【レビュー】シャドウハーツⅡ

死と再生の物語

シャドウハーツⅡは旧スクウェアのメンバーが設立したサクノスを再編したノーチラスが開発を行い、アルゼ(現:ユニバーサルエンターテインメント)が販売したPS2向けRPGタイトルである。

筆者は前作をプレイしないままに本作を手に取ったのだが、それは比較的偶然に近く丁度その頃に新しくプレイしたいタイトルを探している時に見つけたのだ。
実際にプレイしてみると史実とも絡んだ内容でもあり、丁度そのタイミングで三國志のゲームにも楽しみを見出していた時期だった頃でもあったため歴史的な知識の部分が補完されていく事にも嬉しさがあったのだ。

今回は筆者が世界史に興味を持つきっかけとなったシャドウハーツⅡについてレビューを行っていきたい。

 

シャドウハーツ2

シャドウハーツ2

  • 発売日:2004/2/19
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

より歴史的接点を描いたダークローファンタジー

シャドウハーツⅡは第一次大戦の只中にある混迷する1915年の欧州が最初の舞台となる。
主人公ウルムナフ(通称ウル)は前作にて起きた神降ろしと神殺しの事件のあと、幾度も追手と対峙しては逃亡する生活だったようである。
そしてフランスのドンレミ村へと流れつき、そこで用心棒のような事をして暮らし外部の人間からは「ドンレミの悪魔」とまで呼ばれるようになっていた。
そんなある時に、ドイツ軍の女性将校カレンとバチカンのニコラス枢機卿にドンレミ村の占拠と悪魔討伐を名目とした襲撃を受ける。
しかし、ニコラスの目的が当初聴いていた内容と全く異なる事からカレンが対立、揉めているさなかウルはカレンを庇う形で”ヤドリギ”という呪いをその身に宿す事となってしまう。
ヤドリギの呪いとは何なのか、この呪いを解く術はあるのかを探す旅に出る事となる。

本作では前作と比較してもより歴史的事件との関りが深いものとなっているのが特徴的だ。
実在した人物もより多く登場し、より物語の中心で関わるようになっている。
その上、実在の都市も多く用意されており、著名な建物を確認する事も出来るだろう。
第一次大戦時の諸国を巡るため、「1つの国家内で起きていた歴史」ではなく「国家Aでこういう事が起きていた時、波及して国家Bがこういう状態になり…」というような「国家間の関係性の中の歴史」をふんわりと感じ事ができるため世界史に興味を持つきっかけにも成り得る作りになっている。

では次に本作で大きく強化されている要素についても記載したい。
まず、ボイス付きのカットシーンが多く用意されておりストーリーおよびストーリー演出としての見応えが格段に上がっている。
カットシーン自体の品質も非常に高く、キャラクター自体の演技はもちろん、声優による演技も素晴らしい。
特に主人公ウルの不器用なりに相手に想いを伝える姿はキャラクター像を完璧に演じた高橋広樹さんの演技によって是非とも観るべきものとなっている。
前作では後半になると影が薄くなってしまうキャラクターがいたものの、本作では比較的どのキャラクターも最後まで個性的で魅力的に描かれているのも好印象である。

続編であるという事で本作からいきなりプレイしても問題ないかが気になる事もあるだろう。
結論から書くのであれば、ほとんど問題ないといっても良いだろう。
何しろ筆者自身が「2」からプレイしているためだ。
前作であった具体的な出来事こそわからないものの、キャラクターのセリフから何があったのかが察せられる程度には情報を貰えるため話が全くわからないという状況にはならないように感じられる。
しかし、キャラクターの気持ちの重さまでも理解するには前作はプレイしていた方が良いだろう。
何故なら、本作が「前作のバッドエンドルートの続編」となっているためだ。
若干の前作のネタバレとなるが、前作のヒロインであるアリスは生存ルート(グッド)と死亡ルート(バッド)が存在している。
本作ではその死亡ルートの未来を描いているのである。
そのため、アリスを失った失意のウルの気持ちをより深く体験するためには前作の文脈を踏まえておくのが望ましい。
そして、本作はバッドエンドルートであるが、グッドエンドへと至るための物語でもある点は見逃せない。

物語進行における注意点としては現在の目的が何なのかを確認する術がない点だろう。
昔の作品では珍しいものではないが、何にしてもプレイ期間が空いてしまったりなどすると次にどこへ行けば良いのかが全くわからないような事にもなりかねない。
今からプレイするという場合には次にどこに行くべきなのかが明確にわかりやすいキリの良いポイントでゲームプレイを中断しておくべきだろう。

なお、本作にはディレクターズカット版が存在する。
ディレクターズカット版では新規イベントなどいくつかの新規要素が追加されているため、今からプレイを検討する場合にはそちらを購入した方が無難だ。

絶妙なシリアスとコミカルのバランス

物語路線は前作と同様のダークファンタジーであり、ローファンタジーだ。
現実世界を題材としながらも魔術や悪魔といったファンタジーな要素を加えており、更にそこに戦争という暗い影と陰謀が潜んでいる。

しかし、題材こそ陰鬱だが、物語が暗いかというと決してそんなことはない。
前作に引き続き主人公であるウルが銀魂坂田銀時のような「良い意味でアホでありながら、決める所はしっかりと決めるようなキャラクター性」となっているためだ。
更に本作ではアニメや特撮などへのオマージュが非常に多く採用されており、シリアスとコミカルが見事なバランスで成り立っている。
言うなれば「甘いお菓子」と「しょっぱいお菓子」を両方とも用意してくれているようなもので、ダークローファンタジーながらもコミカルでもありメリハリのある作風へと至っている。

避けがたき死

本作において描かれる特筆すべきテーマとして「避けがたき死」がある。

人は寿命はもちろんだが、特に不治の病などにより死に直面したときに恐怖と後悔、そして絶望が襲い掛かる。
しかし、それでも奇跡が起きるのではないかという不確かな希望を胸にするものである。
そして何をしても逃れようのない結末の前に諦観へと至り、その時に自分らしい生き方を、後悔のない生き方を模索する。
本作ではその過程を克明に描いており、この物語は最期へと向かうための"終活"なのである。

筆者の肌感覚で申し訳ない所だが、当時の日本経済は長期低迷で下火になっていた事に加えて、PS2時代のタイトルでは描画できる3D映像品質が格段に向上した。それらの時代背景にマッチするようにビターな作風のタイトルが増えていた印象がある。
本作もその潮流の中の1つではあるのだが、その題材は高齢化社会となっている現代日本において老若男女問わずに向き合うべき問題であり、それを「見送る側」ではなく「自己犠牲」という美化した描き方でもなく「一人の人間の当事者の視点」として描いており、そしてそれは「いつか来る自分の姿」でもあるのだ。誰にでも起こり得る特別ではない最期を描き出しているのは先駆的であり、特筆するべきポイントだと言えるだろう。

テキストへのこだわりは相変わらずだ

前作同様にテキストに対しての強いこだわりも健在である。

物語の展開と共にNPCの会話テキストにも変化があるほか、アイテムや敵にも設定に関してのテキストが用意されている。
また、選択肢が単純な「はい / いいえ」ではなく、キャラクター性を踏まえたものになっている点も相変わらず素晴らしいポイントだ。
多くの場所で「プレイヤーに楽しんで貰おう」という気概を感じさせてくれるため非常に好感を持ってプレイし続ける事が出来るだろう。

 

システム

ここではゲームプレイに関連するシステム面に関して記載する。

 

バトル

新たな要素により更にユニークになった戦闘

シャドウハーツⅡでは前作同様に「ジャッジメントリング」というルーレットを使用して行動を成功させて攻撃や回復を行うユニークなシステムとなっている。
ルーレットには失敗、成功、大成功の3段階が存在しており、大成功を狙おうとすると失敗する可能性が高まるようなリスクとリターンを考慮した配置になっている。
そのため、リスクを取って大成功を狙うか、安牌の成功で済ませるかも状況によっては考慮して良いだろう。
また、シリーズの特有の要素としてSP(サニティポイント)も存在する。
こちらはキャラクターがターンを迎えるたびに1ポイント減っていくものとなっており、これが0になると暴走状態になりキャラクターが制御不能となってしまう。
回復手段こそあるものの、長期戦になってしまうとHPやMP以上に重要なマネージメントが必要な要素となるので注意が必要だ。

新しい要素として「連携」が増えている。
連携は仲間キャラクターに隣接する事で発動するもので、行動したキャラクターに隣接しているキャラクターがいるとターンの順番に関係なく直後に行動できる。
更に直前キャラクターの攻撃によるダメージリアクションが継続している状態で開始されるという特徴も持っている。
本作では全ての攻撃方法に応じて吹き飛ばし、打ち上げ、叩き付けなどの効果が設定されているため、例えば敵に打ち上げ攻撃した後の連携では敵が空中に浮いている状態から連携先のキャラクターの攻撃が始動する。
空中から落下してくる敵にしっかりと攻撃を当てられるような攻撃でないと攻撃が外れてしまうためどのような攻撃を選択するのかも気を付けておかなければならない。
この連携が上手くいく事でダメージも上昇していくため、状況に応じて畳み掛けるために連携を活用するのが好ましい。
なお、この連携は能動的に行う事も可能だが、敵の攻撃のノックバックなどのダメージリアクションによってキャラクター同士が隣接して偶発的に発動可能となるケースもある。

キャラクターが隣接する事で強力な畳み掛けが可能となるが、その状態は何も安全な状態ではない。
魔法などでは範囲攻撃が存在するためである。
範囲攻撃は「敵の円形周囲」や「自分の直線状」など様々で、配置によっては一網打尽も可能となる。
これは敵を一掃する際にも利用する事はもちろんなのだが、逆に敵が行って来ることも考慮しなくてはならない事だ。
連携可能な状態はキャラクター同士が密集しているという状況下でもあるため、行動順序の把握を怠るとパーティーの多くが巻き込まれてしまう。
連携によってダメージを伸ばす事は大切だが、行動順序を把握して行うべきだろう。

本作ではキャラクタービルドの面も強化されている。
その1つがジャッジメントリング自体のカスタマイズだ。
攻撃において重要となるジャッジメントリングのルーレットを成功させやすくするヒットエリアの拡張であったり、通常攻撃に相手にデバフを与える効果を設定できたりする。
また、リングタイプというジャッジメントリング自体のタイプも変更可能で、火力が上がるが1つでもミスすると攻撃自体が発生しないタイプ、複数回の目押しが必要なものを全て1回に集約させるタイプなど用途に応じて使い分ける事も可能なものが用意されている。
ルーレット自体が不慣れなプレイヤー向けにも配慮されており、必ず成功するが大成功にはならないというタイプも用意されている。
自分のプレイスタイルやキャラクターの運用、パーティーシナジーを考慮したビルドをする楽しさが増している。

 

キャラクター強化

改善されたフュージョンとユニークなキャラクター強化方法

本作の世界観を表現するシステムとして導入されている主人公ウルの特殊能力フュージョンも健在である。
フュージョンとは怪物や悪魔へと変身する能力の事で、基礎ステータスを伸ばす事が出来るほか、フュージョンした悪魔に応じたスキルを使用する事が出来るようになる。
本作では少し仕様が変更されており、それはSPの取り扱いについてだ。
前作においては変身する際に多くのSPを消費していたのだが、本作では「ターン経過時のSP消費が多くなる」という仕様に改善されている。
これによって状況に応じたフュージョンの切り替えが行いやすくなっており、より融通の利く万能性を有したキャラクターへと変化した。

また、フュージョンする内なる悪魔達を強化する方法も良心的になっている。
前作においては敵を倒した時にポイントが得られたのだが、それが属性別のポイントに分離していた。
本作では属性別にポイントがわかれておらず、1つのポイントに集約されている。
そのため、シンプルに敵を倒せば強化のために必要なポイントが入手できると言う形となっているのだ。

なお、本作ではキャラクター毎に全く異なる強化方法が提示されている。
狼であるブランカであれば”ウルフバウト”という狼界頂上決戦のイベントをこなしていくものであったり、レスラーに師事しているヨアヒムは道端に落ちているものを拾って装備品として入手したりもする。
このようにキャラクターそれぞれに個性の強いドラマと共にキャラクター育成が成されていくため、キャラクターの強化自体がゲームプレイの楽しみになるだろう。

 

ダンジョン

バランス配分の良いダンジョン構造

ダンジョンは最初から最後までそこまで長いものはないのだが、序盤からやや入り組んでいてランドマーク的なものも乏しいため迷子にはなりやすい場所も散見される。
そのため、エンカウント率自体はそこまで高いものではないが、結果的に戦う回数は増えるだろう。
とは言え、クリアまでにレベリングが必要であると言うバランスではなく、エンカウントした敵を倒していけば順当に適正レベルで攻略できていくバランスとなっている良いデザインだ。

ダンジョンではパズル要素をクリアして先に進めていくようなものが多くなっている。
とは言え、難しいパズルと言う事はなく、しっかりと考えていれば問題なくクリアできるものとなっている。

 

ソロモン王の鍵

パズル的な強化システム”ソロモン王の鍵”

物語を進めたり、ダンジョン探索をする事で魔法を使えるようになる「紋章」が見つかる。
紋章には固定で魔法が設定されており、それを装備したキャラクターがその魔法を使えるようになると言う仕組みである。
また、同じ魔法が設定されている紋章を複数装備させた場合には消費MPが大きく軽減される効果もあるため、誰にどの紋章を装備させるかを考えるのも楽しいだろう。

そしてこの紋章は強化要素が用意されている。
それが「ソロモン王の鍵」である。
それぞれの紋章にはテキストが書かれており、ソロモン王の鍵の書にはいくつかのエリアが描かれた地図が記載されている。
ソロモン王の鍵の書に描かれている土地と紋章に書かれたテキストが一致するように配置していくというパズル要素があるのだ。
そのテキストにマッチするように配置していきエリアが埋まると紋章が強化され、新たな魔法が紋章に宿ったりする。

 

グラフィック

実在の場所と建造物が好奇心を掻き立てる

シャドウハーツⅡでは実在する土地や建物が多く登場する。
有名なものが多いためローファンタジー感をより強く感じる要因となるハズだ。
ディティールに関してもPS2の中でも高いレベルとなっている。

劇的な飛躍を遂げたキャラクターモデルとアニメーション

目に見えてわかる大幅強化が施されたのは何と言ってもキャラクター関連である。
プリレンダムービーでも、リアルタイムレンダリングでも前作から大幅に強化されている。

キャラクターのアニメーションにしてもモーションキャプチャーベースに変更されているようでリッチな印象を受けるだろう。

 

サウンド

魔術・呪術の不気味な雰囲気を思わせるBGMが印象的で、このBGM達も本作の個性を引き立てている。
また、前作と同様に戦闘中にSP枯渇で暴走状態となったキャラクターが発生すると専用のアレンジ違い戦闘BGMへと変化する。

郷愁と落ち着きのある「Old Smudged Map」

暗い工業文明の空気感を漂わせる「灰色の記憶」

魔術・呪術的で不気味なコーラスが印象的な戦闘曲「Vicious 1915」「Deep In Coma」

威圧感の強いリズムが強敵感を感じさせるボス戦曲「Hardcore To The Brain」

なお、ディレクターズカット版では特定の場所において新規BGMが用意されている。

BGMは素晴らしいが、サウンド面で素晴らしいのはボイスもだ。
戦闘中のボイスも強化されているが、何よりもカットシーンでの演技はどれも素晴らしい。
モダンなナチュラル系の演技が主体であり、リップシンクもしっかりと設定されている。

 

総評

シャドウハーツⅡは全ての面において大幅な強化が施され、隙の少ない傑作へと至っている。

ストーリーは飛躍して美麗になったモデリングとアニメーションと素晴らしい演技によって更に輝きを増すものとなっている。
そして描き出した死へと向かう「終活」は、決して他人事ではない苦しさを覚えるハズである。
ゲームプレイにおいても個性はしっかりと残しつつも、キャラクタービルドも戦闘中の立ち回りも幅が増えている。
総合的なクオリティーが非常に高い一作だと言えるだろう。

 

外部記事

シャドウハーツ公式サイト:シャドウハーツII>登場人物 (設定資料あり)

インタビュー『シャドウハーツII』 - 電撃オンライン

シャドウハーツ2 出演者インタビュー - ニコニコ動画 (非公式)