【レビュー】幻影異聞録♯FE

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Reincarnation

幻影異聞録♯FE(以下、幻影異聞録)はファイアーエムブレムシリーズで知られるインテリジェントシステムズ女神転生やペルソナといった作品で知られるアトラスがコラボした事によって生まれた作品だ。
当初WiiUでコラボが発表された当時には一体どんな作品となるのか全く見当が付かなかったが、それは開発側も同様だったようで紆余曲折あった事が様々な媒体で語られている。
その影響もあり、新たな情報が公開されるまでに非常に長い期間を要した事を覚えている。
そして、新たな情報が解禁された時には煌びやかな世界観を引っ提げたゲームとなっていたのだ。

今回は異色のコラボ、そして独特の設定を有した幻影異聞録♯FEをレビューしてみたい。

なお、今回はNintendo Switch向けに発売されたEncore版をメインのレビュー対象として記載する。

 

幻影異聞録♯FE Encore -Switch

幻影異聞録♯FE Encore -Switch

  • 発売日:2020/01/17
  • メディア:Video Game
 
幻影異聞録♯FE - Wii U

幻影異聞録♯FE - Wii U

  • 発売日:2015/12/26
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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芸能界xファンタジー

幻影異聞録は芸能界を舞台にしたストーリーが特徴的だ。
ストーリーの会話はフルボイスで、全体的なトーンは明るく、仲間たちが夢に向かってひたむきに成長していく姿が描かれる。
敵として登場する人物にしても必ずしも悪意によって行動している存在とは言い難く、主人公達がアーティストあるいはエンターテイナーといった表現者としてステップアップするための乗り越えるべきハードルとして立ち塞がる存在になっている点も興味深い。

ストーリーの進行も単純なダンジョンクリアしていくものとは少し異なる。
ダンジョンを進めると表現者としてステップアップするためのハードルが登場し、それをクリアするためにイベントを進めるという形式だ。
つまり、大まかには「ダンジョン(探索・謎解きなど)⇒キャラクターのステップアップ⇒ボス戦」のような流れになっている。

本作ではキャラクター毎に用意されたサイドストーリーも用意されており、メインのストーリー以外でもキャラクターの成長が描かれる。
サイドストーリーはよくある「敵を倒せ」のようなもの以外にも「人と会話して進行する」ものも用意されている。
敵を倒させる事をプレイヤーに強要することなく、あくまでもキャラクターの成長に焦点をあてているのは素晴らしい選択だ。
また、サイドストーリーのクリア時にはキャラクターの歌唱やダンスのミュージックビデオのようなカットシーンが用意されており、サイドストーリーで成長した結果を感じさせてくれるご褒美が多めの内容になっている。
なお、サブストーリーの会話もフルボイスになっており聴きごたえも抜群だ。

また、前述の通りストーリーの大半はフルボイスで進行するが、会話にはしっかりとオート送りが実装されている点もありがたい。
ただし、オート送りは「その会話中の期間のみ」で有効となり、別の会話ではオート送りのON/OFF設定が引き継がれない。
そのため、筆者のようにコントローラーから手を離してストーリーを楽しみたいような場合には会話のたびにオート送りをONにする必要があるためパーフェクトとまではいかない仕様だ。

本作ではメインのキャラクター達とは関係の無いサブクエストも用意されている。
サブクエストに関してもある程度のストーリー性を持って展開されるほか、エピローグではサブクエストの人物のその後が垣間見えたりと比較的充実している。
しかし、サブクエストは受注したクエストが一覧で観られないため、各クエストの受注状況などは忘れないようにしなくてはならない点は不便だ。

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FEのキャラクター達

本作はファイアーエムブレム(以下、FE)とのコラボレーションによって生まれた作品だ。
そのためFEの暗黒竜や覚醒のキャラクターが仲間やボスとして登場する。

FEキャラクター達は「ミラージュ」といわれる記憶を失い彷徨っている異世界の存在で、人間が生み出す表現力の源「パフォーマ」と言われるものを糧としている。
彷徨えるミラージュの多くはパフォーマを得るために人々を襲っているが、主人公達を始めとしたミラージュと協力する事ができる程の強いパフォーマを持った存在は「ミラージュマスター」と呼ばれる。
表現者としての能力がパフォーマとなるため、パフォーマを糧とするミラージュを強くしていくためには主人公達も芸能界で表現者としての能力を高めていく事になるのだ。

敵がミラージュを集める理由は示されるのの、根本的にミラージュがパフォーマを糧とする理由は具体的に示されない。
しかし、メタ的な視点を交えれば「ゲームあるいはゲーム内キャラクターは表現者がいて初めて存在し得る」という事を表現したいのではないかと推察できる。
FEを始めとしたビデオゲームと言う作品自体が開発者や声優といった表現者たちの力によって成り立っている。
つまり「ミラージュがパフォーマを糧とする」のは「ゲームとは表現力によって生み出される」「ゲーム内キャラクターとは表現者がいなくては存在できない」という事を表していると読み解けるのだ。

なお、FEのキャラクター達はミラージュという形式以外にも、どこか見覚えのある風貌をした店員がコンビニやカフェにいたりもする。
ファイアーエムブレムシリーズをプレイしているファンならばニヤリとできるポイントだ。

とは言え、全体的にはFE成分は薄く、せっかくのコラボレーションを十分に活かし切れているとは言い難い。
根幹となるミラージュと言う設定にしても「FE」という作品である必然性はなく、他作品でも成り立ってしまうのだ。
良く言えばFEを知らない人でも楽しめるのだが、悪く言ってしまうとFEとコラボする必然性が感じられないのは勿体ない。

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現代的な要素をふんだんに取り込んだ要素

本作は現代(特に2010年代前半)の日本が舞台であるため、現代的なツールが様々に登場する。
代表的なものはSNSのようなツールを利用した「TOPIC」だ。
WiiU版ではゲームパッドの画面上に表示され、Nintendo Switch版では通常のGUI的に表示される。
TOPICのメインの利用方法はストーリーのあらすじとしての機能なのだが、全ての流れを網羅している訳では無い。
そのため、時間をおいてプレイすると次に何をすれば良いのかわからないケースも考えられる。また、オートセーブが無く全滅すると最後のセーブ地点にまで戻されるため、長時間セーブしなかった場合にはどこまで戻ってしまったのかがあらすじだけでは曖昧になってしまう事も多い。
本来の機能としては十分な役割を果たしていないが、TOPICは様々なタイミングで各キャラクターからの会話が追加されるため、キャラクターの生活感などを感じさせてくれるストーリーテリングとしての良いアクセントとしては寄与している。

TOPICの他にもボーカロイドをイメージした「Tiki」という設定も現代的な要素の代表格だろう。

 

Encore

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EXストーリー

Nintendo SwitchのEncore版での追加シナリオとして「EXストーリー」が用意されている。
キャラクターの更なるサイドストーリーといった内容であり、ボイスも新たに追加されている。
EXストーリーのダンジョンでは新衣装が入手できるなどの特典も存在する。

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左:WiiU版、右:Nintendo Switch

WiiU版とNintendo Switch(Encore)版ではストーリー表現の一部に差異が散在する。

Nintendo Switch版であるEncoreは北米版をベースとしており、北米版の改変内容がそのまま適用されている。
変更内容は衣装だけでは無く、セリフに関しても変更が適用されており、良く言えばWiiU版とは違う点を楽しむ事もできる。
しかし、この改変内容は大きなマイナスとまでは言わないが、ストーリーの説得力あるいはキャラクター性とマッチしておらず若干の違和感を感じる演出になってしまっている部分も出ている。
それはヒロインである織部つばさが水着となるシーンだ。
上図がそのシーンの一部となるが、子犬のような性格をしたつばさが撮影に対しての恥ずかしさや緊張する理由が北米版の衣装では説得力を少々落としているように思える。
その上に、根本的にキャラクターとマッチしている衣装だとも感じにくい。

各国のレーティングに対応し、なおかつ投入可能なリソースを天秤にかけた結果の処置だと言うのは十分に理解できるのだが、ユーザーファーストとは言い難い内容ではある。

 

システム

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仲間の絆で畳み掛けるセッション

幻影異聞録のバトルシステムではペルソナ系列のシステムがベースとなっている。
戦闘はターン制となっており、基本的には速さ順に各キャラクターが行動をしていく。
そして敵(自分もだが)には弱点が設定されており、その弱点を突いた攻撃をする事で攻撃側にメリットが発生する仕組みになっている。
RPGとしては比較的クラシックでオーソドックスな理解しやすいシステムだと言えるだろう。

本作の戦闘で特徴的なのはその弱点を突いた際に発生する「セッション」だ。
セッションは上図をご覧いただけると雰囲気が伝わるかも知れない。
まず最初に起点となる弱点を突く攻撃を行う。すると、それに呼応してセッションが発動し味方キャラクターが追撃を行ってくれるのだ。
キャラクターの育成が進めば戦闘に参加していない控えのメンバーもセッションに参加できるようになり非常に多くの追撃が発生する。
また、Encore版では特定の追加ダンジョンを進行する事によって非戦闘員もセッションに参加してくれるようになるため、更に多くの追撃が発生するようになる。
戦闘非参加のメンバーでもしっかりと活躍の場が用意されているのは「チームで戦っている感」を演出する嬉しくなるポイントだ。
他にも、セッション発生時にはキャラクター間で短い声掛けが行われるため、パーティー間の関係性を演出する事にも一役買っている。
行うこと自体は敵の弱点を突くと言う単純なものではあるのだが、数多くの連撃を行う爽快感と仲間と協力して戦う共闘感の2つを同時に生み出すセッションは非常に素晴らしいシステムだ。
なお、Encore版ではセッションのモーションを簡略化させて戦闘テンポを向上させるクイックセッションが用意されている。
クイックセッションは戦闘中にいつでもON/OFFが行われるため、じっくり見たい時にだけONにするなどが行いやすく配慮が行き届いている。

キャラクターの育成サイクルが比較的早い点もプレイのモチベーションに繋がりやすい。
本作は武器からスキルを習得するようなシステムなのだが、1戦闘でもスキルを覚えていく事も多い。
そして新しいスキルを覚えたかと思えば、次にはレベルアップするなど、早いサイクルで目に見えて強くなっていくため、サクサクと進行している印象を与えてくれるのだ。
また、既に同じスキルを持っていると「+1」のようにインクリメントされスキルの効果が増強される。
物語が進めば同じ武器を何度も作成する事も可能となるため、スキルを習得する楽しみが減る事もほとんど無いだろう。
ただし、キャラクターのスキルは並べ替えが行えないため視認性の向上が行えないのは痒い所に手が届いていない。

キャラクターの成長要素としてはFEシリーズではお馴染みの「クラスチェンジ」も存在する。
クラスチェンジは特定のアイテムを使用する事で行う事ができ、ステータスの向上や作成できる武器の数が増加する。
クラスチェンジでキャラクターが強くなることはRPG特有の魅力があるのだが、クラスチェンジを行うとキャラクター(ミラージュ)の見た目の個性が失われてしまい、一見するとモブ敵のようにすら思えてしまうのは少々残念だ。
クラスチェンジしても見た目の個性はある程度は残して欲しかった所だ。

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運要素が強いデュオアーツとアドリブパフォーマンス

本作の戦闘ではデュオアーツとアドリブパフォーマンスという華やかな要素も戦闘を鮮やかに彩っている。
デュオアーツやアドリブパフォーマンスが発動するとキャラクターの歌やパフォーマンスと共に攻撃が行われる豪華な演出が特徴的だ。
なによりも戦闘中に歌が挿入されるのはテンションを高めてくれる。

デュオアーツは端的に書くとセッションの最後に確率で発動するものなのだが、発動すれば大ダメージを与えるだけでなく、再度セッションが発生して連撃が発生する。
再度発生したセッションでもデュオアーツが発動する可能性があり、そうなれば一回の攻撃で20コンボ以上の大連鎖攻撃にもなる。
演出も威力も非常に強力だ。

アドリブパフォーマンスはスキルを使用した際に確率で発動するものだ。
こちらもデュオアーツ同様にキャラクターの歌やパフォーマンスなどによって強力な攻撃を行うものとなっている。

しかし、デュオアーツとアドリブパフォーマンスを戦術や戦略に組み込む事が出来ないのは残念でならない。
上記に記載している通り、この2つの要素の発動条件が確率に左右されるためだ。
「戦闘中に累計n回セッションを発生させると確実に発動する」「○○を行うたびに発動確率が上昇していく」など大小なりともプレイヤーが制御可能な形に落とし込む事で戦術性や戦略性を持って利用できるようにして欲しかった所だ。
豪華な演出で強力な攻撃を行うというご褒美のような攻撃手段だが、それがシステム全体のどこにも依存しない孤立した要素になってしまっているのは勿体ない。

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活かし切れていない要素

本作では活かし切れていない勿体ない要素も散見される。
どれも「勿体ない」というレベルであるため、マイナスの要素とまではならない事は留意されたい。

本作はFEとのコラボレーションタイトルでもあるが、「ストーリー」の項でも述べた通りFEとコラボする必然性が薄い。それはバトルシステムでも同様だ。
FEシリーズと言えば聖戦の系譜からではあるが「三竦み」が代名詞的なシステムとして知名度が高い。
それを踏襲し、敵のデザインは「剣を持っていれば槍に弱い」など視覚的に弱点が把握できるようになっている。
しかし、この活用方法は表面的な非常に薄いものであり、コラボレーションを見事に活用できているとはお世辞にも言い難い。
作品としてはしっかりと成立しているため問題は無いのだが、「FEとのコラボレーションでなければ実現しなかった」と言えるものにまで昇華していれば更に良かっただろう。

通常攻撃の価値が無い点も勿体ない。
本作の主軸のシステムは前述の通り弱点を突いて発動させるセッションなのだが、セッションが発動するのはスキルで攻撃した時のみなのだ。
通常攻撃では何も発生する事は無い。
ダメージも低いため、スキル発動のために必要なEPが枯渇している時にしか利用する事は無い。
だが、根本的にEPはふんだんに用意されているため枯渇させようと思わなければ、そのような状況になる事はほとんど無いと言っても良い。
通常攻撃をコマンドの選択肢に入れるのであれば役割を持たせるべきだったように思う。

ガードも同様に価値が薄い。
ターン制である本作のような戦闘では、「強力な攻撃が来そうだ」といったメッセージなどで敵が特定のターンに強力な攻撃を発動する事がわかっているような状況でも用意しなければガードと言う行動を選択する事は考えにくい。
また、ガードを行うとEPが回復するのだが、その回復量が2固定である事も存在意義の無さを助長している。キャラクターのEP最大値は200や300は当たり前で、消費するにしても10や20といった単位だからだ。
せめて最大EPの10%回復など成長しても恩恵があるようにして欲しかったと言える。
ガードを使用を促すようなお膳立てがされていないのは勿体ない。

 

グラフィック

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現代&ファンタジーの日本

幻影異聞録では現代の渋谷や新宿といった街並みを再現している。
街では様々な広告が表示されているのだが、物語の進行に応じて広告内容に変化があるなどキャラクターの成長や物語の進行を感じさせてくれる。

渋谷や新宿などのフィールドはやや狭いが窮屈に感じるような事は無く、ショップなどに回るのも苦にならない広さと言った印象だ。
また、ダンジョンはフィールドよりも広く設定されているが、冗長に感じない丁度いい程度の広さであるため良いバランス感覚で作られている。

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華やかなGUI

煌びやかなGUIや戦闘フィールドの華やかさも素晴らしい。
全体的に明るい黄緑をベースに統一している点も特徴的だ。

なお、メニューの各種項目名は北米版準拠となったのか、WiiU版とNintendo Switch版とでは異なっているようだ。

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良く動くキャラクター達

会話シーンではキャラクターの3Dモデルのリアクションによって行われる。
また、戦闘中アニメーションは良く出来ている。

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ダイナミックなカメラワーク

キャラクターの各種アニメーションも良く出来ているが、戦闘における攻撃(特にセッション)のカット割りが良く出来ている。
味方キャラクターと敵キャラクターを画面に収めつつも、ダイナミックに見えるように煽りや遠近のコントラスト使用したカメラワークを行っている点が素晴らしい。

 

サウンド

曲はとにかくポップで明るいトーンで統一されているものが多い。
劇中歌はメロディ自体も良いが、キャラクター性を歌い上げたものにもなっているため作品・キャラクターにも非常にマッチしている。
街頭では宣伝CMのような声が聞こえるなど、世界観を構築させる事に成功している。

ポップな通常戦闘曲「SESSION!!!」

緊迫したボス戦闘曲「絶対に負けられない!」

キャラクターの成長を感じさせる明るいFEのメインテーマアレンジ「ステップアップ!」

強大な相手との対峙を感じさせる「導かれし運命」

強いメロディを持ちながらも霧亜の内面性を歌い上げた「Reincarnation」「迷路」

つばさの内面性と成長を歌い上げた「Feel」「友達以上、恋人未満。」「Fly ~君という風~」

ポップでアップテンポな「ドリーム☆キャッチャー」

物語の最後に相応しい明るく感動的な歌詞が非常に印象的な「Smile Smile」

本作の劇中歌はどれも非常に素晴らしく印象に残るものばかりだ。

また、ボイス関連においても戦闘中のセリフの多さがパーティーの雰囲気を作り上げている。物語の進行によっても戦闘中のセリフ内容も変化する事があるためこだわりが感じられる。
その他、衣装によっても専用のセリフが発生するケースもある。

 

総評

幻影異聞録♯FEはバランス良く整えられた一作だ。

共闘感を演出する戦闘はシンプルながら華やかさがあり面白い。
ダンジョンの長さは把握しやすく、攻略もしやすい適度な広さとなっている。
ストーリーや戦闘中に挿入される印象的な楽曲の数々は曲としての良さを確立しつつもキャラクター性を歌い上げており、作品とのシンクロを果たしている。
そして芸能界と言う煌びやかな世界で純粋に成長していくキャラクター達からは元気を貰うことが出来るハズだ。

また、サイドストーリーやサブクエストを網羅しつつクリアしても50時間前後であると言う点は本作を最後まで飽きずに楽しむことが出来る丁度良いボリューム感でまとめ上げられている。
FEというシリーズとコラボする必然性が薄い内容になっているのは勿体ない所だが、それは本作の質の良さに大きな影を落とすようなものではない。

 

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【レビュー】SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズ

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交差しない光

SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズ(以下、クロスレイズ)は名前の通りだがGジェネレーション(以下、Gジェネ)シリーズの作品だ。
筆者のGジェネシリーズ遍歴は「Gジェネレーション アドバンス」「ワールド」をプレイしている程度であり、それほど熱心なファンという訳では無い。
しかし、Gジェネシリーズはオリンピックのように数年間に一度くらいの周期で無性にプレイしたくなるタイトルの1つなのだ。
今回はそんなサイクルにぶち当たり購入に至ったクロスレイズをレビューしてみたい。

 

SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ -Switch
 
【PS4】SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ
 

 

ストーリー

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作品を追体験するストーリー

クロスレイズはガンダムにおけるいわゆる「宇宙世紀を舞台にしていない作品群」を1つにまとめたタイトルだ。
本作のストーリーは各作品を追体験するようになっており、作品の様々なシーンをストーリーとして、そしてシミュレーションゲームとして再現している。
アニメを観て、そして作品が好きになったファンであれば嬉しい要素ではあるだろう。

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交差(クロス)していない問題

では、本作が複数の異なる世界観を内包する事に成功しているかと言うと「否!断じて否!」と言う他ない。

各作品は「追体験」するに留まっており、作品間を跨いだようなストーリーや演出は皆無だ。
登場作品を宇宙世紀以外のガンダムに絞っているにも関わらず、追体験のみで終わってしまうのは作品をクロスオーバーさせている意味を欠いている。

また、追体験形式のストーリーではあるが本作だけで本編のストーリーの面白さが伝わるレベルに到達しているかと言われると、それも「否」と言わざるを得ない。
描写が飛び飛びであるため物語の間の空白が空白のままなのだ。
アニメを既に観ている人であれば脳内で出来事を補完できるが、このタイトルから作品を知ろうと思うと良さは伝わりにくいと言えるだろう。

 

システム

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ガンダムシリーズが様々に登場する

クロスレイズでは宇宙世紀以外の作品群から様々な機体が登場する。
主役級の機体が登場するのはもちろんだが、脇役であったり敵が乗る量産機なども数多くの種類が参戦している。
戦闘アニメーションにしても原作のシーンを再現したものが数多く用意されており、こちらもファンならば嬉しい要素だろう。

ユニットには複数の武装が設定されており、また武装毎に射程距離が設定されている。
攻撃や反撃は射程内に入っている武装のみを使用する事が出来る。
逆に言えば射程外の武装しか無い場合には攻撃はもちろん、反撃が行えないため、一方的に叩く/叩かれる事があるのは当たり前の事だが注意が必要だ。

本作では複数ユニットに対してダメージを与えられる行動はいわゆる「マップ兵器」を除けば「戦艦連携」「遊撃連携」に限られている。
この連携攻撃は最大9ユニットまでをターゲットにする事が可能だが、ターゲット数を増やすと威力が下がってしまう性質があるため、強力ではあるがどのように活用するか考える必要がある。

戦闘アニメーションは原作アニメのワンシーンを再現しているが、そうであるが故に戦闘アニメーションが非常に長く冗長で、戦闘のテンポを著しく落としてしまっていた。
戦闘アニメーションはカットできるが、それは本作の醍醐味の部分が損なわれる選択でもある。
そのため、リリース当初は「観る」or「全カット」するかの二択しか用意されておらず配慮不足と言わざるを得ない状態だったのだが、アップデート(v1.50)にて戦闘アニメーションの早送りが追加されている。

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とにかく雑なバランス

登場機体や機体のディティール、モーションは原作再現にこだわっているが、それ以外の部分は総じて雑だ。

まず、チュートリアルがテキストのみで完結してしまうのは雑な説明と言わざるを得ない。
複雑なシステムは設計されていないとは言え、これでは初心者にとっては困惑してしまうように思える。
特にユニットやキャラクターの強化方法など、どこから何を強化できるのかがわかりにくいため、もう少し丁寧なチュートリアルを差し込むか、理解しやすいGUI設計にして欲しい所だ。

各ステージに登場する敵ユニットの配置(レベルデザイン)が雑な事も気になる。
シチュエーションが原作を再現するだけに終始しておりレベルデザインと呼べるような配置などは皆無でゲームとしては問題がある事も多い。
初期ユニットでは明らかに難しいステージもあれば、初期ユニットであるにも関わらず高難度化させても簡単にクリアできてしまうものもあるなど、およそ「(楽しめるための)デザインがされている」とは感じられない。
全てのシチュエーションでは難しいかも知れないが、工夫次第で勝利が得られる絶妙な歯応えのデザインを目指して欲しい所だ。

敵AIの行動パターンも雑だ。
射程外から一方的に攻撃してくるような事も無ければ、弱ったユニットを総攻撃してくるような事もない。
筆者がプレイした限りでは敵ユニットがしっかりと思考して行動しているようには思えなかったのが素直な感想だ。
このような不可解な挙動をされてしまうと、プレイヤー側も計算立ててユニットを配置する事ができず雑なプレイをせざるを得ない。

戦闘においてはダメージ計算もわかりにくい煩雑さがある。
ダメージは「武装自体の火力」「機体の攻撃力」「相手機体の防御力」が影響するようなのだが、どのような計算を行って実際のダメージ値になっているのかが直感的には非常にわかりにくい。
また、上図を参照して頂ければ理解できると思うが戦闘後の結果も画面上に表示されないため、実際に戦闘を行わなければダメージ値が把握できない。
そのため、「この機体は3回は攻撃を耐えられるな」と言ったような戦術が立てにくいのだ。だいたいのケースは「おおよそ3回は耐えられそうかな?」と言った曖昧な判断にならざるを得ず、かなり大雑把な采配しかできない。

本シリーズ全般に言える事かも知れないが、機体が没個性化している戦闘バランスは最も雑さを感じる所だろう。
本作ではワンオフ機でも量産機でも同じ土俵に立てるようにしているが、特別なシステムを何も用いずに同じ土俵に立たせてしまっているためワンオフ機でも量産機でも似たような性能の機体になってしまっている(この没個性が前述のレベルデザインの雑さにも繋がっているほか、没個性を考慮したレベルデザインも行われていない)。
アニメの劇中では非常に高い性能を有していたにも関わらず、ゲームでは量産機とどっこいどっこいの泥仕合をしているようでは違和感が強い。
本作にはレベルが用意されているため、レベルが上がれば原作のように敵機を蹂躙できるようにはなる訳だが、それも結局は同様の事をすれば量産機であっても行えてしまう芸当だ。
例えば、出撃コストを設定するなど性能に応じて出撃可能な枠を絞るようなシステムを組み込み、その上で性能差は明確に分けるなど、機体に役割を持たせて同じ土俵に立たせて欲しかったと言える。

また、雑なのは機体だけでなく武装に関しても同様だ。
牽制に使用されるようなビーム兵器と、大砲のような重火器の主砲との威力・消費エネルギー量の差が小さすぎるのだ。
例えば、威力3000で消費エネルギーは10の兵装と、威力3200で消費エネルギーは12の兵装となっており、本作のような設計(戦闘システムやマップ、レベルデザインなど)においてこの程度の差では使い分けるようなシチュエーションが生まれる事の方が稀だ。
威力3000で消費エネルギーが10の低火力高効率の兵装と、威力が6000で消費エネルギーが25の高火力低効率の兵装などを用意すると言った素人でも思い付くような単純明快な区別すら無いレベルでは武装の違いによってシミュレーションゲームの楽しさを生み出す事は難しい。

本作では(Gジェネシリーズ全般と言っても良いのかも知れないが)、「ビジュアル(表面)的な原作再現をすること」に終始しており、それを超えた「ゲームとしても楽しいもの」に昇華しているとは言い難い。

 

グラフィック

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まずまずのグラフィックディティー

クロスレイズにおけるグラフィック水準はそこそこと言った所だろう。
悪い訳では無いが、ディティール部分の美しさに欠けている。
機体の3Dモデルなどはまずまず良いのだが、背景のグラフィックはややチープな印象なのだ。
もちろん機体がそれなりに良く出来ていれば十分な及第点なのだが、もう少し上のレベルを狙っていけるようには感じる所だ。

システムの項でも少し述べているが、戦闘アニメーションでは原作のワンシーンを再現したものを使用しておりファンには嬉しい演出だ。
もちろん、ストーリーでも少しではあるが3Dモデルによるカットシーンが用意されている。

 

サウンド

クロスレイズにはサウンドエディションと言うバージョンが用意されており、サウンドエディションでは各作品を象徴するようなオープニング曲やエンディング曲が原曲で用意されている。
戦闘中に自分の好きなBGMを設定して流すことが出来る点も嬉しいポイントだろう。
ただし、オープニング曲やエンディング曲に関しては冒頭から流されるため、冒頭部分がサビから始まるような構成となっていない曲の場合には、戦闘アニメーション中にサビが流れない事になるためやや盛り上がり方に欠けてしまう印象を受けるかも知れない。

その他のBGMに関しては原作のBGMを再現したものを収録しているが、その品質自体は高くないため少々チープな印象を受けてしまうだろう。

 

総評

SDガンダム Gジェネレーション クロスレイズは原作再現に終始しただけの作品だ。

ストーリー、登場機体、戦闘アニメーション、BGMなど各要素のどこを切り取っても「原作再現」で止まっている。
原作アニメとゲームが、そして原作アニメ同士がクロス(交差)する事なくパラレル(平行)に動いてしまっているのだ。

 

外部記事

『SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ』は前作以上のボリューム!! カギを握る4人の開発者が語る本作の魅力とは!? - ファミ通.com

【レビュー】ポケットモンスター ソード/シールド

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剣と盾

ポケットモンスターソード/シールド(以下、ポケモン剣盾)は20年以上の歴史を持つポケットモンスターの本編シリーズが初めて据え置き相当のコンソールに登場した記念すべき作品だ。
映像のクオリティが格段に上がり、ワイルドエリアと言う広いフィールド、レイドバトルも話題を集めた。
また、話題を集めたのはポジティブな方面だけでなかったのも事実だろう。
据え置き相当の品質となった対価として全てのポケモンが登場できないという発表がE3のTree House Liveにて発表されたのだ。
品質を担保するためには、量が犠牲になる事は少なくない。
筆者としては品質を保証した決断に好感を持ったが、世間では必ずしもそうでは無かったようだった。
今回は発売前に嵐が吹き荒れたポケモン剣盾をレビューしてみたい。

なお、筆者はポケットモンスターソードのみプレイしている。
ストーリーやシステムなどに差はないハズだが、その点は留意願いたい。

 

ポケットモンスター ソード -Switch

ポケットモンスター ソード -Switch

  • 発売日:2019/11/15
  • メディア:Video Game
 
ポケットモンスター シールド -Switch

ポケットモンスター シールド -Switch

  • 発売日:2019/11/15
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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成長していくキャラクター達

ポケモン剣盾のストーリーは主人公の周囲のキャラクターの成長によって描かれる。
これはシリーズの傾向を受け継いだものと言えるだろう。

挫折したりしながらも真っ直ぐに成長していくホップ。
一見チャラチャラしているが旅をして学者としての知見を広めていくソニア。
他者依存の傾向があるが、自身の在り方を見つめなおしていくビート。
寂れた地元の人達のために戦う中で、自信を付けていくようになるマリィ。
各キャラクターはデザインを含めて非常に魅力があり、その成長していく姿は未来への希望を感じさせる物語になっている。

ストーリーの項で書くべき内容かは微妙だが、気になった点も示しておく。
特に気になるのは「選択肢のデフォルトが未選択状態になっていない」ことだろう。
選択肢を選ばせるようなセリフなどで誤ったものを選択しやすい。
この仕様のせいで筆者は技を思い出させようとして何度も名前を変更しようとしてしまった。
近年は選択肢の選択状態のデフォルトをAでもBでもない「未選択」にするのがユーザーフレンドリーであるため、主流となりつつあるだけに少々検討不足だったように感じる。
ただし、この選択のミスによって致命的な結果となる事は無いと言っても良く、大きなマイナスとまではならない。
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戦闘中に発生するセリフ

本作では戦闘中にもキャラクターのセリフが多数発生するのは本作の特徴だ。
以前の作品にも戦闘中にトレーナーのセリフが挟まるケースは存在したが、本作ではセリフがより充実している。
セリフの発生トリガーは「効果抜群を与えたとき」「急所に当てたとき」「最後の1匹になったとき」など様々だが、各トレーナーのキャラクター性を表現したセリフ内容によってキャラクターがより深く掘り下げる事ができているため面白い。

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クリア後に始まる短めの第二部

本作は大まかに二部構成で物語が構成されている。
第一部はお馴染みとも言えるが主人公を始めとした若い世代がチャンピオンを目指すものとなっており、第二部は伝説のポケモンを捕まえるための物語となっている。

第二部の物語自体はそこまで長いものでは無いが、伝説のポケモンを捕まえるためのストーリーをクリア後(チャンピオンになった後)に用意しているのは特徴的だ。

しかし、個人的にはこのような構成にしたために伝説のポケモンを捕まえるまでの道のりが長すぎるように感じた。
「伝説のポケモンを捕まえるための物語」ではなく、「伝説のポケモンと共に歩む物語」を用意して欲しかった所だ。
伝説のポケモンを捕まえてから始まる「伝説のポケモンとの物語」が用意されていれば伝説のポケモンであるザシアン・ザマゼンタという存在が掘り下げられたように思える。

 

システム

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奥深いバトルと親切になった育成と沼のようなこだわり要素

ポケモン剣盾では戦闘における大きな部分での変更はない。
基本の手持ちは6匹、そして1匹辺りに覚えられる技は4つと言う少ない手札となる。
手札が少ない中で、数多く存在するポケモンをどれだけ仮想敵としてカバーできるかと言う戦術を考える必要があるため、戦闘にはメタ要素も多くゴールの無い奥深いものとなっている点が本作が長続きするシリーズタイトルになっている所以の1つだろう。

過去作も同様であるが、ポケモンシリーズにおいてはチャンピオンになるまでは相手が何のタイプのポケモンを出してくるのかが予想しやすいため、バトルのチュートリアルの延長線上と言えるだろう。
本作のバトルの本質的な奥深さを知るには、クリア後要素である「バトルタワー」あるいは通信による他プレイヤーとの対戦が必須だ。

本作で変わったポイントを挙げるとすれば「育成のしやすさ」が真っ先に来るだろう。
敵から貰える経験値もレベル差によって補正がかかるのはもちろんだが、”けいけんちアメ”と言うものが新たに追加され、それを使用する事で任意のポケモンを簡単にレベルアップさせることが出来る。
それによって「○○タイプのポケモンを手持ちに入れたいが、育成に時間がかかってしまう…」という事はほとんど無くなったと言って良い。
レベルアップが手軽になったためストーリー上のジムリーダー戦で苦戦するような事はほとんど無いだろう。

また、「ハーブ」と言う要素によってポケモンの性格による能力補正を変更できるようになった。
これによりいわゆる「厳選」という作業の重要性は減ったのは素晴らしい反面、簡単に入手できるアイテムでは無いため、捕まえるだけで精一杯と言ったポケモンの場合に使うのが良いのかも知れない。

その他にも、手持ちからそのままボックスにアクセスできるなど、ポケモンの入れ替えもスムーズになっている。
ポケモンは古くからファストトラベルがあった作品だが、本作ではマップからファストトラベル可能になった。
移動にしても自転車にさえ乗っていれば、そのまま水上も走行できるようになるなど様々な点でも利便性が向上している。

初心者に対しての配慮がされているのも良い点だ。
特に最初のポケモン(いわゆる御三家)を手に入れてからの初戦のデザインは素晴らしいチュートリアルだ。
相手はポケモンを2匹持っているのだが、1戦目では手持ちポケモンが行える選択肢が少ないため簡単な戦い方のシーケンスを学ぶことができる。
1匹目の相手に勝つ事でポケモンがレベルアップするのだが、レベルアップするとタイプ一致の技を覚える。
2戦目では覚えたてのタイプ一致技を使いたくなるのは必然で、実際に使用すると効果抜群が発生する。
初心者であってもポケモンのバトルシーケンスと効果抜群など主軸のシステムが大まかに把握できるようになっている。

少々残念に感じるポイントとしては、近年のシリーズではポケモンが多様化した事により見た目から強みや弱みが認識しにくいという点だろう。
ポケモンのデザインがそのまま機能として成立するような域には到達しにくくなっており、最初期の頃と比較すると直感性が犠牲にされていると思わざるを得ない。
本作に限った欠点では無いが、デザインの工夫はもう一声欲しい所だ。

冒頭でも記載しているが、本作において話題になったポイントとして筆頭に上がるのは「全てのポケモンが登場しない」という点だろう。
確かに大好きな特定のポケモンが出ない事は悲しい事かも知れないが、品質と量は天秤にかけざるを得ない問題だ。
量を追い求める余りにグラフィックやアニメーション、レスポンスがチープになってしまうと、逆に印象が非常に悪くなるのは必然なのだ。
もしも簡単にポケモンを登場させられるのであれば、それをしない理由は無く、これが苦渋の決断だった事は明らかだが、量よりも質を優先した事は英断だったと言えるだろう。
なお、アップデートにより登場するポケモン種類が大幅に増える事が告知されている。
特定の大好きなポケモンがいる場合には今後のアップデートに期待したい所だろう。

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ポケモンが生きるワイルドエリア

ポケモン剣盾では従来にはない広いフィールドを歩き回れる「ワイルドエリア」が追加されている。
ワイルドエリアでは今までではあり得なかったような強力なポケモンがいきなり登場(シンボルエンカウント)する事もあり、ある種の生態系の様相を呈している。
また、ワイルドエリアは天候があり、天候によっても登場するポケモンが異なる。
このようにポケモンの強さや天候などでポケモンの生活感をより表現するように変化したのはポケモンと言う存在の厚みに繋がるため非常に良い要素だ。

このワイルドエリアでは様々なポケモンが登場するため、序盤から多様なポケモンを手持ちに加える事も可能になっている。
広いフィールドと言う見た目だけでなく、ゲームのバランスとしても挑戦的なデザインをしていると言えるだろう。

このワイルドエリアと言うフィールドへの要望を強いて挙げるのであれば、ポケモンの日常生活感をもっと感じさせて欲しかったという点だろう。
本作ではポケモンの生態系のようなものは感じ取れるが、食事であったり、昼寝であったりと言った生き生きとした様々な動きも見せてくれれば更に数段上の良さがあったように思える。
しかし、ポケモンと言う巨大なコンテンツにいきなりそこまでのものを要求するのは酷な話でもあるだろう。ここでは次回作に期待するべきものとしておきたい。

ワイルドエリアとは逆に、従来にあったような洞窟といったダンジョン形式のエリアは非常に簡素な構成になっている。
長い迷路のような構成にはなっておらず、成長の手間を軽減させている方向性と同様に冒険する上でストレスとなる要素を極力廃した格好だろう。
とは言え、ストレスが無さ過ぎるために記憶に残るエリアなどが無くなってしまっているのは少々寂しい所とも言えるだろう。
本作においてはワイルドエリアを除いたエリアが後世に語り継がれていくような事は少ないかも知れない。

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変わった前哨戦から始まるジムリーダー戦

ポケモンシリーズでお馴染みのジムリーダー戦ではユニークな前哨戦が用意されている。
前哨戦の内容はジム毎に異なっており、内容としてはパズルやピンボールライクなものなどで、難易度自体は低いものの一風変わった遊びになっている。

そしてジムリーダー戦では本作の新要素であるダイマックスを使用したバトルが展開される。
前述の通り、本作はレベリングなどの育成自体は容易いため、手持ちのパーティーがタイプ相性的に不利なメンツしかいなかったとしても、「有利なポケモンを新たにゲットして育成して…」といった作業は簡単に済ます事ができる。
そのため、本作のジムリーダー戦では苦戦するような事は過去作以上にほとんどないように思える。

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幅と便利さが向上したオンライン

ポケモン剣盾は従来から存在した通信機能の幅と利便性が増している。

まず、ポケモン交換といった通信によるマッチングが非同期にバックグラウンドで行われるようになり、プレイの進行を妨げないのは嬉しい改良ポイントだ。
これによって更に気軽に対戦や交換が行えるようになったと言って良いだろう。

そしてポケモン剣盾では新たにレイド形式のマックスレイドバトルが追加されている。
ポケモン初の協力中心のバトルだが、これは1人プレイ用にCPUが味方として手伝ってくれるものも用意されている。

しかし、このレイド戦は少々手が届ききっていないように見受けられる。

レイド戦では戦闘シーケンスが通常のバトルとはやや異なり、HPが下がるとダメージバリアを張り、バリアの耐久値を削らないとHPに大きなダメージが与えられなくなる。
だが、(自身のダイマックス中の攻撃を除き)全ての攻撃でバリアの耐久値を削る値が変わらないため、事前準備や戦闘中の攻撃による戦術性・戦略性が低い。
また、敵の放つ強力な攻撃にしても単純に自分のポケモンのHPで受け切るという選択肢が中心になってしまっている。
せっかく他プレイヤーとの協力するプレイであるにも関わらず、戦術性が低い単純な消耗戦にしかならないのは勿体ない。
もちろん、パーティー全体を回復する技を持っているポケモンやタンクのように攻撃を引き受ける技を持っているポケモンもいるにはいるが、その数は少なく出番が無いと言っても良い。
レイド戦を意識した攻撃・盾・回復と言ったロールを決定付ける技をもっと多く、そしてもっと多くのポケモンが覚えるようにお膳立てしても良かったのではないだろうか。
もしくはレイド戦に限り、使用可能な技の枠を5~6つに増やし、レイド用の技を設定しやすくするのも手段としては良かったように思える。

また、マックスレイドバトルをオフラインの1人プレイで行おうと思うと更なる問題が出て来る。
1人プレイやレイドの参戦人数が少ない場合には頭数を埋めるためにCPUが参戦する。ところが、このCPUがとにかく頼りなさ過ぎるのだ。
当たり前のようにコイキングなど進化前のポケモンを場に出し、レイドボスの攻撃を受け切れずに一撃死を繰り返す。
確かに友達よりも頼りになるCPUがいても1人でプレイする方が効率が良くなるため困った事にはなるが、これ程までに足を引っ張ってしまうレベルに調整するのはいかがなものかと思えてならない。

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ポケモンと触れ合うキャンプ

ポケモン剣盾ではポケモンと触れ合う新たな要素にポケモンキャンプが追加されている。
ポケモンとはねこじゃらしやボールで遊ぶことができ、そのリアクションはとにかく可愛らしい。

また、キャンプではカレーを作れる。
カレーにはワイルドエリアにて採取した木の実などの食材を入れる事ができ、味付けを決めることが出来る。
カレーは数多くの種類が用意されており、これを全て埋めるだけでもかなり大変な量が用意されている。
出来上がったカレーを観ていると、こちらもカレーを食べたくなってくるのは憎い演出だ。

 

鎧の孤島

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鎧の孤島

「鎧の孤島」はポケットモンスターシリーズ初となるDLCの第一弾として配信された。
ボリュームとしてはストーリーのクリアだけであれば5時間程度のものとなっている。
目玉としてはやはり本編では登場しなかった過去作のポケモン達が多数登場するという点だろう。

 

ストーリー
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素晴らしい新キャラクター達

鎧の孤島ではダンデが修行したと言う道場に入門する事になるという形でストーリーが展開する。
この鎧の孤島にて新たに登場するキャラクター達は非常に濃く、ストーリーを引っ張っている。

筆者はソード版であるためクララがライバル的なポジションで登場したのだが、彼女のキャラクター性は非常に魅力的だ。
クララは強くて可愛い自分を目指し、”どくタイプ”のジムリーダーとなるべく道場へと入門したものの、怠け癖があるようでなかなか成長しきれないでいたようだ。
しかし、主人公という自分よりも強力な存在の登場によって徐々に火が付いていく。
鎧の孤島のストーリーは短いものだが、このクララの変化をしっかりと描いており、無駄なく簡潔でありながらも印象的な構成になっている。

ストーリーでは道場での「修行」という名目で孤島をまんべんなく探索するようになっており、DLCチュートリアルとしても十分に機能しているといえるだろう。

なお、鎧の孤島の難易度は本編をクリアできるだけのポケモンがいればそう難しいと感じる事は無いハズだ。

 

システム

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新たなポケモン、新たな要素

鎧の孤島では本編には登場しなかった新たなポケモンが多数登場する。
完全に新規のポケモンはダクマとガラル地方のヤドンとヤドランとなっている。
なお、これらのDLCで追加されたポケモンは交換やポケモンHOMEなどから連れてくれば、DLC未購入のプレイヤーでもゲットが可能になっている。

鎧の孤島のフィールドはワイルドエリアのような形式になっている。
孤島が舞台になっているためフィールドは水辺(海)が非常に多くなっているのが印象的だ。
また、鎧の孤島のストーリーを進める事で手持ちで先頭になっているポケモンを連れて歩けるようになる。機能としてはポケットモンスターピカチュウやLet's Go ピカチュウ/イーブイを想像するのがわかりやすい。
本編のワイルドエリアではできないのは少々残念なものの、鎧の孤島フィールド内ではどのポケモンも自由に連れ歩ける。
小さなポケモンから大きなポケモンといったスケール感はもちろん、歩き方まで様々であるため面白い。

その他にも育成を手助けしてくれる要素も多く追加されていたり、ヘアスタイルや服も追加される。

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ディグダの捜索

フィールドに散らばったアローラ地方ディグダを探す探索要素も存在する。
このディグダは全部で150匹とかなり大量にいるが、見つけた数に応じてアローラ地方ポケモンを貰う事が可能でだ。
このディグダ探しは見つけようと思わないと通り過ぎてしまう絶妙な難易度になっており、フィールドを目を凝らして探す必要がある。

 

冠の雪原

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冠の雪原

「冠の雪原」はポケモン剣盾のDLC第二段として配信されたコンテンツだ。
追加された内容はストーリーこそ第一弾よりも薄いものの、エンドコンテンツあるいはそれを助けるような要素が多いのが特徴的なものとなっている。

 

ストーリー

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"ポケモン"のストーリー

冠の雪原では豊穣を司る伝説のポケモン「バドレックス」に関しての物語が展開される。
バドレックスはかつては豊穣の力によって信仰されたが、いつしか忘れ去られ信仰も無くなり、おとぎ話として語り継がれる程度となっていた。
長い年月と共にバドレックスは力を失いつつあり、人間の信仰がなくとも生きていきたいと主人公に相談を持ち掛ける。

バドレックスは人間を操る事で主人公と会話をする事になるため「人とポケモンがほとんど直接的にコミュニケーションを行う」というポケモンシリーズでも非常に珍しい設定となっている。
多くの過去シリーズや本作の本編、DLC鎧の孤島などでは「人間(ポケモントレーナー)の成長」が描かれる事が多かったが、冠の雪原ではポケモンを中心としたストーリー構成になっているのは印象的だ。

 

システム

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数多の伝説ポケモン

冠の雪原では本編に登場しなかった過去作のポケモンDLC第一弾から更に追加されているほか、最大の見どころとして「過去作の伝説ポケモン達が数多く登場する」というロマン溢れる要素が追加されている点だろう。
中にはリージョンフォームとなった目新しいファイヤー、サンダー、フリーザーが登場する事も見逃せない。

また、「ダイマックスアドベンチャー」という過去作の伝説ポケモンを捕まえる事ができるコンテンツが追加されている。
ダイマックスアドベンチャーは基本的にはレイド戦(マックスレイドバトル)形式で行われるのだが、特殊なルールも適用される。
レイド戦の連戦であるという点もユニークではあるが、中でも最もユニークなのはポケモンをレンタルして戦う点だろう。
普段は使わないようなポケモンもお試しできる要素になっているため、ポケモンの思いがけない良さを知る機会にも繋がっている。

 

グラフィック

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牧歌的で暖かみのある美しいフィールド

ポケモン剣盾はの鮮やかで美しく、それでいて暖かみのあるフィールドは魅力的だ。
牧歌的な田舎町や近代的な都市部、自然豊かなワイルドエリアは天候によっても表情が変化する美しさを有している。

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可愛らしいキャラクター達

キャラクターやポケモンモデリングも非常に丁寧に出来ている。
キャラクターのアニメーション(モーション)も丁寧で、アバターに関して言えば階段を歩くと専用のモーションが用意されているほか、操作キャラクターの移動方向を反転させると僅かだが専用に振り返りモーションがあり、高速回転させるとクルクル回った後に決めポーズをとる。
天候によっても待機モーションに変化があるなど芸が細かい。
ポケモンに関しては前述した”キャンプ”でみせる可愛らしいモーションなども素晴らしい。

本作でもアバターの着せ替え衣装が用意されているが、ゲーム内メーカーが設定されている点もこだわっているのが感じられる。
スポーツ系のウェアを提供するメーカーなど、メーカー毎の特徴が設定されており世界観に厚みを持たせている。

 

サウンド

ポケモン剣盾はBGMも良く出来ている。
イギリス感のあるバグパイプを使用したBGMも特徴的であるし、バトルBGMはサッカーなどで使用されるようなスポーティーな雰囲気がポップだ。
特にライバル戦やジムリーダー戦のバトルBGMは雰囲気を盛り上げてくれること間違いなしだろう。
特にライバル戦のBGMは物語終盤でアレンジが変更されたものが用意されており、キャラクターの成長を描く役割としても良く出来ている。
また、ジムリーダー戦などでは最後のポケモンになるとBGMに掛け声が追加される演出がシームレスに差し込まれバトルのクライマックス感を演出している。

 

総評

ポケットモンスターソード/シールドは歴史あるシリーズを更なるステップへと押し上げた偉大な一作だ。

丁寧な作り込みは初心者でもプレイしやすく、奥深いバトルによって長く牽引するようになっている。
暖かみのあるフィールドに可愛らしいキャラクターモデリング、こだわりを感じるアニメーションも印象的だ。
ポケモンとの触れ合いも更に充実しているほか、ゲーム内衣料品メーカーも個性を出しており「ポケモン」という世界観に厚みを生み出している。

本作はポケモンシリーズの新たなスタンダードだ。

 

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【レビュー】ラストストーリー

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秩序と混沌

筆者がこのラストストーリーと言うタイトルをプレイするのは必然と言えただろう。
モノリスソフトゼノブレイドも同様であったのだが、ミストウォーカーラストストーリーにおいても敬虔なスクウェア教徒であった筆者にとっては強烈な魅力を持ったタイトルであったのだ。

今回はラストストーリーのレビューを書きたいと思う。

 

 

ストーリー

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一歩足りないストーリー

ラストストーリーは「騎士」や「お姫様」「魔法」と言った要素からなり、軟派でも硬派でも無い中庸で王道な西洋ファンタジーのストーリーとなっている。
本作は物語主導のストーリードリブンなゲームなのだが、全体のボリュームとしては20時間前後でクリア可能であるため当時のRPGの標準から考えてもやや短い。

主人公エルザは傭兵団に所属している青年だ。
傭兵の身では余裕のある生活とは程遠く、エルザ達の傭兵団は地位や生活が保障されている騎士になる事が人生の目標となっている。
そんな中で騎士になるチャンスを得るために訪れたルリ島にて偶然にもアルガナン家のお嬢様であるカナンと出会い、そこからルリ島の秘密が徐々に明らかになっていく。

本作では基本的にルリ島を中心にストーリーが展開されるため訪れる事ができる土地は少ないのは寂しい所だが、ルリ島(特にルリの街)は非常に丁寧な作り込みがされているのは評価されるべきポイントだ。
また、登場する多くのキャラクター達は非常にわかりやすい設定となっており、善人は善人らしく悪役は悪役らしい行動・言動が多い。
この奇をてらわない設定も良く言えば王道だが、悪く言えばベタで単純だ。

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全体的な進行は少々粗く、少々強引だ

本作はストーリーの筋こそ理解できるものの、その描き方は勿体ないと思わせる要素が多い。

ほんの半日未満の期間連れ添っただけのカナンのために色々と行動する主人公エルザの動機は少々無理があり説得力に欠ける事が多い。
この動機(=理由)を「一目惚れ」と表現してしまうのは容易いのだが、それはミステリー殺人事件小説の犯人の犯行が「ドラえもんの秘密道具を使用した」と同レベルに「なんでもアリ」状態になってしまい、ストーリーとしては荒唐無稽となってしまう。
エルザがカナンに惹かれていく事をストーリーに置くのであれば、ユーザーが納得がいく理由が必要だと筆者は考えている。
二人のロマンスを描くのであれば、エルザ自身とカナンの双方の魅力をもっとじっくりと描く状況を用意する必要があったように感じる。

シチュエーションにおいても勿体ない設定がある。
まず、エルザが所属する傭兵団がゲーム本編よりも前の時系列でどのような事があったのか語られる事が少ない。そのため、ほとんどの傭兵団のメンバーに対しての掘り下げが甘く、宝の持ち腐れに近い感覚だ。
傭兵団のメンバーには主人公であるエルザを始め、リーダーであるクォーク、魔法によるアタッカーを務めるユーリス、ヒーラーのマナミア、白兵戦のアタッカーであるセイレン、遊撃的な立ち位置のジャッカルがいる。この中で掘り下げが行われたと言えるのはエルザとユーリスのみである。
大きなネタバレとなるため詳しい説明は避けるが、クォークは本作において非常に大きな役割を持っている。
しかし、その役割に至った経緯とその正当性に関しての事前の伏線描写が不足しているのだ。
それは彼の過去とも関連する内容であるため、もっとキャラクターの掘り下げがされていれば…と強く感じてしまう。

その他にも、主人公が牢屋に閉じ込められるシーンでは当たり前のように牢屋の中で武器の販売が行われており、一周回ってギャグにすら感じる明らかにおかしいシチュエーションだ。
ゲームシステムとしての救済、ユーザーフレンドリーな要素なのは十分に伝わるのだが、シチュエーションとしては余りにもミスマッチとなっている。

本作のストーリーでは移動しながらキャラクター同士の会話が進むようになっている。これ自体は非常に丁寧に作られており、傭兵団のメンバーの仲の良さや関係性がわかるようになっているのだが、これに関しても勿体ないと言わざるを得ない部分がある。
この移動しながらの会話はストーリーの端々に用意されているのだが、プレイヤーが進み過ぎてエリアチェンジをしてしまうと途中でセリフが途切れるなど尺調整の検討が甘いのだ。
このような場合、ダンジョンの長さからセリフの尺を算出する事が可能であるし、もしくは事前に声優に喋ってもらい該当のセリフの尺を予め把握する事でダンジョンに必要な長さを逆算する事もできる。
そうでなくても、単純にエリアチェンジでセリフを途切れさせなければこれほど勿体ないと感じる事は無かっただろう。

本作は章形式で物語が進むのだが、1章辺りの所要時間はおよそ30分程度で非常に短い。
これ自体は別に問題は無いのだが、前章と次章の間で起きた主人公達の出来事がナレーションによる語りによって表現されている事も勿体ないと感じる。
例えば、章と章の間の出来事として「主人公は○○を目指し船に乗った」と言ったようなナレーションが挿入される訳だ。
確かにゲームプレイとしては大した事の無い内容ではあるし、華やかさには欠けるようなシチュエーションなのかも知れない。しかし、筆者としてはその章と章の繋ぎの部分をゲームとしてプレイするようにして欲しかったのだ。
もちろんやり過ぎれば間延びしてしまいテンポが悪くなってしまうのだが、このような「何もない」ような時間をゲームプレイとしてもきちんと描く事によって主人公達またはNPC達の日常の風景を感じる事ができるため感情移入がより一層しやすくなるように思う。

 

システム

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ヘイトを強制的に奪うギャザリング

ラストストーリーのバトルシステムはリアルタイムに進行するRPGだ。

敵には「ヘイト」のような概念があり、画面上では線で結ばれた先のキャラクター(味方)に対して攻撃を行おうとする。
敵の行動は主に強力な火力を誇る「魔法使い」に対して強烈に働き、魔法の詠唱をさせないように立ち回ってくるのだ。

そこで重要になってくるのが主人公に宿った特殊な能力「ギャザリング」だ。
ギャザリングは敵のヘイトを「強制的に」奪う事が出来る能力で、特に何かを消費する事もなくワンボタンで発動させることが出来る。
上図を参照してみて欲しい。ギャザリングを発動した瞬間に敵から出ている線(ヘイト)が一気に主人公に向かっているのが確認できるだろう。
注意点としてはギャザリングによってヘイトを奪う事が出来るのは敵が主人公を視認できる位置にいた場合のみであり、遮蔽物の裏にいる敵のヘイトまでは奪う事は出来ない。
ギャザリング中に攻撃するとダメージ量に応じてHPが回復したり、ギャザリングバーストと呼ばれる敵のスピードを鈍化させる強烈なカウンターが発動できたりと至れり尽くせりだ。

このギャザリングを駆使して、敵の攻撃を全て引き受け、味方の強力な魔法によって敵を殲滅するための時間を稼ぐ…と言うのが本作の大まかな流れとなる。
この戦闘システム自体は良く出来ており、上手く戦場をコントロールできた場合には非常に面白く感じる事ができる。
また、最後の敵へのフィニッシュ時には専用の倒す演出が差し込まれ、これもまたカッコよく爽快だ。

その他にもバトルでは様々な要素が存在している。
タイミングよくガードを行う事で発生するパリィのような「ガード斬り」は強力だ。
また、フィールドを利用した技も存在し、遮蔽物に隠れてから奇襲の一撃で大ダメージを与える「スラッシュ」や壁を蹴り上がってから叩き付ける「垂直斬り」などが存在する。
更にフィールド自体にギミックが仕込まれている場合があり、魔法やボウガンによって橋などのオブジェクトを壊して厄介な敵を一掃する事ができる場面も随所に存在するなど戦闘におけるバリエーションは豊かで面白い。
これらの要素は決して全てを駆使しなければならない訳では無く、あくまでもプレイヤーの好みに応じた戦闘における選択肢の1つとして楽しむ事が出来るようになっているのも良いポイントだ。

本作のバトルシステムにおける欠点についても伝えておかなければならないだろう。
これは前述の「好みに応じた戦闘ができる」と若干の矛盾をはらんだものとなってしまうのだが、本作ではギャザリングや地形利用と言ったシステムを「上手に活用できた」と実感できるほどの強敵が少ない事が物足りなさを感じるポイントとなってしまっている。
一部の敵を除き、大半の敵が短時間で勝ててしまったり、ゴリ押しでも勝ててしまうため、「私のギャザリングはちゃんと機能していた…?」と言う何故勝ったのかよくわからない状況になりがちだ。
また、本作では比較的簡単にキャラクターのレベルが上がってしまう事もそのような状況を加速させている。
もちろん、時間がかかるような一部の強力な敵を相手にした際にはヘイト管理がしっかりと把握でき戦場をコントロールしているのが伝わるため面白いのだが、そうでない戦闘の方が圧倒的に多く感じる。

戦闘中の移動に関しても気になるポイントとなっている。
本作では移動方向に敵がいた場合に攻撃が行われる仕組みであるため、移動したいのに攻撃してしまいキャラクターが移動できない現象が多く発生してしまうのだ。
敵がいる方向に移動したい場合にはガード状態になれば攻撃せずに移動だけできるのだが、ガード状態で移動を行うと段差などのオブジェクトを乗り越えるモーションが発生してしまうため、意図しない動作となってしまう事も多い。
また、設定から攻撃方法をボタン入力に変更する事も可能なのだが、そちらはそちらで攻撃する際にはボタンを連打し続ける必要があるため帯に短し襷に長しだ。
「移動方向に敵がいれば攻撃」するのであれば「移動しつつも攻撃」を出来るようにして欲しかった所だ。

ボタン割り当ての微妙さも気になるポイントだ。
これはWiiのコントローラー+ヌンチャクでの操作を許容しているために起きているように感じるのだが、全てのアクションをAボタンに頼っているために誤操作が起きやすいのだ。
代表的なものは、ローリングをしたいのに壁張り付き(Hide)を行ってしまうなどだ。
Wiiのコントローラー+ヌンチャクではユーザーが押下しやすい位置にあるボタンは限られているために仕方がない面はあるが、何とかして欲しかった所だ。

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ゲージを消費して発動する大技「テンション技」

その他にもキャラクター固有の大技「テンション技」と言うものも存在する。

テンション技はテンションゲージが最大までチャージされた状態で発動する事ができる。
テンション技はキャラクター毎に性質が異なり、エルザであれば攻撃や移動と言ったスピードが上昇し、ユーリスであれば魔法による大ダメージを与え、カナンなら味方全体にダメージバリアを付与する。
これらはどれも強力な技であるため積極的に活用すると良いだろう。 

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防具の色を変えたり、パーツの取り外しが可能

本作では入手できる防具の数はそれほど多くは無い。
しかし、それを補うような形で防具の色替えや籠手やジャケットなど部分的なパーツの取り外しが可能になっている。
また、最初こそ着脱可能な防具のパーツは少ないが防具を強化する事でパーツが増えていく仕組みとなっている。
自分好みの見た目に変更できるのは嬉しいポイントだ。

 

グラフィック

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密度の濃いロケーション

ラストストーリーでは訪れる事ができるロケーションは少なく、ルリ島の中にある街や洞窟と言った場所がほとんどでバラエティーには少々欠けるところがある。
しかし、そのグラフィックのディテールはWiiとしては高水準だ。
嵐などのシーンではカメラに水滴がつく表現がなされるなど随所にこだわりが感じられる。
一部の天井にキャラクターの影が映るなど細かい気になる点はあるものの全体の品質は高いと言って良いだろう。

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生活感の強い街並み

本作のディテールで特に目を見張るのはルリの街だ。
街には活気のあるメインストリームだけでなく、地元の住人向けのような裏路地が多く張り巡らされており街全体に生活感が漂う。
また、街の中で行きかう人の多さは魅力を更に増している。遠方の人物はフレームレートが落とされるなどの工夫が見られるが、Wiiのゲーム中でもこれほど多くのNPCを描画している作品は稀だろう。

 

サウンド

ラストストーリーの音楽は伝説的な植松伸夫さんが担当している。
植松さんらしい壮大なクラシック音楽の潮流を感じさせる本作の楽曲も素晴らしい。

様々なポイントで聴くカッコいいメインテーマ「Theme of THE LAST STORY

メインテーマのアレンジも含まれる街の中で流れる静かな「街の音色」

煌びやかな騎士の姿を感じさせる「歓びの声が聴こえる」

本作におけるもう1つのメインテーマと言える「翔べるもの」

本作では音楽の使い方に関してもこだわりが感じられる。
スタートメニュー画面ではBGM遷移する演出が行われる。これは単純なフェードインとフィードアウトで演出されているのだが、それでも十分にカッコいい。
また、戦闘中に戦局が有利状態となるとメインテーマのBGMへと遷移するのは特に熱い演出だ。

音声面で残念なポイントがあるとすれば「モブの演技」だろう。
主役級のキャラクターは問題は無いものの、いわゆるモブキャラクターのセリフに関しては演技がマッチしているとは言えず、違和感を感じる事が多い。

 

総評

ラストストーリーの「王道を狙ったストーリー」や「ヘイトを管理するバトルシステム」と言った主軸は非常に魅力を感じる作品に仕上がっている。
しかし、本作ではそれを十分に活かし切れたとは言い難い。
「ルリの街のディティール」や「BGMの使い方」は素晴らしいのだが、それと同じくらいのディティールがストーリーにも欲しかった所だ。
バトルに関しても用意されたシステムが意図通りに機能しているとは言えず、全体的な調整が上手くいけばもっと光り輝くことができたように感じる。

 

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設定画

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【レビュー】ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~

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ひと夏の成長

筆者はライザのアトリエがアトリエシリーズに触れる初めて作品となる。
アトリエシリーズは非常に根強い人気のある作品である事は知っていたのだが、どういう訳か縁が無かった。
今回のライザのアトリエに関しては向上したグラフィック面はもちろん、システム面でも歴代とは一線を画す新機軸となっているとの事であったので「手を出すなら今か!」と思った次第だ。

今回はアトリエシリーズ初体験となるライザのアトリエをレビューしてみたい。

 

 

ストーリー

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因果関係がしっかりとしたストーリー

主人公のライザリン・シュタウト(ライザ)はクーケン島で暮らすラーゼンボーデンという村の女の子だ。
村は保守的な考え方が根付いており頭が固い人が多く、そんな島暮らしから抜け出した非日常に憧れている。

カットシーンにおけるカメラワークなどでの魅せるための演出はやや単調ではあるが、因果関係が綺麗に描かれたストーリーは良く出来ている。
遺跡の名残りが見受けられるクーケン島、保守的な考えの島民たち、ストーリーを進めていくとライザたちの前に登場する奇妙なモンスターや異質なモンスター。
これらにはしっかりと理由が用意されており、またイベントの要素は全て1本の線で因果関係が成立するように美しくできている。
ストーリーのオチの部分はやや都合が良いのだが、それでもやはり辻褄が合うようにはなっており綺麗に収まっている。

本作では登場する様々なキャラクターが一人前になるために頑張ろうとしているが、その描き方もシステムと噛み合っており見事だ。
ゲームシステムにはパーティーエストというミッション(お題)があり、キャラクターが自身に課題を課す事によって自身を強くする(スキルなどを覚える)というシステムは「(キャラクター自身が)成長しようとしている」というストーリー上の設定を上手に拾えているシステムになっている。
もちろん、これは既存のタイトルにもあるような要素の名称をそれっぽく変えただけとは言えるのだが、名称を変えるだけで世界観の表現に大きく寄与できるようにしているのは素晴らしい発想だ。
また、主人公達はもちろんだが、その他の主要キャラクターもストーリー上で大きく成長する点は観ていて嬉しくなる事だろう。

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島民たちが描かれるサブクエス

メインのストーリー以外にも「依頼クエスト」というサブクエストも用意されている。
サブクエストではライザと島民たちとのやり取りが展開され、ライザと島民達との関係性や生活感がわかったりする要素にもなっている。
サブクエストで話す事になる島民にはしっかりと個性がついている点も良いポイントだろう。

また、街中の特定のポイントを歩いているとメインキャラクターや島民との会話イベントが発生する事もある。
ここでもキャラクターの関係性などが垣間見えるが、このイベントに関してはフラグ管理がされていないのかシナリオ進行と矛盾するような内容がたまに発生してしまう事もあり少々勿体ない完成度だ。

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不親切な要素

ストーリー自体は良く出来ているのだが、不親切に感じてしまう要素もある。

メインストーリーを進行させる際には当然ながら指定された特定のポイントに赴く必要があるが、会話上で次の目的地が明示されない事も多いため次にどこに行けばいいのかわからない。次に行く場所は「あらすじ」を参照すれば記載されているため問題は無いのだが、毎回のように「あらすじ」を開かなくてはならないのは少々気になる所だ。
もちろんストーリーの会話上で露骨に「○○に行こう」と言われるよりは自然な会話だけで済まされるためストーリー表現としては良いのだが、どう進行すれば良いのかわからないのはゲームとしてプラスと言い切る事はできない。

ストーリー中の会話は全てボイスがついているが、セリフのオート送りが無い点も少々不親切だ。
ストーリーやキャラクター同士の会話に集中したいタイミングであるだけに、セリフをユーザーに送らせる仕様しか提供していないのは勿体ない。

大した問題では無いのだが、カットシーン中で採取可能アイテム(素材)が明滅するのはやや惜しい。
カットシーンでは明滅しないようにして影を薄くした方が無難だったように思える。

 

システム

ライザのアトリエのシステムについて記載していく。

 

錬金術

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スキルツリー形式の錬金術

本作の錬金術はスキルツリーやパークのような要領でアイテムを生成する。

錬金術によってアイテムを生成するには素材が指定された必要となり、素材を使用してスキルツリーのような枠を埋めていくと高品質・高性能なアイテムが作りやすい形となっている。
また、素材には特殊なスキルのようなものが付与されており、スキルのついた素材でアイテムを生成するとスキルを最大で3つ継承させる事が可能だ。
作成するアイテムや装備するキャラクターに応じて、どのスキルを付けるべきか考慮しながら強力なアイテムを作成する錬金術はつい時間を忘れてプレイしてしまう要素になっている。
筆者も「そろそろストーリーを進めようかな」なんて思っていたにも関わらず、気が付くと錬金術の素材集めとアイテム生成ばかりやっていた。

アイテムを大量生産だけしたいが毎回生成のためのアイテムセットをするのが面倒だったり、そもそも生成が難しいと感じるユーザーがいるかも知れない。
そのような場合にはイチイチ手作業で作るのは億劫になる事は間違いない。
そんな時にはアイテム生成を自動でもやってくれる機能が用意されている親切設計だ。

その他にも、確保したは良いが質の低い素材が大量に余ってしまい困るような時に活用できる「ジェム還元」というシステムがある。
ジェム還元は素材や生成物をジェムと言うポイントに還元できる要素だ。
これによって入手したジェムは生成アイテムを再強化できる「リビルド」と言う要素に使用したり、生成アイテムを複製する際に使用できる。
例え素材をつい取り過ぎてしまったという場合でもしっかりと使い道が残されているのはしっかりと考えられた設計になっている。

また、フィールド上で素材集めをする際にも取得できる素材はしっかりと視認しやすいように調整されているほか、取得できる素材は取得の際に使用する道具によって変化するようになっているため狙った素材が獲りやすくなっている。

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錬金術で気になるポイント

素材や錬金術にて気になるポイントも挙げておくべきだろう。

まず、大きな問題では無いのだがアイテムソートが毎回リセットされるのが少々めんどうに感じる所だろう。

次に素材をどこで入手できるのかがわかりにくいのは問題がある。
大雑把な場所は記載してあるが、具体的にどこで入手したのかまではわからないため、その入手場所を忘れてしまった場合には少々困った事になりやすい。
必要な素材がどこで入手できるものなのか参照できないのは不便そのものだ。

そして、素材に付与されているスキルは多種多様なものが用意されているが、生成するアイテムによっては存在意義の無いスキルになっており、冗長な物量になってしまっている。
例えば「回復量アップ」のようなスキルは回復アイテムでしか意味を成さないため、武器を生成する事に使われやすい素材では価値が0になってしまう。
「スキルが多種多様」と言えば聞こえは良いかも知れないが、どちらかと言うとこのような構成になっているが故にスキル種類が無駄に多くなってしまっている印象を受けるのだ。
「回復アイテム生成時には回復量上昇、武器生成時には威力上昇」のような生成先によって効果が最適化されるエレガントな構成が望ましかったように思える。

 

バトル

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アクション性もある非同期ターン制バトル

本作の戦闘システムは非常に楽しい構造をしている。
詳細な説明をする前に、先にプレイヤーが利用する事になる主要な「AP」「スキル」「クイックアクション」「オーダー」「アイテム」「フェイタルドライブ」といった要素について大まかに説明していきたい。

本作のバトルシステムは非同期ターン制と言えるようなものになっている。
これでは伝わりにくいと思うので、最もわかりやすく例えるならば昔のファイナルファンタジーATBのようなものを想像するのが良いだろう。
各キャラクターや敵には行動するまでの時間が設定されており、その時間が経過すると攻撃などの行動が行えるようになっている。
行動を行う際にも常に時間は流れており、モタモタしているとどんどん敵が行動してしまう。
そのため、基本的には自身のターンになった場合にはなるべく早く行動を決断する、あるいはタイミングを見計らうためにあえて時間を消費するなどRPGながらアクション性もあるものとなっている。

戦闘中にプレイヤーが操作する事になるのはバトルメンバー3人の中の1人で、戦闘中にいつでも他のキャラクターに切り替えができる。
そのため、キャラクターにロールを割り振り、ダメージを受けたら回復スキルや回復アイテムを持たせたキャラクターに操作を切り替えるといったプレイも可能だ。

戦闘ではAP(アクションポイント)というポイントが重要となる。
APは通常攻撃をする事で蓄積されていき、APを消費する事で「スキル」や「クイックアクション」というシステムを使えるようになる。
また、APにはタクティクスレベルと言われるものが連動しており、APを最大値まで溜めた場合にはタクティクスレベルを1つ上昇させる事ができる。
タクティクスレベルは最大で5まであり、1つ上昇する毎に蓄積可能なAPの最大値が上昇していく。そのため、タクティクスレベルが上がればスキルやクイックアクションを多く発動できるようにもなる。
つまり、APをスキルやクイックアクションに使用して短期的な戦術に頼るのか、APをタクティクスレベル上昇に使用して長期的な戦略を整えるのか取捨選択して戦闘するのが基本となるのだ。
なお、このAPやタクティクスレベルは戦闘中のみのポイントとなっており、次の戦闘に繰り越される事はない。

「スキル」は前述の通りAPを消費して使用する事ができる技のようなものだ。
スキルには攻撃や回復と言った効果があり、状況に応じて使用する事になるものだ。
繰り返しになってしまうがスキルはAPを消費するため、何も考えずにバンバン放つ事は出来ない。

「クイックアクション」はAPを消費して時間経過を待たずに行動が可能なシステムだ。
時間経過を待たずにいきなり行動が可能であるため、攻撃や回復など幅広く使用できる。
APを消費する行動の中でも最も重要とも言える行動だが、それは次に説明するオーダーがあるためだ。

戦闘に仲間との共闘感を演出してくれる要素が「オーダー」だ。
オーダーには「アクションオーダー」や「ノーマルオーダー」「エクストラオーダー」と言った種類が存在している。
オーダーとは、戦闘中に味方キャラクターから行動を要望され、その要望に沿った行動を行うと要望を出したキャラクターが追加で敵に強力な攻撃を行ってくれるというものだ。
味方はそれぞれオーダーを出すが、複数のオーダーを1つの行動で解決できれば連鎖的に追加攻撃が発生する。
アクションオーダーは戦闘中に一定の時間が経過すると発生する要望で、ノーマルオーダーは味方がピンチの時に発生する要望だ。
そして、エクストラオーダーは敵が大技を発動させようとしている時に前述のクイックアクションを行うと発生するオーダーとなっている。これによって敵の大技の発動を潰しやすくなるため、戦闘ではエクストラオーダーを発動させられるだけのAPを蓄えておく意識をする事が基本だ。

錬金術で作成した戦闘用アイテムはCC(コアチャージ)と呼ばれる数値を消費して使用する事ができる。
アイテムは一見すると消費物のようだが、本作では着脱可能なスキルのようなものと認識した方が良いだろう。
錬金術で作成する戦闘用アイテムは敵にダメージを与えるものから、味方にバフを与えるもの、敵にデバフを与えるものなどが存在している。
このCCは拠点に帰るか、アイテムを封印(能動的に使用不可状態する行動)をしなければ回復しないため、どのタイミングでアイテムを使用するかはよく考える必要がある。

そして最後に紹介するのが「フェイタルドライブ」という大技となる。
これはAPを溜める事で上げることが出来るタクティクスレベルを最大値まで蓄積させた場合に発動可能になる要素となる。
フェイタルドライブは奥義とも言えるような非常に強力な行動である代償として、発動するとタクティクスレベルが初期値に戻ってしまうリスクが存在する。
これはスキルやクイックアクションがまとも発動できない状態に他ならないため、フェイタルドライブで敵を倒し切れない事態になれば途端にピンチとも言えるのだ。
なお、このフェイタルドライブの技の内容は発動させたキャラクター毎に異なる。

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鮮やかに彩るバトルシステムの各要素の関係性

登場する各要素の大まかな説明をしたので、次に本作のバトルシステムの構造を整理して解説していきたい。
ここでは上図の図を参照してもらうと各要素の関係性がわかりやすいかも知れない。

前述の通り、戦闘ではAPが重要となる。
その理由は「スキル」や「クイックアクション」、「フェイタルドライブ」など特徴的な行動の多くがAPに依存しているためだ。上の図からも多くの矢印(行動)がAPに依存していることがわかるだろう。
そして、肝心のAPは通常攻撃に依存した要素となっている。
このような構造になっていれば、一番地味な通常攻撃という要素がゲームを進めても廃れにくい構造になってくるうえ、プレイヤーが行動すれば行動するほど良いフィードバックが返ってくるアグレッシブな構造にもなっておりエレガントと言えるだろう。
また、単調な戦闘システムにありがちな「強い技を使用するだけ」にならない構造にも貢献している良い関係性だ。

戦闘ではAPを管理して戦うようになっている点も見事と言える。
それを如実に感じるのは敵のHPが半分ほどになり大技を使用してくるタイミングだ。
敵の大技を受けてしまうと、当然ながら味方には甚大な被害が出てしまう。
そこで、APを消費するクイックアクションからエクストラオーダーを発動させて、強力な攻撃を受ける前に対処するのだ。
しかし、敵のHPが半分になろうかと言うタイミングでAPが全く溜まっていない状態であればピンチになる事は明白だ。
戦闘中は「いつAPを溜めるか」「いつAPを使うか」というマネージメント要素によって成り立っており、APの蓄積具合が戦闘におけるバロメーターにもなっている。

各要素がゲームを進行しても腐りにくく、行動すればするほど強くなっていき、敵の大技発動を意識してAPをマネージメントをする。
これらを半リアルタイムな戦闘システムで行う事により少しばかりのアクション性が求められつつも、実際にやること自体はシンプルになっている実に見事なバランス感覚で生み出された構造だ。

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更なる飛躍のために

戦闘システム自体は非常に楽しいが、まだ改善できるポイントがあるように見受けられる。

まず、メインストーリーで戦う敵の体力設定がどれも低く、最も楽しくなりそうな手前で倒してしまう事が多いのは勿体なく感じる所だ。
操作キャラクターを切り替えできるシステムにしても、奥義であるフェイタルドライブにしても、その要素が必要となる強敵が少ないのが実情だ。
筆者の体感になってしまうが、錬金術による武器の強化は意図的に控える事で与ダメージ量を抑えた方がシステムを活用して戦う事ができるように感じる。
クリア後には高難度化できるためシステムを活かした戦闘が行えるかも知れないが、1週目で出来ないようでは少々遅いと言わざるを得ない。
ボスや大型モンスターなどは単純にHPを多くするだけでなく、ストック制にして簡単に倒れない工夫をしても良かったのではと思える。

APとCCの扱いの差も惜しい所だろう。
APは次の戦闘には繰り越されないにも関わらず、CCは繰り越されてしまうというのはミスマッチと言わざるを得ない。
特にCCという要素によってタイトルとしても冠している「錬金術」で作成したアイテムを気軽に使えない状態になってしまうため、メインシステムとのミスマッチになってしまっている印象を受ける。
その上、「戦闘を楽しむ」という観点から考えた場合にも、次の戦闘を頭に入れておかなければならないという足枷が出来てしまうのは各戦闘で全力で戦いにくい。
「現在にだけ集中する事が没頭の秘訣」である事はフロー理論やマインドフルネスと言ったものからも承知の通りだろう。現在への集中を乱すこのようなマネージメントは必要性が感じられない。
錬金術の成果を発揮しにくくさせ、現在の事にも集中させにくくしているという二重のミスマッチは勿体ないポイントだ。
戦闘終了毎にCCを全回復させて気兼ねなく全力で戦えるようにお膳立てするべきだったのではないだろうか。

アクションオーダーがプレイヤーの制御下にない点も非常に勿体ないポイントだ。
オーダー全般は戦闘において重要であると同時に、仲間との共闘感を演出してくれる非常に良いシステムだ。
しかし、アクションオーダーに関してはタイミングや内容がプレイヤーの制御下に無い(タイミングは時間経過、内容はランダムに発生する)仕組みになっているのは勿体ないと言わざるを得ない。
例えば、プレイヤーや仲間の特定の行動に呼応してオーダーが発生するなど、任意のオーダーを狙って発生させる事ができるとオーダーと言う要素がプレイヤーの制御下になるため、より具体的な戦術・戦略を組み立てられるようになったハズだ。
また、オーダーを「装備形式」の付け替え可能なものにできれば更に良かっただろう。
「HPが〇%以下になると、××を要求する」「△属性で攻撃すると、□□を要求する」など条件と要求を自由に変更できるイメージだ。
こうする事で戦術だけでなく、より戦略的な敵の攻略を目指す事ができただろう。

フェイタルドライブの立ち位置も変更して良かったかも知れない。
最も強力な技である「フェイタルドライブ」は、APの蓄積で上昇するタクティクスレベルを最大値にする事で発動できる。つまりはAPに依存したシステムだ。
しかし、本作のバトルシステムには最も階層が深い依存関係をしている要素が戦闘要素の関係性を1つ前の図から確認できると思う。「オーダー」のことだ。
最も破壊力のあるフェイタルドライブはAPに依存するのではなく、オーダーに依存した要素であった方が更にエレガントなシステムだったように思える。
通常攻撃に依存したAP、APに依存したスキルとクイックアクション、スキルとクイックアクションに依存したオーダー、そしてオーダーに依存したフェイタルドライブと言う直列的な図式になっていれば見た目としても非常にエレガントであるし、何よりもオーダーと言う強力な行動の後にフェイタルドライブという超強力な行動が発動できるのは実に爽快になるのではないかと想像できる。

パーティー全体を活躍させる事も検討して欲しい点だ。
本作では各種オーダーによってキャラクターが追撃を行ってくれるが、戦闘に参加していないメンバーに関してもオーダーと追撃を行ってくれれば更にパーティーの雰囲気が盛り上がったように思える。

それ以外の少し気になる点も書いておきたい。

チュートリアルは少々不親切さが気になる所だ。
戦闘などはテキストだけでシステムを説明される事が多く理解しにくいように思える。
特にRPGと言われるゲームの場合、戦闘が直感的ではないため文章だけで説明されても初見プレイではわからないのだ(本ブログの説明もそうである事は否めない)。
戦闘のチュートリアルを意識したシステムを上手く使う必要がある敵を用意するなどの設計をして欲しかった所だ。

敵のバリエーションが乏しいのも寂しい所だろう。
本作の敵は種類自体は少なく、色違いの亜種のようなモンスターで差別化をしている傾向があり、ややチープさを覚える。

不具合なのかは不明だが、戦闘中に操作キャラクターを変更した直後にクイックアクションを行いエクストラオーダーを発動させようとすると何故か失敗するのはよくわからない。
なんとなくだが、キャラクターを切り替えた直後にエクストラオーダーを発動させると、その後にアクションオーダーが発生してしまい、前タスクが消去されているように見える。実際の原因はどうあれ、これはしっかりとエクストラオーダーが発動できるようにして欲しい。

ここで長々と、そして色々と書いてしまったが、誤解をしないで頂きたいのは、これらの大半はどれも更なる飛躍のための「要望」であり、決して本作のバトルが楽しくないという事では無いのだ。
いや、むしろかなり完成度の高いバトルシステムとなっているため、本作において大きなプラスのポイントとなっている。
本作のバトルシステムは体験してみる価値があると断言できる構造だ。

 

グラフィック

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夏を感じさせるロケーション

本作のロケーションは全体的にライティングが強く、夏の明るさや暑さを感じさせてくれるものに仕上がっている。
また、昼や夜に変化する事はもちろん天候も変化するのも良いスパイスだ。

アップデートでフォトモードが追加された点も嬉しいポイントだ。
フォトモードではキャラクターを自由な場所に配置出来たりと自由度があるため、通常では撮る事ができないユニークな1ショットを撮る事が可能になっている。
しかし、フォトモードでのカメラ操作はややクセがあるように感じ、特にカメラの前後移動がやりにくいように感じられた。
もう少し素直な操作性になってくれると嬉しい所だ。

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良い品質のキャラクターモデリング

モンスターを含めた全体的なキャラクターのデザインは良く出来ており、また可愛らしさが特徴的だ。
敵ですらもキュートである事が多いため「これは倒して良いのか?」とすら思うものになっている。
もちろん人間のキャラクターも可愛らしく、特に主人公のライザやメインキャラクターのクラウディアといった造形の完成度は高く、キャラクターを重視している本作に相応しいものになっている。

アニメーションにしてもゲームとしてのテンポは守りつつ、出来も良く仕上がっている。
カットシーンにおいてキャラクターの走行アニメーションと実際の移動速度がシンクロしていない点が気になるくらいだろう。

 

サウンド

本作の音楽は牧歌的だったり、ポップだったりと明るい雰囲気のBGMが主体となっている。
各フィールドの曲は昼と夜で曲のアレンジが変更されたものが使用されている。
筆者が気に入っている曲についても少しだけ記載したい。

日常を象徴する「水彩色に跳ねる日々」

日常からの冒険を象徴する「青草香る空の下」

牧歌的な夏を感じさせるバグパイプを思わせる音色のイントロが印象的な戦闘曲「穀雨、麦の風」

牧歌的で暖かな雰囲気のある「故郷の島」「静寂の島」

ピアノとヴァイオリンが印象的な「Emerald Climbing」

子守歌のような穏やかさのある「夜風と星のうた」

この他のエンディング曲に関してもしっとりとした良い曲となっている。

キャラクターのボイスも比較的充実しており、待機モーションや素材採取時にボイスが流れる。
また、クリア後にはBGMが聴けるモードが解禁されたり、キャストによるコメンタリーが解放される。
BGMをじっくりと聴いたりする事も出来るうえ、コメンタリーに関しては声優ファンには嬉しい要素となっているハズだ。

 

総評

ライザのアトリエは非常に優れた作品だ。

キャラクターに焦点を当てつつも全体の因果関係が綺麗にまとまったストーリーは良く出来ており、作風にあった音楽も悪くはない。
メインとも言える錬金術もついつい長時間プレイしてしまう良い意味での時間泥棒だ。
そしてなにより、バトルシステムが非常に楽しめる完成度の高い構造をしていたのは、筆者としては予想を大きく裏切ったポイントだった。

筆者はシリーズ初心者であるため大きな事は言えないが、本作はシリーズの中でも屈指の完成度を誇る作品になっているのではないだろうか。

 

外部記事

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【レビュー】Death Stranding

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Tommorow is in your hands.

Death Stranding(以下、DS)は小島秀夫監督が指揮する新生コジマプロダクションの記念すべき最初の作品だ。

小島監督コナミ時代に制作したP.T.で共演したノーマン・リーダスが引き続き登場するという発表は衝撃的であり、感動的であったことを今でもよく覚えている。
その他にもマッツ・ミケルセンやリンゼイ・ワグナーといった著名な俳優を多数起用する事が判明していった。
しかし、豪華客船を建造しているのは十分過ぎるほどに伝わったが、その船が一体どこに向かって出港するのかわからない時期が非常に長かったのも印象的だったタイトルだろう。
各種ティザーやE3では意味深で謎の多いPVしか流れず、ゲームプレイのシーケンスが判明したのも発売の約3ヶ月前となるTGS2019になった事は異例ではないだろうか。

プロモーションに関しても非常に精力的に行っていた事も特徴的だ。
スタジオもゲームも0から作り上げ、その上AAAクラスのタイトルを制作し、失敗が許されない状況下にあった事が今回のような良く言えばアグレッシブな、悪く言えば少々節操のないプロモーションにもなったのかも知れないと感じさせる。

今回はDSのレビューに挑戦したい。

 

【PS4】DEATH STRANDING

【PS4】DEATH STRANDING

  • 発売日:2019/11/08
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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死してなおも輝く

まず、DSのストーリーは困惑する事も多いであろう事は触れておかねばならない。
プレイヤーに対して最初から容赦ない専門用語が用いられ、いかにも意味ありげな演出が続く。会話の内容もやや説教臭く感じてしまうかも知れない。
そのような状況のカットシーンが連続するのだ。
章が進めばカットシーンの頻度や説教臭さは抑えられるが、序盤を乗り越えられるかが本作をプレイする上での最大のハードルと言えるのかも知れない。

DSのストーリーは「繋がり」を頻繁に語り掛ける。
2010年代後半に見られるテロリズムや政治的な右傾・左傾の両極化、そしてそれらに呼応した民衆や民族間の分断に対してのアプローチであり、アンチテーゼが大枠としてあるのでは無いかと思える。

そのストーリーの大枠の中には更に2つの軸があるように考えている。
1つが生者と繋がるオンラインのゲームプレイ。
もう1つが死者と繋がるオフラインのメインストーリーだ。
DSのゲームプレイではオンラインによって常に他プレイヤーと薄く繋がっており、他プレイヤーの”痕跡”を感じる事ができる仕組みになっている。
行える事の詳細は「システム」の項で記載するが、このStrand(繋がり)はあくまでも痕跡といったレベルの間接的なものであり、他プレイヤーと直接的な協力プレイなどをする事は無い。
つまり、自分以外の誰かが自分と同じ目的・目標・行動をしている事をゲームプレイを通じたストーリーテリングとして「生きている人同士の横の繋がりの存在」を伝えているものとなっているのだ。
そしてDSのメインストーリーでは死者との繋がりを描いている。
本作の世界観は”ビーチ”と言う死後の世界が顕在化した、死を知覚可能になったSF世界となっている。
ビーチは正確には「三途の川」に近いもので、生から死へと向かう瀬戸際の場所であると認識するのが良いのかも知れない。
本作で登場する大半のキャラクター達は何らかの形で「死」あるいは「死者」と繋がっており、キャラクターと死の関係性は「死ねばそこで終わり」ではなく「死してなおも繋がっている」ことを表現しているように思える。
個は死んでも、繋がりがあれば意志が受け継がれていくという「生から死 / 死から生への縦の繋がり」を描いているのだ。

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お当番制の進行

DSの主人公は配送業を生業としているサム・ポーター・ブリッジズだ。
サムはDOOMSと言われる能力者であり、また接触恐怖症と言われる症状を持っている。
DOOMSは幽霊のような特徴を持ったBTと言われる「死者の世界」を感じ取る事ができる能力者の総称だ。
接触恐怖症は誰かに触れられる事に対して強い拒絶反応を示す症状の事だ。
そのような症状がある事もあいまってサムは他人との繋がりに対して余り肯定的では無い。
しかし、サムはストーリーとゲームプレイを通じて様々な人達と出会い、様々な配達をこなしていく。
その中で次第にサムは直接的な触れ合いでは無いものの、間接的な様々な繋がりや誰かの想いを背負い配達をしていく事となる。
つまり、「繋がり」を描くために「繋がりを持たない/繋がりを持てない存在」を主人公として置くようにデザインされているのだ。

その他のキャラクター達も非常に魅力的だ。
ストーリーの進行は章形式となっており、各章では1人のキャラクターに焦点が当たるいわゆる「お当番制」となっている。
焦点が当たったキャラクターは掘り下げられ、どのようなキャラクターなのか、どのような生い立ちなのかなど様々な情報を知る事ができる。
各キャラクターは非常に魅力的でクリフ、ダイハードマン、ハートマン、デッドマン、ママーなどなど、どのキャラクターも甲乙つけがたい魅力を持っている。
筆者も最初は興味が無かったキャラクターもいたが、章が終わる頃にはお気に入りになっていたほどだ。
しかし、その”お当番制”という進行方法の弊害として当番が終わってしまったキャラクターは影が薄くなってしまうのは勿体ない。
どのキャラクターも素晴らしい魅力があるだけになおさらだ。

ストーリーにはSF作品らしい「謎」ももちろんある。
サムとは誰なのか、アメリとは誰なのか、拠点のカイラル通信はどのように作られているのか。
そしてそもそもDeath Strandingとは何なのか。
ストーリーを進めていくうちにそれらが次第にわかっていく事だろう。
また、自分自身で予想を立てながら観ていくのも面白いハズだ。
もしも、興味があるのであればゲーム内ドキュメントという形で世界設定を掘り下げられるものが用意されている。もちろん、興味がないならば観る必要は無いためゲームプレイの邪魔となる事も無い。

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ゲームと言う媒体を自己批評的に捉えた演出

DSの様々なポイントでビデオゲームに対する自己批評的な演出…つまりは「ビデオゲームとはどうあるべきなのか」を考えさせるような演出も盛り込まている。

時にはプレイヤーの行いに対して「(ありがちな)ゲームを望んでいるのだろう」と問いかけられ、時にはストーリーの構造を「マリオとピーチ姫」にも例えたりする。
更には格闘ゲームのような演出まで盛り込んだり、セルフオマージュも含まれる。

小島監督の「ゲームは更に次のレベルに行くべきだ」「もっと出来る事があるハズだ」と言う問いかけをしているような気がしてならない。

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良いセンスだ。だが、惜しい。

ここまで色々と書いてきたが、ストーリーあるいは演出において「素晴らしい」と感じつつも、同時に「惜しい」と思う部分も多かった。

まず最初に記載したいのは曲の演出だ。
本作ではストーリー上で特定のタイミングになると歌が流れ始め、カメラワークも専用に変化する場合がある。
この歌の演出は新しい配送先の拠点に近付いた場合に流れる事が多く、その演出は正に「プレイアブルムービー」のような感動的でこだわりが感じられる演出となっている。
しかし、拠点間の距離が短く、拠点Aから拠点Bまで10分もあれば到着してしまうため「すぐに曲流れるなぁ」という印象になってしまう事が感動を薄めてしまっている感は否めない。
あくまで筆者の好みにはなるが、やはり1プレイではなかなか到達できない程の距離感があって初めて大自然の中に見える拠点と言う人工物(他人の存在)が感動的に映るのではないかと思う。
10分と言えば首都圏であれば自宅から最寄り駅までの距離と言っても差し支えないものだ。
それでは折角の素晴らしい演出も本領を発揮できないのではないだろうか。
開発側には酷な要求にはなるが、やはり1時間以上はかかる道のりを提供して欲しかったと言わざるを得ない。

ストーリー中にはNPCと一緒に移動するケースも存在する。
その際にはNPCが語り掛けて来るのだが、場合によっては会話が途中で途切れてしまう状況になる事は本作のようなゲームでは避けられないのは想像に難くない。
しかし、本作では「それでね」などと語りかけ会話を切り出して前回のセリフを途中から継続して喋ってくれるようになっているのは非常に丁寧に作られている。
しかし、その他のシチュエーションにおけるNPCのリアクションが毎回ほとんど違いが無いのは少々寂しい。
特に頻度として最も多く、最も観る事になる荷物を配達した際のリアクション(セリフやモーション)に変化や違いが少ないのは寂しい限りだ。
また、NPCから送られてくるメールの内容も主要キャラクター以外は個性が薄い事も少々寂しく感じる所だろう。
逆に配達物を収める際の演出やBTが近くにいる際の演出がイチイチ挿入されるのはゲームに慣れて来ると邪魔に思えてくるため、簡単にスキップできる方法を提供して欲しかった所だ。

 

システム

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マインドフルネス的方法論によるプレイヤーを没頭させる手法

DSの主軸となるシステムを端的に表現してしまうと「おつかい」だ。
基本的に拠点Aから拠点Bに荷物を運ぶ事がメインで、少し違うものがあったとしても落とした物を拾って届けるといった程度だ。
これだけ見てしまうと明らかに面白くなさそうだが、実際にはそうではない。
本作では「マインドフルネス的な方法論によってプレイヤーを没入させる」ことに成功している。

まずはDSの基本システムを簡単に説明したい。
本作は前述の通り「おつかい」が基本だ。
主人公サムは配達対象の荷物を担いで移動する事になる。
しかし、担ぐ荷物が多かったり、荷物の重心が偏っていたり、スタミナが低い状態の場合にはサムは体勢を崩しやすく、体勢が崩れた際にはR2/L2を片方あるいは両方押してバランスを保つ必要がある。
もしも入力が間に合わなければサムはバランスを崩して転倒し、配達物が損傷してしまうのだ。
このシステムが前面に出るようにフィールドがデザインされており、躓くような小石がフィールド一面にあったり、傾斜があったり、川が流れていたり、強風が吹いていたりと自然の驚異がサムのバランス感覚を襲うようになっている。

次にマインドフルネスについても簡単に説明させて欲しい。
マインドフルネスとは「精神を”現在”に集中させる」ことに主眼を置いた方法論であり、フロー理論とも非常に近い関連性を指摘する声も多い。
有名なため知っている方も多い事だろう。
人間の脳内は何もしていない(何もする事がない)ような状態ではデフォルトモードネットワークと呼ばれるものが活性化し、雑念やネガティブな感情が発生しやすい状態となる。
つまり、デフォルトモードネットワークが活性化している状態(雑念)と言うのは「何もしていないにも関わらずリラックス(回復)できない状態」なのだ。
この雑念と言うものは「過去」あるいは「未来」について考えてしまうために発生するのであって、「現在(いま)」という瞬間にだけ集中する事でデフォルトモードネットワークを非活性状態にし、精神(脳)のリラックスや回復を図ろうとするのがマインドフルネスの目的となる。
つまりは「目先(現在)の何かに没頭することが本当のリラックスに繋がる」という事だ。

では本題となる「DSにおいてはどのようにマインドフルネス的方法論を実現しているのか」を書いていきたい。
本作のメインシステムは確かに移動するだけだ。
しかし、荷物を持ち過ぎたり、スタミナが減ってきたり、整備されていない悪路を歩けば体勢を崩しやすくなっている。
そして体勢を持ち直すためにはR2/L2を押す必要がある。
そう。ただ移動するだけなのだが「目先の移動に集中しなければ、途端にサムは転んでしまう」のだ。
歩きやすい足場か、荷物の状態はどうだろうか、などなどデザインされたフィールドとシステムによって強制的・必然的にプレイヤーは現在の事だけに集中し、過去(何が起きたか)や未来(運び終えたら何をするか)を考える余地を許さず、マインドフルネス状態に移行する。
ゲーム内の移動がリラックス(楽しさ・ポジティブな体験)になると、プレイヤーは次第に内発的なモチベーションによって荷物の運搬をするようになる事だろう。
また、サムの移動自体のモーションや挙動の慣性は全体的にはリアル志向だが、重心の整え方や荷物の取得の仕方などの部分ではリアルさよりもゲームプレイ重視となっている事も体験に良い影響を与えている。
フォトリアルな映像を用いながらも、要所の部分では快適なゲームプレイになる配慮を忘れていない小島監督の”最適バランス(=中庸)”の志向は今作でも健在だ。

なお、ここで得られる楽しさは「何かに集中する楽しさ」である。
この体験に近しいものを例えるならば、子供の頃にやりがちな「道路の白線渡り」に感覚が近いと表現すれば伝わりやすいのではないかと考えている。
そのため、この作品における「楽しさ」というのは理解しやすい爽快感やカタルシスのようなある種の「ゲームらしい露骨な楽しさ」といったものではない。
その点において、プレイヤーによっては肩透かしのように感じる部分になっている事は注意した方が良いだろう。

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障害として機能しない敵

DSにおいてサムの行く手を阻むのは自然だけではない。
ミュール(配達依存症)と言われる略奪者とBTと言われる幽霊のような敵の存在も立ちはだかる。

ミュールとは昔はサムと同様の荷物の配達人だったが、よりエクストリームな荷物を求める余りに他人の荷物を強奪するようになってしまった人達の事だ。
ミュールはサムでは無く荷物に対して異常な興味を示す存在であるため、特定の荷物をデコイとして活用すればおびき出す事も可能だ。
物語が進めばサム自身を狙ってくるテロリストも登場するようになる。
テロリストになると銃器によってサムを襲撃するようになるため危険性が非常に高い相手となる。

BTは日本的にわかりやすい表現をすれば「地縛霊」のようなもので、人間の肉体を探している幽霊と説明すれば理解しやすいだろう。
BTは移動中に視認する事ができず、静止すると姿がぼんやりと確認できる。
BTがいるエリアに侵入すると不穏なBGMが流れ始め、カメラについた雨の水滴は上昇し、フィールド上の草花は生えては枯れる。これによってBTが存在する不気味なエリアであることを演出し伝えている。
また、実際にBTが近くにいる場合にはセンサーが激しく反応を示し、更にはコントローラーからBBの泣き声が聴こえる凝った演出まで行われ、危険をプレイヤーに教える。
BTに見つかり捕まるとサムの周囲がタールの沼地に変わり、そこに引きずり込まれると大型のBTが出現する。

しかし、ミュールやBTなどは根本的な問題を抱えている。
それはその立ち位置だ。
彼らはサムの配達業の前に立ちはだかる障害だが、障害としては余りにも脆弱だ。
ミュールは近接で数発も殴れば気絶するし、手頃な壊れても良い荷物を武器として使用すればもっと簡単に制圧できる。
BTに捕まった際に対峙する事になる大型BTにしても、攻撃する際に必要な対BT兵器はオンラインよる他プレイヤーからの支援によって実質的に無尽蔵に供給されるため、さながら弾薬庫にいながら戦うに等しい。
ミュールにしてもBTにしてもゲームの構造に慣れていない最序盤でこそ恐怖を覚えるが、中盤にも差し掛かる頃には機械的に処理するだけの他愛のない存在へとなってしまっているだろう。
これはストーリーテリングとしては「恐ろしいと思える相手も、知る事で意外とそうでもないと気が付く」という事を表現していると受け取れる。
しかし、純粋なゲームとしての側面で捉えると即物的な障害でしかなく作品と真にマッチするにはパーツが欠けているように思えてならない。
かなり欲張りな要求だとは承知の上だが、ストーリーテリングとゲームプレイを両立したデザインを望みたい所だ。

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マッチしきらないオンラインの構造

「ストーリー」の項でも少しだけ触れているが、DSのオンライン要素は広く薄く繋がるものとなっている。

全く知らない他人がフィールド上に建てた看板や設備がオンライン上で共有され、自分が利用する事が出来るようになっている。もちろんその逆も然りだ。
フィールド自体もオンライン上の他プレイヤーの影響によって変化していき、多くのプレイヤーが通った経路は小石などの障害物がほとんどない"道"になり移動を楽にしてくれる。
本作では「自分のために設置した施設や設備、そして移動経路が見知らぬ誰かのためになる」のがオンラインの構造となっている。
また、そのような構造であるが故に「自分だけでなく、より皆が喜ぶポイントに設備を設置しよう」と思う事も多くなるだろう。
このような「自分だけでなく、より社会全体(共同体)にプラスを還元しよう」と思わせるのはアドラー心理学における「共同体感覚」と近しい発想があるかも知れない。
本作のテーマである「繋がり」にしても共同体感覚との関連性があると見ても良いだろう。

しかし、本作においてオンライン上で共有される他のプレイヤーの痕跡は本作の良さを殺してしまう要素でもある。
無造作に共有された「親切心」は、本作のメインシステムである「移動」という行為を楽にしてくれる一方で、「移動の楽しさ」を減退させてしまう。
快適な移動経路が確立されてしまった配達はAからBへ移動するだけの本当の「おつかい(作業)」に近付いてしまうのだ。
ゲームプレイの仕方によってオンライン上のアイテムや施設が共有される頻度は変動するようだが、「絶妙なタイミングで他プレイヤーの施設やアイテムが利用できる」ようにお膳立て(デザイン)をして欲しかったように思う。
例えば、サムの体力やスタミナが低くなったり、荷物の状態が悪くなった際に他プレイヤーの残した要素が出現して利用できるようになるなどだ。
これはもちろん小島監督の描きたい要素とは異なる可能性はあるが、少なくとも現状では整理されていない混沌の中に身を置いているに過ぎず、「不便だが楽しい移動を取るか、快適だが作業的な移動を取るか」の二択になってしまっている。

また、エンドコンテンツとしての弱さも勿体ない所だろう。
制作コストが高い大規模な公共事業はあるものの、自己満足的な側面が強くクリア後にも楽しめるエンドコンテンツになっているとは言い難い。
配達と広く薄いオンラインを活かしたUGC(User Generated Contents)などのエンドコンテンツがあればクリア後の満足度が高かった事だろう。

 

グラフィック

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美しい自然風景

DSの大自然のグラフィックは非常に美しい。
新設されたばかりのコジマプロダクションでは多様な作り込みは難しかったために、人工物(街や車など)のオブジェクトを極力作らないという割り切った制作を行ったのかも知れないが、その甲斐あってかフィールドの美しさはPS4の中でも上位に入るレベルだ。
また、「割り切った制作」に感じさせないために物語の設定ともシンクロさせており、シナリオとゲームプレイの両方を手掛ける小島監督だからこそ出来る判断だ。

本作の見た目として困る点としては、フォントサイズも小さい事もあいまってGUIの構造が少々わかりにくくなっている事だろう。
オープンワールドを採用したゲームではGUIを必要最小限の簡素なものにしようとするのが2010年代後半に顕著にみられる傾向だが、本作では少しやり過ぎてしまった所があるだろう。
なお、GUIの改善は2019年12月のアップデートで改修がされている。

また、自室(プライベートルーム)にいる時に限りファストトラベルは可能なものの、通常のPS4(SSD未換装)では所要時間が90秒程度とかなり長い。
気軽にできるとは言い難く少々残念だ。

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ノーマン・リーダスと少しだけ遊べるプライベートルーム

DSではプライベートルームと言う休憩所がある。
プライベートルームではサムの体力やスタミナが全快するほか、飲み物を飲んだりシャワーやトイレと言った生活感溢れる要素も用意されている。
一般にはこのような生活感溢れる要素は最初こそ物珍しさからプレイするものの本質的にはゲームとして機能しにくい事が多く無視される存在になりがちだが、本作ではサムの血液や老廃物と言ったものがBTに対して有効な武器となるためリアルさとゲームプレイの両立が行われている。
ここでも小島監督の最適バランスを捉える力が発揮されていると見て良いだろう。

とは言え、プライベートルームでのサム(ノーマン)との触れ合いは少々物足りない。
サムのモーションのパターンも物足りなく思えてしまうし、プライベートルームもどこも同じ構造なのは少々寂しいと感じるだろう。

 

サウンド

ストーリーの項でも少し述べているが、歌が流れる演出は非常に素晴らしい映画を観ているかのような感動を覚える。
流れる歌はどれも一人旅を感じさせるようなものが多く、作品に非常にマッチしている。

本作の最初のPVでも使用された「I'll Keep Coming」

孤独な旅を感じさせる「Asylums for the feeling feat. Leila Abu」

などは特に印象に残りやすいだろう。
その他のBGMは敵がいる場合には不穏な曲が流れたりとオープンワールドを採用したゲームに多いインタラクティブミュージック的な手法による変化を採用している。

 

総評

Death Strandingはゲームにおいて手段でしかなかった移動を、移動自体が目的になるように変えた意欲的な作品だ。

他者の痕跡を感じながら荷物を運び、美しい大自然を望み、孤独な旅をし、映画のような演出の楽曲が雰囲気を盛り上げ、往く先々では魅力的なキャラクター達と出会う。
そして配達(移動)が楽しいものだと知る。

本作はそれ以上でも、それ以下でもない。

 

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【レビュー】Metal Gear Solid V : The Phantom Pain

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平和が終わる、Vが目覚める。

Metal Gear Solid V : The Phantom Pain(以下、MGSV)はステルスアクションであるメタルギアソリッドシリーズにオープンワールドの概念を導入した意欲的な作品だ。
2019年時点では日本メーカーの作品でオープンワールドを導入した事例としては「ゼノブレイドクロス」や「ゼルダの伝説 Breath of the Wild」、「真・三國無双8」など増えて来てはいるものの未だに多くは無い。
中でも2015年に発売された本作MGSVは日本のオープンワールドにおける先駆者的な作品と言っても過言ではないだろう。

筆者の印象ではあるが、当時のユーザー側にもメタルギアソリッドシリーズがオープンワールド化した姿が望まれていたように感じる。
しかし、メタルギアソリッドのような緻密で濃密な世界やゲームプレイはある程度の限られた空間(箱庭)であるからこそ煌めいていたようにも思え、オープンワールドのような広大な世界との相性は単純に考えれば良くないように思えた。
MGSVがオープンワールド化するという情報は期待感こそあったものの、果たして歴代のメタルギアソリッドシリーズのような濃密な体験が実現し得るのか。
どのようにアプローチされるのかが不安に感じていたと記憶している。

 

メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS4

メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS4

  • 発売日:2015/09/02
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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V has come to

MGSVのストーリーは「Metal Gear Solid V : Ground Zeros(以下、GZ)」で起きた事件の後の世界だ。
GZはMGSVのストーリーの導入部分として非常に良くデザインされている。
スネークのような完成された人物を主人公として描く場合に、ストーリーの導入は非常に厄介な役割を担わされるからだ。
ゲームプレイにおいてはプレイヤーが初心者である事を想定しなくてはならないにも関わらず、主人公の設定は歴戦の英雄などの成長しきった大人と言う「見た目は大人、中身は子供」のような矛盾を内包する可能性があり、またそれを解決しなくてはならない。
それを解決するために時に主人公は記憶喪失になったり、何かの呪いで能力を下げられたりする事も多い。
MGSV本編ではGZによる事件によって重傷を負ったスネークが病院で昏睡状態から回復する所から物語がスタートする。
病院で寝たきりのスネークはGZの事件により片手を失っており、その失った部位を本人が確認する緊迫感や絶望感など非常に丁寧に描いている。
そしてそんな中、スネークを今度こそ本当に始末するべく、突如として病院に敵が襲撃をしてくるのだ。
スネークは逃げる事になるが、長い昏睡から目覚めたばかりなうえ片手を失った体では当然ながら満足に動く事も出来ない。
「スネークが満足に動けない」と言うシチュエーションを「傷病」と言う形で作り上げる事によってプレイヤーが出来る事を制限し、より自然なチュートリアルをしつつ、物語の導入としての「弱い(≒初心者プレイヤーによる)歴戦の英雄」を作り上げているのだ。
少し長く書いてしまったが、「チュートリアルと物語の導入をシンクロさせる」そして「(初心者含めた)プレイヤーと歴戦の英雄をシンクロさせる」ことを全て1つのチャプターで同時進行して同期させている。
また、GZと言う布石を打っていなければMGSV本編の導入で説得力をもってスネークを負傷させる(弱い英雄を作る)事も難しかった事だろう。
ストーリーとゲームプレイの両方を指揮している小島監督だからこそ可能な柔軟な発想だ。

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2部構成の物語

ストーリーは大きく2部構成となっている。
第1部では「Revengence(復讐)」を描いており、
第2部では「Post Revengeance(復讐のその先)」を描いている。

MGSVのメインテーマは「Voice(声)」と「Race(人種)」とされており、第1部ではその傾向を特に強く感じる内容として構成されているのだが、それを体現した設定が「声帯虫」と呼ばれる存在だ。
声帯虫は声帯に寄生し、原初の人類に言葉を与える役割をもった存在だと説明される。
そしてその特性を利用する事で「特定の言語を操る人種のみを根絶やしにする(民族浄化)」が実現できると言うのだ。
声帯虫に関する起源や特性と言った設定も作中で説明が用意されているが、この設定が科学的に成立し得るか・正しいか否かは大きな問題点では無く、それは本作が描きたい内容の本質ではない。
本作では「もしも任意の民族を消し去る手段が存在していたならば」と言う状況こそが重要なのだ。

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プレイヤーへと回帰する物語

MGSVにおけるもう一つのテーマとも言えるのは「プレイヤーへの回帰」だ。
ここではネタバレが無い程度の記載とするため、やや抽象的な表現をしてしまうがご理解願いたい。

歴代のMGSシリーズにおいては様々なスネークが登場するが、それらのどのスネークもプレイヤー達にとっては非常に伝説的であり英雄的キャラクターだ。
そうであるが故にスネークという存在は一種の神格化・偶像化された独り歩きしているキャラクターへとなっていった。
しかし本作では独り歩きした偶像では無く、「”君(プレイヤー)こそがスネーク”なのである」と伝え、そして「MGSシリーズの歴史に無くてはならない存在こそがプレイヤーだった」と伝えている。
ストーリーにおける長いプレイ時間、オープンワールドと言う比較的攻略の自由度が高いプレイスタイルの世界、これらを「プレイヤーのアバター」が「スネークとして」切り開いていき、MGSの今まで語られていなかった歴史を紡いだのだ。
これこそ正に「”君(プレイヤー)こそがスネーク”」と言う事であり、そして「MGSシリーズの歴史に無くてはならない存在こそがプレイヤー」と言う事であり、「スネークと言うキャラクターのプレイヤーへの回帰」と言える演出だ。

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カセットテープによるストーリー補完

メインのストーリー以外にもそれを補完をするものとして「カセットテープ」による会話劇が用意されている。
カセットテープで聴く事ができる会話劇にはメインストーリーの裏側がわかるものから、笑えるようなものも用意されている。
音声だけのストーリーテリングだがその質は非常に高い。
声優の喋り方はもちろんだが、それに合わせて聞こえてくる周囲の環境音やSEなどのこだわりが凄まじい。
音声だけであるにも関わらず話者がどのような動きをして喋っているのかも手に取るようにわかる完成度となっている。

 

蠅の王国

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蠅の王国

MGSVにはゲーム本編に収録されなかったエピソードが存在する。
それが「蠅の王国」だ。

蠅の王国はMGSVのSpecial Editionに同梱されたBlu-ray Diskに収録されている本編に収録されるハズだったものを映像で解説すると言ったものとなっている。
蠅の王国では前述している第二部(Post Revengeance)のオチに相当する部分が実装予定となっているうえ、初代のMetal Gear Solidに繋がる要素ともなっている。
また、ゲームプレイ中にも発症するスネークの後遺症を活かしたストーリーテリングが成される点も見逃せない要素となっていたハズだ。

肝心のゲームプレイの内容にしても絶海の孤島で巨大人型兵器であるサヘラントロプスと戦う事になるようなのだが、動画の解説を見る限りはそれまでにスネークが戦ったサヘラントロプスとは趣が異なるシチュエーションおよびシーケンスで戦闘が行われるように設計されていたのではないかと思える。

ストーリーとしてもゲームプレイとしてもこれが収録されないままに終わってしまったのは非常に残念と言わざるを得ない。
しかし、これが収録されなかった事で本作は伝説として語り継がれていく事にもなるのだろう。

 

システム

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オープンワールドxステルスアクション

MGSVはシリーズ恒例のステルスアクションにオープンワールドの概念を導入した意欲を感じさせる作品となっている。

ステルスとアクションは非常にスムーズだ。
スネークは銃火器を扱うが、それを使用する際にも三人称視点と一人称視点を自由に切り替えて使用可能なため状況に応じて臨機応変に使い分ける事ができる。
壁際のカバーアクションにしても謎の吸引力により吸い付くような感覚は余り無いため操作感のレスポンスは良く感じる。
グラフィック自体はフォトリアルな路線ではあるが、移動速度や慣性、SE、ひいては敵AIの挙動などゲームプレイのテンポやインタラクションを向上させるための「(違和感の無い程度の)ちょっとしたウソ」も織り交ぜており、プレイヤーへの細かな配慮を決して忘れていない。
フォトリアルな映像を用いつつも、ゲームとしての楽しさや快適さを決して蔑ろにしない小島監督の「最適バランス(=中庸)」の思考力は素晴らしいの一言だろう。
これは0 or 1のような1bit(極端な)思考では決して生み出されない設計だと言える。

また、敵の警戒や戦闘と言った状態遷移のシーケンスが明確である点も良い。
NPCの視界距離・範囲であったり、警戒・索敵・戦闘の各フェーズ移行であったり、その挙動は「プレイヤー側がある程度の制御が行えるように緻密に構築」されている。
そのため、見つかってしまった場合の大半が自身の索敵不足やクリアリング不足だったと明確にわかるため、「え?これで見つかる?」と言ったような理不尽に思えるような事は筆者の記憶にある限り全くと言って良い程に無かった。

そんな本作にも欠点が無い訳では無く、一番気になるのはボタンの割り当てだろう。
1つのボタンに複数の機能が割り当てられており、ふとしたタイミングで意図しない挙動になってしまうのだ。
特にありがちなのは柵付近で兵士をフルトン回収をしようとした際に誤って柵をよじ登ってしまう点だ。
フルトン回収と柵のよじ登りが同一のボタンで行われるために発生している問題だが、これは下手をすればそのまま落下死する可能性もある危険な行為となるため、ボタン割り当てにはもう少し工夫が欲しかった所だ。
なお、筆者はこの誤操作によって本当に死亡した事がある。

大きなマイナスとはならないが、フィールドに展開している勢力がプレイヤーと敵しか存在しない点は寂しい所だ。
必ずしも味方勢力が展開している必要は無いが、第三勢力など敵勢力が別の敵勢力と戦闘を行っているような混沌としたシチュエーションなどがあれば更に素晴らしい体験ができたのではないかと思える。

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フロー理論に基づいたゲームプレイサイクル

本作のゲームプレイサイクルに関しても特筆すべき点がある。
まずは上図の左下を参照して欲しい。
未プレイの方には少々わかりにくいかもしれないが、本作においては拠点から拠点までの道中には敵を含めて余り多くのオブジェクトは存在しない作りとなっている。
一見すればもっと物量を投入して密度を上げるべきポイントにも感じる作りだが、これは実際にはフロー理論に基づいた人を「没頭」させるためのフィールド構成となっているように感じる。
そこで、どのようにそれを実現しているのかをフロー理論と照らし合わせて見てみたい。

筆者も専門家では無いため解釈に誤りがある可能性がある点だけは予めご了承願いたいが、フロー理論によれば没頭するためにはサイクルが存在しているという。
そのサイクルとは上図の一番上の図の通りだ。
休息フェーズは最後に説明するとして、
まずは「緊張」のフェーズについて簡単に記載する。
緊張とは不安などと置き換えても良いが、「成功するか否かが未確定な状態」の事と置き換えても良いだろう。
これは本作のゲームプレイにおいては上図の右下がイメージしやすいだろうか。
どんなに入念に施設の外から下調べをしても「まだマーキングしていない敵がいるんじゃないか」と思ってしまったり、「何らかの要因によって見つかってしまうんじゃないか」と言った不安がよぎる。
これは「ユーザーに下調べをさせる事によって、逆に不安を煽っている」と表現しても良いだろう。
これこそが本作における緊張のフェーズだ。

次に「行動」のフェーズに移る。
こちらは緊張や不安の中で意を決して実際に行動を開始する段階の事だ。
これは「覚悟を決める」または「吹っ切れる・開き直る(※自暴自棄では無い事に注意)」と言い換える事もできる。
いくら緊張や不安があるからと言って何もしない状態のままでは事態が好転する事がないのは自明の理だ。
本作においては索敵と言う緊張フェーズから実際に施設に潜入を開始する行為(決断)が行動のフェーズに該当すると言えるだろう。

そして、それらのフェーズが成立するように構成されているからこそ重要な「没頭」と言う状態になる事が出来るのだ。
没頭(フロー)とは近年聴く事も多いであろう「マインドフルネス」や「ゾーン」と言った概念に非常に近いものと言われる。
没頭するのは上記のフェーズ以外にも「難易度が自身のスキルよりも僅かに高い」「成否(結果)が自分で制御できる」「結果がすぐにわかる」などなどの条件が存在している(全ての条件が満たされている必要は無い)。
難易度に関しては個人差の世界であるため割愛するが、「成否が自分で制御できる」「結果がすぐにわかる」と言った要素に関してはアクションゲームである本作が条件を満たしている事は想像に難くない。

そして最後に本題とも言える「休息」のフェーズだ。
人は誰しも没頭した状態が長時間継続できないのは経験則からもご存知の通りだろう。没頭とは詳細には異なるのだが「集中する」という状態は調査によっては30~90分程度が限度という報告もあるようだ。
普通に考えれば当たり前で、もしも没頭や集中と言った状態が無限に維持できるようでは生命活動に支障がでるからだ。
そのため没頭した後には初期状態とも言える休息状態に戻らねばならない。
そう。本作においては「何も無い道中こそが休息のためのフェーズ」なのだ。
別の視点をすれば、没頭して制圧した施設から次の施設に向かうにしても一旦休憩と言うフェーズを挟まなければ「緊張」と言うフェーズに移行する事が無いため、「ただ疲れるだけ」になりかねない。
また、この没頭の後の休息と言う状態では自意識が高められ強い自信を生み出す事にも繋がるという。
密度濃くオブジェクトを配置する事は開発コストの上でも厳しい上に、ステルスアクションと言うゲームシステムの側面から見ても親和性が低いのだ。

しかし、これらは「初見プレイ時」あるいは「経験(土地勘)がまだ浅い時」にこそ有効に活用できる内容であるため、フィールドの密度よりもフィールドの種類の少なさの方に物足りなさを感じる所だ。
有料DLCとしてフィールドをもう1つ、贅沢を言えば2つほど追加して欲しかった所だ。

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もう一歩欲しかったオンライン要素

最初に記載しておくが、上図はオンラインプレイ時の風景ではない。
適切な画像を撮っていなかったためマザーベースの日常(?)風景とさせて貰った。

MGSVでは薄くではあるがオンライン要素が存在する。
オンライン要素では他プレイヤーのマザーベースに侵入し、ゴールである最深部に到達する事が目標となるミッションとなる。
他プレイヤーのマザーベースでは物資を鹵獲する事ができるほか、敵兵士も奪う事ができる。
しかし、敵兵士もマザーベースを守るために厳重な警備を行っているため、易々とは踏破させてはくれない。

この比較的広く浅い作りのオンライン要素はプレイヤーの重荷になる事はないため、「好きな人がプレイし、そうでないならやらなくて構わない」という構造だ。
しかし、このオンライン要素が「エンドコンテンツ」というレベルまで到達しているかと言うと少し物足りないと言わざるを得ない。
その大きな要因は「マザーベースの構造」と「敵兵士の配置」などの多くが固定化されているためだ。
代り映えのしないフィールドで代り映えのしない攻略を何度もプレイするのは少々苦しいと言わざるを得ない。

また、潜入先のプレイヤーがオンライン状態であれば、こちらの潜入を阻止するべく迎撃に出て来てCPUも交えての非対称マルチ化したPvP形式になる点は面白いものの、PvPが確実に行われる訳ではないためマッチングにはやや難がある事と、ハメ技のようなものが成立したりとPvPとしてのバランスには問題があるため、こちらも上手く機能しているとは言い難い。

実装難度が上がってしまう事は承知の上だが、マザーベースの構造や敵兵士の配置場所・巡回経路をユーザーがある程度自由に変更する事を可能にするなど、いわゆるUGC(User Generated Contents)として機能するように設計した方が良かったのでは無いかと思える。
UGCとして上手く機能できれば末永く遊べるエンドコンテンツに昇華できたかも知れない。

 

グラフィック

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こだわりのカメラワークと光陰表現

MGSVのグラフィックはフォトリアルなスタイルで表現されている。
その品質は高く、少なくとも日本メーカーのフォトリアル路線の作品であれば間違いなく頭一つ抜けてトップクラスと言えるだろう。

カットシーンでのカメラワークでは「人が歩いたり、走ったりして撮影している」 かのような揺れが特徴的だ。このような演出は2010年代前半~中頃にかけての映画において用いられ話題となった手法だったように記憶している。
カメラのパンやズームイン、スロー演出などどれもがこだわりを感じるものとなっている。

アニメーションにしてもモーションキャプチャーを利用した出来の良いリアルなものが主体だが、時に滑稽でコミカルなモーションも用意されており、こういった部分においてもリアル一辺倒にならない最適バランスを探す事を忘れていない流石の調整だ。

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レンズフレア

本作で特徴的なのはカメラワークだけでは無く、レンズフレアも同様だ。
小島監督レンズフレアへのこだわりが強いのも有名だが、本作では映像的演出としてだけでなく「サーチライトで敵がこちらを向いているか」の指標ともなっており、特徴的なSEと共に危険を知らせるサインとしてもゲームプレイとして機能している。

 

サウンド

MGSVの音楽はオープンワールド型のゲームに多く採用される環境や状況に合わせたBGMが流れるインタラクティブミュージックと言われるようなものが採用されている。
そのため、メロディは全体的に弱く過去作のように印象に残るBGMが少ないのは残念なポイントだ。

だが、本作におけるメインテーマとも言える音楽は非常に印象的だ。

本作の"復讐"を体現したようなマグマのように煮えたぎる「Sins of The Father」

平和の儚さと切なさが感じられる「Quiet's Theme」

出撃設定画面にて流れるビッグボスの象徴的テーマ「Peace Walker Main Theme」

本作はゲームプレイ中に聴く事が出来るボイス音声も豊富だ。
中には初回プレイでは気が付かないような条件で発生する専用のセリフが用意されていたりとミッションの攻略ルートや攻略順に応じたセリフが用意されている。
その他、通信やボイスレコーダーから聴く事ができるセリフも数多く存在している。

 

総評

Metal Gear Solid V : The Phantom Painは伝説的傑作だ。

復讐と回帰を描き出したストーリー。
フォトリアルとゲームプレイの最適バランスを実現したステルスアクション。
フロー理論に基づいたフィールドのレベルデザイン
印象的なメインテーマ。

唯一の不満があるとすればDLCなどでフィールドの追加が行われなかった事だろうが、ハッキリ言ってそれは贅沢な要望だろう。

本作は間違いなくゲーム史に残る傑作と言えるだろう。
「蠅の王国」と言う伝説を残して。

 

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