【レビュー】ABZÛ

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母なる海

ABZÛはGiant Squidが開発した海中探索ゲームだ。
開発のGiant Squidは「風ノ旅ビト」で知られるthatgamecampanyから独立したメンバーによって設立された経緯がある。
ゲームタイトルである「AB」は”水”を、「ZÛ」は”知識”を意味しているという。
筆者は連休があったためサクッとプレイ可能な本作に手を出してみた。

今回はABZÛについて書いてみたい。

 

abzugame.com

 

ストーリー

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テキストやボイスのない想像をするストーリー

ABZÛは様々な海洋生物を観たり、触れたりする事のできる作品だ。
本作には明確に何かを語り掛けてくるようなストーリーがある訳では無いが、人類の文明のような名残りがあったりと想像を膨らませられるような世界観が構築されている。
作中にはシステム以外でのテキストは全くなく、当然ボイスも無い。全てを映像でのみ表現しているのが特徴だと言えるだろう。
進行はステージ制のようになっているが、難解な謎解きや精密な動作を要求されるアクションがある訳でもないため、スムーズに進める事が出来るだろう。
また、本作は2~3時間でエンディングまで到達できるようなボリューム感になっている。
そのため、ゲームらしい体験(遊び)を求めている人にはミスマッチであり、海中と言う世界を体験したい、雰囲気や空気感を楽しみたいという人にこそオススメだ。

ABZÛのストーリーは何かを明確に語るようなものではないが死んだようなエリアを生命豊かに変化させるような演出もあり、”環境問題”あるいは”人と自然の調和”のようなテーマがあるのかも知れない。
とは言え、何か奥深い、考察のしがいがあるようなものを期待するのは間違いだ。
本作はあくまでも世界を体験する事に主眼を置いている作品なのだ。

 

システム

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海中を優雅に泳ぐ癒しのゲーム

広く美しい海中を泳いで、ゆったりと深呼吸できるようなヒーリングゲームだ。
海中には様々な生物がおり、色々と探す事で見つかる生物もいるので、じっくりと環境を探索して観察するのが良いだろう。
プレイヤーキャラクターが泳ぐと近くの魚群が近寄ってきてくれるなどのちょっとしたインタラクティブな要素も可愛らしい。

操作方法自体はそれほど難しい訳では無く、スティックと数個のボタンだけであるため、海中という環境を体験したいという動機で始めるライトなプレイヤーでも取っつきやすさはあるだろう。
ただし、海中という3次元的な空間を移動するという独特な操作が要求されるため、操作感に慣れる必要はあるハズだ。

「ストーリー」の項でも書いた通り、本作は「遊び」に主眼を置いている作品ではない。
しかし、全く無い訳ではなく、特定のオブジェクトに対してインタラクトする事で泳ぎ回る海洋生物の種類が増えるたり、コレクション用のアイテムが隠されていたりといった探索要素も存在はする。
その他、パズル…とは言えないかも知れないが、ギミックのあるフィールドデザインがされている場所もある。
とは言え、これらのどれも本作の世界の雰囲気を楽しみたいというプレイヤーに対して水を差さない程度であり、ゲームデザインとして整っている良いバランス感覚を持って制作されているのが伝わる事だろう。

 

グラフィック

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滑らかで色鮮やかな世界

美しい海中は彩度の高さとそれを際立たせるためのコントラストやあえて地味なシーンを差し込むなどして美しさを高める工夫が成されている。
登場する海洋生物は多種多様で、中には今では見る事の出来ない絶命してしまっている生物もいる。

プレイヤーキャラクターや海洋生物のアニメーションもとても滑らかな良い出来栄えだ。

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魚群の表現は圧倒的だ

海中の表現は美しく見事だが、中でも目を引くのは魚群だ。
この魚群はハリボテではなく、しっかりと1匹1匹をオブジェクトとして描画しているようで、プレイヤーキャラクターが通過すると避けるように動く。
これほどの群れの魚群を作り上げているのは圧巻だ。

 

サウンド

BGMも落ち着いた神秘的な印象を覚えるヒーリングミュージックが主体となっており、心を落ち着けてくれるだろう。
海中のSEも非常に良く、魚群のノイズ感などは素晴らしい。

「ストーリー」の項でも書いたが、ナレーションなどのボイスが挿入される事もないため、BGMと環境音だけで構築されている。
そのため、海の中の世界にだけ集中する事ができるハズだ。

 

総評

ABZÛは大海の癒しと体験を与える作品だ。

色鮮やかで美しい海の中と滑らかに動く海洋生物たち、世界観にマッチしたBGMやSEも素晴らしい。
ビデオゲーム=遊び」という古典的な側面ではなく、ビデオゲームの価値観が真に多様化した2010年代後半だからこそ生まれ、成立した作品だと言えるだろう。
全体は一貫した哲学で制作されているが、水中と言う3次元的なフィールドであるため、ビデオゲームの初心者は操作面で少し戸惑う部分はあるかも知れない。

 

外部記事

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