【レビュー】リアセカイ

ファンタジー×現実の2重活動

リアセカイはルーンファクトリーシリーズの制作陣が関わるハクスラ型のゲームである。
ルーンファクトリーシリーズをいくつかプレイしていた筆者にとっては応援の意味もあり購入した経緯である。

今回はリアセカイについて記載していく。

 

リアセカイ -Switch

リアセカイ -Switch

  • 発売日:2023/10/12
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

2つの世界を行き来する

ある時、主人公はほとんど記憶のない状態で町の郊外で目覚めることになる。
そこはファンタジーの世界であり、身寄りがないためそのまま郊外に住まわせてもらう事となる。
そして色々と町の問題を解決していると、今度は現代のような世界の学校の教室で目が覚める。
主人公はどうして2つの世界を行き来しているのかが理解できず状況がイマイチ把握できないものの、所持していた鏡は真実を知ると言われる「真鏡物語」と言われる伝説に描かれたものと類似していた。
それらの謎を解き明かすのが物語だ。

上記の通り、本作は現実世界と異世界を行き来するのが特徴だ。
本作に限らず創作物においても「不思議の国のアリス」もそうかも知れないが「犬夜叉」「今日からマ王」など昔から世界を跨いで活動するような作品は少なくない。
そのようなワクワクするような世界設定を持っているのだ。

物語を進行させるにはキャラクター達の問題を解決する事が必要となる。
解決するにはダンジョンの達成条件クリアをする事で、町人達と仲良くなると新しいダンジョンに行く事ができるようになり進行可能となるような形だ。
最初は非常に冷たい対応をされるところから始まるため、仲が深まっていくと対応の違いが顕著に感じるのは少し面白い部分かも知れない。
キャラクターのセリフは比較的多めに設定されており、何度か話しかると違う会話をしてくれるようだ。

進行に難あり

物語は異世界を記憶のない状態で始まるが、プレイヤーが理解できるための説明が色々とないうえ、モノローグで「皆に挨拶した」と記載しているのにゲームプレイが始まると再び挨拶回りが発生するなど食い違いが散見され物語進行がやや困惑する。

これは最初から全ての住人と会話できるにも関わらず、初めましてくらいのノリで会話されるためであり、このような構造にするのであれば会話差分をしっかりと用意するか、会話が可能な住人を事前に絞っておくなどして欲しい。

素材が全く活かされていない

本作において最も問題なのは根本的に素材が活かされていない事だろう。
本作はファンタジー世界と現実世界を行き来するのだが、現実世界に関しては探索するようなパートがないのだ。
現実世界ではちょっとした会話が行われたと思ったら次の瞬間にはファンタジー世界に戻っており存在感が非常に薄い。
そのため、現実世界と異世界のギャップなどを体験として感じにくいのである。
せっかく2つの世界を用意した意味を欠いており、もはやゲームデザインとしての意図すらよくわからないレベルなのだ。
現実と異世界の行き来という要素自体はワクワクさせてくれる設定だが、そのワクワクするインプレッションとは裏腹に全くそれが活かされていないのである。

また、異世界で話しかける住人にしても生活感がないのが悲しい所だ。
町の住人は昼も夜も特に移動などもする事がなく、「人型の看板」ようになってしまっているのだ。
これは機能として必要最低限のレベルであり、演出としては空虚なものである。
これではゲームをプレイしているプレイヤーは孤独感を覚えてしまうのではないだろうか。
最低限の演出としてルーチンで左右に移動するくらいの動きくらいはあって欲しいものだ。

 

システム

ゲームプレイはハクスラとしての側面が強い

リアセカイのゲームプレイはハクスラだ。
というよりも純粋にそれだけで構成されているといって良いだろう。
一般に想像されるような経験値とレベルといったRPG的概念はなく、ダンジョンもローグライク系のようなランダム生成ではない。
そのため、「敵を倒して、より強い武器を入手して、更に強い敵に挑む」というサイクルだけで構成されている。
戦闘で敵を倒す際にはボタンを押して攻撃や回避を行うものとなっている。
攻撃手段にはいつでも使える通常攻撃のほかに強力なスキルや魔法なども存在し、こちらは再発動までのクールタイムがあるため乱発はできないようになっている。
全体的にはミニマルな構成だが基礎はできていると言って良いだろう。

少し特殊な部分としては「入手できる装備品の品質は現在装備している装備品準拠となる」という点だ。
前述の通りキャラクターにはキャラクター自身に経験値が入りレベルが上がるような概念がないのだが、武器や防具にレベルが設定されている。
その装備した武器・防具のレベルによってキャラクターレベルが設定され、その数値によってダンジョン内でドロップする装備品の品質が向上するような形式となっている。
そのため、ダンジョン内で入手可能な装備の品質を上げたいのであれば、新しい高難度のダンジョンに挑むといったような形式ではないのである。

ダンジョン内で入手できる武器・防具には効果がランダムで付与されている。
この効果をアンロックするにはお金が必要となるのだが、お金は装備品を解体する事が主な収入源となる。
そのため、武器を強くするために不要になった武器を解体していくと言う無駄の少ないサイクルを採用している。
また、基本的に装備品の性能はどんどんアップグレードされていくため、非常にインスタントな側面が強い存在である。
例え効果に優れる装備品であっても、すぐさまより性能に優れる装備品にである仕組みなのだ。
上述の通りRPG的な側面が薄く全ての装備品が使うのは一回こっきりになる事が基本であるため、愛着を持って使い倒すような事は厳しいデザインである事は知っておいた方が良いだろう。

数値的上昇による楽しさに偏りすぎている

ではリアセカイのゲームプレイ部分についてのもう少し核心に迫った部分について記載したいが、本作は「装備が強くなり、より強い装備が手に入る」という「数値が上昇する事で得られる楽しさ」に偏りすぎている。

回復が潤沢で倒されることがほとんどないため駆け引きに乏しいうえ、敵がアイテムをドロップする確率が非常に低いため敵を倒す旨味がかなり欠けてしまっている。
そのため、装備品をアップグレードしようと思うとダンジョン内の宝箱を開けるのが最も確実かつ効率的で、「戦闘」という要素が存在するだけのものになってしまっている。
更にダンジョンはランダム生成ではなく構造・配置が完全固定であるため、その傾向が助長されるような仕組みになってしまっているのだ。

「数値が増える楽しさ」というのは確かに存在するものだが、それだけではいずれ「予測可能な楽しさ」にも至ってしまう。
「これ以上続けても数字が増えるだけだしな…」という「やってる事が変わらないこと」にプレイヤーが気が付いてしまうと、その時点で見切りをつけられて(飽きられて)しまうものなのだ。
幸いにして本作はクリアまでの時間は長くないため、賞味期限が切れる前に食べきる事ができるように作られているのは良いポイントだともいえるだろう。

 

グラフィック

モンスターも可愛らしい

人も魔物も可愛らしいキャラクターになっているが、全体的には非常に簡素な作りである。
「ストーリー」の項で述べた通りなのだが、特に町の作りは極端な言い方をしてしまえばハリボテであり、必要最低限の機能性だけで構成されているものである。
そのため生き生きとした空気感は映像表現からはほとんど感じる事は難しいだろう。

 

サウンド

音楽面も物足りなさが強い印象である。
特に本作のようなゲームの場合にはボイス量などが満足度に直結する事も多いが、ボイスの使い方は非常に限定的である。
サブ的要素はもちろん、メインストーリーでも会話の一部にボイスが付いているだけであり、もっとキャラクターの魅力に寄り添った作風を期待していると肩透かしになってしまう事が予想される。

 

総評

リアセカイは必要最低限の機能性だけで作られたハクスラである。
むしろ、それ以外の要素が思い当たらないくらいには全体はハリボテだ。

ストーリーで用意した素材は全く活かされることはなく、キャラクター達もストーリーが弱いうえにボイスも限定的なものに留まっている。

ハクスラにおいて併用されることの多いRPG要素やローグライク要素もないため、ただただ全く同じ構造のダンジョンに潜り続けては装備品をとっかえひっかえしていくだけである。
それ自体は面白くはありオススメもできはするものの、決して長続きするような内容にはなっていない。
幸いにしてクリアまでは短く、飽きる前には終えられるので短い時間でパパっとだけ遊びたいのであればプレイしてみても良いだろう。

 

外部記事

BLOG|リアセカイ 公式サイト

【レビュー】FREDERICA

言葉は希望か、絶望か。

FREDERICAはマーベラスより発売されたローグライクハクスラ型のARPGタイトルである。
豪華な声優陣を起用しながらも言葉を失った世界を舞台にしているという事で非常に独特な世界観が印象的で、ルーンファクトリーシリーズと同じ世界での話でもあるとのことらしくプレイしてみようと思ったタイトルである。

今回はFREDERICAのレビューを行っていく。

 

FREDERICA(フレデリカ) -Switch

FREDERICA(フレデリカ) -Switch

  • 発売日:2023/9/28
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

言葉を持たない戦士達

かつて王が過ちを犯し大穴へと逃げたと言われ、その際に世界から「言葉」を奪い去ってしまったという。
隠れた王を探し、王国に何があったのかを知るために魔物が住み着いている大穴へと言葉を持たない7人の戦士達が立ち上がるというのが物語の導入だ。

本作では豪華な声優陣が起用されているのだが、上記の通り「言葉」を喪失しているため特定の進行度に達するまで「エイ!」「やぁ!!」という掛け声だけになっている。
では物語はどのように語られるのかというと亡国の「姫」が代弁してくれる。
この姫はとにかく色々と喋ってくれる。
拠点で色々と作業をしている時はもちろん、立ち止まっている時やインベントリを開いている時にも話しかけてくれるのだ。
言葉を失っていることと対比するようにお喋りであり非常に印象的なデザインとなっている。
そしてプレイヤーが潜る事となるダンジョンでも進行度に応じた場所で過去の出来事を語ってくれており、それが本作の世界で何が起きたのかを知っていく手掛かりとなっていく。
そして、とあるポイントまで進行することができれば7人の戦士達も言葉を取り返す事になり普通に会話ができるようになる。

ストーリーは濃密なドラマが含まれているという訳ではないのだが、ゲームプレイにおける箸休めやフレーバーとしては十分に機能していると言ってもいいだろう。
言い方を変えればストーリーをメインに楽しもうと考えている場合にはミスマッチだ。

演出としてユニークな点を挙げておくとスタッフロールに相当する場面は記載しておきたい。
ネタバレとなるため余り詳細には記載しないが、本作のスタッフロールはそれまで行ってきた事を活用した遊び心が感じられるものとなっており好印象だ。

そして本作は一応、ルーンファクトリーシリーズと同じ世界観であるらしい。
物語として密接に関係するような内容が登場する訳ではないが、ルーンファクトリーと同じ敵が登場するなどファンにはほんの少しだけ嬉しいかも知れない。

気になるところがあるとすれば会話の自動送り設定が引き継がれない事だ。
会話のたびに自動送りを選択しなければならないのはやや不便に思える。

 

システム

面白さの基礎があるローグライクハクスラ

本作のゲームプレイは端的に表現すればランダム生成されるダンジョンの下層を目指していくローグライクな要素と、敵や宝箱からドロップされる武器・防具によってキャラクター強化を行うハクスラ要素のあるARPGとなっている。

ダンジョン攻略は7人の戦士達のうち1人を操作して攻略していく。
戦士達はそれぞれの個性があり、近接で単体火力の高いローグや攻撃範囲が広いウォリアー、遠距離からの攻撃が行えるアーチャーなどがいる。
これらの戦士達はダンジョン内のチェックポイントで入れ替える事も可能であるため、ダンジョン内は回復手段も乏しいことから深く潜る際には操作する戦士を切り替えながら進めていくのも攻略手段の1つだ。
特にダンジョン内の敵は弱点属性によってダメージが大きく上がるため、キャラクター毎に担当する属性を決めておく事も良いかも知れない。
また、キャラクターを切り替えることでバフを得られるため切り替えを積極的に行ってもいいだろう。
とはいえ、切り替えを行わなければ攻略不可能というレベルではないので、あくまでも選択肢の1つとなっている。

このダンジョン内ではキャラクターの装備は変更できず、またローグライクらしくダンジョン内で倒されてしまうと入手した戦利品も一部ロストしてしまう。
チェックポイントではダンジョンから戦利品を持って離脱することも可能なので火力不足などを感じたら無理せずに撤退することも大切だ。

ハクスラらしいサイクル的な育成

ダンジョン内に出現する敵との戦闘は攻撃と回避によって構成されている。
攻撃は回避によっていつでもキャンセルが可能であるため、後隙をキャンセルして安全に立ち回る事ができたりするなどアクション性はある程度のスピード感も出せるものとなっている。
7人の戦士達にはそれぞれレベルとスキルがあり、スキルに関しては再発動までクールタイムとなるリキャスト時間が必要だが非常に強力である。

ダンジョン内にいる敵を倒したり、オブジェクトを壊したり、あるいは宝箱から素材が手に入り新しい武器や防具が作れるような仕組みとなっている。
武器や防具にはランダムで効果が付与されており、攻撃力や攻撃速度がアップしたりする。中にはスキルのダメージが飛躍的に上昇して使い勝手が大きく向上するなど攻略の大きな手助けとなるだろう。
そのため、ダンジョン探索→キャラクター強化→更なるダンジョン探索というシンプルながら面白さを生み出しやすい構造となっている。

なお、敵にはコリジョンが設定されているためすり抜ける事はできず、囲まれてしまうとタコ殴りされてアッサリとやられてしまうので立ち回りには注意が必要だ。

7人も育成するのは厳しい

本作において困るのはキャラクターの育成コストになるだろう。
キャラクターは扱う武器がそれぞれ異なり、それぞれ素材を入手して生産しなくてはならない。
そうでなくとも未操作キャラクターはレベルは上がらず、攻略に必要なレベル帯にする手間もある。
それが7人もいるのは流石に育成コストが高く、現実的に考えるとやり込み要素の域を出ない。
もちろん全員使わなければいけないという事もないのだが、むしろ使いやすい数人だけを重点的に使う傾向が強くなってしまうのは勿体ない。

 

グラフィック

一定の水準がしっかりとあるビジュアル

全体はSDキャラクターによってデザインされている。
ディティールに色々とある訳ではないが、ダンジョンの背景は物語の内容ともリンクしておりそういった部分はしっかりと意図を持って作られている事が伝わる意味のあるものが作られている。

 

サウンド

本作の音声面で特筆するべきなのはボイスが様々な場所で活用されている点だろう。
「ストーリー」の項でも説明した通りだが、メニューやアイテムを閲覧している時にも声をかけてくれるなど様々なポイントでボイスが活用されている。

 

総評

FREDERICAはローグライクハクスラの基本を押さえたARPGだ。

RPGらしいキャラクター自身の蓄積されていく成長要素。
ハクスラらしい敵のドロップ品でどんどん強くなる即自的な成長要素。
それらによって面白さの基礎がしっかりある硬派な作風に仕上がっている。

また、インベントリを開いていても話しかけてくるお喋りな姫様は非常に印象的だ。

 

外部記事

主題歌 | 『FREDERICA(フレデリカ)』公式サイト

<インタビュー>神はサイコロを振らない、楽曲たちの焦点は自身でなくリスナーへ――ニューアルバム『心海』 | Special | Billboard JAPAN

【インタビュー】神はサイコロを振らない、『心海』に貫くエゴとアート「コンセプチュアルなアルバムを」(3ページ目) | BARKS

【インタビュー】『FREDERICA(フレデリカ)』開発者に訊きました〜アクションのこだわりから好物ピザの理由まで – Nintendo DREAM WEB

【レビュー】Fate/Samurai Remnant

江戸を駆ける聖杯戦争

Fate/Samurai Remunant(以下、FSR)は今や大人気IPとして知られるFateシリーズを歴史系ゲームの雄コーエーテクモゲームスによるARPGとして表現した作品である。

筆者はFateシリーズに関してはテレビアニメシリーズを視聴した程度の知識であるため、そこまで造形は深くはないが好きな作品群である事は間違いない。

 

【Switch】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

【Switch】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

  • 発売日:2023/9/28
  • メディア:Video Game
【PS5】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

【PS5】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

  • 発売日:2023/9/28
  • メディア:Video Game
【PS4】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

【PS4】Fate/Samurai Remnant 【メーカー特典あり】

  • 発売日:2023/9/28
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

シリーズファンにとっても嬉し要素の多い一作

FSRは1600年台中期の江戸時代、宮本武蔵の弟子にして養子である宮本伊織という人物が主人公となっている。
Fateシリーズにおける聖杯戦争と同義の「盈月の儀」が行われ、その中でもセイバーのサーヴァントのマスターとして宮本伊織が覚醒する所から物語が始まる。
他シリーズ同様に歴史上の著名な英雄たちが英霊として登場し、盈月の儀を勝ち残るためのデスゲームが開始される。
なかでも本作で初めて登場するような英霊も存在するため、「この英霊は誰なんだろうか」と考察しながら読み進めていくのも楽しみになるだろう。

シナリオ内には選択肢が用意されるケースがあり選択によって分岐が発生する。
選択肢や分岐が多い訳ではないため豊富なマルチエンドとはならないが、いくつかのルートが存在しているのも特徴として良いだろう。
内容にしてもFateシリーズらしい展開も多く用意されている。

ゲームプレイ中では町中の探索する事が可能で、場所によってはセイバーが専用の会話ポイントにプレイヤーである伊織を誘導するような事もある。
これは江戸時代の歴史背景や当時の文化的な説明をセイバーを介してプレイヤーに行うためのものとして機能している。
そのため、江戸時代の空気感や雰囲気を感じられる会話も多く、また説明的な会話過ぎず伊織とセイバーの関係性を描くものとしても活用している。

サーヴァント個別のサブストーリーも

登場するその他のサーヴァントもサブストーリーとして用意されている。
内容自体はそのサーヴァントと由来のある依頼をこなすようなものではあるのだが、やや淡白なもので濃密な会話劇などを期待していると肩透かしにはなってしまうだろう。
本作はあくまでも宮本伊織とそのサーヴァントであるセイバーを中心とした物語なのだ。

用語解説もあり初心者に優しい

本作ではキャラクターや土地が多く登場するが、それらの用語についての説明も完備されている。
歴史背景について記載されているテキストが多く用意されており、ディティールを知りたい場合には参照すると良いだろう。

ストーリーの魅力がゲームプレイで表現できていない

では、FSRのストーリーはどうなのだろうか。
本作はストーリー自体は悪くないように感じられるが、ストーリーテリングの甘さによって素材が活かし切れていない印象である。

事前の伏線や溜めや引きなどの”物語の谷”となるような構造が弱く、物語としての山場への導入を作れていないのだ。
そのため、盛り上がるであろうハズの場面でも山と谷の落差が小さいために思ったよりも盛り上がりに欠ける印象になってしまっている。
Fateシリーズに多い「これからどうなってしまうんだろう」「誰が死んでしまうんだろう」といったような「いつ、誰が死んでもおかしくない状況」を実感を持って作り出せておらず、ストーリードリブンの1つの要素として大切な「期待と不安」が欠けたものになってしまっている。

これは物語を通して主人公である宮本伊織視点が中心に描かれているために発生している問題でもありそうだ。
他のマスター/サーヴァントの描かれ方が薄く、感情移入が薄いままに物語展開が進んでいってしまうのである。
Fateシリーズは敵と味方とは簡単には割り切れないようなキャラクターの描かれ方が印象的であるため、もっと群像劇のような描き方が出来なかったのかと思わずにはいられない。
工数が増えてしまう問題はあるが、複数の視点から盈月の儀を描く事で戦う事への葛藤を生み出せたのではないかと思うのだ。

 

システム

わかりやすい無双ベースのアクション

身も蓋もない記載っぷりで恐縮だがFSRの戦闘システムは基本的には無双系のアクションRPGをイメージするのが手っ取り早い。
上図ではサーヴァントを操作しているが、基本的にはマスターであり剣士の宮本伊織を操作する事になる。
宮本伊織を操作して敵に攻撃を行っていく事で「交代ゲージ」がチャージされていき、それを使う事でサーヴァントを一定時間操作して戦う事が出来る仕組みとなっている。
サーヴァントは火力面でも範囲面でも協力であるため、ある種の強化モードのような使い方だと思っても良いだろう。
またそれ以外でも、戦闘中にはセイバーから協力技を申請される事もあり、実行すると大ダメージを与えられる。

特にボス敵のような強敵相手には「外殻ゲージ」というものが設定されており、これを削らないと大きなダメージを与えられない。
このゲージはサーヴァント操作の方がより簡単に削れるため、積極的にサーヴァント操作にするのが大切だ。

なお、ストーリーを進めると他のサーヴァントからの助力を得られるようになり、セイバー以外のサーヴァントにも交代が可能となる。
複数のサーヴァントが操作可能となっているのはFateシリーズファンとしてもうれしいポイントとなっているだろう。

冗長を極めたボス敵

大まかには無双系アクションであるが、前述のボス戦は不快感が強いものである。
これは無双系の軽快なアクションと根本的なシステムとしてのミスマッチが強いのだ。

軽快なアクションは行き過ぎれば「大雑把」にも繋がり、無双系の系譜である本作はほとんど大雑把なアクションである。
自分と敵の攻撃範囲は見た目よりも遥かに大きなものであるし、ヒットボックスにしても同様だ。
カメラワークも1対多を前提としているため詳細な距離感が測りにくいものである。
これは同社の他作品で恐縮だが"ペルソナ5 スクランブル ザ ファントムストライカーズ"で起きていた問題と全く同じ事が本作でも起きているのである。

HPゲージとは別に削る必要のある外殻ゲージにしても、無駄に耐久力を高めているだけで駆け引きに寄与していない事も問題である。
強敵である事を演出したい気持ちは理解できるが、実際に皿の上に乗っているのは「無駄に耐久性が高いだけの敵」であり、こちらが「負けそうだ」と感じるケースが存在しない。
負ける事のない…言い換えればスリルのない淡々とした戦いが延々と続くのは苦痛が伴うし、敵を倒すために何度も同じ行動を繰り返し続けるだけなのである。
プレイの面でも、感情の面でもメリハリに欠ける体験になってしまっており、このシステムで強敵を扱おうと思うのであれば根本から考えを見直すべきであろう。

陣取りのような要素も

ストーリー攻略を行っていくと上記のような陣取りゲームが数多く登場する。
この陣取りゲームでは最終的に敵の本拠地を奪う事で勝利する事なり、そこに到達するまでにある拠点を奪っていく。
この拠点は敵とも奪い合いをするのだが、拠点が支配条件を満たすには同じ色の拠点と隣接している必要がある。
そして、キャラクターの移動によって拠点が支配条件を失うと分断が発生してしまう。支配条件を失った拠点は未制圧拠点の状態となってしまい、その領域内にプレイヤーがいるとゲームオーバーだ。
逆に敵を分断させて孤立させれば戦わずに消滅させる事ができる。
上手くエリアを分断させて無用な敵とは戦わずに効率良く敵の本拠地を奪うのが望ましい。

その他にも陣取りを支えるシステムやアイテムなども存在する。
アイテムに関しては強力ではあるが所持数制限もあるため、ゴリ押しのような事が行いにくくしっかりと調整されている。
バランスが比較的整っているため楽しくプレイできるだろう。

 

グラフィック

ディティールは弱いギリギリの及第点

FSRのグラフィック面はキャラクターのモデル自体は及第点と言えるものがあるが、全体のディティールはチープだ。
特にフィールド上のオブジェクトやテクスチャは近くでマジマジと観るには厳しいレベルだろう。

とは言え、肝心のキャラクターのモデルはしっかりとしており、中でもフェイシャルに関してはパワーを注いでいるように見受けられる。
魅力的なキャラクターを損ねる事のないものになっているため、その点では全く問題ないだろう。

その他、細かい部分も配慮しているようでカメラでは足元が見えにくいためわかりにくいが、室内の畳の上などでは履物を脱いでいるなどの細かいこだわりもあるようだ。

江戸時代の地図は魅力的だ

オールドな雰囲気を感じさせる江戸の地図は魅力的だろう。
名前も含めて現代でも存在する都市も多いため、そういった側面でも興味深く観る事ができるのではないだろうか。

 

サウンド

BGMは無双シリーズらしいものや、和風らしいなもの、その他にもサーヴァントの出自にマッチしたものも多い。

ボイス面ではフルボイスと言う訳ではないが、各サーヴァントが喋る場面もしっかりと用意されているため好きな既知のサーヴァントがいる場合には嬉しいかも知れない。

 

総評

Fate/Samurai Remnantはストーリーでもシステムでもメリハリに欠けており、素材を思ったほどに活かしきれていない作品だ。

ストーリーはそれ自体は悪くなく、登場するサーヴァントが誰なのかを考えるのは楽しめるものの、盛り上げ方には問題があるため思ったよりも感情が動かない。
戦闘システムも大まかには悪くはないのだが、プリンをフォークで食べさせられる冗長で退屈なボス敵との戦いは苦痛を伴う事だろう。

 

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【レビュー】ARMORED CORE Ⅵ : FIRES OF RUBICON

火を点けろ、燃え残った全てに

ARMORED CORE Ⅵ : FIRE OF RUBICON(以下、AC6)はARMORED CORE(以下、AC)シリーズ待望の新作タイトルである。
ACシリーズは続編を待ち望む声がミーム化してから久しいが、半ば続編は諦めムードも漂っていたように感じられる。
何故なら、ロボットゲームが一般層にまで人気を博す事は稀であり、現代ではメーカーがロボットゲームを発売する機会が失われつつあったからだ。
しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いのフロムソフトウェアがACシリーズをリブートしてくれるのは朗報だ。
これを機にフォロワーが生まれる可能性すらあるからである。

筆者がACシリーズをプレイするのはPS2時代以来であり、本当に久しぶりのプレイとなるが帰還したAC6のレビューを書いておきたい。

 

【PS5】ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON

【PS5】ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON

  • 発売日:2023/8/25
  • メディア:Video Game
【PS4】ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON

【PS4】ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON

  • 発売日:2023/8/25
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

理解しやすくも、シリーズの空気感を保っている

AC6は人体改造を施され、人格を有しているかも曖昧な強化人間C4-621が主人公だ。
コーラルと言う物質で汚染され封鎖状態となっている惑星ルビコンにてウォルターという人物の配下で死亡した傭兵の身分証を奪い"レイヴン"と名乗り、大型の人型兵器アーマードコア(AC)を用いて独立傭兵として暗躍する事となる。
惑星ルビコンではいくつかの対立勢力が存在するのだが、過去シリーズでもそうであったように本作でも傭兵であると言う事でダブルスタンダード的な立ち回りと、政治的な腹芸などが描かれている。
後ろ盾がほとんどないルビコンにおいて徐々に周囲の企業勢力などから実力を認められていく成り上がりを感じさせる物語にもなっていると言って良いだろう。

過去シリーズと同様にキャラクターは立ち絵も何もなく、ボイスとセリフ内容だけで構成されている。
しかし、本作ではキャラクターの登場回数が比較的多く、そして印象的に描かれており全員が個性的であり記憶に残るようなキャラクター達ばかりになっている。
特にウォルターやラスティといったキャラクターは見せ場が多く好きになる人も多いのではないだろうか。
本作のストーリーにおいてはこれらのキャラクターの魅力が大きな割合を占めていると言っても過言ではない程で、過去シリーズと比較してもキャラクター描写はしっかりと練り込んであるように感じられる。

近年のフロムソフトウェア作品ではソウルシリーズを筆頭としてストーリーは薄味ながら考察要素が膨大に用意されていると言うストーリーテリングが特徴的である。
本作ではその辺りがどうなっているか気になるユーザーも多いだろう。
結論から書いてしまえば、そういう要素もしっかりと用意されている。
しかし、ダークソウルなどと比べればストーリー自体がしっかりと内容を語ってくれるため、フレーバーテキストなどを読まないと全くわからないというようなレベルではない。
つまりは比較的にわかりやすいストーリーになっているのだ。
もちろん、用意されたフレーバーテキストを読めば更に解像度を上げて理解する事は可能だが、物語としての大枠を知るだけであれば読まなくても問題ないレベルになっている。

物語に対しては基本的に受け身だが、選択が存在するケースも

歴代シリーズが傭兵を描いていたが、本作では更にゲーム開始の時点で既に人格に大なり小なりの損傷が起きていると思われる強化人間が主人公と言う珍しいパターンとなっている。
そんな影響もあり物語の進行に対してプレイヤーは受け身になる事が多い。
傭兵らしく言われた通りに仕事をこなすだけであり、そのうえ人格にダメージを持つ主人公では何かを強く主張する機会は少ないのだ。

しかし、完全なレールのような形式でもない。
ミッションにはどちらかを受注するともう片方を受注できなくなるものもあるほか、ミッション中に選択肢が提示されるケースも存在する。
その上、クリア後には内容に変化が起きるミッションも存在するため、周回プレイに関してはある程度は前提としたデザインだと思って良いだろう。

 

システム

ここからはゲームプレイに関連するシステム面についての記載を行いたい。

 

戦闘

モダンで軽快な戦闘

AC6の戦闘は攻撃と回避が主体で、非常に軽快でモダンなアクションゲームとしての楽しさがしっかりと抑えられている作りとなっている。
とは言え、(アップデートにより多少バランスに変化があったようだが)敵は偏差撃ちやミサイルのホーミングが強めであるケースも少なくないため回避によって全ての攻撃を避ける事は困難で「ダメージを最小限に抑え込む」というデザインが採用されている。
言い方を変えればある種の時間制限が設けらているようなものだと思って良いだろう。
そのため、被と与でダメージ差が生まれてしまうとリソースの削りあい勝負で負けてしまうので装備構成や立ち回りを見直す目安にすると良い。

本作の戦闘において重要なシステムとして「スタッガー」という状態が存在する。
このスタッガー状態は自機にも敵機にも存在し、この状態になってしまうと一定時間機体がスタン状態となり無防備となってしまう。
そのうえ、スタッガー状態では被ダメージも上昇してしまうのだ。
スタッガー状態はHPとは別の「衝撃値ゲージ」というものが最大値まで溜まってしまうと発生する状態で、同社の別作品の例えで恐縮だが”隻狼”における「体幹ゲージ」のようなイメージで概ね間違ってはいない。
そして、このスタッガーのゲームプレイへの恩恵は強いように感じられる。
射撃武器主体の戦闘となる本作のような作品では大半の武器で強めのリコイルでもない限りはお互いが攻撃し続ける銃撃戦状態になってしまうため「自分が攻撃する場面」と「相手が攻撃する場面」といった疑似的なターン制のようなメリハリを生み出しにくい。
しかし、スタッガーという要素がある事によって一気呵成に攻める場面と、蓄積した衝撃値を回復する守りの場面を作り出せるのだ。
射撃戦の中に「攻め時」と「守り時」を取り入れられたのは見事だろう。
また、装備する武器も扱いやすく立ち回りやすいもの、当てにくさはあるがスタッガー状態にさせやすいものなどプレイヤー毎の個性を反映させられたりするものとなっている。
特に後述するミッションはその内容に応じた構成にする事が大切であり、上述している「ダメージを最小限に抑え込む」という観点からダメージレースに負けないような構成である事が望ましい。

次に過去シリーズの仕様からの大きな変化点も記載しておきたい。
過去シリーズではエイムがマニュアルであったが、オートのロックオンが実装されている。
しかし、このオートロックオンも単純な仕様とはなっていない。機体性能によってロックオン性能にも変化があり追従性などに違いが生まれるため機体のスペックもしっかりと考える必要があるのだ。
そして、このロックオン機能は便利ではあるのだが、その動作面の仕様は少し独特だ。
ロックオンモードに入ると射程圏に入った視界上の敵をロックオンし始める。
この「敵をロックオンし始めた段階」でカメラ操作を行ってしまうと、他に敵がいた場合にはロックオン対象の切り替え、他に敵がいない場合にはロックオンが解除されてしまうという仕様になっているのだ。
そのため、ロックオンを使用したい場合には「カメラ操作を行わない」という注意が必要だ。
例えば、敵が一瞬視認できなくなるとカメラ操作をしたくなるのが心理だが、それを行ってしまうとロックオン自体が解除されてしまうのである。
そのため、ロックオンによる自動追従を信じて手動のカメラ操作を控える必要がある。
これは追従性という能力をカスタマイズ要素に含めているためであると考えられるが、一般的な操作感とは異なる部分であるため最初の間は困惑する事も多いかも知れない。
なお、従来通りの完全なマニュアル操作によるエイムも可能なので、古参の傭兵はそちらで頑張ってみるのも良いだろう。

では、それらを踏まえての全体的なバランスに関してだが、それに関しては極端な傾向が強い。
スタッガーと言うシステムによって立ち回りよりも装備のカスタマイズの重要度が高いのだ。
つまり、敵機をスタッガー状態に瞬時に追いやり、高火力で瞬殺するという戦術が圧倒的に強いのである。
スタッガー状態にしやすくない武器も決して弱くはないため普通に使う分には全く支障はないのだが、クレバーに攻略を狙うのであれば使う優先順位としては下位に沈む。
ボス敵を見据える場合には特にだ。
このような瞬間火力型の装備構成にすると大味な戦闘になってしまう事も多く、アクションゲームとしての醍醐味を味わいたい場合には封印しておく事も視野に入れても良いかも知れない。
(この辺りは筆者のプレイしたv1.01時点の9月初めまでの話であるため後のアップデートによりバランス面が変更された所もある点は留意願いたい。)

 

アセンブリ

アクションゲームとしては見事だが、ロボットカスタマイズとしては気になる点も

AC6において最も注目度の高い要素としては機体をカスタマイズして組み上げる「アセンブリ」だろう。
アセンブリでは機体の胴体や脚部などを組み上げ、そして装備する武装パーツを装着させることが出来る。
過去シリーズでも同様であったが、機体の脚部やジェネレーターによって積載重量上限や供給可能エネルギー上限が決まるため、軽量級ながら重武装といった構成は行いにくい。
各種パーツはカラーやスペキュラーを編集できるほか、エンブレムを自作する事もできる。

これらのパーツは報酬によって入手できるケースもあるが、多くがゲーム内で購入する事になる。
購入するには後述のミッションをクリアした際に得られるゲーム内マネーを消費する必要があるが、本作では買値と売値が同額であるため緊急性があるのであれば使わないパーツを売却する事が推奨されているように感じられる。

本作では入手可能なパーツ総数は決して多いとは言えないものの、パーツおよびそのカテゴリーそれぞれにしっかりとした差別化を行った実装が行われている。
つまり、単純な上位互換と言えるような武器を作らないようにデザインしているように感じられるのだ。
そのため、どの武器を活用しても一定の価値が提供されており、アクションゲームとしての楽しさが崩れにくいものとなっている。

しかし、それはアクションゲームとしての側面では成功していると言えるものの「ロボットカスタマイズ」という側面で観た場合には物足りないと感じるユーザーもいるであろう事は避けられないようにも思える。
全体のパーツ数が少なくはないものの多いとも言い難く、その影響もあってかミッションなどをクリアしていっても一向にパーツが増えない。
そのうえ、いわゆる”武器腕”など過去シリーズにはあったが本作では根本的に存在しないようなパーツも少なくない。
そのためロボットをカスタマイズする事のみを最大のモチベーションにしてしまうと肩透かしになってしまう可能性がある。

 

ミッション

攻略に重点を置いたミッション

AC6はチャプター毎のミッションクリア形式で進行する。
ミッションでは基本的に目標の敵機を撃墜していく事になるが、中には護衛ミッションや潜入ミッションのようなものも存在する。
なお、一度クリアしたミッションに関しては後で再度プレイする事も可能となっている。
基本的には周回プレイをしていけば自然と貯金が貯まっていくが、金欠解消策として利用するのも良いだろう。
ミッションの舞台となるステージはある程度の広さはあるが、あくまでも「狭いと感じない程度の広さ」である。
そのため同社のソウルシリーズのダンジョンと比較すると一本道と言っても差し支えないデザインになっている。
これは本作がミッション攻略に重きを置いて制作しているためであるが、だからと言って探索要素が全くないという事でもない。
一部のミッションのステージ内には回収可能なコンテナが隠されており、その中にパーツが入っている事もあるのだ。
ちょっと寄り道できそうな場所を見つけたら、そちらに行ってみるとご褒美が待っているかも知れない。
パーツの入手は本作の醍醐味の1つであるため嬉しさも際立つ事だろう。

AC6ではミッション攻略に際してモダンな要素も多く取り入れられている。
まず、ミッション中に弾薬補給があるケースが少なくない。
ミッションを進めていくと機体の耐久値も弾薬も心許ない状況になる事は過去シリーズでも多かったが、本作では途中で補給を受けられる場所があったりする。
更に倒されてもチェックポイントからやり直す事が可能で、体力や弾薬がフルの状態から再開される。
そのうえ、アセンブリを変更して対策を行ったうえでチェックポイントからやり直す事も可能になっているので親切な部分が増えている。

それを考慮してかミッション毎に装備の向き不向きもある。
洞窟などの比較的狭い空間では上空に放たれる対地用弾道ミサイルタイプの兵装は使いにくく、シールドを展開している敵がいる場合には対策兵器を装備する事も悪くない。
「装備しないとクリアできない」といった必須装備が要求される事は非常に稀だが、ある程度は環境や敵機を考慮した兵装にしておくと有利に立ち回れるだろう。
そのようなバランスとなっているため、自分自身の強いこだわりがあった場合にそのこだわりの方向性によってはそれを貫き通すのは厳しいケースも出て来るかも知れない。
こだわりと臨機応変のバランスが大切である。

そしてミッションクリアの収支も改善されている。
過去シリーズでは被ダメージや弾薬消費によってミッションをクリアしても収支は赤字となってしまう事も少なくなかった。
これはマネージメントの重要性と傭兵家業の苦しさを表現する事には成功した可能性はあるが、ゲームプレイ自体に消極的で窮屈なものを強いるデザインであった。
何故なら、この状況を言い換えれば「行動して、成功したのにダメだしを貰った」という状態であり、これではプレイヤーは積極的に自分から行動する意欲をなくしてしまうのもやむを得ない構造だからである。
しかし、本作ではクリアしたのに赤字になるような事は非常に稀なケースになるように配慮されている。
つまり、プレイヤーの積極的で挑戦的なゲームプレイを阻害しないように配慮されているのはモダンで好ましい作りだ。

では、ここでミッションに付随した懸念ポイントも記載しておきたい。
それは弾薬補給がある事によって起きる問題である。
本作では前述した通りミッション中に弾薬補給が受けられるケースが少なくない。
それ自体は親切なのだが、リスクとリターンに見合っているのかは疑問がある。
それは高火力兵装特有の「弾数不安」が形骸化している事が多くなってしまっているからだ。
それによって「戦闘」の項でも示したように「スタッガーに一気に追いやり高火力で瞬殺」というのが大半のミッションで問題なく、そして継続的に運用できてしまう。
このアセンブリ構成で攻略が厳しいのはほんの一握りのミッションなのだ。
一部の大ボス対策兵装として高火力武装を持ち込むのは理解できるが、そうでないミッションでもそれが運用できてしまうようでは低火力ながら弾数が多い武器は困った事になる。
もちろん、取り回しの良さには軍配は上がるかも知れないが、それでもチマチマと攻撃を当ててルートを進んでいくのと、大火力による高い面制圧力と一撃必殺でルートを進んでいくのとでは(敵機が攻撃してくる機会という観点から)明らかに後者の方が安全である。
敵との戦闘時の立ち回りでは装備毎の差別化が存在するが、ミッションの攻略においては高火力兵器も低火力兵器も同じ土俵になってしまい差別化に失敗しているのは問題だ。

 

グラフィック

巨大で退廃的な景色

AC6の舞台となる惑星ルビコンは大きな災厄が起きた過去があり、その影響から非常に退廃的なフィールドが印象的である。
高度な機械文明があった事は間違いないが、人が生活していない壊れた土地なのだ。
訪れるかつての文明跡地はACを前提としたサイズ感となっており、ディティールを確認すると人間用オブジェクトのサイズとACなどの大型機械用オブジェクトのサイズの比に世界観を感じ取ることが出来るだろう。

醍醐味であるロボット”AC”に関しては「アセンブリ」の項でも記述したが、パーツ総数が多い訳ではないため自分が理想とするロボットデザインにできない事も想定される。
この辺りはDLCでの増強あるいはスキンのような形で同性能だが見た目だけ異なるものにできるなどの施策が欲しい所だ。

やや不便な点もあるがフォトモードがある

本作にはフォトモードも存在する。
しかし、カメラは自分の機体から余り離れられないためカッコいいシーンを撮るのは難しい印象だ。
もっと引きの絵が撮れるようにできると更にカッコいい構図での撮影も可能であっただろう。

 

サウンド

基本的にBGMが存在しないため、余り楽曲が印象に残る事は少ないかも知れない。
しかし、やはり印象的なキャラクターの会話が記憶に残りやすいだろう。
「ストーリー」の項で前述したようなウォルターやラスティはもちろんだが、プレイヤーをサポートしてくれるエア、破天荒ながらカリスマ性のあるミシガンなどなど枚挙に暇がないと言っても過言ではないくらいだ。
どのキャラクターもウィットに富んだ切り返しを行う事も多いため、作中でのカッコよさが際立っている。

 

総評

ARMORED CORE Ⅵ : FIRE OF RUBICONは久しぶりのシリーズ作品ながら、印象的なキャラクターが牽引するストーリーとモダンかつ高水準なゲームプレイによって総合的な満足度が非常に高い作品へと至っている。

ゲームプレイ部分ではアセンブリのバランス面で大きな偏りが感じられ、ロボットカスタマイズという視点では物足りなさも感じられるものの、アクションゲームとしての手触りの良さがそれらを隠蔽してくれるだろう。

 

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【レビュー】シャドウハーツⅡ

死と再生の物語

シャドウハーツⅡは旧スクウェアのメンバーが設立したサクノスを再編したノーチラスが開発を行い、アルゼ(現:ユニバーサルエンターテインメント)が販売したPS2向けRPGタイトルである。

筆者は前作をプレイしないままに本作を手に取ったのだが、それは比較的偶然に近く丁度その頃に新しくプレイしたいタイトルを探している時に見つけたのだ。
実際にプレイしてみると史実とも絡んだ内容でもあり、丁度そのタイミングで三國志のゲームにも楽しみを見出していた時期だった頃でもあったため歴史的な知識の部分が補完されていく事にも嬉しさがあったのだ。

今回は筆者が世界史に興味を持つきっかけとなったシャドウハーツⅡについてレビューを行っていきたい。

 

シャドウハーツ2

シャドウハーツ2

  • 発売日:2004/2/19
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

より歴史的接点を描いたダークローファンタジー

シャドウハーツⅡは第一次大戦の只中にある混迷する1915年の欧州が最初の舞台となる。
主人公ウルムナフ(通称ウル)は前作にて起きた神降ろしと神殺しの事件のあと、幾度も追手と対峙しては逃亡する生活だったようである。
そしてフランスのドンレミ村へと流れつき、そこで用心棒のような事をして暮らし外部の人間からは「ドンレミの悪魔」とまで呼ばれるようになっていた。
そんなある時に、ドイツ軍の女性将校カレンとバチカンのニコラス枢機卿にドンレミ村の占拠と悪魔討伐を名目とした襲撃を受ける。
しかし、ニコラスの目的が当初聴いていた内容と全く異なる事からカレンが対立、揉めているさなかウルはカレンを庇う形で”ヤドリギ”という呪いをその身に宿す事となってしまう。
ヤドリギの呪いとは何なのか、この呪いを解く術はあるのかを探す旅に出る事となる。

本作では前作と比較してもより歴史的事件との関りが深いものとなっているのが特徴的だ。
実在した人物もより多く登場し、より物語の中心で関わるようになっている。
その上、実在の都市も多く用意されており、著名な建物を確認する事も出来るだろう。
第一次大戦時の諸国を巡るため、「1つの国家内で起きていた歴史」ではなく「国家Aでこういう事が起きていた時、波及して国家Bがこういう状態になり…」というような「国家間の関係性の中の歴史」をふんわりと感じ事ができるため世界史に興味を持つきっかけにも成り得る作りになっている。

では次に本作で大きく強化されている要素についても記載したい。
まず、ボイス付きのカットシーンが多く用意されておりストーリーおよびストーリー演出としての見応えが格段に上がっている。
カットシーン自体の品質も非常に高く、キャラクター自体の演技はもちろん、声優による演技も素晴らしい。
特に主人公ウルの不器用なりに相手に想いを伝える姿はキャラクター像を完璧に演じた高橋広樹さんの演技によって是非とも観るべきものとなっている。
前作では後半になると影が薄くなってしまうキャラクターがいたものの、本作では比較的どのキャラクターも最後まで個性的で魅力的に描かれているのも好印象である。

続編であるという事で本作からいきなりプレイしても問題ないかが気になる事もあるだろう。
結論から書くのであれば、ほとんど問題ないといっても良いだろう。
何しろ筆者自身が「2」からプレイしているためだ。
前作であった具体的な出来事こそわからないものの、キャラクターのセリフから何があったのかが察せられる程度には情報を貰えるため話が全くわからないという状況にはならないように感じられる。
しかし、キャラクターの気持ちの重さまでも理解するには前作はプレイしていた方が良いだろう。
何故なら、本作が「前作のバッドエンドルートの続編」となっているためだ。
若干の前作のネタバレとなるが、前作のヒロインであるアリスは生存ルート(グッド)と死亡ルート(バッド)が存在している。
本作ではその死亡ルートの未来を描いているのである。
そのため、アリスを失った失意のウルの気持ちをより深く体験するためには前作の文脈を踏まえておくのが望ましい。
そして、本作はバッドエンドルートであるが、グッドエンドへと至るための物語でもある点は見逃せない。

物語進行における注意点としては現在の目的が何なのかを確認する術がない点だろう。
昔の作品では珍しいものではないが、何にしてもプレイ期間が空いてしまったりなどすると次にどこへ行けば良いのかが全くわからないような事にもなりかねない。
今からプレイするという場合には次にどこに行くべきなのかが明確にわかりやすいキリの良いポイントでゲームプレイを中断しておくべきだろう。

なお、本作にはディレクターズカット版が存在する。
ディレクターズカット版では新規イベントなどいくつかの新規要素が追加されているため、今からプレイを検討する場合にはそちらを購入した方が無難だ。

絶妙なシリアスとコミカルのバランス

物語路線は前作と同様のダークファンタジーであり、ローファンタジーだ。
現実世界を題材としながらも魔術や悪魔といったファンタジーな要素を加えており、更にそこに戦争という暗い影と陰謀が潜んでいる。

しかし、題材こそ陰鬱だが、物語が暗いかというと決してそんなことはない。
前作に引き続き主人公であるウルが銀魂坂田銀時のような「良い意味でアホでありながら、決める所はしっかりと決めるようなキャラクター性」となっているためだ。
更に本作ではアニメや特撮などへのオマージュが非常に多く採用されており、シリアスとコミカルが見事なバランスで成り立っている。
言うなれば「甘いお菓子」と「しょっぱいお菓子」を両方とも用意してくれているようなもので、ダークローファンタジーながらもコミカルでもありメリハリのある作風へと至っている。

避けがたき死

本作において描かれる特筆すべきテーマとして「避けがたき死」がある。

人は寿命はもちろんだが、特に不治の病などにより死に直面したときに恐怖と後悔、そして絶望が襲い掛かる。
しかし、それでも奇跡が起きるのではないかという不確かな希望を胸にするものである。
そして何をしても逃れようのない結末の前に諦観へと至り、その時に自分らしい生き方を、後悔のない生き方を模索する。
本作ではその過程を克明に描いており、この物語は最期へと向かうための"終活"なのである。

筆者の肌感覚で申し訳ない所だが、当時の日本経済は長期低迷で下火になっていた事に加えて、PS2時代のタイトルでは描画できる3D映像品質が格段に向上した。それらの時代背景にマッチするようにビターな作風のタイトルが増えていた印象がある。
本作もその潮流の中の1つではあるのだが、その題材は高齢化社会となっている現代日本において老若男女問わずに向き合うべき問題であり、それを「見送る側」ではなく「自己犠牲」という美化した描き方でもなく「一人の人間の当事者の視点」として描いており、そしてそれは「いつか来る自分の姿」でもあるのだ。誰にでも起こり得る特別ではない最期を描き出しているのは先駆的であり、特筆するべきポイントだと言えるだろう。

テキストへのこだわりは相変わらずだ

前作同様にテキストに対しての強いこだわりも健在である。

物語の展開と共にNPCの会話テキストにも変化があるほか、アイテムや敵にも設定に関してのテキストが用意されている。
また、選択肢が単純な「はい / いいえ」ではなく、キャラクター性を踏まえたものになっている点も相変わらず素晴らしいポイントだ。
多くの場所で「プレイヤーに楽しんで貰おう」という気概を感じさせてくれるため非常に好感を持ってプレイし続ける事が出来るだろう。

 

システム

ここではゲームプレイに関連するシステム面に関して記載する。

 

バトル

新たな要素により更にユニークになった戦闘

シャドウハーツⅡでは前作同様に「ジャッジメントリング」というルーレットを使用して行動を成功させて攻撃や回復を行うユニークなシステムとなっている。
ルーレットには失敗、成功、大成功の3段階が存在しており、大成功を狙おうとすると失敗する可能性が高まるようなリスクとリターンを考慮した配置になっている。
そのため、リスクを取って大成功を狙うか、安牌の成功で済ませるかも状況によっては考慮して良いだろう。
また、シリーズの特有の要素としてSP(サニティポイント)も存在する。
こちらはキャラクターがターンを迎えるたびに1ポイント減っていくものとなっており、これが0になると暴走状態になりキャラクターが制御不能となってしまう。
回復手段こそあるものの、長期戦になってしまうとHPやMP以上に重要なマネージメントが必要な要素となるので注意が必要だ。

新しい要素として「連携」が増えている。
連携は仲間キャラクターに隣接する事で発動するもので、行動したキャラクターに隣接しているキャラクターがいるとターンの順番に関係なく直後に行動できる。
更に直前キャラクターの攻撃によるダメージリアクションが継続している状態で開始されるという特徴も持っている。
本作では全ての攻撃方法に応じて吹き飛ばし、打ち上げ、叩き付けなどの効果が設定されているため、例えば敵に打ち上げ攻撃した後の連携では敵が空中に浮いている状態から連携先のキャラクターの攻撃が始動する。
空中から落下してくる敵にしっかりと攻撃を当てられるような攻撃でないと攻撃が外れてしまうためどのような攻撃を選択するのかも気を付けておかなければならない。
この連携が上手くいく事でダメージも上昇していくため、状況に応じて畳み掛けるために連携を活用するのが好ましい。
なお、この連携は能動的に行う事も可能だが、敵の攻撃のノックバックなどのダメージリアクションによってキャラクター同士が隣接して偶発的に発動可能となるケースもある。

キャラクターが隣接する事で強力な畳み掛けが可能となるが、その状態は何も安全な状態ではない。
魔法などでは範囲攻撃が存在するためである。
範囲攻撃は「敵の円形周囲」や「自分の直線状」など様々で、配置によっては一網打尽も可能となる。
これは敵を一掃する際にも利用する事はもちろんなのだが、逆に敵が行って来ることも考慮しなくてはならない事だ。
連携可能な状態はキャラクター同士が密集しているという状況下でもあるため、行動順序の把握を怠るとパーティーの多くが巻き込まれてしまう。
連携によってダメージを伸ばす事は大切だが、行動順序を把握して行うべきだろう。

本作ではキャラクタービルドの面も強化されている。
その1つがジャッジメントリング自体のカスタマイズだ。
攻撃において重要となるジャッジメントリングのルーレットを成功させやすくするヒットエリアの拡張であったり、通常攻撃に相手にデバフを与える効果を設定できたりする。
また、リングタイプというジャッジメントリング自体のタイプも変更可能で、火力が上がるが1つでもミスすると攻撃自体が発生しないタイプ、複数回の目押しが必要なものを全て1回に集約させるタイプなど用途に応じて使い分ける事も可能なものが用意されている。
ルーレット自体が不慣れなプレイヤー向けにも配慮されており、必ず成功するが大成功にはならないというタイプも用意されている。
自分のプレイスタイルやキャラクターの運用、パーティーシナジーを考慮したビルドをする楽しさが増している。

 

キャラクター強化

改善されたフュージョンとユニークなキャラクター強化方法

本作の世界観を表現するシステムとして導入されている主人公ウルの特殊能力フュージョンも健在である。
フュージョンとは怪物や悪魔へと変身する能力の事で、基礎ステータスを伸ばす事が出来るほか、フュージョンした悪魔に応じたスキルを使用する事が出来るようになる。
本作では少し仕様が変更されており、それはSPの取り扱いについてだ。
前作においては変身する際に多くのSPを消費していたのだが、本作では「ターン経過時のSP消費が多くなる」という仕様に改善されている。
これによって状況に応じたフュージョンの切り替えが行いやすくなっており、より融通の利く万能性を有したキャラクターへと変化した。

また、フュージョンする内なる悪魔達を強化する方法も良心的になっている。
前作においては敵を倒した時にポイントが得られたのだが、それが属性別のポイントに分離していた。
本作では属性別にポイントがわかれておらず、1つのポイントに集約されている。
そのため、シンプルに敵を倒せば強化のために必要なポイントが入手できると言う形となっているのだ。

なお、本作ではキャラクター毎に全く異なる強化方法が提示されている。
狼であるブランカであれば”ウルフバウト”という狼界頂上決戦のイベントをこなしていくものであったり、レスラーに師事しているヨアヒムは道端に落ちているものを拾って装備品として入手したりもする。
このようにキャラクターそれぞれに個性の強いドラマと共にキャラクター育成が成されていくため、キャラクターの強化自体がゲームプレイの楽しみになるだろう。

 

ダンジョン

バランス配分の良いダンジョン構造

ダンジョンは最初から最後までそこまで長いものはないのだが、序盤からやや入り組んでいてランドマーク的なものも乏しいため迷子にはなりやすい場所も散見される。
そのため、エンカウント率自体はそこまで高いものではないが、結果的に戦う回数は増えるだろう。
とは言え、クリアまでにレベリングが必要であると言うバランスではなく、エンカウントした敵を倒していけば順当に適正レベルで攻略できていくバランスとなっている良いデザインだ。

ダンジョンではパズル要素をクリアして先に進めていくようなものが多くなっている。
とは言え、難しいパズルと言う事はなく、しっかりと考えていれば問題なくクリアできるものとなっている。

 

ソロモン王の鍵

パズル的な強化システム”ソロモン王の鍵”

物語を進めたり、ダンジョン探索をする事で魔法を使えるようになる「紋章」が見つかる。
紋章には固定で魔法が設定されており、それを装備したキャラクターがその魔法を使えるようになると言う仕組みである。
また、同じ魔法が設定されている紋章を複数装備させた場合には消費MPが大きく軽減される効果もあるため、誰にどの紋章を装備させるかを考えるのも楽しいだろう。

そしてこの紋章は強化要素が用意されている。
それが「ソロモン王の鍵」である。
それぞれの紋章にはテキストが書かれており、ソロモン王の鍵の書にはいくつかのエリアが描かれた地図が記載されている。
ソロモン王の鍵の書に描かれている土地と紋章に書かれたテキストが一致するように配置していくというパズル要素があるのだ。
そのテキストにマッチするように配置していきエリアが埋まると紋章が強化され、新たな魔法が紋章に宿ったりする。

 

グラフィック

実在の場所と建造物が好奇心を掻き立てる

シャドウハーツⅡでは実在する土地や建物が多く登場する。
有名なものが多いためローファンタジー感をより強く感じる要因となるハズだ。
ディティールに関してもPS2の中でも高いレベルとなっている。

劇的な飛躍を遂げたキャラクターモデルとアニメーション

目に見えてわかる大幅強化が施されたのは何と言ってもキャラクター関連である。
プリレンダムービーでも、リアルタイムレンダリングでも前作から大幅に強化されている。

キャラクターのアニメーションにしてもモーションキャプチャーベースに変更されているようでリッチな印象を受けるだろう。

 

サウンド

魔術・呪術の不気味な雰囲気を思わせるBGMが印象的で、このBGM達も本作の個性を引き立てている。
また、前作と同様に戦闘中にSP枯渇で暴走状態となったキャラクターが発生すると専用のアレンジ違い戦闘BGMへと変化する。

郷愁と落ち着きのある「Old Smudged Map」

暗い工業文明の空気感を漂わせる「灰色の記憶」

魔術・呪術的で不気味なコーラスが印象的な戦闘曲「Vicious 1915」「Deep In Coma」

威圧感の強いリズムが強敵感を感じさせるボス戦曲「Hardcore To The Brain」

なお、ディレクターズカット版では特定の場所において新規BGMが用意されている。

BGMは素晴らしいが、サウンド面で素晴らしいのはボイスもだ。
戦闘中のボイスも強化されているが、何よりもカットシーンでの演技はどれも素晴らしい。
モダンなナチュラル系の演技が主体であり、リップシンクもしっかりと設定されている。

 

総評

シャドウハーツⅡは全ての面において大幅な強化が施され、隙の少ない傑作へと至っている。

ストーリーは飛躍して美麗になったモデリングとアニメーションと素晴らしい演技によって更に輝きを増すものとなっている。
そして描き出した死へと向かう「終活」は、決して他人事ではない苦しさを覚えるハズである。
ゲームプレイにおいても個性はしっかりと残しつつも、キャラクタービルドも戦闘中の立ち回りも幅が増えている。
総合的なクオリティーが非常に高い一作だと言えるだろう。

 

外部記事

シャドウハーツ公式サイト:シャドウハーツII>登場人物 (設定資料あり)

インタビュー『シャドウハーツII』 - 電撃オンライン

シャドウハーツ2 出演者インタビュー - ニコニコ動画 (非公式)

【レビュー】シャドウハーツ

運命の輪が回る時、闇に葬られたもうひとつの歴史が動き出す。

シャドウハーツは旧スクウェアのスタッフが設立したサクノスが開発、アルゼ(現:ユニバーサルエンターテインメント)が販売したPS2向けRPGである。

筆者はシャドウハーツⅡをプレイした後に1をプレイしたポロロッカ勢で、2の内容が非常に気に入っていたために1も気になりプレイしたという経緯である。

PS2を代表する隠れた名作と言っても良いかも知れないシャドウハーツのレビューを今回は行いたい。

 

シャドウハーツ PlayStation 2 the Best

シャドウハーツ PlayStation 2 the Best

  • 発売日:2003/11/6
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

大戦直前の時代を描くダークローファンタジー

シャドウハーツ第一次世界大戦直前を舞台とした物語となっており、実在の人物・土地も登場するものとなっている。
しかし、純粋な歴史をなぞるような作品ではなく、魔術や魔物が裏で暗躍しているといったようなダークローファンタジーな内容になっているのが特徴だ。

主人公であるウルはアリスと言う女性を保護して欲しいという謎の声を聴き、とある理由から満州の列車に乗っていたアリスに接触する。
しかし、ロジャー・ベーコンを名乗る老人が先んじて列車を襲撃しており、アリスを誘拐されそうになっていた。アリスの不可思議な力によって辛くも列車から脱出。
ウルに語り掛けてくる声はなんなのか、なぜアリスが狙われているか、そして悪魔のような姿へと変身するウルとは何者なのかが物語に関わるキーとなってくる。
また、本作は今は見えない遠い過去の記憶にある父親の背中を追う物語でもあり、家族との繋がりを描いている部分も見逃せないテーマだ。

物語は動乱の世界で、画面の構成も暗く、なおかつグロテスクさやホラー的な演出も多いため全体の雰囲気が暗いものになっている。
しかし、物語自体も暗いのかというとそんな事はなく、主人公が良い意味でアホ(坂田銀時のようなキャラクター性)であるため全体のバランスを整えているのが良いアクセントになっていると言えるだろう。
粗暴な主人公ウルがアリスと出会う事で不器用ながら大切なものを見つけて変化していく事も本作の見所となっている。

本作は本作だけでも楽しめる作品として成立しているが、一応は同じサクノスの開発した「クーデルカ(1999年発売)」と同じ世界・時間軸となっている。
とは言え、ストーリー上でクーデルカでの内容が大きく絡む事はないので、本作だけでもストーリーを理解する上では問題はない。

物語進行の上で気になる点があるとすればゲーム進行のおさらいが出来ない点だろう。
昔のゲームには少なくなかったが、あらすじや次に行く場所がマッピングされているような事が無いため、物語の展開を忘れてしまったりすると次にどこに行けば良いのかがわからずに困ってしまう可能性は捨てきれない。

物語の内容面において気になるのは仲間キャラクターの存在感かも知れない。
主役となるウルとアリスを除いた仲間キャラクターは登場からしばらくの期間は活躍の場があるが、後半になってくると影が薄くなりがちだ。
特に後半はウルとアリスを中心とした物語になっていくため蚊帳の外に近い。
もう少し活躍の場が継続して用意されていると嬉しい所だ。

こだわりを感じるユニークなテキスト

シャドウハーツにおいてユニークなのは選択肢も単純な「はい/いいえ」ではない点だ。
もちろん、「はい/いいえ」の場所がない事はないが、多くの選択肢が固有のテキストで表現されておりこだわりが感じられるものになっているのも本作の印象を特徴付けている。

その他、アイテムなどのテキストも個性的であったり、連れているパーティーメンバーによる会話差分もあったりなどテキストでの演出には力が入っていると感じさせられる。

キャラクターなどの設定を参照できる図鑑

モンスターやNPCの図鑑も用意されている。
本作では中国の四神や三尸、タロットの4つのスート、インド哲学を絡ませた思想が散見されるため、そのような部分に興味を持つきっかけにもなり得るだろう。

 

システム

ここではシステム面に関しての記載を行うが、シャドウハーツにおける全体の難易度に関してまず記載しておきたい。
本作はしっかりとクリアまでのレベル期待値がしっかりとデザインされており、エンカウントした敵と素直に戦っていけば、ある程度は適切な難易度で挑戦できるようなエンカウント率となっている。
また、エンカウント率自体もそれほど高いという訳ではないためダンジョン攻略におけるダンジョン探索が煩わしく感じる事もそう多くはないだろう。
ランダムであるため振れ幅はあるかと思うが、しっかりと攻略のバランスが考えられており好印象な作りである。

 

ジャッジメントリング

ルーレットを目押しするユニークな戦闘

シャドウハーツの戦闘システムの特徴は「ジャッジメントリング」と言われるルーレットを目押しして行動するちょっとしたアクション要素があるのが点だ。
このジャッジメントリングは外してしまうと攻撃自体が行えなくなったりするなどデメリットが大きいが、逆に外れギリギリの位置に設定されている大成功ゾーンにヒットできれば普段よりも大きなダメージに期待できる。
ジャッジメントリングの大成功、成功、失敗はリスクとリターンがしっかりと釣り合うように配置されているのも良いバランスとなっている。
なお、このジャッジメントリングのシステムは様々な場面で使用する。
時にはイベント進行の際に、またある時には店の商品をディスカウントして購入する時などだ。

また、ジャッジメントリングを活かした状態異常もあるのも素晴らしい。
ルーレットの針が早く回るようになったり、ルーレット自体が小さくなり視認性を下げたりなど本作のシステムであるからこそのユニークな状態異常が用意されているのだ。
1つのシステムを様々な角度から使うのは本作を大きく印象付ける要素として機能していると言えるだろう。

ジャッジメントリング以外の本作固有の要素としてはSP(サニティポイント)がある。
SPはキャラクターが行動順が来るたびに1つ減少し、0になってしまうと暴走状態になりキャラクターが操作不能となってしまう。
そのため、HPとMP以外でのマネージメントが必要な要素だ。
SPが0になった後も-1、-2とどんどん悪化していってしまうためSPが枯渇し始めたら暴走状態となる前にアイテムを使用してSPの回復も必要になってくる。

システム面の注意点としては本作ではチュートリアルらしいものは挿入されないという事である。
複雑に絡み合ったような要素はないものの、ちゃんと確認しておきたいのであれば事前に説明書に目を通しておくのが良いだろう。

 

フュージョン

悪魔へと変身

フュージョンは本作の特徴的なシステムの1つだ。
フュージョンとは主人公ウルのみが行使できる能力で、戦闘中に悪魔や魔物に変身して自身を強化することが出来る。
基本的にはフュージョンする事で基礎ステータスが上昇し、特技もフュージョンした悪魔に対応した属性のものが使用可能になる。
ただし、フュージョンを行うにはSPの消費が必須であるため、フュージョンを複数回切り替えたりすると暴走状態になりやすくなってしまうので計画性を持って行うのが大切である。

このフュージョンは特定の条件を満たす事でフュージョン可能な悪魔が増えていく。
フュージョン可能な悪魔を増やすには敵を倒す事で溜まる属性値によってフュージョン可能な悪魔が増やす事が可能になる。
特にフュージョン解放に必要な属性値はそれなりに必要なため、序盤のうちから解放しようと思うと敵をそれなりに倒していく必要がある。
そのため、ザコ敵を倒すモチベーションを与える要素とも言えるだろう。

フュージョンした悪魔には属性以外にもそれぞれ「物理攻撃が強い」「魔法攻撃が強い」などの個性が設定されている。
場面に合わせたフュージョンを行うのが好ましいが、やはり強さには格差があり特にザコ敵相手には闇属性、ボス敵相手なら炎属性の悪魔へのフュージョンが選択肢に上がりやすい。
せっかく属性値を溜めて解放した新しいフュージョンもベンチ要因化してしまうのは勿体ない。

 

グラフィック

プリレンダのカットシーンには物足りなさがある

シャドウハーツはキャラクターは3Dモデルによる描画、背景はプリレンダという構成だ。
キャラクターの3Dモデルは当時の水準からしてもやや物足りない印象である。
特にカットシーンのキャラクターモデルやアニメーションは良いものとは言い難い部分がある。
とは言え、根本的にカットシーン自体が少ないためそこまでデメリットが浮き彫りとなるような事はないだろう。

大きなマイナス要素にはならないが、映像演出面で一番勿体ないのは戦闘中のカメラワークに関してである。
戦闘中のカメラワークはキャラクターの使用する技に応じてカメラワークが固定になっているようなのだ。
これによって何が起きるのかというと、敵のサイズが巨体であった場合には敵が画面に映り切らない事態になってしまう。
演出の意味合いとして敵のサイズなどに応じてカメラワークも可変になるように調整して欲しかった所だ。

 

サウンド

戦闘曲では不気味なコーラスが本作の魔術・呪術的な世界観を演出しているのが特徴的である。
ダークファンタジーであるという事で不安を煽るようなBGMになっている。
また、戦闘でSPが枯渇した際に陥る暴走状態になったキャラクターがいるとアレンジ違いの専用戦闘BGMへと変化する。

ストーリーの極一部のシーンでは怪談話のようなものがボイス付きで差し込まれており、ある種のADV的な雰囲気もありユニークな演出だ。

音声面で気になるのは戦闘中のボイスパターンが少ない事だ。
どの技を使っても発せられるボイスが同じになってしまうため何とも言い難い気持ちになってしまう。
技毎に全て違うものでなくとも良いが、せめて数パターンは欲しい所だ。

 

総評

シャドウハーツは個性的なシステムと題材を取り入れたダークローファンタジーだ。

第一次世界大戦直前を描いており、楽曲も含めてその暗い空気感はあるものの主人公の破天荒さによって暗いだけでは終わらない物語が展開されている。
システム面ではジャッジメントリングが非常にユニークで、戦闘以外でも様々なシーンで活用されており、それを活かした状態異常なども他では拝めない体験になっている。

また、地味なポイントかも知れないが普通に進めていけばしっかりと適正な難易度で挑めるようにデザインされており、エンカウント率もそう高くないためストレスに感じにくいバランスでまとまっている点も好印象な作品である。

 

外部記事

『シャドウハーツ』コンポーザー インタビュー. 2007-09-01 | by Ongaku | Medium

【レビュー】ロックマンエグゼ

バトルオペレーション、セット!!

ロックマンエグゼGBAのローンチタイトルの1つとして発売された作品である。
その独特なシステムはやり込みとしても、対戦としても盛り上がり一定の根強いファンがいるシリーズ作品となっている。
かくいう筆者もロックマンエグゼシリーズがド直撃の世代であり、GBA作品の中でも特にお気に入りのシリーズとなっている。

そんな作品がリマスターされる事がアナウンスされたのは2022年の6月だ。
更に発表後となるTGS2022ではオンライン通信機能の制作が決定するなど非常に嬉しいニュースもあったのだ。

今回はほとんど当時ぶりのプレイではあるがロックマンエグゼのレビューを書いていきたい。

 

バトルネットワーク ロックマンエグゼ

バトルネットワーク ロックマンエグゼ

  • 発売日:2001/3/21
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

当時の時代性を考慮に入れたストーリー

ロックマンエグゼはパーソナルターミナル(PET)という携帯型端末に入った疑似人格型ナビゲーションプログラム(通称ナビ)というAIのような存在と共存している近未来の世界が舞台だ。
ナビはネット上での電子マネーでの買い物をサポートしたりといった広範な操作支援をしてくれるほか、ネットワーク上にうろつくウィルスの対抗手段としても利用されているという世界観である。
そんな時代の中でWWW(ワールドスリー)というネット犯罪組織がウィルスを作成してネットワークを介しての大小様々な犯罪を行っていた。
主人公である光 熱斗とそのナビであるロックマンの周囲にも犯行を行うようになり、それを解決していく事で徐々にWWWの牙城へと近付いていく事になるのが本作の大まかなストーリーだ。
地に足のついた物語というよりは、全体的に子供向けにわかりやすさとテンポを重視しているため、重厚で陰謀渦巻くようなストーリーではない。

本作のストーリーで印象的なのは時代性を取り入れつつ、その一歩先を描いたような内容になっている点だ。
当時は携帯電話がまだいわゆる”ガラケー”の時代であったが、携帯端末が全世界的に普及して、高速通信も徐々に広まっていった時代背景がある。
また、裏インターネットというアンダーグラウンドな存在も作中には登場しており、その存在もまた子供達に「悪い世界への一歩」のような「ダメだけど興味がそそられる」という部分を刺激してくれる設定だ。
当時の時代背景としてもアンダーグラウンドな側面の強かった「2ch」などが登場していたため、ある種の説得力のある設定に受け取りやすい土壌が既にであったと言えるだろう。
また先進的とも言えるのは「ナビ」という存在で、端末内にいるナビはユーザーのサポートを行って電子メールのやり取りやWeb上での買い物などをしてくれる。
現代で言うところのSiriなどにも通ずる部分があるが、当時に想像された近未来に現代が追いついてきているのも興味深い。

絶妙に頼りにならないロックマン

本作ではロックマンといつでも会話が可能で、今がどういう進行状況なのかがある程度はわかるようになっている。
これ自体はモダンな作りであり詰み防止の機能のように感じられるが、その内容はほとんどヒントになっていないため、物語を次に進めるには何をすれば良いのかがわからない事は少なくない。
例えば、「○○(人名)を探そう」とロックマンは言ってくれるのだが、実際には別の人物と話す事で物語が進行したりするのだ。
せめて「○○(人名)がどこにいるのか聞いて回ろう」といったようなある程度はしっかりと物語進行のヒントになる内容が文章内には含まれているべきだろう。
その他にも1ミリも物語の進行(人や場所)に関する情報を喋ってくれないようなケースもあるため、もしもプレイ期間が空くなどで前回の内容を忘れてしまっていたとしたらリカバリーするのは大変だ。

 

システム

ユニークかつ練られた戦闘システム

ロックマンエグゼは6x3のグリッド状のマスを移動して戦うアクションにカードゲーム的な要素を加えた今なお斬新なARPGとなっている。
戦闘ではロックマンを操作して敵に攻撃を与えたり、攻撃を回避する「戦闘パート」と攻撃や回復と言った効果を発揮するチップを選択する「カスタムパート」の2つで構成されている。

チップは攻撃や回復が行える戦闘中のスキルのようなもので、敵からドロップするものを入手する事で自分のデッキをアップデートしていくようなプレイスタイルが基本となる。
ロックマンは通常でもバスターによる攻撃が行えるが、DPSで考えればチップによる攻撃の方が圧倒的に効率が良い。
また、特定の条件を満たす事で一度に複数のチップを選択できるため、威力の高いチップをいかにして高い回転率で回すかがデッキ構築の上で非常に大切だ。

では、どのようにチップの回転率を上げるのかであるが、その方法は2種類存在する。
条件の1つは「同じ種類のチップ」となる。
同じチップであれば一度に何枚も選択して戦闘に持ち込みが可能になる。
例えば、上図にキャノンのチップが大量に並んでいる画像があると思うが、同じキャノンのチップであれば戦闘中のカスタムパート中に一緒に何枚も選択する事が可能である。
ただし、同じチップをデッキに入れられる数は上限設定されているため、全て同じチップで構成する事はできない点は注意が必要だ。
もう1つの条件は「同じコードのチップ」だ。
チップにはアルファベットのコードが付与されており、これが同じコードの場合には例え異なる種類のチップであっても複数枚を一気に使用できる仕様となっている。
そのため、オーソドックスで理想的なデッキ構成は同じ種類のチップをなるべく多く入れつつ、異なる種類のチップであっても可能な限りコードが統一されているように考えるのが望ましい。
それを考慮した上でのデッキ構築に頭を悩ませるのも非常に楽しい作業となるだろう。

チップにはアルファベットのコードが設定されていると説明したが、この要素は更にこだわりを深める要素になっている。
チップは敵を倒す事でドロップされる訳だが、なんとコードはいくらかの種類からランダムに決定される仕様となっている。
「現状のデッキから考えると、このコードのチップが望ましい…」という事は少なくないため敵に何度も挑んで、何度も倒す動機付けを与える事が出来ているのだ。
敵と戦う理由が極力減らないように工夫されているだけでなく、しっかりと戦力へとフィードバックもされるという一挙両得の素晴らしいデザインとなっている。

更にチップには特定の組み合わせで発動する「プログラムアドバンス」という仕掛けも用意されている。
これはやや隠し要素にも近いのだが、条件が成立するようにチップ選択を行う事で発動するものとなっている。
プログラムアドバンスを発動する事で例えば一定時間無敵状態でキャノンが撃ち放題になったりと様々な効果がある。
これを狙ったデッキ構築をするのも1つの手となるだろう。

デザインの狙いどころは素晴らしいが、至らない部分も散見される

大枠としてのデザインには素晴らしいものがあるのだが、全体のバランスは歪な部分が多い。

本作は前述している通り敵を倒してデッキをアップデートし、更に強い敵を倒して更にデッキを強くすると言うプレイサイクルとなる。
しかし、敵がチップをドロップする確率がお世辞にも高いとは言えないのは勿体ないと言わざるを得ない。
戦闘における討伐スコアとなるバスティングレベルが高ランクになったとしてもチップが確実に入手できると言う訳でもない。
体感ベースで申し訳ないが、敵からチップがドロップする確率は高く見積もっても30%程度ではないかと感じられるくらいだ。
そのため、手札のチップをより強いものにアップデートしようと思うとそこそこの時間がかかってしまう。
この辺りはバランスの問題であるため調整は難しい所だが、現状のバランスではデッキのシナジーどころか、単純な火力を求めたデッキ構築をするだけでもハードルが少し高いものになってしまっている。
GBAカセットの容量的に総プレイ時間を延ばしにくいという点から、このようなバランスにしている可能性もあるが、本作のようなバランスではデッキ構築の楽しさを体験して貰いにくく本末転倒となっている可能性がある。

可能な限り効率的なデッキ構築を組んだとしても戦闘開始時のカスタムパートで手札のチップが余りにもバラバラだった場合にデッキのチップ回転率を上げにくいのも困りものだ。
本作には「ADD」という機能によって次回のカスタムパート移行時にオープンされる手札の数を追加で5枚増やせる仕組みがある。
しかし、5枚追加されるのは「次回のみ」であり永続ではない。
そのため、初期手札として引いたバラバラのチップ達が手札を圧迫し続けてしまうのだ。
初期手札の重要性の比重がやや高い戦闘デザインになってしまっているが、この仕様は次作では改善されている。

戦闘自体のバランスにも問題がある。
端的に書くならば敵の攻撃が陰湿すぎるのだ。
敵の攻撃頻度や攻撃の発生が早いという点もあるのだが、それだけではない。
多くの敵が「フィールドに設置」あるいは「判定の持続が長い」という特性の攻撃を行って来るうえに、それを複数の敵が行ってくるため”追い込み漁”をされるケースが多い。
そのため、こちらのデッキ内のチップの火力が低いなどの原因で戦闘が長期戦化すると、上述した通り発生が早めで持続の長い攻撃により追い込み漁をされ、戦局を打開するのが非常に困難な状況に追いやられる事も珍しくないのである。
チップのアップデートが大変である事も重なり、敵への対処が苦労するバランスになっているのはレベルデザインとして問題がある。

 

グラフィック

クォータービューによる現代的な街並み

ロックマンエグゼはそう遠くない近未来を描いているため現代的な街並みが特徴的だ。
ドット絵ベースながらもどこか現実味のある世界観であると感じやすいものとなっているだろう。
また、ロックマンを介してネットワーク世界も描かれている。
こちらは侵入したサーバーによって雰囲気などの特色がわかれており、それがキャラクターの個性を表現する1つの手段としても機能している。
どちらもクォータービューで描かれており、トップビューやサイドビューと比べると立体感がありリッチな表現になっているのもポジティブな要素だ。

 

サウンド

ロックマンエグゼを語る上で印象的な楽曲の数々も外す事はできない。
シリーズのメインテーマともなる「THEME OF ROCKMAN EXE」はイントロから非常にカッコいいため印象に残る人は多いハズだ。
また、敵ナビとの戦闘BGM「ネットバトル」も威圧的なベースのイントロがカッコいい。

 

総評

ロックマンエグゼはシステム面における大枠のデザインには素晴らしい光明を感じさせる一作だ。
しかし、敵エネミーのレベルデザインやチップの排出率といったバランスの面での歪さが感じられる素材型の良作と言えるだろう。

ストーリーは子供向けアニメのようなやや説得力に欠ける強引な進行が目立つものの根本の作風自体がその路線であるため、そこまで気になるものにはならないハズだ。

 

外部記事

[インタビュー]「ロックマンエグゼ アドバンスドコレクション」はネットバトラーたちのつながりを再確認できる“同窓会”。江口名人に移植にかける熱意や当時の思い出を聞く