【レビュー】わるい王様とりっぱな勇者

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これは、いつか君に倒される物語。

前作にあたる「嘘つき姫と盲目王子」をプレイした事から応援の気持ちもあり購入したのが本作”わるい王様とりっぱな勇者”だ。
その手書きベースで作られた絵本のようなビジュアルはそのままに、本作はRPGとして登場するとの事で、ボリュームの増加もさることながらストーリーを描く事に適したジャンルにシフトしたのは期待感があったというのが筆者のファーストインプレッションだ。

それでは本作のレビューをしていこう。

 

わるい王様とりっぱな勇者 -Switch

わるい王様とりっぱな勇者 -Switch

  • 発売日:2021/06/24
  • メディア:Video Game
 
わるい王様とりっぱな勇者 -PS4

わるい王様とりっぱな勇者 -PS4

  • 発売日:2021/06/24
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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ビジュアルスタイルに違わずの絵本のような物語

本作のストーリーは人間の女の子「ゆう」と森に住む王様ドラゴンがメインとなる物語となっている。
”ゆう”は勇者の子供であるが既に両親は亡くなっており、かつて魔王と恐れられた王様ドラゴンに育てられた経緯がある。
"ゆう"は子供らしい冒険をしているのだが、それを陰からサポートする親代わりの王様ドラゴンとの関係性が微笑ましい。

「魔王を倒すことを目標とする勇者」という使い古されたフォーマットを用いながら、魔王に育てられた勇者という経緯を持ち合わせる事により、二人の関係性と絆をより強く感じさせる物語に仕上げられている。
メインもサブも物語のプロットは絵本のようなテイストを大切にしており、ストーリーテリングにしても前作にあたる”噓つき姫と盲目王子”と同様にナレーションによって絵本を読み聞かせるような形式となっている。
エンディングのスタッフロールの演出にしても物語を補完してくれるものになっており、最後までプレイしたプレイヤーにとって嬉しい内容の仕上がりだ。

物語として予想を超えるような展開は無いかも知れないが、期待を裏切らない物語になっており、絵本のような見た目も相俟ってプレイしていてどこか懐かしい暖かな気持ちになれる本作は、老若男女問わずにオススメできる物語になっている。

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しっかりと物語のあるサブストーリーも魅力的だ

サブクエストもあり、そちらでは個性的な住民などのNPCキャラクターを掘り下げるものになっている。
サブクエストは豊富に用意されているだけでなく、物語としてもしっかり作られているのは好印象だ。
テキストも豊富で、物語の進行に応じてNPCのセリフが変化するなどの細かい差分もあり作り込まれているのが確認できる。

特に筆者のお気に入りのサブクエストは「ハリーとネイサン」や「魔本」のイベントだ。どのような内容なのかはプレイして確認して欲しい。

 

システム

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クラシックなJRPGスタイルながら基本がおさえられている

本作はランダムエンカウント方式のターン制RPGとなっており、通常攻撃、特技、防御などのコマンドを選択して行動を決定するものとなっている。
敵を倒す事で入手できる経験値でレベルが上がり、ステータスが上昇するクラシックなJRPGの基本系だ。
基本的にはオーソドックスな仕上がりで革新的なシステムがある訳ではなく、絵本のような世界を楽しむ事が主体ではあるが、RPGとしての手応えもしっかりとバランスが整っている。
ただし、次のレベルまでどれくらいの経験値が必要なのかが筆者が確認した限りではよくわからず、レベリングを好むようなプレイヤーで定量的な数値が見えた方が好みの場合には少々困るのかも知れない。

目を見張るのはかなり丁寧なチュートリアルが用意されている点で、RPGであればもはや暗黙の了解となっているような部分もしっかりと説明される。
そのため、本作の絵柄に惹かれて購入したゲーム初心者でも安心してルールを把握してプレイできると思って良いだろう。ターゲット層を考慮した配慮がされているのは好感が持てる作りだ。
また、戦闘中に全員の行動を決定した後も実際に行動するまでには猶予時間が設けられており、その時間中にキャンセルして再度行動を選択しなおす事ができる。
ボタンの連打癖などでうっかり行動を間違えてしまった際に活用できる配慮もユニークだ。

また、「逃げる」コマンドは失敗してもデメリットがないため、戦闘したくない場合には積極的に活用できる。
こちらもまたゲームに不慣れな初心者プレイヤーに親切な設計だと言えるだろう。

特技は気力というポイントを消費して発動させる。
気力は毎ターン回復し、防御を行う事でより多く回復するようになっており、回復量としても実用的な範囲となっているので状況に応じて選択する。
特技は範囲攻撃のような形式となっているものがあり、攻撃範囲に入っている敵全てにダメージが入るなどの個性がある。

存在意義の薄いコマンドがない点もゲームとしてのデザインとしてしっかりしている事はもちろん、初心者プレイヤーへの配慮としても素晴らしい。
例えば、よくある腐りがちな要素と言えば「防御」辺りのコマンドだと思うが、本作では前述の通り防御する事で特技の使用時に消費する気力を多めに回復できるようにデザインされている。そのうえ、ボス戦などでは「強力な攻撃をしてきそうだ」と言ったような警告メッセージが表示されるため、しっかりと防御というコマンドの存在を意識した設計にしているのだ。
このように通常攻撃や特技、防御と言った各コマンドが腐る事がないようにしっかりとデザインされている。
これも初心者にとっては好ましい環境のハズだ。何故なら初心者プレイヤーの場合には意味のないコマンドに対しても「意味を求めてしまう」という可能性があるためだ。
ある程度のゲーム慣れしているプレイヤーであれば不要と感じた要素に関しては自然淘汰してしまうだろうが、初心者の場合には「どう使えばいいんだろう」と逆に難しく考えさせてしまいかねない。
その可能性をしっかりと潰して、各要素に意味を与えるようにデザインされているのだ。
当たり前の事とも言えるかも知れないが、それが出来ていない、仕様はあるがデザインされていない、用意されているが存在意義を欠いている要素があるなどと言ったケースは数多くあり、そこが勿体ない要素や残念な要素と評される事は少なくない。
本作は全体的には目新しさのないJRPGのスタイルではあるが、基本がしっかりと押さえられているのは素晴らしいポイントとして挙げても良いだろう。

もちろんRPGとしての「工夫する楽しさ」も用意されている。
仲間キャラクターには相手のヘイト傾向を変化させるようなキャラクターもいるなどのロール的な工夫が行えるし、それを活かして回避率の高い装備で整えるといった追加の工夫も可能だ。
また、上図の右のように特技では攻撃範囲が設定されている場合もあり、上手いこと1回の攻撃で多くの敵を巻き込めるように選択する工夫もできる。このような工夫できる部分を用意する事によってプレイヤーへの手応えもしっかりと提供してある点も見事なバランス感覚だと言えるだろう。

なお、本作において少し変わった仕様を挙げるなら「見逃す」というコマンドがある。
敵に設定された弱点をつくと”へろへろ”状態になり、その状態の敵に対して「見逃す」を使用すると敵を退場させられる。
弱点は何も攻撃だけによらないため、相手によっては簡単に無力化する事も可能になっている。

本作の戦闘において少しだけ困った点があるとすればゲームオーバー時の処遇だろう。
難易度的にはそこまで難しいものでは無いが、やられてしまうとタイトル画面にまで戻されてしまうのは少し面倒な仕様に思えるかも知れない。
直前のポイントから再開などにした方が親切だったかとは思う。

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フィールドのビジュアルは魅力的だが、視認性に問題がある

システムとして見た際のフィールドデザインも良く出来ている。
フィールド上では自身より弱い敵しかいない場合にのみ走って速く移動することが出来る。そして、走っている場合にはエンカウント率が低下するそうだ。
「弱い敵(旨味がない)相手にはエンカウント率が下がって移動速度も上がりサクサク進める」というのはリスクとリターン(駆け引き)の関係性を考えた時にも非常に理にかなっており、変に時間をかけさせないための配慮がされているのは好印象だ。
ただし、方向を変えたりすると走り状態が一旦解除されてしまうので、その点においては地味に不便に感じるだろう。

フィールドは直線的でエリア切り替え地点が黄色く表示され、わかりやすさが重視されている。上図にも黄色く発光する領域が画像下部にあるのがわかるだろう。それがエリアの切り替え地点だ。
しかし、フィールド自体が黄色い場所もあり、視認性がやや悪くなっているのは勿体ない。フィールドに応じてエリアの切り替え地点となる領域の色を変更するか、黄色である事を意識したフィールドの配色にした方が良かったのではないだろうか。

フィールドは四方に各種エリアが存在しているが、ファストトラベルで即座に移動する事も可能だ。
ファストトラベルはメニューから簡単に行えるようなものではなく、特定のポイントにいくと行えるような仕組みだ。
しかし、ファストトラベル可能なポイントが用意されているものの、その数は余り多くなく、配置場所もイマイチ良いとは言えない。
特に各エリアのハブとなる”魔物の村”のファストトラベルポイントは若干アクセスが悪い。頻繁に利用する事を想定した位置に配置して欲しかったのが正直な所だ。

 

グラフィック

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魅力が詰まった手書きベースのビジュアルスタイル

絵本のような雰囲気が印象的な手書きイラストベースのビジュアルスタイルは魅力が満載だ。
キャラクターはとても可愛らしく、ロケーションも美しく暖かみが感じられる。
この雰囲気だけでも本作を買う価値があると言っても過言ではないだろう。

前作にあたる”噓つき姫と盲目王子”と比較すると、モーションの差分イラストが多くなった印象があり、より滑らかにキャラクターの動きを表現できている。
武器のグラフィックもそれぞれ用意されている点も嬉しい要素だ。

GUIも世界観に非常にマッチしたものになっており水を差さない。
例えば、セーブ画面は栞になっており、まさに絵本を感じさせるような演出が成されているのだ。

ファンサービスとしてはコレクションという項目から本作の設定画を参照する事が可能になっている。
これはサブクエストなどを消化する事でアンロックできるやり込み要素でもある。
また、魔物図鑑によってモンスターの情報をいつでも参照可能になっている。魅力的なイラストをいつでも参照できる事も嬉しい要素だ。

 

サウンド

ビジュアルスタイルにマッチしたものが多く、のどかで優しく、可愛らしかったり、幻想的だったりするBGMは印象的だ。
イベントシーンで流れるBGMもシーンを盛り上げるほか、ファンシーな明るさを持ちながらもテンポが良く戦闘らしいサビが印象的な通常戦闘BGMも素晴らしい。
また、ラスボス戦のBGMも最終戦らしさと本作らしさが同時にあり最高の1曲となっている。
BGMはとあるステージでは歪んで聞こえたりと細かい演出としても使われている。

 

総評

わるい王様とりっぱな勇者は細部まで丁寧にデザインされたウェルメイドな一作だ。

物語を語るためにRPGというフォーマットが採用され、あえて変化球を使わずに素晴らしいビジュアルスタイルにマッチした絵本のようなストーリーはメインもサブもしっかりと作られている。
また、メインとサブのストーリーや戦闘、フィールドに至るまで非常に細かい部分にまでデザインが行き届いており、ビデオゲーム初心者に親切である事はもちろん、玄人でもしっかりと手応えを感じさせてくれる内容になっているのは見事だ。

本作の開発チームには変に路線変更をせず、本作と同じ志向性の作品を作ってくれる事に心から期待したい。

 

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