野生の息吹が目覚める
ゼルダの伝説 Breath of the Wild(以下、ゼルダ BotW)は任天堂 が開発した最初のオープンワールド (公式にはオープンエアだが便宜上記事内ではオープンワールド と呼称する)型のゲームだ(任天堂 IPという意味ではゼノブレイドクロス が最初だが)。
ゼルダの伝説 のオープンワールド 化はファンの間では特に要望の多かった要素だったのでは無いだろうか。しかし、オープンワールド と言う概念をシリーズ作品に取り入れて成功するか(楽しいものとなるか)は全くの別問題だ。 また、「アタリマエを見直す」と表現された設計アプローチも果たしてどう機能するのか全く予想ができなかった。 この2つの未知のポイントが発売前のゼルダ BotWにおいて大きな期待であり、同時に大きな不安でもあった事は確かだ。
ストーリー
本作は非暴力ポストアポカリプスだ
本作のストーリーは簡単な書き方をしてしまえば「ポストアポカリプスもの」だ。 ゲームにおいてはオーソドックスなものの1つなのだが、活用の仕方が一般的なものとは少々異なる。 一般にポストアポカリプスが採用されるケースと言うのは「プレイヤーが暴力(犯罪)を行使する事を肯定しやすい環境」であるためだ(有名なタイトルで言えばFallout やThe Last of Us など)。 しかし、本作においては魔物を斬り倒すという暴力(?)は存在するものの、人命を奪うなどの犯罪とは全くの無縁だ。 筆者はポストアポカリプスの設定は好きだが、犯罪性を肯定するために導入されるのは(見飽きたと言う意味も含めて)余り好きでは無い。ゼルダ BotWのようなポストアポカリプスの設定がもう少し増えて欲しい所である。
本作はポストアポカリプス的な世界となったハイラル を舞台とするが、ストーリー自体ががっつり存在するというものではなく、100年前の大きな戦いの影響によって荒廃したフィールド探索する事で過去の出来事を推測・考察するような”環境ストーリーテリング ”が主だと言って良いだろう。 フィールドを探索する事でいくつも発見できる瓦礫は100年前の街の名残りであり、いたるところにある大破した機械兵器(ガーディアン)は戦争の名残りである。 その痕跡を基にして昔はどのような文化や営みがあったのか、そしてどのような戦いがあったのかを想像させるようにデザインされているのは世界観を自然に伝える手法として成立している。
ストーリーは失われた記憶を取り戻す形で表現される
本作のストーリーらしい部分のストーリーテリング は「失った過去の記憶を取り戻す」という形式で表現されている。 リンクは長い眠りの中で過去の記憶を忘却し、思い出の地などに訪れる事で記憶を取り戻す。この記憶を取り戻すか否かもユーザーに委ねられており、もしもストーリーに興味のない人がいれば無視して遊んでも問題ないように設計されているのが特徴だ。
登場回数が少ないのは悲しいがキャラク ターは魅力的だ
ストーリーの内容はメインシナリオとしてはガノン を倒す事が最終目標であり、また100年前に何があったのかを知る事がシナリオとなっている。ゼルダシリーズ と言えば本編では大きく扱われないものの、過去作との繋がりや時系列を見つけ出すのもシリーズファンとしては恒例だろう。本作においても考察しがいのある作品だ。
また、筆者がプレイしている所感としてはプレイヤーに対しての動機付けが素晴らしい…いや、嬉しいと感じさせられた。 それはストーリーに絡むミファーやダルケル、ウルボザ、リーバル、ルージュ、インパ、パーヤ、シド…そしてゼルダ 。これらの人物がリンク(プレイヤー)に対して絶対の信頼を置いてくれているためだ。 リンクを信じて、全てを託してくれるのだ。 彼らとの出会いによって「ガノン を倒そう」と言う意思はプレイ開始時点よりも遥かに強くなる事だろう。 特に上記の重要人物1人辺りの登場回数(あるいはカットシー ン)で言えば片手で数えられる回数であるが、その中でも「その人物がどういう性格なのか」「その人物とリンクの関係性」が無駄なく・わかりやすく表現されているため、逆に「これだけの登場でも、これほど記憶に残るのか」と驚くばかりだ。
しかし、前述の通りではあるが全体的にみると本作のストーリー自体に関しては過去のゼルダシリーズ (特に3Dゼルダ )からすれば少々薄味になっている事は否めない。 また、全てのカットシー ンがいつでも見返せるようになっていない事も少々物足りなく感じるポイントだ。
キャラク ター達は本作でも変わらず魅力的だ
キャラク ターの魅力に関してもう少しだけ記載させて欲しい。
本作のゼルダ は非常に共感しやすい女の子として描かれているのでは無いだろうか。 自分の非力さと周囲からのプレッシャーから心が少し折れかけているようだ。 しかし、仲良くなった相手に見せる活発な一面は彼女の本質的な部分なのだろう。
ゴロン族の英傑ダルケルは歴代のゴロン族通り頼れるアニキ的な人物だ。 ヴァ・ルーダニアのイベント最後にダルケルとユン坊のシーンがあるのだが、筆者はこのシーンで胸が熱くなった。
ゾーラ族の英傑ミファーも歴代ゾーラ族と同様に少し切ない物語となっている。リンクに対しての想いや里のゾーラ達、父への想いなどとても切ない。 家族ものに弱くなった事もあり筆者には致命傷だ。
シドはミファーの弟であり、その性格は非常に明るく熱血だ。プレイヤーを調子に乗せてくれるようなキャラク ターで大好きなキャラク ターだ。
ゲルド族の英傑ウルボザは支えてくれる姉御肌の女性だ。ゲルドと言えばガノンドロフ と同族であり、そこに対しても思うところはあるようだ。
100年後のゲルド族をまとめ上げている族長ルージュは周囲の助けもあるが幼いながらもゲルド族をまとめ上げている。しかし、表に見せる事の無い彼女の本当の姿は年相応の可愛らしい女の子なのだ。
リト族のリーバルはリンクを一方的にライバル視しており、セリフなどは鼻につくのだが、それはリンクの実力を認めている裏返しでもある。ヴァ・メドーのイベント最後では少年マンガ のライバルが仲間になった時の展開のようなこそばゆい嬉しい感情になる。
他にもリンクに片思いしているシーカー族 のパーヤ、長期的なイベントやDLC でも活躍し演奏している曲が印象的なカッシーワなど記憶に残るキャラク ターはたくさんだ。
システム
本項ではゲームプレイにおけるシステム全般について記載しよう。
バトル
バトルアクションはオープンワールド 型のゲームとしては多彩だ
バトルにおいては単純に剣や槍と言った武器を振るだけでなく、お馴染みの横っ飛びやバック宙返り、中遠距離からの弓矢、新アクションとしてはジャストガード(パリィ)と言った非常に多彩なアクションが行える。 ここまでのバトルアクションが行えるオープンワールド 型のゲームはそう多くないだろう。任天堂 らしくボタン割り当てなどの操作性は抜群でストレスフリーだ。 アクションゲームにおいては例え操作に慣れたとしても、1つのボタンに複数の機能が割り当てられると、ふとした瞬間に誤操作をしてしまう経験のある人もいるだろう(例えば、アイテム取得と攻撃ボタンが共用の場合、アイテムを取ろうとして攻撃してしまうなど)。 本作においてはそのようなボタンの割り当てを行っていないため、誤操作により思った事と違うアクションをする事は稀だ。 しかし、ハード的な特性上としてJoy-Con のマイナスボタンが押しにくいのは少々難点だ。特にゼルダ BotWはマイナスボタンも使う頻度は高いためハード側の配置はもう少し検討して欲しかった所だ。 プロコントローラーであれば問題ないのだが、こちらは別売であるためフェアとは言えないだろう。
戦闘においては地形や天候も活用できる
様々な武器や環境を利用して戦いを有利に進められるのは楽しく。 特に序盤は操作も覚えきれておらず、自分も数値的に弱いため、敵が強く感じられ「ヤバい!!」と思うケースが多いだろう。 そんな中で機転を利かせた敵の攻略方法が出来た時の達成感は他のゲームではなかなか体験できないものがほとんどだ。 簡単に使える爆弾を利用するのはもちろん、火を使って燃やしたり、上昇気流を発生させて工夫するなんてのも良い。宝箱を敵の頭上に落とすのもアリだ。風だって使える。崖や落石と言った地形利用も良いだろう。時には落雷に頼るなんて事も可能だ。 単純な操作の上手さだけでなく、環境や物理法則(化学含む)でアドリブ性をもって敵と対処できるのはゼルダ BotWの凄みだ。 着火させてフィールドを燃やし敵に影響を与えるゲーム、物理法則(物理エンジン )を利用して敵を排除するゲーム自体は個々に存在はしていたが、それらが全て行える事は珍しいだろう。また、プレイヤーが思ったようにそれらが使える品質である事は驚愕だ。 本作においては「こういう事もできるのでは…」と思い付いたことは大半が行える。それほど本作はオープンなのだ。 利用できるもの全てを利用して敵を倒す。卑怯と言われようとも勝てば官軍なのだ。
探索
広大なフィールドは美しい数式によって楽しさを生み出す
大自然 の広大なハイラル はCEDEC2017において説明 がなされた通り、非常に理論的に地形が構築され、またオブジェクトが配置されている。
時にはランドマークをユーザーに見せ、時には隠して別のオブジェクトに注意を向けさせて寄り道を誘う。また、遮られた地形の先に何があるのか興味を惹かせる。 これによってユーザーはまるで自分の意志によってハイラル 世界の気になった場所を探索している気持ちにさせてくれるのだが、実際には開発側が意図している設計通りにユーザーが動かされているのだ。これはゲームの設計思想、そしてそれが機能していると言う点において100点とも言えるものだ。 これを言葉にするのは容易いが、これほどの広大なフィールドでそれを行うのは骨が折れる事であるとも容易に想像できるだろう。
「隠す / (徐々に)現れる」と言った配置方法自体は他のゲームにおいても全く無かった訳ではない。しかし、ゼルダ BotW以前においてはおよそ感覚・印象・勘の世界の話であり、明文化して数式のような形で表現された事は少なかったのでは無いだろうか。 そしてその数式が正しい事はプレイした人であれば理解できるだろう。
祠
祠の謎解きのバリエーションの豊富さは歴代最高だ
祠は1つ辺りに何かしらのコンセプトを持って制作されているため、過去作の謎解きと比べると圧倒的にバリエーション豊かだ。 歴代の3Dゼルダシリーズ でこれ程のバリエーションが出せなかったのは1ダンジョン辺りの構成が巨大であり、またその巨大なダンジョン全体で整合性のとれたデザインにする必要があったためだ(例えば「エリアAの仕掛けでエリアBの状態が変化する」など)。 本作では1祠1コンセプトにまとめ上げているため「他の祠とネタが被らなければ良い」くらいの制限で作れるのがこのバリエーションに繋がっているのでは無いだろうか。もちろん開発者の努力は言うまでもない。
また、1つクリアするのにかかる時間もそう長くないため、気軽に挑戦できる点も嬉しい。 歴代のダンジョンでは初見なら短くても1時間程度はかかる事がほとんどだ。そうなると気軽にはプレイできない(一長一短ではあるが)。Nintendo Switch と言うハードの特性を考えればパッと挑戦できてサクッとクリアできる構成は親和性が高い。
四神獣
四神獣のギミックは男心を鷲掴みだ
本作で最もやりごたえのあるダンジョン形式のステージと言えば四神獣だ。
これら四神獣の謎解きは非常にダイナミックなものとなっている。 まず、四神獣の前哨戦として各部族の筆頭やリーダーと協力して神獣を弱らせる所から始まる。 神獣からの攻撃をかわしつつ、仲間と協力して攻撃を当てていく。 これが非常に楽しかった。 前哨戦が終わると神獣内部に入っての謎解きパートとなる。 神獣内部はシーカースト ーンのマップから実際に神獣を動かす事で発動するギミックが実装されている。 マップ操作でリアルタイムに駆動する神獣を色々な場所から見ているだけで男心が鷲掴みにされる感覚だ。 例えばヴァ・ルーダニアの背中に乗った状態からヴァ・ルーダニアを操作すると姿勢が変更される。これがリアルタイムに動いているのを観ているだけでも感動ものだ(ぼーっとしているとマグマダイブしてしまうが)。 そして謎解きが終わるとボス戦へと遷移する。 ボス戦は少々簡単でボタン配置などの操作系を覚えてしまえば特別苦労する事はないだろう。
神獣内のボス戦よりも前哨戦の方が盛り上がる
全体的には神獣攻略は非常に楽しめるのだが不満点が無い訳ではない。 まず、神獣と戦う前哨戦だ。 筆者としてはこの前哨戦が一番熱い展開の戦闘に感じた。 そのため、神獣攻略の構成を「侵入・謎解き⇒内部ボス戦⇒神獣戦」の順序にした方が盛り上がったように感じるのだ。 筆者が盛り上がると感じた理由は複数ある。 1つは単純にスケール感だ。 圧倒的に巨大な神獣を相手にして戦っているのは非常に楽しい。ゼルダ BotWにおいては通常これ程のスケール感で戦う事が無いため、特別な雰囲気が段違いだ。 2つ目はシチュエーションだ。 神獣戦では仲間と共に戦う。シドやルージュ、ユン坊、テバなどと一緒に戦うのだが、一人で戦っているよりも仲間のリアクションがある戦闘の方がプレイしていて励みになるし、モチベーションが高くなる。 特にシドの「上がれぇー!!」という叫び声は一緒に戦っている雰囲気が感じられ非常に頼もしく、また楽しかった。 これらの要素が前哨戦で終わってしまうのは少々もったいない。
次に上げる不満点としては神獣内部で戦う事になるボス戦だ。 前述しているが、このボス戦がなんとも難易度が低めだ。 これは「どこから攻略するのも自由」としたための難易度なのだろうが、少々あっけなく倒せてしまうため英傑がやられてしまった説得力に欠ける。 ここには進行度合いに応じて攻撃パターンが増えるなどの要素があると歯ごたえがあったように感じる。
また、ギミックはダイナミックで凝っているとは言えボリュームとしては余り無いため、歴代3Dゼルダ のような長大なダンジョンも欲しい所だ。
ウルフリンク
ウルフリンクamiibo をかざすとゼルダ BotWの世界にウルフリンクが召喚される。 このウルフリンクは「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス HD(WiiU )」と連動しておくといくらか強い状態で召喚できる。
このウルフリンクは本作のamiibo との連動機能において最も豪華な内容であると思うが、使い勝手は少々悪い。 ウルフリンク自体の性能は悪くは無いのだが、召喚するためには毎回amiibo をかざす必要があり何度も召喚しようと言う気持ちにはなれない。 欲を言えば「ウルフリンクを召喚」ではなく「ウルフリンクに変身」したかった気持ちの方が強い。 広大なフィールドをウルフリンクに変身した状態で駆け回るのは正に野生の息吹を感じる事だろう。 例えそれが叶わぬ夢であったとしても、せめてウルフリンクamiibo では「ウルフリンクを召喚するアイテム」が入手できる形であって欲しかった。 それがあるだけでも召喚のやりやすさは数段上がった事だろう。
剣の試練
剣の試練
剣の試練はDLC の第一弾として登場したやり込み用の要素と言えるだろう。
試練に挑戦するとリンクは全ての装備がはがされる。 武器も防具も無いスタート直後のような状態だ。 そこから徐々に困難になっていく試練を突破する事となる。 難易度はやや高く、マスターモードでプレイしているならばより難易度は上がるだろう。 通常モードでプレイをしているのであれば時間をかけて慎重に攻略していけば問題は無いハズだ。
とは言え、この要素はやり込みの”おまけ”的な側面が強いため、剣の試練自体もリワードもゲームプレイの幅が広がるようなものとはなっていないのは少々残念だ。
英傑たちの詩
英雄たちの詩
有料DLC として登場した「英傑たちの詩」についても触れておこう。DLC の追加要素は3段階に分かれてる。
まずDLC にて最初に挑む事になる新たな祠では「一撃の剣」と言われる特殊な剣を使用するパートから開始される。 この剣を装備すると「敵を一撃で倒し、また自分も一撃でやられる」というシステムになるのだが、正直このシステムは余り上手であるとは言えない。 戦いが大味となるし、また(今作は最も死にやすい3Dゼルダ ではあるが)死にゲーとして設計されている訳ではないためプレイフィールも中途半端だ。
次に各地の神獣近辺に足を運び祠をクリアしていく。 こちらは祠を出現させる工程においてもちょっとした謎解きのような要素が存在し、祠の内部でも謎解きがある。 その地域の祠を全て攻略すると神獣で登場したボスと再び戦う事になる。 装備は決められたものを使用する事になり、戦う前には「警告(以前と同じだと思うな…と言った内容)」までされるのだが、既に戦った相手であるため余り苦戦する事もないだろう。 なお、これをクリアするとボス戦を何度もやり直す事ができるようになる。
新しく追加される神獣の内部
最後に待ち構えているのは神獣だ。 四神獣同様にダンジョン全体を駆動させるダイナミックな謎解きが楽しめる。 英雄たちの詩においてはコレが最も楽しい要素では無いだろうか。 とは言うものの謎解きのボリュームとしては四神獣の1体分と同程度であるため少々物足りない。 謎解きが終わればボス戦となるののだが、こちらもまた本編の神獣同様に大して強くは無い。そこまで苦戦する事も無いだろう。
マスターバイク零式
英雄たちの詩をクリアするとリワードとしてマスターバイク零式が手に入る。 性能は申し分なく、いつでも簡単に呼び出しできるためハイラル を駆け巡るのにはピッタリだ。 しかし、このリワードも少々中途半端と言わざるを得ない。理由は単純で馬と役割が大きく被っているためだ。 せっかくDLC のリワードであるのだから新しい拡張要素であって欲しかった訳だ。 開発初期に存在したと言うスカイウォードソード のような上空からダイブする要素などちょうど良いと思うのだが(完全な新要素では調整が必要となり開発工数 が大きく異なってしまうが)。
このDLC はゼルダ BotWをやりこみたいユーザー向けの内容が中心ではあるのだが、本当にやりこんだユーザーからすれば物足りない感は否めない内容・ボリュームだ。 本編の内容が素晴らしかったために期待値が高くなりすぎた事も影響しているだろうが、やはり新エリアなどは欲しかったところだ。
グラフィック
フィールドのグラフィックスタイルはフォトリアル寄りだ
ゼルダ BotWのフィールドはディテールこそスタイライズド(デフォルメ、記号化)されているが、そこで使用されている映像技術のほとんどがフォトリアルに感じられる。 草木の揺れ、光の散乱や反射、フォグによる遠近表現はフォトリアル指向な表現ではないだろうか。オブジェクトはスタイライズドが強いが、映像演出はリアルと言う聴いただけではチグハグだが、全く違和感がない…どころか「野生の息吹」を感じさせる生きた世界が広がっている。 また、テクスチャーの使い方には任天堂 の完全子会社であり本作においても部分受託制作を行っているモノリスソフト の影響を少なからず感じる。
フォトリアルとスタイライズドの表現手法はそれぞれ長所と短所が異なると考えている。 フォトリアルでは、精細なグラフィックとなり説得力を持たせる事ができるが、逆にその情報量が多さが表現や地形のわかりにくさに繋がったり、精細であるが故に表現方法にウソがつけなくなってしまう場合が多い。 例えば、フォトリアルな人間がマリオ並みのジャンプをしていたら違和感になるだろう。それを実現する場合、説得力ある設定や表現・エフェクトが不可欠だ。 他にも「見えない壁」の類もフォトリアルな表現では違和感が強くなるだろう。 一方スタイライズドな表現では、無駄な情報を省略して表現する手法であるため表現や地形などを視覚的にわかりやすく見せる事が可能だ。また、フォトリアルよりはウソをついても違和感を感じにくいため柔軟な表現方法が実現可能だ。しかし、その情報量の少なさは重厚感には欠け、やりすぎれば”子供向け”と言う第一印象へとなってしまう(子供向けが悪いと言う事ではないが)。ゼルダ BotWにおいてはフォトリアル過ぎず、またスタイライズド過ぎてもいないと言うバランスが非常に良いと筆者は感じた。
余談だが、リリース当初は雨や雷雨といったエフェクトの激しい天候の際にはフレームレートが落ちる事も多かった。 しかし、後のアップデートによって最適化されフレームレートが落ちる事はほとんど無くなっている。
二重虹まで確認できた時には余りの作り込みに驚いた
ゼルダ BotWにおいては天候に関してもこだわりがある。 雨の前触れ、雨が上がった後に残る湿気による光のぼやけ…特に驚愕したのは上図にある「二重虹」を見つけた時だ。 二重虹は2つの虹が現れる現象で、片方の色のグラデーションが逆転しているのが特徴だ。本作ではその現象まで再現されているのだ。 これを発見した筆者はその余りの作り込み驚愕した。
水の表現もまた美しい
静止画では少々わかりにくいかも知れないが、ゼルダ BotWは水の表現も美しい。 池や湖の水を見て「飲めそう…絶対うまい…」と感じたのは筆者だけでは無いだろう。
本作のBGMは近年のオープンワールド 型のゲームで一般的となりつつあるプレイヤーの操作や環境に応じて変化する「インタラクティブ ミュージック」と表現されるものが採用されており、世界観の邪魔にならないように作られている。 この手法は古くはゼルダシリーズであれば「ゼルダの伝説 時のオカリナ」の時代から既に採用されている ものだ。 とは言え、それを余りにも前面に出した結果として自然さは生み出されるものの、かつてのような名曲で無くなったのは残念な限りだ。 技術的にはCEDEC2017 や採用情報 などで公表されている様々なものが使用されているのはわかるのだが、何度も聞くため記憶には残るのだが1つの音楽として考えた場合はメロディラインが非常に弱く良い曲とは言えないものが多い。 とは言うものの名曲が全く無くなった訳ではない。
最も最初に聞く神秘的で”もののけ姫 ”を彷彿とさせる「メインテーマ」
神秘性と不気味さ(なんとなくクロノトリガー 感のある)「祠」
追い立てられるような圧迫感のあるトラウマ曲「ガーディアン戦」
カッシーワがいるとエポナの歌のオマージュと気が付く牧歌的な「馬宿」
作中でも屈指の印象に残る曲であろう「カッシーワのテーマ」
時のオカリナ 版のアレンジとなっている「ゾーラの里」
あのシーンが脳裏に甦る「リンクの記憶「英傑 ミファー」」
カッシーワの奏でる感動的な構成の「英雄たちのバラッド」
砂漠の決戦が見事に表現された「神獣 ヴァ・ナボリス戦」
どこか東洋的な神秘性の伝わる「聖なる泉の使い」
懐かしい旋律が威圧感によって最終決戦を表現する「ハイラル 城」
ゲーム本編では使用されていないようだがNintendo Switch Presentation 2017にて登場したPVにて流れた「Nintendo Switch Presentation 2017 Trailer BGM」も素晴らしい。
ボイス
本作はシリーズで初めてボイスが付いた
ゼルダ BotWではシリーズにおいて初めてキャラク ターに明確なボイスによるセリフが付いた作品だ。
セリフで喋るのはカットシー ンのみではあるがゼルダシリーズ としてはこれも大きな挑戦と言えるだろう。 しかし、違和感やデメリットにこそなっていはいないものの、ボイスありのセリフとなった事が明確なメリットとなっていたかは疑問だ。 過去作のゼルダシリーズ のストーリー上にボイスが付与されただけに近く、余り活かし切れていないように感じる。 せっかくボイスが付いたのであれば、ボイスが付いた事に意味のあるストーリーテリング やゲームシステムまで設計して欲しかった所だ。
総評
ゼルダの伝説シリーズ はゲーム史において何度もスタンダードを築いた偉大なタイトルだ。そして本作もまたスタンダードとなる1作かも知れない。 物理と科学が融合した洗練されたシステム、美しい大自然 のグラフィック、計算された広大なフィールド構成…全てが見事に融合して化学反応を起こしている。 また、バグの少なさも特筆すべき点と言って良いだろう。任天堂 と言うメーカーがビデオゲーム に対してどれほど真摯に向き合っているか、妥協を許していないかが伝わってくる傑作だ。
しかし、BGMのメロディの弱さや意味があったのか不明なボイスなどのサウンド 面には若干の疑問が残る。ここは今後の作品に期待したいポイントだろう。
また、残念ながらDLC に関してはニーズとの乖離が激しく、素晴らしいとはお世辞にも言い難い。 ボリュームとしてもオマケ程度でありガッツリ遊びが増えるものでは無い。
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