【レビュー】ラストストーリー

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秩序と混沌

筆者がこのラストストーリーと言うタイトルをプレイするのは必然と言えただろう。
モノリスソフトゼノブレイドも同様であったのだが、ミストウォーカーラストストーリーにおいても敬虔なスクウェア教徒であった筆者にとっては強烈な魅力を持ったタイトルであったのだ。

今回はラストストーリーのレビューを書きたいと思う。

 

 

ストーリー

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一歩足りないストーリー

ラストストーリーは「騎士」や「お姫様」「魔法」と言った要素からなり、軟派でも硬派でも無い中庸で王道な西洋ファンタジーのストーリーとなっている。
本作は物語主導のストーリードリブンなゲームなのだが、全体のボリュームとしては20時間前後でクリア可能であるため当時のRPGの標準から考えてもやや短い。

主人公エルザは傭兵団に所属している青年だ。
傭兵の身では余裕のある生活とは程遠く、エルザ達の傭兵団は地位や生活が保障されている騎士になる事が人生の目標となっている。
そんな中で騎士になるチャンスを得るために訪れたルリ島にて偶然にもアルガナン家のお嬢様であるカナンと出会い、そこからルリ島の秘密が徐々に明らかになっていく。

本作では基本的にルリ島を中心にストーリーが展開されるため訪れる事ができる土地は少ないのは寂しい所だが、ルリ島(特にルリの街)は非常に丁寧な作り込みがされているのは評価されるべきポイントだ。
また、登場する多くのキャラクター達は非常にわかりやすい設定となっており、善人は善人らしく悪役は悪役らしい行動・言動が多い。
この奇をてらわない設定も良く言えば王道だが、悪く言えばベタで単純だ。

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全体的な進行は少々粗く、少々強引だ

本作はストーリーの筋こそ理解できるものの、その描き方は勿体ないと思わせる要素が多い。

ほんの半日未満の期間連れ添っただけのカナンのために色々と行動する主人公エルザの動機は少々無理があり説得力に欠ける事が多い。
この動機(=理由)を「一目惚れ」と表現してしまうのは容易いのだが、それはミステリー殺人事件小説の犯人の犯行が「ドラえもんの秘密道具を使用した」と同レベルに「なんでもアリ」状態になってしまい、ストーリーとしては荒唐無稽となってしまう。
エルザがカナンに惹かれていく事をストーリーに置くのであれば、ユーザーが納得がいく理由が必要だと筆者は考えている。
二人のロマンスを描くのであれば、エルザ自身とカナンの双方の魅力をもっとじっくりと描く状況を用意する必要があったように感じる。

シチュエーションにおいても勿体ない設定がある。
まず、エルザが所属する傭兵団がゲーム本編よりも前の時系列でどのような事があったのか語られる事が少ない。そのため、ほとんどの傭兵団のメンバーに対しての掘り下げが甘く、宝の持ち腐れに近い感覚だ。
傭兵団のメンバーには主人公であるエルザを始め、リーダーであるクォーク、魔法によるアタッカーを務めるユーリス、ヒーラーのマナミア、白兵戦のアタッカーであるセイレン、遊撃的な立ち位置のジャッカルがいる。この中で掘り下げが行われたと言えるのはエルザとユーリスのみである。
大きなネタバレとなるため詳しい説明は避けるが、クォークは本作において非常に大きな役割を持っている。
しかし、その役割に至った経緯とその正当性に関しての事前の伏線描写が不足しているのだ。
それは彼の過去とも関連する内容であるため、もっとキャラクターの掘り下げがされていれば…と強く感じてしまう。

その他にも、主人公が牢屋に閉じ込められるシーンでは当たり前のように牢屋の中で武器の販売が行われており、一周回ってギャグにすら感じる明らかにおかしいシチュエーションだ。
ゲームシステムとしての救済、ユーザーフレンドリーな要素なのは十分に伝わるのだが、シチュエーションとしては余りにもミスマッチとなっている。

本作のストーリーでは移動しながらキャラクター同士の会話が進むようになっている。これ自体は非常に丁寧に作られており、傭兵団のメンバーの仲の良さや関係性がわかるようになっているのだが、これに関しても勿体ないと言わざるを得ない部分がある。
この移動しながらの会話はストーリーの端々に用意されているのだが、プレイヤーが進み過ぎてエリアチェンジをしてしまうと途中でセリフが途切れるなど尺調整の検討が甘いのだ。
このような場合、ダンジョンの長さからセリフの尺を算出する事が可能であるし、もしくは事前に声優に喋ってもらい該当のセリフの尺を予め把握する事でダンジョンに必要な長さを逆算する事もできる。
そうでなくても、単純にエリアチェンジでセリフを途切れさせなければこれほど勿体ないと感じる事は無かっただろう。

本作は章形式で物語が進むのだが、1章辺りの所要時間はおよそ30分程度で非常に短い。
これ自体は別に問題は無いのだが、前章と次章の間で起きた主人公達の出来事がナレーションによる語りによって表現されている事も勿体ないと感じる。
例えば、章と章の間の出来事として「主人公は○○を目指し船に乗った」と言ったようなナレーションが挿入される訳だ。
確かにゲームプレイとしては大した事の無い内容ではあるし、華やかさには欠けるようなシチュエーションなのかも知れない。しかし、筆者としてはその章と章の繋ぎの部分をゲームとしてプレイするようにして欲しかったのだ。
もちろんやり過ぎれば間延びしてしまいテンポが悪くなってしまうのだが、このような「何もない」ような時間をゲームプレイとしてもきちんと描く事によって主人公達またはNPC達の日常の風景を感じる事ができるため感情移入がより一層しやすくなるように思う。

 

システム

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ヘイトを強制的に奪うギャザリング

ラストストーリーのバトルシステムはリアルタイムに進行するRPGだ。

敵には「ヘイト」のような概念があり、画面上では線で結ばれた先のキャラクター(味方)に対して攻撃を行おうとする。
敵の行動は主に強力な火力を誇る「魔法使い」に対して強烈に働き、魔法の詠唱をさせないように立ち回ってくるのだ。

そこで重要になってくるのが主人公に宿った特殊な能力「ギャザリング」だ。
ギャザリングは敵のヘイトを「強制的に」奪う事が出来る能力で、特に何かを消費する事もなくワンボタンで発動させることが出来る。
上図を参照してみて欲しい。ギャザリングを発動した瞬間に敵から出ている線(ヘイト)が一気に主人公に向かっているのが確認できるだろう。
注意点としてはギャザリングによってヘイトを奪う事が出来るのは敵が主人公を視認できる位置にいた場合のみであり、遮蔽物の裏にいる敵のヘイトまでは奪う事は出来ない。
ギャザリング中に攻撃するとダメージ量に応じてHPが回復したり、ギャザリングバーストと呼ばれる敵のスピードを鈍化させる強烈なカウンターが発動できたりと至れり尽くせりだ。

このギャザリングを駆使して、敵の攻撃を全て引き受け、味方の強力な魔法によって敵を殲滅するための時間を稼ぐ…と言うのが本作の大まかな流れとなる。
この戦闘システム自体は良く出来ており、上手く戦場をコントロールできた場合には非常に面白く感じる事ができる。
また、最後の敵へのフィニッシュ時には専用の倒す演出が差し込まれ、これもまたカッコよく爽快だ。

その他にもバトルでは様々な要素が存在している。
タイミングよくガードを行う事で発生するパリィのような「ガード斬り」は強力だ。
また、フィールドを利用した技も存在し、遮蔽物に隠れてから奇襲の一撃で大ダメージを与える「スラッシュ」や壁を蹴り上がってから叩き付ける「垂直斬り」などが存在する。
更にフィールド自体にギミックが仕込まれている場合があり、魔法やボウガンによって橋などのオブジェクトを壊して厄介な敵を一掃する事ができる場面も随所に存在するなど戦闘におけるバリエーションは豊かで面白い。
これらの要素は決して全てを駆使しなければならない訳では無く、あくまでもプレイヤーの好みに応じた戦闘における選択肢の1つとして楽しむ事が出来るようになっているのも良いポイントだ。

本作のバトルシステムにおける欠点についても伝えておかなければならないだろう。
これは前述の「好みに応じた戦闘ができる」と若干の矛盾をはらんだものとなってしまうのだが、本作ではギャザリングや地形利用と言ったシステムを「上手に活用できた」と実感できるほどの強敵が少ない事が物足りなさを感じるポイントとなってしまっている。
一部の敵を除き、大半の敵が短時間で勝ててしまったり、ゴリ押しでも勝ててしまうため、「私のギャザリングはちゃんと機能していた…?」と言う何故勝ったのかよくわからない状況になりがちだ。
また、本作では比較的簡単にキャラクターのレベルが上がってしまう事もそのような状況を加速させている。
もちろん、時間がかかるような一部の強力な敵を相手にした際にはヘイト管理がしっかりと把握でき戦場をコントロールしているのが伝わるため面白いのだが、そうでない戦闘の方が圧倒的に多く感じる。

戦闘中の移動に関しても気になるポイントとなっている。
本作では移動方向に敵がいた場合に攻撃が行われる仕組みであるため、移動したいのに攻撃してしまいキャラクターが移動できない現象が多く発生してしまうのだ。
敵がいる方向に移動したい場合にはガード状態になれば攻撃せずに移動だけできるのだが、ガード状態で移動を行うと段差などのオブジェクトを乗り越えるモーションが発生してしまうため、意図しない動作となってしまう事も多い。
また、設定から攻撃方法をボタン入力に変更する事も可能なのだが、そちらはそちらで攻撃する際にはボタンを連打し続ける必要があるため帯に短し襷に長しだ。
「移動方向に敵がいれば攻撃」するのであれば「移動しつつも攻撃」を出来るようにして欲しかった所だ。

ボタン割り当ての微妙さも気になるポイントだ。
これはWiiのコントローラー+ヌンチャクでの操作を許容しているために起きているように感じるのだが、全てのアクションをAボタンに頼っているために誤操作が起きやすいのだ。
代表的なものは、ローリングをしたいのに壁張り付き(Hide)を行ってしまうなどだ。
Wiiのコントローラー+ヌンチャクではユーザーが押下しやすい位置にあるボタンは限られているために仕方がない面はあるが、何とかして欲しかった所だ。

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ゲージを消費して発動する大技「テンション技」

その他にもキャラクター固有の大技「テンション技」と言うものも存在する。

テンション技はテンションゲージが最大までチャージされた状態で発動する事ができる。
テンション技はキャラクター毎に性質が異なり、エルザであれば攻撃や移動と言ったスピードが上昇し、ユーリスであれば魔法による大ダメージを与え、カナンなら味方全体にダメージバリアを付与する。
これらはどれも強力な技であるため積極的に活用すると良いだろう。 

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防具の色を変えたり、パーツの取り外しが可能

本作では入手できる防具の数はそれほど多くは無い。
しかし、それを補うような形で防具の色替えや籠手やジャケットなど部分的なパーツの取り外しが可能になっている。
また、最初こそ着脱可能な防具のパーツは少ないが防具を強化する事でパーツが増えていく仕組みとなっている。
自分好みの見た目に変更できるのは嬉しいポイントだ。

 

グラフィック

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密度の濃いロケーション

ラストストーリーでは訪れる事ができるロケーションは少なく、ルリ島の中にある街や洞窟と言った場所がほとんどでバラエティーには少々欠けるところがある。
しかし、そのグラフィックのディテールはWiiとしては高水準だ。
嵐などのシーンではカメラに水滴がつく表現がなされるなど随所にこだわりが感じられる。
一部の天井にキャラクターの影が映るなど細かい気になる点はあるものの全体の品質は高いと言って良いだろう。

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生活感の強い街並み

本作のディテールで特に目を見張るのはルリの街だ。
街には活気のあるメインストリームだけでなく、地元の住人向けのような裏路地が多く張り巡らされており街全体に生活感が漂う。
また、街の中で行きかう人の多さは魅力を更に増している。遠方の人物はフレームレートが落とされるなどの工夫が見られるが、Wiiのゲーム中でもこれほど多くのNPCを描画している作品は稀だろう。

 

サウンド

ラストストーリーの音楽は伝説的な植松伸夫さんが担当している。
植松さんらしい壮大なクラシック音楽の潮流を感じさせる本作の楽曲も素晴らしい。

様々なポイントで聴くカッコいいメインテーマ「Theme of THE LAST STORY

メインテーマのアレンジも含まれる街の中で流れる静かな「街の音色」

煌びやかな騎士の姿を感じさせる「歓びの声が聴こえる」

本作におけるもう1つのメインテーマと言える「翔べるもの」

本作では音楽の使い方に関してもこだわりが感じられる。
スタートメニュー画面ではBGM遷移する演出が行われる。これは単純なフェードインとフィードアウトで演出されているのだが、それでも十分にカッコいい。
また、戦闘中に戦局が有利状態となるとメインテーマのBGMへと遷移するのは特に熱い演出だ。

音声面で残念なポイントがあるとすれば「モブの演技」だろう。
主役級のキャラクターは問題は無いものの、いわゆるモブキャラクターのセリフに関しては演技がマッチしているとは言えず、違和感を感じる事が多い。

 

総評

ラストストーリーの「王道を狙ったストーリー」や「ヘイトを管理するバトルシステム」と言った主軸は非常に魅力を感じる作品に仕上がっている。
しかし、本作ではそれを十分に活かし切れたとは言い難い。
「ルリの街のディティール」や「BGMの使い方」は素晴らしいのだが、それと同じくらいのディティールがストーリーにも欲しかった所だ。
バトルに関しても用意されたシステムが意図通りに機能しているとは言えず、全体的な調整が上手くいけばもっと光り輝くことができたように感じる。

 

外部記事

設定画

社長が訊く『ラストストーリー』

社長が訊く 坂口博信×坂本賀勇

社長が訊く 坂口博信×高橋哲哉

坂口博信氏へのショートインタビューを掲載:「THE LAST STORY」(ラストストーリー)のキーワードは“仲間”。本当に仲の良い友達とMMORPGでパーティを組んだときのような楽しさを - 4Gamer.net

【レビュー】ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~

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ひと夏の成長

筆者はライザのアトリエがアトリエシリーズに触れる初めて作品となる。
アトリエシリーズは非常に根強い人気のある作品である事は知っていたのだが、どういう訳か縁が無かった。
今回のライザのアトリエに関しては向上したグラフィック面はもちろん、システム面でも歴代とは一線を画す新機軸となっているとの事であったので「手を出すなら今か!」と思った次第だ。

今回はアトリエシリーズ初体験となるライザのアトリエをレビューしてみたい。

 

 

ストーリー

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因果関係がしっかりとしたストーリー

主人公のライザリン・シュタウト(ライザ)はクーケン島で暮らすラーゼンボーデンという村の女の子だ。
村は保守的な考え方が根付いており頭が固い人が多く、そんな島暮らしから抜け出した非日常に憧れている。

カットシーンにおけるカメラワークなどでの魅せるための演出はやや単調ではあるが、因果関係が綺麗に描かれたストーリーは良く出来ている。
遺跡の名残りが見受けられるクーケン島、保守的な考えの島民たち、ストーリーを進めていくとライザたちの前に登場する奇妙なモンスターや異質なモンスター。
これらにはしっかりと理由が用意されており、またイベントの要素は全て1本の線で因果関係が成立するように美しくできている。
ストーリーのオチの部分はやや都合が良いのだが、それでもやはり辻褄が合うようにはなっており綺麗に収まっている。

本作では登場する様々なキャラクターが一人前になるために頑張ろうとしているが、その描き方もシステムと噛み合っており見事だ。
ゲームシステムにはパーティーエストというミッション(お題)があり、キャラクターが自身に課題を課す事によって自身を強くする(スキルなどを覚える)というシステムは「(キャラクター自身が)成長しようとしている」というストーリー上の設定を上手に拾えているシステムになっている。
もちろん、これは既存のタイトルにもあるような要素の名称をそれっぽく変えただけとは言えるのだが、名称を変えるだけで世界観の表現に大きく寄与できるようにしているのは素晴らしい発想だ。
また、主人公達はもちろんだが、その他の主要キャラクターもストーリー上で大きく成長する点は観ていて嬉しくなる事だろう。

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島民たちが描かれるサブクエス

メインのストーリー以外にも「依頼クエスト」というサブクエストも用意されている。
サブクエストではライザと島民たちとのやり取りが展開され、ライザと島民達との関係性や生活感がわかったりする要素にもなっている。
サブクエストで話す事になる島民にはしっかりと個性がついている点も良いポイントだろう。

また、街中の特定のポイントを歩いているとメインキャラクターや島民との会話イベントが発生する事もある。
ここでもキャラクターの関係性などが垣間見えるが、このイベントに関してはフラグ管理がされていないのかシナリオ進行と矛盾するような内容がたまに発生してしまう事もあり少々勿体ない完成度だ。

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不親切な要素

ストーリー自体は良く出来ているのだが、不親切に感じてしまう要素もある。

メインストーリーを進行させる際には当然ながら指定された特定のポイントに赴く必要があるが、会話上で次の目的地が明示されない事も多いため次にどこに行けばいいのかわからない。次に行く場所は「あらすじ」を参照すれば記載されているため問題は無いのだが、毎回のように「あらすじ」を開かなくてはならないのは少々気になる所だ。
もちろんストーリーの会話上で露骨に「○○に行こう」と言われるよりは自然な会話だけで済まされるためストーリー表現としては良いのだが、どう進行すれば良いのかわからないのはゲームとしてプラスと言い切る事はできない。

ストーリー中の会話は全てボイスがついているが、セリフのオート送りが無い点も少々不親切だ。
ストーリーやキャラクター同士の会話に集中したいタイミングであるだけに、セリフをユーザーに送らせる仕様しか提供していないのは勿体ない。

大した問題では無いのだが、カットシーン中で採取可能アイテム(素材)が明滅するのはやや惜しい。
カットシーンでは明滅しないようにして影を薄くした方が無難だったように思える。

 

システム

ライザのアトリエのシステムについて記載していく。

 

錬金術

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スキルツリー形式の錬金術

本作の錬金術はスキルツリーやパークのような要領でアイテムを生成する。

錬金術によってアイテムを生成するには素材が指定された必要となり、素材を使用してスキルツリーのような枠を埋めていくと高品質・高性能なアイテムが作りやすい形となっている。
また、素材には特殊なスキルのようなものが付与されており、スキルのついた素材でアイテムを生成するとスキルを最大で3つ継承させる事が可能だ。
作成するアイテムや装備するキャラクターに応じて、どのスキルを付けるべきか考慮しながら強力なアイテムを作成する錬金術はつい時間を忘れてプレイしてしまう要素になっている。
筆者も「そろそろストーリーを進めようかな」なんて思っていたにも関わらず、気が付くと錬金術の素材集めとアイテム生成ばかりやっていた。

アイテムを大量生産だけしたいが毎回生成のためのアイテムセットをするのが面倒だったり、そもそも生成が難しいと感じるユーザーがいるかも知れない。
そのような場合にはイチイチ手作業で作るのは億劫になる事は間違いない。
そんな時にはアイテム生成を自動でもやってくれる機能が用意されている親切設計だ。

その他にも、確保したは良いが質の低い素材が大量に余ってしまい困るような時に活用できる「ジェム還元」というシステムがある。
ジェム還元は素材や生成物をジェムと言うポイントに還元できる要素だ。
これによって入手したジェムは生成アイテムを再強化できる「リビルド」と言う要素に使用したり、生成アイテムを複製する際に使用できる。
例え素材をつい取り過ぎてしまったという場合でもしっかりと使い道が残されているのはしっかりと考えられた設計になっている。

また、フィールド上で素材集めをする際にも取得できる素材はしっかりと視認しやすいように調整されているほか、取得できる素材は取得の際に使用する道具によって変化するようになっているため狙った素材が獲りやすくなっている。

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錬金術で気になるポイント

素材や錬金術にて気になるポイントも挙げておくべきだろう。

まず、大きな問題では無いのだがアイテムソートが毎回リセットされるのが少々めんどうに感じる所だろう。

次に素材をどこで入手できるのかがわかりにくいのは問題がある。
大雑把な場所は記載してあるが、具体的にどこで入手したのかまではわからないため、その入手場所を忘れてしまった場合には少々困った事になりやすい。
必要な素材がどこで入手できるものなのか参照できないのは不便そのものだ。

そして、素材に付与されているスキルは多種多様なものが用意されているが、生成するアイテムによっては存在意義の無いスキルになっており、冗長な物量になってしまっている。
例えば「回復量アップ」のようなスキルは回復アイテムでしか意味を成さないため、武器を生成する事に使われやすい素材では価値が0になってしまう。
「スキルが多種多様」と言えば聞こえは良いかも知れないが、どちらかと言うとこのような構成になっているが故にスキル種類が無駄に多くなってしまっている印象を受けるのだ。
「回復アイテム生成時には回復量上昇、武器生成時には威力上昇」のような生成先によって効果が最適化されるエレガントな構成が望ましかったように思える。

 

バトル

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アクション性もある非同期ターン制バトル

本作の戦闘システムは非常に楽しい構造をしている。
詳細な説明をする前に、先にプレイヤーが利用する事になる主要な「AP」「スキル」「クイックアクション」「オーダー」「アイテム」「フェイタルドライブ」といった要素について大まかに説明していきたい。

本作のバトルシステムは非同期ターン制と言えるようなものになっている。
これでは伝わりにくいと思うので、最もわかりやすく例えるならば昔のファイナルファンタジーATBのようなものを想像するのが良いだろう。
各キャラクターや敵には行動するまでの時間が設定されており、その時間が経過すると攻撃などの行動が行えるようになっている。
行動を行う際にも常に時間は流れており、モタモタしているとどんどん敵が行動してしまう。
そのため、基本的には自身のターンになった場合にはなるべく早く行動を決断する、あるいはタイミングを見計らうためにあえて時間を消費するなどRPGながらアクション性もあるものとなっている。

戦闘中にプレイヤーが操作する事になるのはバトルメンバー3人の中の1人で、戦闘中にいつでも他のキャラクターに切り替えができる。
そのため、キャラクターにロールを割り振り、ダメージを受けたら回復スキルや回復アイテムを持たせたキャラクターに操作を切り替えるといったプレイも可能だ。

戦闘ではAP(アクションポイント)というポイントが重要となる。
APは通常攻撃をする事で蓄積されていき、APを消費する事で「スキル」や「クイックアクション」というシステムを使えるようになる。
また、APにはタクティクスレベルと言われるものが連動しており、APを最大値まで溜めた場合にはタクティクスレベルを1つ上昇させる事ができる。
タクティクスレベルは最大で5まであり、1つ上昇する毎に蓄積可能なAPの最大値が上昇していく。そのため、タクティクスレベルが上がればスキルやクイックアクションを多く発動できるようにもなる。
つまり、APをスキルやクイックアクションに使用して短期的な戦術に頼るのか、APをタクティクスレベル上昇に使用して長期的な戦略を整えるのか取捨選択して戦闘するのが基本となるのだ。
なお、このAPやタクティクスレベルは戦闘中のみのポイントとなっており、次の戦闘に繰り越される事はない。

「スキル」は前述の通りAPを消費して使用する事ができる技のようなものだ。
スキルには攻撃や回復と言った効果があり、状況に応じて使用する事になるものだ。
繰り返しになってしまうがスキルはAPを消費するため、何も考えずにバンバン放つ事は出来ない。

「クイックアクション」はAPを消費して時間経過を待たずに行動が可能なシステムだ。
時間経過を待たずにいきなり行動が可能であるため、攻撃や回復など幅広く使用できる。
APを消費する行動の中でも最も重要とも言える行動だが、それは次に説明するオーダーがあるためだ。

戦闘に仲間との共闘感を演出してくれる要素が「オーダー」だ。
オーダーには「アクションオーダー」や「ノーマルオーダー」「エクストラオーダー」と言った種類が存在している。
オーダーとは、戦闘中に味方キャラクターから行動を要望され、その要望に沿った行動を行うと要望を出したキャラクターが追加で敵に強力な攻撃を行ってくれるというものだ。
味方はそれぞれオーダーを出すが、複数のオーダーを1つの行動で解決できれば連鎖的に追加攻撃が発生する。
アクションオーダーは戦闘中に一定の時間が経過すると発生する要望で、ノーマルオーダーは味方がピンチの時に発生する要望だ。
そして、エクストラオーダーは敵が大技を発動させようとしている時に前述のクイックアクションを行うと発生するオーダーとなっている。これによって敵の大技の発動を潰しやすくなるため、戦闘ではエクストラオーダーを発動させられるだけのAPを蓄えておく意識をする事が基本だ。

錬金術で作成した戦闘用アイテムはCC(コアチャージ)と呼ばれる数値を消費して使用する事ができる。
アイテムは一見すると消費物のようだが、本作では着脱可能なスキルのようなものと認識した方が良いだろう。
錬金術で作成する戦闘用アイテムは敵にダメージを与えるものから、味方にバフを与えるもの、敵にデバフを与えるものなどが存在している。
このCCは拠点に帰るか、アイテムを封印(能動的に使用不可状態する行動)をしなければ回復しないため、どのタイミングでアイテムを使用するかはよく考える必要がある。

そして最後に紹介するのが「フェイタルドライブ」という大技となる。
これはAPを溜める事で上げることが出来るタクティクスレベルを最大値まで蓄積させた場合に発動可能になる要素となる。
フェイタルドライブは奥義とも言えるような非常に強力な行動である代償として、発動するとタクティクスレベルが初期値に戻ってしまうリスクが存在する。
これはスキルやクイックアクションがまとも発動できない状態に他ならないため、フェイタルドライブで敵を倒し切れない事態になれば途端にピンチとも言えるのだ。
なお、このフェイタルドライブの技の内容は発動させたキャラクター毎に異なる。

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鮮やかに彩るバトルシステムの各要素の関係性

登場する各要素の大まかな説明をしたので、次に本作のバトルシステムの構造を整理して解説していきたい。
ここでは上図の図を参照してもらうと各要素の関係性がわかりやすいかも知れない。

前述の通り、戦闘ではAPが重要となる。
その理由は「スキル」や「クイックアクション」、「フェイタルドライブ」など特徴的な行動の多くがAPに依存しているためだ。上の図からも多くの矢印(行動)がAPに依存していることがわかるだろう。
そして、肝心のAPは通常攻撃に依存した要素となっている。
このような構造になっていれば、一番地味な通常攻撃という要素がゲームを進めても廃れにくい構造になってくるうえ、プレイヤーが行動すれば行動するほど良いフィードバックが返ってくるアグレッシブな構造にもなっておりエレガントと言えるだろう。
また、単調な戦闘システムにありがちな「強い技を使用するだけ」にならない構造にも貢献している良い関係性だ。

戦闘ではAPを管理して戦うようになっている点も見事と言える。
それを如実に感じるのは敵のHPが半分ほどになり大技を使用してくるタイミングだ。
敵の大技を受けてしまうと、当然ながら味方には甚大な被害が出てしまう。
そこで、APを消費するクイックアクションからエクストラオーダーを発動させて、強力な攻撃を受ける前に対処するのだ。
しかし、敵のHPが半分になろうかと言うタイミングでAPが全く溜まっていない状態であればピンチになる事は明白だ。
戦闘中は「いつAPを溜めるか」「いつAPを使うか」というマネージメント要素によって成り立っており、APの蓄積具合が戦闘におけるバロメーターにもなっている。

各要素がゲームを進行しても腐りにくく、行動すればするほど強くなっていき、敵の大技発動を意識してAPをマネージメントをする。
これらを半リアルタイムな戦闘システムで行う事により少しばかりのアクション性が求められつつも、実際にやること自体はシンプルになっている実に見事なバランス感覚で生み出された構造だ。

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更なる飛躍のために

戦闘システム自体は非常に楽しいが、まだ改善できるポイントがあるように見受けられる。

まず、メインストーリーで戦う敵の体力設定がどれも低く、最も楽しくなりそうな手前で倒してしまう事が多いのは勿体なく感じる所だ。
操作キャラクターを切り替えできるシステムにしても、奥義であるフェイタルドライブにしても、その要素が必要となる強敵が少ないのが実情だ。
筆者の体感になってしまうが、錬金術による武器の強化は意図的に控える事で与ダメージ量を抑えた方がシステムを活用して戦う事ができるように感じる。
クリア後には高難度化できるためシステムを活かした戦闘が行えるかも知れないが、1週目で出来ないようでは少々遅いと言わざるを得ない。
ボスや大型モンスターなどは単純にHPを多くするだけでなく、ストック制にして簡単に倒れない工夫をしても良かったのではと思える。

APとCCの扱いの差も惜しい所だろう。
APは次の戦闘には繰り越されないにも関わらず、CCは繰り越されてしまうというのはミスマッチと言わざるを得ない。
特にCCという要素によってタイトルとしても冠している「錬金術」で作成したアイテムを気軽に使えない状態になってしまうため、メインシステムとのミスマッチになってしまっている印象を受ける。
その上、「戦闘を楽しむ」という観点から考えた場合にも、次の戦闘を頭に入れておかなければならないという足枷が出来てしまうのは各戦闘で全力で戦いにくい。
「現在にだけ集中する事が没頭の秘訣」である事はフロー理論やマインドフルネスと言ったものからも承知の通りだろう。現在への集中を乱すこのようなマネージメントは必要性が感じられない。
錬金術の成果を発揮しにくくさせ、現在の事にも集中させにくくしているという二重のミスマッチは勿体ないポイントだ。
戦闘終了毎にCCを全回復させて気兼ねなく全力で戦えるようにお膳立てするべきだったのではないだろうか。

アクションオーダーがプレイヤーの制御下にない点も非常に勿体ないポイントだ。
オーダー全般は戦闘において重要であると同時に、仲間との共闘感を演出してくれる非常に良いシステムだ。
しかし、アクションオーダーに関してはタイミングや内容がプレイヤーの制御下に無い(タイミングは時間経過、内容はランダムに発生する)仕組みになっているのは勿体ないと言わざるを得ない。
例えば、プレイヤーや仲間の特定の行動に呼応してオーダーが発生するなど、任意のオーダーを狙って発生させる事ができるとオーダーと言う要素がプレイヤーの制御下になるため、より具体的な戦術・戦略を組み立てられるようになったハズだ。
また、オーダーを「装備形式」の付け替え可能なものにできれば更に良かっただろう。
「HPが〇%以下になると、××を要求する」「△属性で攻撃すると、□□を要求する」など条件と要求を自由に変更できるイメージだ。
こうする事で戦術だけでなく、より戦略的な敵の攻略を目指す事ができただろう。

フェイタルドライブの立ち位置も変更して良かったかも知れない。
最も強力な技である「フェイタルドライブ」は、APの蓄積で上昇するタクティクスレベルを最大値にする事で発動できる。つまりはAPに依存したシステムだ。
しかし、本作のバトルシステムには最も階層が深い依存関係をしている要素が戦闘要素の関係性を1つ前の図から確認できると思う。「オーダー」のことだ。
最も破壊力のあるフェイタルドライブはAPに依存するのではなく、オーダーに依存した要素であった方が更にエレガントなシステムだったように思える。
通常攻撃に依存したAP、APに依存したスキルとクイックアクション、スキルとクイックアクションに依存したオーダー、そしてオーダーに依存したフェイタルドライブと言う直列的な図式になっていれば見た目としても非常にエレガントであるし、何よりもオーダーと言う強力な行動の後にフェイタルドライブという超強力な行動が発動できるのは実に爽快になるのではないかと想像できる。

パーティー全体を活躍させる事も検討して欲しい点だ。
本作では各種オーダーによってキャラクターが追撃を行ってくれるが、戦闘に参加していないメンバーに関してもオーダーと追撃を行ってくれれば更にパーティーの雰囲気が盛り上がったように思える。

それ以外の少し気になる点も書いておきたい。

チュートリアルは少々不親切さが気になる所だ。
戦闘などはテキストだけでシステムを説明される事が多く理解しにくいように思える。
特にRPGと言われるゲームの場合、戦闘が直感的ではないため文章だけで説明されても初見プレイではわからないのだ(本ブログの説明もそうである事は否めない)。
戦闘のチュートリアルを意識したシステムを上手く使う必要がある敵を用意するなどの設計をして欲しかった所だ。

敵のバリエーションが乏しいのも寂しい所だろう。
本作の敵は種類自体は少なく、色違いの亜種のようなモンスターで差別化をしている傾向があり、ややチープさを覚える。

不具合なのかは不明だが、戦闘中に操作キャラクターを変更した直後にクイックアクションを行いエクストラオーダーを発動させようとすると何故か失敗するのはよくわからない。
なんとなくだが、キャラクターを切り替えた直後にエクストラオーダーを発動させると、その後にアクションオーダーが発生してしまい、前タスクが消去されているように見える。実際の原因はどうあれ、これはしっかりとエクストラオーダーが発動できるようにして欲しい。

ここで長々と、そして色々と書いてしまったが、誤解をしないで頂きたいのは、これらの大半はどれも更なる飛躍のための「要望」であり、決して本作のバトルが楽しくないという事では無いのだ。
いや、むしろかなり完成度の高いバトルシステムとなっているため、本作において大きなプラスのポイントとなっている。
本作のバトルシステムは体験してみる価値があると断言できる構造だ。

 

グラフィック

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夏を感じさせるロケーション

本作のロケーションは全体的にライティングが強く、夏の明るさや暑さを感じさせてくれるものに仕上がっている。
また、昼や夜に変化する事はもちろん天候も変化するのも良いスパイスだ。

アップデートでフォトモードが追加された点も嬉しいポイントだ。
フォトモードではキャラクターを自由な場所に配置出来たりと自由度があるため、通常では撮る事ができないユニークな1ショットを撮る事が可能になっている。
しかし、フォトモードでのカメラ操作はややクセがあるように感じ、特にカメラの前後移動がやりにくいように感じられた。
もう少し素直な操作性になってくれると嬉しい所だ。

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良い品質のキャラクターモデリング

モンスターを含めた全体的なキャラクターのデザインは良く出来ており、また可愛らしさが特徴的だ。
敵ですらもキュートである事が多いため「これは倒して良いのか?」とすら思うものになっている。
もちろん人間のキャラクターも可愛らしく、特に主人公のライザやメインキャラクターのクラウディアといった造形の完成度は高く、キャラクターを重視している本作に相応しいものになっている。

アニメーションにしてもゲームとしてのテンポは守りつつ、出来も良く仕上がっている。
カットシーンにおいてキャラクターの走行アニメーションと実際の移動速度がシンクロしていない点が気になるくらいだろう。

 

サウンド

本作の音楽は牧歌的だったり、ポップだったりと明るい雰囲気のBGMが主体となっている。
各フィールドの曲は昼と夜で曲のアレンジが変更されたものが使用されている。
筆者が気に入っている曲についても少しだけ記載したい。

日常を象徴する「水彩色に跳ねる日々」

日常からの冒険を象徴する「青草香る空の下」

牧歌的な夏を感じさせるバグパイプを思わせる音色のイントロが印象的な戦闘曲「穀雨、麦の風」

牧歌的で暖かな雰囲気のある「故郷の島」「静寂の島」

ピアノとヴァイオリンが印象的な「Emerald Climbing」

子守歌のような穏やかさのある「夜風と星のうた」

この他のエンディング曲に関してもしっとりとした良い曲となっている。

キャラクターのボイスも比較的充実しており、待機モーションや素材採取時にボイスが流れる。
また、クリア後にはBGMが聴けるモードが解禁されたり、キャストによるコメンタリーが解放される。
BGMをじっくりと聴いたりする事も出来るうえ、コメンタリーに関しては声優ファンには嬉しい要素となっているハズだ。

 

総評

ライザのアトリエは非常に優れた作品だ。

キャラクターに焦点を当てつつも全体の因果関係が綺麗にまとまったストーリーは良く出来ており、作風にあった音楽も悪くはない。
メインとも言える錬金術もついつい長時間プレイしてしまう良い意味での時間泥棒だ。
そしてなにより、バトルシステムが非常に楽しめる完成度の高い構造をしていたのは、筆者としては予想を大きく裏切ったポイントだった。

筆者はシリーズ初心者であるため大きな事は言えないが、本作はシリーズの中でも屈指の完成度を誇る作品になっているのではないだろうか。

 

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【レビュー】Death Stranding

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Tommorow is in your hands.

Death Stranding(以下、DS)は小島秀夫監督が指揮する新生コジマプロダクションの記念すべき最初の作品だ。

小島監督コナミ時代に制作したP.T.で共演したノーマン・リーダスが引き続き登場するという発表は衝撃的であり、感動的であったことを今でもよく覚えている。
その他にもマッツ・ミケルセンやリンゼイ・ワグナーといった著名な俳優を多数起用する事が判明していった。
しかし、豪華客船を建造しているのは十分過ぎるほどに伝わったが、その船が一体どこに向かって出港するのかわからない時期が非常に長かったのも印象的だったタイトルだろう。
各種ティザーやE3では意味深で謎の多いPVしか流れず、ゲームプレイのシーケンスが判明したのも発売の約3ヶ月前となるTGS2019になった事は異例ではないだろうか。

プロモーションに関しても非常に精力的に行っていた事も特徴的だ。
スタジオもゲームも0から作り上げ、その上AAAクラスのタイトルを制作し、失敗が許されない状況下にあった事が今回のような良く言えばアグレッシブな、悪く言えば少々節操のないプロモーションにもなったのかも知れないと感じさせる。

今回はDSのレビューに挑戦したい。

 

【PS4】DEATH STRANDING

【PS4】DEATH STRANDING

  • 発売日:2019/11/08
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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死してなおも輝く

まず、DSのストーリーは困惑する事も多いであろう事は触れておかねばならない。
プレイヤーに対して最初から容赦ない専門用語が用いられ、いかにも意味ありげな演出が続く。会話の内容もやや説教臭く感じてしまうかも知れない。
そのような状況のカットシーンが連続するのだ。
章が進めばカットシーンの頻度や説教臭さは抑えられるが、序盤を乗り越えられるかが本作をプレイする上での最大のハードルと言えるのかも知れない。

DSのストーリーは「繋がり」を頻繁に語り掛ける。
2010年代後半に見られるテロリズムや政治的な右傾・左傾の両極化、そしてそれらに呼応した民衆や民族間の分断に対してのアプローチであり、アンチテーゼが大枠としてあるのでは無いかと思える。

そのストーリーの大枠の中には更に2つの軸があるように考えている。
1つが生者と繋がるオンラインのゲームプレイ。
もう1つが死者と繋がるオフラインのメインストーリーだ。
DSのゲームプレイではオンラインによって常に他プレイヤーと薄く繋がっており、他プレイヤーの”痕跡”を感じる事ができる仕組みになっている。
行える事の詳細は「システム」の項で記載するが、このStrand(繋がり)はあくまでも痕跡といったレベルの間接的なものであり、他プレイヤーと直接的な協力プレイなどをする事は無い。
つまり、自分以外の誰かが自分と同じ目的・目標・行動をしている事をゲームプレイを通じたストーリーテリングとして「生きている人同士の横の繋がりの存在」を伝えているものとなっているのだ。
そしてDSのメインストーリーでは死者との繋がりを描いている。
本作の世界観は”ビーチ”と言う死後の世界が顕在化した、死を知覚可能になったSF世界となっている。
ビーチは正確には「三途の川」に近いもので、生から死へと向かう瀬戸際の場所であると認識するのが良いのかも知れない。
本作で登場する大半のキャラクター達は何らかの形で「死」あるいは「死者」と繋がっており、キャラクターと死の関係性は「死ねばそこで終わり」ではなく「死してなおも繋がっている」ことを表現しているように思える。
個は死んでも、繋がりがあれば意志が受け継がれていくという「生から死 / 死から生への縦の繋がり」を描いているのだ。

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お当番制の進行

DSの主人公は配送業を生業としているサム・ポーター・ブリッジズだ。
サムはDOOMSと言われる能力者であり、また接触恐怖症と言われる症状を持っている。
DOOMSは幽霊のような特徴を持ったBTと言われる「死者の世界」を感じ取る事ができる能力者の総称だ。
接触恐怖症は誰かに触れられる事に対して強い拒絶反応を示す症状の事だ。
そのような症状がある事もあいまってサムは他人との繋がりに対して余り肯定的では無い。
しかし、サムはストーリーとゲームプレイを通じて様々な人達と出会い、様々な配達をこなしていく。
その中で次第にサムは直接的な触れ合いでは無いものの、間接的な様々な繋がりや誰かの想いを背負い配達をしていく事となる。
つまり、「繋がり」を描くために「繋がりを持たない/繋がりを持てない存在」を主人公として置くようにデザインされているのだ。

その他のキャラクター達も非常に魅力的だ。
ストーリーの進行は章形式となっており、各章では1人のキャラクターに焦点が当たるいわゆる「お当番制」となっている。
焦点が当たったキャラクターは掘り下げられ、どのようなキャラクターなのか、どのような生い立ちなのかなど様々な情報を知る事ができる。
各キャラクターは非常に魅力的でクリフ、ダイハードマン、ハートマン、デッドマン、ママーなどなど、どのキャラクターも甲乙つけがたい魅力を持っている。
筆者も最初は興味が無かったキャラクターもいたが、章が終わる頃にはお気に入りになっていたほどだ。
しかし、その”お当番制”という進行方法の弊害として当番が終わってしまったキャラクターは影が薄くなってしまうのは勿体ない。
どのキャラクターも素晴らしい魅力があるだけになおさらだ。

ストーリーにはSF作品らしい「謎」ももちろんある。
サムとは誰なのか、アメリとは誰なのか、拠点のカイラル通信はどのように作られているのか。
そしてそもそもDeath Strandingとは何なのか。
ストーリーを進めていくうちにそれらが次第にわかっていく事だろう。
また、自分自身で予想を立てながら観ていくのも面白いハズだ。
もしも、興味があるのであればゲーム内ドキュメントという形で世界設定を掘り下げられるものが用意されている。もちろん、興味がないならば観る必要は無いためゲームプレイの邪魔となる事も無い。

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ゲームと言う媒体を自己批評的に捉えた演出

DSの様々なポイントでビデオゲームに対する自己批評的な演出…つまりは「ビデオゲームとはどうあるべきなのか」を考えさせるような演出も盛り込まている。

時にはプレイヤーの行いに対して「(ありがちな)ゲームを望んでいるのだろう」と問いかけられ、時にはストーリーの構造を「マリオとピーチ姫」にも例えたりする。
更には格闘ゲームのような演出まで盛り込んだり、セルフオマージュも含まれる。

小島監督の「ゲームは更に次のレベルに行くべきだ」「もっと出来る事があるハズだ」と言う問いかけをしているような気がしてならない。

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良いセンスだ。だが、惜しい。

ここまで色々と書いてきたが、ストーリーあるいは演出において「素晴らしい」と感じつつも、同時に「惜しい」と思う部分も多かった。

まず最初に記載したいのは曲の演出だ。
本作ではストーリー上で特定のタイミングになると歌が流れ始め、カメラワークも専用に変化する場合がある。
この歌の演出は新しい配送先の拠点に近付いた場合に流れる事が多く、その演出は正に「プレイアブルムービー」のような感動的でこだわりが感じられる演出となっている。
しかし、拠点間の距離が短く、拠点Aから拠点Bまで10分もあれば到着してしまうため「すぐに曲流れるなぁ」という印象になってしまう事が感動を薄めてしまっている感は否めない。
あくまで筆者の好みにはなるが、やはり1プレイではなかなか到達できない程の距離感があって初めて大自然の中に見える拠点と言う人工物(他人の存在)が感動的に映るのではないかと思う。
10分と言えば首都圏であれば自宅から最寄り駅までの距離と言っても差し支えないものだ。
それでは折角の素晴らしい演出も本領を発揮できないのではないだろうか。
開発側には酷な要求にはなるが、やはり1時間以上はかかる道のりを提供して欲しかったと言わざるを得ない。

ストーリー中にはNPCと一緒に移動するケースも存在する。
その際にはNPCが語り掛けて来るのだが、場合によっては会話が途中で途切れてしまう状況になる事は本作のようなゲームでは避けられないのは想像に難くない。
しかし、本作では「それでね」などと語りかけ会話を切り出して前回のセリフを途中から継続して喋ってくれるようになっているのは非常に丁寧に作られている。
しかし、その他のシチュエーションにおけるNPCのリアクションが毎回ほとんど違いが無いのは少々寂しい。
特に頻度として最も多く、最も観る事になる荷物を配達した際のリアクション(セリフやモーション)に変化や違いが少ないのは寂しい限りだ。
また、NPCから送られてくるメールの内容も主要キャラクター以外は個性が薄い事も少々寂しく感じる所だろう。
逆に配達物を収める際の演出やBTが近くにいる際の演出がイチイチ挿入されるのはゲームに慣れて来ると邪魔に思えてくるため、簡単にスキップできる方法を提供して欲しかった所だ。

 

システム

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マインドフルネス的方法論によるプレイヤーを没頭させる手法

DSの主軸となるシステムを端的に表現してしまうと「おつかい」だ。
基本的に拠点Aから拠点Bに荷物を運ぶ事がメインで、少し違うものがあったとしても落とした物を拾って届けるといった程度だ。
これだけ見てしまうと明らかに面白くなさそうだが、実際にはそうではない。
本作では「マインドフルネス的な方法論によってプレイヤーを没入させる」ことに成功している。

まずはDSの基本システムを簡単に説明したい。
本作は前述の通り「おつかい」が基本だ。
主人公サムは配達対象の荷物を担いで移動する事になる。
しかし、担ぐ荷物が多かったり、荷物の重心が偏っていたり、スタミナが低い状態の場合にはサムは体勢を崩しやすく、体勢が崩れた際にはR2/L2を片方あるいは両方押してバランスを保つ必要がある。
もしも入力が間に合わなければサムはバランスを崩して転倒し、配達物が損傷してしまうのだ。
このシステムが前面に出るようにフィールドがデザインされており、躓くような小石がフィールド一面にあったり、傾斜があったり、川が流れていたり、強風が吹いていたりと自然の驚異がサムのバランス感覚を襲うようになっている。

次にマインドフルネスについても簡単に説明させて欲しい。
マインドフルネスとは「精神を”現在”に集中させる」ことに主眼を置いた方法論であり、フロー理論とも非常に近い関連性を指摘する声も多い。
有名なため知っている方も多い事だろう。
人間の脳内は何もしていない(何もする事がない)ような状態ではデフォルトモードネットワークと呼ばれるものが活性化し、雑念やネガティブな感情が発生しやすい状態となる。
つまり、デフォルトモードネットワークが活性化している状態(雑念)と言うのは「何もしていないにも関わらずリラックス(回復)できない状態」なのだ。
この雑念と言うものは「過去」あるいは「未来」について考えてしまうために発生するのであって、「現在(いま)」という瞬間にだけ集中する事でデフォルトモードネットワークを非活性状態にし、精神(脳)のリラックスや回復を図ろうとするのがマインドフルネスの目的となる。
つまりは「目先(現在)の何かに没頭することが本当のリラックスに繋がる」という事だ。

では本題となる「DSにおいてはどのようにマインドフルネス的方法論を実現しているのか」を書いていきたい。
本作のメインシステムは確かに移動するだけだ。
しかし、荷物を持ち過ぎたり、スタミナが減ってきたり、整備されていない悪路を歩けば体勢を崩しやすくなっている。
そして体勢を持ち直すためにはR2/L2を押す必要がある。
そう。ただ移動するだけなのだが「目先の移動に集中しなければ、途端にサムは転んでしまう」のだ。
歩きやすい足場か、荷物の状態はどうだろうか、などなどデザインされたフィールドとシステムによって強制的・必然的にプレイヤーは現在の事だけに集中し、過去(何が起きたか)や未来(運び終えたら何をするか)を考える余地を許さず、マインドフルネス状態に移行する。
ゲーム内の移動がリラックス(楽しさ・ポジティブな体験)になると、プレイヤーは次第に内発的なモチベーションによって荷物の運搬をするようになる事だろう。
また、サムの移動自体のモーションや挙動の慣性は全体的にはリアル志向だが、重心の整え方や荷物の取得の仕方などの部分ではリアルさよりもゲームプレイ重視となっている事も体験に良い影響を与えている。
フォトリアルな映像を用いながらも、要所の部分では快適なゲームプレイになる配慮を忘れていない小島監督の”最適バランス(=中庸)”の志向は今作でも健在だ。

なお、ここで得られる楽しさは「何かに集中する楽しさ」である。
この体験に近しいものを例えるならば、子供の頃にやりがちな「道路の白線渡り」に感覚が近いと表現すれば伝わりやすいのではないかと考えている。
そのため、この作品における「楽しさ」というのは理解しやすい爽快感やカタルシスのようなある種の「ゲームらしい露骨な楽しさ」といったものではない。
その点において、プレイヤーによっては肩透かしのように感じる部分になっている事は注意した方が良いだろう。

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障害として機能しない敵

DSにおいてサムの行く手を阻むのは自然だけではない。
ミュール(配達依存症)と言われる略奪者とBTと言われる幽霊のような敵の存在も立ちはだかる。

ミュールとは昔はサムと同様の荷物の配達人だったが、よりエクストリームな荷物を求める余りに他人の荷物を強奪するようになってしまった人達の事だ。
ミュールはサムでは無く荷物に対して異常な興味を示す存在であるため、特定の荷物をデコイとして活用すればおびき出す事も可能だ。
物語が進めばサム自身を狙ってくるテロリストも登場するようになる。
テロリストになると銃器によってサムを襲撃するようになるため危険性が非常に高い相手となる。

BTは日本的にわかりやすい表現をすれば「地縛霊」のようなもので、人間の肉体を探している幽霊と説明すれば理解しやすいだろう。
BTは移動中に視認する事ができず、静止すると姿がぼんやりと確認できる。
BTがいるエリアに侵入すると不穏なBGMが流れ始め、カメラについた雨の水滴は上昇し、フィールド上の草花は生えては枯れる。これによってBTが存在する不気味なエリアであることを演出し伝えている。
また、実際にBTが近くにいる場合にはセンサーが激しく反応を示し、更にはコントローラーからBBの泣き声が聴こえる凝った演出まで行われ、危険をプレイヤーに教える。
BTに見つかり捕まるとサムの周囲がタールの沼地に変わり、そこに引きずり込まれると大型のBTが出現する。

しかし、ミュールやBTなどは根本的な問題を抱えている。
それはその立ち位置だ。
彼らはサムの配達業の前に立ちはだかる障害だが、障害としては余りにも脆弱だ。
ミュールは近接で数発も殴れば気絶するし、手頃な壊れても良い荷物を武器として使用すればもっと簡単に制圧できる。
BTに捕まった際に対峙する事になる大型BTにしても、攻撃する際に必要な対BT兵器はオンラインよる他プレイヤーからの支援によって実質的に無尽蔵に供給されるため、さながら弾薬庫にいながら戦うに等しい。
ミュールにしてもBTにしてもゲームの構造に慣れていない最序盤でこそ恐怖を覚えるが、中盤にも差し掛かる頃には機械的に処理するだけの他愛のない存在へとなってしまっているだろう。
これはストーリーテリングとしては「恐ろしいと思える相手も、知る事で意外とそうでもないと気が付く」という事を表現していると受け取れる。
しかし、純粋なゲームとしての側面で捉えると即物的な障害でしかなく作品と真にマッチするにはパーツが欠けているように思えてならない。
かなり欲張りな要求だとは承知の上だが、ストーリーテリングとゲームプレイを両立したデザインを望みたい所だ。

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マッチしきらないオンラインの構造

「ストーリー」の項でも少しだけ触れているが、DSのオンライン要素は広く薄く繋がるものとなっている。

全く知らない他人がフィールド上に建てた看板や設備がオンライン上で共有され、自分が利用する事が出来るようになっている。もちろんその逆も然りだ。
フィールド自体もオンライン上の他プレイヤーの影響によって変化していき、多くのプレイヤーが通った経路は小石などの障害物がほとんどない"道"になり移動を楽にしてくれる。
本作では「自分のために設置した施設や設備、そして移動経路が見知らぬ誰かのためになる」のがオンラインの構造となっている。
また、そのような構造であるが故に「自分だけでなく、より皆が喜ぶポイントに設備を設置しよう」と思う事も多くなるだろう。
このような「自分だけでなく、より社会全体(共同体)にプラスを還元しよう」と思わせるのはアドラー心理学における「共同体感覚」と近しい発想があるかも知れない。
本作のテーマである「繋がり」にしても共同体感覚との関連性があると見ても良いだろう。

しかし、本作においてオンライン上で共有される他のプレイヤーの痕跡は本作の良さを殺してしまう要素でもある。
無造作に共有された「親切心」は、本作のメインシステムである「移動」という行為を楽にしてくれる一方で、「移動の楽しさ」を減退させてしまう。
快適な移動経路が確立されてしまった配達はAからBへ移動するだけの本当の「おつかい(作業)」に近付いてしまうのだ。
ゲームプレイの仕方によってオンライン上のアイテムや施設が共有される頻度は変動するようだが、「絶妙なタイミングで他プレイヤーの施設やアイテムが利用できる」ようにお膳立て(デザイン)をして欲しかったように思う。
例えば、サムの体力やスタミナが低くなったり、荷物の状態が悪くなった際に他プレイヤーの残した要素が出現して利用できるようになるなどだ。
これはもちろん小島監督の描きたい要素とは異なる可能性はあるが、少なくとも現状では整理されていない混沌の中に身を置いているに過ぎず、「不便だが楽しい移動を取るか、快適だが作業的な移動を取るか」の二択になってしまっている。

また、エンドコンテンツとしての弱さも勿体ない所だろう。
制作コストが高い大規模な公共事業はあるものの、自己満足的な側面が強くクリア後にも楽しめるエンドコンテンツになっているとは言い難い。
配達と広く薄いオンラインを活かしたUGC(User Generated Contents)などのエンドコンテンツがあればクリア後の満足度が高かった事だろう。

 

グラフィック

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美しい自然風景

DSの大自然のグラフィックは非常に美しい。
新設されたばかりのコジマプロダクションでは多様な作り込みは難しかったために、人工物(街や車など)のオブジェクトを極力作らないという割り切った制作を行ったのかも知れないが、その甲斐あってかフィールドの美しさはPS4の中でも上位に入るレベルだ。
また、「割り切った制作」に感じさせないために物語の設定ともシンクロさせており、シナリオとゲームプレイの両方を手掛ける小島監督だからこそ出来る判断だ。

本作の見た目として困る点としては、フォントサイズも小さい事もあいまってGUIの構造が少々わかりにくくなっている事だろう。
オープンワールドを採用したゲームではGUIを必要最小限の簡素なものにしようとするのが2010年代後半に顕著にみられる傾向だが、本作では少しやり過ぎてしまった所があるだろう。
なお、GUIの改善は2019年12月のアップデートで改修がされている。

また、自室(プライベートルーム)にいる時に限りファストトラベルは可能なものの、通常のPS4(SSD未換装)では所要時間が90秒程度とかなり長い。
気軽にできるとは言い難く少々残念だ。

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ノーマン・リーダスと少しだけ遊べるプライベートルーム

DSではプライベートルームと言う休憩所がある。
プライベートルームではサムの体力やスタミナが全快するほか、飲み物を飲んだりシャワーやトイレと言った生活感溢れる要素も用意されている。
一般にはこのような生活感溢れる要素は最初こそ物珍しさからプレイするものの本質的にはゲームとして機能しにくい事が多く無視される存在になりがちだが、本作ではサムの血液や老廃物と言ったものがBTに対して有効な武器となるためリアルさとゲームプレイの両立が行われている。
ここでも小島監督の最適バランスを捉える力が発揮されていると見て良いだろう。

とは言え、プライベートルームでのサム(ノーマン)との触れ合いは少々物足りない。
サムのモーションのパターンも物足りなく思えてしまうし、プライベートルームもどこも同じ構造なのは少々寂しいと感じるだろう。

 

サウンド

ストーリーの項でも少し述べているが、歌が流れる演出は非常に素晴らしい映画を観ているかのような感動を覚える。
流れる歌はどれも一人旅を感じさせるようなものが多く、作品に非常にマッチしている。

本作の最初のPVでも使用された「I'll Keep Coming」

孤独な旅を感じさせる「Asylums for the feeling feat. Leila Abu」

などは特に印象に残りやすいだろう。
その他のBGMは敵がいる場合には不穏な曲が流れたりとオープンワールドを採用したゲームに多いインタラクティブミュージック的な手法による変化を採用している。

 

総評

Death Strandingはゲームにおいて手段でしかなかった移動を、移動自体が目的になるように変えた意欲的な作品だ。

他者の痕跡を感じながら荷物を運び、美しい大自然を望み、孤独な旅をし、映画のような演出の楽曲が雰囲気を盛り上げ、往く先々では魅力的なキャラクター達と出会う。
そして配達(移動)が楽しいものだと知る。

本作はそれ以上でも、それ以下でもない。

 

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【レビュー】Metal Gear Solid V : The Phantom Pain

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平和が終わる、Vが目覚める。

Metal Gear Solid V : The Phantom Pain(以下、MGSV)はステルスアクションであるメタルギアソリッドシリーズにオープンワールドの概念を導入した意欲的な作品だ。
2019年時点では日本メーカーの作品でオープンワールドを導入した事例としては「ゼノブレイドクロス」や「ゼルダの伝説 Breath of the Wild」、「真・三國無双8」など増えて来てはいるものの未だに多くは無い。
中でも2015年に発売された本作MGSVは日本のオープンワールドにおける先駆者的な作品と言っても過言ではないだろう。

筆者の印象ではあるが、当時のユーザー側にもメタルギアソリッドシリーズがオープンワールド化した姿が望まれていたように感じる。
しかし、メタルギアソリッドのような緻密で濃密な世界やゲームプレイはある程度の限られた空間(箱庭)であるからこそ煌めいていたようにも思え、オープンワールドのような広大な世界との相性は単純に考えれば良くないように思えた。
MGSVがオープンワールド化するという情報は期待感こそあったものの、果たして歴代のメタルギアソリッドシリーズのような濃密な体験が実現し得るのか。
どのようにアプローチされるのかが不安に感じていたと記憶している。

 

メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS4

メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS4

  • 発売日:2015/09/02
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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V has come to

MGSVのストーリーは「Metal Gear Solid V : Ground Zeros(以下、GZ)」で起きた事件の後の世界だ。
GZはMGSVのストーリーの導入部分として非常に良くデザインされている。
スネークのような完成された人物を主人公として描く場合に、ストーリーの導入は非常に厄介な役割を担わされるからだ。
ゲームプレイにおいてはプレイヤーが初心者である事を想定しなくてはならないにも関わらず、主人公の設定は歴戦の英雄などの成長しきった大人と言う「見た目は大人、中身は子供」のような矛盾を内包する可能性があり、またそれを解決しなくてはならない。
それを解決するために時に主人公は記憶喪失になったり、何かの呪いで能力を下げられたりする事も多い。
MGSV本編ではGZによる事件によって重傷を負ったスネークが病院で昏睡状態から回復する所から物語がスタートする。
病院で寝たきりのスネークはGZの事件により片手を失っており、その失った部位を本人が確認する緊迫感や絶望感など非常に丁寧に描いている。
そしてそんな中、スネークを今度こそ本当に始末するべく、突如として病院に敵が襲撃をしてくるのだ。
スネークは逃げる事になるが、長い昏睡から目覚めたばかりなうえ片手を失った体では当然ながら満足に動く事も出来ない。
「スネークが満足に動けない」と言うシチュエーションを「傷病」と言う形で作り上げる事によってプレイヤーが出来る事を制限し、より自然なチュートリアルをしつつ、物語の導入としての「弱い(≒初心者プレイヤーによる)歴戦の英雄」を作り上げているのだ。
少し長く書いてしまったが、「チュートリアルと物語の導入をシンクロさせる」そして「(初心者含めた)プレイヤーと歴戦の英雄をシンクロさせる」ことを全て1つのチャプターで同時進行して同期させている。
また、GZと言う布石を打っていなければMGSV本編の導入で説得力をもってスネークを負傷させる(弱い英雄を作る)事も難しかった事だろう。
ストーリーとゲームプレイの両方を指揮している小島監督だからこそ可能な柔軟な発想だ。

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2部構成の物語

ストーリーは大きく2部構成となっている。
第1部では「Revengence(復讐)」を描いており、
第2部では「Post Revengeance(復讐のその先)」を描いている。

MGSVのメインテーマは「Voice(声)」と「Race(人種)」とされており、第1部ではその傾向を特に強く感じる内容として構成されているのだが、それを体現した設定が「声帯虫」と呼ばれる存在だ。
声帯虫は声帯に寄生し、原初の人類に言葉を与える役割をもった存在だと説明される。
そしてその特性を利用する事で「特定の言語を操る人種のみを根絶やしにする(民族浄化)」が実現できると言うのだ。
声帯虫に関する起源や特性と言った設定も作中で説明が用意されているが、この設定が科学的に成立し得るか・正しいか否かは大きな問題点では無く、それは本作が描きたい内容の本質ではない。
本作では「もしも任意の民族を消し去る手段が存在していたならば」と言う状況こそが重要なのだ。

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プレイヤーへと回帰する物語

MGSVにおけるもう一つのテーマとも言えるのは「プレイヤーへの回帰」だ。
ここではネタバレが無い程度の記載とするため、やや抽象的な表現をしてしまうがご理解願いたい。

歴代のMGSシリーズにおいては様々なスネークが登場するが、それらのどのスネークもプレイヤー達にとっては非常に伝説的であり英雄的キャラクターだ。
そうであるが故にスネークという存在は一種の神格化・偶像化された独り歩きしているキャラクターへとなっていった。
しかし本作では独り歩きした偶像では無く、「”君(プレイヤー)こそがスネーク”なのである」と伝え、そして「MGSシリーズの歴史に無くてはならない存在こそがプレイヤーだった」と伝えている。
ストーリーにおける長いプレイ時間、オープンワールドと言う比較的攻略の自由度が高いプレイスタイルの世界、これらを「プレイヤーのアバター」が「スネークとして」切り開いていき、MGSの今まで語られていなかった歴史を紡いだのだ。
これこそ正に「”君(プレイヤー)こそがスネーク”」と言う事であり、そして「MGSシリーズの歴史に無くてはならない存在こそがプレイヤー」と言う事であり、「スネークと言うキャラクターのプレイヤーへの回帰」と言える演出だ。

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カセットテープによるストーリー補完

メインのストーリー以外にもそれを補完をするものとして「カセットテープ」による会話劇が用意されている。
カセットテープで聴く事ができる会話劇にはメインストーリーの裏側がわかるものから、笑えるようなものも用意されている。
音声だけのストーリーテリングだがその質は非常に高い。
声優の喋り方はもちろんだが、それに合わせて聞こえてくる周囲の環境音やSEなどのこだわりが凄まじい。
音声だけであるにも関わらず話者がどのような動きをして喋っているのかも手に取るようにわかる完成度となっている。

 

蠅の王国

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蠅の王国

MGSVにはゲーム本編に収録されなかったエピソードが存在する。
それが「蠅の王国」だ。

蠅の王国はMGSVのSpecial Editionに同梱されたBlu-ray Diskに収録されている本編に収録されるハズだったものを映像で解説すると言ったものとなっている。
蠅の王国では前述している第二部(Post Revengeance)のオチに相当する部分が実装予定となっているうえ、初代のMetal Gear Solidに繋がる要素ともなっている。
また、ゲームプレイ中にも発症するスネークの後遺症を活かしたストーリーテリングが成される点も見逃せない要素となっていたハズだ。

肝心のゲームプレイの内容にしても絶海の孤島で巨大人型兵器であるサヘラントロプスと戦う事になるようなのだが、動画の解説を見る限りはそれまでにスネークが戦ったサヘラントロプスとは趣が異なるシチュエーションおよびシーケンスで戦闘が行われるように設計されていたのではないかと思える。

ストーリーとしてもゲームプレイとしてもこれが収録されないままに終わってしまったのは非常に残念と言わざるを得ない。
しかし、これが収録されなかった事で本作は伝説として語り継がれていく事にもなるのだろう。

 

システム

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オープンワールドxステルスアクション

MGSVはシリーズ恒例のステルスアクションにオープンワールドの概念を導入した意欲を感じさせる作品となっている。

ステルスとアクションは非常にスムーズだ。
スネークは銃火器を扱うが、それを使用する際にも三人称視点と一人称視点を自由に切り替えて使用可能なため状況に応じて臨機応変に使い分ける事ができる。
壁際のカバーアクションにしても謎の吸引力により吸い付くような感覚は余り無いため操作感のレスポンスは良く感じる。
グラフィック自体はフォトリアルな路線ではあるが、移動速度や慣性、SE、ひいては敵AIの挙動などゲームプレイのテンポやインタラクションを向上させるための「(違和感の無い程度の)ちょっとしたウソ」も織り交ぜており、プレイヤーへの細かな配慮を決して忘れていない。
フォトリアルな映像を用いつつも、ゲームとしての楽しさや快適さを決して蔑ろにしない小島監督の「最適バランス(=中庸)」の思考力は素晴らしいの一言だろう。
これは0 or 1のような1bit(極端な)思考では決して生み出されない設計だと言える。

また、敵の警戒や戦闘と言った状態遷移のシーケンスが明確である点も良い。
NPCの視界距離・範囲であったり、警戒・索敵・戦闘の各フェーズ移行であったり、その挙動は「プレイヤー側がある程度の制御が行えるように緻密に構築」されている。
そのため、見つかってしまった場合の大半が自身の索敵不足やクリアリング不足だったと明確にわかるため、「え?これで見つかる?」と言ったような理不尽に思えるような事は筆者の記憶にある限り全くと言って良い程に無かった。

そんな本作にも欠点が無い訳では無く、一番気になるのはボタンの割り当てだろう。
1つのボタンに複数の機能が割り当てられており、ふとしたタイミングで意図しない挙動になってしまうのだ。
特にありがちなのは柵付近で兵士をフルトン回収をしようとした際に誤って柵をよじ登ってしまう点だ。
フルトン回収と柵のよじ登りが同一のボタンで行われるために発生している問題だが、これは下手をすればそのまま落下死する可能性もある危険な行為となるため、ボタン割り当てにはもう少し工夫が欲しかった所だ。
なお、筆者はこの誤操作によって本当に死亡した事がある。

大きなマイナスとはならないが、フィールドに展開している勢力がプレイヤーと敵しか存在しない点は寂しい所だ。
必ずしも味方勢力が展開している必要は無いが、第三勢力など敵勢力が別の敵勢力と戦闘を行っているような混沌としたシチュエーションなどがあれば更に素晴らしい体験ができたのではないかと思える。

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フロー理論に基づいたゲームプレイサイクル

本作のゲームプレイサイクルに関しても特筆すべき点がある。
まずは上図の左下を参照して欲しい。
未プレイの方には少々わかりにくいかもしれないが、本作においては拠点から拠点までの道中には敵を含めて余り多くのオブジェクトは存在しない作りとなっている。
一見すればもっと物量を投入して密度を上げるべきポイントにも感じる作りだが、これは実際にはフロー理論に基づいた人を「没頭」させるためのフィールド構成となっているように感じる。
そこで、どのようにそれを実現しているのかをフロー理論と照らし合わせて見てみたい。

筆者も専門家では無いため解釈に誤りがある可能性がある点だけは予めご了承願いたいが、フロー理論によれば没頭するためにはサイクルが存在しているという。
そのサイクルとは上図の一番上の図の通りだ。
休息フェーズは最後に説明するとして、
まずは「緊張」のフェーズについて簡単に記載する。
緊張とは不安などと置き換えても良いが、「成功するか否かが未確定な状態」の事と置き換えても良いだろう。
これは本作のゲームプレイにおいては上図の右下がイメージしやすいだろうか。
どんなに入念に施設の外から下調べをしても「まだマーキングしていない敵がいるんじゃないか」と思ってしまったり、「何らかの要因によって見つかってしまうんじゃないか」と言った不安がよぎる。
これは「ユーザーに下調べをさせる事によって、逆に不安を煽っている」と表現しても良いだろう。
これこそが本作における緊張のフェーズだ。

次に「行動」のフェーズに移る。
こちらは緊張や不安の中で意を決して実際に行動を開始する段階の事だ。
これは「覚悟を決める」または「吹っ切れる・開き直る(※自暴自棄では無い事に注意)」と言い換える事もできる。
いくら緊張や不安があるからと言って何もしない状態のままでは事態が好転する事がないのは自明の理だ。
本作においては索敵と言う緊張フェーズから実際に施設に潜入を開始する行為(決断)が行動のフェーズに該当すると言えるだろう。

そして、それらのフェーズが成立するように構成されているからこそ重要な「没頭」と言う状態になる事が出来るのだ。
没頭(フロー)とは近年聴く事も多いであろう「マインドフルネス」や「ゾーン」と言った概念に非常に近いものと言われる。
没頭するのは上記のフェーズ以外にも「難易度が自身のスキルよりも僅かに高い」「成否(結果)が自分で制御できる」「結果がすぐにわかる」などなどの条件が存在している(全ての条件が満たされている必要は無い)。
難易度に関しては個人差の世界であるため割愛するが、「成否が自分で制御できる」「結果がすぐにわかる」と言った要素に関してはアクションゲームである本作が条件を満たしている事は想像に難くない。

そして最後に本題とも言える「休息」のフェーズだ。
人は誰しも没頭した状態が長時間継続できないのは経験則からもご存知の通りだろう。没頭とは詳細には異なるのだが「集中する」という状態は調査によっては30~90分程度が限度という報告もあるようだ。
普通に考えれば当たり前で、もしも没頭や集中と言った状態が無限に維持できるようでは生命活動に支障がでるからだ。
そのため没頭した後には初期状態とも言える休息状態に戻らねばならない。
そう。本作においては「何も無い道中こそが休息のためのフェーズ」なのだ。
別の視点をすれば、没頭して制圧した施設から次の施設に向かうにしても一旦休憩と言うフェーズを挟まなければ「緊張」と言うフェーズに移行する事が無いため、「ただ疲れるだけ」になりかねない。
また、この没頭の後の休息と言う状態では自意識が高められ強い自信を生み出す事にも繋がるという。
密度濃くオブジェクトを配置する事は開発コストの上でも厳しい上に、ステルスアクションと言うゲームシステムの側面から見ても親和性が低いのだ。

しかし、これらは「初見プレイ時」あるいは「経験(土地勘)がまだ浅い時」にこそ有効に活用できる内容であるため、フィールドの密度よりもフィールドの種類の少なさの方に物足りなさを感じる所だ。
有料DLCとしてフィールドをもう1つ、贅沢を言えば2つほど追加して欲しかった所だ。

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もう一歩欲しかったオンライン要素

最初に記載しておくが、上図はオンラインプレイ時の風景ではない。
適切な画像を撮っていなかったためマザーベースの日常(?)風景とさせて貰った。

MGSVでは薄くではあるがオンライン要素が存在する。
オンライン要素では他プレイヤーのマザーベースに侵入し、ゴールである最深部に到達する事が目標となるミッションとなる。
他プレイヤーのマザーベースでは物資を鹵獲する事ができるほか、敵兵士も奪う事ができる。
しかし、敵兵士もマザーベースを守るために厳重な警備を行っているため、易々とは踏破させてはくれない。

この比較的広く浅い作りのオンライン要素はプレイヤーの重荷になる事はないため、「好きな人がプレイし、そうでないならやらなくて構わない」という構造だ。
しかし、このオンライン要素が「エンドコンテンツ」というレベルまで到達しているかと言うと少し物足りないと言わざるを得ない。
その大きな要因は「マザーベースの構造」と「敵兵士の配置」などの多くが固定化されているためだ。
代り映えのしないフィールドで代り映えのしない攻略を何度もプレイするのは少々苦しいと言わざるを得ない。

また、潜入先のプレイヤーがオンライン状態であれば、こちらの潜入を阻止するべく迎撃に出て来てCPUも交えての非対称マルチ化したPvP形式になる点は面白いものの、PvPが確実に行われる訳ではないためマッチングにはやや難がある事と、ハメ技のようなものが成立したりとPvPとしてのバランスには問題があるため、こちらも上手く機能しているとは言い難い。

実装難度が上がってしまう事は承知の上だが、マザーベースの構造や敵兵士の配置場所・巡回経路をユーザーがある程度自由に変更する事を可能にするなど、いわゆるUGC(User Generated Contents)として機能するように設計した方が良かったのでは無いかと思える。
UGCとして上手く機能できれば末永く遊べるエンドコンテンツに昇華できたかも知れない。

 

グラフィック

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こだわりのカメラワークと光陰表現

MGSVのグラフィックはフォトリアルなスタイルで表現されている。
その品質は高く、少なくとも日本メーカーのフォトリアル路線の作品であれば間違いなく頭一つ抜けてトップクラスと言えるだろう。

カットシーンでのカメラワークでは「人が歩いたり、走ったりして撮影している」 かのような揺れが特徴的だ。このような演出は2010年代前半~中頃にかけての映画において用いられ話題となった手法だったように記憶している。
カメラのパンやズームイン、スロー演出などどれもがこだわりを感じるものとなっている。

アニメーションにしてもモーションキャプチャーを利用した出来の良いリアルなものが主体だが、時に滑稽でコミカルなモーションも用意されており、こういった部分においてもリアル一辺倒にならない最適バランスを探す事を忘れていない流石の調整だ。

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レンズフレア

本作で特徴的なのはカメラワークだけでは無く、レンズフレアも同様だ。
小島監督レンズフレアへのこだわりが強いのも有名だが、本作では映像的演出としてだけでなく「サーチライトで敵がこちらを向いているか」の指標ともなっており、特徴的なSEと共に危険を知らせるサインとしてもゲームプレイとして機能している。

 

サウンド

MGSVの音楽はオープンワールド型のゲームに多く採用される環境や状況に合わせたBGMが流れるインタラクティブミュージックと言われるようなものが採用されている。
そのため、メロディは全体的に弱く過去作のように印象に残るBGMが少ないのは残念なポイントだ。

だが、本作におけるメインテーマとも言える音楽は非常に印象的だ。

本作の"復讐"を体現したようなマグマのように煮えたぎる「Sins of The Father」

平和の儚さと切なさが感じられる「Quiet's Theme」

出撃設定画面にて流れるビッグボスの象徴的テーマ「Peace Walker Main Theme」

本作はゲームプレイ中に聴く事が出来るボイス音声も豊富だ。
中には初回プレイでは気が付かないような条件で発生する専用のセリフが用意されていたりとミッションの攻略ルートや攻略順に応じたセリフが用意されている。
その他、通信やボイスレコーダーから聴く事ができるセリフも数多く存在している。

 

総評

Metal Gear Solid V : The Phantom Painは伝説的傑作だ。

復讐と回帰を描き出したストーリー。
フォトリアルとゲームプレイの最適バランスを実現したステルスアクション。
フロー理論に基づいたフィールドのレベルデザイン
印象的なメインテーマ。

唯一の不満があるとすればDLCなどでフィールドの追加が行われなかった事だろうが、ハッキリ言ってそれは贅沢な要望だろう。

本作は間違いなくゲーム史に残る傑作と言えるだろう。
「蠅の王国」と言う伝説を残して。

 

外部記事

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【レビュー】DAEMON X MACHINA

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身体は闘争を求める

DAEMON X MACHINA(以下、DXM)はアーマードコアの系譜を受け継ぐロボットアクションゲームだ。
ロボットアクションゲームがめっきり少なくなった昨今、DXMのようなゲームが登場するだけでも嬉しい限りだ。

本作はリリース前にユーザーのフィードバック収集を目的とした体験版を配信するなど精力的な開発を行っていた事も記憶に残る。
筆者も体験版をプレイしたが、既にその時点でゲームプレイとしての完成度は高いように感じられた。

 

DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)-Switch

DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)-Switch

  • 発売日:2019/09/13
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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理解が困難なストーリー

DXMのストーリーは観てわかる通りだがSFだ。
月の落下によりイモータルと呼ばれるAIが暴走した世界で、主人公であるプレイヤーはアーセナルと言うロボットに乗って戦う傭兵として生きる事となる。
主人公以外にもアーセナルを駆る傭兵は存在しており、彼らはそれぞれ「解放旅団」と呼ばれる派閥に属している事が多い。
なお、本作のストーリーは機動戦士ガンダムを強く意識したような内容もなどもあったりする。

SFにはありがちではあるが、本作のストーリーは輪をかけて難解だ。
いや、正確には難解と言うよりも「理解したいと思えない」のだ。
物語の冒頭から専門用語や意味深なセリフ回しが頻発し、それらに対しての説明も無いため「人類存亡の危機」という状況以外の事を察するのも難しい。
また、主要なキャラクターやアーセナル、ベース内の整備士など良く目につくような物・人物ですら言及がない。
世界設定にしてもキャラクターにしても、ユーザーが興味を持つためのきっかけとなるような取っ掛かりが無いのだ。

このような誰にも感情移入がしにくい置いてけぼりの状態ではプレイヤーは次第に自分(自身の強化やアーセナルのカスタマイズなど)以外の事に関心が無くなってしまうのは必然だ。
終盤になると主人公や各旅団、世界観に関しての設定や謎が解明され「なるほど」と納得できる面もあるが時すでに遅しだ。
ストーリーの一番最初で躓くとそれ以降が全く理解できない構成を「始発が終電」などと表現することがあるが、本作の場合には「始発が既に走行中」でありストーリーを楽しめと言うのは「走行中の電車に乗り込め」に等しい行為になってしまっている。
余り真面目に理解しようとせずに上辺のSFな雰囲気を楽しむ方が良いように思える。

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様々なシチュエーションとリンクするゲームプレイ

DXMのメインミッションではロボットゲームの花形とも言える敵機や施設を撃破するものだけでなく、施設からの脱出や対象の護衛、なかには大量に降り注ぐ隕石から施設を守るなどストーリーに即した形でユニークなミッションも用意されているのは嬉しい所だ。

しかし、メインミッションの開始時に行われるチャット形式のブリーフィングはフルボイスであるにも関わらずオート送りが無いのは不便に感じる所だ。
また、戦闘中にもキャラクター同士で会話が繰り広げられるが、サクサクとプレイしてしまうと、会話が終わる前に次のウェーブにいってしまい会話が途中で終わってしまう事が多いのも残念だ。

 

システム

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手触りの素晴らしいロボットアクション

DXMはアクションとして非常に良い手触りを持ったゲームだ。
アーセナル(ロボット)自体は重量感のあるデザインをしていたりするが、そのアクションのレスポンスは非常に良く、スピーディーに動き回れる。
空中移動も簡単操作ながら自由自在で、必然的に戦闘における主戦場は空中となる。
また、銃を両手に持った状態で特定の操作をすると全方位に回転しながら射撃したりなど(実戦で有効かはさておき)ユニークな動作が用意されていたりするのも面白い。
ここまで書くと操作のハードルが高そうに感じるかも知れないが、ある程度のゲーム経験者であれば誰でも思い通りに動かす事が出来るようになっている点は素晴らしいバランスだ。
ただし、パッド(コントローラー)のボタンをほとんど全て使用するため、本当のゲーム初心者には流石に難しいかも知れない。

バトルフィールドには戦闘に利用できるインタラクト可能なオブジェクトが用意されている。
オブジェクトは破壊可能なものがあり、破壊されたオブジェクトの破片で敵機にダメージを与える事も可能なほか、特定のオブジェクトはアーセナルが手に持って敵機に投げつける事が可能だったりもする。
本要素は活用する・活用したいと思わせるケースが少なく、ゲームシステムとして上手いシナジーは生み出せていないため少々勿体ないがユニークな要素だ。
その他、破壊する事でアーセナルのHPにあたるVPを回復させるフィールドを展開するオブジェクトが用意されているなど初心者への配慮も非常に多い。

本作はオンラインまたはローカル通信による協力プレイも用意されており、協力プレイにおいては専用のボス戦クエストなどが用意されている。
ただし、協力プレイでのミッションにはメインミッションに存在したような一風変わったものが用意されておらず、「敵を倒す」だけなのは少々残念だ。
なお、アップデートにより「PvP」が追加されている。

本作の難易度調整は「敵機の物量」や「敵機の耐久値」に依存した少々愚直ではあるが確実で堅実な構造を採用しており、レベルカーブも丁度良いくらいではないだろうか。
そのため、初心者でも大きな問題なくステップアップしていく事が可能になっているように思える。

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惜しい要素たち

非常に快適なアクションを有している本作だが、大きな欠点は無いものの気になる点が無いと言えばウソになる。

まず、フレーム落ちが発生するのは時より気になる。
このフレーム落ちはオブジェクトを最も多く生成しているタイミングであろうミッションスタート直後に特に高確率で発生する。
筆者がプレイした限りでは全て一時的・瞬間的なものであり継続的にフレーム落ちが発生する事は無かったため、これを大きなマイナスだと言うつもりは無いが気にはなってしまうだろう。

次に気になるのは「ブリンク」と言う要素だ。
本作では人体強化と言うものがあり、体をサイボーグ化する事で様々な能力が向上したりする。
この強化を進める事によってブリンクと言うアーセナルを高速移動できるスキルが使えるようになる。
しかしこの要素、強力ではあるが使い勝手が良くない。
ブリンクの発動はスティックの2回倒しと言う昔の2D横スクロールアクションのダッシュ方法のような操作で実現するため、これを3D空間とアナログスティックの組み合わせで行うと誤操作・誤発動が多すぎるのだ。
サイドビュー式のゲームならまだしも、本作は3D空間で戦ううえに、兵装の最適距離を陣取るプレイも重要であるため機体の位置の微調整を行う事も多い。
であるにも関わらず、スティックの2回倒しでブリンクが発動してしまうようでは誤操作をお膳立てしていると言われても仕方が無いのでは無いだろうか。
専用にボタンを割り当てるか、特定のボタンを入力しながらスティックを倒す事で発動するなど、意図しない移動になり得ない設計にして欲しかった所だ。
ブリンクは必須のスキルと言う訳では無いため、こちらに関しても大きなマイナスだと言うつもりは無いが、カッコいい上に使いこなせれば実戦においても強力な移動方法であるため、これが使いにくいのは少々勿体ない。

最後に気になるのは泥仕合ミッションの存在だ。
本作は武器に弾数が設定されており、それが枯渇すると武器として機能しなくなる。
だが、大半のフィールドではザコ敵を倒す事で弾倉がドロップし、補給する事ができるようになっているのだ。
しかし、ザコ敵がいない=補給できる弾倉が無い場合には途端に単純な消耗戦と言う「泥仕合」へと変貌してしまう。
弾薬数の概念は前身とも言える「アーマードコア」も近しい設計が行われているが、これは維持するべきシステムだったのかは疑問が残る所だ。
ただし、弾倉補給が行えないミッションは数が非常に少ないため、これまた大きなマイナスとするには少々フェアでは無いだろう。

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ボス戦は楽しめるが、粗も気になる

本作では数種類の大型ボスが登場する。
この大型ボスは基本的に多くのPvEタイプのゲームと同様の構造だ。
まず、相手の攻撃方法と弱点位置の把握を行い、後はその知識に従って隙を見て攻撃を叩き込む。
協力プレイなどが特にそうだが、単純火力を求めるばかりでなく僚機が頼りになる場合にはサポート用の兵装で戦いやすい状況を作り上げるプレイをするのも非常に有効だ。
ちなみに、シングル専用ではあるものの特定の大型ボスを操作ができる専用のフリーミッションもあったりする。

PvEらしい性質を持った大型ボスだが、その挙動はやや困ったものが目に付く。
まず、四足歩行の大型ボスは戦線を仕切りなおすためにプレイヤーの取り付きを拒否する広範囲バリアを展開するのだが、画面端でバリア展開されると自機がそのままエリア外まで持っていかれミッション失敗になるケースがある。
バリアを展開する場所に制限を設けるか、ミッション失敗となるエリア外の位置にそれを見越した余裕ある距離を設計して欲しかった所だ。

次に困るのは「なかなか攻撃をさせて貰えない」挙動だ。
先に述べた四足歩行の大型ボスはバッタのように飛び跳ねまくり、爆撃機型の大型ボスは戦闘エリア外からのレーザー照射攻撃を連発したりと「強い」と言うよりも「遅延行為」に近いうっとおしい行動が目立つ。
このような行動には再実行まで猶予を設けて「自身が攻撃をする時間」と「敵が攻撃をする時間」を明確に分け、アクションゲームではあるが「疑似的なターン制バトル」のような状態にした方がメリハリやプレイヤーが行うべき事の明確化に繋がり良かったのでは無いだろうか。

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アーセナルから降りて人で行動する事も可能

DXMではアーセナルと言うロボットだけでなく、機体から降りてパイロットである「人」を操作する事も可能な点が特徴的だ。
ミッションの中には人を操作する事になるものも存在しており、普段とは異なるアクション性や視点でプレイするのはちょっとしたスパイスだ。

しかし、ミッションで強制されない限り「人」を操作するメリットはほとんど無いのは少々勿体ない。
「人で何かをするくらいならば、アーセナル(ロボット)に乗り込んで攻め立てた方が早い」のだ。
せっかく機体から降りて人を操作できるのであれば、それが大きなメリットになるシチュエーションが発生するように設計して欲しかった所だ。
制作の密度が指数関数的に上がってしまう例になるが、ビルや民家に隠れたり、あるいは大型ボスの内部に侵入して破壊工作などができればまた少し違ったかも知れない。

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マニアックだが観るのは楽しい戦闘データ

ミッションをクリアするとミッション中の様々なデータを参照する事ができる。
非常にマニアックな要素ではあるのだが、観る分には「あーここでかなり被弾したよなぁ」など自身のプレイを実数値をもって振り返る事ができるため面白い。
たまーに覗いてみても良いのでは無いだろうか。

 

カスタマイズ

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メインディッシュのカスタマイズ

DXMの醍醐味の1つは間違いなく機体のカスタマイズだろう。
様々な武装を組み合わせて作るのが好きな人にとっては非常に楽しめるだろう。
性能を重視して選ぶのも良し、見た目にこだわって選ぶも良しだ。
ただし、後述するが見た目だけで構成してしまうと実戦において役に立たない事がほとんどであるため、強力な実戦的武装と「これだけは装備したい」という趣味的武装のハイブリッドが望ましいだろう。
なお、上図のカスタマイズは見た目だけにかなり偏った構成となっているため実戦ではやや苦しい使い勝手だ。

本作の各種兵装には適正距離があったり、前隙や後隙だったり、もっと単純に威力であったりと扱いやすい武器とそうでない武器の差が激しい。
そのため「気に入った性質・デザインの武器が使いにくすぎる」ケースが多い点は勿体なさ過ぎる。
特にレーザー兵器は弾数の他にフェムトと呼ばれるゲージも消費するため、ほぼ全てがコストパフォーマンスが非常に悪い兵器となってしまっている。
弾数のみか、フェムト消費のみにするべきだったように思う。
その他にも空中戦が重要な本作にあって、地上に着地していないと発射できないものもあり使いどころが難しすぎるものもあったりする。
本作はPvEがメインのゲームだ。
そのため、いわゆる「バランス」と言われる概念はそこまで重要では無い。
バランス度外視で少々"ぶっ壊れ"でも気にせずに、リスクを上回るようなリターンを得られる事を心掛けても良かったように思える。
例えば、本作では腕に武器が内蔵された「武器腕」系のパーツはリロード無しにとんでもない量の弾薬を撃ち尽くす事が可能で非常に強力となっている。
武器腕の攻撃で大型ボスなどの体力がモリモリ減る様子は「チートでもしている」かのような錯覚を覚えるが、PvE主体のゲームであれば「ユーザーにちょっとズルをさせる」くらいでも丁度良いのだ。
武器腕くらいの大胆さが武装全体に欲しかったように思う。

 

グラフィック

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スタイライズドな表現を利用した映像

DXMはトゥーンシェーディングを採用し、陰影の強い映像のクオリティは全体的に高い。
人物の造形はコザキユースケさんがデザインしたアニメ調のテイストであり、機体の色味に関しては発色を抑え気味にし汚れ加工をしていることでロボット感が増している。
また、フィールドに関しても建物を至近距離で観るには少々苦しいが、比較的よく出来ており美しいロケーションとなっている。
しかし世界設定の関係上フィールドは全体的に赤く染まっているため、多くのロケーションの雰囲気が近しい印象になってしまっており少々勿体ない。

モーションキャプチャーと思われるが、ストーリーやゲームプレイにおけるキャラクターアニメーションは調整含めて良くできている。
また、ブースト時にバレルロールライクな回転を魅せたり、壁際を通り抜けると壁を避けるようなモーションが発生したりするなど丁寧さも感じさせる。

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フィールドには動物がいたりもする

余り重要な要素では無いのだが、フィールドには動物が走っていたりする。
ポストアポカリプスのようなSF世界とは言え、そこに生きているのは人間だけではないと感じさせてくれる良い要素だ。

 

サウンド

メタル調やEDM調のサウンドが特徴的でトリガーハッピーにさせてくれるBGMだ。
しかし、トリガーハッピーだからといって本当に撃ち過ぎると弾が無くなり「弾を補充するための弾が無くなる」状態にはならないようにしよう。

キャラクターのセリフは全てボイスが付いており、ボリュームたっぷりだが「ストーリー」の項で述べた通りキャラクターに愛着が湧きにくいのは勿体ない。

 

総評

DAEMON X MACHINAは良い所と悪い所がハッキリとした作品だ。

ゲームプレイ部分はレスポンスの良いアクションと手堅い難易度デザインによって(前身があるとは言え)1作目とは思えない非常に良いクオリティをしており、ロボットのアクションやカスタマイズが好きならば多くの人が楽しむ事ができる品質に仕上がっている。
しかし、乗り込むタイミングすら見当たらない感情移入困難なストーリーは興味を持てる内容になっているとは言い難い。
幸いにして本作(のような作品を求めているユーザーにとって)はストーリーが最重要では無いため大きなマイナス点となる事が無いのが救いだろう。

これだけの良い品質のゲームプレイを提供できるのであれば次回作にも期待したい所だ。
また、それに期待して本作に投資するのも良いのでは無いだろうか。

 

外部記事

『デモンエクスマキナ』制作現場インタビュー│DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)公式Webサイト

『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』Order Zero[animation] - YouTube

DAEMON X MACHINA Gameplay - Nintendo Treehouse: Live | E3 2018 - YouTube

DAEMON X MACHINA Gameplay Pt. 1 - Nintendo Treehouse: Live | E3 2019 - YouTube

DAEMON X MACHINA Gameplay Pt. 2 - Nintendo Treehouse: Live | E3 2019 - YouTube

『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』E3 2019 Nintendo Treehouse:Live part.1(日本語字幕版) - YouTube

『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』E3 2019 Nintendo Treehouse:Live part.2(日本語字幕版) - YouTube

Three Things You Might Not Know About DAEMON X MACHINA - Nintendo E3 2019 - YouTube

佃Pの実況ゆるプレイ配信『DAEMON X MACHINA』 - YouTube

佃Pの実況ゆるプレイ配信『DAEMON X MACHINA』2周年記念 - YouTube

『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』体験版アンケート フィードバック ~主な改善点のご紹介~ - YouTube

Dive into the creation of DAEMON X MACHINA in our developer interview | News | Nintendo

『デモンエクスマキナ』 開発陣インタビュー 新時代のメカアクションゲームが始動! - ファミ通.com

『デモンエクスマキナ』UNREAL FESTのセッションをお届け。初のUnreal Engine 4採用で、手探りで道を開いた汗と涙の結晶 - ファミ通.com

[E3 2018]新作メカアクション「DAEMON X MACHINA」は,敵の装備を奪いながら戦える。佃 健一郎プロデューサーにその概要を聞いた - 4Gamer.net

「DAEMON X MACHINA」のキーマン佃 健一郎氏と河森正治氏にインタビュー。そのメカニカルデザインに迫り,謎多きメカアクションを紐解く - 4Gamer.net

『デモンエクスマキナ』独特のトゥーン表現やVFXを生み出すための工夫とは。UE4製メカアクションのVFX制作過程【UNREAL FEST】 | AUTOMATON

「個性ある完全新作メカアクションを作りたい」…『DAEMON X MACHINA(デモンエクスマキナ)』佃健一郎Pインタビュー【E3 2018】 | インサイド

スイッチの特性を活かす『デモンエクスマキナ』インタビュー...対戦モードやグリップコントローラーについて佃Pに訊いた【E3 2019】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

【レビュー】ファイアーエムブレム 風花雪月

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フォドラの夜明け

キャラクターベースSRPGの始祖的存在のファイアーエムブレム(以降、FE)シリーズであるファイアーエムブレム風花雪月(以降、FE風花雪月)はWiiの「暁の女神」以来となる実に10年以上ぶりの据え置き向けFEだ。
筆者は「封印の剣」からFEシリーズのファンになったが、このFE風花雪月を見逃すハズもない。

FE風花雪月は2017年1月の「ファイアーエムブレム Direct」にて開発が公表されたが、詳細は2018年のE3まで公開されていなかった。1年以上も新たな情報が無かったためヤキモキした事を覚えている。
そして2019年のNintendo Directで更に詳しい内容や発売日が発表されたが、それでも物語やゲームプレイシーケンスにおいてわからない事も多かった。

今回はFE風花雪月のレビューをしてみたい。
なお、今回のレビューでは画像で若干のネタバレと感じる可能性のある要素が含まれている。ネタバレが気になる場合には注意されたい。

 

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

  • 発売日:2019/07/26
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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興味深い謎多き世界観

FE風花雪月のストーリーの特徴はなんといってもフォドラと言う地域を舞台に「3つ学級が存在する」という事だろう。
フォドラで最も歴史のあるアドラステア帝国出身者の集う「黒鷲の学級(アドラーラッセ)」
アドラステア帝国から独立した過去を持つファーガス神聖王国出身者の集う「青獅子の学級(ルーヴェンラッセ)」
貴族たちの同盟によって成り立っているレスター諸侯同盟出身者の「金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)」
プレイヤーはフォドラで最も影響力のあるセイロス教の総本山「ガルグ=マク大修道院」の教師となり、これらの学級から1つを選択し、教師として学級そして各キャラクターと関わっていく事となる。
選択した学級によって、特に中盤以降に大きくストーリーが変化する。

ストーリーは序盤から様々な謎が用意されている。
プレイヤーが教師として身を置く事になるセイロス教団は背教者などに対して容赦なくその場で抹殺する事も厭わないなど排他的でどこか胡散臭い。
しかし、あからさまに胡散臭すぎるのも逆に怪しくすら思えるなど、どれが正しいのか、どれがミスリードなのかわからないようになっている。
セイロス教団に限らず本作では例え味方であっても決して善行を積み重ねた者ではないのは世界観に説得力を与える事に成功している。

また、本作は二部構成となっている点も忘れてはならない大きな特徴だ。
第一部では学生たちを共に過ごしていくのだが、第二部では5年後を描いておりフォドラが戦禍に飲まれている。
第一部と第二部のコントラストが良く効いており、特に声優の演技に関しても5年分の成長を感じさせる過酷な時代を生きる大人になった演技をしているのが素晴らしい。

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フォドラの文化を感じさせる要素たち

各章の始まりには独特のタッチの絵と共にフォドラの文化について語られる。
これによってフォドラと言う地域性が良く表現されているのは良い演出だ。

その他、書庫ではセイロス教や各国の成り立ちなど興味深いテキストが用意されていたり、魚や食事の簡単な説明文においても世界観を補完している。

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巧みなストーリーテリング

本作で最も特筆するべきものと思えるのはそのストーリーテリングだ。
ストーリーは本編以外にも数多く用意されており、「外伝」や近年のFEシリーズでは代名詞とも言える「支援会話」が存在する。
ゲームプレイとなる学校生活という設定から一見明るいように感じられるものの、支援会話や外伝で垣間見る内容ではほとんど全てのキャラクターに暗いバックボーンがある事がわかる。
その陰と陽がストーリーのコントラストとして機能しているのだ。
これらの横軸とも言える要素が非常に密度濃く作られており、世界観を強固に支えている。

これらの支援会話や外伝は本編だけでは知る事ができない世界設定について知る事が出来る内容が多く非常に興味深く観る事ができる。
それらを参照する事により、「例え同じクラス、同じ地域の出身であっても、その親族などが反乱を起こして征伐」されていたり、「親同士での小競り合いや殺害」などが裏で発生していたりする事がわかる。
また、作中で明言されていない内容であっても支援会話や外伝を数多く参照して世界観の知識が増える事によって何があったのか推測ができるようになっている構造は非常に巧みだ。
キャラクター同士だけでなく、その親族や家系図、ひいてはフォドラとその隣国の歴史や風土といった要素がプレイヤーの頭の中でパズルのピースのようにハマっていき、世界観や相関図が構築されていく様は爽快ですらある。
何気ない会話の中で出てきた1つのセリフであっても設定に裏打ちされた発言である場合も多く、キャラクターのバックボーンが理解できてから思い返して「なるほど…!!」となる事も多い。

その他にもメインストーリーの伏線になるような内容が学校内の散策パートでの会話で用いられているなど、やり込めばやり込むほどに作り込まれていると感じるだろう。

逆に言えば本作のストーリーは本編だけでは思惑など理解しきれない部分もあり、魅力を100%感じ取る事は難しいかも知れない点が一長一短となるポイントであろう。
しかし、支援会話や外伝を一切無視してプレイするというのであれば「根本的に作品とユーザーの相性が良くない」とも言えるため単純に「一短」だとも言い切りにくい。

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プレイヤーは教師だ

FEシリーズでは「キャラクターをどのように育てたいか」、「どのように育って欲しいか」という将来を見据えて育成していくゲームプレイが主軸の1つとも言えた。
プレイヤーが教師として学級の生徒たちに関わっていくのは、まさにゲームプレイとシンクロしている設定だと言えるだろう。

しかし、生徒たちは何も教師に言われたことをこなすだけではない。
育成がある程度の段階まで進んでくると、時よりキャラクターが自発的に「こういう技能を伸ばしたい」「こういう職業を目指したい」と提案してくることもある。
もちろん、その提案を受け入れるかどうかはプレイヤーの選択に委ねられるが、キャラクターが自身の考えを持って行動をしているように感じられる要素は「教師として嬉しい」と思わせてくれる。

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満載のこだわり

その他のこだわりも記載しておきたい。

まず、最も些細な内容であるが「自動送り」が実装されているのはありがたい。
本作は会話内容がフルボイスとなっているのだが、筆者はフルボイスの作品の場合には会話の自動送りが実装されて欲しいと常に願っている。
声優が感情を込めて喋るセリフとプレイヤーが書いてあるテキストを読み進めるのではテンポが違い過ぎるからだ。
「自動送り」が無い作品もいまだに多いが、本作では実装されているためセリフを聴く事に集中する事ができるのは地味ながら嬉しいポイントだ。

本作では2人1組で技能を上げる「グループ課題」やプレイヤーとキャラクター2人の計3人で「食事」を行う事ができる。
これらはキャラクターの特定の組み合わせに応じてセリフが専用のものに変化したり、またそのキャラクターの支援レベルによってもセリフの内容に変化があるのは見応えがある要素だ。
この支援の状況に応じたセリフ内容の変化は様々な箇所で適用されており、支援会話自体も僅かに変化するケースもあり、非常にこだわり抜かれている。

また、本作ではキャラクターの会話中に選択肢が用意されている事が多く、とにかくシナリオ面が充実している。
選択した内容によって会話内容が大きく変化する事は少ないものの、主人公の性別でも選択肢に変化がある点もこだわりが感じられる。

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些細な問題だが、痒い所に手が届かない

全体から考えれば非常に些細な問題ではあるのだが、痒い所に手が届かないものも散見される。

まず、最も手が届いていないのは「生徒の名簿」だろう。
名簿では生徒の能力値を始めとして、簡単な出自や趣向などが名簿から参照できるようになっている。
これを参照する事によってキャラクターの好き嫌いと言ったゲームプレイに繋がる要素を確認できるのはもちろん、世界設定を知る手掛かりとしての役割も担っている。
ところが、自身の学級以外の生徒の名簿を観る術が乏しいのは勿体ない。
もちろん、他学級の生徒も簡単に参照できるようにするべきかは悩ましい所だが、例えば世界観を壊さないように他学級を担当する教師にお願いする事で見せて貰える形にするなど、最低限として参照する手段は用意して欲しかった所だ。
なお、DLCにて会話した際に生徒の名簿を観られるようになる機能が追加されている。
DLC要素であるため純粋な改善では無いが、ありがたい追加要素だ。

次に気になるのは選択肢で一番上の項目がデフォルトで選択された状態になっている事だろう。これはやや不親切と言わざるを得ない。
近年では誤った選択をしてしまわないように「どれも未選択」をデフォルトの状態にしておくのがセオリーとなっているように思える。
もしも、ボタン連打してしまうようなプレイをする人ならば、あらぬ選択をしかねない設計だ。プレイヤーはボタンを無駄に押さないように心掛けた方が良いだろう。

 

キャラクター

レビューから逸脱した内容となってしまうが、筆者のお気に入りのキャラクターの一部を紹介させて欲しい。

 

リシテア

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リシテア

リシテアは理由あってとにかく早く一人前に、大人になりたいという願望を持っているキャラクターで、少し生き急いでいる印象が強いだろう。
どうして彼女がそのような生き方をしているのかは是非ともゲームをプレイして支援会話を参照して欲しい。
とは言え、そのような無理に背伸びをした生き方を続けていた影響なのか、甘いお菓子が好きだったり、やたらとお化けが怖かったりと変な部分が子供のままになっている可愛らしい一面も持っている。

ユニットとしての彼女はステータスの総合値こそ低くなりがちなものの、魔力だけがひたすら成長し、FE封印の剣の「リリーナの再来」とも言える火力は驚異的だ。
その上、魔法は射程が伸びる装備やスキルが存在するため、装備/スキルが整っていれば攻撃性能において群を抜いたキャラクターとなる事は間違いない。

 

ローレンツ

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ローレンツ

ローレンツのキャラクター性はステレオタイプな貴族性を更に強く掘り下げたものになっているのが特徴的だ。
彼の発言の数々は最初こそいわゆるテンプレートな「いけ好かない貴族」の空気感を覚えるのだが、彼を掘り下げれば掘り下げるほどに素晴らしい人物である事がわかる見事な設定だ。
筆者の感覚ではあるが、第一印象とクリア後とでは全く評価が異なる人物ではないだろうか。

ユニットとしての彼は白兵戦と魔法による遠距離戦の両刀が可能な才能を持っており育成のしやすさがあるのが特徴的だ。
しかし、レベルアップの成長の仕方によってはどっちつかずな器用貧乏になりかねない事も事実であり、「単騎で天下を取れる」ようなタイプとは言いにくい。

 

マリアンヌ

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マリアンヌ

マリアンヌは自身の血筋に絶望しており、自己肯定感が非常に低く傷付きやすい繊細な精神性でありながら、下位承認あるいは自暴自棄な発言も目立つ。
それらの発言も自身が他者から傷つけられる事を酷く恐れるあまりに行っている予防線の意味合いもあるように読み解けるが、とにかくとても心配になるキャラクターだ。
しかし、5年後には決意を感じさせるセリフが端々にあり、その強く美しく成長した姿はプレイヤーを親類が感じるような気持ちにさせてくれるだろう。
特に必殺発動時の「私…やらなきゃ…!!」という覚悟を決めているセリフは筆者のお気に入りだ。

ユニットとしての彼女はヒーラーとして育てていくのが無難だろう。
特に遠くの味方を回復できるリブローを覚えるため重宝する。
剣士としての才覚もあるため、いざという時のために鍛えておいても良いかも知れないが、優先度としては非常に低くなるだろう。

 

イングリット

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イングリット

イングリットは貴族出身ではあるが、その跡取りではなく騎士となることを夢みている。
基本的に真面目で正義感が強いが、食べる事が大好きでそれを幼なじみから弄られる可愛い一面もある。

ユニットとしては速さが成長しやすいが、力不足にはなりがちな印象だ。
そのため、敵の攻撃を回避しながら引き付けて削り、仲間が止めを刺して経験値を得るといった事がやりやすい。
戦闘中のボイスは清廉な声質を残しつつも勇ましさを前面に押し出しており、非常に筆者好みの演技だった。

 

イエリッツァ

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イエリッツァはアップデートによって仲間として追加されたキャラクターである。特定のルートでのみ仲間になる。
普段の彼は寡黙でほとんど喋る事は無いのだが、その幼少期は非常に複雑な家庭事情で育っており、その影響からなのか非常に強い破壊衝動を持っている。
しかし、学級の生徒の中には彼ととても縁の深いキャラクターがおり、破壊衝動に悩みながらもそのキャラクターと関わっていく姿は印象的だ。

 

システム

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キャラクターの育成

FE風花雪月においてメインディッシュといえるシステムを挙げるとするならば、それは「キャラクターの育成」だ。

プレイヤーは各学級の各キャラクター達に指導を行い、どの技能を伸ばしていくのかを指示する事ができる。
キャラクターには予め個性が設定されており、得意とする技能・苦手とする技能が存在していたり、「紋章」と言う血統のようなものがあったり、またレベルアップ時に上昇しやすいステータスがあったり、時には最初は苦手な技能であっても指導を繰り返す事で得意技能となるものも用意されている。
得意・苦手はあるものの特に「これは必須」のような技能は無いため、プレイヤー自身の好みで育成する事が可能だ。
キャラクターの個性に合った・個性を伸ばすような育成をしていく事が好きな人にはたまらない要素と言えるだろう。

また、従来通りではあるが多くのキャラクターには「支援」と呼ばれる仲の良さのようなパラメーターも存在しており、キャラクター同士の友好度が高くなる事で「ストーリー」の項で記載した支援会話を観る事ができる。
また、支援はキャラクター同士が隣接していれば、そのキャラクター同士の支援レベルに応じて戦闘でもステータスにバフがかかるなどの機能も従来通り実装されている。

このように「キャラクターをどのように育てるか(どうなって欲しいか)」「どのキャラクターとどのキャラクターを仲良くさせるか」を考えながらプレイしていく本作の体験は教師のようであり、親のようでもある。

そして本作のゲームサイクルは非常に熱中しやすいバランスだ。
本作のプレイシーケンスは端的に表してしまえば「育成⇒結果⇒戦闘⇒育成…」というプレイサイクルとなるのだが、その1つ1つのプレイ時間はそこまで長く無く設計され、また実行した結果もすぐにわかる。
そのため「もう少しコレを伸ばしていこう」「じゃあ次はこっちを伸ばそう」など次々と新しい目標(育成プラン)が湧いてくる。
止め時を見失う没頭性は非常に見事だ。
ただし、難易度をルナティックなど高難易度にすると戦闘の時間的比重が大きくなり、育成~戦闘のサイクルのバランスが崩れてしまうのは少々勿体ない所だ。

 

バトル

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関係性がシンプルに戻った戦闘

ここではバトルに関して記載をしていく。

まず、FE風花雪月では覚醒以降の作品と同様に難易度設定として「カジュアル」と「クラシック」が存在する。
カジュアルでは自軍のユニットが倒されたとしても復活するようになっているが、クラシックでは古来のFEシリーズのようにユニットがロストして復活する事は無い。
敵ユニットの強さなどが変化する「ノーマル」「ハード」なども存在するため、SRPGの初心者から上級者まで安心してプレイする事ができる。

次に追加・変更が加えられている要素について記載する。

本作で最もインパクトのある変更は「三竦みの廃止」だろう。
FEシリーズと言えば「聖戦の系譜」から「剣<槍<斧<剣…」という関係性の「三竦み」が代名詞的に活用されていた。
しかし、本作では大胆にも三竦みを撤廃しているのだ。
これを聴いて不安を覚える方もいるかも知れないが、本作のゲームプレイを考えれば三竦み撤廃は非常に素晴らしい英断と言える。
本作では「生徒を成長させる」ことをゲームプレイの主軸に置いているが、そこに「三竦み」という要素は相性が悪いためだ。
例えば、時間をかけて盾役キャラを育てたとしても、育てたキャラが槍使いとして育成した場合には戦場が斧装備の敵だらけとなったりすれば、その育成が無に帰してしまう事に他ならない。
三竦みを撤廃した事により攻撃役は常に攻撃役として、盾役は常に盾役として機能するようになっており、育成が無駄になる事がないのだ。

戦闘中に行動を巻き戻せる「天刻の拍動」というものも追加されている。
これも良い要素だと言えるだろう。
上述している通り、FEシリーズではユニットロストしてしまう要素が代名詞として語られる事が多い。
しかし、実際にそうなった場合にはそのままプレイを継続するプレイヤーは少なくリセットをするのが大半だと思われる。そうなると戦闘を最初からプレイする事になり、とにかく時間がかかってしまう。
そのため、行動をやり直せる「天刻の拍動」は時短に繋がるのだ。
もちろん、プライドによって使いたくない人は使う必要は無い。

戦闘で役に立つ行動として「戦技」「計略」と言うものが追加されている。
「戦技」は武器種の熟練度が向上する事で覚える技で、自分のターンであれば覚えている戦技を発動する事ができる。
その効果は様々で特定の敵に特効ダメージを与える技や能力を下げる技などが存在する。
しかし、その代わりに武器の耐久値を多めに消費する事になるため「いつ」「どの武器で」使うかが重要だ。
とは言え、ユニットが成長してくると普通に攻撃した方が効率が良くなってしまう事が増え、一部を除き多くの戦技の有用性が薄くなってしまうのは少々勿体ない。
通常攻撃と戦技のバランスはもう少し検討して欲しかった所だ。
「計略」はユニットに「傭兵団」を設定する事で使用可能となる戦法で、その効果は傭兵団によって異なる。
計略は味方ユニットと連携する事で「連携計略」となり、威力や命中に補正がかかる。
この計略は魔獣と呼ばれる大型の敵ユニットに対して使用する事が多いのだが、計略による攻撃は反撃を受ける事がないため強力な人型ユニットにも非常に有効だ。
計略は1回の戦闘中に1ユニット辺り数回しか実行できないが、反撃なしに攻撃できると言う特性はやや強力すぎる。
回数制限があるとは言え、もう少しリスクがあっても良かったように思える。

では、これらの変更点の影響や戦闘全体のバランスはどうなったのか。
戦闘は本作が育成が主軸になっているためか、戦闘自体のやり応えはやや低いというのが筆者の感じた所だ。
どのキャラクターでも、どの武器でも、どの兵種でも十分に強く、計略なども強力で苦戦を強いられる事はほとんど無い。少なくとも1週目を難易度ノーマルでプレイした筆者はそのように感じる。
本作の戦闘とは「戦闘自体が楽しい」と言うよりも「育成した成果をお披露目する場」なのだ。
敵ユニットの行動を計算しながらパズルのように戦ったり、味方ユニットの配置などによるポジティブなシナジー効果によって上手に立ち回ると言う訳では無く、自身が育成したキャラクターが思った通りの強さを発揮できるかを確認したりする場が戦場となっている。
本作はあくまでも「キャラクター(生徒)の成長」を楽しむのが主体だという事は忘れてはいけない大きな要素だろう。

 

散策

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生徒たちと過ごす自由時間

FE風花雪月では戦闘以外のパートが存在する。
それが「散策」だ。
散策ではガルグ=マク大修道院にて生徒や先生たちとの交流をする事ができる。

キャラクターに対しては贈り物や落とし物を渡す事ができるほか、食事に誘ったり、お茶会に誘ったりすることが出来る。
また、主人公の技能を向上させる事も可能だ。
散策ではこれらの行動が行える回数が決められており、プレイヤーはどのような行動をするべきかマネージメントしながら散策する事となる。

上述している「落とし物」は良く出来たシステムだ。
キャラクターは章が移り変わる度に待機場所が変わる事が多いのだが、落とし物はキャラクターが前章で立っていた位置に落ちている。
しかし、全てのキャラクターの立っていた位置を覚えるのは難しい。
だが、落とし物の1つ1つにはキャラクターの個性が反映されており、落とした物と生徒の外見や名簿などを照らし合わせる事により、落とし主のキャラクターを推測する事ができるようになっているのだ。
この落とし物を落とし主に返すという作業をこなしていく事でキャラクターの好き嫌いと言った個性が自然と把握できるようになっているのは良い構造と言えるだろう。
特に本作のように多くのキャラクターがいる場合には、1人1人の個性まで把握しにくい事が多い。自身の要素を理解し、それに相応しいアプローチを行った良い例だと言えるだろう。
しかしながら、ストーリーの項でも述べている通り他学級の生徒の情報を知る術が乏しいため、他学級の生徒の落とし物は場合によりブルートフォースアタック的に落とし主を探すようになってしまうのは痒い所に手が届いていない。
なお、これも前述の通りDLCにて名簿が会話で見られるようになったほか、落とし物がどの学級のものかも表示されるようになった。

この散策パートでほとんど不満は無いが、「あれば嬉しかった」と言える要素なら上げる事ができる。
それは「ランダムイベント」だ。
本作ではとにかく事前に用意されたイベントがあるのみであり、後はそのイベントをいつ消化するかをプレイヤーが決められる程度と言って良い。
そのため、散策パートでの驚きがやや物足りないように感じられる。
そこでランダムで発生する突発的なイベントがあっても良いように思えるのだ。もう少しわかりやすく表現すれば「パワプロのサクセスのような仕組み」と言えばピンと来るかも知れない。
このような偶然の産物によってキャラクターの能力値や技能に変化が生まれるのも面白いのではないだろうか。

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他ユーザーの選択が確認できる

アカウントがNintendo Switch Onlineに加入していればちょっとした要素が追加される。
他のユーザーがどのような選択をしたのか確認できたり、戦場のマップでは他ユーザーがやられたポイントが表示されたりするのだ。
これらの要素のためにNintendo Switch Onlineに加入するのは何か間違っている気がするが、既に加入済みの特に初心者ユーザーならば使ってみても面白いだろう。

 

煤闇の章

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第四の学級

煤闇の章とはFE風花雪月におけるDLCで追加されたサイドストーリーの事だ。

FE風花雪月のDLCでは衣装やクエスト、キャラクターなどが追加されたが、この煤闇の章が最大の目玉と言っても過言では無いだろう。

 

ストーリー

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やや半端なストーリー

煤闇の章は本編の進行とは全く関係なくプレイする事ができる完全に独立したシナリオとなる。
また、物語の進行はメインのストーリーを進めていくのみで、専用のサブクエストは用意されていない。

煤闇の章ではガルグ=マク大聖堂の地下にある”アビス”と呼ばれる世界が舞台となる。
アビスは表の世界を歩けない者達ばかりが住む場所で、そこには「灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)」と呼ばれる第四の学級が存在していた。
主人公達は第四の学級の生徒たちと共にアビスの治安維持のために侵入者を排除し、またアビスが狙われる謎を解き明かそうとしていく。

展開されるストーリーの大筋は本編と比べるとシンプルだ。
本編ではメインストーリーと支援会話、外伝で互いに補完しあうような深い構成となっていたが、煤闇の章ではメインのストーリーの情報だけで物語の起承転結が完結するようになっている構成なのだ。
本編と同様の奥深さを生み出すには至っていないのは少々肩透かしを喰らったように感じるかも知れない。

煤闇の章はボリューム自体もそれほどは無く、5~10時間程度でクリアする事が可能だ。
そのような短めのストーリーである事も相俟ってか、物語の畳み方が少々雑になってしまっているのは勿体ない。
味方や敵の描写をもっと濃密に描き、終盤の山場の展開へのメリハリや助走をしっかりと付けて欲しかったように感じる。

煤闇の章のストーリーでは本編で明かされない部分を知る事が出来る事は良いポイントだが、その内容が本編やDLC煤闇の章に厚みを持たせるような設定かと言われるとそういう訳でもない。
あくまでも煤闇の章で完結したストーリーとなっている事も折角のファンのためのDLCという側面を考えるとこちらも勿体なさを感じる所だ。

 

システム

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サクッとプレイできる

キャラクターを様々に育成していく事を主軸に置いていた本編とは異なり、煤闇の章は決められた戦力でマップを攻略する必要がある。
そのため、過去のFEシリーズのような詰将棋に近いプレイフィールが味わえる。

難易度は本編よりも若干高いようには感じるが、育成部分がほとんど無いため、何も考えずにサクサクと進行できる。結果的には本編よりも手軽にプレイしやすい印象だ。
そのため、SRPG初心者やFEシリーズに興味のある人はこちらからプレイするのも悪くないかも知れないが、この煤闇の章はスタンドアロンに起動できるパッケージ版などは販売されておらず若干惜しいように感じる所だ。

 

グラフィック

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もう一歩物足りなさのあるグラフィック

FE風花雪月のグラフィックは少々物足りないというのが正直な所だろう。
スペック面でやや劣るNintendo Switchとは言えども、もう少し上を狙えたのではないかと思えてならない。
システムが異なるため単純な比較は意味を成さないが、より美麗に描写されたNintendo Switchタイトルもあるだけに惜しい。

人物のモデリングにおいて特に気になるのは瞳だろう。
「目は口程に物を言う」という言葉があるように人物の造形の善し悪しを決定する最も大きな要素が目である。
本作ではその目の、特に瞳の透明感や潤いが感じられないため必要以上にクオリティが低く見えてしまい勿体ない。

フィールド関連も余り良いとはいえない。
散策で歩く事となるガルグ=マク大修道院やフル3Dで描かれるようになった戦場もテクスチャーの品質が余り良くない。
ロケーションの雄大さなどを楽しむゲームでは無いとは言え、もう一声欲しかった所だ。

しかし、グラフィック面でこだわりを捨てている訳では無い。
例えば各学級のキャラクターは全員が学級に応じた制服を着用しているのだが、その大半はキャラクター性を象徴するようなワンポイントや気崩し方をしているのだ。
また、散策において行動可能数を使い切った状態である程度時間が経過すると上図の右上のように夕焼けになる。 
コーエーテクモゲームスが開発を主導している影響かキャラクターのアニメーションは全体的に良く出来ており、特に戦闘中に魅せるキャラクターアニメーションは良い動作だ。
このようにグラフィックそれ自体の質は良いとは言えないのだが、それを補うように他の要素で見せ方をカバーしている。

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カッコいい必殺のカットイン

本作の映像関連で最も良いと感じるのは戦闘中の必殺発動時に挿入されるキャラクターのカットイン演出だろう。
戦闘中に実際にどのように挿入されるかは「バトル」の項で載せている画像が参考になるので参照にして欲しい。
近年のFEではこのように必殺時にカットインが入るが、今作ではイラストでは無く少し動きがある3Dモデルであるため、カットインのカッコよさを引き立たせている。
気合のこもったセリフと一緒に発生する必殺の演出は最高だ。

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戦場でのズームアップは嬉しい要素だ

本作の戦場ではズームアップ操作をする事で実際に近い寸法の表示を行うことが出来るのだが、その状態でユニットを移動させる事もできるのは嬉しい要素だ。
もちろん普通のSRPGのようにマス目ベースでユニットを移送させる事も可能だ。
普段使いできるほど素晴らしい機能だとは言い難いが、実際の縮尺でキャラクターとフィールドの関係性を観る事が出来るのは嬉しい。

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細かな遊び心

地味ながら遊び心を忘れない。
ロード画面では昔ながらの2Dドットのキャラクターユニットが登場する。
このロード画面のキャラクターはコントローラーの傾きやボタン操作でリアクションがある。
こういった小さな遊び心こそ作り込みを感じさせてくれるポイントと言えるだろう。

 

サウンド

FE風花雪月の音楽は素晴らしい楽曲がてんこ盛りだ。
教会というシチュエーションにマッチした印象的なパイプオルガンの音色や相変わらず耳に残るカッコいい戦場曲は是非とも聴いて欲しい。
また、近年のFEシリーズで採用されている戦場BGMと戦闘BGMのシームレスな変化にしても鳥肌が立つほどにカッコいい演出だ。

パイプオルガンで厳かにアレンジされたFEシリーズのメインテーマ「炎の紋章」

孫子の一節を用いた戦闘準備時の曲「その疾きこと風の如く」「侵略すること火の如く」

戦場時と戦闘時がシームレスに切り替わる非常にカッコいい「フォドラの暁風」「天裂く流星」「剛撃」

ボーカルメインテーマのフレーズを引用しつつ第一部と第二部でアレンジの異なる楽曲に仕上げた本作で最もカッコいいと言っても良い戦場・戦闘曲「鷲獅子たちの蒼穹」「天と地の境界」

日常のようなほのぼのとした「安息と陽だまり」

神秘的でシャーマニズムな雰囲気を覚える「覚醒」

このほかにも記憶に残る素晴らしい曲がたくさん存在している。
これらのBGMはプレイ中に聴いたことがある曲であればゲーム内でもサウンドテスト的な形式で自由に聴く事が出来るため、その点も嬉しいポイントだろう。

 

ボイス

キャラクターのボイスに関しても少しだけ記載しておきたい。

戦闘においてキャラクターが必殺を発動した後には、その近くにいるキャラクターが「やりますね」といった内容の掛け合いをしてくれる。
これがあるだけでキャラクター達の空気感の表現に一役買っており嬉しい要素となっている。

また、各キャラクターのセリフは室内などの閉鎖空間のステージではボイスにリバーブがかかる演出がされているのも丁寧だ。

「ストーリー」の項でも記載しているが本作は物語が二部構成であり、第一部と第二部では演技が異なる。
第二部では単純に5年という歳月を経ているのもあるが、学校時代での成長や戦禍を生き抜いていた経験を反映した決意や覚悟を感じさせる演技が特徴的だ。
生徒たちが大きく成長した事を感じさせてくれる非常に素晴らしい演じ分けとなっている。
しかし、特定の支援会話などは第一部と第二部のどちらでも観る事ができるものが存在しており、そのような支援会話を第二部に突入した段階で参照すると「見た目こそ第二部だが、演技は第一部に近いもの」になっている点は若干ながら気になるかも知れない。
ディレクションとしては第一部と第二部の中間を目指した演技になるように指示がされているらしいのだが、第一部と第二部の演じ分けの差が大きいキャラクターもいるため、器用な演じ分けをしたことが逆に仇となってしまっている。
支援会話に関して同じセリフ内容で第一部用と第二部用の2パターン用意できればベストだったであろうが、それは贅沢過ぎる要求だろう。

 

総評

ファイアーエムブレム 風花雪月はシリーズの最高峰とも言える隙の少ない傑作だ。

深く練り込まれた世界観はプレイヤーの知的好奇心をくすぐり、生徒との交流または生徒同士の交流は観ていて飽きないだけでなく世界観が更に奥深いものであると思知らせてくれる。
キャラクターの個性を伸ばしていける育成は没頭性が高く、つい時間を忘れてしまう中毒性のあるテンポ感も見事だ。
音楽も素晴らしく、特に戦場と戦闘でシームレスに変化する演出は恒例となりつつあるが素晴らしい事に変わりはない。

育成を重視しているためか戦闘自体のやり応えには少々欠けるところがあり、またグラフィック面にしても(動きこそ良いが)物足りなさを感じるのが正直な所だ。
しかし、それらはほどんど些細な問題であり、1週目をクリアする頃には、まず間違いなく2週目を別の学級(視点)でプレイしたいと思っている事だろう。

しかし、DLCで追加された内容は全体的に淡白な印象である事は残念でならない。
ボリュームもそうだが、内容においてももっとFEファンや風花雪月ファンが喜ぶ内容がてんこ盛りであって欲しかった所だ。

 

外部記事

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『FE 風花雪月』開発者インタビュー。“煤闇の章”のコンセプトは『魁!!●塾』!?

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Fire Emblem: Three Houses made me care about a character in the most unexpected way | GamesRadar+

【レビュー】じんるいのみなさまへ

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ユートピアディストピア

最初に記載するが筆者はADVなどのゲームに疎く、また得意ともしていない。
その事を念頭に置いてレビューを参照して欲しい。

ADVが得意でない筆者が本作「じんるいのみなさまへ」に興味を持ったのは、ひとえにその設定の魅力であるところが大きい。
「女の子達がゆるゆると荒廃した秋葉原で生活をする」というシチュエーションだけで面白そうだと感じたのだ。
事前に公開されたスクリーンショットの時点で3Dモデルやフィールドの作りの甘さは感じたが、設定の魅力がそれを上回っていた。

今回は筆者の苦手ジャンルとも言えるADVのタイトル「じんるいのみなさまへ」をレビューしてみたい。

 

じんるいのみなさまへ - PS4

じんるいのみなさまへ - PS4

  • 発売日:2019/06/27
  • メディア:Video Game
 
じんるいのみなさまへ - Switch

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  • 発売日:2019/06/27
  • メディア:Video Game
 

 

ストーリー

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ゆるゆるポストアポカリプス

本作のテーマは「ゆるゆるポストアポカリプスでゆるゆるサバイバル」と言って間違いでは無いだろう。
本来ならば過酷なポストアポカリプスと言うシチュエーションをこのように展開した発想は素晴らしい。
もちろん女の子がキャッキャしているのを見るのも一興ではあるのだが、物語の冒頭からSF色を感じさせるストーリーと崩壊した世界を現代的な女の子が探索すると言うシチュエーションは「なぜこのような世界となったのか」という謎をついつい考えながらストーリーを観てしまった。
ストーリーは一本道で物語が分岐するような選択肢が無い点は少々物足りなさを感じる所だが、ストーリーとシチュエーションを楽しみたいのであれば気になる事もないだろう。

本作では雑誌や同人誌、アニメ、映画などの知識を基に荒廃した秋葉原でサバイバルをする事になる。
ストーリーの進行では頻繁に科学や生物に関する情報が出て来るため、半ば中学や高校の科学の授業でも受けているような感覚さえあるが、ズラズラと科学知識をひけらかされる訳では無く、比較的ライトに説明がなされるため嫌味に感じる事は無かった。
むしろ、それらの知識を駆使して生き抜いていく彼女達がたくましくさえ感じるほどだ。

ストーリーでは食料の安定確保のために野菜を育てたり、魚を釣ったりするのだが、それらに必要な道具は当然ながら手元に無い。
しかし、そこで挫けないのが彼女達だ。
彼女達がストーリー中で魅せる「無いなら作っちゃおう精神」は鉄腕DASHでも視聴しているのかと錯覚するくらいのものだ。
更に、ストーリーが進むと動物の肉を食べようと言う事になるのだが、動物の解体という最もエグイ部分にしてもあっさりと食肉に加工して見せる姿はさながらカメ五郎さんだ。

本作のストーリーで筆者が特にお気に入りなのは8章だ。
8章では彼女達が「とあるメッセージ」を受け取る事となる。
それは崩壊した世界に取り残された彼女達に向けた大切なメッセージなのだ。
家族や友人たちと二度と会う事ができないと言う状況は「もしも自分だったら」と考えずにはいられない内容だ。
この手の話に滅法弱くなった筆者はこのシーンで思わず涙してしまったほどだ。
とは言え、この章でキャラクター同士がイチャイチャするシーンは少々無粋だったように感じる。8章は全体から見ても非常に大切な章であると思えるだけに、この章に関してはもう少し暗いトーンで統一してメリハリを付けた方が良かったのではないかと思える。

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しっかりと設定が用意されたストーリー

ストーリーの序盤からある程度は仲が良さそうな彼女達だが、一人一人の個性の方向性はバラバラであり普通に考えると仲が良くなるきっかけが無さそうに見えるメンツだと言える。

また、ストーリーが進むと野菜を育てたり魚を獲ったりする事になるのだが、全般的に「何故か都合が良い展開」になる。
野菜は種を蒔いてから数日で収穫可能となるし、世界は崩壊しているのに魚貝類は普通に獲れるのだ。

これらの「なぜ接点の無さそうな彼女達が仲良しなのか」「なぜ都合良くいくのか」と言ったものに関してはしっかりと設定が用意されている。
それは物語の終盤に閲覧が可能となる「ロッカーに残されたメモ」を参照する事で知る事ができたり、DLCのストーリー内で知る事が出来たりする。

なお、ストーリーだけを楽しむだけであれば本編だけで問題ない。
しかし、世界設定の謎を知りたい場合にはDLCを購入した方が良いだろう。
DLCでは「専用のストーリー」や「ロッカーのメモの追加」があり、どれも謎を知るためのピースとなっている。

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不親切な箇所も多い

本作のストーリー自体は決して悪くは無いのだが、それ以外の部分が大きく足を引っ張ってしまっていると感じざるを得ない。

まずストーリー中の会話において主人公に行動を託すような会話はあるが、実際のゲームプレイでは行えない・行わないなど意味深に用意されている会話が散見されるのは少しばかり気になる所だ。
例えば「近くの店から探索しよう」と会話したにも関わらず、すぐさま「どこからでも好きに探索して良いんだよ」と言う会話がなされプレイヤーへの指示が二転してしまっておりやや困惑する。
また、自動販売機やガチャポンに関する会話においても「本当は自動販売機 / ガチャポンを利用できたのでは」と感じる。
あくまでも筆者の憶測の話となるが、このようなセリフに関してはゲームプレイとして実装しようとしたが、実際には何らかの理由で組み込めなかった残滓ではないだろうか。

本作では上図の左のように移動中にはテキストによってキャラクター同士で会話が行われる。
連れていくキャラクターおよびゲームの進行状況によって会話の内容は変化するものの会話パターンが非常に少ない(1組辺り2パターンx進行状況?)。
そのため、同じ会話の繰り返しとなってしまうのは少々残念だ。
また、移動中はひたすら歩く事になるため、テキストのみの会話では雰囲気的に寂しいものがある。
そもそも移動中にテキストを表示されても文章を読むには適切な状況ではないとも言えるだろう。
この会話テキストを読むために歩みを止めてしまうようでは移動中にテキストを表示させる意味が無く本末転倒となる。
やはり会話セリフに関してはキャラクターに喋らせて”ムード”を作って欲しかった所だ。

次に不親切に感じるのはフィールド上に配置されている会話イベントだろう。
これは上図の右が参考になるのだが、フィールドには特定のポイントでキャラクター達が会話するイベントが用意されている。
しかし、上図右を見てわかる通り特定のポイントが「余りにもノーヒント」なのだ。
有名な建物やわかりやすいオブジェクトにある訳でもなく、何の変哲もない路上に設定されており気付きようが無い。
当然ながらマップにも表示されていない要素であるため気が付かないままにゲームをクリアしてしまう勿体ない要素となっている。

ストーリーとゲームプレイが乖離している点も勿体ない要素だ。
ストーリーを進行するためには「目標」として指定されたアイテムを入手する必要がある。
しかし、そのアイテムを既に所有している場合であっても「入手するためのポイントに赴く必要がある」のはゲームプレイ部分を実装している意味を成していない。

ストーリーを進行するための目的地に関しても不親切さがある。
フィールド上に表示されるイベント進行アイコンとアイテム探索アイコンが同じケースが多くわかりにくいのだ。
せめて色を変えて欲しかった所だろう。

またその他にもミスと思しき箇所も散見される。
設定ミスなのか不具合なのか会話のボイスが再生されなかったりするのは問題がある。
声優が収録する際に使用したテキストとゲーム内に実装したテキストに差分が出てしまったのか、発せられるボイスと表示されるテキストで内容が異なるケースもある。
一番最初のスタート画面にしてもデフォルトで選択されているのが「はじめから」になっているのは考慮が足りていない。

上述した事の繰り返しとなってしまうが、本作は「実装をしようと設計したものの、何らかの都合により未実装となってしまった」ように感じる事が多い。
会話内容が二転したり、ノーヒント過ぎるフィールド上の会話イベントであったり、ストーリーとゲームプレイとの乖離であったり、どれもプレイしていると「本来は別の形で実装する事を想定していたのでは」と思わずにはいられない「制作途中感」があるのだ。

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DLC「スハーヤ 朱香」

本作ではDLCで追加される「スハーヤ 朱香」というキャラクターが存在する。
彼女はDLCを購入していたとしてもシナリオの2週目から登場するキャラクターとなる。
彼女がいる事で既存のシナリオに会話が追加されていたり、シナリオ自体に変化が起きるケースもある。特に科学や生物に関して更に詳細な知識が加えられるケースは多いだろう。

また、DLCルートのシナリオではSF要素が強くなるが、これは前述の通りDLCの立ち位置が世界設定の謎を回収するために用意されているためだと言えるだろう。

 

システム

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ゆるゆるサバイバル

本作では3Dで構築された荒廃した秋葉原駅周辺を探索する事ができる。
探索では野菜を作ったり、廃品を回収したり、魚を釣ったりしてアイテムを入手する事になる。
この際のアイテムの入手に関しては特別何かしらプレイスキルが求められる訳では無く、1日の行動可能時間を消費する事となる。
ここだけ聞けば行動のマネージメント要素のようにも思えるが、例え行動可能時間を消費しきってしまったとしても「翌日の探索(アイテムの入手)にかかる消費時間が大きくなる」のみでありデメリットと呼べるものでは無い。
そのため、リソースには常に余裕がありサバイバル感は終始低い。
これに関しては賛否あると思うが、筆者としては「女の子のゆるゆるポストアポカリプスサバイバル」というテーマを体現した一貫性のあるシステムのように感じ、良いとまでは言わないが悪いものでは無いように思える。

しかし、サバイバルを導入したゲームにありがちな健康度や総重量などを導入していないために「食材」や「機材」と言ったリソースが存在する意味や獲得する意味が無いままになってしまっているのは勿体ない。
テーマでもある「ゆるゆるサバイバル」を実現しつつも、これらのリソースが活かせる別のアプローチをして欲しかった。

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不便な地図

本作では秋葉原駅周辺を歩いたり走ったりして移動する事になる。
自分の足だけが頼りの移動は確かに面倒ではあるが、ある程度の面倒さが無ければポストアポカリプス世界のサバイバルと言う設定を用意する必要が無いだろう。

移動よりも気になるのは地図だ。
まず、地図には自分がいる現在地の記載が無い。
そして、ストーリーを進行するために次にどこに行くべきなのかも記載が無い。
確かに「自分の見ている景色と地図を見比べる事で徐々に土地勘がついてくる」と考えれば良い要素とも言えるのだが、レガシーなわかりにくい要素とも言えるだろう。
なお、アップデートにより「地図上に現在地と目的地の追加」を実装している。

 

グラフィック

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ローエンドだが秋葉原駅周辺を再現したフィールド

本作の3Dモデルはお世辞にも”標準レベル”とは言い難く、PS2クラスと言っても過言ではないのは残念だ。
制作にはUnityが使用されているようだが、確かに素の状態のUnity感を強く感じる(Unityを少しでも触った事があるならば伝わるだろう)。
建造物のディティールや水の表現、空中に浮いている(接地していない)操作キャラクター、日本語が反転したテクスチャー、走行と歩きの中間モーションが無い事など大小さまざまに気になる所が点在する。
また、グラフィックの粗を目立ちにくくする目的もあるのか被写界深度表現がキツく、遠景がかなり強めにボケて観えるのも逆に気になる。
「どんなに良い絵も、どんなに悪い絵も、30分観れば慣れる」とは筆者の持論だが、それでももうちょっと何とかならなかったのだろうか。

とは言え、本作の3Dフィールドが全てが悪い訳では無い。
秋葉原駅周辺と言うそれほど広くは無い領域ではあるが、それが再現されているのは良いポイントと言えるだろう。
だがしかし、時間経過で景色が変わらない事は勿体ない。
夕焼けなどがあれば荒廃した秋葉原と相俟って良い景色となったであろう。

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イベントスチル

いわゆるイベントスチルもそこまで多く無いが、筆者が特段イベントスチルにこだわっていないためか気になる事は無かった。

 

サウンド

「ゆるゆるポストアポカリプス」である本作では曲に関しても「ほんわか」したものが多いのが特徴的だ。
また、ループが短くメロディもはっきりとしているため「単純接触効果」が強く、記憶に残りやすい曲となっている。
筆者の気に入った曲を紹介したい。

頻繁に聞くためすぐに耳に残る「風が吹いたら」「まどろみのたんぽぽ」

フワフワでポカポカな「陽射しになれ」

優しく落ち着いた「世界の終わりは春しおん」

陽気で、どこか郷愁感もあるエンディング曲「プレシャス☆ガール」

本作ではサウンドテスト的な形で劇中BGMを聴く事ができるため、地味ながら嬉しいポイントと言えるだろう。

 

ボイス

本作のボイスに関しても記載しておきたい。

特に主人公の京椛を演じる佐東茉奈さんは、やや舌足らずでキャラクター設定以上に幼い印象を覚えてしまうが、それでも細かい部分で聴かせる自然体の演技は可愛らしく感じられるだろう。

もちろん、その他のキャラクターの演技に関しても悪くないのだが、開発側と収録側で意思疎通がイマイチだったのか音響監督の指示出しミスが散見される。
「ストーリー」の項で記載した通り「ボイスと表示テキストで差分が出てしまっている」ことも気になるのだが、テキストの汲み取り違いを起こしているケースも散見されるのだ。
例えば、「よろしくねー」というセリフがあるのだが、これは文脈としては「よろしくない」の意味で使われている。しかし、実際に収録されたものに関しては「よろしくお願いします」の意で「よろしくねー」が発せられたりしている。
ストーリー全体を把握している脚本家なりディレクターが収録に立ち合えていなかったのだろう。

 

総評

「じんるいのみなさまへ」とは「ユートピアディストピア」だ。
暴力や犯罪の免罪符として扱われ殺伐としがちなポストアポカリプスものに、「女の子がゆるゆるとポストアポカリプス世界を生きる」という方向性に視点を向けたコンセプトは素晴らしい。
本作のシチュエーションはディストピアでありながらユートピアなのだ。

しかし、わかりやすい表面的な部分のクオリティーの低さが目立ってしまい、これでは描きたい本質的な部分をユーザーに受け取ってもらうのは難しいと言わざるを得ない。
本作はコンセプトこそしっかりしているが、それを具体的にゲームとして落とし込むという領域に昇華できていないのだ。

もっと単純なビジュアルノベル的なもので良かったように感じるが、本作の「ユートピアディストピア」を表現するならば本作のようなストーリーテリング・ゲームプレイを行いたい。
その気持ち・発想は非常に理解できるのだが、技術レベル(スキル・資金・時間という意味での"リソース")が全く追いついていないのは明白だ。
シチュエーションの設定には賛辞を贈りたいが、「やりたい事」と「出来る事」を明確にして開発に臨むべきだ。
その結果として開発側もユーザー側も不幸になってしまったのが本作だろう。

 

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