【レビュー】ゼノブレイド3

生きるために戦う。戦うために生きる。

ゼノブレイド3は任天堂の子会社であるモノリスソフトが手掛ける作品だ。
筆者はJRPGへの希望を感じさせてくれたゼノブレイドというシリーズの大ファンである。
そんな作品の最新作が2022年02月10日のNintendo Directにて発表され、当初は9月発売予定とされていたのだが、任天堂内の発売日調整だったのか7月へと発売日が前倒しされた経緯を持つ。
本作のPVでは過去作のキャラクターと思われる存在も確認できたのだが、これ自体は以前より海外にて噂されていたため、筆者としては驚くという事ではなかった。
むしろゼノブレイド1やゼノブレイド2という「綺麗に完成された物語と関係した作品」になるという事が不安であった。
続編でそのような描き方をした事で、結果としてシリーズ全体の足を引っ張るような蛇足となった作品も多いからだ。
これはシリーズの大ファンであれば常につきまとうと言っても差し支えのない問題でもある。

とは言え、この場では他作品と同様にあくまでも筆者なりの公平さでゼノブレイド3という作品のレビューを行っていきたい。

 

Xenoblade3(ゼノブレイド3)-Switch

Xenoblade3(ゼノブレイド3)-Switch

  • 発売日:2022/07/29
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

弱者達のための栄光と永遠

ゼノブレイド3は「ケヴェス」と「アグヌス」、二つの国が言葉通りの意味で「命を奪い合って」戦う世界アイオニオンが舞台となる。
両国の兵士達はある程度の訓練が修了した時点でコロニーと呼ばれる移動式巨大兵器兼居住区へと配属され実際の戦闘を行い死んでいく。
そんな中で例え実力と運を兼ね備えていても10年の寿命しか与えられていないため、寿命を全うした者は自国の女王による祭典のもとに天に召される運命である。
当たり前のように命を失っていく世界観を描くことによって「生と死」を逆説的に説いている物語になっている。
そして生と死という普遍的なテーマの中に絶望とは何か、自死とは何かにまで踏み込んで描いているのは日本の特にJRPGとしては挑戦的なものだ。

哲学や心理学を引用元とする事の多いゼノシリーズであるが、本作では仏教的なモチーフやユングの「集合的無意識」などが引用されているほか、特にニーチェの「永劫回帰」や「末人」「ルサンチマン」といった「弱者の視点」が強調的に描かれているように感じられる。
しかし、これらはどれもがエッセンス程度である。
本作のテーマは「命」であり「生と死」である。それはともすれば当たり前の陳腐な題材であり、物語すらも陳腐で共感し難いものにしかねない。
だが、本作で命を削り合って戦う兵士達とは「今を生きる我々の比喩」であるのだ。
今を生きている我々を取り巻く戦いの中で生まれる過労死や自死、それは決して自分だけではなく、自分の周囲の大切な人がそうなる可能性も否定できないものである。
例えそうでならずともいずれは病気や寿命によって大切な人々との別れが訪れ、結局は遺す者と残される者へと帰着する。
また、自己実現として現れる「なりたい自分」と「現実の自分」のギャップに関しても同様に描かれる。
それらを「頑張れば夢は叶う」「生きていれば良い事がある」と言ったような美化した綺麗事で済まさず、それでいて何か特定の価値観を押し付けずに描いている点は日本の作品としては珍しいものだと言えるだろう。
本作をプレイしていれば必ずや誰か1人は自身の死生観あるいは経験から自身を投影したくなるキャラクターと出会えるのではないかと思える。
これはファンタジーと言うフィルターを通しながら正面から描いているという事であり、言い換えれば本作においても「現実のアポリアに対してファンタジーを介して向き合う」というゼノシリーズの原初より一貫した手法の1つでもある。

ここまで書くと物語が終始シリアスで息苦しいものではないかと不安を覚えるかも知れないが、ある程度はホッとできるような物語も含まれている。
カットシーンにしてもシリーズ同様に3Dアニメ映画のような高品質な映像演出であり、表情は目の動きだけで感情が伝わってくるレベルのものである。
更に本作ではカットシーンとゲームプレイがシームレスになるように工夫されており、没入感の切れ目を作らないよりリッチな表現が採用されている。

そしてシリーズの3作目という事で、なおかつPVにおいても過去作との繋がりが明確に示唆されているため本作から始めても大丈夫か不安なユーザーも多いかも知れない。
ひとまず3自体の物語を楽しむだけならば問題ないだろう。
しかし、しっかりと設定部分やバックボーンを知りたいと思うと1と2のプレイを推奨せざるを得ない。
100%楽しみたいという場合には過去作に手を出しておく方が良いが、物語の大筋に過去作の話が関係する訳ではないため本作の後に1や2に手を出すという順序でも決して悪くはないだろう。

進行ペースと掘り下げには少し心配がある

ストーリー面で気になる部分についても記述しておきたい。

まず、最序盤の進行ペースのバランス配分は少し気になる。
まだ主人公ノア達のキャラクター性が雰囲気程度しかわからない段階から、過去の回想などが長めに挿入されているのは好みがわかれてしまう懸念がある。
何故なら、主人公達にプレイヤーが興味・共感を持てる域に達しないままに過去話をしてしまう状況であるためだ。
普通ならば順序が逆であり、好きになったり、「どうしてなんだろう」と興味を持つという文脈があるからこそ、そこに至った経緯などのキャラクターの過去まで知りたいとなる理屈のハズである。
極端な酷い言い方だが「興味のない人の過去話をされても困惑する」のであり、もう少し主人公達に思いを寄せられるエピソードを挟んで、回想は少しだけ後回しにしても遅くはなかったのではないかと思う。
もしくは、過去話は非常に断片的で示唆的なものだけに抑えて、物語の中盤や後半に残しておいても良かっただろう。
もちろん、この過去話という伏線がメインストーリーで回収される直前で唐突に挿入されるような事があってはならないが。

また、敵対勢力であるメビウスの掘り下げが少ないのは勿体ない。
敵対するメビウスに関しては敵ながら魅力のある存在として描かれるケースもあるが、それは全体からするとかなり少ない。稚拙で利己的な言動に終始しているようなケースが多いのだ。
ネタバレ配慮のため詳細な記載はしないが、前述として「弱者の視点」と表現したが敵対する勢力は「弱きが故に敵として暗躍しているのだろう」「搾取されてきた者が、搾取する側になったのだろう」または「悪の凡庸性」や「大人が子供・青年を搾取するような現代社会の暗喩的構図である」とも推察する事は可能である。
そして、メタ的には「彼らはゲーム内世界に戦いという"遊び"を望み続けるゲームプレイヤーの暗喩」との解釈をするのが正しいと言ってもまず間違いではないだろう(これは作品として自己矛盾したものになるが)。
しかし、いずれにせよメビウスに関係する具体的なバックボーンの部分が全く分からないケースがほとんどなのだ。
もしかしたら更に掘り下げれば何故そのようなキャラクターになっているのかに納得感もあったのかも知れないが、掘り下げが全くない敵がかなり多く「調理されていない具材」のようで非常に勿体なく思えてしまう。

敵勢力が魅力に欠けるケースが多い訳だが、それに伴うのか物語としての山と谷…カタルシスと表現しても良いが、それも全体的に物足りなさも感じてしまう。
確かに全体的には地に足の着いたキャラクター達であり、ファンタジーの世界ながらどこか我々の世界の誰か、あるいは自分とも重なるような人物として描かれているのは素晴らしい。
しかし、全体が地に足が着いたシリアスな展開が多いが故に、物語という大地の起伏には乏しい所がある。
主人公であるノアにしてもどこか淡白な印象であり多くのシーンで人間味が薄く、何を考えてるのかがイマイチ明確にわからないままに物語が進んでいってしまう。
また、本編の物語では明らかに何かの意味がある言葉・設定も、詳しい情報の部分が描かれていない、あるいは散逸している状態であり、その点も物語全体の整合性をユーザーが飲み込む事を妨げている。
「世界」を描く事にはJRPG史上で最も成功していると言っても過言ではないが、「物語」を描くという意味では不完全燃焼な部分が散見される。

冒険を感じさせるキャンプ

キャンプは「ゼノブレイド2 黄金の国イーラ」において採用された要素だが、本作でも登場する。
キャンプではコロニーなどから得た情報を基に相談が行えたり、キャラクターを強化するジェム作り、経験値などにバフをかける料理などが用意されている。

相談では世界設定やキャラクターの関係性、各コロニーの周辺情報・環境情報を知ることが出来る会話が行われるほか、サブクエストへと発展するものも存在する。
この相談の会話はボイスこそないものの、非常に豊富な総数があり、なおかつ内容もかなりのバラエティーに富んでいるため読んでいるだけでも満足感のあるものになっている。

料理は戦闘経験値などに補正をかけるが、冒険を感じさせてくれるストーリーテリングとして機能する要素にもなっている。
この料理も冒険を進めていく中でレシピが増えていき、なかなかの量があるのも嬉しい。

また、ゲームプレイ中の演出としてもフィールド移動中の会話が用意されている。
ストーリーに連動した専用の会話のほか、宝箱に相当するコンテナなどを見つけると発生する会話もある。
更にコンテナなどは自操作でないキャラクターがその地点まで勝手に駆け寄っていくようになっている。能動的にキャラクターが動く事で、キャラクターがその世界で生きているように感じさせてくれる演出面が強化されているのは非常に嬉しいポイントだ。
その他、モンスターにしても転んでアイテムを落としたりと世界全体がより生きたものになるようにデザインされている。

圧倒的なボリュームとクオリティのサブクエスト達

もしも筆者が本作で最も特筆すべき要素をあえて挙げるとするならば、それはサブクエストの充実具合だろう。

エストはいわゆるサブクエストとコロニーを治める軍務長に関連するヒーロークエストの2種類だ。
ゼノブレイドシリーズらしい物量はもちろんだが、本作では更に1つ1つの品質も圧倒的である。
過去作での例えで恐縮だが、ゼノブレイド1のキズナグラムとゼノブレイド2のブレイドエストを足して2で割らない、むしろ1.5倍はしているであろう質と量を誇っていると言えばその常軌を逸した次元が伝わるだろうか。
これだけの質と量を両立させているJRPGは少なくとも筆者が知る限りでは過去に類を見ないレベルだ。

数多く用意されているサブクエストはコロニーの問題を解決していく事でコロニー内外の人間関係であるキズナグラムに変化が発生するものだ。
キズナグラムは1やクロスの時と比較しても相関関係にあるキャラクターが多く設定されているほか、1つのサブクエストをプレイしているだけでも関係性がコロコロ変化するためプレイしていて達成感や充実感が大きい。
その上で物語としてもしっかりと作られているため、それ単品としても十分に楽しめるものが多いものとなっている。
そしてそのようにNPC達と何度も関わっていく事でただの脇役ではない、そこに存在しているキャラクターとして顔や名前を覚えていってしまうハズだ。
それほどまでの個性と関係性が全体で築き上げられているのである。

そして、コロニーを治める軍務長にフィーチャーしたリッチなカットシーンなども含まれるヒーロークエストも用意されている。
各コロニーの軍務長はこのヒーロークエストをクリアする事で仲間になるが、そのキャラクター性や物語性は個性がしっかりと出ており高品質なものばかりだ。
このヒーロークエストは「ヒーロークエストをクリアしたら大団円で、キャラクターが救われる」と言ったような単純明快なものではなく、そこからが本当のスタートだと思わせるようなものになっており物語としての余韻もある。
つまりはカットシーンも含めて、ほとんど本編であるメインストーリーと変わらないクオリティで描かれているのだ。
そのため、寄り道をしているような感覚ではなく、全体の物語の中の1つとして完璧に機能していると言っていい。
また、進めていけばケヴェスとアグヌスの戦時中ではあり得なかったヒーロー間のやり取りが見られるものがあったりと、ドリームタッグを観ているかのような非常に面白い内容もありワクワクさせられるものに仕上がっている。

この辺りで実装して欲しかった機能を挙げるとすれば「未読会話キャラのマップからの参照」だ。
未会話・未読会話のキャラクターには☆マークが付くのだが、それが全体マップあるいはミニマップからでも未会話・未読会話状態のキャラクターがいるのか確認できるようにして欲しかった。
特に今作ではキャラクターの関係性がコロコロと変化するために積極的に会話をしたくなるがNPC達もかなり数が多い。
自力で歩いて回っているだけでは漏れかねず、更には時間帯によってはいない事も当たり前であり、しっかりと網羅したのかが心配になってしまう。
そんな無用な心配をさせないためにも明確にマップ上からわかるようにして貰えるとありがたい。

 

ヒーロー

レビューとは少し関係ないがヒーローとして登場するキャラクターの一部を紹介させて欲しい。
ここではネタバレの配慮もあり、あくまでも本作のヒーローの一部である。
前述してはいるが、全てのヒーローの物語が非常に濃密に描かれているため、本作をプレイするのであれば必見の要素である。

 

ニイナ

若き天才

ニイナはアグヌス勢力において名を馳せている上位ランク白銀のコロニーイオタを統べる軍務長だ。
詳細には伏せるが、ニイナはアイオニオン世界の物流動向から情勢を見極め、柔軟な戦略によって必然の勝利を手にする人物である。
しかし、彼女は他人を信じる事を恐れている。そこには彼女の隠したい秘密があるからなのだ。

一見すると冷静で冷徹な人物に見える彼女だが、知れば知る程に可愛らしい魅力的な面が出てくるキャラクターである。
クラス自体もアタッカーとして強力な性能であるため、戦闘面でも魅力的だ。

 

アシェラ

死にたがりの戦闘狂

アシェラは戦うために生きる戦闘集団コロニー11の軍務長である。
彼女の第一印象は間違いなく純粋な戦闘狂だろう。
しかし、こちらも詳細には伏せるが彼女がそのように振舞う本当の理由と目的を知った時には、彼女に対しての印象はまるで違ったものになるだろう。
そして、そんな彼女の生き方に自分を重ねてしまう人も一定数いるのではないかと思う。

彼女のクラスは攻撃によってヘイト稼ぐディフェンダーだ。
ヒーローとしての能力も高く、お世話になる事は多いだろう。

 

マシロ

仲間を信じて。自分を信じて。

マシロは若年の兵士が多いコロニーミューの精神的な支柱の軍務長だ。
コロニーミューは他コロニーと比べても平均年齢が圧倒的に若く、その雰囲気はさながら仲の良い子達が暮らす学校のようである。
しかし、コロニーミューは長期間ランクの変動もなく、担当する執政官のメビウスに関しても謎が多いようだ。

マシロのイベントでは敵対しているメビウスとの物語が、それまでとは違った形で描かれているのが特徴的である。
それは本作において最も印象的な関係性の1つだと言えるものとなっており、それは物語の終盤に出会うからこそ意味のある必見のイベントである。
彼女のクラスに関してはバフによって強力にパーティーメンバー全体をサポートする。
更に戦闘ではチェインアタックも強力サポートするため非常に頼りになるハズだ。

 

ユズリハ

無為自然

ユズリハはほとんど廃棄状態で細々と孤立して暮らすコロニータウの軍務長である。
そのような状態のコロニーであるため、コロニータウの人々は積極的に生きる気力に乏しい。
彼女達の生き様は死生観として非常に興味深いものがあるのではないだろうか。

しかし、そんな彼女達は多くの他コロニーと関係を築いていく事になり、そんな彼女達の変化には嬉しさを覚えるのではないだろうか。

 

システム

ここでは戦闘を始めとしたシステム面について記載する。

 

バトル

ビルドは奥深いが、シリーズとしてはやや大味

複雑ながら深みのある戦闘が代名詞となっているゼノブレイドシリーズだが、本作においても大筋としてそのラインはキープされている。
ゼノブレイドシリーズの戦闘はコマンド選択式の戦闘を完全な非同期で実現しており、「アドリブ性を必要とするアクション性、戦局を考える必要がある戦術性・戦略性」を兼ね備えたものとなっている。
また、戦闘が自分一人でなんとかなるケースは皆無で、CPU操作となる仲間と協力しあいながら戦闘を行う必要がある。
常に変化し続ける戦場で、仲間と調和しつつ、臨機応変に立ち回る事になるため、これが共闘感を強く感じさせてくれる要素となっているのが特徴だ。

ゼノブレイド3においての特徴としては最大7人での戦闘だ。
内訳は主人公達6人の固定枠とワイルドカード的な1つのヒーロー枠の計7人である。
キャラクターは設定されているクラスに応じたロール「アタッカー」「ディフェンダー」「ヒーラー」のそれぞれの立ち回りがあり、例え同じアタッカーであってもクラスによって微妙に、時に大きく立ち回り方が変化する。
特にヒーロー枠に関してはたった1枠のため恩恵が薄いのではと思ったかも知れないが、後述するチェインアタックでの立ち回りに非常に大きな影響を及ぼす重要な存在である。
7人が戦闘に参加するため視認性は良いとは言えないが、それをカバーするためにキャラクターの音声で状況を把握しやすくなっている。
「ヘイトがディフェンダーから外れた」「誰かが倒れた」など過去作にも類似のものは既に存在したが、それと比較しても状況把握が行えるボイスのパターンと発言者が数多く増えているのだ。
ハッキリ言って画面はごちゃごちゃするが、一緒に戦っている仲間達が状況を報告してくれるため戦況までわからないという状況にはならず、むしろ一緒に戦っている共闘感が嬉しく思えるだろう。

戦闘中はオートアタックとアーツが戦闘の基本となる。
オートアタックは何もしていない時に自動発動する攻撃で、基本的にはダメージが控えめだ。
対してアーツは高威力だったり、仲間を回復したり、状態異常を付与したりと様々な効果がある。
しかし、アーツは連続使用はできずリキャストと言われる再発動可能状態まで待つ必要がある。
ここまではゼノブレイドシリーズ経験者ならば”お馴染み”だろう。
本作ではこのリキャスト面の仕様が少しユニークだ。
初代ゼノブレイドではリキャストは時間経過だったが、ゼノブレイド2ではオートアタックを当てる事でリキャストが進む形式となっていた。
本作ではそれが融合した形になったのだ。
ケヴェス勢力のキャラクターのアーツは時間経過、アグヌス勢力のキャラクターはオートアタックヒットとしているのである。
そして、主人公達6人はケヴェスとアグヌスの両方のアーツを使用可能なのだ。
基本的に使用できるアーツはクラスに依存する事になるが、付け替え可能な「マスターアーツ」と呼ばれるものが別枠で設定できる。
大まかに説明すると主人公達6人にはクラスが設定可能で、マスターアーツは設定しているクラスとは反対の勢力のクラスのアーツを装備できる枠という形だ。
つまり、アグヌス勢力のクラスを設定しているならば、ケヴェス勢力のクラスのアーツを任意に設定できると言ったようなイメージである。
これによって「時間経過とアートアタックヒットという異なる方式のリキャストを1人のキャラクターが扱う」という事になる。
そして、両方のアーツが共にリキャスト完了状態であればアーツを同時に発動して効果を高める「融合アーツ」という行動を行う事も可能だ。
説明が長くなってしまったが、これによってもビルドの楽しさが出て来る。
例えば、時間経過待ちが短いケヴェス側アーツとオートアタックリキャストが早いアグヌス側のアーツを設定して融合アーツを出しやすいビルドにする事も出来る。
また、融合アーツは狙わずに単発のアーツとしてビルドを組んでも問題ない。
ディフェンダーのクラスながらヒーラー的な行動が行えるアーツを仕込むといった立ち回り面を重視する事も可能だ。
本作ではクラスxアーツの組み合わせを考える楽しさが用意されており、ビルドをしているだけでも楽しい時間を過ごせる事だろう。
クラスの注意点としては獲得できるアタッカー、ディフェンダー、ヒーラーの各種クラスの割合が偏っており、ストーリーを進めながら育成もしようと思うとパーティーのバランスが悪くなりがちであることだ。
この辺りはもう少しバランス配分は考えて欲しいかった所だ。

ビルドの楽しさはクラスやアーツだけではない。
そこに更にジェムやアクセサリーといった装備品が加わるのだ。
ジェムとアクセサリーは共にステータス補正や特効効果をキャラクターに設定できるようなものである。
基本ベースとしてはキャラクターに設定したクラスにマッチしたものを選ぶと良いが、特にアクセサリーは非常に種類が豊富なため何か特定の状況に強い構成にし、戦闘中はその状況に敵を追い込めるように立ち回るといった事もオススメだ。
しかし、アクセサリーに関してはソート機能が不十分でお目当てのものを見つけるのに苦労するのは厄介だ。
アクセサリーは非常に種類が多いのだが、それに対してソートの方法が「ロールにマッチするもの」などで痒い所に全く手が届いていない。
詳細なソート・フィルターもしくはゼノブレイド2にあったような効果別のソート機能などがあれば目的の効果を持ったアクセサリーを見つけやすくなり気になる事はなかっただろう。

戦闘中の立ち回りに関して本作のユニークな部分を紹介するのであれば設置系アーツなどの登場だろう。
過去作にも「自身の周囲にバフ効果」などはあったのだが、本作ではそれがより明確になった形となる。
設置系アーツを発動すると、その効果範囲が画面上に表示される。
そのため、キャラクターの状態や状況に応じて、範囲エリア内に移動してバフ効果を得るような立ち回りが行えるのだ。
更にディフェンダーの周囲には基本的に仲間の被ダメージを抑えるエリアが発生するようになった。
こちらも過去作に類似の性能を持ったキャラクターはいたが、範囲の視覚化などによってより戦法や戦術として組み込めるレベルになっている。
ゼノブレイドシリーズでは側面や背後に回ってその位置で有効なアーツを繰り出すケースは多かったが、本作ではそこに設置系アーツに移動するような立ち回りが増えているのは楽しい部分だ。

また、細かい部分では全滅してしまった時の親切さも見逃せない。
全滅時には再戦するか否かを選択できるケースがあるが、再戦を選択した際には編成から設定させてくれる。
戦闘中の立ち回りはもちろんだが、戦闘前の準備も大切な本作でしっかりとニーズに合ったデザインを行っているのは好印象だ。

最大7人が戦闘に直接参加する事になったことによる影響

一人一人のビルドはもちろん大切だが、ゼノブレイドシリーズはやはり一人だけでは戦況を覆せない。
そのため、計7人となるキャラクターのロール構成も非常に大切である。
極端な話だが、ロールが極端に偏っていると格下であっても倒される可能性は高い。
ダメージを稼ぐアタッカー、敵の攻撃を引き受けるディフェンダー、チーム全体のマネージメントを行うヒーラーがある程度はバランス良く構成されているのが望ましい。
特に本作ではHPが0になったキャラクターを復活させるにはヒーラーが必要となる。
そのため、ヒーラーを一人の構成にした場合には、そのヒーラーがやられてしまうとかなり詰みに近い。

戦闘は最大で7人になっており戦闘が簡単になっていないか心配かもしれないが、一人一人の攻撃モーションの前隙や後隙が長めで行動の回転率を下げており問題化を防いでいるように見受けられる。
そうなるとゲームスピードが遅くないかと心配になるだろう。
戦力やシステムが未解禁の序盤は少しテンポが遅く思えるだろうが、それらが解決するゲームの中盤頃にはある程度のスピード感にはなってくる。
また、ジェムによってオートアタックのスピードが高速化やキャンセル、バフ効果によってアーツのリキャストの回転率も向上できる。
しかし、人数が多いため結果としては手数は多いのだが、プレイヤーが操作する1人のキャラクターという最小単位で考えるとゼノブレイドクロスゼノブレイド2のような高速なテンポ感ではない事は留意するべきだ。

強化状態ウロボロス

キャラクター達は2人1組の特定の組み合わせによる「ウロボロス」という状態になることができる。
この状態になると時限性ながら実質的に無敵状態となり、戦闘能力も高くなる。
しかし、2人が1人のキャラクターへとなってしまう事から、細やかなカバーが行えなくなる可能性が高まるリスクも内包している。
例えば、2名態勢で行っていたヒーラーがウロボロスになってしまった事で、パーティーのダメージコントロール役がいなくなり逆に戦況が悪化する可能性が無い訳ではない。
パーティーメンバーのロールのバランス配分、誰を何のロールにするのか、そしてウロボロスになるタイミングを間違えないように考えて立ち回る必要がある。
なお、自操作以外のキャラクターは自己判断で状況に応じてウロボロスになるが、システム設定によってプレイヤー指示によってのみウロボロスになるため、自分の操作感に応じて設定は変更すると良いだろう。

少し困ったポイントも

戦闘時操作の困ったポイントも記載しておくべきだろう。

ヒーラー操作ではHPが0になった仲間の助け起こしが可能だ。
助け起こしはAボタン長押しになるのだが、ここで厄介なのは納刀して戦闘から逃げる際もAボタン長押しになっている点だ。
ヒーラー操作時に仲間を助け起こそうとしてうっかりと納刀状態になってしまう事はまま起こる。
プレイヤーとしては助け起こしをしようと思っているのに、実際にゲーム内で行われる行動は納刀になってしまうため、しばらく何が起こってるのかよくわからない混乱状態になってしまうのだ。
この辺りのボタン割り当てはもう少し考えて欲しかった所だ。

本作では戦闘中に操作キャラクターを変更する事も可能で、例えば最初に操作していたキャラクターが倒された際に、ヒーラーに操作を切り替えて…といったようなプレイができる。
しかし、画面上から現在誰を操作しているのかの表示がなく、自分のHPの残量はどれくらいか確認する際などにどこなのかが直感的に把握しにくい。
操作キャラクターは常時最上段に表示したり、強調表示で表示したりするなどしてくれると嬉しかった。

有効な攻撃を当てた場合や敵の状況に変化を与えた場合に強烈なヒットストップが発生する。
これ自体は爽快感があり良いのだが、ユーザー操作依存ではないヒットストップ演出も発生するため、操作のタイミングを誤る事が多くなってしまっているのはやや困る。
これは自分の操作に関係のない、味方が敵をダウンやライジングなどの状態変化させた際にストップ演出が発生する事が原因だ。
自操作以外では発生しない、あるいはストップをかなりマイルドにするなどの調整が欲しかった。

カメラワークの遠近が相手の大きさによって自動補正されるようになり、巨体のモンスターなどを相手にするとかなり引きのカメラになるようになった。
過去シリーズでは巨体のモンスターと戦えば脚しか見えないような事も多かったが、本作のカメラ自動調整のおかげで戦闘中にもモンスターの全貌が見えるようになった。
しかし、これは一長一短だ。
カメラが引いてしまうため、自操作キャラクターの行動が見えにくいのだ。
その上、本作では最大7人行動だ。一か所に何人もいれば自分が何をしているのかよく見えない。
特にオートアタックの後隙をアーツでキャンセルする事で効果高めるキャンセルシステムがあるが、これが行いにくいのだ。
これをしないと勝てないと言うほどの必須テクニックではないが、せっかくのシステムが活かせないのはもどかしい。

 

チェインアタック
大味の淵源にしてノーリスクハイリターンのチェインアタック

チェインアタックはシリーズ同様に強力だ。
チェインアタックが開始すると「オーダー」といわれるチェインアタック中あるいはチェインアタック後に発動する効果が設定されているものを選択する。
オーダーを選択するとチェインアタックに必要なゲージが減少し、各キャラクターのアーツを任意に選択して攻撃などの行動を行っていく。
攻撃を行っていってTP(タクティカルポイント)を100以上になるとオーダーが成立し、効果の適用が確定し、チェインアタック中のダメージ倍率が上昇する。
オーダー成立後には再度オーダー選択に戻り、選択すれば再びキャラクターの攻撃ターンになる。
まとめると「オーダー選択⇒攻撃⇒再度オーダー選択⇒~」のようになり、オーダー達成のたびにダメージ倍率がどんどん上がっていき、システム面が最後まで解放されればダメージ倍率が1000%を当たり前のように超えるようになり大ダメージを与えられるようになるハズだ。

上述だけでは余りにも簡単に思えるが、そうは問屋が卸さない。
オーダー選択後に行動を行ったキャラクターは再行動不可になるのだ。
再行動不可となったキャラクターを再行動させる方法はTPを100以上にしてオーダーを達成させれば良いのだが、これもTP100をちょっと超える程度では1人が返ってくるだけである。
つまり、例えばTP100を達成するためにパーティーメンバー7人中3人の消費が必要な状況になっていると、どんどんジリ貧になりオーダー達成の難易度が高くなるのだ。
そこでオーダー達成時のTPを更に上の値を目指す必要が出て来る。
TP150以上になれば返ってくる人数が2人に、TP200を超えれば3人になるため、上手いこと返ってくる人数や返ってくる人物を調整して最後まで到達できるようにするのが望ましい。

また、チェインアタック中のTPの溜め方は各ロールによって変化する。
アタッカーは一番手に選択するとTP量が増加するため効率的にTPを溜める事が可能だ。
ヒーラーの場合にはTPが99を超えないため、TP150や200を狙っていく際には重宝する。
ディフェンダーの場合にはディフェンダーによってオーダー達成すれば最もTPを増加させる事ができるキャラクターを優先して返すようにできる。
これらの効果も頭に入れてチェインアタックをする事になるが、こちらもまたパーティー構成のロールに偏りがあると上手く回せないので、パーティー編成の際には考慮するべきだろう。

そしてこのチェインアタックの立ち回りで重要となるのがヒーローである。
チェインアタックではオーダーを選択すると言ったが、ヒーロー枠に設定したキャラクターは「ヒーローオーダー」というものが選択できる。
ヒーローオーダーはゲージの消費無しに1回分の攻撃を行う事が可能であるうえ、キャラクターに応じた強力な特殊効果が発動するようになっている。
また、ヒーロー自身のチェインアタック時の攻撃効果も特殊で、オーダー達成時にTPを強制的に150にしたり、仲間のTPを一定割合で増加させたりといったものがある。
そのため、チェインアタックの立ち回りはヒーローが非常に重要であり、一緒に戦っているヒーローによってチェインアタック時の戦術が変化すると言って良い。

このチェインアタックは強力な事は少しは伝わったかも知れないが、ではこのチェインアタックは実際問題として本作においてどうなのか。
結論を述べてしまえば大きなマイナスを付ける程ではないものの、バランスという側面から余り良いとは言えない。
新しく導入した設置系アーツなどを始めとした立ち回り面の幅を強化したにも関わらず、本作の戦闘を大味なものにしてしまっている主因はコレだと言い切ってもまず間違いないだろう。
チェインアタックはチェインゲージと言うゲージを消費するが、このゲージはチェインアタック以外には利用しない。
つまり、過去作と比べると得られるリターンに反してリスクが極端に低いため、ほとんど出し得になってしまっているのだ。
チェインアタックが仲間の復活権と共用だった過去作のパーティーゲージを廃した理由はヒーラーの複数体制を実現しやすくしているが故のバランス調整の措置とは思われるが、非常に強い行動がノーリスクの出し得の状態になっているのはややバランスを欠いている。
更にチェインアタックは「戦闘中に上手に立ち回れていたか」といった”過程”は全く評価されず、チェインアタックはチェインアタックとして独立して存在してしまっている。
そうなると戦力さえ整っていれば敵の体力が90%以上残っていてもチェインアタックが成功してしまえば倒し切れてしまうのである。
これはクイズ番組の最終問題での獲得点数が「7兆っす」と言われるようなものである。
そのため、勝つためだけであれば極論としてチェインアタック可能になるまで耐えれば良く、言い換えれば何も行動しなくても良いという事でもあり立ち回り自体の意味合い(重要性)を全体的に薄めてしまっている。
これにより戦闘におけるカタルシスのような爽快感や達成感までもが薄い大味なものにしてしまっている感は否めない。
戦闘は楽しくはあるが、それ自体に奥深さを求めると言うよりも、ビルドの成果を見せるお披露目場としての側面の方が強いと思った方が正しいのだろう。

このチェインアタックは「戦闘に消極的(受動的)な姿勢であっても勝ててしまう」という問題がある訳だが、これに対して何か対策は行う事も可能だったハズである。
例えば、仲間が倒れているとき、ヒーラーが仲間を復活させようとしているときなどの「戦闘に参加していないメンバーがいる」ような状況下ではチェインゲージがその人数に応じて減少していくようなシステムがあるだけでも違うだろう。
これは減点方式にはなってしまうが、これだけでも戦闘中の立ち回りについてある程度は評価されるシステムとなるのではないかと思える。

 

訓練

詳細なチュートリアル用の訓練

「訓練」というチュートリアル専用のモードが用意され、特定のアクションなどを練習できる。
基本だけでなく、しっかりと実戦で活用する部分も実戦形式でのチュートリアルがいつでも行えるため、シリーズ初心者であれば利用しても良いだろう。
ゼノブレイドシリーズの戦闘はオフラインの1人専用のJRPGとしては珍しいタイプの戦闘のため、慣れていないユーザーも多い事だろう。
そのため、このような立ち回りをいつでも学べる要素が実装されているのは安心材料だ。

なお、本作はオートバトルもある。
全てのケースで利用できる訳ではないが、ザコ戦闘などはオートに任せるような事も出来る。
オート時の動きもそこそこは優秀だが、最適解というようなものではない。
もっと上を目指す場合には自分でのプレイが必要となるが、初心者であればある程度のゲームのルールを知ってからこのオートバトルを利用すれば立ち回りのイロハがわかるかも知れない。

 

インタラクション

フィールド上でのインタラクション

フィールド上でも強化用の素材や食材が落ちているのはもちろん様々なインタラクションが用意されている。

おくりびと」という設定をゲームプレイにも落とし込んでおり、フィールド上で亡くなっているキャラクターを弔う事ができる。
弔う事で亡くなったキャラクターが所属していたコロニーとの関係性が向上する。

敵と敵で争い合ってることもある。
どちらか一方の肩を持ち介入して、片方を倒すとリワードが得られる。
生態系を感じさせる要素として機能していると言えるだろう。

道中にあるキャンプでは入手した食材を使った食事が可能で、経験値などにバフを与える事ができる。
料理はクエストやコロニーで食事をする事でラインナップが増えていき、より効果の高いものを作る事が出来るようになる。

 

マップ

高低差や階層が視認しにくいマップ

本作はナビゲーションがあるためフィールド探索で迷う事は減るが、マップは使いにくい。
一応、色の濃淡で高低差が表現されているものの、濃淡の差が微妙過ぎて良くわからない。
そもそも空撮ベースのような真上から見たマップになっているため入り組んだ地形がどうなっているのかは全く分からない
例えば中層に行きたい場合であってもランドマークが上層なのか、中層なのかどこかわからないのだ。
近いと思って選択したスキップトラベルポイントが実は階層が違うという事は度々あるかも知れない。

また、フィールドは地方によって区切られているのだが、その地方を選択もやや操作性に欠ける。
選択はRとLで行え、Rでは右周り、Lでは左回りが基本動作である。
これで統一されているならば困らないのだが、終盤の地域はその法則から外れてしまう場所があり、その不一致さが些細ではあるがストレスになってきてしまう。

 

新たなる未来

望む未来をつかみ取れ

ゼノブレイド3 新たなる未来はゼノブレイド3におけるDLC第4弾の新規ストーリーを体験できるコンテンツだ。

2023/02/09に公開されたNintendo Directにて初めて内容が少しだけ公開された。
そこにはシュルクとレックスがアルヴィースと対立しているような場面が映し出されており、何よりも本編でも何度か言及のあった六氏族にフィーチャーしている事が示唆されていたため考察できる内容が豊富にあった。

そしてゲームとしても「ゼノブレイド2 黄金の国イーラ」というDLCとは思えない内容の前例もあったため非常に期待値の高いものでもあったのだ。

なお、ここで予め記載しておくがこのDLCの新規ストーリーの内容は過去作をプレイしている事が前提だ。
その点に関しては注意して欲しい。

 

ストーリー

過去があるから今があり、今があるから未来がある

「新たなる未来」は本編の前日譚に当たる物語が展開される。
本編においても語られる事も多かった六氏族やシティーの再興に関しての物語だ。
そして何よりもシュルクやレックスと言った過去シリーズのキャラクターおよびそれと関連するキャラクターがメインで登場するのが特徴的である。
世界設定の部分でもこのDLCでわかる部分も多いが、全体的に説明し過ぎない程度に抑えており考察可能な部分もしっかり残している印象だ。
過去シリーズの要素はキャラクターだけではなく、場所によってはゼノブレイドゼノブレイド2のSEが使用される場所もあり嬉しい気持ちにさせてくれる部分は多い。

主人公マシューはシティーと呼ばれるアイオニオンにて生まれた人々が暮らしている場所で育つがメビウスNの襲撃によって崩壊。
ティーの生き残り、そして生き別れた妹ナエルを探してシティー再建を目指していく。
マシューは無鉄砲なところはあるが感情を表に出すタイプのキャラクターで、細かい事は気にせず自分の目的のためにとにかく前へと突き進む姿にはその血縁者の面影を感じない事もないだろう。
本編のノアが何を考えているかわからないタイプであったのに対して、マシューは自分の気持ちや考えを喋ってくれる事が多く理解や共感がしやすいキャラクターになっている。

他にも全体的に物語の起伏がしっかりとあり、メッセージ性への比重に偏重していた本編よりも物語としてのわかりやすい面白さがある。
また本編の「ストーリー」の項にて「最序盤から過去回想がガッツリと入り過ぎている」と指摘したが、こちらでは物語の進行と共に過去回想が挿入される形となっているため進行テンポが良い点も好印象だ。

シュルクやレックスという過去作の主人公という重要なキャラクターが登場する事で蛇足になるような懸念を覚える人も多いからも知れないが、その辺りも期待を裏切らないように作られているため安心して大丈夫だと思って良いだろう。
この「新たなる未来」では過去と現在、そして未来を語ることが多い。
それはゼノブレイドシリーズという作品群の「過去」に登場したシュルクとレックスの存在によって「今」のゼノブレイドシリーズ存続が可能になっており、そして今のゼノブレイドが「未来」のシリーズ作品へと繋がるという「過去と現在と未来の不可分性」を伝え、そしてそれはクリエイター関係各社、何よりもファン達への感謝の印であるとも捉えても良いのだろう。

少々ネタバレとなるため読み飛ばして貰っても構わないが、この「未来」に関するメッセージの1つ「未来を掴み取る意志」というのはゼノサーガのラストにおいても類似の部分がある。
その他、本DLCの最終盤に背景に聞こえるボイスやラストシーンにおいてもゼノサーガと共通する設定やシーンを彷彿とさせるため考察する上で興味深い内容と言っても良いだろう。

サブクエストも重要だ

本編と同様にサブクエストの品質も良く出来ている。
こちらも世界設定の部分に関する内容がわかるようなものも多く、また過去シリーズの出来事を振り返るような会話もあったりするため、ゼノブレイド3部作をプレイしてきた我々に対しての総括とする部分も非常に多い。

 

システム

戦闘のベースは変わらないが、ビルド面には変化がある

新たなる未来では戦闘中の立ち回りはほとんど本編と変わらないが、キャラクターのカスタマイズが強化されている。

戦闘においては本編にて行えたような「スマッシュによる大ダメージ」は制限されており、基本的にはチェインアタックによって倒し切るという事が推奨されているデザインになっている。
しかし、本編と同様にチェインアタックさえ発動できてしまえば、どれだけ良い立ち回りをしていようが、グダグダの泥沼試合になっていようが、それまでの過程は関係なく勝ててしまうため戦闘自体はやはり大味である。

本作で変化がしたのはチェインアタックに影響を及ぼす「ユニオン」を始めとした戦闘前要素であるカスタマイズ部分だ。
ユニオンではキャラクターのペアを設定する事が可能で、設定したペアに応じたバフ効果に加えて、ユニオンコンボと言う専用技が設定される。
このユニオンコンボは本編でいうところのウロボロスペアに相当し、チェインアタック発動時にこのペアのオーダーを達成する事で追加のチェインが発動するようになる。
好みや効果など、どのようなペアにするのかを考えるビルドが増えている。

そしてもう1つチェインアタックに影響を及ぼす専用アクセサリー枠が追加された。
こちらは本編でいうところのチェインアタック中のヒーロー枠のオーダーような効果を任意に付け替えが可能になっている要素だ。
そのため本編ではあり得なかったようなオーダーの組み合わせが可能になっており、効率的なチェインアタックをするための下準備がこちらでも増強されている。

中毒性の高い探索

新たなる未来ではキズナビリティという形での探索要素が増えている。
サブクエストを進行させる事でNPC達の問題を解決するヒトノワ、エネミーを倒す事で図鑑が埋まっていくエネペディア、過去シリーズにもあったフィールドに落ちているアイテムを図鑑に載せるコレペディアなどなど複数のフィールド探索の方向性を提供している。
これを埋めていく事によってキャラクターを強化するためのキズナポイントを入手する事が可能となっている。

それを考慮してか至る所に探索ポイントが設けられている。
例えば宝箱なども簡単に見つかるようなものもあるが、キャラクター強化と関連付けた影響からかしっかりと探索しなければ見つけられないケースも非常に多い。
しかし、探し出す難易度が高いかというと決してそんな事はなく、ダウジングのような機能を用いる事である程度の場所が特定可能になっている。
この「普通には発見しにくいが、ヒントを明示される」という適度な難易度があるため目の前にニンジンをぶら下げられるような感覚でついつい隠された宝箱などがどこにあるかを探し回ってしまうのだ。

他にも敵を倒す事で図鑑登録するエネペディアにしてもフィールド上を徘徊する敵エネミーのアイコンで登録済みか否かがわかるため戦闘を行う口実ができやすいし、コレペディアを埋めるためにフィールドに落ちているアイテムを収集してしまう。
そしてこれらの探索をすればするほどキャラクターを強化できるため、こちらもまた探索を続ける口実となる。

探索要素の1つ1つは短時間で完了するため煩わしさがなく、それでいてあちらこちらに置いてあるために結果的に長時間の探索を行ってしまう中毒性を備えている。

 

グラフィック

縦にも横にも広大な雄大なフィールド

ゼノブレイド3の映像美はNintendo Switch史上でもトップクラスのディティールを誇り、その上で動作もほとんど安定しているのは驚異的である。
本作でも疑似一人称視点などが可能なため、少しマニアックな楽しみ方も可能だ。
更に本作ではLとRの同時押しでHUDを非表示でスクリーンショットが撮れるようになった事も非常にありがたい。

神懸ったような雄大なフィールドはゼノブレイドシリーズの代名詞とも言えるものだ。
本作ではシリーズ同様に高低差の激しい立体的なものであり、なおかつシリーズ屈指の広大なフィールドでもある点は嬉しい。
大海では波のうねりも表現されているなど細部の表現も強化されているほか、敵の描画数もかなり増している。
しかし、「巨大な生物の上で暮らす」といったような設定面の奇抜さは薄く、普通に大きなフィールドの印象が強い。
また、コロニーは本作の歴史的な背景から文化的な特徴がどこのエリアも大差がない。
そのため、各コロニーでの建築物の違いなどはなく、特色が薄いのは納得感こそあるが寂しい所だ。

カットシーンはタイトル画面から後からでも見返す事が可能だ。
しかし、カットシーン外のボイス付きのシーンなどは後から観れないのは残念だ。
そういったシーンにも物語やキャラクターの設定が詰め込まれており、見返しができないのは少々困る。

キャラクターの表現も強化されている

キャラクターのモデリングも非常に洗練されており、広大なフィールドを描きながらもキャラクターのディティールがしっかりと描かれている。
特に本作ではイラストのような”塗り感”を出している髪のテクスチャー・スペキュラーは独特ながらも違和感が全くない。

ゼノブレイドシリーズではキャラクター毎に待機や歩行などのモーションが個別に個性を持つように設定されていたが、本作でもそれはおおむね同様だ。
更に本作ではキャラクターが戦闘などで服が汚れていくというユニークな表現も追加されている。
汚れは休憩ポイントでクリーニングする事で綺麗になり、そこで生きているという生活感を感じさせてくれる要素として機能している。

また、深めの川などでは移動速度が低下したり、ちょっとした段差からの着地では専用の着地モーションになったりと細かい部分まで表現が強化されている。

 

サウンド

全体的に過酷な世界設定にマッチする落ち着いた曲や少し物悲しい曲が多い。
この辺りの雰囲気はPS2時代のマシンパワーが上がりリッチな絵が作れるようになり、シリアスな話が多くなっていた頃とも通ずる点があるように感じられる。
楽曲ではその世界観から1や2のフレーズが引用されるケースが多く、ものによってはほとんどそのまま引用されて活用されているのはシリーズファンには感慨深い。
筆者のお気に入りの楽曲も記載させて欲しい。

切なさのある笛の音が印象的な「おくられる命」

映像と音楽のシンクロ、そして命を描く「空へと昇った想い」

形成逆転のカタルシスを感じさせるものの使用頻度の少なさが勿体ない「命を背負って」

短いループで印象的なフレーズが繰り返され頭にこびりつく本作を代表するようなお仕置きBGM「Chain Attack」

プレイヤー達の比喩表現としての多くのコーラスが重なる「Moebius Battle」

壮大で力強い「ミリク平原」

穏やかで涼しげな空気感のある「リビ平原」

過去作からの素晴らしいアレンジ曲「Kaleidoscopic Core」

その他にも落ち着いたメニュー画面のBGMや同じフレーズを何度も聴く事になり頭にこびりつくお仕置き用チェインアタックのBGMなども推しておきたい。
更に詳細にはネタバレとなるため伏せるが状況や特定のキャラクターによってはゼノブレイドの1と2それぞれのオリジナルの楽曲が流れるシーンもあるのは熱い。

戦闘音楽が戦闘終了と同時に終わるようなインタラクティブミュージック的な工夫もされているが、この辺りに関しては綺麗に繋がって終わるという域にまではまだ達していないように感じられる。

「ストーリー」や「システム」の項でも記載しているが、フィールド探索中や戦闘中のボイス量も非常に豊富になっている。
その他にも待機モーション中にもボイスが用意されていたりと、こちらも非常に膨大な物量を用意している。

 

総評

ゼノブレイド3はシリーズの1つの集大成として非常に高い完成度を誇り、JRPG史の未踏の地に踏み込んだ傑作だ。

現代を生きる人々への決して美化しないメッセージが感じ取れるストーリーは、質と量の両面においてシリーズ最高のサブクエストの数々によって更に輝きを増すに至っている。
そして作品が訴えかけるメッセージは日本のビデオゲームでは余り踏み入れて来なかった領域であり、それをファンタジー(比喩)という形で表現する事で息苦しいものになり過ぎない世界を構築している。
音楽は世界観にマッチしている静かで穏やかなものが多く、またシリーズファンに嬉しい過去作のフレーズの引用も多いのも特徴的だ。

しかし、バトルデザインではキャラクターのビルドこそ幅が広く面白いものの、バトル自体の駆け引きはやや大味気味でビルドのお披露目会場の域を出ないのは少々残念だ。
この辺りには戦闘に直接参加する人数が増えた事が影響している部分も見受けられる。
フィールドデザインも雄大かつ広大でありながらディティールもしっかりとしており、過去作をプレイしていれば感嘆するものはあるが、ユーザーの想像性を超越するような独自性はやや薄れてしまったのは口惜しい。

もしも、本作に点数を付けるのであればゼノブレイドシリーズあるいはJRPG史上でも最高得点の部類であろうが、それは必ずしもシリーズで一番好きな作品になるとは限らない事は忘れてはならない。

 

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