【レビュー】ドラゴンクエスト モンスターズ テリーのワンダーランド

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目指せモンスターマスター

ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド(以下、DQM)は筆者が初めてまともにプレイしたドラゴンクエストシリーズの作品である。
それ以前にもドラゴンクエストシリーズはプレイした事はあったのだが、キャラクターや一人称視点ライクな戦闘画面などにどうにも馴染めなかった。
これは聖剣伝説ファイナルファンタジーといったスクウェアRPGを嗜んでいた筆者には、楽しいと感じるツボが微妙に違うような印象を受けていたのが原因ではないかと考えている。
しかし、そんな筆者でも楽しいと感じる事ができたドラゴンクエストシリーズがあったのだ。
それがDQMである。

なお、今回は原作であるGB版でのプレイとなる。
リメイク版とは異なる点がある事はご了承願いたい。

 

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ストーリー

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子供心をくすぐる導入

まず知っておいて欲しい事はDQMはストーリーを目当てにプレイするべきものではないという点だ。
ストーリーらしい設定や会話は存在するが、内容はあくまでもゲームプレイがメインとなる。
ストーリーは味付け程度のアッサリとしたものである事が前提と思って良いだろう。

DQMのストーリーはアッサリ味になっているが、その導入は見事だ。
寝付けない真夜中に突如現れたマルタの国の”ワルぼう”という魔物(モンスター)に姉ミレーユが連れ去られる。
主人公であるテリーは同様にして現れたタイジュの国の”わたぼう”という魔物に連れられて、姉ミレーユを探すために魔物使いであるモンスターマスターを目指すというのが本作の導入になっている。
姉が連れ去られるというマイナスから始まる(何かを失う)というオーソドックスな導入を行っているのだが、何よりも「夜更かしをしていたらタンスから魔物が表れて異世界に行く」という子供心をくすぐる設定になっているのは素晴らしい。
本作はゲームボーイと言う比較的若年層向けのハードにて発売された作品になるのだが、そのターゲット層を見事に撃ち抜く素晴らしい導入だ。

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ドラクエらしいコミカルな部分

DQM内で喋る事ができるタイジュの国のNPC達のセリフは物語の進行とともに定期的に変化するなどGB作品としては芸が細かい。
また、随所にドラクエらしさのあるコミカルな会話も散りばめられている。

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シリーズを踏襲した要素

ドラゴンクエストシリーズのファンに対してのファンサービスも面白い。
ダンジョンにおける最終地点ではドラゴンクエストシリーズの特定シーンを思わせるものが使用されている事も多く、ファンにとってはニヤリとできる興味深い内容になっているハズだ。
また、本作の主人公であるテリーは元々はドラゴンクエスト6にて登場しているキャラクターであるため、それを踏襲したイベントが用意されている場所もあり面白い。

 

システム

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モンスターを仲間に

DQMのシステムの主軸はモンスターを仲間にしていくというものだ。
モンスターを仲間にするドラゴンクエストと言えば、ドラゴンクエストⅤ(1992年)で既に一部が実現されているシステムである。
しかし、モンスターを仲間として収集するだけでなく、それを友達と対戦や交換などを行えるという作品はポケットモンスター(1996年)以降のGB作品に少なからず見られる傾向があり、本作もその潮流のフォロワーの1つであると言えるだろう。

戦闘自体は古来からのドラクエ形式のシンプルなターン制が採用されている。
パーティーメンバーは3体のモンスターを連れて歩く形となっており、主人公は基本的にモンスターに指示を出すのみになっている。
従来のドラクエ形式の戦闘であるため強力な攻撃手段に頼るだけになりがちで、戦闘を繰り返すうちに飽きが来てしまうのが少々早い。
言わば噛めば噛むほど味が無くなるガムのようなものであり、奥深さがある訳では無いのだ。
そのため、本作は戦闘そのものに楽しさを見出すと言うよりも、自身のモンスターの「育成」と「育成の成果」を確認する事が戦闘におけるモチベーションであるといった方が正しいだろう。

敵が出現する事になるダンジョンはランダム生成されたものとなっており、ダンジョンの最下層を目指すのが目標となる。
ダンジョン内では敵がランダムエンカウントで出現するが、最下層にいるボスを倒すためにはある程度の戦力を温存しておく事も考えなくてはならない。
このダンジョンは基本的にランダム性のある「突発的なイベント」を楽しむように作られている節がある。
例えば、下層に降りた際にはランダムでHP/MPを全回復できる教会に到達する事もあれば、戦う事でアイテムを貰える闘技場に到達する事もある。
また、ダンジョン内で特定の行動後に下層に降りれば、他国のモンスターマスターがダンジョン内を徘徊するケースもある。
ダンジョン攻略自体は敵と戦いながら下層を目指すというシンプルなものだが、これらの要素によって単純な消耗戦という作業になり過ぎないように工夫されている。

ダンジョンに出現するモンスターには肉を与える事で戦闘後に仲間になる可能性がある。これによってプレイヤーはモンスターを増やしていく事が大切だ。
なお、最初期のダンジョンでは肉を与えずともある程度は仲間になってくれるように配慮された設計になっている。
パーティーメンバーに入りきらないモンスターは牧場に預ける事になるのだが、この牧場のモンスター保有可能上限が少なく簡単に満杯になってしまうのは少々残念だ。

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モンスターを掛け合わせていく

本作で最も特筆すべきユニークなシステムはモンスターを配合して強くしていく要素だ。
配合とはダンジョンなどで仲間になった♂と♀のモンスターを掛け合わせ、その子供を作るというシステムだ。
配合に使用した親モンスターはいなくなってしまうため、その点に関しては注意が必要だ。

配合によって生まれたモンスターは親モンスターの強さに応じて初期ステータスや覚える技などが非常に強くなるため、ダンジョン内で仲間にしたモンスターなどは配合によってどんどん強く、どんどん別の新しいモンスターにしていく事になるのが本作のメインのプレイサイクルだ。
例え同じモンスターであっても、自分が手間暇かけて育てれば驚異的なモンスターへと変貌させることが出来るようになっている。
配合によって未知のモンスターや強力なモンスターを生み出したり、自分が好きなモンスターを強くするなど、配合の仕方次第でプレイヤー毎に違う体験ができるナラティブとなるのは本作が単純なポケットモンスターフォロワーから脱したポイントだ。

しかし、本作の配合にも問題点がある。
配合を繰り返していく事で全てのモンスターがステータスカンスト状態になってしまうため、モンスター毎の個性が失われてしまうのだ(正確には呪文・状態異常耐性に関してはほぼモンスター固有の状態であるが)。
明らかに弱そうなスライムと見た目にも強そうなバトルレックスなどが同じ土俵にいるのは不自然極まりない。
全てのモンスターを何の制約も無しに同じ土俵に立たせてしまっているために、結局はモンスターの特徴を殺す結果になってしまっているのは印象的なモンスターが数多く登場するだけに勿体ない。
特に筆者はキャラクター毎の個性がしっかりと担保されている事を重視している所があり、この仕様は残念に感じる所だ。

本作では配合時に強制的にセーブが行われてしまう事もやや不親切に思える。
うっかりミスをして想定と異なる組み合わせの配合をしてしまうと取り返しがつかないのだ。
もちろん細心の注意を払っていればミスする事はないのだが、不用意にボタンを連打などすると発生しかねない事象である。
そもそも配合にはランダム要素が絡む事もないためセーブを行う必要性・必然性も余り感じられない。この仕様自体に疑問が残る所だ。

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シリーズファンが驚く登場モンスターも

DQMには登場モンスターにもファンサービス的な要素がある。
クリア後に行けるダンジョンには歴代のラスボス級のモンスターが登場するほか、配合によってもそれらのモンスターを仲間にすることが出来るのだ。
シリーズファンにとっては「まさかアイツが…!!」と驚くような非常に嬉しいお祭りのような内容だ。

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各要素へのハブとなるタイジュの国

主人公の拠点となるタイジュの国の構成はとても良く出来ている。
タイジュの国はショップや配合施設、各ダンジョンへのハブとしての機能が集約されている。
しかし、それらの要素へのアクセスは段階を踏みながら徐々に解禁される形となっているため、初心者が困惑しにくいようにしっかりと導線を作れている。
また、タイジュの国は縦の階層構造となっており、各施設に行き来がしやすく、配置も覚えやすいような配慮もされている。

 

グラフィック

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良く出来たモンスタードット

GB作品ではあるがモンスターのドット自体は良く出来ており、ドラゴンクエストシリーズの印象的なモンスターも多数登場し、またそれらを仲間にする事ができるのは嬉しい要素だろう。
また、DQMオリジナルとなるモンスターも登場している。

 

サウンド

DQMの楽曲はドラゴンクエストの各作品のBGMも様々に使用されている豪華仕様だ。
もちろん、本作固有のBGMも印象的で、どこか哀愁のある冒険を演出するドラゴンクエストらしいダンジョンBGM「果てしなき旅」は単純接触効果も相俟って間違いなく記憶に残るだろう。

 

総評

ドラゴンクエスト モンスターズ テリーのワンダーランドポケットモンスターフォロワーでありながら、配合と言う独自の方法論によって単純なフォロワーから脱する事に成功した作品だ。

ドラゴンクエストシリーズの印象的なモンスター、シーン、BGMが収録されているなどファンサービスも満載だ。
戦闘に奥深さこそないが、育成主体の本作にとっては間違ってはいない選択だ。
しかし、育成を主体にし過ぎているために、モンスターの個性までも殺してしまっているのは素材を活かし切れておらず勿体ない。

 

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