【レビュー】真・三國無双8

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彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆うし

真・三國無双8はナンバリングとしては実に約5年振りとなるタイトルだ。
(以下、真・三國無双三國無双と表記)
本作は制作の発表時に「オープンワールドを採用する」と銘打たれた意欲作となる。
近年(2010年代中頃)、日本メーカーのシリーズ作がオープンワールドを採用するケースが増えているのは言うまでもないだろう。
そんな状況下の中でコーエーテクモゲームスが誇る三國無双は果たしてどのようなゲームに仕上げてきたのだろうか。

発売前、筆者は期待半分不安半分であった(不安が強かった気もするが)。
三國無双シリーズでは過去に三國無双5での事例がある。
三國無双5は初めてPS3に登場した三國無双であったが、主にコンパチのアクションやボリューム面において大きな欠陥を抱える結果となったのだ。
本作、三国無双8も同じような道を歩むのでは無いかという不安が強かったのだ。

 

真・三國無双8 - PS4

真・三國無双8 - PS4

  • 発売日: 2018/02/08
  • メディア: Video Game
 

 

ストーリー

三國無双シリーズは基本的に三國志演義をベースに史実とオリジナルの要素を加えてストーリーを進行させているのが特徴である。

考えてみれば当然なのだが、演義では蜀漢が主役に描かれているため曹魏孫呉、晋、それ以外の勢力の話が薄い。
あらゆる武将・勢力をプレイアブルとしているからには特筆すべきストーリーが無くてはならないため、史実寄りの話が採用される事になるのは必然だろう。
また、演義と史実の矛盾の穴を埋めるためにオリジナルの要素が加えられていたりする。

筆者は三國志においては孫呉…特に孫堅(史実)が一番好きなため、上述の内容をかなり強く感じる。筆者としては史実における孫堅の手柄が、演義においては全て関羽のものになっているのはいささか悲しみはある。
せめて孫堅でプレイした時くらいはストーリーを史実の内容そのままにしても良いのでは無いかと思うのだが。

孫呉関連の話が続いて恐縮だが、今作では筆者待望の”程普”がプレイアブル武将として登場したのは嬉しい事だ。
程普は孫呉において最も古参である上に実績も偉大だ。
むしろ、どうしてナンバリングが8になるまでプレイアブルでなかったのかが大きな疑問だ。個人的には2や3くらいで既にプレイアブルでも一切の疑問も無いのだが…。

筆者自身もそうだったが、三國無双シリーズはどれも「三國志(三國志演義)の入門」としてはバッチリだ。

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章の選択をすると言う準ステージクリア制は面倒な仕様だ

シリーズにより振り幅があるのが「IFシナリオ」つまりオリジナルなストーリー要素だ。
筆者の好きな孫呉で言えば「孫堅の生死」がシリーズでも一番振り幅がある。
これはユーザーのプレイアビリティを優先するか、演義・史実の追体験を優先するかの問題だ。
本作においては後者を選択している。
つまり孫堅であれば死亡する章があり、それ以降では登場しない・操作できないのだ。これを救済する形で別途フリーモードは存在するのだが。

本来であれば、この仕様自体に不満は無い。
だが本作は後述するがオープンワールドを採用したゲームなのだ。
そうであるが故に問題が生じてくる。
例えば筆者のように孫堅でプレイしたとしよう。
広大なオープンワールドを走り抜け、レベルや装備などを整えて育て上げた孫堅
しかし、特定の章以降ではプレイできなくなり、別の人物を選択せざるを得ないのだ。
そうなると「またフィールドを走り回って強くせにゃならんのか…」と言う気持ちにどうしてもなってしまうのだ。

また、別の人物を選択する際にも厄介な仕様がある。
孫堅をプレイしたあと、筆者は今作の新しいプレイアブル武将であり好きな人物でもある程普を使用しようと思った。
そして孫堅は2章で退場したため、3章からプレイしようと思ったのだ。
だが、ここでも残念な事が起きる。
程普は1章から登場する武将であるため、1章からプレイしなおさなくてはならないのだ。
3章から初めてプレイアブルとなる孫策周瑜といった武将達は3章からプレイ可能だが、1章から登場している武将の場合には1章から始めなければいけないのだ(程普でクリア済みなら3章からプレイしなおす…と言った事は可能)。
もう一度全く同じ事をしないといけないのかと思うとかなり気が重かった。

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カットシーンは少々味気ない

本作ではストーリーの要所にてカットシーンが存在する。
しかし、そのカットシーンの多くは少々味気ないものだ。
後からでも閲覧可能な特殊なカットシーン以外では上図のような3Dモデルのキャラクターが立った状態で会話(恐らく全体の90%はコレ)が行われるのだが、これが何とも作り込みに欠けている。
人物は基本的に棒立ちであり、たまに汎用のリアクションが行われるのだが、これが演出として非常に淡白に感じるのだ。
またリアクションのアニメーションは使いまわしであるため、人物によっては違和感が出てしまっている点もマイナスだ。

登場人物が膨大になりカットシーンにリソースを割きにくいのは理解できるのだが、それは開発前からわかりきっていた事であるハズだ(いわゆる”リストラ”を選択肢に入れるかによっても異なるが)。
であるならば、ストーリーやカットシーンに対してそれに相応しいアプローチを試行して欲しかった所だ。

 

システム

本作、三國無双8はシリーズに新しい風を吹き込もうとする意欲的な作品である。

 

オープンワールド

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広大なフィールドとなった三國無双

三國無双8では古代の中国を舞台としたオープンワールドなフィールドが展開されている。その面積は凄まじいもので、筆者の肌感覚として近年のものと比較しても非常に広いと感じた。
しかし、その広大なフィールドはハッキリ言って”虚無”の空間だ。
例えどこまで突き進んだとしてもプレイヤーが喜べるご褒美がそこに待っている事は無い。
広大ではあるがゲームプレイにおいて1章もクリアすれば、既にお腹はいっぱいという気分になるだろう。

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フィールド上では野生の獣や賊が襲ってくる事も

フィールド上には武器や回復アイテムを開発するための”素材”が落ちているし、狼や虎、熊と言った危険な獣、そして山賊などが存在している。
また、街ではクエストが受注できる。
だが、どれもゲームとして上手く機能しているとはお世辞にも言い難い。
そこに”ある”だけなのだ。
素材や獣などはプレイに慣れていけば目新しさも無くなり、すぐに無視される存在になるし、実際に無視しても何も問題が無い。
エストにしてもランダム生成された「○○を倒せ」「××を集めてくれ」程度しかなく、報酬も簡単に集められる素材であるため、数回クリアすれば億劫になる。
これらはどれもゲームプレイの密度を誤魔化すための「上げ底イクラ」でしかないのである。

三國無双シリーズは従来から「戦う」と言うインタラクションしかないコンテンツだ。
そんな中でオープンワールドという広大なフィールド(しかも実在する・した土地)を採用するという事はどのような問題が発生するのか。素人目にも思い浮かぶ問題点がいくつかある事だろう。
もしも本作のコレがその回答だとすれば非常に貧しい発想と言わざるを得ない。
これが数世代前のオープンワールドであれば筆者もまだ我慢できたであろうが、海外中心ではあるが現代ではオープンワールドを採用した過去の遺産達の問題点と言うノウハウ・教訓、そしてそれに対してのアプローチが数多くあったハズだ。
果たして本作では、それらはどの辺りに活かされたのだろうか。

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ファストトラベルのスピードは驚異的だ

本作のオープンワールドにも素晴らしいポイントがある。
それはファストトラベルのスピードだ。
筆者は通常のPS4SSDにもしていない環境だが、それでもどんなに長くても10秒はかからない。だいたい5秒程度だ。
近年の水準レベルが20~40秒だと思われるが、そこから比べると爆速だ。
この点に関してはストレスフリーとなっている。

 

バトル

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新たに取り入れられたステートコンボシステム

本作で変更されたポイントはオープンワールドだけでは無い。
バトルシステムに関しても新たな試みが導入されている。
それがステートコンボシステムだ。

ステートコンボシステムはリアクト攻撃やトリガー攻撃、フロー攻撃などから構成されるシステムの総称である。

リアクト攻撃とはプレイヤーと敵との状況に応じて発生し、発生した際には△ボタンを使用して発動する。
例えばわかりやすい所で言うとカウンターなどもこれに該当する。

トリガー攻撃はR1ボタンを押し続けた状態で△ボタンor□ボタンor×ボタンを押すと発動する攻撃だ。それぞれ気絶、打ち上げ、転倒させる効果を持っている。

そしてフロー攻撃は敵の状態によって異なる動きをする通常攻撃だ。
敵の状態に応じてアクションに変化があるため、基本的に前述のトリガー攻撃と組み合わせて使用する事になる。

と、ここまでがバトルの大まかなシステムとして紹介されている。
しかし、これを実際にプレイする限りは今一歩足りない印象だ。
確かに過去作と比べればバトルアクションにダイナミックな動きを出しやすいのだが、それが爽快感に結び付いていないのだ。
それは何故か。理由は複数あると考えている。

まずは最も単純な所では「敵の硬さ」だ。
三國無双8では敵部隊には必ず1人の隊長が存在する(味方も同様だ)。
この隊長クラスの敵を倒すのに骨が折れるのだ。
隊長クラスの敵は、プレイヤーは敵の数倍上回ったレベル、ステータスは攻撃に全振り、武器も上位クラス…この状態でなお簡単には倒れてくれないのだ。これでは無双が得意とする爽快なアクションの邪魔になってしまう。
前述のリアクト攻撃にフィニッシュ攻撃というものがある。恐らくプレイヤーにこれを使用させる目的でこのような硬さになったのだろうと推測できるが、ハッキリ言って余計なお世話である。

次に「敵の密度」だ。
無双と言えば”一騎当千”が基本的なコンセプトだろう。
しかし、本作ではここでも少しばかりそれが活かせていない。
メインクエストとなる主戦場ではそれなりに多くの敵兵士が存在するものの、搦め手側クエストの戦場では敵の数が少々物足りないのだ。
これでは”一騎当千のアクション”とは言えず「普通のアクションゲームよりは敵が多いな」レベルだ。
もちろんハードウェアのリソースとの兼ね合いもあるだろうが、ここは無理してでも最適化や削減、描画の工夫に注力して欲しいポイントである事は間違いなく、これが出来ないようでは”無双”というコンセプトの根幹すら揺るがす問題だ。
そもそもオープニングムービーでは地面が見えないほどの敵をなぎ倒しているにも関わらず、実際のゲームプレイではそれが実現できていないのは現代においては詐欺と言われても仕方がないのでは無いだろうか。
PS2時代にはコンセプトムービー的な側面として許容されたものだが、現代では御法度の手法だと筆者は思う。

最後に「ステートコンボシステム」それ自体だ。
過去作の無双シリーズではアクションを単純なボタンの連打に頼っていた。
本作ではそこに手を加えた形であるが、もう一歩踏み込んで欲しかったのだ。
ステートコンボシステムでは、「打ち上げ⇒叩きつけ」などのコンボが決められるが、筆者がプレイした限りでは”そもそもコンボを決める意味が感じられない”のだ。
例えばステートコンボシステムでコンボを決める事によりダメージが爆発的に上がる、(謎の)衝撃波が発生して周囲の敵が激しく吹っ飛ぶ…などなどあれば積極的に使用したいと思えるのだが…。
前述したリアクト攻撃のフィニッシュ攻撃が最も雰囲気が近いかも知れないが、残念な事にフィニッシュ攻撃は単体にしかヒットしない仕様であるため使用感としてはむしろ若干のストレスだ。

 

インターフェース

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馬の操作感は少し気になった

筆者が三國無双シリーズをプレイするのが久しぶりであった事も影響しているかも知れないが、ボタン割り当ては気になった。

プレイヤーが馬に乗る時にはL2ボタンを押す事になるのだが、降りるときは×ボタンだ。
武将がジャンプするのは×ボタンだが、騎乗でのジャンプはR2ボタンだ。
なぜ類似のアクションであるのにこのようなボタン割り当てとなったのか筆者は理解に苦しむ。キーコンフィグにおいても武将操作と騎乗操作は個別に変更が出来ない。
こちらは慣れてしまえば問題なく操作自体は行えるが…。

 

グラフィック

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近年のグラフィックレベルと比べるとお世辞にもハイレベルとは言えない

三國無双8のグラフィックはコーエーテクモゲームスが提供するビデオゲームの中では私が知る限り最も美しい。
しかし、残念ながらそれは「コーエーテクモゲームスの中で」と言う注釈が必要不可欠である。
これよりも美しいディテールで描かれたソフトウェアならいくらでも思い付くのが正直な所だ。
基本的に水関連の表現は甘いし、全体的にテクスチャも綺麗とは言えない。
キャラクターのモデリングに関しても特別なカットシーン以外では簡素で、町人などからは生気が感じ取れない。

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生活感のある街並みは悪くない

古代の中国の街並みは”良い具合”にゴチャゴチャして汚く生活感がある。
上の画像は程普で建業を歩いている所だが、生活感を感じられたのは個人的には評価できるポイントであった。

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美しく、幻想的なシチュエーションもある

場所や天候によっては非常に美しい景色となる場合もある。
上の画像は孫堅で建業周辺を探索している際にスコールのような大雨に見舞われた際の1枚だ。
逆光と大雨で視界が悪くなっている事で神秘的な景色となった。
だが、やはり基本的には”ハイエンドなグラフィック”には期待し過ぎない方が良いだろう。

また、アップデートによりフォトモードが追加された。
これ自体は非常に嬉しい事だ。戦闘中の一枚を取るにはお世話になる事は多いかも知れない。

 

サウンド

三國無双シリーズは音楽面でも定評がある。
本作においてもそのカッコよさは健在だ。

タイトル画面で流れる雄大な「INTO THE ERA」

相変わらずカッコいい「呂布のテーマ」

強い決心を感じさせる「ADVANCE TO THE FUTURE」

厳しい戦闘を予感させるような「BRAVE DEFENDERS」

力強くもまた優しい「RED LARGE TIDE」

サウンド含め特別なカットシーンなどはギャラリーから何度でも再生が可能である。

総評 

真・三國無双8で採用されたオープンワールドやアクション部分の一新などマンネリ化していた部分に変化を与えようという意欲は手放しに賛辞を贈りたい。
しかし、現状では「二兎追うものが一兎も得なった」のだ。
筆者が尊敬して止まない孫武(孫子)の言葉を借りれば
「彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆うし」
を体現してしまったかのようだ。
実際の意図・経緯はわからないが、本作は「マンネリを打破するための手段」としてオープンワールドやアクションの変化が採用されたように感じる。
これでは技術に使われているだけだ。
理想とする三國無双や本来あるべき三國無双を目指した結果によってオープンワールドや新機軸のアクションが採用されるべきなのだ。
そしてその過程に目を背けたとしても、オープンワールドを採用したことによる弊害に対して、キャラクターが変わるだけで同じ章を何度もプレイさせられる水増し要素、フィールド上の素材・野生動物などの上げ底要素…これらの幻術によって誤魔化そうとしているように感じる。
まるで大平道の張角である。
ゲームとしてプレイできないと言った致命的なレベルではないものの、近年の標準的なオープンワールドや爽快な無双アクションに求められる水準には共に達していない。
コーエーテクモゲームスの開発リソースは知る由もないが、この品質では自分で自分の首を絞める結果にしか行きつかないのではないだろうか。
 「無双」とはどういう事なのか、「オープンワールド」とはどういう事なのかを一度見つめなおし設計から考え直すべきだ。

 

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