【レビュー】Death Stranding

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Tommorow is in your hands.

Death Stranding(以下、DS)は小島秀夫監督が指揮する新生コジマプロダクションの記念すべき最初の作品だ。

小島監督コナミ時代に制作したP.T.で共演したノーマン・リーダスが引き続き登場するという発表は衝撃的であり、感動的であったことを今でもよく覚えている。
その他にもマッツ・ミケルセンやリンゼイ・ワグナーといった著名な俳優を多数起用する事が判明していった。
しかし、豪華客船を建造しているのは十分過ぎるほどに伝わったが、その船が一体どこに向かって出港するのかわからない時期が非常に長かったのも印象的だったタイトルだろう。
各種ティザーやE3では意味深で謎の多いPVしか流れず、ゲームプレイのシーケンスが判明したのも発売の約3ヶ月前となるTGS2019になった事は異例ではないだろうか。

プロモーションに関しても非常に精力的に行っていた事も特徴的だ。
スタジオもゲームも0から作り上げ、その上AAAクラスのタイトルを制作し、失敗が許されない状況下にあった事が今回のような良く言えばアグレッシブな、悪く言えば少々節操のないプロモーションにもなったのかも知れないと感じさせる。

今回はDSのレビューに挑戦したい。

 

【PS4】DEATH STRANDING

【PS4】DEATH STRANDING

  • 発売日:2019/11/08
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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死してなおも輝く

まず、DSのストーリーは困惑する事も多いであろう事は触れておかねばならない。
プレイヤーに対して最初から容赦ない専門用語が用いられ、いかにも意味ありげな演出が続く。会話の内容もやや説教臭く感じてしまうかも知れない。
そのような状況のカットシーンが連続するのだ。
章が進めばカットシーンの頻度や説教臭さは抑えられるが、序盤を乗り越えられるかが本作をプレイする上での最大のハードルと言えるのかも知れない。

DSのストーリーは「繋がり」を頻繁に語り掛ける。
2010年代後半に見られるテロリズムや政治的な右傾・左傾の両極化、そしてそれらに呼応した民衆や民族間の分断に対してのアプローチであり、アンチテーゼが大枠としてあるのでは無いかと思える。

そのストーリーの大枠の中には更に2つの軸があるように考えている。
1つが生者と繋がるオンラインのゲームプレイ。
もう1つが死者と繋がるオフラインのメインストーリーだ。
DSのゲームプレイではオンラインによって常に他プレイヤーと薄く繋がっており、他プレイヤーの”痕跡”を感じる事ができる仕組みになっている。
行える事の詳細は「システム」の項で記載するが、このStrand(繋がり)はあくまでも痕跡といったレベルの間接的なものであり、他プレイヤーと直接的な協力プレイなどをする事は無い。
つまり、自分以外の誰かが自分と同じ目的・目標・行動をしている事をゲームプレイを通じたストーリーテリングとして「生きている人同士の横の繋がりの存在」を伝えているものとなっているのだ。
そしてDSのメインストーリーでは死者との繋がりを描いている。
本作の世界観は”ビーチ”と言う死後の世界が顕在化した、死を知覚可能になったSF世界となっている。
ビーチは正確には「三途の川」に近いもので、生から死へと向かう瀬戸際の場所であると認識するのが良いのかも知れない。
本作で登場する大半のキャラクター達は何らかの形で「死」あるいは「死者」と繋がっており、キャラクターと死の関係性は「死ねばそこで終わり」ではなく「死してなおも繋がっている」ことを表現しているように思える。
個は死んでも、繋がりがあれば意志が受け継がれていくという「生から死 / 死から生への縦の繋がり」を描いているのだ。

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お当番制の進行

DSの主人公は配送業を生業としているサム・ポーター・ブリッジズだ。
サムはDOOMSと言われる能力者であり、また接触恐怖症と言われる症状を持っている。
DOOMSは幽霊のような特徴を持ったBTと言われる「死者の世界」を感じ取る事ができる能力者の総称だ。
接触恐怖症は誰かに触れられる事に対して強い拒絶反応を示す症状の事だ。
そのような症状がある事もあいまってサムは他人との繋がりに対して余り肯定的では無い。
しかし、サムはストーリーとゲームプレイを通じて様々な人達と出会い、様々な配達をこなしていく。
その中で次第にサムは直接的な触れ合いでは無いものの、間接的な様々な繋がりや誰かの想いを背負い配達をしていく事となる。
つまり、「繋がり」を描くために「繋がりを持たない/繋がりを持てない存在」を主人公として置くようにデザインされているのだ。

その他のキャラクター達も非常に魅力的だ。
ストーリーの進行は章形式となっており、各章では1人のキャラクターに焦点が当たるいわゆる「お当番制」となっている。
焦点が当たったキャラクターは掘り下げられ、どのようなキャラクターなのか、どのような生い立ちなのかなど様々な情報を知る事ができる。
各キャラクターは非常に魅力的でクリフ、ダイハードマン、ハートマン、デッドマン、ママーなどなど、どのキャラクターも甲乙つけがたい魅力を持っている。
筆者も最初は興味が無かったキャラクターもいたが、章が終わる頃にはお気に入りになっていたほどだ。
しかし、その”お当番制”という進行方法の弊害として当番が終わってしまったキャラクターは影が薄くなってしまうのは勿体ない。
どのキャラクターも素晴らしい魅力があるだけになおさらだ。

ストーリーにはSF作品らしい「謎」ももちろんある。
サムとは誰なのか、アメリとは誰なのか、拠点のカイラル通信はどのように作られているのか。
そしてそもそもDeath Strandingとは何なのか。
ストーリーを進めていくうちにそれらが次第にわかっていく事だろう。
また、自分自身で予想を立てながら観ていくのも面白いハズだ。
もしも、興味があるのであればゲーム内ドキュメントという形で世界設定を掘り下げられるものが用意されている。もちろん、興味がないならば観る必要は無いためゲームプレイの邪魔となる事も無い。

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ゲームと言う媒体を自己批評的に捉えた演出

DSの様々なポイントでビデオゲームに対する自己批評的な演出…つまりは「ビデオゲームとはどうあるべきなのか」を考えさせるような演出も盛り込まている。

時にはプレイヤーの行いに対して「(ありがちな)ゲームを望んでいるのだろう」と問いかけられ、時にはストーリーの構造を「マリオとピーチ姫」にも例えたりする。
更には格闘ゲームのような演出まで盛り込んだり、セルフオマージュも含まれる。

小島監督の「ゲームは更に次のレベルに行くべきだ」「もっと出来る事があるハズだ」と言う問いかけをしているような気がしてならない。

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良いセンスだ。だが、惜しい。

ここまで色々と書いてきたが、ストーリーあるいは演出において「素晴らしい」と感じつつも、同時に「惜しい」と思う部分も多かった。

まず最初に記載したいのは曲の演出だ。
本作ではストーリー上で特定のタイミングになると歌が流れ始め、カメラワークも専用に変化する場合がある。
この歌の演出は新しい配送先の拠点に近付いた場合に流れる事が多く、その演出は正に「プレイアブルムービー」のような感動的でこだわりが感じられる演出となっている。
しかし、拠点間の距離が短く、拠点Aから拠点Bまで10分もあれば到着してしまうため「すぐに曲流れるなぁ」という印象になってしまう事が感動を薄めてしまっている感は否めない。
あくまで筆者の好みにはなるが、やはり1プレイではなかなか到達できない程の距離感があって初めて大自然の中に見える拠点と言う人工物(他人の存在)が感動的に映るのではないかと思う。
10分と言えば首都圏であれば自宅から最寄り駅までの距離と言っても差し支えないものだ。
それでは折角の素晴らしい演出も本領を発揮できないのではないだろうか。
開発側には酷な要求にはなるが、やはり1時間以上はかかる道のりを提供して欲しかったと言わざるを得ない。

ストーリー中にはNPCと一緒に移動するケースも存在する。
その際にはNPCが語り掛けて来るのだが、場合によっては会話が途中で途切れてしまう状況になる事は本作のようなゲームでは避けられないのは想像に難くない。
しかし、本作では「それでね」などと語りかけ会話を切り出して前回のセリフを途中から継続して喋ってくれるようになっているのは非常に丁寧に作られている。
しかし、その他のシチュエーションにおけるNPCのリアクションが毎回ほとんど違いが無いのは少々寂しい。
特に頻度として最も多く、最も観る事になる荷物を配達した際のリアクション(セリフやモーション)に変化や違いが少ないのは寂しい限りだ。
また、NPCから送られてくるメールの内容も主要キャラクター以外は個性が薄い事も少々寂しく感じる所だろう。
逆に配達物を収める際の演出やBTが近くにいる際の演出がイチイチ挿入されるのはゲームに慣れて来ると邪魔に思えてくるため、簡単にスキップできる方法を提供して欲しかった所だ。

 

システム

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マインドフルネス的方法論によるプレイヤーを没頭させる手法

DSの主軸となるシステムを端的に表現してしまうと「おつかい」だ。
基本的に拠点Aから拠点Bに荷物を運ぶ事がメインで、少し違うものがあったとしても落とした物を拾って届けるといった程度だ。
これだけ見てしまうと明らかに面白くなさそうだが、実際にはそうではない。
本作では「マインドフルネス的な方法論によってプレイヤーを没入させる」ことに成功している。

まずはDSの基本システムを簡単に説明したい。
本作は前述の通り「おつかい」が基本だ。
主人公サムは配達対象の荷物を担いで移動する事になる。
しかし、担ぐ荷物が多かったり、荷物の重心が偏っていたり、スタミナが低い状態の場合にはサムは体勢を崩しやすく、体勢が崩れた際にはR2/L2を片方あるいは両方押してバランスを保つ必要がある。
もしも入力が間に合わなければサムはバランスを崩して転倒し、配達物が損傷してしまうのだ。
このシステムが前面に出るようにフィールドがデザインされており、躓くような小石がフィールド一面にあったり、傾斜があったり、川が流れていたり、強風が吹いていたりと自然の驚異がサムのバランス感覚を襲うようになっている。

次にマインドフルネスについても簡単に説明させて欲しい。
マインドフルネスとは「精神を”現在”に集中させる」ことに主眼を置いた方法論であり、フロー理論とも非常に近い関連性を指摘する声も多い。
有名なため知っている方も多い事だろう。
人間の脳内は何もしていない(何もする事がない)ような状態ではデフォルトモードネットワークと呼ばれるものが活性化し、雑念やネガティブな感情が発生しやすい状態となる。
つまり、デフォルトモードネットワークが活性化している状態(雑念)と言うのは「何もしていないにも関わらずリラックス(回復)できない状態」なのだ。
この雑念と言うものは「過去」あるいは「未来」について考えてしまうために発生するのであって、「現在(いま)」という瞬間にだけ集中する事でデフォルトモードネットワークを非活性状態にし、精神(脳)のリラックスや回復を図ろうとするのがマインドフルネスの目的となる。
つまりは「目先(現在)の何かに没頭することが本当のリラックスに繋がる」という事だ。

では本題となる「DSにおいてはどのようにマインドフルネス的方法論を実現しているのか」を書いていきたい。
本作のメインシステムは確かに移動するだけだ。
しかし、荷物を持ち過ぎたり、スタミナが減ってきたり、整備されていない悪路を歩けば体勢を崩しやすくなっている。
そして体勢を持ち直すためにはR2/L2を押す必要がある。
そう。ただ移動するだけなのだが「目先の移動に集中しなければ、途端にサムは転んでしまう」のだ。
歩きやすい足場か、荷物の状態はどうだろうか、などなどデザインされたフィールドとシステムによって強制的・必然的にプレイヤーは現在の事だけに集中し、過去(何が起きたか)や未来(運び終えたら何をするか)を考える余地を許さず、マインドフルネス状態に移行する。
ゲーム内の移動がリラックス(楽しさ・ポジティブな体験)になると、プレイヤーは次第に内発的なモチベーションによって荷物の運搬をするようになる事だろう。
また、サムの移動自体のモーションや挙動の慣性は全体的にはリアル志向だが、重心の整え方や荷物の取得の仕方などの部分ではリアルさよりもゲームプレイ重視となっている事も体験に良い影響を与えている。
フォトリアルな映像を用いながらも、要所の部分では快適なゲームプレイになる配慮を忘れていない小島監督の”最適バランス(=中庸)”の志向は今作でも健在だ。

なお、ここで得られる楽しさは「何かに集中する楽しさ」である。
この体験に近しいものを例えるならば、子供の頃にやりがちな「道路の白線渡り」に感覚が近いと表現すれば伝わりやすいのではないかと考えている。
そのため、この作品における「楽しさ」というのは理解しやすい爽快感やカタルシスのようなある種の「ゲームらしい露骨な楽しさ」といったものではない。
その点において、プレイヤーによっては肩透かしのように感じる部分になっている事は注意した方が良いだろう。

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障害として機能しない敵

DSにおいてサムの行く手を阻むのは自然だけではない。
ミュール(配達依存症)と言われる略奪者とBTと言われる幽霊のような敵の存在も立ちはだかる。

ミュールとは昔はサムと同様の荷物の配達人だったが、よりエクストリームな荷物を求める余りに他人の荷物を強奪するようになってしまった人達の事だ。
ミュールはサムでは無く荷物に対して異常な興味を示す存在であるため、特定の荷物をデコイとして活用すればおびき出す事も可能だ。
物語が進めばサム自身を狙ってくるテロリストも登場するようになる。
テロリストになると銃器によってサムを襲撃するようになるため危険性が非常に高い相手となる。

BTは日本的にわかりやすい表現をすれば「地縛霊」のようなもので、人間の肉体を探している幽霊と説明すれば理解しやすいだろう。
BTは移動中に視認する事ができず、静止すると姿がぼんやりと確認できる。
BTがいるエリアに侵入すると不穏なBGMが流れ始め、カメラについた雨の水滴は上昇し、フィールド上の草花は生えては枯れる。これによってBTが存在する不気味なエリアであることを演出し伝えている。
また、実際にBTが近くにいる場合にはセンサーが激しく反応を示し、更にはコントローラーからBBの泣き声が聴こえる凝った演出まで行われ、危険をプレイヤーに教える。
BTに見つかり捕まるとサムの周囲がタールの沼地に変わり、そこに引きずり込まれると大型のBTが出現する。

しかし、ミュールやBTなどは根本的な問題を抱えている。
それはその立ち位置だ。
彼らはサムの配達業の前に立ちはだかる障害だが、障害としては余りにも脆弱だ。
ミュールは近接で数発も殴れば気絶するし、手頃な壊れても良い荷物を武器として使用すればもっと簡単に制圧できる。
BTに捕まった際に対峙する事になる大型BTにしても、攻撃する際に必要な対BT兵器はオンラインよる他プレイヤーからの支援によって実質的に無尽蔵に供給されるため、さながら弾薬庫にいながら戦うに等しい。
ミュールにしてもBTにしてもゲームの構造に慣れていない最序盤でこそ恐怖を覚えるが、中盤にも差し掛かる頃には機械的に処理するだけの他愛のない存在へとなってしまっているだろう。
これはストーリーテリングとしては「恐ろしいと思える相手も、知る事で意外とそうでもないと気が付く」という事を表現していると受け取れる。
しかし、純粋なゲームとしての側面で捉えると即物的な障害でしかなく作品と真にマッチするにはパーツが欠けているように思えてならない。
かなり欲張りな要求だとは承知の上だが、ストーリーテリングとゲームプレイを両立したデザインを望みたい所だ。

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マッチしきらないオンラインの構造

「ストーリー」の項でも少しだけ触れているが、DSのオンライン要素は広く薄く繋がるものとなっている。

全く知らない他人がフィールド上に建てた看板や設備がオンライン上で共有され、自分が利用する事が出来るようになっている。もちろんその逆も然りだ。
フィールド自体もオンライン上の他プレイヤーの影響によって変化していき、多くのプレイヤーが通った経路は小石などの障害物がほとんどない"道"になり移動を楽にしてくれる。
本作では「自分のために設置した施設や設備、そして移動経路が見知らぬ誰かのためになる」のがオンラインの構造となっている。
また、そのような構造であるが故に「自分だけでなく、より皆が喜ぶポイントに設備を設置しよう」と思う事も多くなるだろう。
このような「自分だけでなく、より社会全体(共同体)にプラスを還元しよう」と思わせるのはアドラー心理学における「共同体感覚」と近しい発想があるかも知れない。
本作のテーマである「繋がり」にしても共同体感覚との関連性があると見ても良いだろう。

しかし、本作においてオンライン上で共有される他のプレイヤーの痕跡は本作の良さを殺してしまう要素でもある。
無造作に共有された「親切心」は、本作のメインシステムである「移動」という行為を楽にしてくれる一方で、「移動の楽しさ」を減退させてしまう。
快適な移動経路が確立されてしまった配達はAからBへ移動するだけの本当の「おつかい(作業)」に近付いてしまうのだ。
ゲームプレイの仕方によってオンライン上のアイテムや施設が共有される頻度は変動するようだが、「絶妙なタイミングで他プレイヤーの施設やアイテムが利用できる」ようにお膳立て(デザイン)をして欲しかったように思う。
例えば、サムの体力やスタミナが低くなったり、荷物の状態が悪くなった際に他プレイヤーの残した要素が出現して利用できるようになるなどだ。
これはもちろん小島監督の描きたい要素とは異なる可能性はあるが、少なくとも現状では整理されていない混沌の中に身を置いているに過ぎず、「不便だが楽しい移動を取るか、快適だが作業的な移動を取るか」の二択になってしまっている。

また、エンドコンテンツとしての弱さも勿体ない所だろう。
制作コストが高い大規模な公共事業はあるものの、自己満足的な側面が強くクリア後にも楽しめるエンドコンテンツになっているとは言い難い。
配達と広く薄いオンラインを活かしたUGC(User Generated Contents)などのエンドコンテンツがあればクリア後の満足度が高かった事だろう。

 

グラフィック

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美しい自然風景

DSの大自然のグラフィックは非常に美しい。
新設されたばかりのコジマプロダクションでは多様な作り込みは難しかったために、人工物(街や車など)のオブジェクトを極力作らないという割り切った制作を行ったのかも知れないが、その甲斐あってかフィールドの美しさはPS4の中でも上位に入るレベルだ。
また、「割り切った制作」に感じさせないために物語の設定ともシンクロさせており、シナリオとゲームプレイの両方を手掛ける小島監督だからこそ出来る判断だ。

本作の見た目として困る点としては、フォントサイズも小さい事もあいまってGUIの構造が少々わかりにくくなっている事だろう。
オープンワールドを採用したゲームではGUIを必要最小限の簡素なものにしようとするのが2010年代後半に顕著にみられる傾向だが、本作では少しやり過ぎてしまった所があるだろう。
なお、GUIの改善は2019年12月のアップデートで改修がされている。

また、自室(プライベートルーム)にいる時に限りファストトラベルは可能なものの、通常のPS4(SSD未換装)では所要時間が90秒程度とかなり長い。
気軽にできるとは言い難く少々残念だ。

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ノーマン・リーダスと少しだけ遊べるプライベートルーム

DSではプライベートルームと言う休憩所がある。
プライベートルームではサムの体力やスタミナが全快するほか、飲み物を飲んだりシャワーやトイレと言った生活感溢れる要素も用意されている。
一般にはこのような生活感溢れる要素は最初こそ物珍しさからプレイするものの本質的にはゲームとして機能しにくい事が多く無視される存在になりがちだが、本作ではサムの血液や老廃物と言ったものがBTに対して有効な武器となるためリアルさとゲームプレイの両立が行われている。
ここでも小島監督の最適バランスを捉える力が発揮されていると見て良いだろう。

とは言え、プライベートルームでのサム(ノーマン)との触れ合いは少々物足りない。
サムのモーションのパターンも物足りなく思えてしまうし、プライベートルームもどこも同じ構造なのは少々寂しいと感じるだろう。

 

サウンド

ストーリーの項でも少し述べているが、歌が流れる演出は非常に素晴らしい映画を観ているかのような感動を覚える。
流れる歌はどれも一人旅を感じさせるようなものが多く、作品に非常にマッチしている。

本作の最初のPVでも使用された「I'll Keep Coming」

孤独な旅を感じさせる「Asylums for the feeling feat. Leila Abu」

などは特に印象に残りやすいだろう。
その他のBGMは敵がいる場合には不穏な曲が流れたりとオープンワールドを採用したゲームに多いインタラクティブミュージック的な手法による変化を採用している。

 

総評

Death Strandingはゲームにおいて手段でしかなかった移動を、移動自体が目的になるように変えた意欲的な作品だ。

他者の痕跡を感じながら荷物を運び、美しい大自然を望み、孤独な旅をし、映画のような演出の楽曲が雰囲気を盛り上げ、往く先々では魅力的なキャラクター達と出会う。
そして配達(移動)が楽しいものだと知る。

本作はそれ以上でも、それ以下でもない。

 

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