【レビュー】ホワイトライオン伝説 ピラミッドの彼方に

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夢も希望もありゃしない

ホワイトライオン伝説 ピラミッドの彼方に”はケムコより発売されたファミリーコンピュータ(以下、FC)向けのRPGだ。
本作の発売のおよそ1年前には「ピラミッドの彼方に ホワイトライオン伝説(1988年)」という映画も公開されていたという。
同じ企画でゲームと映画の2つのラインで動いていたのか、映画からスピンオフして作成された内容なのか、詳しい経緯は不明なのだが、何にせよ同名の人物や地名が登場するなどリンクはしているメディアミックス的な展開が行われていたのが特徴的だ。

筆者としては本作に苦い思い出がある。
小学生の頃にプレイに挑戦したのだが、ストーリーの進行方法が全然わからずにお手上げ状態でクリアできず…どころか全然進められずに投げ出してしまっていたのだ。
今回は雪辱を果たす意味でも再度挑戦した本作のレビューをしたい。

なお、今回のレビューはROMが欠損していたためか一部のダンジョンが正常に表示されない状態でのプレイとなった点は留意して欲しい。

 

ホワイトライオン伝説

ホワイトライオン伝説

  • 発売日:1989/07/14
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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ホワイトライオンにまつわる冒険物語

まず、注意点として本作はFCにて発売されたタイトルであるため、ストーリー自体はかなり簡素な仕上がりとなっている。
テキスト量は豊富では無いため、自分自身である程度の補完をする必要はある事は先に知っておくべきだろう。
また、次にどこに行けば進行するのか明確にはわからない事はもちろん、ストーリーの進捗を忘れてしまうとリカバリーする術がない事も(当時としては普通の事ではあるが)注意した方が良いだろう。

本作はホワイトライオンの伝説について調べるために旅立ち、そして消息を絶った両親を探すべく冒険を始めるマリアという女の子が主人公だ。
しかし、冒険の途中に事故があり、気が付くと夢の世界という場所に来てしまい、そこに住む妖精からは元の世界には戻れないと聞かされる。
元の世界に戻り、両親を見つけるための冒険をするのが本作のストーリーだ。

本作は冒頭に書いた通り、タイトルや登場人物名もほぼ同一で、主人公の女の子が冒険をするというシチュエーションも同様の映画が存在している。
関連性のある要素が共通している部分もあるが、物語全体のプロットはほとんど異なるため、どれほど意識して制作されているのかは不明だ。
筆者もこれを機に少し映画を観てみたのだが、本作の世界設定を深く知るために映画を観る必要はないように思える。

本作のテーマとしては「希望、勇気、夢」としているようには考えられるのだが、初志貫徹してそのようなテーマで制作されているのかはやや疑問が残る。
何故なら本作が語り掛ける希望や勇気、夢などのテーマ性がプロローグからは微塵も感じられないためだ。プロローグは上述した通り、両親を探すための旅であり、主人公であるマリア自身の内発的な「前へ進むための希望」「踏み出す勇気」「叶えたい夢」として捉えると即物的かつ外因的であり少し趣が異なる。このような構成では「崖から突き落としてきた相手から『困難が人を成長させるのだ』」などと諭されるような、どこか理不尽な印象さえある。
技術的な観点で言えば本来ならば「希望、勇気、夢」を描く場合には、例えば「後ろ向きで、臆病だが、叶えたい夢がある」ような人物を主人公などに据えて逆説的にテーマを語る手法などが考えられるハズなのだ。
この辺りのテーマとストーリーに一貫性が無いのは映画のプロットも同様であり、共通の企画から開発が開始された名残りなのかも知れない。

昔のゲームにはままあったが、本作でもNPCに話しかける事が進行において重要である。
NPCのテキストが豊富という訳では無いが、話しかける事で進行に必要な情報を得ることが出来るようになっているのだ。
なお、ホワイトライオンの正体についてはエンディングに到達せずともNPCのセリフから想像できるようにもなっている。

本作において特筆すべきポイントがあるとするならば当時としては珍しかったであろう女の子が主人公のRPGである点ではないだろうか。
その点は確かに特筆できる点ではあるのだが、妖精などが登場するファンシーな世界でありながら、まだその特徴を活かすノウハウが薄かったのか登場する道具が”こんぼう”や”ロングソード”など妙にリアルなものが多く、戦い方も「敵をロープで動けなくし、こんぼうや剣で滅多打ちにする」ような形となり、この時代の表現であるからこそ可能だったようなエグイ戦法が要求される。
そのため、どの年齢層をターゲットにしたかったのかも良くわからない印象にはなってしまっている。

 

システム

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基本はドラクエフォロワーのRPG

本作はドラゴンクエストフォロワーのRPGだ。
GUIやフィールド、ダンジョンの構成などドラゴンクエストのテイストを強く感じさせる。
ステータスなどの名詞チョイスは独特で”きぼう”、”ゆうき”、”ゆめ”となっているが、平たく言えばそれぞれレベル、HP、MPだ。
レベルを意味している「きぼう」は戦闘で上がる事は無い。
敵を倒して得られるのは通貨に相当するルビーだけだ。
レベルを上げるためにはダンジョンの宝箱に入っている「きぼうのかけら」を入手する事で上昇する形となる。
HPを意味している「ゆうき」が無くなるとルビーが半分になった状態で最後の中継地点まで戻されてしまう。
この辺りも当時のドラクエとほとんど同様の仕様だ。
MPを意味している「ゆめ」はアイテムに宿った精霊を召喚する際に消費する。
精霊は本作において非常に重要なシステムとなっている。
呼び出した精霊は単純にダメージを与えるようなスキルのような類ではなく、マリアと共に戦う味方キャラクターのようなもので、戦闘中に味方キャラクターを増やして戦うという少し独特なものだ。
言わば、マリア自身のターンとMPを消費して手札を補充し、手数を増やして戦うような戦法なのだ。
MPが許すならばガンガン使って味方をどんどん増やし、手数で圧倒するように戦うのが理想的だ。
なお、レベル(きぼう)が上昇する事で精霊たちの性能も向上していくので序盤の精霊でもしっかりと後半でも活躍できるように設計されているのだが、MP(ゆめ)の消費量も増加するため単純な燃費が良くなる訳では無い点は注意だ。

戦闘中の自分のターンなどに主人公であるマリアの顔のグラフィックが映し出されるという特徴も有している。
ドラゴンクエストは一貫して「主人公はプレイヤーである」という視点で進行するため、主人公の顔が大々的に映し出される事はない。これはドラクエTRPGを起源とした「ウルティマ」や「ウィザードリィ」から着想を得た事に由来するものなのだろう。
対して、本作は”マリア”というプレイヤーとは明確に「=(≒)」にはならないキャラクターが主人公である。その表現としてドラゴンクエストとは異なる手法が取り入れられたのでは無いかと考察できる。

本作がドラゴンクエストと少し異なるのはそれ以外にもあり、装備と言う概念がないという点も挙げられる。
手に入れた道具をスキルのように選択して戦うターン制RPGとなっているのだ。
道具の中には単純に攻撃をするもの以外にも、ダメージ軽減効果や敵を無力化できるようなものもあり、それらの効果を駆使して戦うのが非常に重要だ。
特に回避性能が高い敵に対してはロープで捉えて動けなくするのが安全だという事は覚えておいた方が良いだろう。
ただし、戦闘で効力を発揮しない道具も存在し、道具の効果が説明されたり、テキストで書かれていたりする訳でもない。
試してみないとわからい事は多いため注意が必要だ。

攻略チャートもしっかりとデザインされているように見受けられる。
例えば、ストーリー的にマップの最初の方に戻る必要があるような場面が出て来るのだが、その時期にはファストトラベル的なアイテムが入手できるようになっている。
このような基本が押さえられているのは良いポイントと言えるだろう。

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心折れた時が本当の終わりなのだ

上述した通り、本作にはレベル(きぼう)、HP(ゆうき)、MP(ゆめ)以外のステータスの概念がなく、ザコ敵を倒してレベリングも行えない。
それはつまり「ほとんど固定のステータスで戦い続ける」という事に等しい。
そのため、終始制作者の意図通りの難易度で遊び通せる事に繋がり、「頑張ればギリギリなんとかなる」といった具合のバランスで調整しやすく、実際そのように調整されているように見受けられる。
しかし、ギリギリのバランスで調整された本作は裏を返せば道中のザコ敵も全く油断ができないシビアなプレイを要求されるという事でもある。
レベリングができないし、攻撃の命中率もやや渋い、自分と敵のどちらが先手を取れるかも運次第で、回復手段も限られており、ダンジョンでは3体も同時に相手をしなくてはならなかったりとザコ敵がずっと強くあり続けるのだ。
その上、バフやデバフを駆使して戦い続ける必要があるためターン数も必然的にそれなりに必要となり時間がかかる。
緊張感のある戦いを求める人にはオススメできるが、サクサクと進めたい人やレベリングが好きな人には向かないだろう。

また、調整されたバランスがしっかりと整っているのかと言われるとそれはまた別問題のように思える。
本作のエンカウント率の高さはデザインとして食い違っているのだ。
リワードがほとんどなく、苦戦必至のザコ敵と高頻度で戦うのは精神力をかなり削ってしまう。
本作のザコ敵は酷いときには1回の戦闘でHP(ゆうき)を半分も削られるのだが、こういった期待値を設定しているのであれば、中継地点あるいはボス戦までにどれくらいのエンカウント数でまとめれば良いのかが逆算できたハズである。
ザコ敵を倒す意味合いが低いため、エンカウントをかなり抑えめにして、その分のリワード(本作ではルビー)を多めにして、リスクとリターンのバランスを整えた方が良かっただろう。
その物量のバランスが整えられていないのが本作の唯一にして最大の欠点とも言えるだろう。

これが一般的なJRPG形式のザコ敵からの経験値でレベルが上がるような方式ならば、エンカウント率の高さもまだ耐えられる余地があるが、それがないために純粋な消耗戦となってしまいプレイしていて果てない道のりを感じてしまう事だろう。
強力なザコ敵と幾度となく戦い、敗れてはセーブ地点に戻され、上述の通りだが戦闘ではバフやデバフを駆使しなければならず戦闘自体も時間がかかる。
当時には多かった”少しでも長く遊んで貰うため工夫”だったのかも知れないが、時代を感じさせる非常にレガシーでチープな設計である事には変わりはない。

 

グラフィック

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FCとしては標準的なグラフィック

本作の映像面は当時のRPGとしては標準的なレベルだと言えるだろう。
マップチップなどはやはりドラゴンクエストの影響を強く感じさせるものになっている。

 

サウンド

全体的にはファンシーなBGMが特徴的だ。
特に街やダンジョンを繋ぐ役割のフィールドのBGMは魔法少女アニメのBGMのようだ。
とは言え、戦闘BGMは緊迫感があり、戦闘自体の渋さも相俟って良くも悪くも苦しい思いをさせられるだろう。

 

総評

"ホワイトライオン伝説 ピラミッドの彼方に"はほとんど決められた能力値で攻略をする必要がある詰将棋のようなかなりシビアでタイトなRPGだ。

一貫したテーマが感じられないストーリーやエンカウント率の高さがリスクとリターンとして食い違うなど、いくつかの面が足を引っ張る結果になってしまっている。
かなりの歯応えを求めるプレイヤーにはオススメしても良いかも知れないが、一般的に想像されるようなRPGを求めているプレイヤーには刺さりにくいだろう。
また、古いタイトルであるため当然の事ではあるがレガシーな面も強いため、今からプレイしようと考えた場合には、不便な部分や不親切な部分は覚悟した方が良いだろう。