【レビュー】LOOP8

この世界は「選択」の連続だ

LOOP8はガンパレード・マーチ刀剣乱舞で知られる芝村裕吏氏の携わる作品だ。
筆者は中でもNPCとのインタラクションに極振りした絢爛舞踏祭に非常に感銘を受けた過去があり、それ以降には類似したフォロワー作品がでない事にも寂しさを覚えていたのだ。
そんな中で2022年2月のNintendo Directにて本作が紹介され、その内容から明らかに芝村裕吏氏の作品であったことから注目していた経緯がある。

今回はLOOP8のレビューを行いたい。

 

LOOP8(ループエイト) - Switch

LOOP8(ループエイト) - Switch

  • 発売日:2023/6/1
  • メディア:Video Game
LOOP8(ループエイト) - PS4

LOOP8(ループエイト) - PS4

  • 発売日:2023/6/1
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

物語を読み解く能力と前提知識が求められるが奥深い世界観

人類は厄災と言われる「ケガイ(化外)」に侵略され、地上から逃げるも逃げた先の宇宙ステーションにおいてもケガイに襲撃されて敗走する。
少ない人類が地上で暮らすのみとなっている世界が舞台となる。
主人公となるニニは宇宙から撤退し、西日本にあると言う葦原中つ町へと移住してきた少年だ。
ノスタルジーある町で学生として生活し、キャラクター達との関係を築きながらケガイとの戦いに備える事になる。

LOOP8は説明的な物語ではなく、世界にいきなり放り出されたような状態になるため最初はわからない事が多いだろう。
しかし、キャラクターと関係が深くなっていくと、キャラクターの身の上話や世界についての会話が展開されていく。
それらの情報は断片的である事が多いのだが、その点と点をユーザーが能動的に繋ぎ合わせていく事で物語・設定の輪郭と全貌が把握できるようになってくる楽しさが本作最大の魅力であると言えるだろう。
そのため、テキストを読み込み、記憶しておき、その上でそれらを解釈するような読解力を求められる体験に自信がないプレイヤーにはオススメし難い部分がある。

なお、公式サイトではキャラクター毎の短編小説が掲載されている。
設定面を把握したり、逆に設定をある程度理解してから観ると発見があるだろう。
また、本作は芝村作品群である「無名世界観」をベースにしているように思わせる設定も短編小説では登場しておりファンにとっても考察しがいのあるものとなっている。

関係性を深める事で物語を読み解くキーワードを得ていく

LOOP8は類似のシステムを導入しているガンパレード・マーチガンパレード・オーケストラ絢爛舞踏祭などと比較するとインタラクションは非常に簡素であり、それに伴い動的なドラマは薄めである。
基本的に好感度に相当する感情値によってキャラクター毎のシナリオがアンロックされていくようなADVに近い形式のものとなっている。
そのため、カレルシステム特有の体験が機能しているのかを実感しにくくなってしまっており、今までの芝村作品のようなゲームプレイを期待していると肩透かしになるだろう。

しかし、魅力がない訳ではない。
キャラクターとの感情値が高まっていくなどして、キャラクターが生い立ちや世界情勢を断片的にでも喋ってくれることによって、前述の通りプレイヤーが能動的に物語を把握すると言う楽しさがあるのだ。
非常に奥深い設定を作り出す芝村作品らしい部分がここに活かされていると言って良いだろう。
そのため、「NPCと仲良くなる→NPCから情報を得る→得た情報からプレイヤーが世界やキャラクターの状況や過去の仮説を立てる」と言ったような順序立てで進行させていき、また別のNPCから得た情報で更に仮説などを立てていくと言ったような形式が本作の楽しさに繋がるものとなっている。

ゲーム外の前提知識が必要だ

LOOP8では能動的に物語を解釈する能力が求められるのだが、本作の物語理解のハードルを上げているのはそれだけではない。
何故ならゲーム外の前提知識が必要となっているためである。
本作は日本神話の特に「天孫降臨」をベースとした物語装置が構築されており、それと関係性のあるキャラクターが数多く登場する。
この辺りが本作のストーリーの設定をより高い解像度で読み解くキーワードとなっており、逆に言えばこの辺りの知識が微塵もない場合には終始チンプンカンプンになりかねない。

先ほどは「点と点を繋ぐ面白さがある」と評したのだが、この辺りの前提知識がなければ「繋ぐための点が足りない」という状況にもなりかねないのだ。

 

システム

ここではゲームプレイに関するシステム面の記載を行うが、まずはLOOP8における主なプレイシーケンスについて記載しておきたい。

本作では時間もリアルタイムに流れていく中で、行動力を消費して1日を行動するような形式となっている。
その中でNPC達と仲良くなり感情値を向上させて、世界やキャラクターの設定についての理解を深めつつ、設定された期日までにボスとなるケガイを倒すようなものだと思って貰って大丈夫だ。
NPCの感情値は特定のキャラクターだけに絞らず、可能な限り全員と一定以上は仲良くなっておいた方が良いだろう。

主人公が死亡する、または期日以内にケガイの討伐が間に合わないとゲームオーバーとなりループが発生する。
ループすると大半の要素が初期値へと戻ってしまうが、以前に高めた能力値や感情値までは到達しやすくなっているためループを繰り返す事により攻略しやすくなっているので失敗してもある程度のループを繰り返していればクリアしやすい環境が整うだろう。

ループしてしまうと能力値や感情値が戻ってしまうが、永続的にそれらの値が加算されるパッシブバフのようなシステム「加護」が存在する。
こちらはフィールドの特定のポイントを調べる事で得る事が可能だ。
ループしても消失しない事に加えて、補正値も高いため基本的に序盤では加護によって能力値を向上させる方が効率が良い。

世界がループする事で困る点があるとすると当たり前だが「同じ会話が発生する」という点だろう。
これは同じことを繰り返し聴く事によって世界設定を把握しやすくする一方で、煩わしいと感じてしまう可能性のある要素だ。
早送りやスキップなどもあるものの、理想的には未読会話か否かがわかるようになっていたり、未読会話以外を早送り/スキップが出来るようになったりするのが好ましい。

 

インタラクション

選択肢によって関係性となる「感情値」を変動させる

葦原中つ町では襲い来るケガイに対抗するために自分自身の能力向上に努めること以上にNPC達と関係性を深めてく事が重要となる。

キャラクターには「提案」という形でインタラクションを行う。
この提案はキャラクターとの感情値が変化する事でも提案の種類が変わるため、仲良くなればなるほどに更に仲良くなりやすい。
体力と気力を消費する事になるが、回復施設にアクセスしておけば1日で体力・気力がスッカラカンで出来る事が何もないといったような事にはならない。

この提案は必ず成功するという訳ではない。
キャラクターとの感情値によっても変動するが、NPCの行動、気分、欲によっても変動する。
これらの情報は話しかける前に確認する事が可能だ。
特に関係性が築けていない序盤ではNPCの状況を確認して話しかけるのが安牌だ。

「ストーリー」の項でも触れているが、本作のインタラクションは比較的簡素な作りとなっている。
提案では基本的に感情値が変動するだけなのだ。
そのため、「何があったのか」「何をしているのか」そして「それに対してどう感じたのか」と言った受け答えの会話ができる訳ではなく、単純にそして淡白にキャラクターとの友情値や愛情値、嫌悪値と言った感情値が増減するのみなのである。
また、NPC側からプレイヤーに対してのインタラクションについてはそれ以上に簡素で幅が非常に狭いものとなってしまっている。
本作のNPCとのインタラクションについては、再度類似作品の話題で恐縮だがガンパレード・マーチ絢爛舞踏祭と言った作品群を想像してプレイするとかなり肩透かしを喰らう事になるだろう。
LOOP8においてはキャラクターと関係性を築く事で新しい物語を参照できると言う素直なADVのような形式であると思った方が適切だ。

基本的に提案によるインタラクションは淡白だが、中には「デート」や「食事」など特定のイベント付きの提案も存在する。
こちらはNPCと遊びに行ったり、デートに誘ったり、一緒に食事をしたりできる。
この提案では専用の会話が用意されており、そのキャラクターの価値観を垣間見せる内容になっている事が多いうえ、自分と相手の能力値も上昇させてくれるため一石二鳥だ。
これらは同じ提案を複数回行う事が可能で、回数に応じて新しい会話を聴く事が出来る。ゲーム内時間をそこそこ消費するのでマネージメントは必要だが、気になるキャラクターとは積極的に行っていくと良いだろう。

 

戦闘

キャラクター間の関係性がダメージ影響する

本作では戦闘が存在するが、ターンベースのRPGとなっている。
操作できるのは主人公ニニのみで、仲間として同伴するキャラクターはその性格などに基づいて行動する。
そしてレベルという概念はなく、能力値と感情値によって与ダメージや被ダメージに影響があるものとなっている。

戦闘では敵対する事となってしまうキャラクターとの感情値によっても与ダメージや被ダメージが変化する。
簡潔に書くと攻撃には友情、愛情、嫌悪の種類があり、依代となり敵対するキャラクターとの関係値が高い感情値ほど効果が高まるものとなっている。
その中でも嫌悪は最もダメージが高くなるのだが、その代償として敵の反撃も強力になりやすい。
対して、愛情はダメージは抑え気味となるが、敵の反撃を弱める特徴がある。
これらを考慮して相手の体力を奪っていく事になる。

特定のNPCは提案する事で一緒に戦う事が可能だ。
しかし、NPCに話しかけて一緒に連れていく必要があるため、どこにいるかを探す必要があるうえ、一緒に連れ歩いていても移動中に離れてしまう事もある。
戦闘メンバーを募集する際のシーケンスはもう少し親切であると嬉しい。

NPCの行動は制御できないが主人公は見えないものを視る能力「見鬼(けんき)の才」を有しており、それを使う事で敵や味方がどういった傾向の行動をするのかを予見する事が可能だ。
そのため、仲間が攻撃をしてくれる時にはバフを、仲間が自分にバフをしてくれそうな時には自分が攻撃を行うなどの連携が行える。敵が何をしてくるのかも大まかに把握する事が可能なので、味方がピンチの場合にはダメージを肩代わりして助ける事もできる。
なお、戦闘で仲間NPCが倒されるなどするとロスト状態となってしまう点は注意が必要だ。
ロスト状態となった場合、ループによって時間を戻さない限りはそのままの状況でシナリオが続行となる。

本作は戦闘についても比較的簡素なものでビルドを整えるなどの奥深い要素はない。
しかし、それを見越したゲームデザインとしているのは見事である。
いわゆるザコ戦は自分から戦いに行こうと思わない限りは発生する事はないため、やろうと思えばボスとだけ戦う事も出来る。
そのため、戦闘自体がクリアするまでに飽きない程度のバランス感覚で抑えられているのだ。自身の戦闘の面白さのレベルをしっかりと客観視できており、無駄に水増しをして飽きさせたり、それによって印象を悪くするよりもよっぽど良いデザインである。

 

グラフィック

巧みな取捨選択をしながら、戦闘アニメーションはハイレベルに

全体のFPSは維持しながらもキャラクターのフレームレートは24FPSに落とし、日本アニメライクな表現を行っているという。
本作の映像面においては特筆するべきものがあり、それがカメラワークとアニメーションだ。
非常に良く出来ており、カメラの動かし方、遠近感のメリハリなど、主に戦闘アニメーションの演出の完成度は高いレベルに至っている。
キャラクターの3Dモデルも良く出来ているため、戦闘アニメーションは特に見応え抜群だ。
セリフのリップシンクについてもある程度しっかりと行われているようで、筆者の目算で恐縮だが音声またはテキストにマッチするように自動制御されているように感じられる。

対して、それ以外のグラフィック面では取捨選択して割り切っている部分が多い。
例えば背景だが、基本的にイラストベースになっており、一部のオブジェクトで3Dモデルを採用しているのみとなっている。
また、敵と遭遇する戦闘フィールド自体が日常パートで歩く葦原中つ町の色相をネガティブ化したように変化させてノイズ処理を行っているものとなっているし、いわゆる”ザコ敵”に相当する存在もモデルは1パターンで、色違いで再利用してやり繰りしている。
前述したキャラクターのフレームレートを落としている点も処理負荷の最適化に開発リソースが削がれないためという面でも一役買っている可能性も考えられる。
このように「魅せたい部分は頑張るが、そうでない部分は割り切る」という開発リソースを考慮したマネージメントを伺わせる作りとなっているのだ。
もちろん、ユーザーはこれら開発バックグラウンドなど知る由もない事であり、ゲーム自体の評価とは切り離して考慮するべきであるが、少なくとも開発の運営という側面では「二兎を追って一兎も得ない事態を避ける」という素晴らしい采配だろう。

 

サウンド

葦原中つ町で流れる曲はアニメの日常パートでも流れそうな楽曲が多い。
本作ではその場にいるキャラクター達の関係性によって「場の空気」が変化するのだが、その空気感によってBGMが変化するようになっているのはユニークだ。

戦闘フィールドでは三味線による少し怪しげな和のBGMになっているほか、特定の条件をクリアすると日本的な祭囃子のような楽曲へとシームレスに変化する。
どちらも日本の神話を思わせるものになっているため非常に印象的である。

イントロからカッコいいザコ敵との戦闘BGMも推しておきたい。

 

総評

LOOP8はNPCとのインタラクションの密度と幅に欠けているため期待される面白さがないものの、代わりに緻密な世界設定の中で能動的に点と点を繋ぎ合わせていくストーリーテリングが快感となる一作だ。

断片的な情報から物語を読み解く能力がプレイヤーに求められており、また日本神話が前提知識となっている点に懸念が感じられるものの、その奥が深すぎる設定の数々は噛めば噛むほどに味わいがある物語構造となっており非常に魅力的だ。

戦闘は戦闘アニメーション演出が特筆して素晴らしいものの、システムとしては簡素であるため奥深いものではない。
しかしながら、クリアするまでに飽きない程度の回数で抑えらえるように考慮されている点は評価したい。

力を入れる部分と割り切る部分をしっかりと取捨選択して制作されており開発リソースのマネージメントが行えているのは見事である。

 

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