【レビュー】TRIANGLE STRATEGY

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選択の葛藤、そして1本の不要な道

TRIANGLE STRATEGY(以下、トライアングルストラテジー)はスクウェア・エニックスより発売されたHD-2D採用のタイトルだ。

事前の展開としては本タイトルの制作チーム恒例の体験版からのフィードバックを行うなどが印象深く、またHD-2Dタイトルの2作目であるという事も期待値として高かったポイントだろう。
前作とは異なりSRPGであり、HD-2Dというスタイルとの親和性は悪いハズはないというのも注目ポイントだった。

今回はトライアングルストラテジーをレビューしていきたい。

 

TRIANGLE STRATEGY(トライアングルストラテジー)-Switch

TRIANGLE STRATEGY(トライアングルストラテジー)-Switch

  • 発売日:2022/3/4
  • メディア:Video Game

 

ストーリー

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歴史ドラマとして王道な物語

本作はノゼリアという地方にあるグリンブルク王国、エスフロスト公国、聖ハイサンド大教国という3つの国の争いが物語を生み出していく事になる。
戦争の原因は塩と鉄と言う現実世界でも重要なリソースを巡るもので、ファンタジー世界でありながらどこか現実味を感じやすい題材を採用している。

主人公はセレノアというグリンブルク王国内のウォルホート領の領主のご子息だ。
国家間の対立を緩和を目的としてエスフロスト公国の公女フレデリカとの政略結婚、また同様の目的とされる3国共同の資源採掘も進んでいた。
しかし、当然ながらそのまま平穏になるハズもなく、とあるきっかけによって戦争状態へと突入してしまう。

ストーリーの題材はSRPGなどに多い大河ドラマ的な側面が強く、政治や経済と言った話もある程度はしっかりと作られているため説得力・納得感のある歴史ドラマを感じられるハズだ。
ストーリーはメインとサブが存在し、サブは時限制となっているので、しっかりとストーリーを確認したい場合には優先的にサブストーリーを参照する方が良い。
サブストーリーは「一方その頃…」のような同じ時系列での別の場所、視点での話が中心となっている。
もしもストーリーに全く興味がないなどの趣向がある場合には読む必要はないし、特に周回プレイをしたいと思っているプレイヤーの場合には既読の会話はスルーしたいケースも多いだろう。そんな時には重宝する構成だと言える。

本作のストーリー自体は比較的王道歴史ものといった様相だが少し気になるポイントを挙げるとすればエスフロストのタラースとエリカというキャラクターである。
地に足のついた物語展開やキャラクターが多い中で、タラースとエリカは絵に描いたような小物であり物語から浮いてしまっているのは勿体なく感じられる。

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選択がストーリーの行く末を変える

トライアングルストラテジーを特徴付けるのはBenefit、Moral、Freedomの3つの信念によってストーリーが変化する点だ。
これはタクティクスオウガなど類似のシステムを導入してストーリーテリングする作品もあるので想起しやすい人も多い事だろう。
信念はストーリー中に登場する選択のほか、戦闘方法でも変化がしていく。
この信念はストーリーに変化をもたらすものである事はもちろん、加入する仲間にも変化がある。

これら3つの信念をシステムとしてアウトプットしたシステムがゲーム内のキャラクター達の投票によってルートが分岐していく「信念の天秤」というシステムとなる。
上図の左を確認して頂ければ各キャラクターがどういった選択を行いたいのかの意思表示が参照できるかと思う。
プレイヤーはこのキャラクター達にアプローチをする事によって自分が進みたいルートへと変化を促す事が可能だ。
しかし、キャラクター達の説得は必ずしも成功するとは限らず、ケースによっては自分の意図しないルートに進んでしまう事もあり得る。
これがナラティブな体験を生み出す要素として機能していると言えるだろう。
なお、ストーリー分岐のフローチャートはゲーム内からいつでも確認できる。

キャラクターを説得する場合には、情報を保有している事で説得の選択肢が増える事があり、情報は街などを探索するパートで得る事になる。
しかし、得た情報は必ずしも有効に働くわけではないので、文脈をしっかりと確認してどれが適切なのかを判断して選択する必要がある。
そのため、ケースによっては全く不要な情報を掴まされると言う事になり物語としての説得力としては機能するが、ゲームとしては少し不親切に感じる事だろう。

この信念のパラメーターは隠しパラメーターとなっており参照することはできない。
ゲームクリア後の2週目以降のプレイで明示化されるので、参照できていないルートや仲間に出来ていないキャラクターなどを集めやすくなっている。

世界の掘り下げる読み物とストーリーを追う上での親切な要素

街を探索していたりすると「手記」というアイテムを入手する事がある。
これは世界設定を掘り下げる読み物で、より詳細に歴史や文化的な側面を知りたい場合には確認すると良いだろう。

また、話者の簡単な人物情報をいつでも参照できる親切設計も地味に嬉しいポイントだ。
この手のストーリーではキャラクターが多めに登場するため、人によっては顔と名前が一致しない事に焦りを覚える事もあるだろう。そんな時には重宝する機能となっている。

β版である体験版の時点では会話のオート送りがなかったが、製品版になってオート送りが追加されたのも個人的には地味にありがたい。
これは筆者は会話のテンポや会話してる感を重視している傾向があり、ボイス付きの場合にはオート送りを必ず用意して欲しいと思っているためだ。
ただし、設定が保存される事はなく会話のたびにオート送りを実行する必要があるのは少々めんどうだ。

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サブキャラクターに焦点を当てたストーリーも

挿話というサブストーリーはキャラクターが加入したり、サブキャラクターの掘り下げが行われるものである。
サブキャラクターは物語としてもユニットとしても個性があるが、プレイヤーの部隊に参加する理由は必ずしも説得力のある理由ではない。
この辺りはゲーム的な都合に感じる部分も少なからずあるだろう。
とは言え、本編には余り関りの無いキャラクターが掘り下げられるのはありがたいことだ。

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選択する事をゲームの根幹とした事による弊害

ストーリーではほとんど常にジレンマないしトリレンマの選択を強いられる状況になる。
これは追い込まれた陣営を描くと言う意味ではリアリティは感じられる部分だろうし、何よりも選択する事をゲームプレイのコンセプトとしている本作ではその状況を作り続ける必要があり避けられない問題でもある。
しかし、そのような状況を作り出し続ける必要があった結果として物語としての起伏に乏しく、プレイヤーにとって見せ場や山場となるようなカタルシスを感じにくい単調なものになってしまうのは物語として勿体なく思えるポイントだ。
例えば、”ピーク・エンドの法則”を持ち出そうにもピークがどこなのか思い当たる部分がない。
基本的には山と谷を交互に続けることで物語的な面でのユーザーの興味を保ち続けるが、本作ではそれが乏しいのだ。
そのため、プレイヤーが本作の物語を長く記憶に留めておく、あるいは他人に物語の魅力を伝えるには少し難しいものがある構造となってしまっている。

また、NPCの投票による多数決で選択が決定し、時として自分が選びたい道にならない可能性も存在すると前述している。
これ自体は面白い試みだ。
しかし、主人公が選びたい道のために他人を個別に説得できてしまうという状況は、俯瞰して捉えると結局は「主人公は投票できない」「NPCが主体的に選択を行う」という世界設定である信念の天秤というシステムがやや形骸化している事を意味しており少し違和感がある。
全体での討論形式で各NPCの考えが変わるような描き方を行った方が本作の「信念の天秤」の世界設定にマッチしたように思える。

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選択する事が根幹であるにも関わらず、それを否定してしまう要素

本作は選択によっていくつかのエンディングへと分岐する事になる。
その分岐の多くは何かを得る代わりに、何かを失ってしまうようなビターなものだ。
しかし、詳細には伏せるが特定のルートのエンディングでは、その他のルートと異なり大団円に近い形となるものが用意されている。
これは本作のテーマ・コンセプトから言うと非常に問題がある設計である。
大団円…これは言い換えれば公式に「正解ルート」が暗に提示されてしまっているという事に他ならない。つまり、逆説的にそれ以外のルートに進む事を失敗のルートとして定義してしまう行為なのだ。
本作のテーマと言うのは「ジレンマないしトリレンマの中で選択を行い、その恩恵と苦悩を享受する物語」であり、言い換えれば「選択の責任と倫理観をプレイヤーに委ねる」という事であるハズなのだ。
であるにも関わらず、ゲーム側が正解ルートと失敗ルートがあるような状況を作ってしまうと、ユーザーに選択を強いて物語を紡ぐというナラティブなデザインそのものを破綻させかねない設計思想でもあり非常に危うい。

もちろん、大団円という形の安堵感やスッキリ感はあるのかも知れないが、それは同時に選択を強いる意味を喪失してしまう事に他ならない。
選択する事を主眼に置いているのであれば、選択したことによる責任と正しさ(倫理観)はユーザーに委ねるべきであり、その部分をゲーム側が決めて押し付けるべきではないし、それをしてしまうとテーマ性が変わってきてしまう。
大団円ルートを作ってしまいたくなる気持ちは理解できるが、UXを鑑みた上での英断を行って欲しかった所だ。

 

システム

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科学的な要素も絡むSRPG

トライアングルストラテジーSRPGだ。
将棋などのようにキャラクターユニットを盤面上に配置して、マップを攻略していくような形となる。
戦闘ではユニットの配置はもちろん、前方・背面、高度などの位置関係で攻撃の威力や命中に変化がある。
また、ユニットを挟み撃ちするように配置すると攻撃時に追撃が行われ追加ダメージが入るので、それらを考慮したユニット配置も大切だ。
そのため基本的には背面や挟撃で攻撃できるのが望ましいが、易々とはそのような状況にはしにくくデザインされているので、敵ユニットの性能や状況を鑑みて上手く誘引して撃破していく必要がある。

行動順に関してはユニットのパラメータに依存する形式を採用しており、自分のターンと相手のターンが交互に来ると言う事ではない。
そのため、ユニット配置は画面上部に表示される行動順を確認しながら、損害を最小限に抑えつつ最大のリターンが得られる配置をしていくのが良いだろう。

高い位置からは弓矢の飛距離が伸びるなど、地形も戦闘に影響がある。
更には属性による攻撃も科学的な変化が発生し、それらも戦闘に利用可能だ。
例えば、氷属性を使うと路面が凍結して移動コストを増やすことできる。
そして、凍結した路面の上で火属性を放つと水たまりになる。
水たまりのエリアには電気を流して範囲攻撃が行えるなど科学的な要素を取り入れている。

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ユニットの強化要素

本作ではユニット毎に長所と短所の個性がハッキリとしている。
SRPGでは一部のユニットのレベルが上がり過ぎたりすると一騎当千のような状況になる事もあるが、本作は適正レベル以上には上がりにくく、万能なユニットも存在しないため、適度な難易度で攻略できるようになっている。
逆に言うとSRPG初心者には少しだけ難易度が高く感じるかも知れないが、SRPG特有のマネージメントの楽しさを知るつもりで臨むのが良いだろう。
なお、ユニットは倒されてもロストしないので、その点は安心して良い。

ユニットには特性を決定づけている固有のジョブが設定されている。
このジョブは条件が整えば上位ジョブにする事が可能になる。
上位ジョブになれば新たなスキルが扱えるようになるため、メインで使っていきたいユニットは優先的に上位ジョブにしていくのが良いだろう。

ユニットを強化するのはジョブのランクアップだけでなく、武器鍛錬という要素もある。
武器鍛錬では基礎ステータスやスキルの強化が行える要素となっている。こちらも良く利用するユニットを優先的に強化していくと良いだろう。
武器には武器ランクというものも設定されており、ランクが向上すると強化できる項目が更に増えていく。
武器ランクは特定のアイテムを消費して向上させる事になるのだが、困るのは武器ランクを向上させてから出ないと具体的にどのような内容を強化できるのかがわからない点だ。事前知ることが出来るようにしなければ、誰を優先的に強化するべきかの判断材料に出来ないため不便に感じるだろう。

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カメラワークの劣悪さが、あらゆる部分に悪影響を与えている

本作のゲームプレイ部分に影を落とすのはカメラワークだ。
立体的なフィールドの視認性が悪く、オブジェクトに遮られるとかなり見にくい。遮られてしまうと本当に視認したい部分がぼやけてしまう。それがちょうど上図のような状態だ。
前作にもあたるOCTOPATH TRAVELERはカメラに関しては固定カメラであったため、視認性が悪くならないようなデザインが行いやすかった部分もあるのだろう。
しかし、本作ではカメラを移動できる事を考慮したデザインが徹底できていないため、ゲームを始めてから終わるまで常にストレスになり続ける。

そしてこのカメラワークは視認性だけでなく、操作性にも悪影響を及ぼしている。
カメラは自由に移動や回転が可能だが、基本的にクオータービューライクになるようにカメラが補正される。
しかし、マス目上にユニットを移動させる本作ではクオータービューのような斜めの角度から画面を表示させると上を入力したときに前方に進めるのか、側面に進めるのかがわかりにくくなってしまう。
例えば、上図もクオータービューのように表示されているが、この状態で上を入力したときに選択位置がどちらに行くのかが想像しにくいのが伝わるかも知れない。
クオータービューであってもカメラが固定であれば、上入力や右入力でどちらに移動するのかも固定化されるため問題にはならないが、カメラが移動可能であるためにこのような問題が発生してしまっている。
こちらもまたゲームを始めてから終わるまで常にストレスに感じ続けやすいかも知れない。

 

グラフィック

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HD-2D自体は美しいが、SRPGでは目新しさは余りない

HD-2Dの美しさは相変わらずだが、やや残念に思える部分もちらほらと見受けられる。
まずは前述の通りだが、カメラワークによる視認性の悪さやそれを考慮したフィールドデザインになっていない部分はゲームを始めてから終わるまで常にストレスになり続ける。
また、一般のRPGをHD-2Dにするのは目新しさがあるが、SRPGの場合にはクオータービュー形式のデザインも珍しくなく立体的な2Dドット表現でもあるHD-2Dの斬新さがやや薄いのも少し勿体なさがあるだろう。
更に探索パートではキラキラと光る部分を探すとアイテムが入手できるのだが、HD-2Dの画面はそもそもキラキラする傾向があり誤認しやすいのも少し迷惑だ。

 

サウンド

ストーリーが全体的に起伏が少ないと評したが、音楽面でもそういった展開にマッチするようにした影響からか同様の傾向が強い。
最終ステージ楽曲などは盛り上がるが、それ以外の場面では余り印象に残るようなものが少ないように感じられる。

 

総評

TRIANGLE STRATEGYは光る部分もありながら、要所を抑えられていないのが勿体なく感じる一作だ。

リアリティこそ評価できるが起伏に乏しいストーリーは魅力を伝えるのが難しく、更にはテーマ自体を否定してしまうようなルートを用意してしまったのは良いとは言えない。
また、魅力的なHD-2DのビジュアルスタイルもSRPGが題材では少し新鮮味に欠けてしまう印象だ。
ゲームプレイ部分に関してもカメラワークに伴う機能性・操作性の悪さが地味にフラストレーションを溜め続けてしまうだろう。

しかし、歴史ドラマとして地に足の着いたストーリー構造は王道であり、SRPGとして歯応えがしっかりある難易度は良く出来ている。
プレイして決して損する事はないだろう。

 

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