【レビュー】絢爛舞踏祭

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その答えは、YESである

筆者が絢爛舞踏祭と言う作品を知ったのはアニメがきっかけだ。
絢爛舞踏祭はゲームに先駆けて「絢爛舞踏祭 ザ・マーズ・デイブレイク(2004年)」と言うアニメが放送されていた。そのアニメのキャラクターや潜水艦、ラウンドバックラー(以降、RB)と言われる機体、なによりシチュエーションに興味を惹かれゲームを買おうと決心したのだった。
しかし、ゲームが発売されたのはアニメから約1年後の2005年7月7日。筆者はその間やきもきしながら待っていた事を覚えている。

※本作のスクリーンショットには本来は右上にプレイヤー名が表示されているのだが、画像編集して塗りつぶしを行っている点にご容赦願いたい。

 

絢爛舞踏祭

絢爛舞踏祭

  • 発売日: 2005/07/07
  • メディア: Video Game
 

 

ストーリー

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ストーリーテリングと呼べるものは皆無だが、その設定は細かい

本作の大まかなストーリーを説明すると「太陽系の100年の平和を実現させる」ことが主題となっている。
主人公であるプレイヤーは海洋惑星となった火星を地球の従属体制から独立を目論む集団の一員だ。活動は「夜明けの船」と呼ばれる未来的な大型潜水艦を中心に政治的活動を含め行われる。

メタ的な視点も物語に導入されているのも特徴で、例えば本作においてプレイヤーはプレイヤーキャラクター(アバター)というインタフェースを介して絢爛舞踏祭の世界に介入し、ある種「世界が平和になるように手引きする」といったような設定となっている。
その他にも様々なメタ的視点が散りばめられており、プレイヤー(アバター)とは何なのか、介入しているゲーム世界とは何なのか、その上でなぜ世界を救うのかという観点を考慮した世界観が構築されている。
これはプレイヤーがゲーム内世界および住人と相互にインタラクトしている事に対しての説得力を強めるような演出でもありながら、一種のビデオゲームの”お約束”を自己批評した末のデザインでもある点は興味深い設計だ。

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動的なドラマを生み出す構造

キャラクターや政治体制、物流、そしてメタ的視点を考慮した上での世界観など設定は非常に細かいのだが、本作においてはストーリーテリングと呼べるような演出などはほとんどない。
物語にしろ会話にしろ説明的なものは一切ないため、NPC達と会話をしていく中でプレイヤーが能動的に点を繋ぎ合わせていくような形式だ。
それにより徐々に世界設定や世界情勢、キャラクターの生い立ちなどを知っていくのが主体である。

絢爛舞踏祭では根本的にはプレイヤーの行うインタラクションや選択自体をストーリーテリングとして扱い、プレイヤー毎あるいはプレイ毎に異なる展開と体験を重視する作りとなっている。
例えば、戦闘によって母艦である夜明けの船が被弾すると、その損傷レベルによっては上図のように艦内に浸水が発生する場合もある(火災となるケースもある)。
これが更に悪化すると隔壁が強制的に閉鎖され、場合によっては浸水エリア内に自分やNPCが取り残されるケースもある(取り残される=死亡確定では無い)。
その際には隔壁外のキャラクターに対して遺言を残す者もいれば、ただただ絶望するようなキャラクターもいる。必死に浸水を食い止めようとするキャラクターもいるのだ(もちろん、その行動をするのは自分になるかも知れない)。
その時に繰り広げられる動的なドラマはプレイヤーにとって正に一生の思い出となるだろう。

とは言え、このような逆境と言えるシチュエーションでも来ない限りは全体的には地味な進行となりがちである点は否めない。
また、ストーリーには時間制限がありゲーム内時間において3年以内に100年の平和を達成しなくてはならない点も賛否あるだろう。
筆者としても「もっと長く、ゆったりとした気持ちで潜水艦内の生活シムを体験したい」と言う想いもあれば、「時間制限が無くてはドラマにならない」と言う想いもある。

 

余談

余談であるが、前述のとおり本作はアニメが先行して放映されている。
しかし、ゲームとアニメでは設定など異なる点は多いため名前など以外は基本的に別作品と捉えるのが良いだろう。
本作はガンパレード・マーチ(以降、ガンパレ)や刀剣乱舞で知られる芝村裕吏氏の作品だ。
そしてガンパレの続編とも言えるのがこの絢爛舞踏祭である。
ストーリーにおいてもガンパレに縁のあるキャラクターが登場するのはファンであれば嬉しいポイントと言っても良いかも知れない。また、その他の芝村氏の関連作品からも登場しているキャラクターも存在している。
芝村氏の作品は設定・裏設定などが非常に多く、また未だに解明されていない設定なども多い。本作においてもそれは同様であるのだが、その辺りは深く知っていなくてもプレイに支障をきたす事は無い。
その辺りはあくまでも世界観をより楽しむものとして捉えると良いだろう。

 

システム

前述のとおり、本作は「ガンパレ」の続編とも言えるタイトルであり、それはシステム面においても同様の事が言える。
当時の水準から考えればオーパーツとも言えるほどにこだわり抜いたNPCのAI設計や世界観構築とそれに対するインタラクションは絢爛舞踏祭と言うゲーム内世界の説得力と厚みを持たせる事に成功している。

しかしながら、全体的に単調で地味な面が多く「シム」的なゲームとしてロールを楽しむ事が好きな人でないとついていけないだろう。
また、俯瞰視点時のY座標カメラ位置がやや独特で慣れるまでは「見えにくい」と感じるかも知れない。
ユーザーによるカメラ制御は横方向への回転のみであるため、縦方向に回転できないのは地味ながら不便だ。

 

キャラクターインタラクション

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記憶と感情と欲求によって行動する多種多様なキャラクター達

絢爛舞踏祭NPCのAIは非常に手が込んだ作りをしている。
NPC達は「記憶」「感情」「欲求」を基にして行動する。

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プレイヤーに話かけてくる、NPC同士で会話する

インタラクションと言う観点から考えたときNPCからプレイヤーに対して話かけてくれるのも筆者としては凄く嬉しいポイントだ。
プレイヤー側から話しかけるゲームは数え切れないほどあるが、NPC側から話しかけてくれる事のなんと嬉しい事か。
世界の中の自己認識には他者の存在が欠かせない。
そのためNPC側から話しかけられると言う要素は「自分(あるいは自分が操作しているキャラクター)が世界に存在している」と強く感じさせてくれるのだ。これはプレイヤー側からのインタラクションしかないものと比較すれば明確に感じるポイントだろう。
ただ、緊急のタイミングでNPCが話しかけてくる事もあり「空気を読め!!」と思う事があるのが少々リアルな点だろう。
また、見えるところ・見てないところでNPC同士の会話も行われており、それによってNPC間の好感度の状態も変化していく点も面白い。

 

記憶

「記憶」は”いつ”、”どこで”、”誰と”、”何をした”と言ったものを記憶しているという事だ。
ゲーム内では例えば「○○(NPC名)から伝言を頼まれた。」「昨日、○○(NPC名)からこんな話をされた」などが実際にNPCとの会話の中で繰り広げられる。

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NPCの記憶構造

記憶は会話だけで無く、その他にもNPCの人物評価においても利用される。こちらは「過去に行われた行動から、そのキャラクターに対しての印象が決定される」ものとなっている。
記憶は3層のキュー構造となっており、上図を用いれば最近の出来事を記憶する記憶領域Aから固定観念となるような過去の出来事が記憶される記憶領域Cまである。
これらの記憶領域はエンキュー可能数が最大値を超えると古いものから消えていくそうだ。そしてこららの記憶領域のエンキューできる合計数は全キャラクターで共通であるが、記憶領域毎の割合は年齢によって違うとの事である(若いキャラクターはAの割合が多く、年齢の高いキャラクターはCが増えていくそうである)。

 

感情

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現在の感情を表すアイコンが表示される

キャラクターには現在の感情を表すアイコンが表示されており、上図であれば”ご機嫌(爽快)”である事がわかるようになっている。
ご機嫌(爽快)な状態のキャラクターに対しては「何か良い事でもあったのかい?」と聞いたりする事ができる。
感情は前述の記憶と結びついており、「少し前にこんな事があって…」と話をされる事もある。

感情にはニュートラルの普通を始め、爽快や悲哀、羞恥など全部で8つのカテゴリーに分かれている。
実際にはもっと細かなパラメーター(感想)が設定されているようだが、表面上には8つカテゴリーによって判断する事となる。
感情の状態によって行えるインタラクション・行えなくなるインタラクションがあるため相手の雰囲気を確認して話しかけるのがベターだろう。

 

欲求

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空腹・睡眠などの欲求により行動するケースもある

各キャラクターには欲求が設定されており、空腹になれば食堂に行ったり、尿意に襲われトイレを目指すキャラクターもいる。
これらの欲求はキャラクター毎にサイクルが設定されている。

ただし、飲まず食わず、睡眠を取らない(取れない)プレイをしても特に問題は発生しない(体力の回復が遅くなる、士気が落ちるなどのデメリットはある)。
特にプレイヤーキャラクターは欲求を意識する事はほとんど無い点は少々残念だ。プレイヤーとしてはこれらの欲求は設定されていないため、食事も睡眠も実際に行ったとしても「やっているフリ」でしかないのだ(体力回復が遅くなるデメリットは同様に発生するが問題になる程のデメリットにはならない)。
少々難易度がハードコアになるかも知れないが、食事・睡眠をしないと倒れる、死亡するようなサバイバル的プレイスタイルを出来るようになるモードがあるともっと良かったかも知れない。

 

ロール

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役職により異なる行動

ゲーム開始直後のプレイヤーはRB(ガンダム的な立ち位置と考えて貰っていい)パイロット部隊である「飛行隊」に配属されている。
配属は自由に変更可能であり、変更したい人物よりも威信点と呼ばれるポイントが上回っていれば解任・就任などを行う事ができるようになる。
また、就任する場合には一定の技能レベルが必要となる部署もあるため、その場合には技能レベルを訓練して上げるか、アイテムによって上げるなどすると良い。

役職は複数あり、前述の飛行隊、飛行隊に指示を出す飛行長、飛行長に指示を出すのは艦長だ。艦長の下には、操舵長、水測長、航海長、水雷長、機関長、軍医 …これらには更に副官も存在する。
これらは平時では特にプレイを気にする事は無いが、戦闘中には行う事に(当たり前だが)違いがある。そのロール(役割)に浸ってプレイするのも悪くは無いだろう。
とは言え、どの役職も地味な作業でありゲームとしての華やかさには欠けるのは少々物足りない。

 

戦闘

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戦闘は地味だ

本作の戦闘はレーダーチャートのようなトポロジーによって行われる。
これは水中戦闘と言う事もあり説得力こそあるものの、ゲームとしてはダイナミズムが欠けており非常に地味と言わざるを得ない。
また、RBや母艦は場合によっては一瞬で撃沈されるケースもあるため注意が必要だ。
特にRBは耐久値が低いため1発の被弾が命取りになるケースも多い。

RB操作の戦闘と母艦操作の戦闘は基本的には違いは無いのだが、母艦操作の場合には各部署への指示出しによって母艦が操作されるため、RBと比べると攻撃も移動もタイムラグが発生する。これによって仲間(NPC)と一体になって艦を運用していると言う手応えと、指揮している手応えの両方を感じられる点は非常に良い。
RB操作は気楽ではあるのだが、筆者としては母艦操作の方が(見た目は変わらず地味なのだが)断然面白いと感じる。

 

政治と物流

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本作の世界には政治と物流が存在する

本作の世界は主に火星を舞台にするが、火星での活躍に応じて、その他の惑星や異星人との関係に変化も生まれてくる。

火星の海域では敵対勢力が航行しているが、その他にも物流が存在している(上図、一番右の緑のラインが物流ライン。緑の円が物流船を表す)。
物流船を拿捕すると資金を含めた多様な資源を確保できたり、物流船の所属する都市の政治的民意に変化を与える事ができるが、やりすぎれば火星内の都市間の機能低下が発生して都市の人口が減ってしまう事もある。物流船を襲うべきか否かは慎重になった方が良いだろう。

また、各都市の政党や、各惑星の政権の状況によっても敵対勢力に変化が生まれる。ただ基本的には敵対勢力を潰して戦力を削ぐプレイ方針でも構わないため、この辺りは深く考えなくても問題は無い。

 

グラフィック

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会話時に使用されるモデリングは優秀だ

本作のキャラクターモデリングはフォトリアルとスタイライズドの中間的な表現を採用している。
また、PS2のリアルタイムレンダリングの標準レベルから考えれば非常に高水準なモデリングとアニメーションも特徴的だ。

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艦内には様々な施設がある

自由に歩き回れるフィールドは母艦である夜明けの船の内部しか存在しない。
また、施設のインタラクションも非常に地味だ。

ゲームとしては余り楽しめるインタラクションは無いのだが、潜水艦と言う狭い共同生活空間においてストレスを出来る限り溜めないように施設を配置可能な限り作りました…と言う雰囲気が感じられる構成になっている点は実に説得力があり評価できる。
インタラクションの地味さは「近未来潜水艦生活シム」だと思えばまぁ我慢できるだろう。

 

サウンド

サウンドは全体的に単調で短い周期でループする曲が採用されている。
決して優れたメロディでは無いが、同じフレーズを何度も聞くため結果として記憶には残りやすい音楽だ。

 

総評

絢爛舞踏祭は登場した時代が早すぎたタイトルの代表格だ。
今でこそShadow of Warのネメシスシステムを代表に動的ドラマを生み出す仕組みが見受けられたり、ウォーキングシムなど全体的に地味な進行の作品であってもマジョリティではないながら一定の評価を得ていたりするが、本作のシステムは今なお かなり尖ったシステムである事は疑いようもない。
ビデオゲームの価値観が多様化した2010年代中盤~後半以降に登場していれば全く異なる評価を得ていた事だろう。

NPCとのインタラクションによる動的ドラマというナラティブがゲームの根幹となっており、筆者は大好きだと声を大にして言う事はできるが、(設定の説得力こそあるものの)全体的に華やかさに欠ける点が多く、万人にオススメできる一作とは言い難い。
「近未来潜水艦生活シム」と言うシチュエーションを満喫してみたいと言う方は是非ともプレイしてみると良いだろう。

 

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