ドンキーコングはアーケード版(1981年)で発売されたものが1983年にファミリーコンピュータ向けに一部をオミットして移植された作品である。
アーケード版は基盤が在庫としてストックしてしまった事から、それを解消するために急造された経緯のある作品である。
しかしながらその内容が非常に好評を博して、当時には多かったパクリゲームも多く登場した作品でもあった。
筆者と本作の出会いは生まれた時から実機のファミリーコンピュータが家にあったからというドラマ性も何もないものであるが、筆者の世代からするとファミリーコンピュータを触っていた人は少なかったであろうと考えられるため一人のゲーマーとしては非常に良い経験だと思っている。
なお、今回はNintendo Switch Onlineのファミリーコンピュータにて配信されたものを利用してスクリーンショットの撮影やレビューを行っている。
ストーリー
ジャンプマン(後のマリオ)がドンキーコングに連れ去られたレディ(後のポリーン)を救出するために高層建築物を登っていくと言うものである。
この題材は本作の原型となる構想がポパイのゲーム化企画から出発しているためであり、一部にはキングコングのイメージも踏襲されている可能性もあるだろう。
高層建築物を登っていくという設定であるためステージ名が「○○m」というメートル表記になっている点も特徴的であり、自分がどの高さまで来ているのかを想像させる要素にもなっている。
これらのフレーバー的なストーリー要素はいずれもビデオゲームとしての遊びを伝える手段(機能)として活用されている側面が強いものである。
ジャンプマンがレディーを助けに行くという構図にしてもプレイヤーに対して焦点化しやすい動機付けための要素の1つに過ぎない。
これは本作がアーケードゲームを前提としているという点もある。
テキストを用いた冗長な前振りや操作説明などをしている時間はインカムに関わる大きな問題となってしまうのだ。
コンソールゲーム黎明期でもあるだけにアーケード文化が根強く、それ故に今では珍しい程のゲームをプレイさせるまでのスピード感が感じられる。
システム
ドンキーコングが投げてくるタルや地面の隙間をジャンプして障害を回避していき、レディーのいる上層を目指すという現代からすれば非常にプリミティブなゲームプレイとなる。
ジャンプマンは自身の身長よりも高い位置から落ちてしまうとミスになってしまうなど、当時には比較的あったゲームとしての虚弱なシビアさがあり、この辺りはアーケードゲームの文脈でもあるため昔のゲームである事を感じさせるだろう。
ファミコン版の本作ではステージは全部で3ステージであり、そのステージ構成も基本操作を理解するステージ1、少しの応用が求められるステージ2などしっかりとレベルアップしていく作りにもなっている。
最後のステージをクリアしてレディーの救出に成功すると再び最初のステージへと戻るため、エンドコンテンツとしてはスコアアタックになっていく事だろう。
本作では「タイミングよくジャンプを行ってリスクを回避する」という事に主眼が置かれており、タイミングを誤るとミスになってしまうジャンプアクション(プラットフォームゲーム)の基本が作られている。
これはプリミティブな要素ながらプレイヤーの練度が試されるものであり、アクションゲームにおける「上達する事の楽しさ」の根幹が内包されている。
なお、本作はアーケード版の移植であるため、容量的な問題からオミットされてしまったステージも存在する。
グラフィック
本作のグラフィックにおいて特筆する点とすれば、画面の視覚情報のみで遊びを伝えると言う手法だろう。
説明的なテキストを用いずとも視覚情報(視線誘導)だけでどこに移動すればいいのか、どうすれば上に登れるのかが把握できるようなレイアウトやデザインにしているのだ。
例えば、最初のステージでまずプレイヤーキャラクターであるジャンプマンは下層の位置からスタートし、あみだ上に梯子が上まで繋がっている事が確認できる。
そして最上層には巨大なコングと女性がいるという構図である。
このビジュアル的な見た目だけでプレイヤーには上層を目指して女性のいる位置に行き救出しなくてはいけない状況が伝わり、それすなわち本作の遊びの目的・手続きが即座にわかるようになっているのだ。
この構造は宮本茂作品の、そして任天堂哲学の基礎とも言えるものになっている。
サウンド
ドンキーコングの楽曲は数こそ非常に少ないものの、今でも広く知られているBGMだ。
また、ハンマーを手にした際には専用のBGMへと変化するが、これに関しても今でいう所の広義なインタラクティブミュージックとしても間違いではないだろう。
総評
ドンキーコングはジャンプと言う単一の機能によって複数の障害を解決するゲームの基礎を作り上げた傑作である。
現代から考えればシンプルな作りではあるものの、それでもしっかりとしたやりがいと適度な難易度で作り上げられている。
また特筆すべきは視覚情報だけでやるべき事をある程度認識できるレベルデザインであり、これはビデオゲームの教本として構成にも記載されるものである。
外部記事
「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第1回「ドンキーコング篇」 | トピックス | Nintendo