【レビュー】ゼルダ無双 厄災の黙示録

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あったかも知れない100年前の物語

その発表は衝撃的なものだった。
ゼルダ無双 厄災の黙示録は何の前触れもなく突如として発表されたのだ。
傑作として名高いゼルダの伝説 Breath of the Wildはその絶望的な100年前の出来事や破壊される前の街並みや文化などを巡って様々なファンが考察するなど注目されていた。
その100年前にフォーカスを当てたのが本作であり、しかもそれをサードパーティーであるコーエーテクモゲームスが手掛けるゼルダ無双で実現させるというのだから驚きだ。
原作と比較しても問題ないレベルのモデリングなどは初報の段階で安堵したし、何よりも100年前をどのように描くのかが筆者にとっては非常に興味深いポイントであった。

今回はゼルダ無双 厄災の黙示録をレビューする。

 

ゼルダ無双 厄災の黙示録 -Switch

ゼルダ無双 厄災の黙示録 -Switch

  • 発売日:2020/11/20
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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ファンとして喜びのあるストーリー

本作は原作であるBreath of the Wildから100年前に起きた大厄災を体験できるゲームになっている。
しかし、原作で紐解かれた過去の出来事を追体験するものではないという事が冒頭のオープニングムービーから示唆される。
そう。本作はBreath of the Wildのifシナリオともいえる内容になっているのだ。
もちろん、原作においてあってであろう戦場での戦闘も用意されているのだが、シチュエーションは原作とは異なるものとなっている。
ストーリーはステージ制で展開されていき、基本的にはステージの始めと終わりに物語のカットシーンが挿入されるような形式だ。
ステージ毎にストーリーが展開されていくため、原作よりもストーリーが充実しているのが特徴的だと言えるだろう。

本作のストーリー内容はBreath of the Wildとは異なる過去改変を行うようなものであるため、原作と比較すると強烈なまでに対比的で、ご都合主義的ですらあるほどの大団円になっている。
Breath of the Wildへと至る絶望的な結末を期待していた人には少し物足りなく感じる事もあるのかも知れない。

しかし、ネタバレを避ける程度に記載するが、本作は夢の共演が実現しているのは魅力的だ。
その夢の共演はBreath of the Wildファンならば必ず熱くなるハズで、原作プレイヤーであればプレイして損はない。
ただし、それは裏を返せば原作を未プレイでは本作の物語としての良さはわかりにくいという事でもあり、そこは頭に入れた方が良いだろう。

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ファンとしての懸念

Breath of the Wildの100年前を過去改変という形で描いている本作であるが、過去を描くという手法を用いた事で1人のゼルダファンとして懸念を感じざるを得ない。

まず、登場する敵が非常に小物の印象を受けてしまうのは残念でならない。
原作であるBreath of the Wildで感じた100年前といえば悲しく絶望的なものであった。
しかし、そんな100年前を描いた本作で暗躍している敵が薄っぺらい小物な悪役になっているのは非常に残念だ。
この小物の悪役は本作だけで暗躍しているのか、原作の100年前でも暗躍していた人物なのかは不明だが、何にせよもう少し厚みのある設定を用意して欲しかったと言わざるを得ない。
このような小物が絶望的な大厄災で暗躍しているのかと思ってしまうと、原作にあった物語の重みを貶めてしまっている。

また、Breath of the Wildの過去を知りたかったファンとしては本作の受け止め方は困惑するかも知れない。
原作の100年前を描いている本作だが、前述の通り冒頭から100年前には起きえなかった事象が発生する。
そのため、ほとんど完全なifストーリーの様相なのだ。
作中の会話や戦いなど、どこまでを原作でも発生した事象として受け止めれば良いのかは非常に困惑するだろう。
本作によってBreath of the Wildの事象を紐解こうと考えていたゼルダファンは「こういう可能性もあったかも知れない」程度に留めておいた方が良いのかも知れない。

本作が過去を改変するというifシナリオである事それ自体にも懸念がある。
以前のゼルダシリーズは「時のオカリナ」を契機として世界線が分岐しており、新規プレイヤーにはややわかりにくく、制作においても制約の多いものとなっていた。
それがBreath of the Wildによって半ば統合され、ゼルダシリーズのシナリオ的なわかりやすさや作りやすさが広がったと思うのだ。
しかし、本作では再び時のオカリナのような「勇者の勝利(本作)」と「勇者の敗北(原作)」の世界線で分岐をさせてしまっているのだ。
今後、本作の時間軸でのストーリーが展開されるかは疑問があるが、せっかくシンプルな構造へと回帰したにも関わらず、今回のような分岐ルートを作ってしまったのはシリーズの今後を考えた時に心配だ。

 

システム

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Breath of the Wildの無双アクション

Breath of the Wildの要素を多く踏襲した爽快な無双アクションが特徴的だ。
拠点の制圧であったり、強敵はウィークポイントゲージを削って倒すなど、前作にもあたるゼルダ無双のシステムも多く踏襲している。

登場するプレイアブルキャラクターには、扱いやすいオーソドックスなリンクや影分身のような技でスタイリッシュに攻めるインパ、空中戦ができるリーバルなどストーリーの進行と共にBreath of the Wildでも登場した有名なキャラクター達がアンロックされていく。
その他、特定の条件を満たす事で解禁される隠しプレイアブルキャラも存在する。
プレイアブルキャラクターはそれなりに多いが、メインストーリーを中心にプレイするという場合には育成するキャラクターはある程度は絞らなくてはならないのは注意点だ。

原作を踏襲した要素はキャラクター以外にも多く存在する。
攻撃をギリギリで回避する事でラッシュ攻撃を行う事が可能になっている。
回避は攻撃モーションをある程度キャンセルして発動させる事ができるためスピーディーな戦闘が行える。
盾を装備しているキャラクターであればパリィも可能だ。
パリィによってガーディアンのレーザーを打ち返す事ももちろん可能だ。
その他、草刈りや木こりもしっかりとできるなどフィールド上のオブジェクトに対してのインタラクト要素もある。
また、フィールド上にはコログが隠れているため、ちょっとした探索要素も用意されている。
原作をプレイしていたプレイヤーは思わず「こんな要素も取り込んでくれているのか」と感心するばかりだ。

ボス敵や中ボスなどの強敵は前作ゼルダ無双と同様に特定の攻撃の後などに発生する「ウィークポイントゲージ」を削って倒すのが基本になっている。
原作であるBreath of the Wildにおいてアイコン的な存在感を持っていたシーカーストーンの「爆弾」や「アイスメーカー」などのツール群もこのウィークポイントゲージと関連して使用する事になる。
例えば、敵の突進攻撃の際にはアイスメーカーのアイコンが表示され、実際に使用すると敵が氷柱にぶつかってスタンし、ウィークポイントゲージを削るチャンスが発生するのだ。
無双アレンジの使い方ではあるが、原作で印象的だったツールを使用可能になっているのは嬉しいポイントだ。
また前作も同様であったのだが、この要素の存在によって無双シリーズの「強敵との戦闘に不向き」という欠点を小さくする役割も担えているのは大きい。
まず、敵が攻撃するターンと自分が攻撃するターンが明確になる事で疑似的なターン制ともいえるものになるのはプレイのメリハリとなる。
そして、ゲージを削り切ればカッコいいモーションで中ボス程度なら大半が倒せてしまうほどの大ダメージを与えつつ周囲の敵も巻き込める攻撃を行うため、「無双」という一騎当千を主体としたゲームのテンポを落とし切らずに済むのだ。

原作Breath of the Wildや前作ゼルダ無双の要素を多く踏襲している本作だが、FE無双の要素も取り込まれている。
操作キャラクターをフィールド上にいるキャラクターにリアルタイムに変更可能なのだ。
操作していないキャラクターには指示だしが可能で、例えばリンクを操作している最中にインパには別の拠点に移動するように指示を出しておくといった事ができる。
本作は無双としては比較的広いフィールドが用意されているため、フィールドを1キャラクターだけで攻略するのは少しだけ大変だ。
そのため、操作していないキャラクターには事前に移動指示を出しておくことで、キャラクターの作業が完了したら別のキャラクターに操作を変更する…と言ったプレイが出来るようになっている。

戦闘では無双らしい爽快なアクションが楽しめるが、残念なポイントもある。
それは中ボスのような相手を複数体相手にしなければならないケースだ。
複数のボス敵はまるでまともに制御されているようにはみえず、バラバラに攻撃してくるため、こちらの攻撃タイミングが非常にわかりにくい。
制御できないのであれば、このようなケースは極力作らないでいただきたい。

ロード時間が長めであるという点も気になるかも知れない。
メインストーリーのステージでは開始時に経緯のようなものを喋ってくれるちょっとした物語があり、その裏でロードを行っているためロード時間が気にならないようにする工夫をしている。
しかし、それ以外のサブのやり込み要素ではそういった要素が無いため、読み込み時間がプレイヤーにダイレクトアタックしてしまうのだ。

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神獣を操作するダイナミックなパートも

巨大な神獣を操作できる圧巻のパートも存在する。
このパートではステージによっては10,000体以上の敵を撃破することが出来たりと、正に桁違いの規模の戦闘を行うことが出来る。
神獣の圧倒的な強さを目の当たりにするともはやどっちが厄災なのかわからなくなってくるだろう。

 

グラフィック

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原作では見られなかった風景

オープンワールドであったBreath of the Wildとは異なり、従来の無双系タイトルと同様のステージ制になっている。
しかし、戦場となるステージはそれなりに広く設定されている印象だ。
また、原作では見る事の出来ない生きている街並みを拝むことが出来るのは原作ファンにとって嬉しい限りだ。
絵作りに関しては原作と比較した場合、細かい部分ではディティールの粗さを感じるものの、ほとんどBreath of the Wildを踏襲したグラフィックに出来ている点も魅力的だ。

各キャラクターのモーションも良く作り込まれている。
待機モーションがしっかりと用意されているだけでなく、そのモーションにしても原作をプレイしていればニヤリと出来るようなものになっているのだ。

その他、ロード画面ではちょっとした操作で遊ぶことが出来る遊び心も用意されている。

 

サウンド

原作のBGMを印象を崩すことなくアレンジした戦闘曲になっている。
原作プレイヤーであれば感慨深い気持ちになる事は間違いないだろう。

キャラクターのボイス関連に関しても記載しておきたい。
ストーリーが原作よりもしっかりとあるため、ボイスも十分に用意されている。
また、パーティーメンバー選択時やフィールド上でのキャラクター切り替え時には組み合わせによって専用の掛け合いがあるなど、原作よりもボイスを良く使えている印象だ。

 

総評

ゼルダ無双 厄災の黙示録は傑作ゼルダの伝説 Breath of the Wildの世界観を無双アクションに落とし込んだ爽快なアクションRPGだ。

キモとなる無双アクションは欠点を最小限に抑えつつ、原作の要素を多く踏襲しており、そして尚且つ敵をザクザクと倒せる爽快感を実現している。
原作の雰囲気を壊さない程度に戦闘曲としてアレンジされたBGMも良い完成度だ。

しかし、原作とは対照的なまでの大団円となるストーリーは陳腐な印象も受けてしまう。
なによりも原作のような絶望的な世界観を望んでいたプレイヤーには少し刺激の足りないストーリーに映るであろう点は注意すべきだろう。

 

外部記事

Switch『ゼルダ無双 厄災の黙示録』インタビュー。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のよさを残し、無双アクションを実現した開発秘話が語られる - ファミ通.com

任天堂は「ゼルダ無双」のシリーズ化は考えていないが、良い案があれば手掛ける可能性もある

「ゼルダ無双 厄災の黙示録」開発スタッフにインタビュー。BotWとのつながりを強く意識しつつ,本作ならではの無双体験を確立

『ゼルダ無双 厄災の黙示録』エキスパンション・パス完結インタビュー – Nintendo DREAM WEB

【レビュー】Assassin's Creed Valhalla

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生きるための侵略

Assassin's Creed Valhalla(以下、アサクリヴァルハラ)はヴァイキング時代をモチーフとした作品だ。
Assassin's Creed Origins(以下、アサクリオリジンズ)と同様のアクションRPG路線のオープンワールド型タイトルとなっている。

ヴァイキングと言えば西暦800~1100年頃の西洋を震撼させた集団として有名だろう。
本作はそんなヴァイキングをプレイヤー側が操作してイングランドの各地を侵略していくという何とも血生臭い設定だ。
筆者としてはアサクリオリジンズぶりのアサシンクリードシリーズである事もあり、ヴァイキングとして暴れまわってみたいという衝動がわき購入に至った次第だ。

 

アサシン クリード ヴァルハラ -PS4

アサシン クリード ヴァルハラ -PS4

  • 発売日:2020/11/10
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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偽りなき侵略

アサシンクリードシリーズと言えば歴史上の特定の時代を舞台にしている事が特徴的なシリーズである。
本作の舞台は9世紀中頃の欧州だ。
主人公であるエイヴォルはヴァイキングの一員の子供として生まれ、ある時に別のヴァイキング襲撃によって両親を亡くしてしまう。
物語はエイヴォルの復讐によって幕を上げるが、それはあくまでも導入だ。
チュートリアル的な最序盤でその復讐は果たされるのだが、エイヴォルの所属する戦士団の長はヴァイキング同士での争いを無くすために別勢力(ハーラル一世)の軍門へと下ってしまう。
それを良しとしない戦士団の長の息子シグルドは自分達が自分達の信念をもって生きていける地を求めてイングランドを目指し、シグルドを兄と慕うエイヴォルもそれに付き従う。
よそ者であるエイヴォル達はイングランドで生きていくために土地の様々な者たちと協力していく事になり、その中でアサシン教団の敵である古き結社とも対立していく事になる。
しかし、敬愛していたシグルドとの会話が次第に要領を得ないものになり、エイヴォルと噛み合わなくなっていく…。

アサクリヴァルハラは物語の冒頭こそ復讐を題材としているが、イングランドへの移住後の侵略に関しては暴力への免罪符を用いていない点は興味深い。
この手のタイトルには「敵が襲ってきた」「敵が大切な人を殺した」などの「侵略に対しての正当性(免罪符)」を主張するようにストーリー構成をするのが一般的に多い。
何故なら、このようなゲームにおいてはプレイヤーである主人公は殺人などの明確な犯罪行為を行うためだ。その免罪符として事前に何かを喪失し、その犯罪行為の正当性を明確に描くようにしているのだ。
しかし、本作においてはそこを免罪符によって変に包み隠すことなく純粋な自分達の生存競争のために略奪を行っていく。
その姿は野蛮さもあるものの、素直な描き方には好感が持てるだろう。

また、本作の主人公はアサシン教団として始まらないため、象徴的な様々なスキルを身に付けていない状態で開始する。
特にイーグルダイブを教わるまでは飛び込むモーションが異なるものになっている。
アサシン教団の信念を微塵も知らずに生きてきたエイヴォルと言う主人公像はアサシンクリード4のエドワードとも通ずる点があると言っても良いだろう。

サブクエストも様子のおかしいバラエティーに富んだものが多い。
時に斧が頭に刺さった男と会話をし、時には裸族の指示で赤の他人の服を盗むものもある。
サブクエストの1つ1つは非常に短いものになっているため、タスクが積み重なるような事もなくサクッと開始して、サクッとクリアする事ができる。
プレイしていてテンポが良いものとなっているのは好印象だ。

全体的には悪くないのだが、ローカライズによるものと思われる問題点が度々あるのは勿体ない。
ローカライズ自体の質は決して悪くは無いのだが、セリフと字幕が食い違っているケースが稀にあるように見受けられたり、セリフが終わりきっていないのに次のセリフが始まってしまったりという事がままあるのは勿体ないと感じてしまう。

また、本作にはストーリーの進行において致命的な問題点も度々顔を覗かせる。
それはバグだ。
筆者の場合にはメインストーリーやサブ要素などのイベント時に次に進行しなくなるバグに度々遭遇し、再ロードをして直前のセーブデータからやり直したケースが数回あった。
仕舞には完全に進行不可となる状態にまで陥ってしまったケースもある。
その他、2~3時間プレイしていれば1回ほどはエラーによってアプリケーションが落ちてしまうなど、合計回数にして両手の指の数では足りないくらいはエラー落ちしたハズだ。
このように、とにかく不安定なリリースとなってしまっている印象を受けたのは残念でならない。
現代においてはソフトウェアのアップデートによってバグ修正が行われるのが当たり前の環境ではあるとは言え、ここまで不安定な挙動では流石に笑顔になる事は難しいと言わざるを得ない。
なお、2021年8月時点において上記のようなエラー落ちはかなり改善され、動作が安定している印象だ。
進行不可バグなどを含む非常に多くの不具合が修正されたようなので、今から遊ぼうと思う人は安心して良いだろう。

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北欧神話の世界

アサクリヴァルハラの物語の特徴的な面をもう1つ紹介しておきたい。
それは本作が二本構成とも言えるものになっている点だ。
1つは前述の通りヴァイキングの物語だが、もう1つが北欧神話の物語となっている。
そう本作は北欧神話を舞台にした専用の物語が用意されているのだ。
フィールドには「アースガルズ」などの北欧神話に登場する舞台となり、トールやロキ、フレイヤといった高名な神々が登場する。
歴史を疑似体験できる作品とは少し離れた、神話を疑似体験するような内容も提供されている点はユニークだといえる。
神話は顕在的にも潜在的にもその言語の文化の根本部分に影響を与えており、その一端を知るという上でも重要な要素だ。

なお、本作では主人公の性別が選択可能であるのだが、選択肢の中には「アニムス(システム)に委ねる」というものも存在する。
アニムスに委ねた場合、ヴァイキング時代を女性、神話時代を男性としてプレイする事になるようだ。
性別はいつでもどこでも変更が可能であるため自分の好みはもちろんだが、気分で変えてみるのも面白いだろう。

 

システム

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バトルデザインは悪く無いが欠点も多い

アサクリヴァルハラはアサクリオリジンズの系譜となるアクションRPGベースのシステムだ。
キャラクターにはレベルがあり、敵を倒したり、クエストをクリアする事でレベルが上がっていく。
レベルが上がるとポイントが与えられ、そのポイントを消費して能力値や新しいスキルをパーク形式で獲得するようなものとなっている。
パークの割り振りはいつでもデメリットなしに振り直しが可能であるため、プレイスタイルと違うと思った際には気軽に変更可能だ。
パークの各ノードはアサクリオリジンズと比較してもかなり多く用意されているが、レベルアップも比較的早い頻度であるため、早いサイクルでどんどん成長していく事になりついつい長くプレイしてしまう構造だ。

本作の戦闘ではスタミナを主軸に置いているようだ。
スタミナは回避や防御といった行動のほか、攻撃を外しても消費する。
スタミナが切れてしまうと攻撃スピードが落ちてしまうなど、戦闘においてのデメリットが発生する構造だ。
このスタミナは時間経過でも回復するのだが、その他にも弱攻撃をヒットさせることでも回復可能となっている。
そのため、スタミナ回復のために攻撃するという事にも繋がり、アグレッシブな戦闘にしやすいのは好感触だ。

白兵戦において重要な行動は敵の攻撃を弾くパリィだろう。
敵の攻撃をジャストタイミングで防御する事で発生するが、その判定は比較的長めに設定されているため決して難しいものではなく、積極的に気軽に狙うと良いだろう。
パリィに成功すると相手のスタミナゲージに対して大きなダメージを与え、敵のスタミナを枯渇させれば強力な一撃を叩き込むことが出来る。
この一撃はザコ敵であれば一撃必殺で、ボス敵に対しては大ダメージを与えることが出来る。
ただし、ボス敵に関してはスタミナを削り大ダメージを与えた後は普通に殴りあう事しかできなくなってしまうため、パリィなどのスタミナ削りの行動が腐ってしまう。
この点に関しては戦闘システムの検討不足に感じるポイントだ。

アサクリオリジンズにおいて問題点となっていた「アサシンブレードの存在感がない問題」が本作では解消されている点は大変喜ばしいポイントと言えるだろう。
アサシンクリードシリーズの象徴的武器アサシンブレード(本作での呼称はヒドゥンブレードだが便宜上アサシンブレードとする)は今作では特定のパークを取得する事で、格上の相手にも通用するようになったのだ。
「見つからない遠距離から敵を排除する」というコンセプトで運用される弓には真似が出来ない、「見つかる危険を冒して格上の相手を一撃で葬れる」というリスクとリターンの個性が用意された。
これによってアサシンブレードという伝説的な武器の設定が説得力を持って活かされるようになったといえるのは嬉しい限りだ。

本作ではアサクリオリジンズと比較すると武器の入手頻度や総数自体は減っているのだが、武器の個性が明確に区別されるような構造に変更されている。
アサクリオリジンズには無かった要素として防具が追加されている。
防具は鎧や兜などでヴァイキングらしい装備やアサシンらしい装備などが用意されている。
防具はシリーズを一式で装備する事で特殊な効果が出る事もあり、好きな見た目で構成するだけだと恩恵を得られないこともある点は注意が必要だ。
入手できる武器や防具は数こそ少ないものの鍛冶場で強化する事が可能で、好みの装備を強力に出来るほか、アップグレードする事で見た目が豪華になっていくものが多い。
また、これらの装備にはスロットが用意されており、探索によって発見したルーンというアイテムを装着する事で性能をカスタマイズする事も可能だ。

アクションRPGらしい要素によって中毒性のある楽しさを提供できている本作であるが、戦闘においての問題点も記載しておきたい。
まず、乱戦の質は余り良いとは言えない。
従来のアサシンクリードシリーズであれば「そもそも乱戦になってはいけない」という側面が強かったのだが、本作の主人公はヴァイキングだ。
そのため、必然的に集団戦になる事も多い。
しかし、乱戦時の敵の挙動はほとんど制御されているようには感じないのはプレイフィールに悪影響がある。
敵はさながら車懸りの陣のように断続的に攻撃してくる事も多いため、プレイヤーのダメージリアクション中に敵の集団が連続して攻撃してきてしまいハメ殺されかけるようなケースもある。
また、起き攻めような陰湿なタイミングでの攻撃なども平気で行ってくる事も多い。
集団戦があるにも関わらず、それを意識したAIの挙動になっているようには感じない本作の敵は少々残念と言わざるを得ない。

では1対1での戦いは良く出来ているのかというと、そちらはそちらで設計に問題がある。
前述の通り、ボス敵のような相手はスタミナを削り切った後に殴り合いにしかならない点も問題なのだが、それ以上に気になるのは敵の攻撃デザインだ。
敵が行ってくる「ガード可能な攻撃」と「ガード不能な攻撃」のモーションや攻撃速度などの設定が明らかに一般的なそれではないのだ。
一般にはガードが行える通常の攻撃には被ダメージこそ並ながら攻撃速度はそこそこ速く、ガード不能の攻撃はそれと見分けられるように前隙が長めに設定されている事が多いかと思う。これは駆け引き(リスクとリターン)の観点からも理にかなっているハズだ。
しかし、本作の敵はそれとは全く逆のケースがあるのだ。
つまり、「ガード可能な攻撃の予備動作が長く」「ガード不能の攻撃の方が速いorほぼ同程度の速度」のように感じるのだ。
これでは防御と回避の判断がしにくく、プレイしていて余り気持ちの良いものではない。
全ての敵がこのようになっている訳ではないにしても、もう少し駆け引きを考慮した設計にして欲しかった所だ。

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フィールドの探索、拠点のアップグレード

アサクリヴァルハラはフィールドの探索要素もそれなりに用意されている。
道中に落ちているアイテムなどはそれほど種類が多い訳では無いものの、装備を強化するための素材や体力を回復するための食料(木の実)が落ちている。

村などでは鍵のかかっている家がある事があり、ちょっとした謎解きをしてその扉を開けたりする。
そのような家には素材などのアイテムが宝箱に入っていたりする事が多いので、積極的に奪っていきたい所だ。
大した話ではないのだが、この鍵のかかった家で気になる事もある。
それは「かんぬき形式」のロックがされている家だ。
かんぬき式のドアしか無いも関わらず、室内には誰もいないという「完全な密室」になってしまっているケースがあるのだ。
もちろん窓の隙間からかんぬきを弓矢で壊すなど、ちょっとした謎解きをすれば室内に入れるためゲームとしては全く問題はないのだが、「え?これってどうやってかんぬきをかけて外に出たの?」と思わずツッコミを入れてしまう事が度々あった。
フラストレーションに繋がるようなものではないためマイナスのポイントではないものの、フォットリアルなゲームともなるともう少し説得力のある構造にして欲しかったように思える。

このような村などは自身のヴァイキング集団を率いて襲撃をする事ができる。
襲撃をする事で貴重な資材を入手できるため、こちらも積極的に行っていきたい。
また、その襲撃の際に松明を用いて家を燃やす事ができるのは面白い要素になっている。
燃えている家の付近では煤が舞い散り煙たい感じが再現される。
焼かれた家は崩壊するまでには至らないが、ジワジワと燃焼していく家は襲撃していることを強く感じさせる。
ただし、家は燃やせるが野焼きはできないのは少々残念だ。

村を襲撃したりする事で得られる資材を活用する事で自身の拠点をアップグレードしていく事ができる。
アップグレードする事でどんどん集落になっていくだけでなく、様々な施設が利用できるようになる。

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様々なミニゲームも用意されている

本作では様々なミニゲームも用意されている。

最も印象的なミニゲームとしてラップバトルがある。
相手の言葉に対して相応しい”言葉の応酬”をする事で評価を勝ち取るようなものとなっており、言葉遊びをゲームに取り込んでいる点は非常にワクワクするユニークな要素だ。
日本語ローカライズは非常に頑張っている事は伝わるものの、中には日本語ローカライズでは韻がふめていないように感じるものも散見され、どれが好ましい返答かわかりにくくなってしまっているのは勿体ない。

石積はいくつかの石を好きなように積み上げて、崩さないように一定の高さにまでするようなミニゲームで、筆者の感覚ではこれが最もフラストレーションが溜まりやすいミニゲームのように感じた。
これは動物タワーバトルのようなものを3次元にやろうとしているせいで、視認性や操作性が悪く、要求される高度も高いため積み上げの自由度も低くなっている印象で、正に「賽の河原の石積み」をするような苦行になってしまっている。

この他にも酒の早飲みバトルや釣り、数字と決められた役で遊ぶボードゲーム的なものもあるなど、寄り道できる要素は豊富だと言って良いだろう。

 

パリ包囲戦

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いざパリへ

「パリ包囲戦」はアサクリヴァルハラにて新規の土地と物語などが登場するDLCだ。
舞台は題名の通りフランスのパリ。パリはヴァイキングの侵攻を度々受けている土地であり、ヴァイキングを描くとなれば避けては通れない出来事の1つだ。
それを題材としたのが本DLCである。

アサシンクリードにてフランスが舞台となるのもアサシンクリード ユニティぶりであり、ユニティの時代よりも1000年近くも前の時代であるため別の感慨も湧く事だろう。

 

ストーリー

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狂気と復讐

パリ包囲戦ではフランス(当時はフランク)の”肥満王”と呼ばれたシャルル(カール3世)やその妃リヒャルディスオド(ウード)といった実在の人物達が登場する。
パリ包囲戦のメインストーリーのボリュームとしてはイングランド編の1~2つの地域制圧とほぼ同程度のボリュームとなっている。

シャルルがイングランド侵攻を狙っていると聞いた主人公は、それを事前に阻止するべくパリへと向かう決断をする。
到着したパリ周辺では悪魔に取り付かれたかのような言動をする様子のおかしいフランク王シャルルと家族をフランクによって殺され怒り狂うヴァイキングの長シグフレッドが一触即発の緊張状態となっていた。
主人公エイヴォルはなんとか互いが納得するように平和的に解決しようとするのだが…。

DLCの物語はシグフレッドの復讐劇に巻き込まれるような展開が印象的であり、そして(ややありふれたものではあるが)復讐は何も生まないことを説いている。

 

システム
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革新的なものはないが、新しい武器種が登場

パリ包囲戦でのシステム面に関してはゲームとして全く新しい要素は余り無く、あくまでも”やる事が増えた”と捉えるのが良いだろう。

完全に新しく追加された要素としてはパリ周辺のフィールド、メインやサブのストーリー、新しい武器/防具となっている。
中でも武器に関しては全く新しい武器種として片手剣と大鎌が追加されている。
なお、片手剣に関してはバグなのかローカライズミスなのか既存に同様のカテゴリーがある”短剣”と表記されるが、モーションはしっかりと新しい片手剣になっているので安心して大丈夫だ。

 

グラフィック

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ノルウェーイングランド、そして神話世界の欲張りセット

アサクリヴァルハラで訪れる大地は緑豊かな土地や沼地、降雪地帯のほか、ストーリーの項でも説明しているが北欧神話の舞台が登場するなど、かなり欲張り構成だと言えるだろう。
フォトモード搭載が搭載されている事も非常に嬉しいポイントだ。

オブジェクトの激しい動作に対しては躍動感を与えるためのブラーがかかるなどの工夫もしっかりとされている。
また、いくらかマイルドになっている部分こそあるものの、日本版であっても人体の切断表現はそのまま適用されているため、ヴァイキングの残虐性をしっかりと映像で表現できている点も好印象だ。

システムの項で記載しているが、キャラクターカスタマイズには防具がある。
しかし、兜などで顔が見えにくいのはイヤといったような場合には、特定の部位の防具を非表示にする事もできるなどしっかりと配慮されている。

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動物とのインタラク

動物とのインタラクトもあり、何かリワードが用意されているものではないが犬や猫を撫でたりできるのは嬉しいポイントだ。

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伝説の武器たち

本作にはエクスカリバーを筆頭に伝説の武器、神話上の武器が登場する。
しかし、そのデザインは余り良いとは思えないのは残念なポイントだ。
アサシンクリードシリーズはSF作品でもあるため、伝説や神話の世界をSFと紐づけたものなのだろうが光るように加工された鉄パイプのような見た目は素直にチープな印象になってしまっている。

また、ヴァイキングといえば…とも言える剣「ウルフバート」と思われる刀剣がないのも少々残念だったが、アップデートで追加され主にDLCにて入手できる片手剣はウルフバートを彷彿とさせるようなものもあり嬉しいところだ。

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相変わらず炎のエフェクトが粗い

アサクリオリジンズの時よりはいくらかマシになっているのだが、炎のエフェクト(松明の燃えている部分など)はやや粗いのは少々気になる所だ。
PS4ProやPS5版ともなればエフェクトがエンハンスドされるのかも知れないが、筆者の環境である通常のPS4では違和感を感じた。

 

サウンド

アサクリヴァルハラではオープンワールド型のタイトルに多い環境音、インタラクティブミュージック的なBGMの活用が主体となっている。
そのため、アサクリオリジンズも同様であったが記憶に残るような1曲はほとんど無いように思える。

 

総評

Assassin's Creed Valhallaは過去シリーズ全般と同様に抜きん出た面白さや革新性こそ無いものの、大きく外れる事の無い安定感ある楽しさを提供できており、初心者から上級者まで幅広いプレイヤーにオススメできる作品に仕上がっている。

免罪符を用いずに侵略を行っていく姿は好感が持て、進行テンポや成長テンポが早いゲームプレイもついつい長くプレイしてしまう中毒性がある。
極寒のノルウェーと鮮やかなイングランド、そして神秘的な北欧神話の世界を1本で体験できる本作はかなりの欲張りセットだといえるだろう。

しかし、リリースから1ヶ月以上経てもなお頻発するエラーの数々は本作の素晴らしい部分のほとんど全てに影を落としてしまっている。
2021年8月時点では数々のアップデートによりかなり動作が安定したため大きな問題とするつもりはないが、リリース直後の製品としてのこの品質の悪さは残念でならない。

 

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【レビュー】ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル

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忘れた思い出はどこへ行くのか

ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル(以下、FFCC)はゲームキューブ(以下、GC)にてリリースされたファイナルファンタジーシリーズの外伝的立ち位置の作品だ。

熱心なスクウェア教徒であった筆者は久しぶりに任天堂ハードで登場した本作に興味を持ち、マルチプレイを強調した当時のCMも印象的であったように記憶している。
とは言え、実際にマルチプレイが出来たかと言うと…。

今回はFFCCのレビューをしてみたいが、画像などはリマスター版のものとなるため留意されたい。

 

 

ストーリー

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「思い出(ゲームプレイ)」こそが力になる

まずFFCCはストーリーを目当てにプレイするようなものではないと事前に記載したいのだが、その上で設定や演出は優れている部分も多い事は特筆するべきポイントだ。
本作の世界設定は一見すると明るい雰囲気を持っているが、実際には退廃的で悲しい設定も併せ持つ点が印象的だ。
本作の世界は何らかの原因によって世界中が瘴気に飲み込まれ、人々はクリスタルの周囲の一定範囲内でしか暮らすことができなくなった世界が舞台となる。
瘴気を退けるクリスタルは”ミルラの木”から手に入る「雫」を捧げる事で機能するため、それを各地から集めるキャラバンが活躍している。
主人公はミルラの雫を集め、自分の村へと持ち帰る役目を担う事になる。

本作のストーリーのテーマは「思い出」だ。
この思い出とは単純なプレイヤーのゲームプレイを通した経験と言うものだけではなく、パラメーターとしてその数が記される。
思い出はダンジョンをクリアする事でも増えるし、ダンジョンに立ち寄るまでのワールドマップ上での他の村のキャラバン達との出会いでも増えていく。
思い出は日記に書かれ、どのような出来事があったのかを後から読み返す事も可能だ。
様々なダンジョンや道中のイベントの数々がプレイヤーの、そしてプレイヤーキャラクターの思い出となっていく。
そして、それが最後の最後でプレイヤーを助ける力となってくれるのだ。
プレイヤーの体験がゲームプレイにフィードバックされるという「ゲームであるからこそできる演出」が用意されているのは本作の特筆するべきポイントだといえるだろう。

本作はストーリー演出において勿体ない部分もある。
とは言え、ストーリー主体の作品ではないため大きなデメリットという訳では無い事は留意して欲しい。
本作は最大で8人のアバターを作成する事ができ、演出上は作成したアバターたち全員で冒険をしている形となる。
しかし、同じ村出身のアバター達と一緒に冒険をしているという演出が全く無いのは寂しい所だ。
例えば、村や街にいくと操作していないアバターが買い物などをしているなどの演出があるだけでも違っただろう。
仲間達とのインタラクションが僅かでもあって欲しかった所だ。

少しだけ前述しているがダンジョンのハブとなるワールドマップ上ではランダムにイベントが発生する。
しかし、プレイを重ねていくと発生するイベントが極端に少なくなってしまうのは寂しいところだ。
もう少し汎用のイベントを増やして貰えれば嬉しかった。

セリフ送りが決定ボタンしか無いのは不親切なポイントだ。
特に途中に選択肢があるとうっかり選択ミスをしてしまう可能性が高くなる。
キャンセルボタンでもセリフ送りができるようにしたり、選択肢では全未選択状態にして誤選択を防ぐなど配慮が欲しかった所だ。

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プレイヤーに線を繋げさせるストーリーテリング

FFCCはストーリーがプレイヤーを牽引するようなストーリードリブン的なゲームでは無いため、全体的なストーリーはアッサリしている。
しかし、そのストーリーテリングは非常に良く出来ている。
断片的に語られる物語によってプレイヤーに能動的に点と点を繋がせるように作られており、ゲームプレイを通して世界観を描くようになっているのだ。
黒い鎧を身に付けたバーサーカーのようなリルティの男、ミルラの雫を集められなかった村、瘴気に抗って暮らそうとする研究者の顛末を明示する事なく描いている。
何があって、何が起きたのかをゲームプレイを通じてプレイヤーに想像させるストーリーの描き方は印象的だ。

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語り部による導入は素晴らしい

ダンジョンに入ると世界観を感じさる民話のような物語がボイス付きで語られる演出も非常に印象的だ。
この語りではFFCC世界に伝わる伝承やおとぎ話のような内容となっており世界観を下支えするように作られている。
そして、この語りが終わると共にダンジョンのBGMの主旋律が流れ始めるという演出は鳥肌が立つ素晴らしさだ。

 

システム

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独特な構成のアクションRPG

FFCCはキャラクターをアバターのような形で作成してプレイする事になる。
作成は種族と性別の組み合わせで自由に選ぶ形となる。
選べる種族は全てが高水準にまとまったクラヴァット、白兵戦に特化したリルキー、魔法による範囲攻撃と状態異常に特化したユーク、近接寄りの性能と華やかな見た目のセルキーの4種類だ。
また、種族によって扱う武器も異なる。
性能の好み、見た目の好み、扱う武器の好みでキャラクターを作成すると良いだろう。
なお、キャラクターは最大で8人分作成が可能だ。

作成したキャラクターの強化には一般的なRPG作品のようなレベルアップという概念はなく、ダンジョンをクリアする事で得られるアーティファクトを集める事でHPや攻撃、魔法、防御などのステータスを直接強化していくという形式となっている。
そのため、ゲームプレイサイクルはダンジョン⇒キャラクター強化(ステータス・装備)⇒ダンジョンというのが基本だ。
また、ダンジョンではアーティファクトの他に武器や防具と言った装備を作るための素材を手に入れるといった役割も持っており、ボスを倒すだけのダンジョン周回にならないような工夫も見て取れる。

バトルにおける通常攻撃は上図の通りの3連撃が基本だ。
この3連撃はボタンをタイミングよく押す必要があり、ボタン連打するだけのアクションにならないように工夫されている。
キャラクターの種族および性別によって攻撃モーションに違いがあるため、ボタンを入力するタイミングもそれぞれ微妙に異なる。
連撃のタイミングを手に馴染ませて、焦らずに敵に叩き込もう。

バトルには魔法も存在しているのだが、魔法の使い方は少々特殊なものとなっている。魔法を発動させるためにはダンジョン内で敵を倒したりする事でドロップする”魔石”を必要とする。
魔石は消費アイテムでは無いが、ダンジョン内でのみ有効なアイテムであるため注意が必要となる。魔法を使う際には特殊なアイテムを入手するまでダンジョン内の魔石が必需品となるだろう。
特にHPを回復する手段として活用する事になるケアルやマルチプレイ時にHPが0となった仲間を復帰させるレイズは必ず用意しておきたい。
魔石は組み合わせる事で性質が変化する点もユニークだ。
例えば、ファイアを2つ組み合わせる事でファイラになったり、ファイアとブリザドでグラビデになったりと変化する。
飛行する敵に対してはグラビデを使用しなければまともにダメージを与えられないなど、敵に応じて使い分けるように作られており、存在意義の薄い魔法が少なくなるように設計されている。

敵の行動も良くデザインされている。
敵の行動パターンは自分の攻撃するべきタイミングと敵が攻撃してくるタイミングがしっかりと用意されており、疑似的なターン制RPGのように構成されている。
そのため、今は自分が攻撃する場面、今は敵の攻撃をしのぐ場面といった状況が把握しやすくなっており、理解しやすいゲームプレイとなるように設計されていると言えるだろう。

攻略する事になる各種ダンジョンはキャラクターを強化のために何度も周回する事になる。
このダンジョンは周回する毎に出現モンスターが強くなるだけでなく、周回に応じてダンジョン構造が段階的に変化する場合がある。
また、ダンジョンには探索要素としてモーグリの巣が隠されており、見つけてスタンプを貰う事ができる探索・収集要素がある。

なお、本作にはチュートリアルも用意されている。
基本的な操作やルールなどを学ぶことが可能で、当時としては親切な設計だと言える。

本作をプレイするにあたっての注意して欲しい点も記載したい。
本作はアバターを作る事になるのだが、その際にプレイヤーは親の職業を選択する事になる。
しかし、恩恵が薄い職業があるのは残念だ。
全体的には工業系の職業ばかりがゲームプレイとして恩恵の強いリワードが用意されており、農業や酪農などの職業はダンジョンでも拾えるような汎用アイテムしか貰えないなど職業差別になってしまっている。
キャラクター作成をする際には注意が必要だ。

前述の通り、本作は1人で最大8人までのキャラクターを育成させる事ができる。
しかし、1人で複数キャラクターを育てようと思うと非常に大変だ。
ダンジョンを周回してしまうと敵が強くなってしまい、育っていないキャラクターでは攻略が厳しくなる。
しかし、キャラクターのステータスを上げるためにはダンジョンを攻略しなくてはならない。
そのため、ダンジョンを攻略できない⇒ステータスアップできない⇒更にダンジョンを攻略できない…という負のスパイラルに陥るのだ。
選択したキャラクターに応じてダンジョンの難易度が可変になるなど、複数のキャラクターを育成しやすくする配慮が欲しかった。

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マルチプレイ

本作はシングルプレイも可能であるが、マルチプレイも可能な作品である事も忘れてはならない。
GC版ではゲームボーイアドバンスGCに接続させる必要があったため、当時としては非常にハードルの高いマルチプレイとなっていた。
そのため、筆者もそうだったのだがGC版でのマルチプレイをした事がないユーザーも多かった事だろう。
リマスター版ではオンラインマルチに対応しており、マルチプレイの敷居が下がっている。
リマスター版のマルチプレイはダンジョンに入りながら募集が可能であるため、マッチングを待たずにプレイできる。もちろんマッチングしてからのプレイも可能だ。
ただし、Nintendo Switch版であってもローカル通信によるマルチは行えないのは少々残念だ。

FFCCのシステムにおいて最もユニークな試みはクリスタルゲージの一定周囲だけが安全に戦える場所になるというシステムだ。
本作はマルチプレイのアクションであるが、原作においては各プレイヤーがGBAなどを持ち寄って1つのディスプレイを観てプレイする事になるためキャラクターが離れ離れにならないように配慮されたシステムとなっている。これは世界設定とシステムがしっかりとリンクされており良く出来ている。
当時であれば画面分割でマルチプレイするという発想も多かったが、本作ではそれを採用せずに「どうやって皆が1つの同じ画面を共有してプレイするか」という部分を考えて作られている。
そのため、本作のマルチプレイのプレイフィールはベルトスクロールアクション的な側面もあるといえるだろう。

 

リマスター

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リマスター版の追加要素

FFCCのリマスター版では多くの改善点・変更点が存在する。
ここではそれらを記載していきたい。

リマスター版にはクリア後に行ける高難度ダンジョンがある。
ダンジョン内の敵が強力になっているほか、ボスも強力になっている。
しかし、高難度ダンジョンのクリア報酬は固定になっているため、ボスを周回する程度しか旨味がないのは少々残念だ。

武器とキャラクターの見た目を変化させるDLCも用意されている。
DLCとして配信されている装備に関しては序盤から入手できるものとは思えない性能になっているため、使用すると緊張感のない戦いになってしまう可能性があるため注意が必要だ。
特にマルチプレイの場合にはゲームバランスを崩してしまいかねないため、尚更の注意が必要となる。
見た目の変更はファイナルファンタジー クリスタルクロニクル クリスタルベアラーなどのFFCCシリーズのキャラクターをモチーフとしたものに変更する事ができるものだ。
性能に変化は無い要素であるため、思い入れのキャラクターがいれば購入しても良いだろう。

リマスター版において筆者が最も嬉しかったのはアイテム所持数制限の緩和だ。
原作版ではアイテムの所持数制限がかなり厳しかったのだ。
装備を作成するにしても素材を保有していなければならず、アイテム欄はすぐにパンパンになりがちであった。
しかし、リメイク版では所持数制限が緩和され、アイテムがまとめて管理できるようになるなど、非常に親切になっており育成がしやすくなっている。

リマスター版では合体魔法がターゲットリングのタイミングをパイルメーターというものに合わせる形式に変更されている。
原作版のマルチプレイはオフラインのカウチプレイが前提であるため、声を掛け合ってタイミングを合わせる事で魔法が合体して強力な魔法に出来た。
しかし、オンラインプレイの場合には環境によって、もしくは通信距離の影響によってラグが発生する。
そのため、「タイミングを合わせて」という操作は難しいのだ。
リマスター版ではそれを解消するためにパイルメーターに表示されたタイミングで魔法を放つ事で合体魔法に出来るように変更されたものと思われる。

オートセーブも導入されている点も地味ながら嬉しい所だ。
ただし、ボス戦の直前でもオートセーブになってしまうため、ステータスが低すぎて勝てないようなケースになると詰んでしまう可能性もある。
そうなると手動セーブしたポイントを読み込むしかなくなってしまうため、かなり昔のデータになってしまうといった事態になりかねない。
そのためオートセーブはあくまでも保険であると認識して、こまめなセーブは必要である事は覚えておいた方が良いだろう。

その他、クロスプレイやクロスセーブへの対応や、原作ではGBAが必要だったマップやダンジョンのお題が常に表示されたり、アイテムの預り所の導入によって1人でも複数人キャラを作成する際に重宝したりと、細かい修正点が数多くある。

また、体験版相当となるLite版では最初の3つのダンジョンが遊べるほか、ホストが製品版であればそれ以降のダンジョンも遊べるなど豪華仕様である点も特徴的だ。
ただし、Lite版は高難度ダンジョンへ行く事は不可である。

リマスター版ではマルチプレイにおいてやや困った面もある。
ボスエリアに突入すると登場カットシーンが挿入されたりするのだが、同期のためだったのかマルチプレイ時にはそれがスキップする事が出来なかった。
サクサクと進めたいプレイヤーには鬱陶しいと感じるだろう。
なお、この仕様はアップデートにより改善されている。

リマスター版のマルチプレイはオンラインマルチだけを前提にしたためか、マルチが可能なのはダンジョンのみとなっている。
原作版では村などでもマルチで徘徊する事が可能であったため、システム的に大きなデメリットはないものの少々寂しい仕様だ。

 

グラフィック

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美しい水の表現

FFCCは当時としては非常に高水準のグラフィックが特徴的であった。
とは言え、リマスター版は映像がリマスターされていると言えど、細かい部分では現代水準からはやや劣るように見えるだろう。
しかし、美しい水の表現は今でも健在で印象的だ。
水の反射表現や光の屈折した表現が丁寧に描かれており、退廃的な世界の中の美しい自然を感じさせてくれる。

キャラクターのデザインはスタイライズドで頭身がやや低めで可愛らしい。
キャラクターが装備する武器は装備しているものによってグラフィックと攻撃時のエフェクトが変更される。

 

サウンド

民族的な暖かみのあるユニークで美しい音色はFFCCを独自の色に染め上げる事に成功している。
リマスター版の高難度ダンジョンでは新規のアレンジBGMになるなど、主題歌やBGMを再集録している。
筆者のお気に入りの楽曲を一部紹介させて欲しい。

本作を象徴するような印象的なオープニング曲「カゼノネ」

旅の道中を感じさせる「キャラバン・クロスロード」

穏やかさの中に物悲しさもある「旅立ち」

暖かみもありながら妖しさもある「夢路の夕暮れ」

小気味良いリズムがテンションを上げてくれる「約束のうるおい」

美しい笛の音が特徴的な「アミダッティも、エレオノールも」

「ストーリー」の項でも記述しているが、ダンジョンに入ると世界観を感じさる伝承や民話、童話のような物語がボイス付きで語られる。
そして、語りが終わるとダンジョンのBGMの主旋律がシームレスに流れ始めるというインタラクティブミュージック的な演出は鳥肌が立つほどに最高だ。

少し細かいがSEもこだわりが感じられる。
武器によってグラフィックが変更される事は上述したが、武器によってヒット時のSEも変化するのだ。
このような部分が手応えにも繋がるため地味ながら嬉しいポイントだ。

リマスター版ではボイスが付いている。
しかし、ボイスがある事がデメリットであるとは言わないが明確なメリットとなっているかは疑問がある。
また、初期設定値では音量バランスがやや悪いため、設定から各音量値を変更した方が良いかも知れない。
なお、ボイスはON/OFFが可能で、原作のようなプレイをしたい場合にはOFFにすると良いだろう。

 

総評

ファイナルファンタジー クリスタルクロニクルは独特なストーリー、システム、音楽が組み合わさった独自色の強い印象的な作品だ。

ストーリー自体はアッサリとはしているものの、プレイヤーに想像させる余地を残したまま描いている手法は優れている。
複数キャラをビルドするのは大変で、戦闘テンポがやや遅めではるものの、疑似的なターン制のようにデザインされた戦闘はプレイしやすく、同じ画面を共有する事を前提としたマルチプレイもユニークだ。
記憶に残る民族的な音楽は思わず口ずさみたくなるような楽曲ばかりで、本作の個性を際立たせている。

 

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【レビュー】Ghost of Tsushima

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對馬の冥人

Ghost of Tsushima(以下、GoT)はアメリカのデベロッパーであるサッカーパンチが制作した日本の侍にフィーチャーしたゲームである。
GoTが発表された際に意外であったのは海外のデベロッパーが侍ゲームの題材として選んだのが「蒙古襲来(元寇)」であった点だ。
日本史の中においては戦国時代や新選組がエンターテイメント作品でチョイスされる事が多いだけに、海外のメーカーがこの時代の侍(武士)を描こうとした事は驚きだったのだ。
しかし、今までにゲームでは余り描かれる事が少なかった時代であるため素晴らしい選択であると感じた事も確かだ。
とは言え、それを選択したのがお膝元である日本メーカーではなかったことは嘆かわしいが。

 

【PS4】Ghost of Tsushima (ゴースト オブ ツシマ)

【PS4】Ghost of Tsushima (ゴースト オブ ツシマ)

  • 発売日:2020/07/17
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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時代劇のような物語

GoTは蒙古襲来を題材にした侍(武士)を主役としたフィクションのストーリーが特徴的だ。
蒙古襲来と言う実際の出来事が題材となっているが、史実をなぞるようなものではなく、本作で描かれる侍像は後世のイメージが踏襲されていたりと、あくまでもエンターテイメント面を前面に押し出した時代劇映画のような内容となっている。
本作は海外デベロッパーが開発した日本題材の作品であり、そうなるとトンデモ日本になっていないかと心配になる方もいるかも知れないが、しっかりと研究をして作成されており「日本っぽくない」と感じた部分は全くと言って良い程に無かった印象だ。
立ち方から座り方といった細かな部分まで武士らしい所作を再現している。

主人公は対馬の武士の1人である境井仁という人物で、対馬に攻めてきた蒙古に正々堂々と戦って散々に打ち負かされ敗走した。
その後、仁は津島各地を巡り、有力者から協力を取り付け、蒙古に対して反撃を行う準備をする。
本作のストーリーは侍を主体としながらも、後世の創作である暗殺者的イメージの忍者を感じさせるものになっているのも特徴だ。
誇りを重んじる侍から、対馬を取り戻すために汚い手段も厭わない暗殺者的な忍者へと様相を変えていく仁の葛藤と生き様が描かれている。
また、そんな忍者のような姿へと変わっていく仁だが、劇中にて情報戦に重きを置く事で有名な孫子を学んだと言っており、その素養自体は最初から培われていた点はキャラクター設定としても面白い(実際には当時の日本では孫子兵法はそこまで知名度はなかったと思われる)。

チュートリアルの作りも過去の回想と言う形で自然な形で挿入されているが、それ以上のものに昇華できている点も良い。
仁という人物は武士としてはある程度は成長している存在であるため、まだ幼い頃の回想をチュートリアルにするのは当然の選択だろう。
その上で、物語最後の結末に通じる印象的なものとなっており、物語の始まりが結末へと回帰する優れている導入だ。

ストーリーはそれなりにバリエーションが用意されており、時には武人を思わせる合戦のようなシチュエーションもあれば、暗殺者のようなシチュエーションもある。
事件がどのように発生したのか捜査するようなパートが差し込まれる事も多い。
しかし、その進行は非常にシーケンシャルであり、展開を先に進めるためには順序を追う必要がある。
そのため、事前にイベントポイントなどに行ってもイベントが発生したり、進行する事は無いクラシックな作りになっている。
全体的に融通が利かない作りになっているとは言え、基本的には「敵を倒す」「敵から見つからないようにする」という単純でわかりやすいシチュエーションで構成されているため、意味が良くわからない理由で失敗扱いにされるケースは少ない。
オープンワールドで一本道な作りをした事による悪い面が出来るだけ前面に出て来ないように配慮はされているように感じ、プレイフィールとしてもストレスは余り感じないだろう。

本作では行き先を「風」の流れが導いてくれる。
フィールド上に矢印が表示されたり、マップ上にルートが表示されたりする作品は非常に多いが、本作は「風」という世界観を全く壊さない要素にその役割を与えた着眼点は素晴らしい。
フィールドが立体的な作品ではそのまま利用する事は難しいかも知れないが、様々な作品に応用ができる。
また、本作の「風」という設定もストーリーとしても意味があるスピリチュアルなものとして解釈できるものになっており、ただ矢印が風に置き換わっただけにしない努力をしている点は称賛できる。
その他にもフィールド上の様々なランドマークにはキツネや鳥が案内をしてくれるなど、ナビゲーションの工夫が良い味を出している。
ただし、鳥は特に顕著なのだが、それらのナビゲーションをしてくれる動物は地形に引っ掛かってしまい、およそ鳥らしい挙動にならないのは惜しいポイントだろう。
また、キツネや鳥によるナビゲーションはスピリチュアルな自然を感じつつ、更に親切なシステムでもある一方で、「能動的に探索している感」を減退させてしまう。
そのため、露骨に配置された動物の後ろをついていくだけの作業に感じてしまう人はいるかも知れない。試み自体は興味深いがもっと深掘りが必要だ。

サブクエストも多く用意されている。
内容としては悲惨なものが多い印象だが、それでもプレイヤーの気持ちも沈んでしまうような暗いものではない丁度良いバランスになっている。
また、サブクエストをクリアした後にはNPCが別の村などで生き延びており、ちょっとしたエピローグ的な会話も少し用意されている。
助けたNPCのその後が垣間見えるのは嬉しい要素だ。

本作のストーリーおよびストーリーテリングにて気になった点も記載したい。
まず、話しかけられるNPCが少ない点はインタラクションを好むプレイヤーには少し物足りなく感じるかも知れない。
話せるNPCはサブクエストを依頼してくる人物か、もしくはサブクエストの情報を教えてくれる人物くらいなものなのだ。
死亡しているキャラクターに対してお辞儀をすると専用のセリフが発生すると言うインタラクションはあるのだが、何故だか生きた人間には一言も喋らない仁というキャラクター性は勿体なさを感じる。

メインシナリオとサブシナリオに共通して言える事なのだが、発生した事件の調査を行った際に足跡が残っている事が多すぎるのは気になる所だろう。
ゲーム的な都合であるため、ある程度は仕方がないと割り切れるし、筆者は基本的にそういう事には寛容なタイプではあると思っているのだが、それにしても多すぎるのだ。
もう少しパターンをひねり出して欲しかったように思える。

メインシナリオクリア後の描き方も「蒙古の残党を倒すまで終わらない」となるのは仕方がない面もあるのは理解できるが凡庸なまとめ方だ。

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主人公の心情をプレイヤーが決める

特定のポイントに赴く事で、プレイヤーは和歌を創作する事ができる。
和歌の創作は予め与えられたお題と句のパターンの組み合わせで完成させるものとなっている。
また、特定の場所にある温泉に入ると、プレイヤーは与えられた選択肢の内容に思いを馳せる。

和歌や温泉によってプレイヤーが仁の心情を決定づける点は面白い。
このようなインタラクションを行うゲームの場合には基本的には無個性な主人公に対して行われると思うのだが、本作はしっかりと個性と意志が宿っている仁という人物が主人公だ。
そんな仁の心情を会話では無い方法でプレイヤー側が想像し、寄り添って決定させるのはユニークだ。

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魅力あるサブキャラクター

サブキャラクターにも魅力ある人物が多い。
復習の鬼と化した政子、昔馴染みでライバルのような関係性も感じさせる竜三などが筆者は好きだった。
サブキャラクター達の多くは専用のサブクエストが複数用意されているため、本編だけではわからないキャラクターの本質的な性格などはそちらで垣間見る事ができるようになっている。

これらのサブキャラクター達のサブクエストはプレイヤーキャラクターである仁のスキルとも関連させた作りとなっている。
政子であれば武士道あるいは剣劇のような戦闘がメインとなり、石川先生であれば弓術を使う事になる事が多い。
"ゆな"のサブクエストであればステルス要素が強くなる。
このようにキャラクターとスキルを関連させる事でストーリー性とシステム性を両面で把握しやすく構成しているモダンな作りだ。

 

システム

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間口の広いアクション

GoTは侍を題材としており、自分も敵も数回斬られればやられてしまうようなアクションゲームだ。
これだけを見るといわゆる「ソウルライク」のような「死にゲー」を想像するかも知れないが、実際には初心者でも十分に楽しめる簡単な部類のアクションゲームになっている。
敵に見つからないステルス要素もあるが、それに関しても敵の視界や索敵は基本的に緩いため難しいと感じる事は余り無いだろう。
他作品の例えで恐縮だが、本作のシステム面はRPG要素の無かった旧来のアサシンクリードを彷彿させるようなアクションとステルスとなっている印象だ。

戦闘では敵の攻撃に合わせてガードを行う事で発動するパリィによって攻撃を受け流す事と、ガード不可/パリィ不可の攻撃を回避する事が主体となっている。
パリィは敵の攻撃を引き付けてから行う事ができると、ジャストパリィのような形となり演出と効果がより大きくなる。
そのため、パリィはダメージを受けるリスクを負って、大きな反撃のチャンスを得ると言う駆け引きとなっているのだ。
とは言え、ジャストパリィこそ攻撃をしっかりと見極める必要はあるが、通常のパリィの受付時間は非常に長いためこれだけでも十分に戦闘を有利に進められる。
また、これらのガードやパリィは真後ろからの攻撃に対しても適用されるため囲まれたしまった場合でも問題なく処理する事が可能だ。
敵が発動するガード不可の攻撃に関してはガード(パリィ)ではなく回避する必要がある。
どの攻撃をパリィし、どの攻撃を回避するのかを理解しておく必要があるが、ガード不可の攻撃はサインが発生するため、見極めも決して難しいものではない。
そのため、戦闘に関しては攻撃、パリィ、回避と適切なボタン入力さえ行えていれば負けるという事はまずないのだ。
これは初心者でもプレイしやすいと言う間口を広げる一方で、ボタンを押すだけの単純なゲームプレイになる事も意味しているため、アクションゲームとしては凡庸な印象になってしまう事は否めないだろう。

敵の挙動は殺陣のような形式をベースとしており、「静と動」のメリハリをつけつつ、乱戦にならないように工夫されている。
まず「静と動」だが、敵はガンガン攻めてくるような事は無く、攻撃を行う場面、間合いを開けて様子を見る場面が交互に繰り返される。
アクションゲームではあるが、ある種のターン制RPGのような「攻撃するべき時」「防御(パリィや回避)を行うべき時」が明確になっているのだ。
そして乱戦にならないような工夫も行われている。
敵が複数人いた場合にはバラバラに攻撃してくることを出来るだけ避けるように制御されているように感じる。
敵の数が多すぎる場合には流石にグチャグチャとした乱戦になる事もあるが、2~4人程度の相手であれば時代劇の殺陣のような戦い方になるようになっている。
また、メリハリのある殺陣のような戦い方であるが故に、初心者のプレイしやすさにも寄与していると言えるだろう。

戦う事になる敵には剣、槍、盾持ちなどのバリエーションが存在する。
そして、それらのバリエーションに対抗する形でプレイヤーには「型」が用意されている。
型は敵の兵種に応じて特効効果があり、例えば槍兵に対しては槍に有効な型を選択して戦う事で有利に立ち回れるようになっているのだ。
この型は戦闘中にシームレスに変更可能で、敵に応じて即座に変更して対応できるようになっている。戦闘では1つの型を使い続けると言うよりも、敵にあった型を選択して戦うのが適切だ。
しかし、敵のバリエーション自体は少なく、中盤や後半になっても敵の体力多くなる程度であり、敵の種類が多いとは言えないのは少々残念だ。

カメラワークにしても様々に制御が行われているようだ。
戦闘中では全体を把握しやすいように状況に応じて俯瞰の度合いが変化し、ストーリー中ではシーンに応じてカメラが寄る事もあり工夫が感じられる。

戦闘で気になる点も書いておきたい。
戦闘では敵を自動ロックオンするような形になるのだが、GUIを最大限まで排除した本作では乱戦の際に誰をロックオンしているのかわかりにくい。
攻撃は基本的にロックオン対象に向かって行われるため、「あと一撃で倒せるのに」「鬱陶しい弓兵を片付けたいのに」といった状況でも倒したい相手を狙いにくいのだ。
この痒い所に手が届かないようなもどかしい操作感はややフラストレーションになるだろう。

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噂が広まる

RPG要素は多く無い本作ではあるが、仁の体力などのステータスが向上する要素のほか、攻撃や防御の性能を向上させるような要素が用意されている。
オープンワールドという広いフィールドを寄り道をする事によって強化要素を回収していくという構造としてはオーソドックスな作りだが、不慣れなプレイヤーであったとしてもある程度は有利に立ち回れるようになってくる。
”初心者でも十分に楽しめる難易度”と前述しているが、このような要素もそれを後押ししていると言えるだろう。

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ミニゲーム的な要素によるステータスアップ

フィールドの寄り道は敵を倒したり、敵の拠点を制圧したり、クエストをクリアするだけではなく、様々な場所にある温泉やミニゲームなども存在し、それらを達成する事で能力などが上がるようになっている。

ボタンを正しく入力して竹を全て斬るミニゲーム的なものがある。
やること自体は比較的単純だが、一定の時間内に指定されたボタンを入力する必要があるため中には少し難しいものもある。
ちょっとした気分展開にはなるのだが、一度クリアしてしまうと再挑戦が行えなくなってしまうため少々残念だ。

アスレチックのような神社参りもある。
鉤縄を使用した忍者を彷彿とさせるワイヤーアクションや前述のアサシンクリードライクなロッククライミングを駆使して、最終到達ポイントである神社を目指すと言うものになっている。
しかし、この神社参りはプレイヤーへの視線誘導が不親切な場所も多いのが気になる所だ。アスレチックのような構成のフィールドをスイスイと進める時には爽快感があるものの、次にどこに行って欲しいのかがわからなくなり周囲をグルグルと見回してようやく行き先がわかると言ったようなテンポが悪く感じてしまうケースも多い。
なお、神社参りに限らないがフィールドを様々に移動したり、地形を無理矢理に踏破しようとすると地形にハマってしまう事はこの手のゲームではありがちだが、地形に完全にハマり脱出不可能になってしまった場合でも瞬時にリスポーンされるなどの配慮がされており安心してプレイできるようにはなっている。

 

グラフィック

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彩度の高い印象派絵画のような映像

写実的ではなく、映画的な絵作りをしているのはGoTの特徴的なアートスタイルと言えるだろう。
全体的には彩度が非常に高く、印象画のような豊かな色彩で描写されている。
また、GUI/HUDがほとんど表示されない本作はそのままスクリーンショットを撮っても映えるのだが、フォトモードまで実装されているのは嬉しい限りだ。
フォトモードにしても機能が豊富で素晴らしい。

本作は津島が舞台ではあるが、日本全国の湿地から降雪地帯まで様々な土地や建物の特徴を取り入れている欲張りな構成も魅力的だ。

キャラクターの造形に関しても記述しておきたい。
各キャラクターはお世辞にも美男美女がいるとは言い難いのだが、プレイを進めていくうちにそんな彼らが非常にカッコよく見えてくる点も印象深い。
特に主人公である仁は最初こそ凡庸な顔立ちに見えるのだが、物語を進めていくうちに不思議と威厳や男前な雰囲気が感じられるようになってくるのだ。

その他にも若干のノイズがある白黒の映像でゲームプレイができる「黒澤モード」もユニークな試みだろう。

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服の色や刀の装具が変更可能

仁は服装が変えられるほか、服の色はプリセット方式で変更可能になっている。
服には浪人(牢人)の服装や武士らしい甲冑などが用意されている。
服装によってバフ効果が異なるため、見た目の好みと性能に折り合いをつけて装備する事になるだろう。

刀身は変更できないが、刀の装具は変更が可能だ。
高級感ある見た目もあれば、かなり派手なものも存在する。
刀の装具は変更を行っても性能に変化がないため、自分の好みの見た目のものを装備すると良い。
筆者は上図の「八幡之護」が最もお気に入りの装具だ。

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炎のエフェクトはやや張りぼて感がある

全体的には素晴らしい映像美だが、一部には気になる部分も存在する。
静止画ではわかりにくいかと思うが、炎のエフェクトがやや張りぼて感があるのは少々残念だ。
遠くから見る分には問題なく見えるのだが、炎上箇所を近距離でグリグリとカメラを動かして観るとその張りぼて感に気が付くかも知れない。
この作りによって負荷を下げているのかも知れないが、全体のディティールからやや浮いている印象だ。

 

サウンド

音楽も日本の侍映画の合戦を彷彿とさせるものが多く気分を盛り上げてくれる。
声優の演技も良い印象で、大自然の風や動物の鳴き声は蒙古襲来という殺伐とした時代設定の中に癒しを与えてくれている。

 

総評

Ghost of Tsushimaはストーリーの構成やゲームプレイ部分こそ凡庸ながら、基本に忠実であり大きく外す事の無い安心できる面白さを提供し、初心者向けの配慮も随所に取り入れられている。
そして、蒙古襲来という時代の武士を題材とした事によって、その凡庸さを感じさせない魔法をかける事に成功した作品だ。
しかし、プレイを重ねて武士というものに目新しさが無くなり、その魔法が解けてしまえば凡庸な印象もまた強くなってしまうだろう。

印象派絵画のように鮮やかな対馬は、どこを切り取っても美しい一枚になる。
フォトリアルとは一線を画した本作の絵作りには非凡さがある。

 

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【レビュー】ゼノブレイド

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未来を切り開く

筆者は当時(2010年頃)のJRPGに辟易していた。
2010年頃の「JRPG」という単語自体も「日本産RPG」というよりも「旧態依然のシステムを使い回し続けるRPG」という蔑称としてのニュアンスが日本でも海外でも強い印象で、かくいう筆者も日本メーカーが発売するRPGにウンザリしていたのだ。
進化が停滞しているようなJRPG、もしくは海外製RPGの質の悪い模倣品のようなJRPGばかりが市場に出ているように感じてしまっていたのだ。
そのため、筆者が小さい頃にプレイしていたようなRPG(ファイナルファンタジーゼノギアスクロノトリガーなど)の熱量を感じる事はもう無いのだと。
「自分自身がそう変わってしまった」のだと、そう思い込んでいたのだ。
しかし、そんなJRPGへの失望感の中で1つの作品が筆者の目を再び輝かせる事となる…。

今回のレビューはNintendo Switchにて発売されたゼノブレイド Definitive Edition(以下、ゼノブレイドDE)をメインのレビュー対象として記載していく。

 

Newニンテンドー3DS専用 ゼノブレイド - 3DS

Newニンテンドー3DS専用 ゼノブレイド - 3DS

  • 発売日:2015/04/02
  • メディア:Video Game
 
Xenoblade ゼノブレイド(特典なし) - Wii

Xenoblade ゼノブレイド(特典なし) - Wii

  • 発売日:2010/06/10
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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掴もうぜ未来

ゼノブレイドのストーリーは王道な少年マンガのような展開と次々と明かされていく謎によって引き込まれていく構造となっているのが特徴的だ。
遥か昔、二柱の強大な神、「巨神」と「機神」が互いの存亡をかけて争い、共に骸となった。
それから数万年の後、骸となった巨神の体の上(巨神界)には人間のような外見的特徴を持つホムスと言う種族を始めとした様々な動植物が活動するようになっていた。
しかし、骸となっている機神の体の上(機神界)に住む機神兵が巨神界に対して侵略を始める事となる。
強固な装甲を有した機神兵の前に人類ホムスは成すすべなく蹂躙されていくが、そんな装甲をもバターのように斬り裂く神剣モナドの存在がホムス達の希望の光となっている。
物語全体は少年マンガのような熱い展開が多く、またゼノシリーズ全般に多いSF要素や専門用語も比較的ライトに使用されているため、老若男女問わずに楽しみやすい上品で上質な作品に仕上がっている。
また、カットシーンのクオリティが非常に高い事もプレイヤーをストーリーに引き付ける要素だ。
キャラクターの表情や演技は細かく作り込まれ、喋っていないキャラクターもリアクションを行っており非常にリッチだ。
それ以外にもカメラワークや音楽の使い方などの演出も巧みでWii版であっても3Dアニメを観ているかのような気分になる。
そうなればモデリングなどが格段に向上したリマスター版の印象はもはや言うまでもないだろう。

本作のストーリーの導入はオーソドックスなマイナスになるというものが採用されているのだが、その描き方は非常に丁寧だ。
一般にマイナスから始まる(何かを失う)導入は多いのだが、導入であるが故に描写が少なく、プレイヤーにはその重大さが最大限に伝わらないケースも多い。つまり、「マイナスになっただけ」になってしまっている作品が多い事も事実なのだ。
しかし、本作では導入部分も非常に丁寧に描ききっているためマイナスになったとき(失ったとき)の喪失感がプレイヤーにも強く感じられるようになっているのは見事だ。
マイナスとなった時に、それを補填するための行動を取りたくなるのが心理であり、その心理をプレイヤーへの動機付けとするために物語の導入ではマイナスから始まる事が多いのだ。
それが実に見事に成立している本作の導入はプレイヤーを引き付けるだろう。

主人公は巨神界に住むホムスの青年シュルクだ。
シュルクはコロニー9という機神界からは非常に遠い立地の巨神のふくらはぎ部分にある街でエンジニアをしている。
物語を強力に引っ張っていくようなキャラクターという訳ではないのだが、その意志は強く目的を見失う事なく仲間達と足並みを揃えて進んでいく姿は好感が持てるハズだ。
本作の主人公は「嫌われない主人公」を目指して制作されたようだが、その試みは間違いなく成功していると言えるだろう。
筆者の印象としても本作が発売された2010年代頃までのゲームやマンガ、アニメなどでは主人公が不人気になる傾向がややあったように思うが、シュルクと言う存在には非常に好感を持って受け入れられた記憶がある。
また、このシュルクと言う主人公は物語に大きく関わるザンザやエギルといった主要なキャラクター達と対比するように構成されている点も興味深い作りになっている。 

本作はストーリーがゲームプレイを牽引するストーリードリブンな作品となっているのだが、そのストーリー自体も次に進めたくなるような展開や謎がふんだん用いられ興味をそそられる。
なぜモナドが効かない機神兵がいるのか、なぜ機神界の機械生命体は巨神界に侵攻するのか、なぜモナドによって未来が見えるのか、なぜモナドは片刃なのか、そもそもモナドとは何なのかなど、物語を進めていく事でその理由にどんどん興味が湧いていく事だろう。
ストーリー自体の面白さもさることながら、ストーリーに散りばめられた謎もゲームプレイに対して興味を引き付け続けるものになっている。
また、物語としてはライプニッツモナド論が引用されラプラスの悪魔的な発想へと繋がっているほか、プラトン思想やそれに影響受けたグノーシス主義思想、中心ではないがニーチェ的思想も散見される。
そういったメタ的な観点からも世界観を掘り下げる事ができるため、設定を調べるのが好きな人にっても面白いだろう。

地味なポイントではあるかも知れないが、ボイス付きの会話は全てオート送りで展開されるためコントローラーから手を離して物語展開に集中する事が出来る事も筆者としては嬉しい要素だ。

ゼノブレイドDE版ではイベントシアターという形でイベントのカットシーンをいつでも見返す事が可能になっている。非常に嬉しい追加要素だろう。
イベントの時間帯や見た目の装備などを自由に切り替えらえれるため利便性も良い。

本作のストーリー面であえて気になるポイントを挙げるとすればラスボスだろうか。
本作のラスボスは敵としては少々都合の良い側面があり、戦う相手として葛藤のようなものが少ないままに描かれているのは勿体ない。
特にそれまでの敵の多くが敵ながら大義や同情の余地があるだけになおさらだ。

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キャラクター間の関係性を補完するキズナトーク

本編ストーリー以外にもキャラクターの関係性を補完する役割を担った「キズナトーク」も良い要素だ。
このキズナトークはテキストのみであり、ボイスは無いのだが、内容には選択肢が用意されており、選択によって会話の内容が変化する。
一応、選択には正解と不正解があるのだが、どちらも面白い会話が繰り広げられるようになっており、不正解を選んだからと言って損をした気分にはならない。

なおゼノブレイドDE版では、このキズナトークに関してもイベントシアターとして後からいつでも見返す事が可能なのは嬉しいポイントだ。

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穏やかじゃないですね

メインストーリー自体も非常に魅力的だが、街中のNPC達の作り込みと怖ろしいまでの物量は目を見張るものがある。

他作品の例えで恐縮だが、本作のNPC達は「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」のように時間に応じて動くように設計されており、世界に厚みを持たせる事に成功している。
昼間は商業施設で働き、夕方ごろには家路に向かうなどの行動がNPC1人1人に設定されているため、各NPCキャラクターの生活感を感じさせてくれるのだ。

そしてNPCキャラクター達にはそれぞれNPC同士での関係性も設定されている。
「○○と××は親友」といった関係性が設定されているのだ。
その関係性を確認できるのが上図の右のキズナグラムだ。
キズナグラムではNPC同士の関係性も閲覧する事が可能になっているが、戦闘やキズナトークで変化するパーティーキャラクター同士の親密度を確認する事もできる。

NPCキャラクター達からはサブクエストを受注する事が可能だ。
サブクエストも暴力的なまでの数が用意されており、中にはNPC同士の関係性などを変化させるものや、プレイヤーの選択によって結末が変化するもの、特定の仲間キャラクターでしか受注できないものも用意されている。
しかし、全体的にはサブクエストはやや淡泊なものも多く、サブクエストのクリア条件にしても色々な場所をたらい回しにさせられたり、敵から確率でドロップするアイテムを集めさせられたりと億劫になるものも多い。
本作のサブクエストは物量に重点を置いている節があり、快適さや面白さはやや薄いと言わざるを得ない。
なお、Nintendo Switchにて発売されたゼノブレイドDE版ではサブクエストのクリア条件となるマーカーがマップ上に表示されるようになったため、ある程度は良心的でモダンなものに改良されている。

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ゼノギアスを彷彿とさせる設定が多い

ゼノブレイドのストーリーが興味深い点は他にもある。
ただし、ここでは若干のネタバレを含む記載があるため、気になる方は注意されたい。

本作のストーリーは少年マンガのような熱い展開や先が知りたくなる謎によって強力に牽引しているが、その内容はゼノギアスを編纂したようなものとなっている点は興味深い。
まず「モナド」という「願望機(意志を具現化する力)」の存在自体もゼノギアスにおいて近しい概念が登場している事はわかりやすいポイントだ。
また、巨神界の生命達とテレシアの役割はゼノギアスにおけるソイレントシステムと酷似していたり、またテレシアへと至る役割を克服するものが存在している点も類似している。
ホムスなどの生命が生まれでた経緯も類似している部分があると言えるだろう。
シュルクの中に複数の人格が存在していることも類似点として挙げても良いかも知れない。
本作はある意味でゼノギアスのリブートともいえる内容になっているのだ。

 

キャラクター

主人公シュルクも魅力的だが、主人公以外のパーティーキャラクターも非常に魅力的だ。どのキャラクターも甲乙つけがたい素晴らしい魅力を持って描かれており、キャラクターの全員が好きなるような作品になっている。
その中でも筆者が特にお気に入りのキャラクターも一部だけ紹介させて欲しい。

 

ダンバン

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ダンバン

ダンバンさんは「英雄のための英雄」という言葉がピッタリと当てはまるような人物だ。
ダンバンさんはホムスを機神兵の侵攻から救った伝説的な武人であり、またシュルク達パーティーメンバーの精神的な主柱でもあるが、機略に富むような知性的な部分もあり、とにかく非常にカッコいい存在だ。
ゼノブレイドをプレイした者であれば、彼の背中に心酔したプレイヤーは絶対に多いハズである。

ダンバンさんの声をあてた堀川りょうさんは最初こそドラゴンボールベジータの印象が強いのだが、物語を進めていくうちにその演技の巧みさにどんどんと引き込まれていく。物語が中盤にもなる頃には完全に堀川さん=ダンバンさんと感じているハズだ。
なお、堀川さんは本作の音響監督を務めている。

 

メリア

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メリア

メリアはもう一人の主人公であると言えるほどに最も過酷な運命にある人物であり、最も強く成長する事になるキャラクターだ。
ネタバレを避けるためここでは多くを語れないが、彼女に待ち受けている運命を目にした時、プレイヤーは必ずやメリアを応援したいという気持ちに至っているのではないだろうか。

なお、メリアの声優を務めた勝田詩織さんは本作がデビューであると言うが、非常に良い演技をしている。

ちなみにグッドスマイルカンパニーからフィギュアが発売されている。
(筆者は当然ながら購入済みだ)

 

リキ

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リキ

本作におけるマスコット的なキャラクターであるが、40歳で子供もたくさんいるという凄いギャップを持ったキャラクターだ。
性格もノポン特有の"あざとさ"と"純粋さ"、そしてマイペースな所があるのだが、これがなかなか憎めない。

基本的にはマスコット的なキャラクターとしてパーティーメンバーのムードを良い方向に持っていく立ち位置なのだが、実際にはその役割を狙ってやっている所があり、パーティーのメンター的な存在であるというギャップが素晴らしい。
見た目こそ可愛らしいが、そこはやはり子供をたくさん育て上げた父親なのだ。

 

システム

ここからはゼノブレイドのシステムに関して記載する。
「バトル」に関しては専用の章を設けて記載したいと思うが、それ以外の要素に関してはここでザックリと説明したい。

まず、本作のマップに関して少しだけ記載する。
ゼノブレイドでのマップはある程度の階層毎に区切られているため、それなりには機能性があるのだが、入り組んだ地形も多く痒い所に手が届かないケースが無いとは言えない。
マップは最初は全体が解禁されておらず、全てのランドマークを発見すると全体が全て表示されるしようとなっており、探索してマップを埋める楽しみがあるのは良い点だ。
サブクエストをこなす事でも多くの場所に行く事になるため、フィールドを寄り道するため導線も作られている。

フィールド上には強力なユニークモンスターが闊歩しており、時にはラスボスよりも強い存在もおり、それらを工夫して倒す楽しみもある。
しかし、倒したユニークモンスターはリポップするため、後々誰を倒したのかなどがわからないため、コンプリートがやりにくいのは少々気になる所だ。

ゼノブレイドDE版では全体的に遊びやすさが向上しており、そこも少しだけ記載したい。

個人的に最も嬉しい追加要素はアイテム全般の所持上限が上昇した点だ。
筆者は収集癖のあるタイプなのだが、原作版では序盤でもアイテム欄が埋まってしまい泣く泣くアイテム売却していた記憶がある。しかし、DE版では売却しなくても問題ないくらいには増えた事はありがたい。

難易度選択をいつでも選択できる「カジュアルモード」がある点も良い調整だ。
カジュアルモードをONにすると、敵の能力値が全体的に下がるほか、レベル差による命中率の低下も大幅に抑えられている印象だ。
また、後述するパーティーゲージの増加量も増えるため、仲間の復活も容易になり、チェインアタックを連発できるようにもなる。
バトルが難しい、どうしても勝てない敵がいる等の場合に使うと良いだろう。

キャラクターのレベル調整機能が用意されている点も嬉しいポイントだ。
自分のさじ加減でレベルを任意に下げたりできるため、ギリギリのバトルが楽しみたい時に非常に重宝する。
ゼノブレイドシリーズ全般がそうなのだが、バトルが楽しすぎるために、うっかりレベルを上げ過ぎてしまい、メインストーリーのバトルに緊張感が無くなってしまう事も多かった。
それがレベルを上げ過ぎても、適宜下げる事もできるため、丁度良いバランスの戦闘も楽しめるようになったのはありがたい要素だ。

ノポンダイセンニンによるタイムアタックバトルも追加されている。
タイムアタックバトルは現状の戦力で挑むものもあるが、固定の戦力で挑戦する詰将棋的なものも用意されている。
このタイムアタックバトルでは勝利する事でポイントを獲得でき、そのポイントで装備品などを交換できる。

ゼノブレイドDE版ではその他にも大小様々な遊びやすくなった要素が用意されている。
そのため、もしも今からゼノブレイドを遊ぶと言う方には、間違いなくゼノブレイドDE版をオススメしたい。

 

バトル

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綱渡りのような緊張感あるバトル

ゼノブレイドにおける綱渡りのような緊張感のあるバトルも本作の大きな魅力の1つだ。
後作であるゼノブレイドクロスゼノブレイド2が登場した現在では少々地味な戦闘になっている事は否めない。
しかし、それでも本作固有の楽しさがある点もまた事実である。
ゼノブレイドのバトルは、フィールド移動とバトルがシームレスに行われる。2010年当時のJRPGとしてはまだ珍しい部類の時代であった。
また、当時のJRPGに多かった「レベルを上げて(装備を整えて)殴る」という単純な構図からも脱却したシステムを採用しており、より奥深いバトルを実現させる事に成功している。

バトルにおいてはダメージを稼ぐ攻撃役(アタッカー)や被ダメージを引き受ける盾役(タンク)などの「ロール」の考え方が大切になっている。
また、キャラクター毎の個性や操作感が全く異なるため、自分が仲間キャラクターの誰を操作するのかによっても異なる楽しみ方が可能になっている。
とは言え、全体的なバランスを鑑みるに回復を担当するヒーラーはやや不遇だ。
ストーリークリアだけを目指すのであればヒーラーを戦闘メンバーに含めても良いかも知れないが、寄り道をして強力なユニークモンスターを倒そうと思った場合には本作のヒーラーの回復能力では焼け石に水になるケースも多く、逆にパーティー全体の火力が落ちるために強力な攻撃を多く喰らってしまうという本末転倒な事にもなりやすい。
本作のバトルバランスにおいては「ダメージコントロールを行う」というよりも「やられる前にやる」のが基本なのだ。
そのため、パーティー構成では攻撃役を充実させるか、盾役を充実させた方が安定する印象である。

バトル中では「オートアタック」と「アーツ」の関係性が大切だ。
「オートアタック」はキャラクターが敵に近付いた時に自動で行ってくれる攻撃だ。
ダメージソースとしても十分に機能しているほか、オートアタックを行う事でキャラクターのロールを際立たせる必殺技のような「タレントアーツ」の発動ゲージを溜める事ができる。
タレントアーツは戦況を好転させるためのものが多く、戦闘において非常に重要となる。
例えば、シュルクのタレントアーツであるモナドアーツであれば敵の強力な攻撃を防ぐために使用されるし、ダンバンさんのタレントアーツであれば敵に大ダメージを与えられるのだ。
対して「アーツ」はキャラクター毎に設定されているスキルのようなもので、特定条件において大ダメージを与えるものやバフ/デバフを与えるもの、回復を行うものなどが存在する。
アーツはバトルの主軸とも言えるものだが、アーツを使用するだけでは基本的にはタレントアーツが溜まらないため、「敵が強力な攻撃をしてくる!!」と言ったような緊急の事態に対処ができない。
本作では「オートアタックによってタレントアーツを発動できる準備をするか」「アーツによって畳み掛けるか」の駆け引きが根底には存在しているように思える。
つまり、オートアタックとアーツが競合した機能である事を活かしたデザインが成されているのだ。
そのため、キャラクターのステータスやプレイヤーのプレイスキルが向上していったとしても各要素が腐ってしまう事なく価値を持ち続けられるように構成されている。
バトルシステムの全体像をしっかりと把握した見事な設計であると言えるだろう。

ゼノブレイドのバトルでもう1つ忘れてはいけない要素がある。
それが「崩し⇒転倒⇒気絶」のコンボだ。
アーツには敵を「崩し」や「転倒」といった状態に陥れるものが存在している。
「崩し」はこのコンボの起点となるような状態だ。
崩し状態となった敵に対して、「転倒」のアーツを使用すれば敵を転倒状態にさせる事ができる。転倒状態となった敵に対しては攻撃が必ず命中するようになるほか、敵は攻撃を発動させる事ができなくなるため一方的に殴り掛かる事ができる。
このコンボは非常に重要であるため、本作のバトルにおいては必ず覚えておくべきであり、積極的に使用するべき要素だ。

この辺りの面でプレイするにあたって注意点があるとすれば、「独りよがりのプレイとならないこと」だろう。
操作キャラクター以外は全てオートで状況に合わせたアーツ選択を行い戦ってくれる賢く頼りになる存在である。
しかし、操作キャラクターである自分を中心に行動するだけでは、選んだキャラクターによってはチーム全体が上手く立ち回れないケースも少なくない。
そのため、「仲間を自分に合わせさせる」ような自分勝手とも言えるようなプレイスタイルではなく、本当に仲間と協力し合って戦っているという意識のもと行動するのが望ましい。この辺りは有人の対戦や協力プレイのゲームとも近しいものだと言っても差し支えないだろう。
周囲に気を配る事で「あのキャラは大技を出したから、しばらくは大技を出せないだろうな」と言ったような戦闘中のマネージメント自体が上達していき、仲間と一緒に戦っている共闘感と戦場をコントロールしている快感に目覚めていくハズだ。

ゼノブレイドDE版ではバトルに関しても遊びやすさが増している。
アーツの特効効果の条件を満たしているときに「!」アイコンからわかるようになった。上図を見ても「!」のアイコンが表示されているアーツが確認できるだろう。
ゼノブレイドにおいては「背面特効」や「側面特効」などの敵と自分の位置関係を意識させるような特効効果も用意されているのだが、原作においては特効条件を満たしているのかGUI上からは判断できなかったため、敵によっては側面から攻撃しているつもりでも実際には効果が発動せず「アレ?」と思う事が度々あった。
それが条件を満たしているかが明確にわかるようになったのはありがたい限りだ。

 

未来視

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未来の危機を察知する"未来視"

本作のバトルシステムでユニークなポイントの筆頭なのはモナドの「未来視」だろう。
未来視とはストーリー上でシュルクが観る事になる先の未来が視える現象だが、この設定はストーリーだけで登場するようなものではなく、バトルでも発生するのはストーリーとゲームプレイをシンクロさせる素晴らしいシステムだ。
戦闘ではこの未来視により敵の強力な攻撃が事前にわかるため、それに備えて対策を行うのが非常にユニークであり、バトルを盛り上げてくれる。
敵の強力な攻撃の発動までにモナド、あるいは仲間キャラクターへの指示を行う事でそれを回避し、その場の戦局をしのぐ事が大切となる。
戦局をしのげた時の達成感や戦場をコントロールしている感覚は最高だ。

なお、この未来視はサブクエストでも活躍する。
エストに必要なアイテムを取得したり、プレイヤーの選択によって結果が変化するようなクエストの場合に発動する。

 

チェインアタック

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極端なバランスのチェインアタック

ゼノブレイドのバトルにおいて唯一と言って良い物議を醸すポイントになっているのは「チェインアタック」だ。

チェインアタックは画面に左上にあるパーティーゲージを最大まで溜め、それを全て消費する事によって発動できる最大級の大技のようなものだ。
パーティーゲージはHPが0になった仲間の復帰にも使用する事になるため、チェインアタックを発動した直後は非常にピンチとなる。
このリスクとリターンがチェインアタックの根幹だ。

しかし、このチェインアタックにはシステム上の欠点となってしまっている仕様が存在する。
それは「チェインリンク」だ。
チェックアタックでは敵の時間が止まったような状態となり、パーティーメンバー3人が順番に好きなアーツを叩き込めるというシステムになっている。
そして、チェインリンクとはパーティーメンバー3人が攻撃を出した後に、更に追加で仲間が再度攻撃を繰り出せるといったものになっている。
このチェインリンクが最も問題である理由は、その発動条件が「完全な運」であるためだ。
本作にはパーティーキャラクター同士の親密度が設定されており、その親密度が高ければチェインリンクの発動確率は上昇するようなのだが、それは「戦闘とは全く関係の無いパラメーターに依存している」という事に他ならない。
つまり、「戦闘中にはチェインリンク発動確率をほぼ全く制御する事ができない」のだ。
発動が完全に運に依存しているため、チェインアタックをダメージソースとして計算する事は困難であると言わざるを得ない。
チェインリンクの発動条件がプレイヤーの制御化にないのは残念な仕様だ。

また、チェインアタックの有用性に大きな差がある点も勿体ない。
チェインアタックによる「崩し⇒転倒」を繰り返し狙う、いわゆる「転倒ハメ」が通用する敵は容易く蹂躙されてしまうのだ。
そのため、チェインリンクが「運ゲー」である事も相俟って、この「転倒ハメ」を行う以外の選択はリスキーとなってしまっているケースが大半なのだ。
この転倒ハメのような状況を避けるために、被ダメージ時にダメージまたはデバフを返す「スパイク」というシステムが登場するが、全体的な難易度がこのスパイクに依存し過ぎている感も否めない。
結局は「転倒ハメが成立する」ならば蹂躙が出来てしまい、転倒しないorスパイク持ちの敵に対しては専用に装備を整えない限りは苦戦しがちという構図になってしまうのだ。

そのような苦戦する相手であってもチェインリンクが運良く発動すると、とてつもないダメージを叩き出す事が可能になっており、レベル差をひっくり返せるだけの可能性は秘めているのだが、それはそれで問題がある。
何故なら、転倒ハメができない / 行いにくい強敵に対して、状況によってはチェインリンクが発動する事を天に祈るだけの戦闘になりかねないからだ。
チェインリンク発動ガチャに見事に成功するとサックリ勝ててしまうのは、どうにも腑に落ちない感覚だ。

全体的なバトルのシステムやバランスは繊細かつ巧みであるにも関わらず、チェインアタックだけが歪な仕組みとなってしまっているのは勿体ないと言わざるを得ない。

 

チャレンジバトル

一番おいしい部分がすっぽりと抜けたチャレンジバトル

チャレンジバトルはリマスターされたゼノブレイドDE版にて追加された新規要素だ。
ゼノブレイド2においても類似のアクティビティが導入されており、本作はそれに追従したような形となっている。

本作のチャレンジバトルはレベル制限・パーティー制限のないフリーバトルと固定のレベル・パーティーで挑むリミテッドの2種類が用意されている。

しかし、本作のチャレンジバトルは絶妙にやりがいの欠ける作りとなってしまっているのは勿体ない。
例えば、パーティーメンバーのレベルが80くらいある状態でフリーバトルのレベル20に挑戦すれば赤子の手をひねるが如しであり、逆にリミテッドに挑戦すればメンバー固定であるため詰将棋のような形となってしまいプレイヤーがビルドに関して試行錯誤を行う余地がない。
戦闘に緊張感を保てる適切なレベルで、ビルドを色々と試しながら攻略を目指す状態がゼノブレイドシリーズの戦闘の醍醐味であるハズなのだが、その最も旨味がある部分だけが綺麗に取り除かれているのだ。

別シリーズとの比較で恐縮だが、ゼノブレイド2においては選択したバトルにマッチしたレベルキャップにプレイヤー側のレベルが丸め込まれる形で、なおかつパーティーメンバーのビルドは自由であった。
適度な難易度を維持しつつ、プレイヤーの試行錯誤の余地もしっかりと設けているこのデザインが最適解であるハズである。
何かしらの技術的理由はあるのかも知れないが、それを採用しなかったのが悔やまれる部分だ。

 

つながる未来

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護る未来。つながる未来。

「つながる未来」 はゼノブレイドDEにおいて追加されたゼノブレイド本編のエピローグに相当する物語だ。
プレイ時間としては全て網羅してクリアしても10時間ほどの比較的プレイしやすいボリュームとなっている。

 

ストーリー

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本編のエピローグにあたるストーリー

「つながる未来」のストーリーは本編から1年後の世界が舞台となっているエピローグに相当するものとなっている。

本編の後に所在がわからなくなっていた皇都アカモートを探して巨神肩のあった地域を目指して行く事になる。
巨神肩の近くに皇都を発見したシュルクとメリアであるが、皇都には「霧乃王」という謎の存在が巣くっており、辛うじて逃げ延びたハイエンターが皇都を奪還しようとするも全く歯が立たない状況が続いていた。

「つながる未来」では本編の出来事によって大きく成長したメリアの存在によって、ハイエンター達が未来に向けた次の一歩を見出すようなストーリーとなっているのが特徴的だ。
本編の主人公であるシュルクはもちろん登場するが、「つながる未来」での主人公はあくまでもメリアとなっている。
また、新たなキャラクターとしてネネとキノという幼いノポン族の2人が同行する事となる。
ネネとキノは仲間キャラクターとして登場するノポン族の中ではゼノブレイドシリーズ中でも最も幼い部類に入り、リキやトラ(ゼノブレイド2)などのノポン族と比較しても"あざとさ"よりも"純粋さ"が際立っている。
この幼く可愛らしいノポン達の影響もあり本編の雰囲気とは少し変わり、コミカルであったり微笑ましい内容のストーリーが多くなっている。

そもそも、この「巨神肩」というフィールドは本編にて映像としてのみ登場する場所であり、フィールドとしては制作の都合により没となった経緯がある。
この巨神肩は原作であるWii版のデータ解析にて存在が確認されており、その時点のデータと比較するとゼノブレイドDEの巨神肩はフィールド構造こそ大半がそのままとなっているものの、巨人族文化のものと思われる建造物がゼノブレイドDE版においてはそれなりに崩壊していると言う違いが見られる点は興味深い。
これは物語本編の出来事によって崩壊したという事なのかも知れない。
ゼノブレイドファンには幻のフィールドを探索できる事は嬉しい要素だが、巨神肩から拝むことが出来たであろう巨神の横顔が見れなくなっている事は少々残念だ。
巨神肩とは言うものの、巨神の姿は無くなってしまっているため本編の「巨神脚」や「落ちた腕」のような対比的に感じる壮大なスケール感が薄れてしまっている。

この「つながる未来」のストーリーに不満点があるとすれば全てが解明されない消化不良感がある事だろう。
皇都付近に現れている空間の亀裂は別次元の存在を想起させる。
また、霧乃王と言われる存在は、全体的にボヤケているため輪郭がハッキリとしないが、後作ゼノブレイド2に登場する"とある敵"に非常に近い雰囲気をしている。
しかし、ストーリーを最後までクリアしても「空間に出来た亀裂は何だったのか」「霧乃王とは何だったのか」という部分が明確に解明される事が無いのは少しばかり心残りになる所だろう。

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メリアが「メリアであること」の嬉しさ

ゼノブレイドファンの中には、この「つながる未来」は演者の演技に違和感がないか心配される方もいるだろう。
なにせ、本編のリリースから10年が経過しており、演者の収録ともなればそれよりも更に経過している事も考えられるからだ(シュルクは「スマブラ」や「ゼノブレイド2」にも登場しており、10年のブランクでは無いが)。
10年も経過していれば演技の仕方や声の出し方に変化があるのは当たり前で、そのうえメリアを演じた勝田詩織さんは本作がデビュー作品であった。
そうなれば、その変化も大きなものであるだろうし、「新人だからできた」という部分もあったであろうと想像する。
しかし、筆者がプレイした限りでは演技の違和感は全くなかった。
メリアは10年を経てもしっかりとメリアであったのは筆者が最も嬉しかったポイントの1つだ。

気になった点があるとすれば、録音環境などの違いなのか本編と比べると音質自体に違いがあるように感じた所だろう。

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ボリューム満点のナカマトーク

つながる未来ではキズナトークのような立ち位置の「ナカマトーク」が用意されている。
このナカマトークキズナトークのような選択肢は存在しないが、全てフルボイスとなっており、1つ1つの会話のボリュームはかなり濃密だ。
つながる未来のストーリー同様にナカマトークに関しても和んでしまうような微笑ましい内容が多くなっている。

このナカマトークもイベントシアターからいつでも見返す事が可能だ。

 

システム

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メジャー!トレジャー!!ノポンジャー!!!

本編では「やられる前にやる」というのが主体であったが、「つながる未来」の戦闘システムでは大ダメージを与える手段が少ないため、よりダメージコントロールが大切になっている。
とは言え、基本的な戦闘の考え方は本編と同様だ。

パーティーキャラクターはシュルクとメリアのみが本編から引き続きストーリーで活躍する形となるが、ラインのようなタンク系の技を扱うノポン「ネネ」とカルナのようなヒーラー系の技を扱う「キノ」がいる。

チェインアタックに相当する「連携必殺技」はノポン族の測量部隊ノポンジャーが行う大技だ。
サブクエストによってノポンジャーの隊員を集める事によって効果が増幅するシステムとなっている。
この連携必殺技においてはエクストラチャンスというものが発生するとパーティーゲージの消費無しに連携必殺技を立て続けに使用できるのだが、本編と同様に発生するかは完全に運となるためエクストラチャンスを戦力として組み込むのが難しい点は本編のチェックアタックと同様に残念だ。
しかし、エクストラチャンスの発生確率は戦闘の状態(ノポンジャー達の士気)によって変化するため、本編と比較すれば戦闘に影響あるパラメーターに依存したシステムへと変化しており改善はされている。
また、連携必殺技の発動時にはQTEライクなボタン入力が発生し、その入力の成功具合に応じて効果も上昇するのだが、画面のエフェクトの影響によりボタンの入力タイミングがややわかりにくくなっているは少々勿体ない。

 

グラフィック

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神秘的で壮大なフィールド設計

ゼノブレイドの壮大で神が宿ったようなフィールドは息をのむほどの美しさだ。
本作が登場したのはオープンワールドのような広大なフィールドを制作するメーカーも少ない時代であり、そもそもWiiというハードでは考えられない程の広大で雄大な準オープンワールドとも言えるフィールドをシームレスに実現させた点は驚異的だ。
また、フィールドの構造にしても谷や洞窟などの閉所から一気に広大なフィールドを見せるなどの魅せ方の工夫も随所に感じられる。

ゼノブレイドDEではテクスチャーが一新され更に美しさが増している。
テクスチャーは非常に綺麗なっているが、フィールドの3Dモデル自体は変化していないのか、凹凸の激しい岩肌のように見えて3Dモデル自体は平面的になっていたりもする。
そのため、簡素な3Dモデルであってもテクスチャー次第でリッチに見えるという事がハッキリとわかるだろう。

本作は設定によりGUI/HUDの表示がオン/オフできるためスクリーンショットを撮る際にはありがたい仕様だ。
しかし、更なる欲を言えば近年は導入する作品も多いフォトモードのような機能があって欲しい所だ。

また、ファストトラベルの速さも驚異的だ。
別フィールドへの切り替えも数秒でありストレスフリーで非常に高水準だ。

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左:Wii版、右:Nintendo Switch

原作ゼノブレイドではスタイライズドとフォトリアルの中間的なスタイルとなっている印象でフェイシャルモーションはテクスチャーベースとなっているが、リマスター版であるゼノブレイドDEでは完全にスタイライズドなアニメ調なモデリングとなっている。
筆者としては(思い出補正も否めないが)原作版のモデリングも味わい深く好みであったため、Nintendo Switch版でモデルの方向性が変わった事は心境としては複雑な面もある。

カットシーンおけるキャラクターのアニメーションは非常に良く出来ており見応えがある。
当時としては日本産タイトルのカットシーンがリアルタイムレンダリングによる方式を採用しているケースはまだ多くない時代でもあり、装備の見た目がカットシーンに反映されるというのも印象的であった。

バトルにおけるアニメーションも悪くないが、ヒットストップがあればプレイフィールとしてより爽快だっただろう。
また、キャラクターの激しい動きなどにはブラーをつけて躍動感を向上させている点も工夫が感じられる。

また、キャラクターの服装は装備で変わる仕様となっている。
発売当時の2010年頃にはまだスタンダードになりつつある段階の仕様であり、特に日本産のタイトルの中ではまだ珍しかった印象だ。
これ自体は嬉しい要素ではあったのだが、いかんせん良いデザインと呼べるものは少なく、初期装備の見た目が一番良かったりするのは少々残念に感じる。

しかし、ゼノブレイドDE版では「ファッション装備」が新たに追加され、「この見た目が好き」という場合にも装備自体は変えつつも、見た目は好きなものにしたままに出来るようになった点は嬉しい修正ポイントになっている。
ただし、DE版では防具やジェムと言った装備品を外す操作がワンボタンで行えないのは少々不便に感じる所だ。

なお、New 3DS版ではamiiboを連動させる事でキャラクターモデルを鑑賞できるモードが存在する。

 

サウンド

ゼノブレイドの音楽は史上に残るべき素晴らしい楽曲である事も見逃してはならないポイントだ。
ゼノブレイドDE版では厚みを感じさせるオーケストラサウンドになっているが、主旋律が際立っているオリジナル版のサウンドも良く、甲乙つけがたい。
なお、ゼノブレイドDE版は新録版とオリジナル版の選択が可能になっている。聴き比べを比較的簡単に行う事も可能になっているのはファンとしては嬉しい。
また、ゼノブレイドDEにて追加されたシナリオ「つながる未来」では完全新規の楽曲も複数収録されており、本編の曲調とはまた異なった爽やかなBGMも必聴だ。
New 3DS版ではamiiboを連動させる事で劇中の楽曲を鑑賞できるモードが存在する。
筆者のお気に入りの楽曲の一部を紹介したい。

美しいピアノの旋律が印象的な「メインテーマ」

ゼノブレイドのストーリーを象徴する「敵との対峙」

ゼノブレイドのフィールド曲を象徴する「ガウル平原

神秘性のある「燐光の地ザトール / 夜」

暖かく優しい「マクナ原生林」「サイハテ村」

涼やかで壮大でありながらどこか物悲しさのある「エルト海」

負けられない緊迫感を感じさせる「行く手を阻む者」

涙を誘うオルゴールサウンド「リキの優しさ」

とても通常戦闘とは思えない激しさを持つ「機の律動」

ゼノブレイドのバトルを象徴するユニーク戦BGM「名を冠する者たち

アレンジが異なるが、どれも切なさを感じさせる「思い出」「回想」「回想 / オルゴール」

その他、声優の演技も非常に良い。
本作の演技は抑揚を抑えた2010年代以降にトレンドとなっている「自然さ」「ナチュラルさ」「リアルさ」を重視したものとなっている。
全体的には旧来のアニメ的な演技と言うよりも、洋画の吹き替えのようなリアルさを重視しているのだ。
また、リップシンクも比較的しっかりとしており、ストーリーへの没入を妨げない。

 

総評

ゼノブレイドとはJRPGの旧き神を斬り、未来を切り開いた傑作だ。

少年マンガのようなストーリーは理解しやすさを維持しつつも、先が知りたくなる多くの謎がプレイヤーを牽引し、老若男女にオススメできる内容になっている。
戦闘は足を引っ張る部分もあるにはあるが、それでも全体的には緻密なバランスで成り立っており高い完成度と言えるだろう。
史上に残るような印象的な音楽と壮大なフィールドは必ず体験して欲しいと言える内容だ。
荒々しいまでの物量は当時の年代には強く求められていた傾向がある要素だが、ゼノブレイドDE版では親切さも取り入れられモダンな形に近付いている。

ゼノブレイドDEにて追加された「つながる未来」にしても、蛇足となることなく添えられているのはファンとしては安堵し、そして嬉しいポイントだ。

本作には細かな気になる部分も多くあるが、それすらも愛しく感じられるような作品に仕上がっている。

 

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【レビュー】ファイアーエムブレム 封印の剣

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人の可能性を信じる

ファイアーエムブレム 封印の剣(以降、FE封印の剣)は筆者が初めて知ったファイアーエムブレム(以降、FE)シリーズタイトルだ。
理由は単純で大乱闘スマッシュブラザーズDXにて登場したロイがきっかけでファイアーエムブレムという作品に興味を持ったのだ。恐らく当時はそのような人も多かったのではないかと思う。

今回はゲームボーイアドバンス(以降、GBA)というハードで発売されたFE三部作の最初の一作となったFE封印の剣をレビューしていきたい。

なお、今回はWiiUバーチャルコンソール版でプレイした際のスクリーンショットとなる。GBA版との違いは無いとは思っているが、念のため留意されたい。

 

 

ストーリー

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ロイを中心として展開していくストーリー

FE封印の剣のストーリーは人と竜が存亡をかけて争った「人竜戦役」から約1000年が経過したエレブ大陸を舞台とする。
平和な日々が続いていたが、突如として「ベルン王国」がエレブ統一のために侵略戦争を行い始める。
主人公であるロイは領主達の同盟で成り立っている「リキア同盟」に参加するフェレ候エリウッドの嫡男で、病床のエリウッドの代行としてベルン王国に対抗していく。
なぜベルン王国が侵略を始めたのかなど含め、各国の情勢が進行とともに徐々に語られ、理解できるようになっている。

FEシリーズでは「幼馴染ヒロイン」や「赤緑騎士」「キルソード持ち剣士」「ペガサス三姉妹」などシリーズの”お約束”とも言える人物構成になる事は度々あるが、本作ではそのような伝統的な設定が特に色濃く意識されている。
そのためFE封印の剣はFEシリーズの「紋章の謎」のリブートにも近い作品になっているのは特徴的と言えるだろう。

主人公であるロイはFEシリーズの中でも特に若い設定になっている点も特徴だ。
これは比較的若年層が多いGBAと言うハードでリリースされたことが大きな要因では無いだろうか。
そんなロイだが、前漢の劉邦のような人物像で描かれる事が多いFEシリーズの主人公達の中にあって、物語では若さを感じさせない後漢の劉秀のような聡明なリーダーとして描かれているのは本作が持つ魅力の1つになっている。
ロイ以外が死んでも物語が進行すると言う本作のシステム上の都合が関係してか、他シリーズであれば軍師ポジションのキャラクターが助言をしたりする場面であっても、そういった役割を全てロイが担っている。
決断を行うリーダーでありながら、聡明な軍師のような役割もこなし、常に正道を突き進むロイの姿は先頭に立つ者として理想的な存在として映るだろう。

その他の関連する部分も紹介したい。
シリーズではお馴染みの要素だが、フィールドマップには民家などのエリアが設定されている。民家を訪ねる事でアイテムが入手できることがあるほか、世界観や世界情勢の設定を聴くことが出来るため、本編だけではわからない部分を補完する役割も担っている。攻略という側面以外にも、より深く世界観を知りたいという場合には積極的に訪問すると良いだろう。

セーブデータを開始すると章の冒頭から開始されるため、今がどういう状況なのかを復習しやすくなっている。
前回のプレイから時間が空いてしまった…なんて時にも、少なくとも現在の情勢は把握できる事だろう。
もちろん。これらの説明や会話はワンボタンでスキップが行えるため、煩わしくなる事もない。

また、本作のユニークな試みとしてメディアミックスのような展開が成されていた点もここで挙げておきたい。
本作は「FE覇者の剣」というFE封印の剣の外伝的作品がマンガとしてリリースされており、ゲームとマンガとでコラボレーションがされているのだ。
マンガである覇者の剣でもロイ達が登場し、FE封印の剣においては覇者の剣の登場人物であるアルやガント、ティーナの名を冠した武器が手に入る。
メディアミックス自体が徐々に増えていた時代であり、FEシリーズとしても珍しい試みでもあり、非常にユニークなポイントだ。

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最終盤でのロイとゼフィールのやり取りは必見だ

本作において最も見応えのある会話がなされるのは最終盤においてのベルン王国の国王ゼフィールとロイのやり取りだろう。
このやり取りは本作で最も観るべきポイントだ。

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キャラクター同士の関係性を補完する「支援会話

本作以前に存在した「支援効果」という要素が、本作ではキャラクター同士の関係性を描く「支援会話」というシステムとして導入され、キャラクター間の表現が強化されている。
支援会話ではキャラクター間の関係性やキャラクターの掘り下げを表現しており、本編だけではわからないキャラクターの生い立ちや立場、各国の文化などを知ることができ、世界観に厚みをもたらしている。
その他、支援を発生させたキャラクター同士が近くにいると、両者の能力値にバフが発生するようにもなっているため、キャラクターの仲が深まるだけでなく攻略にも役立つシステムである。
この支援会話システムは後作にも引き継がれていくFEシリーズの代名詞の1つとも言うべきものとなっている。

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より良くできるように思えるポイント

基本的には丁寧に作られている一方で、もっと良く出来たのではないかと思えるポイントもいくつか存在する。

1点目はチュートリアルだ。
本作には専用のチュートリアルモードが存在し、その内容はオスティアに留学していたというロイの設定が活かされたものになっている。
しかし、このチュートリアルで残念なのはストーリーの本編中に用意されているのではなく、タイトル画面にある「エクストラ」を選択した際に表示される項目であると言う点だ。
これではせっかく用意されているチュートリアルも存在自体に気が付きにくい。
チュートリアルの内容は作品の設定を活かしているため、そのまま本編自体に組み込んでしまって良かったのではないだろうか。

2点目はロイ以外のキャラクターの本編での存在感だろう。
本作は前述している通りロイ以外が死亡しても進行可能になっており、物語の進行はロイが中心となっている。
そのため、物語中では主人公ロイが全編を通じて非常に聡明に描かれる一方で、それ以外の味方キャラクターは支援会話を除いてしまうと登場する章をまたいで活躍する場がほとんど無いのは寂しい所だ。
「劉秀が非常に聡明であったために、優秀な部下たちが目立ちにくかった」とは諸葛亮による劉秀の評だが、このFE封印の剣のロイとそれ以外のキャラクターも正にそのような関係となってしまっている。
容量などリソース面の問題もあったのかも知れないが、キャラクターが生存していた場合に追加セリフが発生させるなど、もっと物語全体に様々なキャラクターが関与すれば更に良くなったに違いない。

 

システム

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難しすぎず、簡単すぎないSRPG

FE封印の剣SRPGタイトルであり、基本的に過去のFEシリーズを踏襲した要素で構成されている。
キャラクターをユニットとして扱い、ユニットを将棋のような形で操作して盤面を有利に進めていくのが基本的なゲームプレイだ。
全体として戦闘可能なマップ数は限られており、敵の数や出現場所などがランダムになる事も無いため詰将棋のような側面もあるにはあるが、ユニットは戦闘する事でレベルアップしていき、使い込んでいけば自然と強くなっていくRPG的要素も特徴だ。
レベルアップにしても能力値の成長率の傾向は設定されているもののランダムであり、思いがけないキャラクターが大きく成長する可能性を秘めている。
それによりプレイヤー毎に、またはプレイ毎に使い込むユニットに変化が生まれるようになっており、クリア後などに友人たちと「○○がめちゃくちゃ成長して凄い頼りになった」と話のタネになるナラティブがFEシリーズが持つ魅力的な部分と言えるだろう。

聖戦の系譜」より登場した剣・槍・斧の”三竦み”も健在だ。
三竦みにおいて有利な相性で戦いを挑めば、攻撃の命中率や回避率に有利な補正がかかるため、敵ユニットの装備武器を確認して有利ユニットを仕向けて対応するのがベターだ。
とは言え、本作では全体的には剣士が非常に強力な印象だ。
剣と言う武器自体が命中率が良いという側面もあるのだが、剣士がクラスチェンジによってソードマスターとなるとクリティカルヒットのようなものに相当する”必殺”を高確率で発動するのがその要因だろう。
高めの命中から必殺を連発するため、攻略においては非常に頼りになる存在となる。

マップ上には特定条件で仲間になるユニットが登場する事も多い。
これらの仲間になるユニットは仲間になるためのヒントになる会話や関係するユニットが示唆される事が多いが、初見プレイでは仲間にするのは難しい場合も多いだろう。

また、特定条件を満たしていれば外伝マップに行くことが出来る。
こちらも事前にセリフで示唆される場合もあるが、外伝進出に失敗したタイミングでそれらしいセリフが発生して外伝の存在を知るケースもある。
そのため初見では条件を達成するのは難しいケースもあるだろう。プレイには工夫が必要だ。
なお、本作のストーリーで真エンディングを迎えるためには全ての外伝に進出する事は必須条件となっている点は注意されたい。
この外伝マップは本編マップと比較するとマップ自体にギミックが設定されている事が特徴的だが、それによって難易度が大きく変わるという事は余りない。

本作におけるマップ攻略の全体の難易度は難しすぎず、簡単すぎないSRPGとして丁度良いバランスと言えるだろう。
全体的な傾向として回避主体と言う"運"に任せた立ち回りが必要になるマップがあるのは賛否がでる可能性はあるが、三竦みや「ストーリー」の項で記載したキャラクター同士の支援などのシステムを活かす事で、偶然を必然に変えて攻略するように設計されていると捉える事はできる。
レベルアップを含めて、システムを理解さえしていれば攻略するのは問題ないハズだ。

ゲームをクリアすると得点として高難易度のトライアルマップが解禁される。
トライアルマップはクリアデータを使用して挑む事になるため、本編中にキャラクターをいかに強力に育成できるかも重要となる。
このトライアルマップは本編のクリア回数に応じて敵ユニットとしてのみ登場したキャラクターなどの特殊なキャラクターをユニットとして使用する事が可能になる。

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主人公のクラスチェンジが遅すぎるのは考えものだ

本作のゲームバランスにおいて最も困った事になるのは主人公であるロイのクラスチェンジするのが遅すぎる事だ。

端的な説明となるが、各キャラクターは特定のアイテムを使用する事でクラスチェンジが可能で、クラスチェンジを行うとより強くなる。
普通の仲間キャラクターであれば宝箱などに入っているクラスチェンジ用アイテムでクラスチェンジが可能となるが、主人公ロイの場合にはストーリーを進行させないとクラスチェンジが行えない。
しかし、そのクラスチェンジが最終盤なのは勿体ないポイントだ。
ストーリー上では魅力的に描かれるロイだが、クラスチェンジによって能力が強化された状態をたくさん堪能できない。
それどころか、最終盤までクラスチェンジ前の状態で出撃しなくてはならないため、ロイが強く成長できなかった場合にはお荷物になりかねない。
物語の展開として仕方がない面があるとは言え、中盤で1回目のクラスチェンジ、最終盤で2回目のクラスチェンジと言った具合に、ロイのみクラスチェンジを複数段階にするなど配慮が欲しかった所だ。

 

グラフィック

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軽快に、そして躍動感のある戦闘アニメーション

SRPGの本作であるが、戦闘のドットアニメーションは躍動感があり非常に優れている。
攻撃がヒットした際にはヒットストップの演出もされるため、さながらアクションゲームのような爽快感も感じさせてくれる。
特に上図の封印の剣や神将器(フォルブレイズなど)による攻撃モーションは非常に派手でカッコいい。
これらの戦闘アニメーションは設定によりスキップも可能なため、サクサクと進めたい場合にはOFFにしてしまうのが良いだろう。

マップ上のマップチップはSRPGとしては標準的で、視認性と機能性を重視したものとなっている。

 

サウンド

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クリア後に解放されるサウンドルーム

FE封印の剣は全体的に明るい調子の音楽になっている。
それは特に自軍関連のものがその傾向が強い。これも若年層をターゲットとしている事が主な要因となっているだろう。
筆者が特に気に入っている楽曲をいくつか紹介したい。

自軍フェイズに流れる「あの空の向こうに(ロイの旅立ち)」

希望に満ち溢れた曲調が終盤に流れる事で感動を感じる自軍フェイズ曲「新たなる光の下へ(ロイの勇気)」

自軍優勢時に流れる「Winning Road(ロイの希望)」

コミカルで可愛らしい「キャス」

これらのBGMはストーリーをクリアする事で解放される「サウンドルーム」というものでいつでも聴く事が出来るようになるため、ゲーム音楽ファンにはありがたい要素だ。

 

総評

ファイアーエムブレム 封印の剣はストーリーと難易度が共にバランス良くまとめ上げられた素晴らしい作品だ。

SRPG初心者であっても比較的遊びやすいだけでなく、支援会話という要素によって起用すればするほどにキャラクターに愛着がわきやすい構造も構築されている。
また、ストーリーで大活躍し、クラスチェンジがとにかく遅い主人公ロイは本作において終始目立つ存在であると言えるだろう。

 

外部記事

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【レビュー】ASTRAL CHAIN

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1コントローラー2コントロール

ASTRAL CHAINはダイナミックなアクションゲームで高名なプラチナゲームズが開発したタイトルだ。
本作はプラチナゲームズ田浦貴久さんが初めてディレクションを担当する作品だ。
そういう事もあってかビジュアル面の方向性など目に見えて今までのプラチナゲームズとは異なる雰囲気が感じられるのも特徴的だろう。
事前に公開された動画では1人で2キャラクターを操作するプレイと推測できるものとなっており、その独特な操作方法も実際にプレイしてみたくなるようなものだった。

今回はASTRAL CHAINのレビューをしてみたい。

 

ASTRAL CHAIN(アストラル チェイン) -Switch

ASTRAL CHAIN(アストラル チェイン) -Switch

  • 発売日:2019/08/30
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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日本のアニメや特撮のような演出

本作の世界観自体はSFやサイバーパンクと言った要素で構成されているものの、ストーリーは少しだけ懐かしい息吹を感じさせるアニメテイストだ。
まずOPでは歌が挿入され、アニメのような演出でキャラクターの名前や声優の名前が表示される。
そしてストーリー自体にしても2000年代前半の少年マンガのような進行や演出で展開される。

本作の主人公選択は少しだけ珍しい手法を取り入れているのが印象的だ。
プレイヤーが操作する事になる主人公は男性と女性の好きな方を選ぶことが出来るのだが、選択されなかった片方は弟あるいは妹として登場するのだ。
弟妹は物語においても非常に重要なポジションであり、よく喋り、出番も非常に多い。
対して主人公として選択したキャラクターは基本的に無口となるため、その点は注意して選択した方が良いだろう。

物語の導入は非常にオーソドックスと言える「マイナスから始まるもの」が使用されており、本作においては「父親に相当するキャラクターを失う」こととなる。
また、本作の世界は人間の存続が危機に瀕しているなど、世界設定自体はかなり過酷な状態である。
しかし、物語のトーン自体が暗くなりすぎる事は無く、まさに少年マンガを観ているかのような気分にさせてくれる。

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ゲームプレイと紐づいたストーリー

本作の主人公は警官であり、様々な事件を章形式でクリアしていく形となる。
物語の描き方は「SFの警官」と言う設定を活かしたゲームプレイによってストーリーを描いている。

章は大雑把に説明すれば「捜査パート」と「戦闘パート」からなり、捜査パートでは街などで人々から聴き込みをしたりして情報を集めて何があったのか紐解いていく。
更にSF・サイバーパンク的要素として「アイリス(詳細は後述)」という視覚に情報を表示するAR / MR的なシステムが使用でき、それも駆使して捜査を進めていく。

また、「レギオン」という異世界の生命体を使役して捜査を行う点も忘れてはならないポイントだ。
ギオンは本作の要ともいえる存在で、プレイヤーキャラクターと一心同体の存在だ。
ギオンは複数の個体が存在しており、それぞれに特徴が異なる。
それらの特徴を駆使して戦闘を行う事がメインであるとは言えるのだが、その特徴は捜査をする場合にも有効に活用されるケースも多く用意されている。

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終わった感のないストーリー

しかし、本作がストーリーだけでも満足できるかと言うとそういう訳にはいかない。
そう感じる最大の理由は「本作をプレイしただけでは全貌が掴めないから」という点に尽きるだろう。
本作のメインシナリオを全てクリアしても、詳細な真相や設定が全て理解あるいは推測が可能なようにはなっていないのだ。
本作は「続編も可能なように懐深い構造に作られている」ようなのだが、それがかえって「ちゃんと終わってない感」に繋がっているように思えてならない。

少しばかり些細なポイントにも目を向けたい。
本作では前述の通り選択した主人公が全くと言って良い程に喋らない事になってしまうのは残念に思えた。
特に筆者の場合には女性主人公の声を当てている安済知佳さんの演技が以前よりかなり好みであったために女性主人公を選択したのだが、これが全くと言って良い程に喋らないために選択でかなり損をした気分になってしまった。
「喋らない主人公」というのはビデオゲームにおいて一般的手法であるが、選択したキャラクターと選択しなかったキャラクターが共に登場するように設計した本作ではその扱いに差が生まれてしまっており少々ではあるが相性が悪かったような気がしてならない。

また、シナリオが進行する会話のたびにキャラクターが操作不可状態となる点も地味ながら少々めんどうな仕様だ。
移動しながら説明して貰えればそれで良いのだが、何故か足を止めてセリフを聴かなければならないのはゲームプレイテンポを落としてしまっている。
当然、全て会話が移動しながら展開される必要は無いが、アクションのテンポを落とさない程度には移動しながらの会話を主体として欲しい所だった。

 

システム

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ステージクリア制のゲームプレイ

本作は基本的に警察庁をハブにして、事件が発生した場所に移動するような形式となっている。
「ストーリー」の項でも述べているが、ゲームプレイシーケンスはステージクリア制となっており大まかに捜査パートと戦闘パートに分かれる。
ステージではフィールド(街など)を歩き回り、人々から話を聴いて捜査パートを進行させるほか、サブクエストが豊富に用意されている。
サブクエストは様々なものが存在しており、戦闘が発生するものも存在するが、中には専用のちょっとしたミニゲームのようなものも存在するなど非常に作り込まれている。

しかし、好きなフィールドをいつでも探索することはできない点は少々残念だ。
以前のステージを再度プレイする事は簡単に出来るとは言え、自分の好きなタイミングで街に遊びに行く事が出来ないのは少し寂しい。

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1人で2キャラクターを操作する独特なプレイフィール

本作の最も特徴的なポイントはそのアクションだ。
「1つのコントローラーで2キャラクターを操作する」という独自アクションは新感覚で唯一無二だ。
プレイヤーキャラクターとレギオンの間は「鎖(チェイン)」で繋がっており、この鎖を駆使する事でも様々なアクションが行える。
ギオンはZLボタンを押す事で右スティックで移動させる事が可能になる(あくまで移動のみで、攻撃が出来るようにはならない)。
そのため、左スティックでプレイヤーキャラクターを、右スティックでレギオンを操作するような形となるのだ。
このユニークな操作で行える代表的なものは、上図のように敵を囲むように操作する事で鎖で拘束する行動だ。
こうする事で敵は無防備となり、その隙に連続攻撃を叩き込む事が出来る。
この他にも鎖を活用したアクションが用意されており、1つのコントローラーで2キャラクターを操作すると言う特性を活かして立ち回るゲームプレイは他では味わいようが無い体験だ。

また、その他にも敵の攻撃のタイミングで上手に回避が行えると専用の攻撃手段でカウンターを発動させられるなども可能だ。
この回避は一見・一聴するだけでは難しいが、敵が攻撃する際に特徴的な光や効果音が発生するケースも多いため、それを目安に回避を行う事で発動できる。
上手くなればなる程にキャラクターの動きが洗練されていくのはアクションゲームとして爽快なポイントを押さえていると言えるだろう。

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ダイナミックなボス戦達

本作で特に迫力があるのは各ステージの最後に現れるボスの存在だろう。
ボスによっては「どう戦って欲しいのか」が伝わりにくくなっており対処に困惑するケースも存在するが、見応えのある巨大な体格からド派手な攻撃を仕掛けてくるため戦っていて非常に楽しい気持ちにさせてくれる。

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ユニークなゲームプレイとトレードオフとなった要素

本作の特徴であり、長所であるレギオンだが、そのレギオンという存在が短所になっている事も多い。

まず地味に気になるのはレギオンジャンプだ。
ギオンジャンプはレギオンが鎖を引っ張る事でプレイヤーキャラクターをレギオンの位置に表示されたマーカーの位置にジャンプさせてくれるアクションとなっている。
しかし、レギオンコリジョン(当たり判定)がある事が影響しているのか、根本的にマーカーの位置に正確に着地させてくれていないのか、レギオンジャンプ時に表示される着地位置マーカーから微妙にズレてしまう事が多い印象を受けた。
そのため崖のギリギリでレギオンジャンプをしてしまうと、崖から落ちてしまうような事がままあったのだ。
素早い操作でレギオンジャンプを行いたい場合にも、崖のギリギリを狙わずに十分に余裕を持った位置にジャンプする必要がある。

そして、本作で最も気になる点を挙げるとするならば「カメラとロックオン」だろう。
ASTRAL CHAINではプレイヤーキャラクターとレギオンの2キャラクターを操作する事になるうえ、右スティックではカメラ位置では無くレギオンを操作するケースも存在するため、カメラワークに難が出る事は必然性があり想像に難くない。
最初にカメラワークに関してだが、プレイヤーキャラクターと呼びだしたレギオンが共に画面内に映るように自動でカメラ制御されているため、戦闘中に快適と感じるカメラワークと微妙にズレがある。
酷いと言うレベルでは無いものの、若干の視認しにくさ覚える所だ。

次にロックオンだが、こちらは挙動の仕様が良いとは言えない。
上述通りカメラは少々見えにくいため右スティックで位置を変更したいと思う事が多いのだが、敵をロックオンした状態で右スティックを一瞬だけ倒すとロックオン相手を変更する動作となってしまうのだ。
この仕様のせいでカメラ位置の微調整をしたいだけであるのにロックオン先が変更されてしまい戦闘中に困惑する事が多いのは残念でならない。

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サイバーパンク感を演出する”アイリス”

本作ではサイバーパンク感を強める「アイリス」 というシステムが存在する。
アイリスは様々な状況証拠から現場で何が起こったのかを推測・逆算して視覚化する事が可能なアイテムだ。
遷移はシームレスで自由にいつでもどこでも利用する事ができる。
建物の内部や壁の向こう側にいる相手を認識する事も可能で、SFを感じるストーリーテリングとして機能しているだけなく、ゲームプレイにおいて非常に重宝するものになっている。

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潜入ミッションも存在する

ストーリーのミッションの中には敵に見つからないようにする潜入ミッションも用意されている。
アイリスを使用する事で敵の視界を把握する事ができるほか、レギオンを上手く活用すれば相手を無力化できるため、難易度自体はそこまで高く無いが戦う以外のものも用意されており楽しめる。

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細かな遊び心

本作では細かな遊び心が用意されている事も忘れてはならない。

空き缶をゴミ箱に入れたり、猫を保護したり、バイクに乗ったシューティングゲームのようになったり、アイスクリームを運んだりと専用のミニゲーム的なものが用意されており、このような細かな遊び心が本作へのこだわりを感じさせる。

 

グラフィック

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サイバーパンク的な街並み

サイバーパンク的演出のライティング表現が印象的な街並みが魅力的だ。
特にニューヨークのタイムズスクエアをモチーフにしたと思われるハーモニースクエアなどは非常に魅力的な街に感じる事だろう。

キャラクターのアニメーションも非常にこだわりが感じられ、例えば移動中にゆっくり反対方向に向き変更をすればキャラクターがゆっくりと振り向くような動作したりする。
また、キャラクターの動きにはブラーをかけてダイナミックにみせる演出も行われている。しかし、動画では映える演出なのだが、スクリーンショットではブレて観えてしまうトレードオフの演出だ。

そのほか、処理負荷軽減のため遠景のモデルはフレームレートを落とす描画の工夫を行っているようだ。

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キャラクターのモデリングも悪くない

キャラクターのモデリングも比較的良く出来ている方で、特にボディラインは美しい。
私服のバリエーションがもっと豊富に存在していると嬉しかったが、少々贅沢な要望かも知れない。

 

サウンド

ASTRAL CHAINの音楽はカッコいい曲が揃っているが、ステージ毎に使いまわされる曲が少ない豪華な仕様が逆に1曲1曲の印象を薄くしてしまっている気がしてならない。
本作に限った事では無いのだが単純接触効果をもう少し狙っても良いのでは無いだろうか。

本作の中で最も聴くため印象が強い「Task Force Neuron」

クライマックス感の強い「Jena - Rebellion and Salvation」「Jena - Catastrophe」「Noah Prime」

主人公の性別により変化する「Dark Hero」

そのほか、本作のボイスは音声の有無でパクがあるのみで、リップシンクがないのは少々残念だろうか。

 

総評

ASTRAL CHAINが実現するプレイフィールは唯一無二だ。

1つのコントローラーで2人分のキャラクターを操作する独特な感覚は他では味わいようが無い体験になる事だろう。
しかし、そのユニークさが生み出す弊害は気になる所だ。

ストーリーは少々勿体ない部分もあるが悪いものでは無く、キャラクターのモデリング・アニメーションそしてロケーションはとても良いものに仕上がっている。
何より、ストーリークリアまでが20時間程度であるのは非常に丁度良い塩梅だ。
これより短ければ物足りないし、これより長ければ冗長と感じられたであろう。
この辺りのバランス感覚は流石はアクションゲームを熟知したプラチナゲームズだと言える。

 

外部記事

アストラルチェイン開発者ブログ : PlatinumGames Inc. Official WebSite

ASTRAL CHAIN Gameplay Pt. 1 - Nintendo Treehouse: Live | E3 2019 - YouTube

ASTRAL CHAIN Gameplay Pt. 2 - Nintendo Treehouse: Live | E3 2019 - YouTube

Three Things You Might Not Know About ASTRAL CHAIN - E3 2019 - YouTube

『ASTRAL CHAIN』には3部作どころかそれ以上に展開できるくらいの考えがある