【レビュー】Fate/Samurai Remnant

江戸を駆ける聖杯戦争

Fate/Samurai Remunant(以下、FSR)は今や大人気IPとして知られるFateシリーズを歴史系ゲームの雄コーエーテクモゲームスによるARPGとして表現した作品である。

筆者はFateシリーズに関してはテレビアニメシリーズを視聴した程度の知識であるため、そこまで造形は深くはないが好きな作品群である事は間違いない。

 

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ストーリー

シリーズファンにとっても嬉し要素の多い一作

FSRは1600年台中期の江戸時代、宮本武蔵の弟子にして養子である宮本伊織という人物が主人公となっている。
Fateシリーズにおける聖杯戦争と同義の「盈月の儀」が行われ、その中でもセイバーのサーヴァントのマスターとして宮本伊織が覚醒する所から物語が始まる。
他シリーズ同様に歴史上の著名な英雄たちが英霊として登場し、盈月の儀を勝ち残るためのデスゲームが開始される。
なかでも本作で初めて登場するような英霊も存在するため、「この英霊は誰なんだろうか」と考察しながら読み進めていくのも楽しみになるだろう。

シナリオ内には選択肢が用意されるケースがあり選択によって分岐が発生する。
選択肢や分岐が多い訳ではないため豊富なマルチエンドとはならないが、いくつかのルートが存在しているのも特徴として良いだろう。
内容にしてもFateシリーズらしい展開も多く用意されている。

ゲームプレイ中では町中の探索する事が可能で、場所によってはセイバーが専用の会話ポイントにプレイヤーである伊織を誘導するような事もある。
これは江戸時代の歴史背景や当時の文化的な説明をセイバーを介してプレイヤーに行うためのものとして機能している。
そのため、江戸時代の空気感や雰囲気を感じられる会話も多く、また説明的な会話過ぎず伊織とセイバーの関係性を描くものとしても活用している。

サーヴァント個別のサブストーリーも

登場するその他のサーヴァントもサブストーリーとして用意されている。
内容自体はそのサーヴァントと由来のある依頼をこなすようなものではあるのだが、やや淡白なもので濃密な会話劇などを期待していると肩透かしにはなってしまうだろう。
本作はあくまでも宮本伊織とそのサーヴァントであるセイバーを中心とした物語なのだ。

用語解説もあり初心者に優しい

本作ではキャラクターや土地が多く登場するが、それらの用語についての説明も完備されている。
歴史背景について記載されているテキストが多く用意されており、ディティールを知りたい場合には参照すると良いだろう。

ストーリーの魅力がゲームプレイで表現できていない

では、FSRのストーリーはどうなのだろうか。
本作はストーリー自体は悪くないように感じられるが、ストーリーテリングの甘さによって素材が活かし切れていない印象である。

事前の伏線や溜めや引きなどの”物語の谷”となるような構造が弱く、物語としての山場への導入を作れていないのだ。
そのため、盛り上がるであろうハズの場面でも山と谷の落差が小さいために思ったよりも盛り上がりに欠ける印象になってしまっている。
Fateシリーズに多い「これからどうなってしまうんだろう」「誰が死んでしまうんだろう」といったような「いつ、誰が死んでもおかしくない状況」を実感を持って作り出せておらず、ストーリードリブンの1つの要素として大切な「期待と不安」が欠けたものになってしまっている。

これは物語を通して主人公である宮本伊織視点が中心に描かれているために発生している問題でもありそうだ。
他のマスター/サーヴァントの描かれ方が薄く、感情移入が薄いままに物語展開が進んでいってしまうのである。
Fateシリーズは敵と味方とは簡単には割り切れないようなキャラクターの描かれ方が印象的であるため、もっと群像劇のような描き方が出来なかったのかと思わずにはいられない。
工数が増えてしまう問題はあるが、複数の視点から盈月の儀を描く事で戦う事への葛藤を生み出せたのではないかと思うのだ。

 

システム

わかりやすい無双ベースのアクション

身も蓋もない記載っぷりで恐縮だがFSRの戦闘システムは基本的には無双系のアクションRPGをイメージするのが手っ取り早い。
上図ではサーヴァントを操作しているが、基本的にはマスターであり剣士の宮本伊織を操作する事になる。
宮本伊織を操作して敵に攻撃を行っていく事で「交代ゲージ」がチャージされていき、それを使う事でサーヴァントを一定時間操作して戦う事が出来る仕組みとなっている。
サーヴァントは火力面でも範囲面でも協力であるため、ある種の強化モードのような使い方だと思っても良いだろう。
またそれ以外でも、戦闘中にはセイバーから協力技を申請される事もあり、実行すると大ダメージを与えられる。

特にボス敵のような強敵相手には「外殻ゲージ」というものが設定されており、これを削らないと大きなダメージを与えられない。
このゲージはサーヴァント操作の方がより簡単に削れるため、積極的にサーヴァント操作にするのが大切だ。

なお、ストーリーを進めると他のサーヴァントからの助力を得られるようになり、セイバー以外のサーヴァントにも交代が可能となる。
複数のサーヴァントが操作可能となっているのはFateシリーズファンとしてもうれしいポイントとなっているだろう。

冗長を極めたボス敵

大まかには無双系アクションであるが、前述のボス戦は不快感が強いものである。
これは無双系の軽快なアクションと根本的なシステムとしてのミスマッチが強いのだ。

軽快なアクションは行き過ぎれば「大雑把」にも繋がり、無双系の系譜である本作はほとんど大雑把なアクションである。
自分と敵の攻撃範囲は見た目よりも遥かに大きなものであるし、ヒットボックスにしても同様だ。
カメラワークも1対多を前提としているため詳細な距離感が測りにくいものである。
これは同社の他作品で恐縮だが"ペルソナ5 スクランブル ザ ファントムストライカーズ"で起きていた問題と全く同じ事が本作でも起きているのである。

HPゲージとは別に削る必要のある外殻ゲージにしても、無駄に耐久力を高めているだけで駆け引きに寄与していない事も問題である。
強敵である事を演出したい気持ちは理解できるが、実際に皿の上に乗っているのは「無駄に耐久性が高いだけの敵」であり、こちらが「負けそうだ」と感じるケースが存在しない。
負ける事のない…言い換えればスリルのない淡々とした戦いが延々と続くのは苦痛が伴うし、敵を倒すために何度も同じ行動を繰り返し続けるだけなのである。
プレイの面でも、感情の面でもメリハリに欠ける体験になってしまっており、このシステムで強敵を扱おうと思うのであれば根本から考えを見直すべきであろう。

陣取りのような要素も

ストーリー攻略を行っていくと上記のような陣取りゲームが数多く登場する。
この陣取りゲームでは最終的に敵の本拠地を奪う事で勝利する事なり、そこに到達するまでにある拠点を奪っていく。
この拠点は敵とも奪い合いをするのだが、拠点が支配条件を満たすには同じ色の拠点と隣接している必要がある。
そして、キャラクターの移動によって拠点が支配条件を失うと分断が発生してしまう。支配条件を失った拠点は未制圧拠点の状態となってしまい、その領域内にプレイヤーがいるとゲームオーバーだ。
逆に敵を分断させて孤立させれば戦わずに消滅させる事ができる。
上手くエリアを分断させて無用な敵とは戦わずに効率良く敵の本拠地を奪うのが望ましい。

その他にも陣取りを支えるシステムやアイテムなども存在する。
アイテムに関しては強力ではあるが所持数制限もあるため、ゴリ押しのような事が行いにくくしっかりと調整されている。
バランスが比較的整っているため楽しくプレイできるだろう。

 

グラフィック

ディティールは弱いギリギリの及第点

FSRのグラフィック面はキャラクターのモデル自体は及第点と言えるものがあるが、全体のディティールはチープだ。
特にフィールド上のオブジェクトやテクスチャは近くでマジマジと観るには厳しいレベルだろう。

とは言え、肝心のキャラクターのモデルはしっかりとしており、中でもフェイシャルに関してはパワーを注いでいるように見受けられる。
魅力的なキャラクターを損ねる事のないものになっているため、その点では全く問題ないだろう。

その他、細かい部分も配慮しているようでカメラでは足元が見えにくいためわかりにくいが、室内の畳の上などでは履物を脱いでいるなどの細かいこだわりもあるようだ。

江戸時代の地図は魅力的だ

オールドな雰囲気を感じさせる江戸の地図は魅力的だろう。
名前も含めて現代でも存在する都市も多いため、そういった側面でも興味深く観る事ができるのではないだろうか。

 

サウンド

BGMは無双シリーズらしいものや、和風らしいなもの、その他にもサーヴァントの出自にマッチしたものも多い。

ボイス面ではフルボイスと言う訳ではないが、各サーヴァントが喋る場面もしっかりと用意されているため好きな既知のサーヴァントがいる場合には嬉しいかも知れない。

 

総評

Fate/Samurai Remnantはストーリーでもシステムでもメリハリに欠けており、素材を思ったほどに活かしきれていない作品だ。

ストーリーはそれ自体は悪くなく、登場するサーヴァントが誰なのかを考えるのは楽しめるものの、盛り上げ方には問題があるため思ったよりも感情が動かない。
戦闘システムも大まかには悪くはないのだが、プリンをフォークで食べさせられる冗長で退屈なボス敵との戦いは苦痛を伴う事だろう。

 

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