなく、GUIを風景に溶け込ませている訳でもない。
世界観を演出するようなリッチでスタイリッシュなGUIで統一させている。
この印象的なGUIが健在なのは嬉しい限りだ。

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戦闘中のカットインもバッチリ再現

スキルの発動時に挿入されるキャラクターのカットインもバッチリ再現されている。
こちらも非常にカッコよく、嬉しいポイントだ。

 

サウンド

無双シリーズらしいアレンジがなされたBGMはファンであれば必聴だろう。
それ以外に関しても世界観にマッチした非常にカッコいいジャズな音楽は印象的で思わず音楽と一緒に体動いてしまうだろう。

特にステージ攻略がだいぶ進行した際に流れる「Daredevil」は最高に気分を盛り上げてくれるだろう。

日本各地のショップでのセリフは地方の訛りも表現されていたり、洞窟のような空間ではボイスにリバーブがかかるなど、ボイス関連もしっかりと表現されている。
その他、ゲーム内ショップ画面では待機中ボイスが用意されていたりとボイス自体も充実していると言えるだろう。

 

総評

ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズは純粋なペルソナ作品でも無ければ、無双系のようなアクションゲームでも無い、完全な新機軸のアクションRPGだ。
逆に言えば無双系アクションを期待してプレイすると違和感を覚えてしまうかも知れない作品であり、全く別のアクションゲームとしてプレイするべきだろう。

前作にあたるペルソナ5よりも厚みを持ったストーリーは良く出来ており、ペルソナをアクションRPGとして落とし込んだ手法も素晴らしい。
GUIや音楽の素晴らしさが健在である点も最高だ。

しかし、度々登場する強力な敵やボス敵はシステムとの相性が根本的に悪く、フォークでプリンを食べているかのような親和性の悪さを感じずにはいられない。 

 

外部記事

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【レビュー】幻影異聞録♯FE

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Reincarnation

幻影異聞録♯FE(以下、幻影異聞録)はファイアーエムブレムシリーズで知られるインテリジェントシステムズ女神転生やペルソナといった作品で知られるアトラスがコラボした事によって生まれた作品だ。
当初WiiUでコラボが発表された当時には一体どんな作品となるのか全く見当が付かなかったが、それは開発側も同様だったようで紆余曲折あった事が様々な媒体で語られている。
その影響もあり、新たな情報が公開されるまでに非常に長い期間を要した事を覚えている。
そして、新たな情報が解禁された時には煌びやかな世界観を引っ提げたゲームとなっていたのだ。

今回は異色のコラボ、そして独特の設定を有した幻影異聞録♯FEをレビューしてみたい。

なお、今回はNintendo Switch向けに発売されたEncore版をメインのレビュー対象として記載する。

 

幻影異聞録♯FE Encore -Switch

幻影異聞録♯FE Encore -Switch

  • 発売日:2020/01/17
  • メディア:Video Game
 
幻影異聞録♯FE - Wii U

幻影異聞録♯FE - Wii U

  • 発売日:2015/12/26
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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芸能界xファンタジー

幻影異聞録は芸能界を舞台にしたストーリーが特徴的だ。
ストーリーの会話はフルボイスで、全体的なトーンは明るく、仲間たちが夢に向かってひたむきに成長していく姿が描かれる。
敵として登場する人物にしても必ずしも悪意によって行動している存在とは言い難く、主人公達がアーティストあるいはエンターテイナーといった表現者としてステップアップするための乗り越えるべきハードルとして立ち塞がる存在になっている点も興味深い。

ストーリーの進行も単純なダンジョンクリアしていくものとは少し異なる。
ダンジョンを進めると表現者としてステップアップするためのハードルが登場し、それをクリアするためにイベントを進めるという形式だ。
つまり、大まかには「ダンジョン(探索・謎解きなど)⇒キャラクターのステップアップ⇒ボス戦」のような流れになっている。

本作ではキャラクター毎に用意されたサイドストーリーも用意されており、メインのストーリー以外でもキャラクターの成長が描かれる。
サイドストーリーはよくある「敵を倒せ」のようなもの以外にも「人と会話して進行する」ものも用意されている。
敵を倒させる事をプレイヤーに強要することなく、あくまでもキャラクターの成長に焦点をあてているのは素晴らしい選択だ。
また、サイドストーリーのクリア時にはキャラクターの歌唱やダンスのミュージックビデオのようなカットシーンが用意されており、サイドストーリーで成長した結果を感じさせてくれるご褒美が多めの内容になっている。
なお、サブストーリーの会話もフルボイスになっており聴きごたえも抜群だ。

また、前述の通りストーリーの大半はフルボイスで進行するが、会話にはしっかりとオート送りが実装されている点もありがたい。
ただし、オート送りは「その会話中の期間のみ」で有効となり、別の会話ではオート送りのON/OFF設定が引き継がれない。
そのため、筆者のようにコントローラーから手を離してストーリーを楽しみたいような場合には会話のたびにオート送りをONにする必要があるためパーフェクトとまではいかない仕様だ。

本作ではメインのキャラクター達とは関係の無いサブクエストも用意されている。
サブクエストに関してもある程度のストーリー性を持って展開されるほか、エピローグではサブクエストの人物のその後が垣間見えたりと比較的充実している。
しかし、サブクエストは受注したクエストが一覧で観られないため、各クエストの受注状況などは忘れないようにしなくてはならない点は不便だ。

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FEのキャラクター達

本作はファイアーエムブレム(以下、FE)とのコラボレーションによって生まれた作品だ。
そのためFEの暗黒竜や覚醒のキャラクターが仲間やボスとして登場する。

FEキャラクター達は「ミラージュ」といわれる記憶を失い彷徨っている異世界の存在で、人間が生み出す表現力の源「パフォーマ」と言われるものを糧としている。
彷徨えるミラージュの多くはパフォーマを得るために人々を襲っているが、主人公達を始めとしたミラージュと協力する事ができる程の強いパフォーマを持った存在は「ミラージュマスター」と呼ばれる。
表現者としての能力がパフォーマとなるため、パフォーマを糧とするミラージュを強くしていくためには主人公達も芸能界で表現者としての能力を高めていく事になるのだ。

敵がミラージュを集める理由は示されるのの、根本的にミラージュがパフォーマを糧とする理由は具体的に示されない。
しかし、メタ的な視点を交えれば「ゲームあるいはゲーム内キャラクターは表現者がいて初めて存在し得る」という事を表現したいのではないかと推察できる。
FEを始めとしたビデオゲームと言う作品自体が開発者や声優といった表現者たちの力によって成り立っている。
つまり「ミラージュがパフォーマを糧とする」のは「ゲームとは表現力によって生み出される」「ゲーム内キャラクターとは表現者がいなくては存在できない」という事を表していると読み解けるのだ。

なお、FEのキャラクター達はミラージュという形式以外にも、どこか見覚えのある風貌をした店員がコンビニやカフェにいたりもする。
ファイアーエムブレムシリーズをプレイしているファンならばニヤリとできるポイントだ。

とは言え、全体的にはFE成分は薄く、せっかくのコラボレーションを十分に活かし切れているとは言い難い。
根幹となるミラージュと言う設定にしても「FE」という作品である必然性はなく、他作品でも成り立ってしまうのだ。
良く言えばFEを知らない人でも楽しめるのだが、悪く言ってしまうとFEとコラボする必然性が感じられないのは勿体ない。

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現代的な要素をふんだんに取り込んだ要素

本作は現代(特に2010年代前半)の日本が舞台であるため、現代的なツールが様々に登場する。
代表的なものはSNSのようなツールを利用した「TOPIC」だ。
WiiU版ではゲームパッドの画面上に表示され、Nintendo Switch版では通常のGUI的に表示される。
TOPICのメインの利用方法はストーリーのあらすじとしての機能なのだが、全ての流れを網羅している訳では無い。
そのため、時間をおいてプレイすると次に何をすれば良いのかわからないケースも考えられる。また、オートセーブが無く全滅すると最後のセーブ地点にまで戻されるため、長時間セーブしなかった場合にはどこまで戻ってしまったのかがあらすじだけでは曖昧になってしまう事も多い。
本来の機能としては十分な役割を果たしていないが、TOPICは様々なタイミングで各キャラクターからの会話が追加されるため、キャラクターの生活感などを感じさせてくれるストーリーテリングとしての良いアクセントとしては寄与している。

TOPICの他にもボーカロイドをイメージした「Tiki」という設定も現代的な要素の代表格だろう。

 

Encore

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EXストーリー

Nintendo SwitchのEncore版での追加シナリオとして「EXストーリー」が用意されている。
キャラクターの更なるサイドストーリーといった内容であり、ボイスも新たに追加されている。
EXストーリーのダンジョンでは新衣装が入手できるなどの特典も存在する。

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左:WiiU版、右:Nintendo Switch

WiiU版とNintendo Switch(Encore)版ではストーリー表現の一部に差異が散在する。

Nintendo Switch版であるEncoreは北米版をベースとしており、北米版の改変内容がそのまま適用されている。
変更内容は衣装だけでは無く、セリフに関しても変更が適用されており、良く言えばWiiU版とは違う点を楽しむ事もできる。
しかし、この改変内容は大きなマイナスとまでは言わないが、ストーリーの説得力あるいはキャラクター性とマッチしておらず若干の違和感を感じる演出になってしまっている部分も出ている。
それはヒロインである織部つばさが水着となるシーンだ。
上図がそのシーンの一部となるが、子犬のような性格をしたつばさが撮影に対しての恥ずかしさや緊張する理由が北米版の衣装では説得力を少々落としているように思える。
その上に、根本的にキャラクターとマッチしている衣装だとも感じにくい。

各国のレーティングに対応し、なおかつ投入可能なリソースを天秤にかけた結果の処置だと言うのは十分に理解できるのだが、ユーザーファーストとは言い難い内容ではある。

 

システム

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仲間の絆で畳み掛けるセッション

幻影異聞録のバトルシステムではペルソナ系列のシステムがベースとなっている。
戦闘はターン制となっており、基本的には速さ順に各キャラクターが行動をしていく。
そして敵(自分もだが)には弱点が設定されており、その弱点を突いた攻撃をする事で攻撃側にメリットが発生する仕組みになっている。
RPGとしては比較的クラシックでオーソドックスな理解しやすいシステムだと言えるだろう。

本作の戦闘で特徴的なのはその弱点を突いた際に発生する「セッション」だ。
セッションは上図をご覧いただけると雰囲気が伝わるかも知れない。
まず最初に起点となる弱点を突く攻撃を行う。すると、それに呼応してセッションが発動し味方キャラクターが追撃を行ってくれるのだ。
キャラクターの育成が進めば戦闘に参加していない控えのメンバーもセッションに参加できるようになり非常に多くの追撃が発生する。
また、Encore版では特定の追加ダンジョンを進行する事によって非戦闘員もセッションに参加してくれるようになるため、更に多くの追撃が発生するようになる。
戦闘非参加のメンバーでもしっかりと活躍の場が用意されているのは「チームで戦っている感」を演出する嬉しくなるポイントだ。
他にも、セッション発生時にはキャラクター間で短い声掛けが行われるため、パーティー間の関係性を演出する事にも一役買っている。
行うこと自体は敵の弱点を突くと言う単純なものではあるのだが、数多くの連撃を行う爽快感と仲間と協力して戦う共闘感の2つを同時に生み出すセッションは非常に素晴らしいシステムだ。
なお、Encore版ではセッションのモーションを簡略化させて戦闘テンポを向上させるクイックセッションが用意されている。
クイックセッションは戦闘中にいつでもON/OFFが行われるため、じっくり見たい時にだけONにするなどが行いやすく配慮が行き届いている。

キャラクターの育成サイクルが比較的早い点もプレイのモチベーションに繋がりやすい。
本作は武器からスキルを習得するようなシステムなのだが、1戦闘でもスキルを覚えていく事も多い。
そして新しいスキルを覚えたかと思えば、次にはレベルアップするなど、早いサイクルで目に見えて強くなっていくため、サクサクと進行している印象を与えてくれるのだ。
また、既に同じスキルを持っていると「+1」のようにインクリメントされスキルの効果が増強される。
物語が進めば同じ武器を何度も作成する事も可能となるため、スキルを習得する楽しみが減る事もほとんど無いだろう。
ただし、キャラクターのスキルは並べ替えが行えないため視認性の向上が行えないのは痒い所に手が届いていない。

キャラクターの成長要素としてはFEシリーズではお馴染みの「クラスチェンジ」も存在する。
クラスチェンジは特定のアイテムを使用する事で行う事ができ、ステータスの向上や作成できる武器の数が増加する。
クラスチェンジでキャラクターが強くなることはRPG特有の魅力があるのだが、クラスチェンジを行うとキャラクター(ミラージュ)の見た目の個性が失われてしまい、一見するとモブ敵のようにすら思えてしまうのは少々残念だ。
クラスチェンジしても見た目の個性はある程度は残して欲しかった所だ。

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運要素が強いデュオアーツとアドリブパフォーマンス

本作の戦闘ではデュオアーツとアドリブパフォーマンスという華やかな要素も戦闘を鮮やかに彩っている。
デュオアーツやアドリブパフォーマンスが発動するとキャラクターの歌やパフォーマンスと共に攻撃が行われる豪華な演出が特徴的だ。
なによりも戦闘中に歌が挿入されるのはテンションを高めてくれる。

デュオアーツは端的に書くとセッションの最後に確率で発動するものなのだが、発動すれば大ダメージを与えるだけでなく、再度セッションが発生して連撃が発生する。
再度発生したセッションでもデュオアーツが発動する可能性があり、そうなれば一回の攻撃で20コンボ以上の大連鎖攻撃にもなる。
演出も威力も非常に強力だ。

アドリブパフォーマンスはスキルを使用した際に確率で発動するものだ。
こちらもデュオアーツ同様にキャラクターの歌やパフォーマンスなどによって強力な攻撃を行うものとなっている。

しかし、デュオアーツとアドリブパフォーマンスを戦術や戦略に組み込む事が出来ないのは残念でならない。
上記に記載している通り、この2つの要素の発動条件が確率に左右されるためだ。
「戦闘中に累計n回セッションを発生させると確実に発動する」「○○を行うたびに発動確率が上昇していく」など大小なりともプレイヤーが制御可能な形に落とし込む事で戦術性や戦略性を持って利用できるようにして欲しかった所だ。
豪華な演出で強力な攻撃を行うというご褒美のような攻撃手段だが、それがシステム全体のどこにも依存しない孤立した要素になってしまっているのは勿体ない。

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活かし切れていない要素

本作では活かし切れていない勿体ない要素も散見される。
どれも「勿体ない」というレベルであるため、マイナスの要素とまではならない事は留意されたい。

本作はFEとのコラボレーションタイトルでもあるが、「ストーリー」の項でも述べた通りFEとコラボする必然性が薄い。それはバトルシステムでも同様だ。
FEシリーズと言えば聖戦の系譜からではあるが「三竦み」が代名詞的なシステムとして知名度が高い。
それを踏襲し、敵のデザインは「剣を持っていれば槍に弱い」など視覚的に弱点が把握できるようになっている。
しかし、この活用方法は表面的な非常に薄いものであり、コラボレーションを見事に活用できているとはお世辞にも言い難い。
作品としてはしっかりと成立しているため問題は無いのだが、「FEとのコラボレーションでなければ実現しなかった」と言えるものにまで昇華していれば更に良かっただろう。

通常攻撃の価値が無い点も勿体ない。
本作の主軸のシステムは前述の通り弱点を突いて発動させるセッションなのだが、セッションが発動するのはスキルで攻撃した時のみなのだ。
通常攻撃では何も発生する事は無い。
ダメージも低いため、スキル発動のために必要なEPが枯渇している時にしか利用する事は無い。
だが、根本的にEPはふんだんに用意されているため枯渇させようと思わなければ、そのような状況になる事はほとんど無いと言っても良い。
通常攻撃をコマンドの選択肢に入れるのであれば役割を持たせるべきだったように思う。

ガードも同様に価値が薄い。
ターン制である本作のような戦闘では、「強力な攻撃が来そうだ」といったメッセージなどで敵が特定のターンに強力な攻撃を発動する事がわかっているような状況でも用意しなければガードと言う行動を選択する事は考えにくい。
また、ガードを行うとEPが回復するのだが、その回復量が2固定である事も存在意義の無さを助長している。キャラクターのEP最大値は200や300は当たり前で、消費するにしても10や20といった単位だからだ。
せめて最大EPの10%回復など成長しても恩恵があるようにして欲しかったと言える。
ガードを使用を促すようなお膳立てがされていないのは勿体ない。

 

グラフィック

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現代&ファンタジーの日本

幻影異聞録では現代の渋谷や新宿といった街並みを再現している。
街では様々な広告が表示されているのだが、物語の進行に応じて広告内容に変化があるなどキャラクターの成長や物語の進行を感じさせてくれる。

渋谷や新宿などのフィールドはやや狭いが窮屈に感じるような事は無く、ショップなどに回るのも苦にならない広さと言った印象だ。
また、ダンジョンはフィールドよりも広く設定されているが、冗長に感じない丁度いい程度の広さであるため良いバランス感覚で作られている。

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華やかなGUI

煌びやかなGUIや戦闘フィールドの華やかさも素晴らしい。
全体的に明るい黄緑をベースに統一している点も特徴的だ。

なお、メニューの各種項目名は北米版準拠となったのか、WiiU版とNintendo Switch版とでは異なっているようだ。

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良く動くキャラクター達

会話シーンではキャラクターの3Dモデルのリアクションによって行われる。
また、戦闘中アニメーションは良く出来ている。

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ダイナミックなカメラワーク

キャラクターの各種アニメーションも良く出来ているが、戦闘における攻撃(特にセッション)のカット割りが良く出来ている。
味方キャラクターと敵キャラクターを画面に収めつつも、ダイナミックに見えるように煽りや遠近のコントラスト使用したカメラワークを行っている点が素晴らしい。

 

サウンド

曲はとにかくポップで明るいトーンで統一されているものが多い。
劇中歌はメロディ自体も良いが、キャラクター性を歌い上げたものにもなっているため作品・キャラクターにも非常にマッチしている。
街頭では宣伝CMのような声が聞こえるなど、世界観を構築させる事に成功している。

ポップな通常戦闘曲「SESSION!!!」

緊迫したボス戦闘曲「絶対に負けられない!」

キャラクターの成長を感じさせる明るいFEのメインテーマアレンジ「ステップアップ!」

強大な相手との対峙を感じさせる「導かれし運命」

強いメロディを持ちながらも霧亜の内面性を歌い上げた「Reincarnation」「迷路」

つばさの内面性と成長を歌い上げた「Feel」「友達以上、恋人未満。」「Fly ~君という風~」

ポップでアップテンポな「ドリーム☆キャッチャー」

物語の最後に相応しい明るく感動的な歌詞が非常に印象的な「Smile Smile」

本作の劇中歌はどれも非常に素晴らしく印象に残るものばかりだ。

また、ボイス関連においても戦闘中のセリフの多さがパーティーの雰囲気を作り上げている。物語の進行によっても戦闘中のセリフ内容も変化する事があるためこだわりが感じられる。
その他、衣装によっても専用のセリフが発生するケースもある。

 

総評

幻影異聞録♯FEはバランス良く整えられた一作だ。

共闘感を演出する戦闘はシンプルながら華やかさがあり面白い。
ダンジョンの長さは把握しやすく、攻略もしやすい適度な広さとなっている。
ストーリーや戦闘中に挿入される印象的な楽曲の数々は曲としての良さを確立しつつもキャラクター性を歌い上げており、作品とのシンクロを果たしている。
そして芸能界と言う煌びやかな世界で純粋に成長していくキャラクター達からは元気を貰うことが出来るハズだ。

また、サイドストーリーやサブクエストを網羅しつつクリアしても50時間前後であると言う点は本作を最後まで飽きずに楽しむことが出来る丁度良いボリューム感でまとめ上げられている。
FEというシリーズとコラボする必然性が薄い内容になっているのは勿体ない所だが、それは本作の質の良さに大きな影を落とすようなものではない。

 

外部記事

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【レビュー】SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズ

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交差しない光

SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズ(以下、クロスレイズ)は名前の通りだがGジェネレーション(以下、Gジェネ)シリーズの作品だ。
筆者のGジェネシリーズ遍歴は「Gジェネレーション アドバンス」「ワールド」をプレイしている程度であり、それほど熱心なファンという訳では無い。
しかし、Gジェネシリーズはオリンピックのように数年間に一度くらいの周期で無性にプレイしたくなるタイトルの1つなのだ。
今回はそんなサイクルにぶち当たり購入に至ったクロスレイズをレビューしてみたい。

 

SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ -Switch
 
【PS4】SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ
 

 

ストーリー

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作品を追体験するストーリー

クロスレイズはガンダムにおけるいわゆる「宇宙世紀を舞台にしていない作品群」を1つにまとめたタイトルだ。
本作のストーリーは各作品を追体験するようになっており、作品の様々なシーンをストーリーとして、そしてシミュレーションゲームとして再現している。
アニメを観て、そして作品が好きになったファンであれば嬉しい要素ではあるだろう。

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交差(クロス)していない問題

では、本作が複数の異なる世界観を内包する事に成功しているかと言うと「否!断じて否!」と言う他ない。

各作品は「追体験」するに留まっており、作品間を跨いだようなストーリーや演出は皆無だ。
登場作品を宇宙世紀以外のガンダムに絞っているにも関わらず、追体験のみで終わってしまうのは作品をクロスオーバーさせている意味を欠いている。

また、追体験形式のストーリーではあるが本作だけで本編のストーリーの面白さが伝わるレベルに到達しているかと言われると、それも「否」と言わざるを得ない。
描写が飛び飛びであるため物語の間の空白が空白のままなのだ。
アニメを既に観ている人であれば脳内で出来事を補完できるが、このタイトルから作品を知ろうと思うと良さは伝わりにくいと言えるだろう。

 

システム

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ガンダムシリーズが様々に登場する

クロスレイズでは宇宙世紀以外の作品群から様々な機体が登場する。
主役級の機体が登場するのはもちろんだが、脇役であったり敵が乗る量産機なども数多くの種類が参戦している。
戦闘アニメーションにしても原作のシーンを再現したものが数多く用意されており、こちらもファンならば嬉しい要素だろう。

ユニットには複数の武装が設定されており、また武装毎に射程距離が設定されている。
攻撃や反撃は射程内に入っている武装のみを使用する事が出来る。
逆に言えば射程外の武装しか無い場合には攻撃はもちろん、反撃が行えないため、一方的に叩く/叩かれる事があるのは当たり前の事だが注意が必要だ。

本作では複数ユニットに対してダメージを与えられる行動はいわゆる「マップ兵器」を除けば「戦艦連携」「遊撃連携」に限られている。
この連携攻撃は最大9ユニットまでをターゲットにする事が可能だが、ターゲット数を増やすと威力が下がってしまう性質があるため、強力ではあるがどのように活用するか考える必要がある。

戦闘アニメーションは原作アニメのワンシーンを再現しているが、そうであるが故に戦闘アニメーションが非常に長く冗長で、戦闘のテンポを著しく落としてしまっていた。
戦闘アニメーションはカットできるが、それは本作の醍醐味の部分が損なわれる選択でもある。
そのため、リリース当初は「観る」or「全カット」するかの二択しか用意されておらず配慮不足と言わざるを得ない状態だったのだが、アップデート(v1.50)にて戦闘アニメーションの早送りが追加されている。

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とにかく雑なバランス

登場機体や機体のディティール、モーションは原作再現にこだわっているが、それ以外の部分は総じて雑だ。

まず、チュートリアルがテキストのみで完結してしまうのは雑な説明と言わざるを得ない。
複雑なシステムは設計されていないとは言え、これでは初心者にとっては困惑してしまうように思える。
特にユニットやキャラクターの強化方法など、どこから何を強化できるのかがわかりにくいため、もう少し丁寧なチュートリアルを差し込むか、理解しやすいGUI設計にして欲しい所だ。

各ステージに登場する敵ユニットの配置(レベルデザイン)が雑な事も気になる。
シチュエーションが原作を再現するだけに終始しておりレベルデザインと呼べるような配置などは皆無でゲームとしては問題がある事も多い。
初期ユニットでは明らかに難しいステージもあれば、初期ユニットであるにも関わらず高難度化させても簡単にクリアできてしまうものもあるなど、およそ「(楽しめるための)デザインがされている」とは感じられない。
全てのシチュエーションでは難しいかも知れないが、工夫次第で勝利が得られる絶妙な歯応えのデザインを目指して欲しい所だ。

敵AIの行動パターンも雑だ。
射程外から一方的に攻撃してくるような事も無ければ、弱ったユニットを総攻撃してくるような事もない。
筆者がプレイした限りでは敵ユニットがしっかりと思考して行動しているようには思えなかったのが素直な感想だ。
このような不可解な挙動をされてしまうと、プレイヤー側も計算立ててユニットを配置する事ができず雑なプレイをせざるを得ない。

戦闘においてはダメージ計算もわかりにくい煩雑さがある。
ダメージは「武装自体の火力」「機体の攻撃力」「相手機体の防御力」が影響するようなのだが、どのような計算を行って実際のダメージ値になっているのかが直感的には非常にわかりにくい。
また、上図を参照して頂ければ理解できると思うが戦闘後の結果も画面上に表示されないため、実際に戦闘を行わなければダメージ値が把握できない。
そのため、「この機体は3回は攻撃を耐えられるな」と言ったような戦術が立てにくいのだ。だいたいのケースは「おおよそ3回は耐えられそうかな?」と言った曖昧な判断にならざるを得ず、かなり大雑把な采配しかできない。

本シリーズ全般に言える事かも知れないが、機体が没個性化している戦闘バランスは最も雑さを感じる所だろう。
本作ではワンオフ機でも量産機でも同じ土俵に立てるようにしているが、特別なシステムを何も用いずに同じ土俵に立たせてしまっているためワンオフ機でも量産機でも似たような性能の機体になってしまっている(この没個性が前述のレベルデザインの雑さにも繋がっているほか、没個性を考慮したレベルデザインも行われていない)。
アニメの劇中では非常に高い性能を有していたにも関わらず、ゲームでは量産機とどっこいどっこいの泥仕合をしているようでは違和感が強い。
本作にはレベルが用意されているため、レベルが上がれば原作のように敵機を蹂躙できるようにはなる訳だが、それも結局は同様の事をすれば量産機であっても行えてしまう芸当だ。
例えば、出撃コストを設定するなど性能に応じて出撃可能な枠を絞るようなシステムを組み込み、その上で性能差は明確に分けるなど、機体に役割を持たせて同じ土俵に立たせて欲しかったと言える。

また、雑なのは機体だけでなく武装に関しても同様だ。
牽制に使用されるようなビーム兵器と、大砲のような重火器の主砲との威力・消費エネルギー量の差が小さすぎるのだ。
例えば、威力3000で消費エネルギーは10の兵装と、威力3200で消費エネルギーは12の兵装となっており、本作のような設計(戦闘システムやマップ、レベルデザインなど)においてこの程度の差では使い分けるようなシチュエーションが生まれる事の方が稀だ。
威力3000で消費エネルギーが10の低火力高効率の兵装と、威力が6000で消費エネルギーが25の高火力低効率の兵装などを用意すると言った素人でも思い付くような単純明快な区別すら無いレベルでは武装の違いによってシミュレーションゲームの楽しさを生み出す事は難しい。

本作では(Gジェネシリーズ全般と言っても良いのかも知れないが)、「ビジュアル(表面)的な原作再現をすること」に終始しており、それを超えた「ゲームとしても楽しいもの」に昇華しているとは言い難い。

 

グラフィック

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まずまずのグラフィックディティー

クロスレイズにおけるグラフィック水準はそこそこと言った所だろう。
悪い訳では無いが、ディティール部分の美しさに欠けている。
機体の3Dモデルなどはまずまず良いのだが、背景のグラフィックはややチープな印象なのだ。
もちろん機体がそれなりに良く出来ていれば十分な及第点なのだが、もう少し上のレベルを狙っていけるようには感じる所だ。

システムの項でも少し述べているが、戦闘アニメーションでは原作のワンシーンを再現したものを使用しておりファンには嬉しい演出だ。
もちろん、ストーリーでも少しではあるが3Dモデルによるカットシーンが用意されている。

 

サウンド

クロスレイズにはサウンドエディションと言うバージョンが用意されており、サウンドエディションでは各作品を象徴するようなオープニング曲やエンディング曲が原曲で用意されている。
戦闘中に自分の好きなBGMを設定して流すことが出来る点も嬉しいポイントだろう。
ただし、オープニング曲やエンディング曲に関しては冒頭から流されるため、冒頭部分がサビから始まるような構成となっていない曲の場合には、戦闘アニメーション中にサビが流れない事になるためやや盛り上がり方に欠けてしまう印象を受けるかも知れない。

その他のBGMに関しては原作のBGMを再現したものを収録しているが、その品質自体は高くないため少々チープな印象を受けてしまうだろう。

 

総評

SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズは原作再現に終始しただけの作品だ。

ストーリー、登場機体、戦闘アニメーション、BGMなど各要素のどこを切り取っても「原作再現」で止まっている。
原作アニメとゲームが、そして原作アニメ同士がクロス(交差)する事なくパラレル(平行)に動いてしまっているのだ。

 

外部記事

『SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ』は前作以上のボリューム!! カギを握る4人の開発者が語る本作の魅力とは!? - ファミ通.com

【レビュー】ポケットモンスター ソード/シールド

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剣と盾

ポケットモンスターソード/シールド(以下、ポケモン剣盾)は20年以上の歴史を持つポケットモンスターの本編シリーズが初めて据え置き相当のコンソールに登場した記念すべき作品だ。
映像のクオリティが格段に上がり、ワイルドエリアと言う広いフィールド、レイドバトルも話題を集めた。
また、話題を集めたのはポジティブな方面だけでなかったのも事実だろう。
据え置き相当の品質となった対価として全てのポケモンが登場できないという発表がE3のTree House Liveにて発表されたのだ。
品質を担保するためには、量が犠牲になる事は少なくない。
筆者としては品質を保証した決断に好感を持ったが、世間では必ずしもそうでは無かったようだった。
今回は発売前に嵐が吹き荒れたポケモン剣盾をレビューしてみたい。

なお、筆者はポケットモンスターソードのみプレイしている。
ストーリーやシステムなどに差はないハズだが、その点は留意願いたい。

 

ポケットモンスター ソード -Switch

ポケットモンスター ソード -Switch

  • 発売日:2019/11/15
  • メディア:Video Game
 
ポケットモンスター シールド -Switch

ポケットモンスター シールド -Switch

  • 発売日:2019/11/15
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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成長していくキャラクター達

ポケモン剣盾のストーリーは主人公の周囲のキャラクターの成長によって描かれる。
これはシリーズの傾向を受け継いだものと言えるだろう。

挫折したりしながらも真っ直ぐに成長していくホップ。
一見チャラチャラしているが旅をして学者としての知見を広めていくソニア。
他者依存の傾向があるが、自身の在り方を見つめなおしていくビート。
寂れた地元の人達のために戦う中で、自信を付けていくようになるマリィ。
各キャラクターはデザインを含めて非常に魅力があり、その成長していく姿は未来への希望を感じさせる物語になっている。

ストーリーの項で書くべき内容かは微妙だが、気になった点も示しておく。
特に気になるのは「選択肢のデフォルトが未選択状態になっていない」ことだろう。
選択肢を選ばせるようなセリフなどで誤ったものを選択しやすい。
この仕様のせいで筆者は技を思い出させようとして何度も名前を変更しようとしてしまった。
近年は選択肢の選択状態のデフォルトをAでもBでもない「未選択」にするのがユーザーフレンドリーであるため、主流となりつつあるだけに少々検討不足だったように感じる。
ただし、この選択のミスによって致命的な結果となる事は無いと言っても良く、大きなマイナスとまではならない。
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戦闘中に発生するセリフ

本作では戦闘中にもキャラクターのセリフが多数発生するのは本作の特徴だ。
以前の作品にも戦闘中にトレーナーのセリフが挟まるケースは存在したが、本作ではセリフがより充実している。
セリフの発生トリガーは「効果抜群を与えたとき」「急所に当てたとき」「最後の1匹になったとき」など様々だが、各トレーナーのキャラクター性を表現したセリフ内容によってキャラクターがより深く掘り下げる事ができているため面白い。

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クリア後に始まる短めの第二部

本作は大まかに二部構成で物語が構成されている。
第一部はお馴染みとも言えるが主人公を始めとした若い世代がチャンピオンを目指すものとなっており、第二部は伝説のポケモンを捕まえるための物語となっている。

第二部の物語自体はそこまで長いものでは無いが、伝説のポケモンを捕まえるためのストーリーをクリア後(チャンピオンになった後)に用意しているのは特徴的だ。

しかし、個人的にはこのような構成にしたために伝説のポケモンを捕まえるまでの道のりが長すぎるように感じた。
「伝説のポケモンを捕まえるための物語」ではなく、「伝説のポケモンと共に歩む物語」を用意して欲しかった所だ。
伝説のポケモンを捕まえてから始まる「伝説のポケモンとの物語」が用意されていれば伝説のポケモンであるザシアン・ザマゼンタという存在が掘り下げられたように思える。

 

システム

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奥深いバトルと親切になった育成と沼のようなこだわり要素

ポケモン剣盾では戦闘における大きな部分での変更はない。
基本の手持ちは6匹、そして1匹辺りに覚えられる技は4つと言う少ない手札となる。
手札が少ない中で、数多く存在するポケモンをどれだけ仮想敵としてカバーできるかと言う戦術を考える必要があるため、戦闘にはメタ要素も多くゴールの無い奥深いものとなっている点が本作が長続きするシリーズタイトルになっている所以の1つだろう。

過去作も同様であるが、ポケモンシリーズにおいてはチャンピオンになるまでは相手が何のタイプのポケモンを出してくるのかが予想しやすいため、バトルのチュートリアルの延長線上と言えるだろう。
本作のバトルの本質的な奥深さを知るには、クリア後要素である「バトルタワー」あるいは通信による他プレイヤーとの対戦が必須だ。

本作で変わったポイントを挙げるとすれば「育成のしやすさ」が真っ先に来るだろう。
敵から貰える経験値もレベル差によって補正がかかるのはもちろんだが、”けいけんちアメ”と言うものが新たに追加され、それを使用する事で任意のポケモンを簡単にレベルアップさせることが出来る。
それによって「○○タイプのポケモンを手持ちに入れたいが、育成に時間がかかってしまう…」という事はほとんど無くなったと言って良い。
レベルアップが手軽になったためストーリー上のジムリーダー戦で苦戦するような事はほとんど無いだろう。

また、「ハーブ」と言う要素によってポケモンの性格による能力補正を変更できるようになった。
これによりいわゆる「厳選」という作業の重要性は減ったのは素晴らしい反面、簡単に入手できるアイテムでは無いため、捕まえるだけで精一杯と言ったポケモンの場合に使うのが良いのかも知れない。

その他にも、手持ちからそのままボックスにアクセスできるなど、ポケモンの入れ替えもスムーズになっている。
ポケモンは古くからファストトラベルがあった作品だが、本作ではマップからファストトラベル可能になった。
移動にしても自転車にさえ乗っていれば、そのまま水上も走行できるようになるなど様々な点でも利便性が向上している。

初心者に対しての配慮がされているのも良い点だ。
特に最初のポケモン(いわゆる御三家)を手に入れてからの初戦のデザインは素晴らしいチュートリアルだ。
相手はポケモンを2匹持っているのだが、1戦目では手持ちポケモンが行える選択肢が少ないため簡単な戦い方のシーケンスを学ぶことができる。
1匹目の相手に勝つ事でポケモンがレベルアップするのだが、レベルアップするとタイプ一致の技を覚える。
2戦目では覚えたてのタイプ一致技を使いたくなるのは必然で、実際に使用すると効果抜群が発生する。
初心者であってもポケモンのバトルシーケンスと効果抜群など主軸のシステムが大まかに把握できるようになっている。

少々残念に感じるポイントとしては、近年のシリーズではポケモンが多様化した事により見た目から強みや弱みが認識しにくいという点だろう。
ポケモンのデザインがそのまま機能として成立するような域には到達しにくくなっており、最初期の頃と比較すると直感性が犠牲にされていると思わざるを得ない。
本作に限った欠点では無いが、デザインの工夫はもう一声欲しい所だ。

冒頭でも記載しているが、本作において話題になったポイントとして筆頭に上がるのは「全てのポケモンが登場しない」という点だろう。
確かに大好きな特定のポケモンが出ない事は悲しい事かも知れないが、品質と量は天秤にかけざるを得ない問題だ。
量を追い求める余りにグラフィックやアニメーション、レスポンスがチープになってしまうと、逆に印象が非常に悪くなるのは必然なのだ。
もしも簡単にポケモンを登場させられるのであれば、それをしない理由は無く、これが苦渋の決断だった事は明らかだが、量よりも質を優先した事は英断だったと言えるだろう。
なお、アップデートにより登場するポケモン種類が大幅に増える事が告知されている。
特定の大好きなポケモンがいる場合には今後のアップデートに期待したい所だろう。

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ポケモンが生きるワイルドエリア

ポケモン剣盾では従来にはない広いフィールドを歩き回れる「ワイルドエリア」が追加されている。
ワイルドエリアでは今までではあり得なかったような強力なポケモンがいきなり登場(シンボルエンカウント)する事もあり、ある種の生態系の様相を呈している。
また、ワイルドエリアは天候があり、天候によっても登場するポケモンが異なる。
このようにポケモンの強さや天候などでポケモンの生活感をより表現するように変化したのはポケモンと言う存在の厚みに繋がるため非常に良い要素だ。

このワイルドエリアでは様々なポケモンが登場するため、序盤から多様なポケモンを手持ちに加える事も可能になっている。
広いフィールドと言う見た目だけでなく、ゲームのバランスとしても挑戦的なデザインをしていると言えるだろう。

このワイルドエリアと言うフィールドへの要望を強いて挙げるのであれば、ポケモンの日常生活感をもっと感じさせて欲しかったという点だろう。
本作ではポケモンの生態系のようなものは感じ取れるが、食事であったり、昼寝であったりと言った生き生きとした様々な動きも見せてくれれば更に数段上の良さがあったように思える。
しかし、ポケモンと言う巨大なコンテンツにいきなりそこまでのものを要求するのは酷な話でもあるだろう。ここでは次回作に期待するべきものとしておきたい。

ワイルドエリアとは逆に、従来にあったような洞窟といったダンジョン形式のエリアは非常に簡素な構成になっている。
長い迷路のような構成にはなっておらず、成長の手間を軽減させている方向性と同様に冒険する上でストレスとなる要素を極力廃した格好だろう。
とは言え、ストレスが無さ過ぎるために記憶に残るエリアなどが無くなってしまっているのは少々寂しい所とも言えるだろう。
本作においてはワイルドエリアを除いたエリアが後世に語り継がれていくような事は少ないかも知れない。

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変わった前哨戦から始まるジムリーダー戦

ポケモンシリーズでお馴染みのジムリーダー戦ではユニークな前哨戦が用意されている。
前哨戦の内容はジム毎に異なっており、内容としてはパズルやピンボールライクなものなどで、難易度自体は低いものの一風変わった遊びになっている。

そしてジムリーダー戦では本作の新要素であるダイマックスを使用したバトルが展開される。
前述の通り、本作はレベリングなどの育成自体は容易いため、手持ちのパーティーがタイプ相性的に不利なメンツしかいなかったとしても、「有利なポケモンを新たにゲットして育成して…」といった作業は簡単に済ます事ができる。
そのため、本作のジムリーダー戦では苦戦するような事は過去作以上にほとんどないように思える。

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幅と便利さが向上したオンライン

ポケモン剣盾は従来から存在した通信機能の幅と利便性が増している。

まず、ポケモン交換といった通信によるマッチングが非同期にバックグラウンドで行われるようになり、プレイの進行を妨げないのは嬉しい改良ポイントだ。
これによって更に気軽に対戦や交換が行えるようになったと言って良いだろう。

そしてポケモン剣盾では新たにレイド形式のマックスレイドバトルが追加されている。
ポケモン初の協力中心のバトルだが、これは1人プレイ用にCPUが味方として手伝ってくれるものも用意されている。

しかし、このレイド戦は少々手が届ききっていないように見受けられる。

レイド戦では戦闘シーケンスが通常のバトルとはやや異なり、HPが下がるとダメージバリアを張り、バリアの耐久値を削らないとHPに大きなダメージが与えられなくなる。
だが、(自身のダイマックス中の攻撃を除き)全ての攻撃でバリアの耐久値を削る値が変わらないため、事前準備や戦闘中の攻撃による戦術性・戦略性が低い。
また、敵の放つ強力な攻撃にしても単純に自分のポケモンのHPで受け切るという選択肢が中心になってしまっている。
せっかく他プレイヤーとの協力するプレイであるにも関わらず、戦術性が低い単純な消耗戦にしかならないのは勿体ない。
もちろん、パーティー全体を回復する技を持っているポケモンやタンクのように攻撃を引き受ける技を持っているポケモンもいるにはいるが、その数は少なく出番が無いと言っても良い。
レイド戦を意識した攻撃・盾・回復と言ったロールを決定付ける技をもっと多く、そしてもっと多くのポケモンが覚えるようにお膳立てしても良かったのではないだろうか。
もしくはレイド戦に限り、使用可能な技の枠を5~6つに増やし、レイド用の技を設定しやすくするのも手段としては良かったように思える。

また、マックスレイドバトルをオフラインの1人プレイで行おうと思うと更なる問題が出て来る。
1人プレイやレイドの参戦人数が少ない場合には頭数を埋めるためにCPUが参戦する。ところが、このCPUがとにかく頼りなさ過ぎるのだ。
当たり前のようにコイキングなど進化前のポケモンを場に出し、レイドボスの攻撃を受け切れずに一撃死を繰り返す。
確かに友達よりも頼りになるCPUがいても1人でプレイする方が効率が良くなるため困った事にはなるが、これ程までに足を引っ張ってしまうレベルに調整するのはいかがなものかと思えてならない。

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ポケモンと触れ合うキャンプ

ポケモン剣盾ではポケモンと触れ合う新たな要素にポケモンキャンプが追加されている。
ポケモンとはねこじゃらしやボールで遊ぶことができ、そのリアクションはとにかく可愛らしい。

また、キャンプではカレーを作れる。
カレーにはワイルドエリアにて採取した木の実などの食材を入れる事ができ、味付けを決めることが出来る。
カレーは数多くの種類が用意されており、これを全て埋めるだけでもかなり大変な量が用意されている。
出来上がったカレーを観ていると、こちらもカレーを食べたくなってくるのは憎い演出だ。

 

鎧の孤島

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鎧の孤島

「鎧の孤島」はポケットモンスターシリーズ初となるDLCの第一弾として配信された。
ボリュームとしてはストーリーのクリアだけであれば5時間程度のものとなっている。
目玉としてはやはり本編では登場しなかった過去作のポケモン達が多数登場するという点だろう。

 

ストーリー
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素晴らしい新キャラクター達

鎧の孤島ではダンデが修行したと言う道場に入門する事になるという形でストーリーが展開する。
この鎧の孤島にて新たに登場するキャラクター達は非常に濃く、ストーリーを引っ張っている。

筆者はソード版であるためクララがライバル的なポジションで登場したのだが、彼女のキャラクター性は非常に魅力的だ。
クララは強くて可愛い自分を目指し、”どくタイプ”のジムリーダーとなるべく道場へと入門したものの、怠け癖があるようでなかなか成長しきれないでいたようだ。
しかし、主人公という自分よりも強力な存在の登場によって徐々に火が付いていく。
鎧の孤島のストーリーは短いものだが、このクララの変化をしっかりと描いており、無駄なく簡潔でありながらも印象的な構成になっている。

ストーリーでは道場での「修行」という名目で孤島をまんべんなく探索するようになっており、DLCチュートリアルとしても十分に機能しているといえるだろう。

なお、鎧の孤島の難易度は本編をクリアできるだけのポケモンがいればそう難しいと感じる事は無いハズだ。

 

システム

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新たなポケモン、新たな要素

鎧の孤島では本編には登場しなかった新たなポケモンが多数登場する。
完全に新規のポケモンはダクマとガラル地方のヤドンとヤドランとなっている。
なお、これらのDLCで追加されたポケモンは交換やポケモンHOMEなどから連れてくれば、DLC未購入のプレイヤーでもゲットが可能になっている。

鎧の孤島のフィールドはワイルドエリアのような形式になっている。
孤島が舞台になっているためフィールドは水辺(海)が非常に多くなっているのが印象的だ。
また、鎧の孤島のストーリーを進める事で手持ちで先頭になっているポケモンを連れて歩けるようになる。機能としてはポケットモンスターピカチュウやLet's Go ピカチュウ/イーブイを想像するのがわかりやすい。
本編のワイルドエリアではできないのは少々残念なものの、鎧の孤島フィールド内ではどのポケモンも自由に連れ歩ける。
小さなポケモンから大きなポケモンといったスケール感はもちろん、歩き方まで様々であるため面白い。

その他にも育成を手助けしてくれる要素も多く追加されていたり、ヘアスタイルや服も追加される。

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ディグダの捜索

フィールドに散らばったアローラ地方ディグダを探す探索要素も存在する。
このディグダは全部で150匹とかなり大量にいるが、見つけた数に応じてアローラ地方ポケモンを貰う事が可能でだ。
このディグダ探しは見つけようと思わないと通り過ぎてしまう絶妙な難易度になっており、フィールドを目を凝らして探す必要がある。

 

冠の雪原

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冠の雪原

「冠の雪原」はポケモン剣盾のDLC第二段として配信されたコンテンツだ。
追加された内容はストーリーこそ第一弾よりも薄いものの、エンドコンテンツあるいはそれを助けるような要素が多いのが特徴的なものとなっている。

 

ストーリー

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"ポケモン"のストーリー

冠の雪原では豊穣を司る伝説のポケモン「バドレックス」に関しての物語が展開される。
バドレックスはかつては豊穣の力によって信仰されたが、いつしか忘れ去られ信仰も無くなり、おとぎ話として語り継がれる程度となっていた。
長い年月と共にバドレックスは力を失いつつあり、人間の信仰がなくとも生きていきたいと主人公に相談を持ち掛ける。

バドレックスは人間を操る事で主人公と会話をする事になるため「人とポケモンがほとんど直接的にコミュニケーションを行う」というポケモンシリーズでも非常に珍しい設定となっている。
多くの過去シリーズや本作の本編、DLC鎧の孤島などでは「人間(ポケモントレーナー)の成長」が描かれる事が多かったが、冠の雪原ではポケモンを中心としたストーリー構成になっているのは印象的だ。

 

システム

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数多の伝説ポケモン

冠の雪原では本編に登場しなかった過去作のポケモンDLC第一弾から更に追加されているほか、最大の見どころとして「過去作の伝説ポケモン達が数多く登場する」というロマン溢れる要素が追加されている点だろう。
中にはリージョンフォームとなった目新しいファイヤー、サンダー、フリーザーが登場する事も見逃せない。

また、「ダイマックスアドベンチャー」という過去作の伝説ポケモンを捕まえる事ができるコンテンツが追加されている。
ダイマックスアドベンチャーは基本的にはレイド戦(マックスレイドバトル)形式で行われるのだが、特殊なルールも適用される。
レイド戦の連戦であるという点もユニークではあるが、中でも最もユニークなのはポケモンをレンタルして戦う点だろう。
普段は使わないようなポケモンもお試しできる要素になっているため、ポケモンの思いがけない良さを知る機会にも繋がっている。

 

グラフィック

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牧歌的で暖かみのある美しいフィールド

ポケモン剣盾はの鮮やかで美しく、それでいて暖かみのあるフィールドは魅力的だ。
牧歌的な田舎町や近代的な都市部、自然豊かなワイルドエリアは天候によっても表情が変化する美しさを有している。

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可愛らしいキャラクター達

キャラクターやポケモンモデリングも非常に丁寧に出来ている。
キャラクターのアニメーション(モーション)も丁寧で、アバターに関して言えば階段を歩くと専用のモーションが用意されているほか、操作キャラクターの移動方向を反転させると僅かだが専用に振り返りモーションがあり、高速回転させるとクルクル回った後に決めポーズをとる。
天候によっても待機モーションに変化があるなど芸が細かい。
ポケモンに関しては前述した”キャンプ”でみせる可愛らしいモーションなども素晴らしい。

本作でもアバターの着せ替え衣装が用意されているが、ゲーム内メーカーが設定されている点もこだわっているのが感じられる。
スポーツ系のウェアを提供するメーカーなど、メーカー毎の特徴が設定されており世界観に厚みを持たせている。

 

サウンド

ポケモン剣盾はBGMも良く出来ている。
イギリス感のあるバグパイプを使用したBGMも特徴的であるし、バトルBGMはサッカーなどで使用されるようなスポーティーな雰囲気がポップだ。
特にライバル戦やジムリーダー戦のバトルBGMは雰囲気を盛り上げてくれること間違いなしだろう。
特にライバル戦のBGMは物語終盤でアレンジが変更されたものが用意されており、キャラクターの成長を描く役割としても良く出来ている。
また、ジムリーダー戦などでは最後のポケモンになるとBGMに掛け声が追加される演出がシームレスに差し込まれバトルのクライマックス感を演出している。

 

総評

ポケットモンスターソード/シールドは歴史あるシリーズを更なるステップへと押し上げた偉大な一作だ。

丁寧な作り込みは初心者でもプレイしやすく、奥深いバトルによって長く牽引するようになっている。
暖かみのあるフィールドに可愛らしいキャラクターモデリング、こだわりを感じるアニメーションも印象的だ。
ポケモンとの触れ合いも更に充実しているほか、ゲーム内衣料品メーカーも個性を出しており「ポケモン」という世界観に厚みを生み出している。

本作はポケモンシリーズの新たなスタンダードだ。

 

外部記事

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【レビュー】ラストストーリー

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秩序と混沌

筆者がこのラストストーリーと言うタイトルをプレイするのは必然と言えただろう。
モノリスソフトゼノブレイドも同様であったのだが、ミストウォーカーラストストーリーにおいても敬虔なスクウェア教徒であった筆者にとっては強烈な魅力を持ったタイトルであったのだ。

今回はラストストーリーのレビューを書きたいと思う。

 

 

ストーリー

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一歩足りないストーリー

ラストストーリーは「騎士」や「お姫様」「魔法」と言った要素からなり、軟派でも硬派でも無い中庸で王道な西洋ファンタジーのストーリーとなっている。
本作は物語主導のストーリードリブンなゲームなのだが、全体のボリュームとしては20時間前後でクリア可能であるため当時のRPGの標準から考えてもやや短い。

主人公エルザは傭兵団に所属している青年だ。
傭兵の身では余裕のある生活とは程遠く、エルザ達の傭兵団は地位や生活が保障されている騎士になる事が人生の目標となっている。
そんな中で騎士になるチャンスを得るために訪れたルリ島にて偶然にもアルガナン家のお嬢様であるカナンと出会い、そこからルリ島の秘密が徐々に明らかになっていく。

本作では基本的にルリ島を中心にストーリーが展開されるため訪れる事ができる土地は少ないのは寂しい所だが、ルリ島(特にルリの街)は非常に丁寧な作り込みがされているのは評価されるべきポイントだ。
また、登場する多くのキャラクター達は非常にわかりやすい設定となっており、善人は善人らしく悪役は悪役らしい行動・言動が多い。
この奇をてらわない設定も良く言えば王道だが、悪く言えばベタで単純だ。

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全体的な進行は少々粗く、少々強引だ

本作はストーリーの筋こそ理解できるものの、その描き方は勿体ないと思わせる要素が多い。

ほんの半日未満の期間連れ添っただけのカナンのために色々と行動する主人公エルザの動機は少々無理があり説得力に欠ける事が多い。
この動機(=理由)を「一目惚れ」と表現してしまうのは容易いのだが、それはミステリー殺人事件小説の犯人の犯行が「ドラえもんの秘密道具を使用した」と同レベルに「なんでもアリ」状態になってしまい、ストーリーとしては荒唐無稽となってしまう。
エルザがカナンに惹かれていく事をストーリーに置くのであれば、ユーザーが納得がいく理由が必要だと筆者は考えている。
二人のロマンスを描くのであれば、エルザ自身とカナンの双方の魅力をもっとじっくりと描く状況を用意する必要があったように感じる。

シチュエーションにおいても勿体ない設定がある。
まず、エルザが所属する傭兵団がゲーム本編よりも前の時系列でどのような事があったのか語られる事が少ない。そのため、ほとんどの傭兵団のメンバーに対しての掘り下げが甘く、宝の持ち腐れに近い感覚だ。
傭兵団のメンバーには主人公であるエルザを始め、リーダーであるクォーク、魔法によるアタッカーを務めるユーリス、ヒーラーのマナミア、白兵戦のアタッカーであるセイレン、遊撃的な立ち位置のジャッカルがいる。この中で掘り下げが行われたと言えるのはエルザとユーリスのみである。
大きなネタバレとなるため詳しい説明は避けるが、クォークは本作において非常に大きな役割を持っている。
しかし、その役割に至った経緯とその正当性に関しての事前の伏線描写が不足しているのだ。
それは彼の過去とも関連する内容であるため、もっとキャラクターの掘り下げがされていれば…と強く感じてしまう。

その他にも、主人公が牢屋に閉じ込められるシーンでは当たり前のように牢屋の中で武器の販売が行われており、一周回ってギャグにすら感じる明らかにおかしいシチュエーションだ。
ゲームシステムとしての救済、ユーザーフレンドリーな要素なのは十分に伝わるのだが、シチュエーションとしては余りにもミスマッチとなっている。

本作のストーリーでは移動しながらキャラクター同士の会話が進むようになっている。これ自体は非常に丁寧に作られており、傭兵団のメンバーの仲の良さや関係性がわかるようになっているのだが、これに関しても勿体ないと言わざるを得ない部分がある。
この移動しながらの会話はストーリーの端々に用意されているのだが、プレイヤーが進み過ぎてエリアチェンジをしてしまうと途中でセリフが途切れるなど尺調整の検討が甘いのだ。
このような場合、ダンジョンの長さからセリフの尺を算出する事が可能であるし、もしくは事前に声優に喋ってもらい該当のセリフの尺を予め把握する事でダンジョンに必要な長さを逆算する事もできる。
そうでなくても、単純にエリアチェンジでセリフを途切れさせなければこれほど勿体ないと感じる事は無かっただろう。

本作は章形式で物語が進むのだが、1章辺りの所要時間はおよそ30分程度で非常に短い。
これ自体は別に問題は無いのだが、前章と次章の間で起きた主人公達の出来事がナレーションによる語りによって表現されている事も勿体ないと感じる。
例えば、章と章の間の出来事として「主人公は○○を目指し船に乗った」と言ったようなナレーションが挿入される訳だ。
確かにゲームプレイとしては大した事の無い内容ではあるし、華やかさには欠けるようなシチュエーションなのかも知れない。しかし、筆者としてはその章と章の繋ぎの部分をゲームとしてプレイするようにして欲しかったのだ。
もちろんやり過ぎれば間延びしてしまいテンポが悪くなってしまうのだが、このような「何もない」ような時間をゲームプレイとしてもきちんと描く事によって主人公達またはNPC達の日常の風景を感じる事ができるため感情移入がより一層しやすくなるように思う。

 

システム

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ヘイトを強制的に奪うギャザリング

ラストストーリーのバトルシステムはリアルタイムに進行するRPGだ。

敵には「ヘイト」のような概念があり、画面上では線で結ばれた先のキャラクター(味方)に対して攻撃を行おうとする。
敵の行動は主に強力な火力を誇る「魔法使い」に対して強烈に働き、魔法の詠唱をさせないように立ち回ってくるのだ。

そこで重要になってくるのが主人公に宿った特殊な能力「ギャザリング」だ。
ギャザリングは敵のヘイトを「強制的に」奪う事が出来る能力で、特に何かを消費する事もなくワンボタンで発動させることが出来る。
上図を参照してみて欲しい。ギャザリングを発動した瞬間に敵から出ている線(ヘイト)が一気に主人公に向かっているのが確認できるだろう。
注意点としてはギャザリングによってヘイトを奪う事が出来るのは敵が主人公を視認できる位置にいた場合のみであり、遮蔽物の裏にいる敵のヘイトまでは奪う事は出来ない。
ギャザリング中に攻撃するとダメージ量に応じてHPが回復したり、ギャザリングバーストと呼ばれる敵のスピードを鈍化させる強烈なカウンターが発動できたりと至れり尽くせりだ。

このギャザリングを駆使して、敵の攻撃を全て引き受け、味方の強力な魔法によって敵を殲滅するための時間を稼ぐ…と言うのが本作の大まかな流れとなる。
この戦闘システム自体は良く出来ており、上手く戦場をコントロールできた場合には非常に面白く感じる事ができる。
また、最後の敵へのフィニッシュ時には専用の倒す演出が差し込まれ、これもまたカッコよく爽快だ。

その他にもバトルでは様々な要素が存在している。
タイミングよくガードを行う事で発生するパリィのような「ガード斬り」は強力だ。
また、フィールドを利用した技も存在し、遮蔽物に隠れてから奇襲の一撃で大ダメージを与える「スラッシュ」や壁を蹴り上がってから叩き付ける「垂直斬り」などが存在する。
更にフィールド自体にギミックが仕込まれている場合があり、魔法やボウガンによって橋などのオブジェクトを壊して厄介な敵を一掃する事ができる場面も随所に存在するなど戦闘におけるバリエーションは豊かで面白い。
これらの要素は決して全てを駆使しなければならない訳では無く、あくまでもプレイヤーの好みに応じた戦闘における選択肢の1つとして楽しむ事が出来るようになっているのも良いポイントだ。

本作のバトルシステムにおける欠点についても伝えておかなければならないだろう。
これは前述の「好みに応じた戦闘ができる」と若干の矛盾をはらんだものとなってしまうのだが、本作ではギャザリングや地形利用と言ったシステムを「上手に活用できた」と実感できるほどの強敵が少ない事が物足りなさを感じるポイントとなってしまっている。
一部の敵を除き、大半の敵が短時間で勝ててしまったり、ゴリ押しでも勝ててしまうため、「私のギャザリングはちゃんと機能していた…?」と言う何故勝ったのかよくわからない状況になりがちだ。
また、本作では比較的簡単にキャラクターのレベルが上がってしまう事もそのような状況を加速させている。
もちろん、時間がかかるような一部の強力な敵を相手にした際にはヘイト管理がしっかりと把握でき戦場をコントロールしているのが伝わるため面白いのだが、そうでない戦闘の方が圧倒的に多く感じる。

戦闘中の移動に関しても気になるポイントとなっている。
本作では移動方向に敵がいた場合に攻撃が行われる仕組みであるため、移動したいのに攻撃してしまいキャラクターが移動できない現象が多く発生してしまうのだ。
敵がいる方向に移動したい場合にはガード状態になれば攻撃せずに移動だけできるのだが、ガード状態で移動を行うと段差などのオブジェクトを乗り越えるモーションが発生してしまうため、意図しない動作となってしまう事も多い。
また、設定から攻撃方法をボタン入力に変更する事も可能なのだが、そちらはそちらで攻撃する際にはボタンを連打し続ける必要があるため帯に短し襷に長しだ。
「移動方向に敵がいれば攻撃」するのであれば「移動しつつも攻撃」を出来るようにして欲しかった所だ。

ボタン割り当ての微妙さも気になるポイントだ。
これはWiiのコントローラー+ヌンチャクでの操作を許容しているために起きているように感じるのだが、全てのアクションをAボタンに頼っているために誤操作が起きやすいのだ。
代表的なものは、ローリングをしたいのに壁張り付き(Hide)を行ってしまうなどだ。
Wiiのコントローラー+ヌンチャクではユーザーが押下しやすい位置にあるボタンは限られているために仕方がない面はあるが、何とかして欲しかった所だ。

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ゲージを消費して発動する大技「テンション技」

その他にもキャラクター固有の大技「テンション技」と言うものも存在する。

テンション技はテンションゲージが最大までチャージされた状態で発動する事ができる。
テンション技はキャラクター毎に性質が異なり、エルザであれば攻撃や移動と言ったスピードが上昇し、ユーリスであれば魔法による大ダメージを与え、カナンなら味方全体にダメージバリアを付与する。
これらはどれも強力な技であるため積極的に活用すると良いだろう。 

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防具の色を変えたり、パーツの取り外しが可能

本作では入手できる防具の数はそれほど多くは無い。
しかし、それを補うような形で防具の色替えや籠手やジャケットなど部分的なパーツの取り外しが可能になっている。
また、最初こそ着脱可能な防具のパーツは少ないが防具を強化する事でパーツが増えていく仕組みとなっている。
自分好みの見た目に変更できるのは嬉しいポイントだ。

 

グラフィック

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密度の濃いロケーション

ラストストーリーでは訪れる事ができるロケーションは少なく、ルリ島の中にある街や洞窟と言った場所がほとんどでバラエティーには少々欠けるところがある。
しかし、そのグラフィックのディテールはWiiとしては高水準だ。
嵐などのシーンではカメラに水滴がつく表現がなされるなど随所にこだわりが感じられる。
一部の天井にキャラクターの影が映るなど細かい気になる点はあるものの全体の品質は高いと言って良いだろう。

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生活感の強い街並み

本作のディテールで特に目を見張るのはルリの街だ。
街には活気のあるメインストリームだけでなく、地元の住人向けのような裏路地が多く張り巡らされており街全体に生活感が漂う。
また、街の中で行きかう人の多さは魅力を更に増している。遠方の人物はフレームレートが落とされるなどの工夫が見られるが、Wiiのゲーム中でもこれほど多くのNPCを描画している作品は稀だろう。

 

サウンド

ラストストーリーの音楽は伝説的な植松伸夫さんが担当している。
植松さんらしい壮大なクラシック音楽の潮流を感じさせる本作の楽曲も素晴らしい。

様々なポイントで聴くカッコいいメインテーマ「Theme of THE LAST STORY

メインテーマのアレンジも含まれる街の中で流れる静かな「街の音色」

煌びやかな騎士の姿を感じさせる「歓びの声が聴こえる」

本作におけるもう1つのメインテーマと言える「翔べるもの」

本作では音楽の使い方に関してもこだわりが感じられる。
スタートメニュー画面ではBGM遷移する演出が行われる。これは単純なフェードインとフィードアウトで演出されているのだが、それでも十分にカッコいい。
また、戦闘中に戦局が有利状態となるとメインテーマのBGMへと遷移するのは特に熱い演出だ。

音声面で残念なポイントがあるとすれば「モブの演技」だろう。
主役級のキャラクターは問題は無いものの、いわゆるモブキャラクターのセリフに関しては演技がマッチしているとは言えず、違和感を感じる事が多い。

 

総評

ラストストーリーの「王道を狙ったストーリー」や「ヘイトを管理するバトルシステム」と言った主軸は非常に魅力を感じる作品に仕上がっている。
しかし、本作ではそれを十分に活かし切れたとは言い難い。
「ルリの街のディティール」や「BGMの使い方」は素晴らしいのだが、それと同じくらいのディティールがストーリーにも欲しかった所だ。
バトルに関しても用意されたシステムが意図通りに機能しているとは言えず、全体的な調整が上手くいけばもっと光り輝くことができたように感じる。

 

外部記事

設定画

社長が訊く『ラストストーリー』

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【レビュー】ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~

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ひと夏の成長

筆者はライザのアトリエがアトリエシリーズに触れる初めて作品となる。
アトリエシリーズは非常に根強い人気のある作品である事は知っていたのだが、どういう訳か縁が無かった。
今回のライザのアトリエに関しては向上したグラフィック面はもちろん、システム面でも歴代とは一線を画す新機軸となっているとの事であったので「手を出すなら今か!」と思った次第だ。

今回はアトリエシリーズ初体験となるライザのアトリエをレビューしてみたい。

 

 

ストーリー

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因果関係がしっかりとしたストーリー

主人公のライザリン・シュタウト(ライザ)はクーケン島で暮らすラーゼンボーデンという村の女の子だ。
村は保守的な考え方が根付いており頭が固い人が多く、そんな島暮らしから抜け出した非日常に憧れている。

カットシーンにおけるカメラワークなどでの魅せるための演出はやや単調ではあるが、因果関係が綺麗に描かれたストーリーは良く出来ている。
遺跡の名残りが見受けられるクーケン島、保守的な考えの島民たち、ストーリーを進めていくとライザたちの前に登場する奇妙なモンスターや異質なモンスター。
これらにはしっかりと理由が用意されており、またイベントの要素は全て1本の線で因果関係が成立するように美しくできている。
ストーリーのオチの部分はやや都合が良いのだが、それでもやはり辻褄が合うようにはなっており綺麗に収まっている。

本作では登場する様々なキャラクターが一人前になるために頑張ろうとしているが、その描き方もシステムと噛み合っており見事だ。
ゲームシステムにはパーティーエストというミッション(お題)があり、キャラクターが自身に課題を課す事によって自身を強くする(スキルなどを覚える)というシステムは「(キャラクター自身が)成長しようとしている」というストーリー上の設定を上手に拾えているシステムになっている。
もちろん、これは既存のタイトルにもあるような要素の名称をそれっぽく変えただけとは言えるのだが、名称を変えるだけで世界観の表現に大きく寄与できるようにしているのは素晴らしい発想だ。
また、主人公達はもちろんだが、その他の主要キャラクターもストーリー上で大きく成長する点は観ていて嬉しくなる事だろう。

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島民たちが描かれるサブクエス

メインのストーリー以外にも「依頼クエスト」というサブクエストも用意されている。
サブクエストではライザと島民たちとのやり取りが展開され、ライザと島民達との関係性や生活感がわかったりする要素にもなっている。
サブクエストで話す事になる島民にはしっかりと個性がついている点も良いポイントだろう。

また、街中の特定のポイントを歩いているとメインキャラクターや島民との会話イベントが発生する事もある。
ここでもキャラクターの関係性などが垣間見えるが、このイベントに関してはフラグ管理がされていないのかシナリオ進行と矛盾するような内容がたまに発生してしまう事もあり少々勿体ない完成度だ。

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不親切な要素

ストーリー自体は良く出来ているのだが、不親切に感じてしまう要素もある。

メインストーリーを進行させる際には当然ながら指定された特定のポイントに赴く必要があるが、会話上で次の目的地が明示されない事も多いため次にどこに行けばいいのかわからない。次に行く場所は「あらすじ」を参照すれば記載されているため問題は無いのだが、毎回のように「あらすじ」を開かなくてはならないのは少々気になる所だ。
もちろんストーリーの会話上で露骨に「○○に行こう」と言われるよりは自然な会話だけで済まされるためストーリー表現としては良いのだが、どう進行すれば良いのかわからないのはゲームとしてプラスと言い切る事はできない。

ストーリー中の会話は全てボイスがついているが、セリフのオート送りが無い点も少々不親切だ。
ストーリーやキャラクター同士の会話に集中したいタイミングであるだけに、セリフをユーザーに送らせる仕様しか提供していないのは勿体ない。

大した問題では無いのだが、カットシーン中で採取可能アイテム(素材)が明滅するのはやや惜しい。
カットシーンでは明滅しないようにして影を薄くした方が無難だったように思える。

 

システム

ライザのアトリエのシステムについて記載していく。

 

錬金術

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スキルツリー形式の錬金術

本作の錬金術はスキルツリーやパークのような要領でアイテムを生成する。

錬金術によってアイテムを生成するには素材が指定された必要となり、素材を使用してスキルツリーのような枠を埋めていくと高品質・高性能なアイテムが作りやすい形となっている。
また、素材には特殊なスキルのようなものが付与されており、スキルのついた素材でアイテムを生成するとスキルを最大で3つ継承させる事が可能だ。
作成するアイテムや装備するキャラクターに応じて、どのスキルを付けるべきか考慮しながら強力なアイテムを作成する錬金術はつい時間を忘れてプレイしてしまう要素になっている。
筆者も「そろそろストーリーを進めようかな」なんて思っていたにも関わらず、気が付くと錬金術の素材集めとアイテム生成ばかりやっていた。

アイテムを大量生産だけしたいが毎回生成のためのアイテムセットをするのが面倒だったり、そもそも生成が難しいと感じるユーザーがいるかも知れない。
そのような場合にはイチイチ手作業で作るのは億劫になる事は間違いない。
そんな時にはアイテム生成を自動でもやってくれる機能が用意されている親切設計だ。

その他にも、確保したは良いが質の低い素材が大量に余ってしまい困るような時に活用できる「ジェム還元」というシステムがある。
ジェム還元は素材や生成物をジェムと言うポイントに還元できる要素だ。
これによって入手したジェムは生成アイテムを再強化できる「リビルド」と言う要素に使用したり、生成アイテムを複製する際に使用できる。
例え素材をつい取り過ぎてしまったという場合でもしっかりと使い道が残されているのはしっかりと考えられた設計になっている。

また、フィールド上で素材集めをする際にも取得できる素材はしっかりと視認しやすいように調整されているほか、取得できる素材は取得の際に使用する道具によって変化するようになっているため狙った素材が獲りやすくなっている。

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錬金術で気になるポイント

素材や錬金術にて気になるポイントも挙げておくべきだろう。

まず、大きな問題では無いのだがアイテムソートが毎回リセットされるのが少々めんどうに感じる所だろう。

次に素材をどこで入手できるのかがわかりにくいのは問題がある。
大雑把な場所は記載してあるが、具体的にどこで入手したのかまではわからないため、その入手場所を忘れてしまった場合には少々困った事になりやすい。
必要な素材がどこで入手できるものなのか参照できないのは不便そのものだ。

そして、素材に付与されているスキルは多種多様なものが用意されているが、生成するアイテムによっては存在意義の無いスキルになっており、冗長な物量になってしまっている。
例えば「回復量アップ」のようなスキルは回復アイテムでしか意味を成さないため、武器を生成する事に使われやすい素材では価値が0になってしまう。
「スキルが多種多様」と言えば聞こえは良いかも知れないが、どちらかと言うとこのような構成になっているが故にスキル種類が無駄に多くなってしまっている印象を受けるのだ。
「回復アイテム生成時には回復量上昇、武器生成時には威力上昇」のような生成先によって効果が最適化されるエレガントな構成が望ましかったように思える。

 

バトル

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アクション性もある非同期ターン制バトル

本作の戦闘システムは非常に楽しい構造をしている。
詳細な説明をする前に、先にプレイヤーが利用する事になる主要な「AP」「スキル」「クイックアクション」「オーダー」「アイテム」「フェイタルドライブ」といった要素について大まかに説明していきたい。

本作のバトルシステムは非同期ターン制と言えるようなものになっている。
これでは伝わりにくいと思うので、最もわかりやすく例えるならば昔のファイナルファンタジーATBのようなものを想像するのが良いだろう。
各キャラクターや敵には行動するまでの時間が設定されており、その時間が経過すると攻撃などの行動が行えるようになっている。
行動を行う際にも常に時間は流れており、モタモタしているとどんどん敵が行動してしまう。
そのため、基本的には自身のターンになった場合にはなるべく早く行動を決断する、あるいはタイミングを見計らうためにあえて時間を消費するなどRPGながらアクション性もあるものとなっている。

戦闘中にプレイヤーが操作する事になるのはバトルメンバー3人の中の1人で、戦闘中にいつでも他のキャラクターに切り替えができる。
そのため、キャラクターにロールを割り振り、ダメージを受けたら回復スキルや回復アイテムを持たせたキャラクターに操作を切り替えるといったプレイも可能だ。

戦闘ではAP(アクションポイント)というポイントが重要となる。
APは通常攻撃をする事で蓄積されていき、APを消費する事で「スキル」や「クイックアクション」というシステムを使えるようになる。
また、APにはタクティクスレベルと言われるものが連動しており、APを最大値まで溜めた場合にはタクティクスレベルを1つ上昇させる事ができる。
タクティクスレベルは最大で5まであり、1つ上昇する毎に蓄積可能なAPの最大値が上昇していく。そのため、タクティクスレベルが上がればスキルやクイックアクションを多く発動できるようにもなる。
つまり、APをスキルやクイックアクションに使用して短期的な戦術に頼るのか、APをタクティクスレベル上昇に使用して長期的な戦略を整えるのか取捨選択して戦闘するのが基本となるのだ。
なお、このAPやタクティクスレベルは戦闘中のみのポイントとなっており、次の戦闘に繰り越される事はない。

「スキル」は前述の通りAPを消費して使用する事ができる技のようなものだ。
スキルには攻撃や回復と言った効果があり、状況に応じて使用する事になるものだ。
繰り返しになってしまうがスキルはAPを消費するため、何も考えずにバンバン放つ事は出来ない。

「クイックアクション」はAPを消費して時間経過を待たずに行動が可能なシステムだ。
時間経過を待たずにいきなり行動が可能であるため、攻撃や回復など幅広く使用できる。
APを消費する行動の中でも最も重要とも言える行動だが、それは次に説明するオーダーがあるためだ。

戦闘に仲間との共闘感を演出してくれる要素が「オーダー」だ。
オーダーには「アクションオーダー」や「ノーマルオーダー」「エクストラオーダー」と言った種類が存在している。
オーダーとは、戦闘中に味方キャラクターから行動を要望され、その要望に沿った行動を行うと要望を出したキャラクターが追加で敵に強力な攻撃を行ってくれるというものだ。
味方はそれぞれオーダーを出すが、複数のオーダーを1つの行動で解決できれば連鎖的に追加攻撃が発生する。
アクションオーダーは戦闘中に一定の時間が経過すると発生する要望で、ノーマルオーダーは味方がピンチの時に発生する要望だ。
そして、エクストラオーダーは敵が大技を発動させようとしている時に前述のクイックアクションを行うと発生するオーダーとなっている。これによって敵の大技の発動を潰しやすくなるため、戦闘ではエクストラオーダーを発動させられるだけのAPを蓄えておく意識をする事が基本だ。

錬金術で作成した戦闘用アイテムはCC(コアチャージ)と呼ばれる数値を消費して使用する事ができる。
アイテムは一見すると消費物のようだが、本作では着脱可能なスキルのようなものと認識した方が良いだろう。
錬金術で作成する戦闘用アイテムは敵にダメージを与えるものから、味方にバフを与えるもの、敵にデバフを与えるものなどが存在している。
このCCは拠点に帰るか、アイテムを封印(能動的に使用不可状態する行動)をしなければ回復しないため、どのタイミングでアイテムを使用するかはよく考える必要がある。

そして最後に紹介するのが「フェイタルドライブ」という大技となる。
これはAPを溜める事で上げることが出来るタクティクスレベルを最大値まで蓄積させた場合に発動可能になる要素となる。
フェイタルドライブは奥義とも言えるような非常に強力な行動である代償として、発動するとタクティクスレベルが初期値に戻ってしまうリスクが存在する。
これはスキルやクイックアクションがまとも発動できない状態に他ならないため、フェイタルドライブで敵を倒し切れない事態になれば途端にピンチとも言えるのだ。
なお、このフェイタルドライブの技の内容は発動させたキャラクター毎に異なる。

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鮮やかに彩るバトルシステムの各要素の関係性

登場する各要素の大まかな説明をしたので、次に本作のバトルシステムの構造を整理して解説していきたい。
ここでは上図の図を参照してもらうと各要素の関係性がわかりやすいかも知れない。

前述の通り、戦闘ではAPが重要となる。
その理由は「スキル」や「クイックアクション」、「フェイタルドライブ」など特徴的な行動の多くがAPに依存しているためだ。上の図からも多くの矢印(行動)がAPに依存していることがわかるだろう。
そして、肝心のAPは通常攻撃に依存した要素となっている。
このような構造になっていれば、一番地味な通常攻撃という要素がゲームを進めても廃れにくい構造になってくるうえ、プレイヤーが行動すれば行動するほど良いフィードバックが返ってくるアグレッシブな構造にもなっておりエレガントと言えるだろう。
また、単調な戦闘システムにありがちな「強い技を使用するだけ」にならない構造にも貢献している良い関係性だ。

戦闘ではAPを管理して戦うようになっている点も見事と言える。
それを如実に感じるのは敵のHPが半分ほどになり大技を使用してくるタイミングだ。
敵の大技を受けてしまうと、当然ながら味方には甚大な被害が出てしまう。
そこで、APを消費するクイックアクションからエクストラオーダーを発動させて、強力な攻撃を受ける前に対処するのだ。
しかし、敵のHPが半分になろうかと言うタイミングでAPが全く溜まっていない状態であればピンチになる事は明白だ。
戦闘中は「いつAPを溜めるか」「いつAPを使うか」というマネージメント要素によって成り立っており、APの蓄積具合が戦闘におけるバロメーターにもなっている。

各要素がゲームを進行しても腐りにくく、行動すればするほど強くなっていき、敵の大技発動を意識してAPをマネージメントをする。
これらを半リアルタイムな戦闘システムで行う事により少しばかりのアクション性が求められつつも、実際にやること自体はシンプルになっている実に見事なバランス感覚で生み出された構造だ。

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更なる飛躍のために

戦闘システム自体は非常に楽しいが、まだ改善できるポイントがあるように見受けられる。

まず、メインストーリーで戦う敵の体力設定がどれも低く、最も楽しくなりそうな手前で倒してしまう事が多いのは勿体なく感じる所だ。
操作キャラクターを切り替えできるシステムにしても、奥義であるフェイタルドライブにしても、その要素が必要となる強敵が少ないのが実情だ。
筆者の体感になってしまうが、錬金術による武器の強化は意図的に控える事で与ダメージ量を抑えた方がシステムを活用して戦う事ができるように感じる。
クリア後には高難度化できるためシステムを活かした戦闘が行えるかも知れないが、1週目で出来ないようでは少々遅いと言わざるを得ない。
ボスや大型モンスターなどは単純にHPを多くするだけでなく、ストック制にして簡単に倒れない工夫をしても良かったのではと思える。

APとCCの扱いの差も惜しい所だろう。
APは次の戦闘には繰り越されないにも関わらず、CCは繰り越されてしまうというのはミスマッチと言わざるを得ない。
特にCCという要素によってタイトルとしても冠している「錬金術」で作成したアイテムを気軽に使えない状態になってしまうため、メインシステムとのミスマッチになってしまっている印象を受ける。
その上、「戦闘を楽しむ」という観点から考えた場合にも、次の戦闘を頭に入れておかなければならないという足枷が出来てしまうのは各戦闘で全力で戦いにくい。
「現在にだけ集中する事が没頭の秘訣」である事はフロー理論やマインドフルネスと言ったものからも承知の通りだろう。現在への集中を乱すこのようなマネージメントは必要性が感じられない。
錬金術の成果を発揮しにくくさせ、現在の事にも集中させにくくしているという二重のミスマッチは勿体ないポイントだ。
戦闘終了毎にCCを全回復させて気兼ねなく全力で戦えるようにお膳立てするべきだったのではないだろうか。

アクションオーダーがプレイヤーの制御下にない点も非常に勿体ないポイントだ。
オーダー全般は戦闘において重要であると同時に、仲間との共闘感を演出してくれる非常に良いシステムだ。
しかし、アクションオーダーに関してはタイミングや内容がプレイヤーの制御下に無い(タイミングは時間経過、内容はランダムに発生する)仕組みになっているのは勿体ないと言わざるを得ない。
例えば、プレイヤーや仲間の特定の行動に呼応してオーダーが発生するなど、任意のオーダーを狙って発生させる事ができるとオーダーと言う要素がプレイヤーの制御下になるため、より具体的な戦術・戦略を組み立てられるようになったハズだ。
また、オーダーを「装備形式」の付け替え可能なものにできれば更に良かっただろう。
「HPが〇%以下になると、××を要求する」「△属性で攻撃すると、□□を要求する」など条件と要求を自由に変更できるイメージだ。
こうする事で戦術だけでなく、より戦略的な敵の攻略を目指す事ができただろう。

フェイタルドライブの立ち位置も変更して良かったかも知れない。
最も強力な技である「フェイタルドライブ」は、APの蓄積で上昇するタクティクスレベルを最大値にする事で発動できる。つまりはAPに依存したシステムだ。
しかし、本作のバトルシステムには最も階層が深い依存関係をしている要素が戦闘要素の関係性を1つ前の図から確認できると思う。「オーダー」のことだ。
最も破壊力のあるフェイタルドライブはAPに依存するのではなく、オーダーに依存した要素であった方が更にエレガントなシステムだったように思える。
通常攻撃に依存したAP、APに依存したスキルとクイックアクション、スキルとクイックアクションに依存したオーダー、そしてオーダーに依存したフェイタルドライブと言う直列的な図式になっていれば見た目としても非常にエレガントであるし、何よりもオーダーと言う強力な行動の後にフェイタルドライブという超強力な行動が発動できるのは実に爽快になるのではないかと想像できる。

パーティー全体を活躍させる事も検討して欲しい点だ。
本作では各種オーダーによってキャラクターが追撃を行ってくれるが、戦闘に参加していないメンバーに関してもオーダーと追撃を行ってくれれば更にパーティーの雰囲気が盛り上がったように思える。

それ以外の少し気になる点も書いておきたい。

チュートリアルは少々不親切さが気になる所だ。
戦闘などはテキストだけでシステムを説明される事が多く理解しにくいように思える。
特にRPGと言われるゲームの場合、戦闘が直感的ではないため文章だけで説明されても初見プレイではわからないのだ(本ブログの説明もそうである事は否めない)。
戦闘のチュートリアルを意識したシステムを上手く使う必要がある敵を用意するなどの設計をして欲しかった所だ。

敵のバリエーションが乏しいのも寂しい所だろう。
本作の敵は種類自体は少なく、色違いの亜種のようなモンスターで差別化をしている傾向があり、ややチープさを覚える。

不具合なのかは不明だが、戦闘中に操作キャラクターを変更した直後にクイックアクションを行いエクストラオーダーを発動させようとすると何故か失敗するのはよくわからない。
なんとなくだが、キャラクターを切り替えた直後にエクストラオーダーを発動させると、その後にアクションオーダーが発生してしまい、前タスクが消去されているように見える。実際の原因はどうあれ、これはしっかりとエクストラオーダーが発動できるようにして欲しい。

ここで長々と、そして色々と書いてしまったが、誤解をしないで頂きたいのは、これらの大半はどれも更なる飛躍のための「要望」であり、決して本作のバトルが楽しくないという事では無いのだ。
いや、むしろかなり完成度の高いバトルシステムとなっているため、本作において大きなプラスのポイントとなっている。
本作のバトルシステムは体験してみる価値があると断言できる構造だ。

 

グラフィック

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夏を感じさせるロケーション

本作のロケーションは全体的にライティングが強く、夏の明るさや暑さを感じさせてくれるものに仕上がっている。
また、昼や夜に変化する事はもちろん天候も変化するのも良いスパイスだ。

アップデートでフォトモードが追加された点も嬉しいポイントだ。
フォトモードではキャラクターを自由な場所に配置出来たりと自由度があるため、通常では撮る事ができないユニークな1ショットを撮る事が可能になっている。
しかし、フォトモードでのカメラ操作はややクセがあるように感じ、特にカメラの前後移動がやりにくいように感じられた。
もう少し素直な操作性になってくれると嬉しい所だ。

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良い品質のキャラクターモデリング

モンスターを含めた全体的なキャラクターのデザインは良く出来ており、また可愛らしさが特徴的だ。
敵ですらもキュートである事が多いため「これは倒して良いのか?」とすら思うものになっている。
もちろん人間のキャラクターも可愛らしく、特に主人公のライザやメインキャラクターのクラウディアといった造形の完成度は高く、キャラクターを重視している本作に相応しいものになっている。

アニメーションにしてもゲームとしてのテンポは守りつつ、出来も良く仕上がっている。
カットシーンにおいてキャラクターの走行アニメーションと実際の移動速度がシンクロしていない点が気になるくらいだろう。

 

サウンド

本作の音楽は牧歌的だったり、ポップだったりと明るい雰囲気のBGMが主体となっている。
各フィールドの曲は昼と夜で曲のアレンジが変更されたものが使用されている。
筆者が気に入っている曲についても少しだけ記載したい。

日常を象徴する「水彩色に跳ねる日々」

日常からの冒険を象徴する「青草香る空の下」

牧歌的な夏を感じさせるバグパイプを思わせる音色のイントロが印象的な戦闘曲「穀雨、麦の風」

牧歌的で暖かな雰囲気のある「故郷の島」「静寂の島」

ピアノとヴァイオリンが印象的な「Emerald Climbing」

子守歌のような穏やかさのある「夜風と星のうた」

この他のエンディング曲に関してもしっとりとした良い曲となっている。

キャラクターのボイスも比較的充実しており、待機モーションや素材採取時にボイスが流れる。
また、クリア後にはBGMが聴けるモードが解禁されたり、キャストによるコメンタリーが解放される。
BGMをじっくりと聴いたりする事も出来るうえ、コメンタリーに関しては声優ファンには嬉しい要素となっているハズだ。

 

総評

ライザのアトリエは非常に優れた作品だ。

キャラクターに焦点を当てつつも全体の因果関係が綺麗にまとまったストーリーは良く出来ており、作風にあった音楽も悪くはない。
メインとも言える錬金術もついつい長時間プレイしてしまう良い意味での時間泥棒だ。
そしてなにより、バトルシステムが非常に楽しめる完成度の高い構造をしていたのは、筆者としては予想を大きく裏切ったポイントだった。

筆者はシリーズ初心者であるため大きな事は言えないが、本作はシリーズの中でも屈指の完成度を誇る作品になっているのではないだろうか。

 

外部記事

【公式】『ライザのアトリエ』ショートアニメ #1「クラウディアの好奇心」 - YouTube

TGS2019「ライザのアトリエ」プロデューサー/ディレクターインタビュー - IGN Japan

「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」開発者インタビュー。シリーズのノウハウを結集し,新たな技術へと挑戦 - 4Gamer.net

ライザはこうして生まれた。「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」キャラクターデザインの変遷を,細井Pとトリダモノ氏が語る - 4Gamer.net

[インタビュー]アニメ「ライザのアトリエ」の裏話を声優陣が語る。ライザたちのひと休み 〜あたしたちの秘密聞きたい?〜

『ライザのアトリエ』が『アトリエ』シリーズ最高の売り上げ42万本出荷を達成

ブース内の等身大ライザにも注目!「ライザのアトリエ」細井プロデューサーインタビュー【TGS2019】|ゲーム情報サイト Gamer