【レビュー】ラストストーリー

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秩序と混沌

筆者がこのラストストーリーと言うタイトルをプレイするのは必然と言えただろう。
モノリスソフトゼノブレイドも同様であったのだが、ミストウォーカーラストストーリーにおいても敬虔なスクウェア教徒であった筆者にとっては強烈な魅力を持ったタイトルであったのだ。

今回はラストストーリーのレビューを書きたいと思う。

 

 

ストーリー

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一歩足りないストーリー

ラストストーリーは「騎士」や「お姫様」「魔法」と言った要素からなり、軟派でも硬派でも無い中庸で王道な西洋ファンタジーのストーリーとなっている。
本作は物語主導のストーリードリブンなゲームなのだが、全体のボリュームとしては20時間前後でクリア可能であるため当時のRPGの標準から考えてもやや短い。

主人公エルザは傭兵団に所属している青年だ。
傭兵の身では余裕のある生活とは程遠く、エルザ達の傭兵団は地位や生活が保障されている騎士になる事が人生の目標となっている。
そんな中で騎士になるチャンスを得るために訪れたルリ島にて偶然にもアルガナン家のお嬢様であるカナンと出会い、そこからルリ島の秘密が徐々に明らかになっていく。

本作では基本的にルリ島を中心にストーリーが展開されるため訪れる事ができる土地は少ないのは寂しい所だが、ルリ島(特にルリの街)は非常に丁寧な作り込みがされているのは評価されるべきポイントだ。
また、登場する多くのキャラクター達は非常にわかりやすい設定となっており、善人は善人らしく悪役は悪役らしい行動・言動が多い。
この奇をてらわない設定も良く言えば王道だが、悪く言えばベタで単純だ。

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全体的な進行は少々粗く、少々強引だ

本作はストーリーの筋こそ理解できるものの、その描き方は勿体ないと思わせる要素が多い。

ほんの半日未満の期間連れ添っただけのカナンのために色々と行動する主人公エルザの動機は少々無理があり説得力に欠ける事が多い。
この動機(=理由)を「一目惚れ」と表現してしまうのは容易いのだが、それはミステリー殺人事件小説の犯人の犯行が「ドラえもんの秘密道具を使用した」と同レベルに「なんでもアリ」状態になってしまい、ストーリーとしては荒唐無稽となってしまう。
エルザがカナンに惹かれていく事をストーリーに置くのであれば、ユーザーが納得がいく理由が必要だと筆者は考えている。
二人のロマンスを描くのであれば、エルザ自身とカナンの双方の魅力をもっとじっくりと描く状況を用意する必要があったように感じる。

シチュエーションにおいても勿体ない設定がある。
まず、エルザが所属する傭兵団がゲーム本編よりも前の時系列でどのような事があったのか語られる事が少ない。そのため、ほとんどの傭兵団のメンバーに対しての掘り下げが甘く、宝の持ち腐れに近い感覚だ。
傭兵団のメンバーには主人公であるエルザを始め、リーダーであるクォーク、魔法によるアタッカーを務めるユーリス、ヒーラーのマナミア、白兵戦のアタッカーであるセイレン、遊撃的な立ち位置のジャッカルがいる。この中で掘り下げが行われたと言えるのはエルザとユーリスのみである。
大きなネタバレとなるため詳しい説明は避けるが、クォークは本作において非常に大きな役割を持っている。
しかし、その役割に至った経緯とその正当性に関しての事前の伏線描写が不足しているのだ。
それは彼の過去とも関連する内容であるため、もっとキャラクターの掘り下げがされていれば…と強く感じてしまう。

その他にも、主人公が牢屋に閉じ込められるシーンでは当たり前のように牢屋の中で武器の販売が行われており、一周回ってギャグにすら感じる明らかにおかしいシチュエーションだ。
ゲームシステムとしての救済、ユーザーフレンドリーな要素なのは十分に伝わるのだが、シチュエーションとしては余りにもミスマッチとなっている。

本作のストーリーでは移動しながらキャラクター同士の会話が進むようになっている。これ自体は非常に丁寧に作られており、傭兵団のメンバーの仲の良さや関係性がわかるようになっているのだが、これに関しても勿体ないと言わざるを得ない部分がある。
この移動しながらの会話はストーリーの端々に用意されているのだが、プレイヤーが進み過ぎてエリアチェンジをしてしまうと途中でセリフが途切れるなど尺調整の検討が甘いのだ。
このような場合、ダンジョンの長さからセリフの尺を算出する事が可能であるし、もしくは事前に声優に喋ってもらい該当のセリフの尺を予め把握する事でダンジョンに必要な長さを逆算する事もできる。
そうでなくても、単純にエリアチェンジでセリフを途切れさせなければこれほど勿体ないと感じる事は無かっただろう。

本作は章形式で物語が進むのだが、1章辺りの所要時間はおよそ30分程度で非常に短い。
これ自体は別に問題は無いのだが、前章と次章の間で起きた主人公達の出来事がナレーションによる語りによって表現されている事も勿体ないと感じる。
例えば、章と章の間の出来事として「主人公は○○を目指し船に乗った」と言ったようなナレーションが挿入される訳だ。
確かにゲームプレイとしては大した事の無い内容ではあるし、華やかさには欠けるようなシチュエーションなのかも知れない。しかし、筆者としてはその章と章の繋ぎの部分をゲームとしてプレイするようにして欲しかったのだ。
もちろんやり過ぎれば間延びしてしまいテンポが悪くなってしまうのだが、このような「何もない」ような時間をゲームプレイとしてもきちんと描く事によって主人公達またはNPC達の日常の風景を感じる事ができるため感情移入がより一層しやすくなるように思う。

 

システム

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ヘイトを強制的に奪うギャザリング

ラストストーリーのバトルシステムはリアルタイムに進行するRPGだ。

敵には「ヘイト」のような概念があり、画面上では線で結ばれた先のキャラクター(味方)に対して攻撃を行おうとする。
敵の行動は主に強力な火力を誇る「魔法使い」に対して強烈に働き、魔法の詠唱をさせないように立ち回ってくるのだ。

そこで重要になってくるのが主人公に宿った特殊な能力「ギャザリング」だ。
ギャザリングは敵のヘイトを「強制的に」奪う事が出来る能力で、特に何かを消費する事もなくワンボタンで発動させることが出来る。
上図を参照してみて欲しい。ギャザリングを発動した瞬間に敵から出ている線(ヘイト)が一気に主人公に向かっているのが確認できるだろう。
注意点としてはギャザリングによってヘイトを奪う事が出来るのは敵が主人公を視認できる位置にいた場合のみであり、遮蔽物の裏にいる敵のヘイトまでは奪う事は出来ない。
ギャザリング中に攻撃するとダメージ量に応じてHPが回復したり、ギャザリングバーストと呼ばれる敵のスピードを鈍化させる強烈なカウンターが発動できたりと至れり尽くせりだ。

このギャザリングを駆使して、敵の攻撃を全て引き受け、味方の強力な魔法によって敵を殲滅するための時間を稼ぐ…と言うのが本作の大まかな流れとなる。
この戦闘システム自体は良く出来ており、上手く戦場をコントロールできた場合には非常に面白く感じる事ができる。
また、最後の敵へのフィニッシュ時には専用の倒す演出が差し込まれ、これもまたカッコよく爽快だ。

その他にもバトルでは様々な要素が存在している。
タイミングよくガードを行う事で発生するパリィのような「ガード斬り」は強力だ。
また、フィールドを利用した技も存在し、遮蔽物に隠れてから奇襲の一撃で大ダメージを与える「スラッシュ」や壁を蹴り上がってから叩き付ける「垂直斬り」などが存在する。
更にフィールド自体にギミックが仕込まれている場合があり、魔法やボウガンによって橋などのオブジェクトを壊して厄介な敵を一掃する事ができる場面も随所に存在するなど戦闘におけるバリエーションは豊かで面白い。
これらの要素は決して全てを駆使しなければならない訳では無く、あくまでもプレイヤーの好みに応じた戦闘における選択肢の1つとして楽しむ事が出来るようになっているのも良いポイントだ。

本作のバトルシステムにおける欠点についても伝えておかなければならないだろう。
これは前述の「好みに応じた戦闘ができる」と若干の矛盾をはらんだものとなってしまうのだが、本作ではギャザリングや地形利用と言ったシステムを「上手に活用できた」と実感できるほどの強敵が少ない事が物足りなさを感じるポイントとなってしまっている。
一部の敵を除き、大半の敵が短時間で勝ててしまったり、ゴリ押しでも勝ててしまうため、「私のギャザリングはちゃんと機能していた…?」と言う何故勝ったのかよくわからない状況になりがちだ。
また、本作では比較的簡単にキャラクターのレベルが上がってしまう事もそのような状況を加速させている。
もちろん、時間がかかるような一部の強力な敵を相手にした際にはヘイト管理がしっかりと把握でき戦場をコントロールしているのが伝わるため面白いのだが、そうでない戦闘の方が圧倒的に多く感じる。

戦闘中の移動に関しても気になるポイントとなっている。
本作では移動方向に敵がいた場合に攻撃が行われる仕組みであるため、移動したいのに攻撃してしまいキャラクターが移動できない現象が多く発生してしまうのだ。
敵がいる方向に移動したい場合にはガード状態になれば攻撃せずに移動だけできるのだが、ガード状態で移動を行うと段差などのオブジェクトを乗り越えるモーションが発生してしまうため、意図しない動作となってしまう事も多い。
また、設定から攻撃方法をボタン入力に変更する事も可能なのだが、そちらはそちらで攻撃する際にはボタンを連打し続ける必要があるため帯に短し襷に長しだ。
「移動方向に敵がいれば攻撃」するのであれば「移動しつつも攻撃」を出来るようにして欲しかった所だ。

ボタン割り当ての微妙さも気になるポイントだ。
これはWiiのコントローラー+ヌンチャクでの操作を許容しているために起きているように感じるのだが、全てのアクションをAボタンに頼っているために誤操作が起きやすいのだ。
代表的なものは、ローリングをしたいのに壁張り付き(Hide)を行ってしまうなどだ。
Wiiのコントローラー+ヌンチャクではユーザーが押下しやすい位置にあるボタンは限られているために仕方がない面はあるが、何とかして欲しかった所だ。

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ゲージを消費して発動する大技「テンション技」

その他にもキャラクター固有の大技「テンション技」と言うものも存在する。

テンション技はテンションゲージが最大までチャージされた状態で発動する事ができる。
テンション技はキャラクター毎に性質が異なり、エルザであれば攻撃や移動と言ったスピードが上昇し、ユーリスであれば魔法による大ダメージを与え、カナンなら味方全体にダメージバリアを付与する。
これらはどれも強力な技であるため積極的に活用すると良いだろう。 

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防具の色を変えたり、パーツの取り外しが可能

本作では入手できる防具の数はそれほど多くは無い。
しかし、それを補うような形で防具の色替えや籠手やジャケットなど部分的なパーツの取り外しが可能になっている。
また、最初こそ着脱可能な防具のパーツは少ないが防具を強化する事でパーツが増えていく仕組みとなっている。
自分好みの見た目に変更できるのは嬉しいポイントだ。

 

グラフィック

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密度の濃いロケーション

ラストストーリーでは訪れる事ができるロケーションは少なく、ルリ島の中にある街や洞窟と言った場所がほとんどでバラエティーには少々欠けるところがある。
しかし、そのグラフィックのディテールはWiiとしては高水準だ。
嵐などのシーンではカメラに水滴がつく表現がなされるなど随所にこだわりが感じられる。
一部の天井にキャラクターの影が映るなど細かい気になる点はあるものの全体の品質は高いと言って良いだろう。

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生活感の強い街並み

本作のディテールで特に目を見張るのはルリの街だ。
街には活気のあるメインストリームだけでなく、地元の住人向けのような裏路地が多く張り巡らされており街全体に生活感が漂う。
また、街の中で行きかう人の多さは魅力を更に増している。遠方の人物はフレームレートが落とされるなどの工夫が見られるが、Wiiのゲーム中でもこれほど多くのNPCを描画している作品は稀だろう。

 

サウンド

ラストストーリーの音楽は伝説的な植松伸夫さんが担当している。
植松さんらしい壮大なクラシック音楽の潮流を感じさせる本作の楽曲も素晴らしい。

様々なポイントで聴くカッコいいメインテーマ「Theme of THE LAST STORY

メインテーマのアレンジも含まれる街の中で流れる静かな「街の音色」

煌びやかな騎士の姿を感じさせる「歓びの声が聴こえる」

本作におけるもう1つのメインテーマと言える「翔べるもの」

本作では音楽の使い方に関してもこだわりが感じられる。
スタートメニュー画面ではBGM遷移する演出が行われる。これは単純なフェードインとフィードアウトで演出されているのだが、それでも十分にカッコいい。
また、戦闘中に戦局が有利状態となるとメインテーマのBGMへと遷移するのは特に熱い演出だ。

音声面で残念なポイントがあるとすれば「モブの演技」だろう。
主役級のキャラクターは問題は無いものの、いわゆるモブキャラクターのセリフに関しては演技がマッチしているとは言えず、違和感を感じる事が多い。

 

総評

ラストストーリーの「王道を狙ったストーリー」や「ヘイトを管理するバトルシステム」と言った主軸は非常に魅力を感じる作品に仕上がっている。
しかし、本作ではそれを十分に活かし切れたとは言い難い。
「ルリの街のディティール」や「BGMの使い方」は素晴らしいのだが、それと同じくらいのディティールがストーリーにも欲しかった所だ。
バトルに関しても用意されたシステムが意図通りに機能しているとは言えず、全体的な調整が上手くいけばもっと光り輝くことができたように感じる。

 

外部記事

設定画

社長が訊く『ラストストーリー』

社長が訊く 坂口博信×坂本賀勇

社長が訊く 坂口博信×高橋哲哉

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